債務超過会社や赤字会社のM&Aは、一見すると「安く買える案件」に映ります。株式価値が低く、場合によっては譲渡価格が1円になることもある。繰越欠損金が残っていれば、買収後の黒字と相殺できそうにも見える。金融機関やオーナーが債務免除に応じれば、財務内容も改善するように見えます。
しかし、法人税務の視点で眺めると、ここには数多くの落とし穴が潜んでいます。
赤字会社に欠損金があることと、その欠損金を買収後に使えることは、同じではありません。債務超過であることと、債務免除を受けても税負担が出ないことも、同じではありません。DESを行えば債務免除益を回避できる、合併すれば欠損金を引き継げる、第二会社方式なら損失を取れる——こうした理解も、前提を誤れば大きな税務リスクへと変わります。
債務超過会社・赤字会社のM&Aでは、買収価格だけでなく、過去申告、欠損金、含み損益、債権債務、金融機関対応、経営者保証、組織再編後の税務、そして税務調査時の説明可能性まで、同時に見ておかなければなりません。
本稿では、債務超過会社・赤字会社を買収・売却・再編する場面で、法人税務上どこを確認すべきか、どの判断を誤ると経営上のリスクになるのかを、順を追って整理していきます。
債務超過会社のM&Aは「安い案件」ではなく「論点が圧縮された案件」である
債務超過会社とは、一般に、負債が資産を上回っている会社を指します。ただし、M&Aで本当に重要なのは、決算書上の債務超過だけではありません。
会計上の貸借対照表では債務超過であっても、土地、保険、事業用資産、知的財産、顧客基盤などに含み益があるケースがあります。逆に、決算書上は債務超過でなくても、回収不能債権、滞留在庫、過大計上された固定資産、未払残業代、退職給付、保証債務、訴訟リスク、税務調査リスクまで考え合わせると、実態としては債務超過に近い会社も少なくありません。
そのため、債務超過会社のM&Aでは、少なくとも次の3つを分けて確認しておく必要があります。
| 区分 | 見るべきもの | M&Aでの意味 |
|---|---|---|
| 会計上の債務超過 | 決算書上の純資産 | 金融機関、株主、買い手への説明の出発点 |
| 時価ベースの債務超過 | 実態貸借対照表、含み損益、偶発債務 | 買収価格、債務免除、清算可能性の判断材料 |
| 税務上の状態 | 繰越欠損金、利益積立金額、資本金等の額、税務調整 | 欠損金利用、債務免除益、合併・清算時の税額に影響 |
なかでも「税務上の状態」は、決算書を眺めるだけでは見えてきません。法人税申告書、別表四、別表五(一)、別表七(一)に加え、過去の税務調整、欠損金の発生年度、青色申告の継続状況まで確認して、はじめて実態がつかめます。
赤字会社と欠損金会社は同じではない
M&Aの検討でよく耳にする誤解が、「赤字会社だから欠損金が使える」というものです。
法人税上の青色欠損金を繰越控除するには、欠損金が生じた事業年度に青色申告書である確定申告書を提出し、その後の各事業年度についても連続して確定申告書を提出していることが前提になります。また、現在の制度では、原則として各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度で生じた欠損金額が繰越控除の対象です。平成30年4月1日前に開始した事業年度で生じた欠損金であれば、繰越期間は9年となります。
出典:国税庁|No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
赤字決算が続いていても、次のような事情があると、買収時に想定した欠損金効果が使えない、あるいは限定されることがあります。
| 状況 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 青色申告でなかった年度がある | その年度の欠損金が繰越控除の対象になるか |
| 確定申告書の提出が連続していない | 欠損金繰越の要件を満たしているか |
| 欠損金の発生年度が古い | 繰越期限が切れていないか |
| 大法人等である | 控除限度額が所得の50%等に制限されないか |
| 買収後に事業内容・役員・従業員が大きく変わる | 欠損等法人の繰越欠損金制限に該当しないか |
| 適格合併を予定している | 欠損金の引継制限・使用制限に該当しないか |
| 税務調査で過去申告が修正される可能性がある | 欠損金額自体が減少しないか |
