M&A契約・表明保証と税務リスク|税務DDで見つけたリスクを契約にどう反映するか

M&Aで税務デューデリジェンスを進めていくと、実にさまざまな論点が浮かび上がってきます。過去の申告内容、未払税金、消費税、源泉所得税、役員給与、退職金、関係会社取引、繰越欠損金、固定資産、在庫、そして税務調査の履歴。挙げていけばきりがありません。

しかし、税務DDでリスクを「発見した」というだけでは、会社を守ることはできません。大切なのは、その先です。

発見したリスクを、買収価格に反映するのか。クロージング前に是正してもらうのか。表明保証違反として補償の対象にするのか。特別補償条項として個別に切り出すのか。売り手に支払能力がない場合に、エスクローや分割支払を検討するのか。そして、税務調査が入ったとき、誰が対応し、誰が追加税額を負担するのか。

ここまで設計して初めて、税務DDはM&A契約と経営判断に結びついていきます。

この点は、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも触れられています。最終契約におけるリスク事項や、表明保証、補償、経営者保証の扱いがトラブルの火種になり得ること。DDの結果を踏まえ、当事者間でリスク認識をきちんと擦り合わせておくこと。そして、定型的に無期限・無制限の表明保証条項を設定することには慎重であるべきこと。こうした点が示されています。
出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン(第3版)

本稿では、M&A契約において税務リスクをどう扱うべきかを、税務DD、表明保証、補償条項、税務調査対応、未払税金、偶発債務、資料開示を中心に整理していきます。

目次

税務リスクは「契約で消す」のではなく「誰が負担するか」を決める

M&A契約に表明保証条項や補償条項を入れると、税務リスクがきれいに消えたような感覚になることがあります。しかし、契約条項はリスクそのものを消すものではありません。リスクが顕在化したときに、誰が、どの範囲で、どの手続によって負担するのかを、あらかじめ決めておくものです。

たとえば、対象会社の過年度の消費税申告に誤りがあり、買収後の税務調査で追加納税が発生したとします。税務上の納税義務を負うのは、あくまで対象会社です。株式譲渡であれば、買収後の対象会社は買い手グループに属していますから、結局は会社から資金が流出することになります。

そのうえで、株式譲渡契約において、売り手がその追加税額、延滞税、加算税、専門家費用を補償するのか。補償上限に引っかからないか。表明保証の存続期間の内側にあるか。買い手は税務調査への対応を売り手へ通知していたか。修正申告を出す前に、売り手と協議していたか。こうした契約上の条件によって、最終的に誰が負担するのかが変わってきます。

つまり税務リスクは、「税法だけ」でも「契約だけ」でも判断できないのです。

領域役割
税務DDリスクを発見し、金額影響と発生可能性を見積もる
価格交渉発見済みリスクを譲渡対価に反映する
表明保証売り手が一定の事実の存在・不存在を表明する
開示資料表明保証から除外される既知事項を明確にする
補償条項表明保証違反や特定リスクが顕在化した場合の負担を定める
クロージング条件実行前に解消すべき税務・金融・法務事項を条件化する
買収後対応税務調査、申告、資料保存、PMI管理を行う

税務DDで見つけたリスクは、契約書のどこかへ機械的に流し込めばよいというものではありません。リスクの性質ごとに、価格、前提条件、誓約事項、表明保証、補償、開示資料、PMI対応へと振り分けて処理していく必要があります。

表明保証とは何か

表明保証とは、M&A契約の当事者が、一定の事実が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証する条項です。

税務に関しては、たとえば次のような事項が対象になります。

税務表明保証の対象典型的な確認内容
申告書の提出必要な税務申告書を期限内に提出しているか
税金の納付法人税、消費税、源泉所得税等を適正に納付しているか
未払税金決算書に未払法人税等が適切に計上されているか
税務調査進行中または通知済みの税務調査があるか
税務争訟不服申立て、訴訟、当局との協議があるか
税務上の届出青色申告、消費税、税額控除、グループ通算等の届出・承認に問題がないか
源泉徴収役員報酬、給与、退職金、外注費、非居住者支払等の源泉処理が適切か
消費税課税区分、インボイス、簡易課税、課税売上割合、還付申告に問題がないか
関係会社取引寄附金、受贈益、移転価格、グループ法人税制のリスクがないか
繰越欠損金・税額控除残高、要件、使用制限に重要な誤りがないか

表明保証は、売り手が「税務リスクはありません」と抽象的に約束する条項ではありません。どの税目について、どの期間について、どの資料に基づき、どこまでの範囲で真実性を引き受けるのか。それを具体的に定めるものです。

ですから、表明保証はDDの結果と対応していなければなりません。DDで問題が見つかった事項を、何もなかったかのように一般的な表明保証へ含めてしまうと、売り手は引き受けようのないリスクを背負い、買い手は実効性の乏しい条項に頼ることになってしまいます。

