グループ会社間の出向では、親会社の社員を子会社へ送り、取締役や代表取締役、執行役員などとして経営に関与させることがあります。人事や経営管理の観点からは自然な対応ですが、法人税務の視点で見ると、ここで論点が一段深くなります。
通常の使用人出向であれば、出向者がどちらの法人の業務に従事しているのか、給与をどちらが負担すべきなのか、そして給与較差補填や寄附金課税が問題になります。ところが、出向者が出向先法人で役員となる場合には、これらに加えて「役員給与の損金算入制限」が正面から問われることになります。
つまり、出向先法人が出向元法人へ支払う給与負担金は、単なる人件費の精算ではなく、出向先法人における「その役員に対する給与」として、法人税法上の役員給与規制の対象になり得るのです。実務でも、出向者給与の支給形態と負担形態を分けたうえで、出向元法人の使用人が出向先法人で役員となる場合は、通常の使用人出向とは別の検討対象として整理しておく必要があります。
本稿では、出向元の使用人が出向先法人で役員となる場合を中心に、出向先法人が支出する給与負担金、役員給与規制、株主総会等の決議、出向契約、源泉所得税、寄附金課税、そして資料整備の実務を順に整理していきます。
最初に押さえておきたい結論
出向者が出向先法人で役員となる場合、「出向先法人が出向元法人へ給与負担金を支払えば当然に損金になる」という整理はできません。
法人の使用人が他法人へ出向し、出向元法人が給与を支給しているために、出向先法人が給与相当額を出向元法人へ支出したとします。このとき、その給与負担金は、出向先法人におけるその出向者に対する給与として取り扱われます。そして、出向者が出向先法人で役員となっている場合には、一定の要件を満たすとき、出向先法人が支出する給与負担金について、法人税法34条の役員給与の損金不算入規定が適用されることになります。
出典:国税庁|No.5245 出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与の取扱い
この論点は、次の一文に集約できます。
出向先法人で役員となる出向者については、「出向者給与の負担」だけでなく、「出向先法人の役員給与として損金算入要件を満たしているか」を確認しなければならない。
ここを見落とすと、出向先法人では給与負担金が損金不算入となる可能性が生じます。加えて、出向元法人では受け取った負担金の処理、出向者本人では源泉所得税や年末調整の処理、そしてグループ全体では寄附金・受贈益・説明責任の問題が連鎖的に表面化することになります。
通常の出向者給与と、出向先役員給与は何が違うのか
通常の出向者給与で問われるのは、主に「誰が給与を負担すべきか」という点です。出向者が出向先法人の業務に従事しているのであれば、出向先法人が給与相当額を負担することに合理性があります。出向元法人が一部を負担するのであれば、給与較差補填、人材育成、雇用条件の維持といった合理的な理由を検討することになります。
これに対して、出向者が出向先法人で役員となる場合には、検討すべき論点が一段増えます。
| 区分 | 通常の使用人出向 | 出向先で役員となる出向 |
|---|---|---|
| 基本論点 | 給与負担の合理性 | 給与負担の合理性+役員給与規制 |
| 出向先の支出 | 使用人給与・給与負担金 | 出向先役員に対する給与として扱われ得る |
| 決議の重要性 | 出向契約・負担合意が中心 | 株主総会等の決議が重要 |
| 届出の重要性 | 原則として役員給与届出は不要 | 事前確定届出給与に該当する場合は出向先法人が届出 |
| 税務調査での確認 | 出向実態、負担割合、寄附金性 | さらに役員給与の損金算入要件、議事録、契約内容 |
| 主なリスク | 寄附金認定、消費税区分誤り | 役員給与の損金不算入、寄附金認定、源泉処理誤り |
役員出向では、「給与負担金」という名称で処理していても、実質的には出向先法人の役員に対する給与と見られます。したがって、単に出向契約を結ぶだけでは足りず、出向先法人において役員給与としての支給根拠を整えておく必要があるのです。
出向先役員の給与負担金に必要な2つの要件
出向者が出向先法人で役員となっている場合、出向先法人が支出する給与負担金については、次の2つの要件が示されています。