赤字会社のM&Aでは、欠損金を「資産」のように評価したくなるものです。しかし、欠損金は現金ではありません。将来の課税所得、制度上の制限、申告要件、組織再編の有無がそろって、はじめて税負担を軽減する効果を持ちます。
株式譲渡では、過去リスクと欠損金制限をそのまま引き受ける
株式譲渡によるM&Aでは、対象会社そのものが存続します。買い手は対象会社の株式を取得するだけであり、対象会社の法人格、過去申告、契約、債権債務、税務リスクは、原則としてそのまま残ります。
この点が、事業譲渡とは大きく異なるところです。
株式譲渡では、対象会社の青色欠損金も原則として対象会社に残ります。ただし、買収によって他の者による50%超の特定支配関係が生じた欠損等法人については、特定支配日から5年以内に一定の事由に該当すると、買収前に生じた欠損金の繰越控除が制限されます。国税庁のタックスアンサーでも、特定支配関係を有することとなった欠損等法人が、特定支配日から5年以内に旧事業の全部を廃止し、旧事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れ等を行うなど、一定の事由に該当した場合には、適用事業年度前の欠損金について繰越控除が適用されないことが示されています。
出典:国税庁|No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
債務超過・低株価企業のM&Aでは、買い手が対象会社の青色欠損金の活用を期待する場面が少なくありません。しかし、買収後5年以内に、休眠化、旧事業の廃止と大規模な資金投入、役員全員の退任と従業員の大幅な退職といった一定の事由が生じると、欠損金の利用が制限されます。この点には十分な注意が必要です。
これは実務上、非常に重みのある論点です。
買収後に旧経営陣を全員退任させ、事業内容を大きく入れ替え、別事業を注入する——こうしたスキームでは、欠損金を使うために会社を買ったはずが、制度上その欠損金を使えない、という事態も起こり得ます。買収価格に欠損金価値を織り込むのであれば、買収後の事業計画、人員計画、役員体制、資金投入計画とセットで検証しておかなければなりません。
欠損金は買収価格にそのまま織り込んではいけない
債務超過会社の株式譲渡では、株式価値がゼロまたは低額になる一方で、繰越欠損金が多額に残っているケースがあります。このとき買い手は、「将来の税金が減るのだから、欠損金には価値がある」と考えがちです。
この発想自体は、間違いではありません。ただし、欠損金価値を買収価格に反映させるのであれば、少なくとも次の順番で検討すべきです。
1つ目は、欠損金額が正しいかどうかです。別表七(一)の残高だけでなく、過去の申告誤り、税務調査履歴、修正申告・更正の有無まで確認します。
2つ目は、期限内に使えるかどうかです。将来課税所得が出なければ、欠損金は税負担軽減効果を持ちません。
3つ目は、控除限度があるかどうかです。中小法人等であれば控除範囲が広い場合もありますが、大法人等では控除限度が問題になります。
4つ目は、買収後の制限に該当しないかどうかです。法人税法57条の2の欠損等法人の制限、組織再編時の欠損金制限、グループ通算制度の加入・離脱時の取扱いを確認します。
5つ目は、税務調査で説明できるかどうかです。欠損金利用だけを主目的にしたように見える取引では、事業目的、買収後の経営実態、シナジー、価格根拠の説明が重要になります。
欠損金の価値は、「欠損金残高×実効税率」で単純に決まるものではありません。使える年度、使える所得、使える制度、使える理由がそろって、はじめて価値になるのです。
債務免除は、対象会社に益金を発生させる
債務超過会社のM&Aでは、売却前または買収後に、金融機関、親会社、オーナー、関係会社が債権放棄を行うことがあります。債務を減らせば、貸借対照表は改善します。金融機関対応や買収条件の調整という観点からも、債務免除は重要な手段です。
しかし、債務免除を受けた会社では、原則としてその債務免除益が益金になります。
たとえば、会社が金融機関借入金5,000万円の免除を受けたとしましょう。会社側では、5,000万円の債務免除益が生じることがあります。その会社に青色欠損金が十分にあれば相殺できる場合もありますが、欠損金が不足すれば、債務免除によって法人税等が発生する可能性があるのです。
ここでよく見られる誤りが、「債務超過なのだから税金は出ないだろう」という思い込みです。税務上は、債務超過かどうかだけでなく、その事業年度の益金・損金、繰越欠損金、期限切れ欠損金の適用可否、清算中かどうかまで見ていきます。
