病院経営を、外来クリニックの延長線上で考えることはできません。
病床を持つ医療機関では、24時間の診療・看護体制、職種別の人員配置、病棟ごとの施設基準、建物・医療機器への大型投資があります。さらに、救急・紹介・在宅からの入院経路、退院支援、地域の医療機能との関係も、収益と費用の双方に影響します。
売上が増えていても、病床の回転が悪ければ、人員や設備の負担は重くなります。逆に病床稼働率が高くても、患者構成や入院単価、人件費、材料費、在院日数、借入返済まで含めて見れば、十分な資金が残らないこともあります。
有床診療所も同じです。規模は病院より小さくても、病床を持つ以上、無床診療所とは異なる人員・設備・資金・施設基準上の制約を受けます。
第十二テーマでは、病院・有床診療所・中小病院の経営を、次の順番で整理していきます。
まず、経営状態を説明するための数字をそろえる。 次に、病床稼働率、入院単価、在院日数の関係を読む。 そのうえで、DPC、施設基準、病棟機能、人員配置を経営戦略に接続する。 さらに、外来機能、人材、生産性、大型投資、病院類型ごとの差を検討する。 最後に、赤字病院や伸び悩む病院の再生と機能転換を考える。
このテーマトップは、個別制度や計算方法を詳しく説明する記事ではありません。病院経営に関する論点の全体像を示し、自院の課題に応じて、次に読むべき詳細コラムを選んでいただくための案内ページです。
なぜ病院経営は、複数の数字を同時に見なければならないのか
病院の入院収益は、病床稼働率だけでは説明できません。
どこから患者が入院しているのか。何日間入院しているのか。どのような医療を提供しているのか。退院後にどこへ戻るのか。これらによって、同じ病床数でも経営構造は変わってきます。
病院経営を管理するときは、入院患者数、病床利用率、入院単価、在院日数、入院経路、外来患者数、人件費、材料費、委託費などを、収益と費用の構造に沿ってつなげて見る必要があります。KPIをただ増やすのではなく、どの数字を見て、何を判断するのかを明確にすることが大切です。
入院経路も病院ごとに異なります。外来・在宅からの入院、救急経由、診療所等からの紹介という主要な経路があり、その比率は、急性期病院、専門病院、ケアミックス病院といった機能によって変わります。ですから、病床稼働率が低いときも、単に「患者を増やす」と考えるのではなく、どの入院経路が細っているのかをまず確認しなければなりません。
病院経営の改善とは、個々の指標を上げることではありません。病院が担う機能に合った患者の流れ、人員配置、施設基準、投資、資金繰りを整合させることです。
病院経営を取り巻く現在の環境
独立行政法人福祉医療機構が融資先等の財務データを分析した2024年度の病院経営状況では、赤字病院の割合は一般病院58.3%、療養型病院44.1%、精神科病院56.9%でした。この調査は全国の全病院をそのまま表すものではありませんが、補助金収益の縮小・終了や物価高騰の影響を受け、病院経営が厳しい局面にあることを示しています。
出典:独立行政法人福祉医療機構|2024年度 病院の経営状況について
厚生労働省の「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」では、2040年頃に向けて、急性期医療需要の減少、高齢者救急・在宅医療ニーズの増加、そして生産年齢人口の減少による医療従事者確保の難しさが想定されています。そのうえで、必要病床数だけでなく、医療機関の連携、再編、集約化、在宅医療、介護との連携まで含めた医療提供体制の構築が示されています。都市部についても、高齢患者の比率上昇や急性期病院間の競争など、地域固有の課題が指摘されています。
出典:厚生労働省|新たな地域医療構想に関するとりまとめ
令和8年度診療報酬改定の説明資料も、急性期・高度急性期、包括期・慢性期、DPC・PDPS、外来、在宅という機能別に整理されています。急性期病院一般入院基本料等が新設され、救急受入れ、手術実績、地域で担う機能など、病院の機能に着目した評価が一段と明確になっています。
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定説明資料等について
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定項目の概要
また、2024年4月からは医師の働き方改革に関する新制度が施行されています。診療機能の維持を医師の長時間労働だけで支える運営は難しくなっており、外来機能、当直・宿日直、タスクシフト、補助者活用、職種間の業務分担を、経営課題として扱う必要があります。
出典:厚生労働省|医師の働き方改革
