棚卸資産と売上原価の税務判断|期末棚卸・評価方法・評価損・廃棄・税務調査対応の基本

棚卸資産の税務判断は、法人税申告のなかでも利益に直結する、とりわけ重要な論点です。

棚卸資産が少なく計上されれば、その分だけ売上原価は過大になり、利益も課税所得も小さくなります。反対に、棚卸資産を多く計上すれば、売上原価は過少となり、利益と課税所得は大きく出ます。

つまり棚卸資産は、単なる「在庫の数え上げ」ではありません。売上総利益、法人税額、金融機関への利益説明、資金繰り、原価管理、そして税務調査への対応まで、決算のあらゆる場面に影響する中核項目です。

とりわけ、製造業、卸売業、小売業、飲食業、建設業、受注制作、EC、ソフトウェア販売、保守部品を扱う事業などでは、棚卸資産の範囲、数量、単価、評価方法、評価損、廃棄処理をどう判断するかが、そのまま申告品質を左右します。

本記事では、棚卸資産と売上原価を法人税務上どう考えるべきかを整理します。業種別の細かな原価計算や、個別商品ごとの評価計算までは踏み込みません。あくまで、決算・申告で確認しておきたい判断軸、根拠として残すべき資料、そして税務調査で問題になりやすい点に焦点をあてます。

目次

棚卸資産は、利益計算の「調整弁」ではない

棚卸資産の処理で最も避けたいのは、利益を調整する目的で期末在庫を動かすことです。

決算利益を増やしたいから棚卸を多めに見る。税負担を下げたいから在庫を少なめに見る。売れ残りがあるからまとめて評価損にする。廃棄予定だから当期で損金にする。

こうした発想は、会計上も税務上も危うい入り口です。

棚卸資産とは、実際に会社が保有している商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などを、一定の評価方法によって金額化したものにほかなりません。法人税法でも、棚卸資産は商品や製品、半製品、仕掛品、原材料その他の、棚卸しをすべき資産として位置づけられています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法

そして棚卸資産の金額は、売上原価を通じて当期の利益を決めます。基本的な関係を整理すると、次のようになります。

  • 期首棚卸資産
  • + 当期仕入高・当期製造原価等
  • - 期末棚卸資産
  • = 売上原価

このため、期末棚卸資産の数量や単価に誤りがあれば、売上原価が狂い、利益も税額も狂います。棚卸資産の判断は、単なる経理処理ではなく、会社の利益の信頼性そのものを支える実務なのです。

売上原価は、当期の収益に対応する原価として考える

法人税務では、売上原価を「当期の収益に対応する原価」として捉える必要があります。

当期の収益に対応する売上原価等のうち、その一部が事業年度の終了日までに確定していない場合には、期末時点の現況にもとづいて金額を適正に見積ることになります。また、その費用が売上原価等に当たるかどうかは、契約内容や費用の性質などを踏まえて合理的に判断すべきものであり、販売後に生じる単なる事後的費用まで含めるものではありません。
出典:国税庁|法人税基本通達 第2節 費用及び損失の計算に関する通則 第1款 売上原価等

この考え方は、棚卸資産と売上原価を判断するうえで非常に重要です。

まだ販売されていない商品や製品の原価は、原則として当期の売上原価にはなりません。棚卸資産として翌期以降へ繰り越され、実際に販売された期にはじめて売上原価となります。

一方、当期に販売された商品や製品に対応する原価については、請求書や仕入先からの確定金額が期末までに完全にはそろっていない場合でも、当期の売上に対応する原価として合理的に見積る必要が生じることがあります。

ここで大切なのは、売上原価に含めるべきものと、販売後に発生する単なる事後的費用とを、きちんと切り分けることです。販売に関連する費用であっても、将来のクレーム対応費、販促費、保守費、アフターサービス費までが当然に売上原価になるわけではありません。契約上の履行内容、原価の性質、過去実績、社内の原価計算の方法を、ひとつずつ確認していく必要があります。

棚卸資産の範囲を誤ると、利益の出発点がずれる

棚卸資産と聞くと、つい商品や製品だけを思い浮かべがちです。しかし、税務上・会計上の検討では、それだけでは足りません。

一般に、次のようなものが棚卸資産の検討対象になります。

商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、補助材料、消耗品、貯蔵品、未成工事支出金、未成業務支出金、販売目的で保有する不動産、制作途上の成果物、販売用ソフトウェアの複製物など、対象は幅広く広がります。