| 要件 | 内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 1 | その役員に係る給与負担金の額について、その役員に対する給与として、出向先法人の株主総会、社員総会またはこれらに準ずるものの決議がされていること | 出向先法人側で、役員給与としての意思決定を行う必要がある |
| 2 | 出向契約等において、その出向者に係る出向期間および給与負担金の額があらかじめ定められていること | 出向期間・負担額を事後的に調整するのではなく、事前に定める必要がある |
法人税基本通達9-2-46では、出向者が出向先法人で役員となっている場合において上記2要件を満たすときは、出向先法人が支出するその役員に係る給与負担金を、出向先法人におけるその役員に対する給与の支給として、法人税法34条の役員給与の損金不算入規定を適用するものとされています。
出典:国税庁|第9款 転籍、出向者に対する給与等
この2要件は、形式的なチェック項目ではありません。出向先法人が「その役員に、いつ、いくらの役員給与を負担するのか」を事前に決め、会社の意思決定として残しているかどうかを確認するものです。
株主総会等の決議は「後付けの議事録」では足りない
出向先法人で役員となる出向者について、最も見落とされやすいのが、出向先法人側での株主総会等の決議です。
「出向元法人が給与を支払い、出向先法人は出向元法人へ給与負担金を払うだけなのだから、出向先法人では役員報酬の決議は不要ではないか」——実務では、こうした整理をされることがあります。しかし、法人税務の観点からは危うい考え方です。
出向先法人が支出する給与負担金を、その出向先法人における役員給与として扱うためには、出向先法人の株主総会等で、その給与負担金の額について役員給与としての決議がされていることが求められます。
出典:国税庁|No.5245 出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与の取扱い
ここでいう決議は、「出向元へ月額〇円を支払う」という経理上の精算承認だけでは不十分になり得ます。出向先法人の役員に対する給与として、誰に、どの職務について、いくらを、どの期間、どの方法で負担するのかが分かる形で整理しておく必要があります。
実務上は、少なくとも次の事項を議事録や決議書で確認できる状態にしておくべきでしょう。
| 決議・記録事項 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 対象者 | 出向者の氏名、出向元法人、出向先での役職 |
| 職務内容 | 代表取締役、取締役、執行役等としての職務 |
| 報酬・負担金の額 | 月額、年額、賞与相当額、臨時支給額の有無 |
| 負担方法 | 出向元法人への支払か、本人への直接支給か |
| 対象期間 | 出向開始日、役員就任日、出向終了予定日 |
| 出向契約との対応 | 出向契約に定める負担額・期間と一致しているか |
| 変更時の手続 | 役職変更、給与改定、出向期間延長時の再決議 |
同族会社では、実際には家族間やグループ内の合意で役員報酬が決まっており、議事録が後から作成されることも少なくありません。しかし、役員給与は、会社の意思決定と税務上の損金算入要件が強く結びつく領域です。議事録は単なる「形式書類」ではなく、税務調査の場で支給根拠と決定時期を説明するための証拠になります。
出向契約では「期間」と「給与負担金額」を事前に定める
もう一つの要件は、出向契約等において、出向期間と給与負担金額があらかじめ定められていることです。
この要件は、役員給与規制の本質とつながっています。法人税法上、役員給与は恣意的な利益調整に使われやすいため、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは、損金算入が制限されます。該当する場合であっても、不相当に高額な部分は損金に算入されません。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与
出向契約において出向期間や給与負担金額が曖昧なまま、決算期末に利益状況を見て精算額を調整しているような場合には、役員給与としての事前確定性を説明することが難しくなります。
出向契約では、次の内容を具体的に定めておくべきです。
| 出向契約の項目 | 記載すべき内容 |
|---|---|
| 出向期間 | 開始日、終了予定日、延長条件 |
| 役員就任日 | 出向開始日と役員就任日が異なる場合は明確化 |
| 役職・職務 | 出向先での役員としての職務内容 |