債務免除益が出る場合は、次の順番で確認していきます。
| 確認順序 | 確認する内容 |
|---|---|
| 1 | 債務免除益の金額はいくらか |
| 2 | 当期損失・当期所得と相殺できるか |
| 3 | 青色欠損金の残高・期限・控除限度はどうか |
| 4 | 買収後制限・組織再編制限により欠損金が使えなくならないか |
| 5 | 清算局面なら期限切れ欠損金の損金算入制度を使えるか |
| 6 | 債権放棄側で損金算入できるか、寄附金にならないか |
| 7 | 債務免除後の株価上昇や株主間の利益移転がないか |
債権放棄は、会社の再生に欠かせない場合があります。しかし税務上は、「借金が消えた」だけで終わりません。会社側の益金、債権者側の損金、株主側の価値移転を、同時に見ておく必要があります。
債権放棄側では、損金になるか、寄附金になるかが問題になる
債務超過会社に対して、親会社や主要株主が債権放棄をする場合、債権者側では、その損失を損金にできるかどうかが問題になります。
法人税基本通達9-4-1では、法人が子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴って、債務引受け、損失負担、債権放棄等をした場合に、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を被ることが社会通念上明らかで、やむを得ず行った等の相当な理由があると認められるときは、その経済的利益の額は寄附金に該当しないものとされています。また、法人税基本通達9-4-2では、業績不振の子会社等の倒産防止のためにやむを得ず行われ、合理的な再建計画に基づく等、相当な理由がある無利息貸付けや債権放棄等について、寄附金に該当しない取扱いが示されています。
出典:国税庁|第1款 寄附金の範囲等
国税庁の質疑応答事例でも、子会社等を整理・再建する場合の損失負担等について、経済合理性の判断要素として、子会社等該当性、経営危機の有無、支援の相当性、支援額の合理性、整理・再建管理、支援者の範囲、支援割合の合理性などを総合的に検討することが示されています。
出典:国税庁|合理的な整理計画又は再建計画とは
つまり、「子会社を助けるためなのだから損金でよい」とは言い切れないということです。
損金算入を主張するのであれば、少なくとも次の資料が必要になります。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 支援先の実態貸借対照表 | 経営危機・債務超過の事実を示す |
| 資金繰り表 | 支援しなければ倒産・事業停止に至ることを示す |
| 再建計画・整理計画 | 支援の目的、期間、効果を説明する |
| 債権者間の合意資料 | 特定者だけが不自然に負担していないことを示す |
| 支援額の算定根拠 | 過剰支援でないことを示す |
| 取締役会議事録・稟議書 | 意思決定過程を残す |
| M&A契約書・基本合意書 | 経営権譲渡や再建スキームとの関係を示す |
債務超過会社のM&Aでは、買い手だけでなく、売り手、親会社、オーナー、金融機関の税務も同時に動きます。債権放棄を、どのタイミングで、誰が、いくら行うかによって、税負担の発生主体そのものが変わってくるのです。
DESは「債務免除益を消す万能手段」ではない
DESとは、デット・エクイティ・スワップの略で、債務を株式に振り替える手法です。債権者が会社に対する金銭債権を現物出資し、その結果、債務が資本に置き換わる、というイメージになります。
債務超過会社のM&Aでは、DESによって債務を資本化すれば、債務免除益を避けられるように見えることがあります。しかし、税務上は慎重な検討が欠かせません。
DESは、法人税法上、金銭債権を現物出資対象資産とする現物出資として扱われ、適格現物出資に該当するかどうかを判定します。金銭債権のみが現物出資により移転するDESでは、完全支配関係内の現物出資を除き、非適格現物出資として扱われることが多いと整理されています。
完全支配関係がないケースのDESでは、非適格現物出資に該当し、現物出資法人側で現物出資損が発生し、被現物出資法人側で債務消滅益が発生する場合があります。
たとえば、帳簿上の借入金が3億円ある会社について、その債権の時価が1億円しかないとしましょう。この状態でDESを行うと、会社側では、受け入れた債権の時価と消滅する債務の帳簿価額との差額について、債務消滅益が問題になります。