表明保証・補償・特別補償の違い

M&A契約では、「表明保証」と「補償条項」がセットで使われることが少なくありません。ただし、両者の役割は異なります。

表明保証は、一定の事実が正しいことを確認する条項です。これに対して補償条項は、その事実が誤っていた場合や、特定のリスクが顕在化した場合に、損害を誰が負担するのかを定める条項です。

さらに、税務DDで具体的なリスクが把握できている場合には、一般的な補償条項とは別に「特別補償」として切り出すことがあります。

条項役割税務リスクでの使い方
表明保証一定の事実が真実であることを表明する申告、納税、税務調査、未払税金等について表明する
一般補償表明保証違反などによる損害を補償する税務表明保証違反により追加税額が発生した場合に対応する
特別補償特定の既知リスクについて個別に補償するDDで発見済みの消費税誤り、源泉漏れ、税務調査見込額などを対象にする
価格調整リスクを譲渡対価に反映する未払税金、過大資産、過少負債を価格で調整する
クロージング条件実行前に満たすべき条件を定める修正申告、納税、届出、金融機関同意、保証解除等を条件にする

実務で押さえておきたいのは、すでに見えている税務リスクを、一般的な表明保証へ押し込めないことです。DDで発見されたリスクは、いわば「既知のリスク」です。既知のリスクであれば、金額を見積もって価格に織り込むのか、特別補償にするのか、クロージング前に是正してもらうのか。この三択を具体的に検討していくべきです。

税務DDで見つかったリスクを契約に反映する流れ

税務リスクを契約へ落とし込むときは、次の順番で整理していくと判断がしやすくなります。

検討順序実務上の問い
1. 事実確認何が起きているのか。税目、年度、金額、資料は何か
2. 税務判断誤りなのか、見解差なのか、将来リスクなのか
3. 金額影響本税、延滞税、加算税、地方税、専門家費用はいくらか
4. 発生可能性顕在化しているか、調査で指摘される可能性があるか
5. 価格反映譲渡対価を減額するか、運転資本・純有利子負債調整に入れるか
6. 是正方法クロージング前に修正申告・納付・契約整備を行うか
7. 契約条項表明保証、特別補償、誓約、前提条件、開示資料のどれで扱うか
8. 買収後対応誰が申告・調査・資料保存・当局対応を行うか

この流れを飛ばして、「税務リスクは表明保証でカバーするから大丈夫」と処理してしまうと、後になって問題が表面化します。表明保証は万能ではありません。リスクの中身を見ないまま条項だけを入れても、金額、期間、証拠、通知手続、そして売り手の支払能力が不十分であれば、実際の回収は難しくなってしまうのです。

実務の現場でも、株式譲渡方式を選び、契約書に表明保証条項や損害賠償条項を盛り込むという選択肢はあります。ただ、売り手が受け取った譲渡代金を借入返済や生活費に充ててしまうような小規模案件では、こうした条項が実効性を持ちにくく、事業譲渡方式や会社分割方式を検討せざるを得ない場面も出てきます。

税務表明保証で確認すべき主要項目

税務表明保証は、対象会社の税務状態を網羅的に確認するための条項です。ただし、網羅性ばかりを追い求めると、売り手が引き受けられないほど広い条項になり、交渉が硬直してしまいます。実務では、税務DDの深度、取引規模、対象会社の管理体制、そしてリスクの大きさに応じて、どこに重点を置くかを見極める必要があります。

1. 申告書の提出と納税

まず確認すべきは、必要な申告書がきちんと提出され、税金が納付されているかどうかです。

法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税、消費税、源泉所得税、固定資産税、償却資産税、印紙税など、対象会社の事業によって関わる税目は変わってきます。

ここで大切なのは、「申告書を出しているか」だけではありません。申告内容が重要な点において適正か、未払税金が決算書へ適切に反映されているか、納税猶予や分納があるか、滞納・延滞・差押えのリスクがないか。こうした点まで踏み込んで確認していきます。

2. 税務調査・税務争訟

税務調査については、次のような事項を表明保証または開示資料で明確にしておきます。

確認事項実務上の意味
現在進行中の税務調査があるか買収直後に追加納税が発生する可能性
事前通知を受けているか契約締結時点で既に顕在化したリスク
過去の税務調査で指摘を受けたか同様の処理が継続していないか確認
修正申告・更正・不服申立てがあるか未確定の税務負担がないか
重加算税の指摘履歴があるか内部管理・不正リスクの評価に影響

税務調査に関して、国税庁は、調査に先立って原則として事前通知を行うこと、調査終了時の手続が整備されていること、帳簿書類その他の物件の提示・提出を求めることが法令上明確化されたことを示しています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