| 給与支給者 | 出向元が支給するのか、出向先が直接支給するのか |
| 給与負担者 | 出向先が全額負担するのか、一部負担するのか |
| 給与負担金額 | 月額、賞与相当額、年額、精算方法 |
| 較差補填 | 出向元が負担する差額の有無と理由 |
| 源泉処理 | 誰が本人へ給与を支払い、誰が源泉徴収するか |
| 変更手続 | 役職変更、給与改定、出向期間変更時の合意方法 |
「出向元給与の実額を後日精算する」とだけ記載している場合には、給与負担金額があらかじめ定められているといえるかどうかが問題になります。実務上は、金額または明確な算定方法を契約書・別紙・覚書で示し、株主総会等の決議内容と整合させておくことが重要です。
毎月定額の給与負担金は定期同額給与として整理する
出向先法人が、出向元法人に対して、出向先役員に係る給与負担金を毎月定額で支払う場合、要件を満たせば、出向先法人における定期同額給与として整理することになります。
法人税基本通達9-2-46の要件を満たす給与負担金については、その支出時期・支出金額を役員給与の支給時期・支給金額とみなして、法人税法34条の要件をあてはめます。毎月定額で支出する給与負担金は定期同額給与に該当し、所定の時期に確定額を支出する給与負担金は、出向先法人が所定の期限までに届出を行うことを要件として、事前確定届出給与に該当する取扱いを受けることになります。
出典:国税庁|9 役員給与等
毎月定額の給与負担金については、次のような確認が必要です。
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 月額が一定か | 毎月同額で支出されているか |
| 改定時期 | 事業年度開始後3か月以内の通常改定か |
| 期中変更 | 職制変更・職務内容変更等の臨時改定事由があるか |
| 減額改定 | 業績悪化改定事由に該当するか |
| 出向契約との一致 | 契約書に定める金額と実際支払額が一致しているか |
| 議事録との一致 | 株主総会等で決議した役員給与額と一致しているか |
出向元法人の給与改定、人事制度の変更、賞与カット、あるいは出向先法人の業績悪化などによって、期中に給与負担金を変更したくなる場面はあります。しかし、出向先役員に係る給与負担金は出向先法人の役員給与として扱われるため、通常の従業員給与のように柔軟に変更できるわけではありません。
賞与・一時金相当の負担金は事前確定届出給与を確認する
出向元法人が出向者本人に賞与を支給し、その賞与相当額を出向先法人が出向元法人へ負担する場合、出向先法人で役員となっている出向者については、事前確定届出給与の問題が生じます。
事前確定届出給与とは、役員の職務につき、所定の時期に確定した額を支給する旨の定めに基づいて支給される給与であり、一定の場合を除いて、所轄税務署長への届出が必要とされています。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与
また、出向先法人が支出する給与負担金について事前確定届出給与の適用を受ける場合には、出向先法人が、その納税地の所轄税務署長に対して、出向契約等に基づき支出する給与負担金に係る定めの内容を届け出ることになります。
出典:国税庁|No.5245 出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与の取扱い
ここで重要なのは、届出の主体が出向元法人ではなく、出向先法人である点です。本人への給与を直接支払うのが出向元法人であったとしても、出向先法人がその給与負担金を役員給与として損金算入しようとするのであれば、出向先法人側で届出の要否を確認しなければなりません。
事前確定届出給与に関する届出は、原則として、株主総会等の決議日等から1か月を経過する日、または会計期間開始の日から4か月を経過する日等のいずれか早い日までに行うこととされています。
出典:国税庁|C1-23 事前確定届出給与に関する届出
実務上は、次のような処理に注意が必要です。
| ケース | 注意点 |
|---|---|
| 出向元が賞与を本人に支給し、出向先が同額を負担 | 出向先法人で事前確定届出給与の届出要否を確認 |
| 出向契約に賞与負担の定めがない | 事前確定性を説明しにくい |
| 賞与支給後に出向先へ精算請求 | 事後決定と見られるリスク |
| 届出額と実際負担額が異なる | 損金不算入リスク |
