M&Aの税務は、「売却益にどれだけ税金がかかるのか」「買収後にどの程度節税できるのか」といった単純な話ではありません。
同じ「会社を買う」「事業を引き継ぐ」という取引であっても、株式譲渡なのか、事業譲渡なのか、あるいは合併や会社分割といった組織再編なのかによって、税務上の当事者、課税されるタイミング、承継するリスク、買収後の損益、申告書上の処理は大きく変わってきます。
特に中小・中堅企業のM&Aでは、過去の法人税申告、役員給与、貸倒損失、固定資産、消費税、源泉所得税、グループ会社間取引、繰越欠損金、債務超過、オーナー貸付金、税務調査履歴といった要素が、買収価格や契約条件に直接影響することも少なくありません。
M&A税務で重要なのは、税負担の軽減だけではありません。買収後に説明できる数字になっているか。税務調査で耐えられる資料が残っているか。契約上、税務リスクを誰が負担するのか。買収後の月次決算や法人税申告に、過去の処理がどのように影響するのか。
こうした点を事前に整理しておくことが、M&Aを「成立させる」だけでなく、「成立後に会社を守る」ためには欠かせません。
本稿では、M&Aにおける法人税務の全体像を、株式譲渡、事業譲渡、合併・分割などの組織再編、税務デューデリジェンス、表明保証、買収後対応という流れで整理していきます。
M&A税務の出発点は「誰が、何を、どの形で取得するか」
M&A税務を考えるときは、まず「買収」という言葉をいったん分解しておく必要があります。M&Aでは、少なくとも次の三者の税務を分けて考えることになります。
売り手は、株式や事業を譲渡することによって、譲渡益・譲渡損を認識する可能性があります。買い手は、株式を取得するのか、それとも資産・負債を取得するのかによって、取得価額、のれん、償却、将来の損益が変わります。そして対象会社は、株主が変わるだけなのか、資産や負債を移転するのか、あるいは合併で消滅するのかによって、法人税申告上の処理が変わってきます。
つまりM&A税務は、「売り手の税金」だけの問題でも、「買い手の節税」だけの問題でもありません。売り手、買い手、対象会社という三者について、課税関係、リスク承継、会計処理、税務調整、契約上の責任分担を、それぞれ整理する必要があるのです。
この点を曖昧にしたまま取引を進めてしまうと、表面的には同じ買収価格であっても、税引後の手取額、買収後の損益、承継するリスク、金融機関への説明内容が、大きく変わってしまいます。
M&Aで用いられる主なスキームと法人税務の違い
M&A税務の全体像を理解するうえで、まず押さえておきたいのがスキームごとの違いです。
代表的なスキームは、株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割の四つです。実務上は、これらを単独で用いる場合もあれば、会社分割を行ったうえで株式譲渡を行うなど、複数の手法を組み合わせることもあります。
株式譲渡
株式譲渡は、対象会社の株主が、買い手に株式を譲渡する方法です。
この場合、対象会社そのものは存続します。対象会社が保有している資産、負債、契約、従業員、許認可、そして過去の税務申告の履歴も、原則としてそのまま対象会社に残ります。買い手は対象会社の株主になるわけですから、対象会社の過去の税務リスクも含めて、会社をまるごと引き受けることになります。
税務上、まず問題になるのは、売り手側の株式譲渡益課税です。売り手が法人であれば法人税等が、個人であれば所得税・住民税等が問題になります。一方、対象会社自体は、株主が変わるだけであれば、通常、その時点で資産譲渡益を認識するわけではありません。
買い手にとっての株式譲渡は、取引手続が比較的シンプルで、対象会社の契約関係や事業運営を継続しやすいという利点があります。ただし、過去の法人税申告、消費税、源泉所得税、社会保険、簿外債務、偶発債務、役員借入金、保証債務なども対象会社に残るため、その分だけ税務デューデリジェンスの重要性が高まります。
また、対象会社に繰越欠損金がある場合には、買収後にその欠損金を利用できるかどうかも検討対象になります。ただし繰越欠損金は、単に「赤字があるから使える」というものではありません。欠損金の発生年度、青色申告の有無、控除期限、支配関係の変動、欠損等法人の制限、組織再編時の制限などを、ひとつずつ確認する必要があります。