したがって、DESを検討する場合には、次の確認が不可欠です。
| 確認項目 | 誤ると何が起きるか |
|---|---|
| 債権者が法人か個人か | 適格現物出資の判定に影響する |
| 完全支配関係があるか | 適格・非適格の判定に影響する |
| 債権の時価はいくらか | 債務消滅益・現物出資損の金額に影響する |
| 債務の帳簿価額と債権の帳簿価額が一致するか | 債務消滅損益が生じる可能性がある |
| 債権者側の損失が損金になるか | 寄附金・有価証券評価損の問題になる |
| 増資後の資本金等の額 | 均等割、外形標準課税、税制適用区分に影響する |
| 株主間の価値移転 | 既存株主への利益供与・みなし贈与が問題になる |
DESは、金融機関対応や再生計画のうえでは有効な選択肢になり得ます。しかし税務上は、債務消滅益、現物出資損、寄附金、株価、資本金等の額が絡み合う複合論点です。M&Aのクロージング直前に「債務を資本に変えればよい」と即断するのは、危険な判断だと言わざるを得ません。
疑似DESも、資金の流れと回収益を確認する
疑似DESとは、債権者が会社に金銭出資を行い、会社がその払込金で債務を返済する手法です。法形式としては、金銭出資と債務弁済が行われます。
DESと異なり、金銭債権を現物出資するわけではないため、会社側で直ちに債務免除益が出ないように見えることがあります。しかし、次のような論点があります。
まず、実際に資金を払い込む必要があります。資金調達が求められることになり、金融機関からすれば、払い込まれた資金が本当に債務弁済に充てられるのかが問題になります。
次に、債権者がその債権を外部から低額で取得している場合、会社から額面で返済を受けると、債権者側で回収益が発生する可能性があります。
さらに、疑似DES後に資本金等の額が増加することで、法人住民税均等割、外形標準課税、中小法人判定、税額控除制度の適用区分などに影響することがあります。
疑似DESは、形式のうえでは分かりやすく見えます。それでも、資金の出入り、債権の取得価額、株主構成、資本金等の額まで確認しておかなければなりません。
合併によるM&Aでは、欠損金を引き継げるかが中心論点になる
債務超過会社・赤字会社を買収した後、対象会社を親会社やグループ会社に吸収合併することがあります。合併には、管理コストの削減、契約・許認可の包括承継、事業統合、損益通算といったメリットがあります。
ただし税務上は、合併すれば必ず欠損金を引き継げる、というわけではありません。
組織再編税制では、適格組織再編成に該当する場合には資産・負債を簿価で移転し、非適格組織再編成に該当する場合には資産・負債を時価で移転するのが基本です。また、適格合併で一定の要件を満たす場合には、被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引き継ぐことができます。ただし、欠損金の引継制限・使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入には注意が必要です。
特に、買収後5年以内に適格合併を行う場合には、支配関係の発生時期、みなし共同事業要件、時価純資産、特定資産の含み損益を確認しておく必要があります。買収した100%子会社を吸収合併する場合でも、法人税法上の適格要件を満たすことと、欠損金を自由に使えることは、同じではありません。買収した100%子会社の吸収合併では、会計上の抱合せ株式処理と、法人税法上の欠損金利用制限とが大きく異なる点にも注意が必要です。
合併による統合を予定しているのであれば、買収前に次の確認を行っておくべきです。
| 確認項目 | 確認理由 |
|---|---|
| 合併は適格か非適格か | 資産負債の簿価・時価移転、譲渡損益に影響 |
| 支配関係発生日 | 欠損金制限・特定資産譲渡等損失制限の起点 |
| みなし共同事業要件 | 欠損金引継制限の回避可否に影響 |
| 被合併法人の欠損金残高 | 引継可能額・使用可能額の基礎 |
| 含み損資産の有無 | 特定資産譲渡等損失の損金不算入に影響 |
| 債権債務の対応 | 混同による債務消滅損益が発生する可能性 |
| 地方税・登録免許税・不動産取得税 | スキーム別の総コストに影響 |
| 金融機関契約・保証 | 合併で期限の利益喪失や同意条項に抵触しないか |