| 出向先の業績を見て賞与負担額を変更 | 利益調整と見られやすい |
| 親会社の賞与制度に連動して自動精算 | 出向先役員給与としての決議・届出との整合性が必要 |
賞与相当の負担金は、出向元の人事制度だけで完結させてはいけません。出向先法人の役員給与として、決議・契約・届出・実際の支払額が一体で整っているかどうかを確認する必要があります。
出向先が直接本人へ支払う場合
出向先法人が、出向先役員となった出向者本人へ直接役員報酬を支払う場合には、通常の役員給与として法人税法34条の要件を検討します。
この場合、出向元法人への給与負担金という形はとりませんが、出向者が出向先法人の役員として職務を行い、出向先法人から直接報酬を受けることになるため、出向先法人側で次の点を確認する必要があります。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 役員報酬決議 | 株主総会等で役員報酬額を決議しているか |
| 定期同額性 | 毎月同額で支給されているか |
| 事前確定届出 | 賞与・一時金がある場合、届出要否を確認したか |
| 源泉徴収 | 出向先法人が給与支払者として源泉徴収しているか |
| 出向元給与との関係 | 出向元が別途給与を支給している場合、較差補填か二重支給か |
| 社会保険・労務 | 本記事の対象外だが、実務上は別途確認が必要 |
出向先が本人へ直接支払う場合には、源泉所得税の処理も出向先法人で行うのが基本です。源泉徴収制度とは、給与等の所得を支払う者が、支払の際に所得税額を計算し、支払金額から差し引いて国に納付する仕組みを指します。
出典:国税庁|No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収
出向元が本人へ支払い、出向先が負担金を支払う場合
実務で多く見られるのは、出向元法人が本人への給与支払を継続し、出向先法人が出向元法人へ給与負担金を支払う形です。
このケースでは、本人への給与の支払者が出向元法人であるため、源泉徴収や給与台帳は出向元法人側で処理されることが多くなります。一方で、出向先法人が出向元法人へ支払う給与負担金については、出向先法人側で役員給与としての損金算入要件を満たすかどうかが問われます。
この構造では、次のように処理を分けて考える必要があります。
| 観点 | 出向元法人 | 出向先法人 |
|---|---|---|
| 本人への給与支払 | 給与支払者として処理 | 原則として本人へは支払わない |
| 源泉徴収 | 実際に給与を支払う場合、源泉徴収を行う | 本人へ直接支払わない限り、給与源泉ではない |
| 法人間精算 | 給与負担金を受け取る | 給与負担金を支出する |
| 法人税処理 | 受取負担金・給与費用の処理 | 出向先役員給与として損金算入要件を確認 |
| 必要資料 | 給与台帳、源泉資料、請求書 | 議事録、出向契約、精算書、届出書 |
このケースでよくある誤りは、出向元法人が給与台帳を持っているために、出向先法人側で役員給与の検討を行わないことです。しかし、出向先法人が給与負担金を損金算入するには、あくまで出向先法人の役員給与としての要件確認が欠かせません。
出向元が一部を負担する場合は「給与較差補填」かを確認する
出向者が出向先法人で役員となった場合でも、出向元法人が給与の一部を負担することがあります。たとえば、出向元での給与水準を維持するために、出向先が負担する役員報酬との差額を出向元が支給するようなケースです。
出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補填するために出向者へ支給した給与は、出向者と出向元法人との雇用契約が維持されていることから、出向元法人の損金に算入されます。また、出向先法人が経営不振等で賞与を支給できないために出向元法人が賞与を支給する場合や、出向先法人が海外にあるために出向元法人が留守宅手当を支給する場合も、給与較差補填として取り扱われます。
出典:国税庁|No.5241 出向者に対する給与の較差補てん金の取扱い
ただし、給与較差補填は、出向元が自由に追加支給できる制度ではありません。何との差額を補填しているのかを、きちんと説明できる必要があります。
| 出向元負担部分 | 説明しやすい場合 | 注意が必要な場合 |
|---|---|---|
| 基本給差額 | 出向元給与水準と出向先役員報酬との差額 | 出向先が本来負担すべき役員報酬を出向元が肩代わり |