病院建設についても、投資環境は厳しくなっています。福祉医療機構の調査によると、2024年度の病院建設の平米単価は44万2,000円で、2015年度の1.5倍とされています。調査対象が同機構の融資実行先に限られる点には留意が必要ですが、建替え・増改築・設備更新について、従来の予算感をそのまま用いることが難しくなっているのは明らかです。
出典:独立行政法人福祉医療機構|2024年度 福祉・医療施設の建設費について
このような環境では、すべての診療機能を維持・拡大することが、必ずしも最善とは限りません。自院が地域で何を担い、何を他院と連携し、どの機能に人材と資金を集中するのかを、選び取っていく必要があります。
第十二テーマで扱う7つの論点
第十二テーマは、単純な「病院の経営指標集」ではありません。
12-1と12-2で経営状態を把握するための数字を整え、12-3で制度と病院機能を結びつけます。12-4では、人員制約の中で診療体制をどう再設計するかを考えます。そして12-5で大型投資、12-6で病院類型ごとの経営構造を整理し、12-7で経営再生と機能転換へ進みます。
原則として、12-1から順番に読み進めていただくことで、論点が自然につながる構成になっています。
まず読む|12-1. 病院経営で最初に見るべき経営指標
病院経営を、診療所と同じ売上・利益の指標だけで見ている場合は、最初に読んでいただきたい記事です。
このコラムでは、病床稼働率、入院単価、外来患者数、給与費比率、材料費、委託費、経常利益率、借入など、病院経営の入口となる数字を整理します。
大切なのは、業界平均に自院を当てはめることではありません。自院の病床機能、診療科、患者構成、地域での役割を踏まえ、どの数字の変化が経営に影響しているのかを、自分の言葉で説明できるようにすることです。
決算書はあるものの、経営会議で何を確認すべきか定まっていない病院にも適しています。
入院収益を分解する|12-2. 病床稼働率・入院単価・在院日数の関係を読む
病床稼働率を上げることが、そのまま経営改善になるとは限りません。
12-2では、病床稼働率、入院単価、平均在院日数、患者構成、入院経路の関係を整理します。
稼働率が低いときは、新入院患者が少ないのか、在院日数が短いのか、紹介・救急・外来からの入院が減っているのかを、分けて考える必要があります。反対に稼働率が高くても、長期入院への依存や低単価患者への偏り、人員負担の増加があれば、それは必ずしも経営上の強みとは言えません。
12-1で全体指標を確認したあとに読むことで、入院収益の構造が見えやすくなります。
制度と病院機能をつなぐ|12-3. DPC・地域包括ケア・施設基準を経営戦略にどう組み込むか
病棟機能や施設基準を、医事課だけの業務として扱っている病院に向けた記事です。
診療報酬には、一定の施設基準を満たす病院を特定の機能へ誘導する側面があります。病棟機能、在院日数、医療密度、看護配置、リハビリ、退院支援、在宅復帰などは、算定上の要件であると同時に、病院がどの患者を受け入れ、どのような医療を提供するかという経営戦略でもあります。
12-3では、DPC、地域包括ケア、施設基準を網羅的に解説するのではなく、制度上の要件を、人員配置、地域ニーズ、採算、返還リスクとどう結びつけて考えるべきかを整理します。
施設基準の届出と実際の病棟運営にずれがある場合や、病床機能の変更を検討している場合に、優先して読みたい記事です。
人員制約から診療体制を見直す|12-4. 外来縮小・働き方改革・医療職の生産性
医師不足、看護師不足、人件費上昇、離職、時間外労働に悩む病院に向けた記事です。
外来患者数を維持することが、常に病院全体の経営にプラスになるとは限りません。外来診療が医師の時間を大量に使い、入院、救急、手術、退院支援、地域連携に必要な人員を圧迫している場合には、外来機能の役割そのものを見直す必要があります。
12-4では、外来縮小の是非を単純に論じるのではなく、医師の働き方改革、医師事務作業補助者、タスクシフト、看護師・医療職の配置、人件費、生産性を一体で整理します。病院の外来機能と補助者活用を、働き方改革と経営の両面から考えることは、病院財務の実務でも重要な論点になります。
人件費を削る前に、誰が何を担い、どの業務が病院機能を支えているのかを確認したい場合に適しています。
大型投資の判断を整える|12-5. 病院建設・大型医療機器・設備更新の投資判断
病院建替え、移転、増築、耐震化、CT・MRIその他の大型医療機器を検討している経営者に向けた記事です。
病院の大型投資は、設備単体の採算だけでは判断できません。