具体的には、青色欠損金の繰越控除について、平成30年4月1日以後に開始する事業年度では、中小法人等以外の法人の損金算入限度額が原則として所得金額の50%に制限されています。また、平成30年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金の繰越期間は9年とされています。出典:国税庁|No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
株式譲渡は、見た目にはシンプルなスキームですが、その本質は、買い手が「会社の過去」を引き受ける点にあります。対象会社の過去の申告に不安がある場合、契約で表明保証や補償条項を入れるだけでは、十分といえないこともあります。売り手に補償能力がなければ、契約上の権利があっても、実効性は乏しいためです。簿外債務の把握には限界がありますから、懸念が大きい場合には、事業譲渡や会社分割を検討すべき場面も出てきます。
事業譲渡
事業譲渡は、対象会社が、事業に関する資産・負債・契約などを選別して買い手に譲渡する方法です。
株式譲渡と異なり、買い手が取得するのは会社そのものではなく、特定の事業です。そのため、承継する資産・負債を、ある程度買い手が選別できます。過去の税務リスクや簿外債務を対象会社側に残しやすいという点は、買い手にとって大きな意味を持ちます。
一方で事業譲渡では、売り手法人において、譲渡対象となる資産・負債の譲渡損益が発生します。不動産が含まれる場合には、登録免許税や不動産取得税、消費税の課税関係、固定資産の取得価額、営業権・のれんの処理なども検討対象になります。
さらに、事業譲渡では、契約や許認可が当然に包括承継されるわけではありません。取引先契約、賃貸借契約、従業員との関係、許認可、金融機関との借入契約などについて、個別の承継や同意取得が必要になることがあります。税務上は有利に見えても、法務・労務・許認可の面で実行が難しい、というケースもあるのです。
したがって事業譲渡では、税額だけを見るのではなく、「何を承継し、何を承継しないのか」を、契約・会計・税務の三つの面から整理することが重要になります。
合併・会社分割などの組織再編型M&A
合併や会社分割は、法人税法上の組織再編税制と密接に関係します。
組織再編税制では、適格組織再編成に該当する場合には資産・負債を税務上の帳簿価額で移転し、非適格組織再編成に該当する場合には資産・負債を時価で移転する、という考え方が基本になります。また、適格合併では、一定の要件のもとで被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引き継ぐことができますが、その一方で、繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入といった、租税回避を防止するための制限も設けられています。
なお、組織再編が行われた場合の「組織再編成の日」については、法人税基本通達において、合併、分割、現物出資、現物分配、株式交換等、株式移転のそれぞれについて、資産・負債の移転があった日や株式交換等が行われた日をいう旨が整理されています。出典:国税庁|法人税基本通達 第4節 組織再編成
合併や会社分割は、株式譲渡や事業譲渡と比べて、税務上の判定が複雑になりやすい領域です。適格要件を満たすか、支配関係が継続するか、事業が継続するか、従業者が引き継がれるか、主要な資産・負債が移転するか、株主の投資が継続するか。こうした点を、形式と実態の両面から確認していく必要があります。
さらに組織再編には、包括否認規定の問題もあります。法人税法132条の2については、組織再編成の形態や方法が複雑かつ多様になり、これを利用した租税回避行為が増加するおそれがあったことから、個別の防止規定に加えて、包括的な租税回避防止規定を設ける必要があった、と説明されています。出典:国税庁 税務大学校|組織再編成に係る行為計算否認規定の解釈・適用を巡る諸問題