合併は、事業統合の手段として有効です。しかし、欠損金目的だけで選んでしまうと、想定した税効果が得られないこともあります。
債務超過会社を被合併法人とする場合、会社法・金融機関対応も重い
債務超過会社を被合併法人とする吸収合併は、法人税だけで判断できるものではありません。
会社法上、債務超過会社を被合併法人とする吸収合併は可能と整理されています。ただし、合併法人側では原則として簡易合併を選択できないなど、通常の合併とは異なる手続上の注意点があります。債務超過会社を被合併法人とする合併では、合併法人の債権者の利益を害する可能性があるため、債権者異議や担保提供・弁済対応が問題になることもあります。
会社合併の実務でも、承継債務額が承継資産額を超える場合には、簡易合併手続が認められないと整理されています。これは、存続会社にとって、他社が過去に計上した損失を引き受ける要素があるためです。
この論点は、金融機関対応と密接に関係します。債務超過会社を合併すると、買い手側の財務指標が悪化する場合があります。金融機関の財務制限条項、借入契約上の承諾条項、担保・保証、経営者保証の解除・引継ぎについて、税務と同時に確認しておく必要があります。
中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)でも、最終契約に定めた事項の不履行等のトラブル、とりわけ譲り渡し側の経営者保証の扱いについて、譲り受け側に移行させる想定であったにもかかわらず移行しない、といった問題が指摘されています。
出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン
債務超過会社のM&Aでは、税額だけでなく、保証解除、金融機関同意、返済条件変更、担保解除、クロージング条件を、契約書で明確にしておくことが重要です。
第二会社方式は、事業を残すための手法だが、税務上の万能策ではない
債務超過会社のM&Aや再生局面では、第二会社方式が検討されることがあります。典型的には、事業譲渡や会社分割によって、事業に必要な資産・契約・人員を受皿会社に移し、残った会社で債務整理・清算を進めていく方法です。
第二会社方式は、過大債務を抱えた会社から収益事業を切り出し、事業継続を図る点で有効な場合があります。実務のうえでも、債権放棄、金銭出資、DES、疑似DESと比較して、第二会社方式が現実的な選択肢になる場面があります。
ただし、第二会社方式では、次の税務論点が生じます。
| 論点 | 確認内容 |
|---|---|
| 事業譲渡対価 | 資産・負債・営業権の時価配分 |
| 譲渡損益 | 譲渡会社側で譲渡益・譲渡損が発生するか |
| 消費税 | 課税資産、非課税資産、不課税取引の区分 |
| 貸倒損失・子会社整理損 | 親会社・債権者側で損金算入できるか |
| 債権放棄 | 債務免除益・寄附金の問題 |
| 清算 | 期限切れ欠損金の損金算入制度を使えるか |
| 従業員移転 | 転籍、退職金、未払賞与、社会保険、源泉税 |
| 契約承継 | 取引先同意、許認可、リース、保証、担保 |
| 租税回避リスク | 実質的に欠損金・損失だけを利用していないか |
第二会社方式と吸収合併の有利不利は、単純には決まりません。たとえば、債務超過子会社を特別清算する場合には、親会社で子会社株式消却損や子会社整理損失が問題になります。一方、吸収合併では、子会社の繰越欠損金を引き継ぐかどうかが問題になります。どちらが有利かは、子会社の繰越欠損金、親会社側の損失額、他税目、含み損益、将来所得によって変わってきます。
「第二会社方式なら安全」「合併なら欠損金が使える」といった単純な割り切りではなく、税額、金融機関対応、契約承継、従業員、許認可、将来の管理コストを総合したうえで選択する必要があります。
清算局面では、期限切れ欠損金を検討する
債務超過会社を清算する場合、債務免除益が発生しても、通常の青色欠損金だけでは相殺しきれないことがあります。このとき、残余財産がないと見込まれる場合には、期限切れ欠損金額を基礎として計算した金額を損金算入できる制度が問題になります。
国税庁の質疑応答事例では、法人が解散した場合において残余財産がないと見込まれるときは、青色欠損金等控除後の所得金額を限度として、期限切れ欠損金額を基礎として計算した金額を損金算入できることが示されています。また、「残余財産がないと見込まれるとき」とは、解散した法人がその事業年度終了時に債務超過の状態にあるときに該当し、その状態は一般に、時価ベースで作成された実態貸借対照表によって確認されるとされています。