会計基準の考え方でも、棚卸資産の範囲には、通常の営業過程で販売するために保有する財貨・用役、販売目的で製造中の財貨・用役、それらを生産するために短期間で消費される財貨、さらに販売活動や一般管理活動で短期間に消費される財貨が含まれるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

実務で問題になりやすいのは、次のようなものです。

まず、仕掛品や未成業務です。受注制作、システム開発、製造業、建設業、コンサルティング型の業務などでは、期末時点でまだ売上計上されていない作業に対応する原価を、どこまで棚卸資産として残すべきかが論点になります。

次に、貯蔵品や消耗品です。金額的な重要性が乏しいものは実務上簡便に処理されることもありますが、重要性がある場合には、未使用分を棚卸資産として把握すべきかどうかを検討しなければなりません。

さらに、販売用ではなく自社利用目的へ転用された資産です。販売用在庫として仕入れたものを自社で使うのであれば、棚卸資産から固定資産や消耗品費へ振り替える必要が生じます。反対に、自社利用目的で取得した資産を販売目的へ変更する場合にも、会計処理と税務処理を整理しておかなければなりません。

棚卸資産の範囲を取り違えてしまうと、数量や評価方法をどれだけ精緻に詰めても、利益計算の土台そのものがずれてしまいます。

棚卸数量は、実地棚卸と管理資料の整合性が重要になる

棚卸資産の金額は、基本的に「数量 × 単価」で決まります。このうち数量の確認は、税務調査でも重点的に見られる部分です。

棚卸資産については、各事業年度の終了時に実地棚卸しを行うのが原則です。ただし、業種や業態、棚卸資産の性質などに応じて、実地棚卸しに代えて部分計画棚卸しその他の合理的な方法で期末在高を算定している場合には、継続して適用することを条件に認められます。
出典:国税庁|法人税基本通達 第5章 棚卸資産の評価 第4節 棚卸しの手続

したがって、棚卸数量については、単に「期末に数えた」というだけでは十分といえません。

どの倉庫、店舗、工場、外部保管場所、委託先、輸送中在庫、未着品を対象にしたのか。誰が、いつ、どの方法で数えたのか。棚卸表に記載された数量と、在庫管理システム、受払台帳、仕入明細、売上明細、出荷記録とが整合しているか。期末前後の入出庫が適切にカットオフされているか。

こうした点を、ひとつずつ確認していくことになります。

とりわけ注意したいのが、外部倉庫、委託販売先、返品予定品、検収未了品、未着品、積送中在庫です。自社の倉庫にないからといって、当然に棚卸対象から外れるわけではありません。所有権、危険負担、契約上の引渡条件、検収条件、そして取引の実態を確認したうえで、期末時点で自社の棚卸資産に含めるべきかどうかを判断します。

棚卸表は、税務調査で「期末に本当にその数量があったのか」を説明するための中心資料です。手書きであれExcelであれ、問題の本質は変わりません。数量の集計過程、担当者、確認者、修正履歴、保管場所、そして廃棄や返品との関係まで、後から説明できる状態にしておくことが何より重要です。

取得価額は、仕入代金だけで判断しない

棚卸資産の単価を決めるうえで重要になるのが、取得価額です。

購入した棚卸資産の取得価額には、購入代価だけでなく、それを消費し、あるいは販売の用に供するために直接要したすべての費用が含まれます。ただし、買入事務、検収、整理、選別、手入れなどに要した費用、販売所等から販売所等へ移すための運賃・荷造費など、さらに特別な時期の販売に向けて長期保管するための費用については、その合計額が少額、おおむね購入代価の3%以内であれば、取得価額に算入しないことができます。
出典:国税庁|法人税基本通達 第5章 棚卸資産の評価 第1節 棚卸資産の取得価額 第1款 購入した棚卸資産

製造等に係る棚卸資産についても、考え方は同じです。原材料費、労務費、経費の合計だけでなく、消費または販売の用に供するために直接要した費用が取得価額に含まれます。こちらも、製造後の検査・検定・整理・選別・手入れなどの費用、製造場等から販売所等へ移すための運賃・荷造費、長期保管費用などについては、製造原価のおおむね3%以内であれば取得価額に算入しないことができます。
出典:国税庁|法人税基本通達 第5章 棚卸資産の評価 第1節 棚卸資産の取得価額 第2款 製造等に係る棚卸資産