つまり組織再編型M&Aでは、条文上の適格要件を満たすかどうかだけでなく、その再編を行う事業目的、経済合理性、意思決定の過程、そして資料として残された検討内容までもが重要になってくるのです。
M&A税務では「税額」より先に「リスクの所在」を整理する
M&Aでは、どうしても節税効果や税引後手取額に目が向きがちです。しかし実務上は、それより先に、税務リスクがどこに残るのかを整理しておく必要があります。
株式譲渡では、対象会社の過去の税務リスクは、対象会社にそのまま残ります。買い手は株式を取得することでその会社を支配する立場になりますが、過去の申告誤りが後日の税務調査で指摘されれば、追加の納税は対象会社に生じます。結果として、その経済的負担は買い手が負うことになるのです。
事業譲渡では、譲渡対象を選別できるため、過去の税務リスクをある程度遮断しやすくなります。ただし、譲渡法人側には譲渡益課税が生じますし、買い手側でも、資産の取得価額、消費税、登録免許税、不動産取得税、のれん、契約承継といった論点が新たに生じます。
合併では、権利義務が包括的に承継されるため、被合併法人の簿外債務や保証債務までも合併法人に引き継がれる点に、注意が必要です。合併には、シナジー、管理コストの削減、損益通算、繰越欠損金の活用といったメリットがある一方で、簿外債務の承継、許認可、組織融合、含み損益、欠損金制限といったデメリットも伴います。
M&A税務の判断では、「どの方法が最も税金が少ないか」だけでなく、「どの方法であれば、想定外の税務リスクを管理できるか」まで考えておくことが求められます。
税務デューデリジェンスで確認すべきこと
税務デューデリジェンスは、対象会社の過去の申告を形式的に確認するだけの作業ではありません。
その本来の目的は、M&A後に買い手が引き受ける可能性のある税務リスクを把握し、それを買収価格、契約条件、表明保証、補償条項、クロージング条件、そして買収後の管理体制に反映させることにあります。
税務デューデリジェンスでは、少なくとも次のような論点を確認していきます。
- 法人税申告書、別表、勘定科目内訳明細書、税務調整の継続項目
- 繰越欠損金の発生年度、控除期限、使用制限の有無
- 過去の税務調査履歴、修正申告、更正の請求、指摘事項
- 役員給与、役員退職金、交際費、寄附金、貸倒損失、棚卸資産、固定資産、修繕費、評価損の処理
- 関係会社間取引、オーナー貸付金、債権放棄、DES、債務免除益
- 消費税の課税区分、インボイス、簡易課税、課税売上割合
- 源泉所得税、外注費と給与の区分、役員・従業員への支払い
- 海外取引、ロイヤリティ、役務提供、源泉、移転価格、外国子会社との取引
- 未払税金、税効果会計、繰延税金資産の回収可能性
- 買収後に変更予定の取引や組織体制が税務に与える影響
特に中小企業では、申告書上の数字だけを見ても、取引の実態までは見えてこないことがあります。議事録、契約書、請求書、固定資産台帳、棚卸表、借入契約、株主名簿、役員借入金の明細、関係会社との精算資料などを確認しなければ、税務上のリスクを正しく判断することはできません。
そしてもう一点、税務デューデリジェンスは、どれだけ丁寧に実施しても、100%すべての情報を把握できるものではありません。特に簿外債務や偶発債務は、資料の上に明確には現れないことがあるためです。ですから、デューデリジェンスの目的は「絶対に問題がないと保証すること」ではなく、「重要なリスクを把握し、それを価格・契約・買収後管理に反映させること」にあると考えておくべきです。
繰越欠損金はM&Aの価値にもリスクにもなる
M&A税務でよく問題になるのが、対象会社の繰越欠損金です。
繰越欠損金がある会社を買収すれば、買収後の利益と相殺でき、税負担を軽減できるのではないか。そう考えられることがあります。確かに、一定の条件を満たせば、繰越欠損金は買収後の法人税負担に影響します。
しかし、繰越欠損金は、無条件に利用できる資産ではありません。
欠損金の発生年度、青色申告の有無、控除期限、対象会社の資本金・株主関係、買収後の事業継続、支配関係の変動、休眠会社への該当性、旧事業の廃止、新事業資金の流入、役員・従業員の変更。こうした事情によって、その利用が制限される可能性があります。