出典:国税庁|解散法人の残余財産がないと見込まれる場合の損金算入制度(法法59 4)における「残余財産がないと見込まれるとき」の判定について
実務のうえでは、別表五(一)の利益積立金額を基礎に期限切れ欠損金を把握し、青色欠損金との関係を整理していきます。
ただし、この制度はあくまで清算局面の制度です。非適格合併により解散する場合には、清算中に終了する事業年度ではないため、期限切れ欠損金の損金算入制度は適用されないと整理されています。
したがって、債務超過会社を「合併で消す」のか、「清算する」のか、あるいは「事業を切り出して残会社を清算する」のか——この選択によって、債務免除益への対応も変わってきます。
税務デューデリジェンスで確認すべき項目
債務超過会社・赤字会社のM&Aでは、通常の税務DDよりも、確認すべき範囲が広くなります。過去申告の正確性だけでなく、将来の再編・債務整理・欠損金利用まで見据えておく必要があります。
| 分野 | 確認すべき資料・論点 |
|---|---|
| 法人税申告 | 過去10年分程度の申告書、別表四、五(一)、七(一)、修正申告、更正履歴 |
| 欠損金 | 発生年度、期限、青色申告、連続申告、控除済額、買収後制限 |
| 債務 | 金融機関借入、役員借入、関係会社借入、保証、担保、期限の利益 |
| 債権 | 回収不能債権、貸倒処理、関係会社債権、債権放棄予定 |
| 資産 | 含み損益、不動産評価、棚卸資産、固定資産台帳、減損、除却漏れ |
| 税務調査 | 過去の指摘、進行中調査、未処理論点、重加算税リスク |
| 消費税 | 課税売上割合、簡易課税、インボイス、未納・還付リスク |
| 源泉税 | 役員報酬、外注費、退職金、非居住者支払 |
| 人件費 | 未払給与、未払賞与、退職給付、出向・転籍、社会保険 |
| グループ取引 | 寄附金、受贈益、貸付金利息、役務提供、移転価格 |
| 買収後再編 | 合併、会社分割、事業譲渡、清算、グループ通算加入・離脱 |
| 契約 | 表明保証、補償、価格調整、クロージング条件、債務免除条件 |
債務超過会社の税務DDでは、「過去に問題があるか」だけでなく、「買収後に何をすると問題が顕在化するか」まで確認しておくことが重要です。
M&A契約で整理すべき税務条項
債務超過会社・赤字会社のM&Aでは、契約書で税務リスクをどのように配分するかが重要になります。税務DDでリスクが見つかっても、契約に反映されなければ、買収後にそのリスクを買い手が負担することになるからです。
とりわけ整理しておくべき条項は、次のとおりです。
| 条項 | 実務上の確認 |
|---|---|
| 表明保証 | 過去申告、未払税金、税務調査、欠損金、債務、簿外債務 |
| 補償条項 | 過去税務リスクが顕在化した場合の負担者 |
| 価格調整 | 債務免除、運転資本、未払税金、実態純資産の変動 |
| 前提条件 | 金融機関同意、債務免除実行、保証解除、税務資料提出 |
| 誓約事項 | クロージング前の債権放棄、資産処分、役員退職金支給の制限 |
| 税務申告協力 | クロージングをまたぐ事業年度の申告資料提供 |
| 欠損金 | 欠損金残高を価格に反映する場合の前提・補償範囲 |
| 経営者保証 | 解除・移行・残存時の対応 |
| 紛争対応 | 税務調査時の通知、協議、修正申告判断 |
中小M&Aガイドライン第3版でも、手数料や支援内容の説明に加えて、最終契約に定めた事項の不履行等のトラブル、経営者保証の扱いについて注意が促されています。債務超過会社のM&Aでは、保証・債務・税務リスクの扱いを、契約前に明確化しておくことが不可欠です。
出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン
買収後にやってはいけない典型的な判断
債務超過会社・赤字会社のM&Aでは、買収後の初動で税務リスクが顕在化することがあります。とりわけ避けたいのは、次のような判断です。
まず、欠損金があることだけを理由に、急いで黒字事業を入れることです。旧事業の廃止、大規模な資金投入、役員・従業員の入替えが重なると、欠損等法人の制限に該当する可能性があります。
次に、債務免除を決算直前に実行し、税額試算を後回しにすることです。債務免除益が青色欠損金を超えれば、資金のない会社に法人税等の負担が発生することがあります。