将来の患者需要、病床機能、人員確保、診療報酬、建設費、借入返済、減価償却、修繕費、更新サイクルを、一つの計画にまとめる必要があります。設備を導入できても、医師・技師・看護師を確保できなければ稼働しません。投資後に売上が増えても、返済と更新資金を残せなければ、財務基盤はかえって弱くなります。
12-5では、個別の機器選定や建築設計ではなく、投資判断に必要な数字と、計画に織り込むべきリスクを整理します。
病院類型ごとの差を理解する|12-6. 公立病院・民間病院・ケアミックス病院の経営改善視点
公立病院、民間病院、ケアミックス病院の経営を、同じ物差しで比較している場合に読んでいただきたい記事です。
公立病院には、救急、感染症、へき地、精神医療など、政策医療や不採算医療を担う役割があります。一方で、補助金や繰入金があるからといって、財務規律や説明責任が不要になるわけではありません。
民間病院は、意思決定の自由度を持ちやすい反面、資金繰り、借入返済、設備更新、医師確保を、自らの経営力で支えなければなりません。
ケアミックス病院では、急性期、包括期、回復期、慢性期の病床を持つこと自体が、そのまま強みになるとは限りません。病棟間の患者移動、入退院経路、人員配置、共通費負担が整理されていなければ、各病棟の採算や役割が見えなくなってしまうからです。
12-6では、病院類型ごとに、赤字要因、給与費、政策医療、補助金、経営自由度、改善余地がどのように異なるかを整理します。
病院改善テーマのまとめ|12-7. 中小病院の経営再生と機能転換
赤字が続いている病院、資金繰りが厳しい病院、現在の病床機能を維持すべきか迷っている病院に向けた記事です。
経営再生は、経費削減だけでは進みません。
地域で求められる機能、自院が担える機能、そして継続可能な資金・人員・設備を整理し、急性期、包括期、回復期、慢性期、精神科、在宅後方支援など、残す機能と転換する機能を決めていく必要があります。
12-7では、コミュニティホスピタル、在宅連携、精神科・慢性期・急性期の再設計、組織改革、資金繰り、投資抑制を、再生の流れに沿って整理します。在宅・訪問看護と病床機能を組み合わせた戦略転換や、精神科病院の機能再構築も、中小病院の将来を考えるうえで重要な論点です。
単独再生だけでなく、地域連携、業務提携、承継、M&Aを検討する前提を整えるための記事でもあります。
課題別に選ぶ、詳細コラムの読む順番
病院経営で、まず何を見ればよいか分からない
12-1から始め、12-2、12-3の順に進んでください。 最初に全体指標をそろえ、次に入院収益を分解し、そのあとで病棟機能と施設基準を接続する流れです。
推奨順:12-1 → 12-2 → 12-3
病床稼働率が上がらない、または高いのに利益が残らない
12-1で全体構造を確認し、12-2で稼働率、単価、在院日数、入院経路を分けて見ます。施設基準や病床機能との不整合が疑われる場合は、12-3へ進みます。
推奨順:12-1 → 12-2 → 12-3
医師・看護師不足、人件費上昇、外来負担に悩んでいる
12-1で収益・費用の全体像を確認したうえで、12-4を読んでください。 単なる人件費削減ではなく、外来、入院、救急、補助者、タスクシフトを含めた診療体制の見直しが中心になります。
推奨順:12-1 → 12-4
建替え、増築、大型医療機器を検討している
12-1で現在の収益力と借入負担を確認し、12-5へ進みます。 投資対象だけでなく、将来需要、人員、病床機能、返済、設備更新余力まで含めて判断します。
推奨順:12-1 → 12-5
公立・民間・ケアミックスの違いを踏まえて改善したい
12-1から12-4までの基本論点を押さえたあと、12-6を読むと理解が深まります。赤字が長期化している場合は、12-7へ進みます。
推奨順:12-1 → 12-2 → 12-3 → 12-4 → 12-6 → 12-7
赤字・資金繰り悪化から立て直したい
12-1と12-2で赤字要因を分解し、12-3と12-4で病棟機能・人員体制とのずれを確認します。病院類型固有の制約を12-6で整理したうえで、12-7で再生と機能転換の全体像を検討します。
推奨順:12-1 → 12-2 → 12-3 → 12-4 → 12-6 → 12-7
大型投資や過大借入が問題になっている場合には、途中で12-5もあわせて確認してください。
このテーマで混同してはいけないこと
病床稼働率と収益性は同じではない
稼働率は重要ですが、患者構成、入院単価、在院日数、人員配置、材料費を見なければ、採算は分かりません。
診療報酬上の増収と資金増加は同じではない
増収しても、人件費、材料費、委託費、借入返済、設備更新が増えれば、手元資金が残らないことがあります。
人件費率が高いことと、人員過剰は同じではない
施設基準、安全管理、救急、夜勤、退院支援に必要な人員まで削減すれば、収益機会や病院機能そのものを失いかねません。