このため、棚卸資産の単価を考えるときに、請求書上の商品代金だけを見て済ませるわけにはいきません。

輸入仕入であれば、関税、輸入消費税、通関費用、国際運賃、国内配送費、検品費用の扱いが問題になります。製造業であれば、直接材料費、直接労務費、外注加工費、製造間接費、歩留まり、仕損、原価差額の処理が絡んできます。ECや小売業でも、仕入付随費用、倉庫移管費、セット組み費用、検品費用をどう扱うかが、そのまま利益に影響します。

また、原価計算を行っている会社では、予定原価や標準原価と実際原価との差額、いわゆる原価差額の調整も論点になります。製造等をした棚卸資産について算定した取得価額が、法人税法施行令上の取得価額に満たない場合には、その差額のうち期末棚卸資産に対応する部分を、期末棚卸資産の評価額に加算することになります。
出典:国税庁|法人税基本通達 第5章 棚卸資産の評価 第3節 原価差額の調整

取得価額の判断を誤れば、売上原価のタイミングがずれるだけにとどまりません。製品別利益、部門別利益、金融機関への粗利説明、そして値決めの判断にまで影響が及びます。

評価方法は、利益管理と税務申告をつなぐ重要な前提である

棚卸資産は、数量を把握しただけでは金額が決まりません。どの評価方法で単価を計算するかを、あらかじめ定めておく必要があります。

法人税実務では、棚卸資産の評価方法を選定する際の届出手続が用意されています。評価方法を選定して届け出る法人が手続の対象となり、普通法人を設立した場合には、設立第1期の確定申告書の提出期限までに届出を行うこととされています。
出典:国税庁|C1-25 棚卸資産の評価方法の届出

評価方法には、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、売価還元法などがあり、棚卸資産の種類、事業内容、管理体制に応じて選んでいきます。

たとえば、個別性の高い商品や製品には、個別法が馴染みやすいことがあります。商品の取得から販売まで具体的な個品管理が行われている場合や、製品・半製品・仕掛品について個品管理と個別原価計算が実施され、それに合理性が認められる場合には、個別法によって評価額を計算できます。
出典:国税庁|法人税基本通達 第5章 棚卸資産の評価 第2節 棚卸資産の評価の方法 第1款 原価法

一方、小売業のように大量の商品を扱う事業では、売価還元法が実務上用いられることがあります。売価還元法で評価額を計算する場合には、通常の差益率がおおむね同じ棚卸資産を一区分とすることができるとされています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第5章 棚卸資産の評価 第2節 棚卸資産の評価の方法 第1款 原価法

評価方法は、単年度だけの問題ではありません。いったん採用した以上は、その継続性が重要になります。事業の実態が変わっていないにもかかわらず、利益や税額の都合で評価方法を変更すれば、後からの説明が難しくなります。

評価方法を検討するときは、税額への影響だけを見るのではなく、在庫管理システム、原価計算、月次決算、金融機関向け資料、さらには将来のM&Aや事業承継時のデューデリジェンスまで視野に入れておきたいところです。

低価法と評価損は、似ているが同じではない

棚卸資産をめぐって、よく混同されるのが「低価法」と「評価損」です。

低価法は、評価方法として選定したうえで、期末の時価が取得価額を下回る場合に、低い価額で評価する方法です。ここでいう期末時点の価額は、その棚卸資産をその時点で売却するとした場合に通常付される価額によります。一般には、商品または製品として売却する場合の売却可能価額から、見積追加製造原価と見積販売直接経費を差し引いた正味売却価額によることになります。
出典:国税庁|法人税基本通達 第5章 棚卸資産の評価 第2節 棚卸資産の評価の方法 第2款 低価法

会計上も、棚卸資産の収益性が低下している場合には、正味売却価額まで帳簿価額を切り下げるという考え方があります。棚卸資産は販売によって投下資金の回収を図るものである以上、正味売却価額が帳簿価額を下回っているときには収益性が低下しているとみて、帳簿価額を正味売却価額まで切り下げることが整合的だと整理されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