| 賞与差額 | 出向元規程に基づく処遇維持 | 出向先の業績に対応する役員賞与を出向元が負担 |
| 留守宅手当 | 海外出向などで出向元が処遇補填 | 国内出向で根拠なく手当を支給 |
| 福利厚生的給付 | 出向元雇用関係維持に基づく給付 | 出向先役員としての職務対価と混在 |
| 経営支援目的 | 合理的な再建計画等がある | 単なる子会社支援・損益調整に見える |
出向先法人が役員給与として負担すべき部分と、出向元法人が給与較差補填として負担する部分を区分しておかなければ、出向元側で寄附金と認定されるリスクが生じます。
出向先が負担しすぎる場合は寄附金課税に注意する
出向先法人が出向元法人へ給与負担金を支払う場合、出向先が支払う金額が出向元法人の実際の給与支給額を超えると、その超過部分は給与負担金としての性格を持ちません。
出向先法人が給与負担金として支出した金額が、出向元法人がその出向者に支給する給与額を超える場合には、その超える部分は給与負担金としての性格を持たず、合理的な理由がなく適正な金額の範囲内でないときには、出向元法人に対する寄附金として取り扱われます。
出典:国税庁|No.5245 出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与の取扱い
これは役員出向でも同じです。むしろ役員出向では、経営指導、親会社支援、マネジメントフィー、役員報酬、給与負担金が混在しやすいため、過大負担の説明が一層難しくなります。
| 処理 | 問題点 |
|---|---|
| 出向元給与を超える金額を給与負担金として請求 | 超過部分が寄附金とされる可能性 |
| 役員報酬決議額を超える負担金を支払う | 出向先役員給与としての支給根拠が不足 |
| 経営指導料に給与負担金を含める | 役務提供対価と役員給与の区分が曖昧 |
| 出向者の人数・職務に対応しない定額請求 | 給与負担金としての実態が弱い |
| 決算利益に応じて負担金額を調整 | 利益調整と見られるリスク |
役員出向では、「親会社から役員を派遣しているのだから、子会社が多めに払ってもよい」という発想は危険です。出向先法人が実際に受けている職務提供、出向元法人の支給額、出向契約、役員報酬決議、そして同種職務の報酬水準を踏まえて、金額の合理性を説明できるようにしておく必要があります。
出向者が「役員」なのか「使用人兼務」なのかを確認する
出向先法人での肩書が「取締役」「執行役員」「本部長」「顧問」などである場合、税務上どのように扱うかは、形式だけでは判断できません。
特に注意したいのは、会社法上の役員、法人税法上の役員、そして社内呼称としての執行役員が一致しない場合です。本稿では会社法上の役員選任手続の詳細には立ち入りませんが、少なくとも法人税務上は、出向先法人において役員給与規制の対象となる役員に該当するかどうかを確認しなければなりません。
判断を誤りやすい例は、次のとおりです。
| 肩書・立場 | 確認すべき点 |
|---|---|
| 取締役・監査役 | 法人税法上の役員給与規制の対象となる前提で検討 |
| 代表取締役 | 職務内容、報酬額、決議、定期同額性を特に確認 |
| 執行役員 | 会社法上の役員か、単なる社内役職かを確認 |
| 使用人兼務役員 | 役員部分と使用人部分の区分が可能か確認 |
| 顧問・相談役 | 実質的に経営に従事していないか確認 |
| 親会社社員のまま子会社取締役 | 出向元給与、出向先負担金、較差補填を分解 |
使用人兼務役員に該当し、使用人としての職務に対する給与部分を合理的に区分できる場合には、その部分について役員給与規制とは別に整理する余地があります。ただし、出向先法人での職務が実質的に経営判断や業務執行そのものである場合には、単に「親会社では使用人だから」という理由だけで、出向先でも使用人給与として扱うことはできません。
源泉所得税は「本人への支払者」を基準に整理する
役員出向では、法人税の損金算入だけでなく、源泉所得税の処理も混乱しやすくなります。
源泉徴収制度は、給与等の所得を支払う者が、支払の際に所得税額を計算し、支払金額から差し引いて国に納付する制度です。
出典:国税庁|No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収
したがって、源泉所得税は、法人税上の最終負担者だけでなく、誰が本人へ給与を実際に支払っているのかを確認したうえで整理する必要があります。