補助金があることと、事業が持続可能であることは同じではない
政策医療や不採算医療を担う場合でも、本業の収支、補助金の使途、設備更新、資金繰りは、分けて説明する必要があります。
多機能であることと、競争力が高いことは同じではない
複数の病棟機能を持っていても、患者の流れ、人員、採算、地域での役割が不明確であれば、固定費の重い組織になってしまうことがあります。
詳細コラムを読む前に、そろえておきたい情報
すべての資料を完璧に整えてから読み始める必要はありません。ただし、自院の課題を具体的に考えるには、少なくとも三つの情報群が必要になります。
第一は、財務情報です。直近の決算書だけでなく、月次試算表、現預金、借入残高、毎月の返済額、設備投資予定を確認します。
第二は、診療・病床運営の情報です。病床稼働率、入院単価、在院日数、新入院患者数、退院患者数、入院経路、外来患者数を、病棟別・機能別に確認します。
第三は、組織・制度の情報です。職種別人員、夜勤体制、離職・採用状況、施設基準、届出、病床機能、建物・設備の更新予定、そして地域医療構想上の自院の位置づけを整理します。
数字の定義や集計時点が部署ごとに異なる場合には、分析の前に前提をそろえておく必要があります。「稼働率」「入院単価」「人件費」「病床数」が資料ごとに違う状態のままでは、いくら改善策を議論しても結論がぶれてしまいます。
第十二テーマは、他の経営管理テーマとつながっている
病院経営の改善は、第十二テーマだけで完結するものではありません。
月次数字が遅い、病棟別採算が分からないという場合は、第3テーマの月次決算・管理会計が前提になります。
返済負担、資金不足、金融機関対応が課題であれば、第4テーマの資金繰り・資金調達をあわせて確認する必要があります。
病棟転換、設備投資、人員増強を計画する場合は、第5テーマの事業計画・投資判断につながります。
人員配置、離職、事務長・幹部の役割が課題であれば、第7テーマの組織運営が関係します。
施設基準、請求、現金、購買、固定資産、情報管理の体制が弱い場合は、第10テーマの内部統制が必要です。
在宅後方支援や地域連携へ機能を広げる場合は第11テーマへ、単独再生が難しく承継・M&Aを検討する場合は第15テーマへ進みます。
病院経営では、制度、会計、財務、人材、地域機能を切り離して考えることはできません。守りの管理体制を整えることが、機能転換や成長、承継の選択肢を広げていきます。
病院経営の課題を、数字と機能の両面から整理するために
病院・有床診療所の経営課題は、「稼働率を上げる」「人件費を下げる」「加算を取る」といった一つの施策だけでは、なかなか解決しにくいものです。
何が赤字を生んでいるのか。 どの病棟・機能が地域で必要とされているのか。 その機能を維持できる人員と資金があるのか。 どこまで投資し、どこから抑制するのか。 金融機関、行政、職員、後継者にどのように説明するのか。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務申告だけを終点とせず、月次決算、資金繰り、機能別採算、投資計画、金融機関説明、医療法人運営、承継・M&Aまでをつなげ、経営者が判断するための材料を整理することを重視しています。
自院の課題が、収益構造、病床機能、人員、設備、借入のどこにあるのか整理しきれない場合や、経営改善・機能転換について第三者に説明できる計画を整えたい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
第十二テーマの振り返り
| 確認したい課題 | 入口となる記事 | 次に読む記事 | 判断の焦点 |
|---|---|---|---|
| 病院経営で何を見ればよいか分からない | 12-1 | 12-2 | 稼働率、単価、費用、利益、借入の全体像 |
| 入院収益が伸びない | 12-2 | 12-3 | 稼働率、在院日数、患者構成、入院経路 |
| 病棟機能や施設基準を見直したい | 12-3 | 12-7 | DPC、包括期・慢性期、施設基準、人員、地域ニーズ |
| 医師・看護師不足と人件費に悩んでいる | 12-4 | 12-7 | 外来機能、タスクシフト、補助者、生産性 |
| 建替え・大型機器投資を判断したい | 12-5 | 12-7 | 投資額、稼働、人員、借入返済、更新余力 |
| 病院類型に応じた改善策を知りたい | 12-6 | 12-7 | 公立・民間・ケアミックスごとの役割と制約 |
| 赤字病院を立て直し、機能転換を検討したい | 12-7 | 第11・第15テーマ | 地域機能、組織改革、資金繰り、投資抑制、承継 |