しかし、税務上の評価損は、これとは別の問題です。

法人税では、会計上「棚卸評価損」を計上したからといって、それが当然に損金へ算入されるわけではありません。税務上、評価損を損金算入するには、棚卸資産が災害によって著しく損傷したこと、著しく陳腐化したこと、あるいはこれらに準ずる特別の事実があることなど、評価損を計上できる事実の確認が求められます。
出典:e-Gov法令検索|法人税法施行令

棚卸資産の「著しい陳腐化」とは、その資産そのものに物質的な欠陥がなくても、経済的な環境の変化によって価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態をいいます。たとえば、季節商品が売れ残り、今後は通常価額で販売できないことが明らかな場合や、用途はおおむね同じでも型式・性能・品質などが著しく異なる新製品の発売によって、通常の方法では販売できなくなった場合が、これに当たります。
出典:国税庁|法人税基本通達 第9章 その他の損金 第1節 資産の評価損 第2款 棚卸資産の評価損

したがって、「売れ残っている」「古くなった」「値下げしている」という事情だけでは、根拠として弱いのが実情です。

通常の販売価格では販売できない事情、過去の販売実績、値下げ販売の実績、陳腐化の原因、今後は回復しないと判断した根拠、廃棄または処分の予定、写真、社内稟議、販売方針の変更資料。こうした材料をあわせて整理しておく必要があります。

廃棄損は、廃棄した事実を説明できるかが重要になる

棚卸資産をめぐっては、評価損だけでなく廃棄損も重要な論点になります。

売れない在庫、破損品、期限切れ品、不良品、旧モデル品などを廃棄する場合、実際に廃棄した事実があれば、その処理は売上原価や棚卸減耗損、廃棄損として損金算入を検討する対象になります。

ただし、ここでも大切なのは「廃棄予定」ではなく「廃棄事実」です。

期末時点で廃棄する方針を決めただけでは、まだ棚卸資産を保有している可能性があります。廃棄が翌期にずれ込むのであれば、当期末には棚卸資産として残したうえで、評価損の可否を別途検討することになります。

廃棄損を計上する場合には、次のような資料が要になります。

廃棄対象品のリスト、商品コード、数量、帳簿価額、廃棄日、廃棄場所、廃棄業者の証明書、マニフェスト、写真、社内承認、廃棄理由、棚卸表との照合資料、そして在庫管理システム上の除却処理記録です。

とりわけ同族会社や中小企業では、在庫を「捨てたことにする」処理が税務調査で疑われることがあります。廃棄したはずの在庫が後日販売されている、倉庫に残っている、廃棄数量と棚卸表が合わない。こうした状態では、説明は一気に難しくなります。

廃棄損は、金額が大きいほど、そして期末直前であるほど、資料化の重みが増します。

棚卸資産の計上漏れは、税務調査で重点的に確認される

棚卸資産の税務調査では、おおむね次の点が確認されます。

期末棚卸の対象範囲に漏れがないか。数量は正しいか。評価単価は正しいか。評価方法が届出や継続処理と整合しているか。原価差額が適切に調整されているか。売上計上と売上原価が対応しているか。評価損や廃棄損に根拠があるか。期末前後の仕入・売上・返品・出荷・検収が、正しい期間に処理されているか。

棚卸資産の計上漏れは、所得金額を直接減らすものですから、税務調査では重要な指摘事項になり得ます。

もっとも、計上漏れがあったからといって、直ちに隠蔽・仮装と判断されるわけではありません。裁決例のなかには、期末棚卸商品の計上漏れについて、電話報告時の漏れや経理知識の不足による誤りといった事情から、故意に棚卸商品を除外したと認定するのは相当でないとされたものもあります。

とはいえ、これは「棚卸漏れでも問題ない」という意味ではありません。むしろ、単純なミスなのか、管理体制の不備なのか、それとも意図的な除外なのか。その区別をつけるためにこそ、棚卸手続、棚卸表、確認者、修正記録、在庫管理資料を残しておくことが重要になります。

別の裁判例では、棚卸表の桁誤りや確認不足が問題となった事案も見られます。棚卸表の作成・検算・確認の体制が、そのまま申告品質に直結することがうかがえます。

棚卸資産は、金額の誤りが発見されやすい一方で、誤りの理由を説明しにくい項目でもあります。だからこそ、申告前の段階で確認しておく必要があるのです。

原価計算をしている会社は、製造原価と棚卸資産の接続を見る

製造業や受注制作業では、棚卸資産の税務判断は原価計算と切り離せません。

製造原価には、材料費、労務費、外注費、製造経費などが含まれます。このうち、当期に販売された製品に対応する部分は売上原価となり、販売されていない製品や仕掛品に対応する部分は棚卸資産として残ります。