| 支給形態 | 源泉所得税の基本整理 |
|---|---|
| 出向元が本人へ全額支給し、出向先が出向元へ負担金を支払う | 本人への給与支払者である出向元が源泉徴収を行うのが基本 |
| 出向先が本人へ直接役員報酬を支払う | 出向先が源泉徴収を行う |
| 出向元・出向先がそれぞれ本人へ支給する | 各支払者がそれぞれ源泉徴収を確認 |
| 出向先が出向元へ給与負担金を支払うだけ | 法人間精算であり、通常は本人への給与支払ではない |
| 出向元が較差補填を本人へ支給 | 出向元がその支給分について源泉徴収を確認 |
ここで気をつけたいのは、法人税上の役員給与該当性と、源泉所得税上の支払者判定を混同しないことです。
出向先法人が出向元法人へ給与負担金を支払う場合、法人税上は出向先役員に対する給与として役員給与規制の対象になることがあります。しかし、その支払は本人への直接支払ではなく、あくまで法人間の精算です。本人への給与を誰が支払っているのかを別途確認したうえで、源泉徴収・年末調整・源泉徴収票の処理を整えていく必要があります。
消費税区分も見落としやすい
役員出向に係る給与負担金は、請求書で精算されることが多いため、消費税の課税仕入れとして処理されてしまうことがあります。しかし、出向者給与の精算は、人材派遣や業務委託の対価とは性格が異なります。
出向において、雇用契約に基づく役務提供で、その支払対価が給与所得となる場合には、課税仕入れには該当しません。出向元が給与を支払い一部を出向先へ請求する方法、出向先が給与を支払い一部を出向元へ請求する方法、双方が一部ずつ支払う方法——そのいずれであっても、出向者に対して給与を支給したものとして取り扱われ、給与負担金について消費税の課税関係は生じません。
出典:国税庁|No.6475 使用人の出向・人材派遣など
役員出向でも、給与負担金としての実質を有するものを、単に請求書があるからという理由で課税仕入れと処理するのは危険です。出向なのか、人材派遣なのか、業務委託なのかを契約と実態から確認し、消費税区分を設定する必要があります。
会計処理と法人税申告で確認すべきこと
役員出向に係る給与処理は、会計処理・法人税申告・源泉所得税・消費税が連動します。
たとえば、出向元法人が本人へ月額100万円を支給し、出向先法人が出向元法人へ月額100万円を負担する場合を考えてみます。出向元法人では給与費用と負担金収入または費用控除の処理が生じ、出向先法人では給与負担金を役員給与として処理することになります。
ただし、会計処理上「給与負担金」「業務委託費」「経営指導料」「出向負担金」のいずれの科目で処理していても、税務上の性格は実態で判断されます。
| 勘定科目 | 税務上の確認事項 |
|---|---|
| 給与負担金 | 出向先役員給与として要件を満たすか |
| 役員報酬 | 定期同額給与・事前確定届出給与の要件を満たすか |
| 経営指導料 | 実質が給与負担金ではないか |
| 業務委託費 | 出向ではなく委託契約としての実態があるか |
| 雑収入 | 出向元側で受取負担金として適切に処理しているか |
| 立替金・仮払金 | 実質的な給与負担を隠していないか |
| 消費税課税仕入れ | 給与負担金を課税仕入れにしていないか |
| 寄附金 | 過大・過少負担、合理性のない負担がないか |
決算申告の際には、次の順番で確認していくと、論点を整理しやすくなります。
- 出向者が出向先法人で役員に該当するか
- 本人への給与支払者はどちらか
- 出向先法人が出向元法人へ支払う金額は給与負担金か
- 出向先法人で株主総会等の決議があるか
- 出向契約等で出向期間・給与負担金額が事前に定められているか
- 毎月定額か、一時金・賞与相当か
- 事前確定届出給与の届出が必要か、期限内に提出済みか
- 出向元負担部分は給与較差補填として説明できるか
- 出向先負担額が過大で、寄附金とされる部分がないか
- 源泉所得税・消費税区分が処理実態と一致しているか
税務調査で確認されやすい資料
役員出向は、税務調査で確認されやすい論点です。親子会社・兄弟会社間の取引であり、役員給与、寄附金、源泉所得税、消費税が同時に関係してくるためです。
税務調査では、次のような資料を確認される可能性があります。
| 資料 | 確認される内容 |
|---|---|
| 出向契約書・覚書 | 出向期間、職務、給与負担金額、精算方法 |