たとえば、特定株主等によって支配された欠損等法人については、一定の事由に該当した場合、適用事業年度前の欠損金について繰越控除が認められないという制度があります。これは、欠損金を有する法人を買収し、その欠損金を利用して課税所得を圧縮するような取引を制限しようとする趣旨の制度です。出典:e-Gov法令検索|法人税法 出典:税務研究会|法人税法第57条の2
また、適格合併では、被合併法人の青色欠損金を合併法人に引き継げる場合がありますが、支配関係やみなし共同事業要件などによって、一定の欠損金が制限されることがあります。法人税法57条2項・3項に基づく適格合併時の青色欠損金の引継ぎと、その制限の考え方については、質疑応答事例のなかでも整理されています。出典:国税庁|一般財団法人間において適格合併を行った場合の青色欠損金額の引継ぎ
したがって、繰越欠損金を買収価格に反映させようとする場合には、「その欠損金は本当に使えるのか」「いつまで使えるのか」「買収後の事業計画で使い切れるのか」「制限規定に抵触しないか」を、具体的に検討しておく必要があります。
繰越欠損金を節税メリットとして評価すること自体は、否定されるものではありません。しかし、その利用可能性を十分に検証しないまま価格に織り込んでしまうと、買収後に想定していた税効果が得られず、投資判断そのものが崩れてしまうこともあるのです。
債務超過会社・赤字会社のM&Aでは税務リスクが複合化する
債務超過会社や赤字会社のM&Aでは、繰越欠損金、債務免除益、債権放棄、DES、役員借入金、金融機関借入、保証債務、簿外債務といった論点が、複雑に絡み合います。
たとえば債務免除が行われると、会社側では債務免除益が益金となる可能性があります。繰越欠損金で相殺できると考えていても、欠損金の控除制限や期限、あるいは欠損等法人の制限によって、想定どおりには処理できないこともあります。
また債務超過会社には、会計上は把握されていない債務、保証債務、未払税金、社会保険、労務債務、契約上の違約リスクが残っていることもあります。契約書に表明保証や損害賠償条項を入れたとしても、売り手側に支払能力がなければ、実効的なリスクヘッジにはなりません。
このような場合には、株式譲渡にこだわらず、事業譲渡や会社分割によって、承継する事業・資産・負債を限定する方法も検討対象になります。ただし、事業譲渡であれば許認可・契約承継・消費税・不動産取得税等の問題があり、会社分割であれば組織再編税制や会社法上の手続、債権者保護、適格要件、欠損金制限の検討が必要になります。
債務超過会社・赤字会社のM&Aでは、「安く買える」「欠損金が使える」という点だけを見てはいけません。むしろ、買収後にどのリスクを引き受けることになるのか、どの債務を切り離せるのか、税務上の益金・損金がいつ発生するのかを、丁寧に精査していく必要があります。
税務DDの結果は、契約条件に反映して初めて意味を持つ
税務デューデリジェンスでリスクを発見しても、それを契約条件に反映しなければ、実務上の意味は限られてしまいます。
税務DDで把握した内容は、主に次のような形で契約に反映されていきます。
- 買収価格の調整
- クロージング前提条件
- 表明保証
- 補償条項
- 税務調査対応への協力義務
- クロージング前後の申告・納税負担の分担
- 未払税金や偶発債務の精算
- 資料開示義務
- 役員借入金や関係会社取引の整理
- 買収後の会計方針・税務処理の引継ぎ
中小M&Aガイドライン(第3版)では、最終契約に定めた事項の不履行等をめぐるトラブル、経営者保証の移行に関する問題、仲介者・FAに求められる説明などが整理されています。M&Aでは、契約そのものだけでなく、契約で定めた責任分担が実際に機能するかどうかまで、確認しておく必要があるのです。出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン
税務上の表明保証では、過去の申告が適正に行われていること、未納の税金がないこと、税務調査で未解決の事項がないこと、重要な税務リスクが開示されていることなどが問題になります。
ただし、表明保証は万能ではありません。次のような点を、あわせて考えておく必要があります。