また、DESや疑似DESを「債務免除益を出さない方法」として短絡的に使うことも危険です。債権の時価、帳簿価額、適格性、資本金等の額、株主間の価値移転まで確認しておく必要があります。
さらに、買収後すぐに合併すれば欠損金を使える、と考えることも危険です。適格合併であっても欠損金の引継制限・使用制限があり、債権債務の帳簿価額が一致しない場合には債務消滅損益が生じる可能性もあります。
買収後の処理は、クロージング後に考えるのでは遅い場合があります。買収前の段階から、買収後12か月、3年、5年の再編・資金計画を見通しておくべきです。
債務超過会社・赤字会社のM&Aで専門家に相談すべきタイミング
次のいずれかに該当する場合には、買収契約の前に、税務・会計・法務・金融機関対応を横断して整理しておく必要があります。
- 株式価値がゼロまたは1円に近い
- 対象会社に多額の青色欠損金がある
- 買収価格に欠損金の税効果を織り込んでいる
- 買収後に黒字事業を入れる予定がある
- 買収後5年以内に合併・分割・事業譲渡を予定している
- 金融機関やオーナーによる債権放棄を予定している
- DESまたは疑似DESを検討している
- 役員借入金・親会社貸付金が多額にある
- 経営者保証の解除・移行が交渉事項になっている
- 対象会社に未払税金、税務調査履歴、過去申告の不安がある
- 第二会社方式や特別清算を検討している
- 買収後の初回申告を誰が管理するか決まっていない
債務超過会社・赤字会社のM&Aでは、税務判断が、買収価格、契約条件、資金繰り、金融機関説明、PMIに直結します。税務は、クロージング後の申告作業ではなく、買収前の意思決定そのものなのです。
債務超過会社・赤字会社のM&Aについて相談する際の視点
債務超過会社や赤字会社のM&Aでは、「安く買えるか」よりも先に、「何を引き受けるのか」「どの欠損金を使えるのか」「誰が債務免除益を負担するのか」「買収後にどの再編を行うのか」を整理しておく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、債務超過会社・赤字会社のM&Aについて、株式譲渡、事業譲渡、合併、第二会社方式、債権放棄、DES、繰越欠損金制限、期限切れ欠損金、税務DD、表明保証、買収後の初回申告までを、一体で整理いたします。
買収前に欠損金の利用可能性を確認したい場合、債務免除やDESの税務影響を試算したい場合、あるいは買収後の合併・清算・第二会社方式の選択に迷っている場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 実務上のポイント | 判断を誤った場合のリスク |
|---|---|---|
| 債務超過 | 会計上・時価ベース・税務上の状態を分けて確認 | 買収価格、債務免除、清算判断を誤る |
| 赤字会社 | 赤字決算と青色欠損金は別物 | 使えない欠損金を価格に織り込む |
| 青色欠損金 | 申告要件、繰越期限、控除限度を確認 | 欠損金が想定より少ない、使えない |
| 欠損等法人制限 | 買収後5年以内の事業廃止・大規模資金投入等を確認 | 買収前欠損金の利用が制限される |
| 債務免除 | 会社側に債務免除益が発生する | 資金がない会社に法人税等が発生 |
| 債権放棄側 | 損金か寄附金かを整理計画・再建計画で判断 | 債権放棄損が損金にならない |
| DES | 適格・非適格、債権時価、債務消滅益を確認 | 債務消滅益や現物出資損の処理を誤る |
| 疑似DES | 金銭出資と債務弁済の資金流れを確認 | 回収益、資本金等、金融機関対応で問題化 |
| 合併 | 適格性、欠損金引継制限、特定資産譲渡等損失を確認 | 欠損金を引き継げない、使えない |
| 債務超過合併 | 簡易合併、債権者異議、金融機関同意を確認 | 手続遅延、保証・借入契約違反 |
| 第二会社方式 | 事業譲渡、清算、子会社整理損、消費税を確認 | 税額・契約承継・債権者対応を誤る |
| 期限切れ欠損金 | 清算中で残余財産がないと見込まれるか確認 | 債務免除益を相殺できる制度を見落とす |
| 税務DD | 過去申告、別表、税務調査、欠損金、債務を確認 | 買収後に未払税金・欠損金減額が発覚 |
| 契約条項 | 表明保証、補償、価格調整、保証解除を明確化 | 税務リスクの負担者が曖昧になる |
| 買収後対応 | 初回申告、再編計画、金融機関説明を整える | PMI段階で税負担・資金繰りが悪化する |