| 出向命令書・辞令 | 出向開始日、役員就任日、出向先役職 |
| 出向先の株主総会議事録 | 役員給与としての決議の有無 |
| 取締役会議事録・社内稟議 | 職務内容、報酬決定過程、改定理由 |
| 給与台帳 | 本人への支給者、支給額、源泉徴収 |
| 請求書・精算書 | 法人間精算額、対象期間、内訳 |
| 事前確定届出給与に関する届出書 | 賞与相当負担金の届出状況 |
| 出向元・出向先の給与規程 | 較差補填の根拠 |
| 組織図・職務分掌 | 出向先役員としての職務内容 |
| 消費税区分資料 | 給与負担金を課税仕入れとしていないか |
| グループ資本関係図 | 完全支配関係、寄附金・受贈益処理への影響 |
とりわけ重要なのは、出向開始時点・役員就任時点・報酬決定時点の資料です。税務調査の段階になってから説明を組み立てるのではなく、役員出向を開始する時点で、税務上の根拠を会社に残しておくことが肝心です。
判断を誤った場合の経営上のリスク
役員出向の給与処理を誤ると、単に法人税の調整だけでは済まないことがあります。
| 誤り | 起こり得るリスク |
|---|---|
| 出向先法人の決議がない | 給与負担金が役員給与として損金算入できない可能性 |
| 出向契約に期間・金額の定めがない | 事前確定性を説明できない |
| 賞与相当負担金の届出漏れ | 事前確定届出給与に該当せず損金不算入 |
| 期中に負担金を任意変更 | 定期同額給与の要件不備 |
| 出向元が過大に負担 | 出向先への寄附金認定 |
| 出向先が過大に負担 | 出向元への寄附金認定 |
| 源泉徴収主体を誤る | 源泉所得税の不納付・年末調整誤り |
| 消費税区分を誤る | 仕入税額控除の否認 |
| 経営指導料と給与負担金を混在 | 役務提供対価・給与・寄附金の区分が不明確 |
| 資料がない | 税務調査で説明不能 |
これらは、過年度修正、附帯税、税務調査対応にとどまらず、金融機関や株主への説明、M&A時の税務デューデリジェンス、グループ再編時の過去リスク確認にも影響を及ぼします。
役員出向は、グループ経営の都合で柔軟に行われることが多いものです。だからこそ税務上は、「いつ、誰が、どの法人のために、どの職務を行い、どの法人がいくら負担するのか」を明確にしておく必要があります。
実務上の判断フロー
役員出向の給与処理は、次の流れで検討していくと整理しやすくなります。
1. 出向者の出向先での地位を確認する
まず、出向者が出向先法人で使用人なのか、役員なのか、それとも使用人兼務役員なのかを確認します。登記、株主総会議事録、取締役会議事録、辞令、職務分掌などを確認します。
2. 本人への給与支払者を確認する
出向元が本人へ支払っているのか、出向先が本人へ直接支払っているのか、あるいは双方が一部ずつ支払っているのかを確認します。源泉所得税の処理は、この確認と密接に関係します。
3. 出向先法人の負担金が役員給与に該当するかを確認する
出向先法人が出向元法人へ支払う給与負担金について、出向先役員に対する給与として法人税法34条の検討が必要かどうかを確認します。
4. 株主総会等の決議を確認する
出向先法人において、給与負担金の額が、その役員に対する給与として決議されているかを確認します。金額、期間、役職、対象者が明確であることが重要です。
5. 出向契約等で期間・金額が事前に定められているかを確認する
出向契約、覚書、別紙精算表などで、出向期間と給与負担金額があらかじめ定められているかを確認します。
6. 定期同額給与か、事前確定届出給与かを判定する
毎月定額であれば定期同額給与として、賞与・一時金相当であれば事前確定届出給与として、それぞれ要件と届出を確認します。
7. 較差補填・寄附金・消費税を確認する
出向元負担部分がある場合は給与較差補填として説明できるか、出向先負担額が過大で寄附金とされないか、そして給与負担金を課税仕入れ処理していないかを確認します。
専門家へ相談する前に整理しておくべき資料
役員出向の給与処理について専門家へ相談する場合、次の資料を準備しておくと、論点整理がスムーズに進みます。
| 資料 | 確認目的 |
|---|---|
| 出向契約書・覚書 | 出向期間、職務、給与負担金額、精算方法 |
| 出向命令書・辞令 | 出向開始日、役員就任日 |
| 出向先の株主総会議事録 | 役員給与としての決議内容 |
| 取締役会議事録・稟議書 | 報酬決定の過程、職務内容 |