- 表明保証違反を発見できるか
- 損害額を立証できるか
- 補償請求期間内か
- 売り手に支払能力があるか
- 契約上の上限・免責額・除斥期間に制限されないか
税務DDと契約は、別々の作業ではありません。税務DDは、契約条件を設計するための前提そのものなのです。
買収後対応まで見ないとM&A税務は完結しない
M&A税務は、クロージングで終わるものではありません。
買収後には、対象会社の会計方針、税務処理、月次決算、申告スケジュール、税務調整、関係会社取引、役員給与、出向・転籍、固定資産管理、棚卸、消費税、源泉所得税、国際取引などを、買い手グループの管理体制に合わせて整えていく必要があります。
買収前の税務DDで見つかった論点は、買収後の管理体制にきちんと反映しなければなりません。たとえば、過去に固定資産台帳が整備されていなかった会社であれば、買収後に取得価額、償却方法、除却、修繕費、資本的支出を整理していく必要があります。関係会社間取引が増える場合には、寄附金、移転価格、グループ法人税制、源泉所得税の確認も欠かせません。
中小企業のM&AにおけるPMIについては、M&A成立前のプレPMIや成立後の統合作業も含めて整理した「中小PMIガイドライン」が公表されています。税務・会計管理も、このPMIの一部として、早い段階から検討しておくべき領域といえます。出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン
買収後になって初めて税務処理を整えようとすると、資料が不足している、前任の担当者がすでに退職している、過去の判断根拠が分からない、申告期限が迫っている、税務調査で説明できない、といった問題が次々と生じます。
だからこそ、買収前の段階で、買収後の初回申告、月次決算、税務調査対応、関係会社間取引、役員給与、資金移動、届出書、税額控除、繰越欠損金の利用計画まで、見通しておくことが重要になるのです。
M&A税務で専門家に相談すべきタイミング
M&A税務の相談は、契約の直前では遅い、ということがあります。
特に相談しておきたいのは、次のような段階です。
- M&Aスキームを検討し始めた段階
- 株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併のどれを使うか迷っている段階
- 基本合意書を締結する前
- 税務デューデリジェンスの範囲を決める前
- 買収価格に繰越欠損金、のれん、税務リスクを反映させる前
- 表明保証・補償条項を設計する前
- クロージング前後の税務申告や届出を整理する前
- 買収後の月次決算・税務管理体制を整える前
M&Aは、税務だけで結論が決まるものではありません。法務、会計、労務、許認可、金融機関対応、事業計画、株主構成、経営統合といった視点も、あわせて必要になります。
しかし、法人税務の確認が遅れると、後からスキームを変更できない、買収価格に反映できない、契約でリスクを分担できない、買収後に想定外の税負担が生じる、といった問題が起こりかねません。
M&A税務は、申告のときに処理すればよいものではなく、取引を設計する段階で検討しておくべきものなのです。
M&Aにおける法人税務で事前に整理すべき資料
専門家に相談する前には、可能な範囲で次のような資料を整理しておくと、論点の把握がスムーズになります。
- 対象会社の直近数期分の決算書、法人税申告書、勘定科目内訳明細書
- 別表四、別表五(一)、別表七、税額控除関連別表
- 株主名簿、資本構成、過去の株式異動資料
- 固定資産台帳、棚卸表、貸付金・借入金明細
- 役員給与、役員退職金、役員借入金、オーナー貸付金の資料
- 関係会社間取引、出向契約、業務委託契約、ロイヤリティ契約
- 税務調査履歴、修正申告、更正の請求、未解決の税務論点
- 消費税、源泉所得税、地方税、社会保険に関する資料
- 買収スキーム案、譲渡対象、買収価格、希望するクロージング時期
- 買収後の組織体制、役員構成、関係会社間取引の予定
- 金融機関借入、保証債務、担保、経営者保証の状況
- 許認可、主要契約、取引先との契約承継に関する資料