ここで問題になるのが、製造原価と販売費及び一般管理費の区分です。

本来、製造に直接または間接に関係する費用であれば、製造原価を通じて棚卸資産に配賦されるべき場合があります。反対に、販売活動や管理活動に係る費用を製造原価へ含めてしまうと、棚卸資産が過大になり、その結果として当期利益も過大に出てしまう可能性があります。

さらに、予定配賦や標準原価を用いている場合には、原価差額の処理が問題になります。期末棚卸資産に対応する原価差額を売上原価に落としたままにしていると、棚卸資産の評価額が税務上不足してしまうおそれがあります。

原価計算をしている会社では、棚卸表だけを見ていては足りません。製造原価報告書、原価計算表、配賦基準、標準原価改定資料、仕掛品明細、外注加工費明細、製造部門の人件費資料まで、あわせて確認していく必要があります。

期末前後のカットオフが、棚卸と売上原価の精度を決める

棚卸資産と売上原価の判断で、実務上とても重要になるのがカットオフです。

カットオフとは、期末前後の取引を正しい期間に区分することをいいます。棚卸資産では、仕入、売上、返品、出荷、納品、検収、未着品、積送品などが、その対象になります。

たとえば、期末前に仕入先から出荷されているものの、自社にはまだ到着していない商品があります。この場合、契約条件や引渡条件によって、期末時点で自社の棚卸資産に含めるべきかどうかが変わってきます。

また、期末前に自社から出荷したものの、得意先の検収が翌期になる場合には、売上計上の時期と棚卸資産を除外する時期を、きちんと整合させる必要があります。売上を翌期にするにもかかわらず、在庫だけを当期末から外してしまえば、当期の売上原価が過大になってしまいます。

返品についても同じです。期末後に返品された商品が、期末時点でどのような状態だったのか。返品条件は契約上どうなっていたのか。売上取消や返品調整と、棚卸資産の戻入れが整合しているか。これらを確認しておく必要があります。

棚卸と売上のカットオフは、収益認識とも密接に関係します。売上をいつ計上するのかと、在庫をいつ売上原価へ振り替えるのかは、常に同時に検討しなければなりません。

在庫評価は、金融機関・M&A・事業承継にも影響する

棚卸資産の評価は、法人税額だけの問題にとどまりません。

金融機関は、決算書を見る際に、売上総利益率、在庫回転期間、棚卸資産の増減、そして資金繰りへの影響を確認します。売上が伸びていないのに在庫だけが増えている場合には、滞留在庫や評価損の可能性を疑われることもあります。

M&Aや事業承継の場面でも、棚卸資産は重要な確認対象です。財務デューデリジェンスでは、売上債権や棚卸資産の滞留、評価損の要否、簿外負債や偶発債務の有無が確認されます。棚卸資産については、支配獲得時の正味売却価額や、通常の利益率を控除したコスト・アプローチベースの価額などが、検討の対象になることがあります。

これは、決算書上の棚卸資産が、そのまま経済的価値を表しているとは限らないからです。

在庫のなかに、売れない商品、旧モデル品、破損品、返品予定品、過剰在庫、長期滞留品が含まれている場合、帳簿価額どおりの価値があるとは限りません。税務上損金算入できるかどうかとは別に、経営管理の観点からも、在庫の実態は把握しておく必要があります。