| 給与台帳 | 本人への支給額、支給者、源泉徴収 |
| 法人間の請求書・精算書 | 負担金額、対象期間、計算根拠 |
| 事前確定届出給与に関する届出書 | 賞与相当額の届出状況 |
| 出向元・出向先の給与規程 | 較差補填の根拠 |
| 組織図・資本関係図 | グループ法人税制、寄附金処理の確認 |
| 会計仕訳・総勘定元帳 | 勘定科目、消費税区分、税務調整 |
| 法人税申告書別表 | 役員給与、寄附金、税務調整の確認 |
これらを揃えたうえで相談すれば、「損金になるかどうか」という結論だけでなく、どの資料が不足しているのか、どの時点で決議・契約・届出を整えるべきかまで、具体的に検討することができます。
役員出向は、グループ人事ではなく税務判断である
役員出向は、グループ会社の経営管理、人材育成、子会社支援、後継者育成、PMI、海外展開など、さまざまな場面で頻繁に生じます。しかし税務上は、単なる人事異動ではなく、法人間の役務提供、給与負担、役員給与、源泉所得税、消費税、寄附金課税が交差する重要な論点です。
とりわけ、出向元の使用人が出向先法人で役員となる場合には、次の3点を必ず確認しておくべきです。
| 確認事項 | なぜ重要か |
|---|---|
| 出向先法人の株主総会等で役員給与として決議しているか | 役員給与の支給根拠を説明するため |
| 出向契約等で出向期間・給与負担金額を事前に定めているか | 事前確定性・定期同額性を説明するため |
| 事前確定届出給与に該当する負担金がないか | 賞与相当額の損金不算入を防ぐため |
出向者給与の負担は、どちらの会社で費用にするかという単純な問題ではありません。後から説明できる処理にするためには、出向を開始する時点で、契約、議事録、給与規程、精算書、源泉処理、申告処理を一体で設計しておく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人税申告だけでなく、グループ会社間取引、役員給与、出向・転籍、給与負担金、寄附金課税、組織再編、M&Aを踏まえた税務判断の整理を支援しています。出向元社員を子会社役員として派遣している場合、あるいは今後派遣を予定している場合は、出向契約書、議事録、給与台帳、精算資料を整理したうえで、お問い合わせページよりご相談ください。
重要事項の振り返り
| 論点 | 重要な判断ポイント | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 出向先役員の給与負担金 | 出向先法人の役員給与として扱われる可能性 | 通常の出向者給与より慎重な検討が必要 |
| 株主総会等の決議 | 出向先法人で役員給与として決議されているか | 後付け議事録では説明力が弱い |
| 出向契約 | 出向期間・給与負担金額が事前に定められているか | 金額または明確な算定方法を記載 |
| 定期同額給与 | 毎月定額で支出されているか | 期中変更は改定事由を確認 |
| 事前確定届出給与 | 賞与・一時金相当の負担金があるか | 出向先法人が届出主体となる |
| 出向元負担部分 | 給与較差補填として説明できるか | 単なる子会社支援は寄附金リスク |
| 出向先過大負担 | 出向元給与を超えていないか | 超過部分は寄附金となり得る |
| 源泉所得税 | 本人への給与支払者は誰か | 法人税上の負担者と混同しない |
| 消費税 | 給与負担金を課税仕入れにしていないか | 出向と人材派遣・業務委託を区別 |
| 資料整備 | 契約・議事録・給与台帳・精算書が揃っているか | 税務調査では事前資料が説明力になる |
主な出典
出典:国税庁|No.5245 出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与の取扱い
出典:国税庁|第9款 転籍、出向者に対する給与等
出典:国税庁|9 役員給与等
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与
出典:国税庁|C1-23 事前確定届出給与に関する届出
出典:国税庁|No.5241 出向者に対する給与の較差補てん金の取扱い
出典:国税庁|No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収
出典:国税庁|No.2502 源泉徴収義務者とは
出典:国税庁|No.6475 使用人の出向・人材派遣など