すべての資料が揃っていなくても、早い段階で相談する意味はあります。大切なのは「結論だけを聞く」ことではなく、前提となる事実、資料、未確認の事項、判断の期限を整理していくことです。
M&A税務は「成立させる税務」ではなく「成立後に守る税務」
M&Aでは、取引を成立させること自体が、大きな目標になります。しかし税務の面では、成立した後になって問題が顕在化する、ということが少なくありません。
たとえば、次のような場面です。
- 過去の税務調査で指摘される
- 買収時に想定した繰越欠損金が使えない
- のれんや資産調整勘定の処理が想定と異なる
- 関係会社間取引が寄附金や移転価格の問題になる
- 役員借入金や債務免除益が整理できていない
- 消費税や源泉所得税の処理誤りが見つかる
- 買収後の初回申告で過去の税務調整を引き継げない
- 表明保証違反があっても補償請求できない
こうした問題は、取引が終わってから考え始めるものではなく、スキーム検討、税務DD、契約、クロージング、PMIという各段階で、少しずつ管理していくべきものです。
M&Aにおける法人税務は、税負担を減らすためだけのものではありません。買収価格を合理的に説明するため。売り手・買い手の税務負担を見通すため。対象会社の過去のリスクを把握するため。契約上の責任分担を明確にするため。買収後の申告・月次決算・税務調査に耐えるため。そして、将来の再編、承継、資金調達、金融機関対応といった選択肢を狭めないため。
こうした観点から見れば、M&A税務は、経営判断そのものに関わる領域だといえます。
M&A税務について相談する際の視点
M&Aを検討している段階で、次のような不安がある場合には、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。
- 株式譲渡と事業譲渡のどちらがよいか判断できない
- 買収対象会社に繰越欠損金があり、買収後に使えるか確認したい
- 債務超過会社・赤字会社の買収を検討している
- 会社分割や合併を組み合わせたスキームを検討している
- 税務DDで何を確認すべきか分からない
- 表明保証や補償条項に税務リスクをどう反映すべきか迷っている
- 買収後の会計・税務管理体制に不安がある
- 顧問税理士だけで対応できる論点かどうかを判断したい
犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&Aにおける法人税務について、単なる税額計算にとどまらず、スキーム選択、税務デューデリジェンス、繰越欠損金、組織再編、表明保証、買収後対応までを含めて、経営判断に必要な論点の整理をご支援しています。
M&Aを進める前に、自社の状況ではどの税務論点を確認すべきか整理しておきたい、という場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 売り手の株式譲渡益、買い手の取得価額、対象会社の過去税務リスク | 対象会社の過去申告・簿外債務・税務調査リスクを引き受ける可能性がある |
| 事業譲渡 | 譲渡資産・負債、譲渡益課税、消費税、契約・許認可承継 | 承継対象を選別しやすいが、契約・許認可・不動産関連コストの確認が必要 |
| 合併・会社分割 | 適格・非適格、簿価移転・時価移転、欠損金、含み損益 | 税制適格要件、欠損金制限、包括否認リスクを事前に確認する |
| 税務DD | 法人税申告書、別表、税務調査履歴、固定資産、役員給与、関係会社取引 | 100%の保証ではなく、重要リスクを価格・契約・PMIへ反映するために行う |
| 繰越欠損金 | 発生年度、控除期限、青色申告、支配関係、欠損等法人該当性 | 節税メリットとして評価する前に、本当に利用できるか検証する |
| 債務超過会社 | 債務免除益、DES、役員借入金、保証債務、簿外債務 | 安く買えることより、承継するリスクと税務上の益金発生を確認する |
| 表明保証・補償 | 未納税金、税務調査、過去申告、簿外債務、資料開示 | 条項を入れるだけでなく、補償請求の実効性まで確認する |
| 買収後対応 | 月次決算、申告体制、関係会社間取引、固定資産、消費税・源泉税 | クロージング後の初回申告・PMIまで見据えて税務管理を整える |