棚卸資産の税務判断を丁寧に行うことは、金融機関や将来の買い手、後継者に対して、会社の利益の質を説明できる状態をつくることにもつながっていきます。

棚卸資産の申告前チェックで確認すべき事項

決算・申告の前には、少なくとも次の観点から棚卸資産を確認しておきたいところです。

まず、棚卸対象の範囲です。自社倉庫、店舗、工場、外部倉庫、委託先、未着品、積送品、返品予定品、仕掛品、貯蔵品に漏れがないかを確認します。

次に、数量です。棚卸表、在庫管理システム、受払台帳、仕入明細、売上明細、出荷記録、廃棄記録が整合しているかを確認します。

次に、単価です。評価方法が届出・継続処理と一致しているか、購入代価だけでなく付随費用まで適切に反映されているか、製造原価や原価差額の処理が正しいかを確認します。

次に、評価です。低価法の適用、正味売却価額、会計上の簿価切下げ、そして税務上の評価損の可否を、それぞれ分けて整理します。

次に、廃棄・減耗です。実際に廃棄したのか、廃棄予定なのか、棚卸差異なのか、盗難・紛失なのかを区分し、証憑を残します。

最後に、売上との対応です。期末前後の売上計上、返品、検収、出荷、未着品、そして仕入計上と売上原価が整合しているかを確認します。

この確認をしないまま申告に進んでしまうと、棚卸資産の計上漏れ、評価損の否認、売上原価の過大計上、税務調整漏れにつながりかねません。

専門家へ相談する前に整理しておきたい資料

棚卸資産の税務判断について相談する場合、次のような資料がそろっていると、検討が進めやすくなります。

棚卸表、在庫一覧、商品コード別在庫明細、倉庫別在庫明細、外部倉庫の残高証明、委託販売先の在庫明細、仕入明細、売上明細、返品明細、出荷記録、検収記録、在庫受払台帳、在庫管理システムの出力データ。

製造業や受注制作業であれば、製造原価報告書、原価計算表、仕掛品明細、外注加工費明細、材料受払表、標準原価表、原価差額の計算資料、配賦基準、製造部門人件費の資料。

評価損や廃棄損を検討する場合には、滞留在庫リスト、最終販売日、値下げ実績、販売不能の理由、廃棄予定表、廃棄証明書、写真、稟議書、取締役会議事録、販売方針の変更資料、旧モデル化や品質低下を示す資料。

さらに税務上の確認には、過年度の法人税申告書、別表、棚卸資産の評価方法の届出書、評価方法変更承認申請の有無、過年度の棚卸表、税務調査での指摘履歴も重要になります。

棚卸資産は、資料がそろってはじめて判断できるものです。数字だけを眺めていても、在庫の実態までは見えてきません。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

棚卸資産と売上原価は、法人税申告における利益計算の中核です。

期末棚卸の範囲、評価方法、取得価額、原価計算、評価損、廃棄損、期末前後のカットオフに不安がある場合、申告直前に表面的な処理だけで済ませてしまうと、十分とはいえないことがあります。

とりわけ、在庫金額が大きい会社、製造原価や仕掛品を抱える会社、滞留在庫・不良在庫を抱えている会社、そしてM&A・事業承継・金融機関対応を見据えて決算書の信頼性を高めたい会社では、棚卸資産の処理を早めに整理しておくことが重要になります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、単なる申告書の作成にとどまらず、会計処理、税務調整、棚卸表、原価計算資料、廃棄・評価損の根拠、そして税務調査での説明可能性までを踏まえた法人税務判断を大切にしています。

自社の棚卸資産や売上原価の処理に不安がある場合、あるいは決算前に在庫・原価・評価損の論点を整理しておきたい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、お気軽にご相談ください。

振り返り|棚卸資産と売上原価の税務判断で押さえるべき事項

論点判断のポイント実務上の注意点
棚卸資産の範囲商品、製品、仕掛品、原材料、貯蔵品、未着品、委託先在庫などを確認する自社倉庫にない在庫も対象になることがある
売上原価当期の収益に対応する原価かを確認する単なる事後的費用は売上原価に含めない
棚卸数量実地棚卸、受払台帳、在庫システムを照合する外部倉庫・返品・未着品・積送品の漏れに注意する
取得価額購入代価、付随費用、製造原価、直接要した費用を確認する仕入代金だけで単価を決めない
評価方法届出・継続適用・事業実態との整合性を確認する利益調整目的の変更は説明が難しい
原価差額標準原価・予定原価と実際原価の差額を確認する期末棚卸資産に対応する部分の調整漏れに注意する
低価法期末時価・正味売却価額との比較を行う評価方法としての低価法と評価損を混同しない
評価損災害、著しい陳腐化、これらに準ずる特別な事実を確認する「売れ残り」だけでは税務上の損金算入根拠として弱い
廃棄損実際に廃棄した事実を資料で残す廃棄予定と廃棄済みを区別する
税務調査対応棚卸表、在庫明細、廃棄証明、原価資料を整備する棚卸計上漏れは所得に直結するため確認されやすい
経営判断への影響粗利、在庫回転、資金繰り、金融機関説明に影響する税額だけでなく利益の信頼性を重視する
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