また、国税庁の事務運営指針では、実地調査を行う場合、原則として納税義務者および税務代理人に対し、調査開始日前までに相当の時間的余裕をおいて事前通知することとされています。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について

買収契約の上では、税務調査の通知を受けた時点で売り手へ通知する義務、売り手が意見を述べる権利、そして修正申告や和解的な対応を行う前の協議義務を定めておくことが重要です。税務調査の後になって「買い手が勝手に修正申告した」「売り手に防御の機会がなかった」といった争いが生じるのを防ぐためです。

3. 未払税金と偶発債務

未払税金は、決算書に計上されているものだけではありません。申告期限が到来していない税金、税務調査で指摘され得る税額、源泉漏れ、消費税区分の誤り、固定資産税の過年度修正、印紙税の貼付漏れなど、決算書には現れていない税務債務が潜んでいることがあります。

なかでも、次の項目はM&A契約で見落とされやすい論点です。

税務偶発債務典型例
消費税課税・非課税・不課税の区分誤り、インボイス対応漏れ、簡易課税選択の誤認
源泉所得税外注費と給与の区分、役員退職金、非居住者支払、報酬料金
役員給与定期同額給与、事前確定届出給与、過大役員給与
役員退職金退職事実、功績倍率、分掌変更後の実態
関係会社取引寄附金、受贈益、貸付金利息、債権放棄
固定資産修繕費と資本的支出、償却資産申告漏れ
棚卸資産架空在庫、評価損、廃棄証憑不足
印紙税契約書、注文請書、領収書等の貼付漏れ
国際取引源泉税、PE、移転価格、外国税額控除

これらは、「未払税金はありません」という一般的な表明保証だけでは十分にカバーできません。税務DDで具体的な論点が見つかっている場合には、金額を見積もったうえで、価格調整または特別補償として扱うべきです。

4. 繰越欠損金・税額控除・届出関係

赤字会社や債務超過会社のM&Aでは、繰越欠損金が買収価格に影響することがあります。しかし、欠損金は残高があるだけで価値になるわけではありません。発生年度、青色申告の継続、繰越期限、控除限度、買収後の事業変更、組織再編制限、グループ通算への加入・離脱の影響。こうした点を確認しておく必要があります。

また、賃上げ促進税制、研究開発税制、設備投資税制といった税額控除を過去に適用している会社では、要件を満たしているか、別表への記載、明細の保存、届出・認定の有無を確認します。優遇税制の適用に誤りがあると、買収後の税務調査で追加税額が発生する可能性があるためです。

契約の上では、欠損金残高や税額控除の利用可能性を売り手が保証するのか、それとも資料開示にとどめるのかを明確にしておくべきです。欠損金の将来利用は、買い手の買収後の運営にも左右されます。そのため、売り手へ過度な保証を求めると、実務上は交渉が難しくなります。

補償条項では「何を損害に含めるか」を定める

税務補償でもっとも重要なのは、補償対象となる損害の範囲です。

追加で発生した本税だけを補償するのか。それとも、延滞税、過少申告加算税、不納付加算税、重加算税、地方税、専門家費用、税務調査対応費用、訴訟費用までを含めるのか。ここを曖昧にしたままにしておくと、実際に税務調査が入ったときに紛争の種になります。

項目補償対象に含めるか検討すべき理由
本税税務リスクの中心
延滞税過年度税額が発生すると付随する可能性
加算税過少申告、無申告、不納付、重加算税の負担が問題になる
地方税法人税修正に連動する場合がある
専門家費用税理士、弁護士、不服対応費用が発生する
税務調査対応費用資料作成、再計算、立会いにコストがかかる
逸失利益通常は限定的に扱うことが多いが、契約で整理が必要
税効果補償金の課税関係や損金算入の影響をどう見るか

とりわけ、加算税や重加算税を補償対象に含めるかどうかは、慎重に検討すべきところです。売り手の過去の処理に起因するものであれば、買い手としては補償対象へ含めたいと考えるでしょう。一方で、重加算税は隠蔽・仮装を前提とするため、売り手の故意・重過失、不正への関与、資料隠しといった事情を丁寧に整理しておく必要があります。

補償期間は税務の期間制限と合わせて考える

補償条項では、表明保証の存続期間や補償請求期間を定めます。ここで税務リスクについては、税務当局がいつまで更正できるのかを意識しておかなければなりません。

財務省の資料によれば、通常の更正・決定は原則5年、偽りその他不正の行為の場合の更正・決定は7年、法人税に係る純損失等の金額についての更正は10年とされています。また、移転価格税制に係る法人税等については7年と整理されています。
出典:財務省|更正・決定の除斥期間、更正の請求期間

したがって、税務表明保証の存続期間を一律に1年や2年としてしまうと、税務調査でリスクが顕在化する前に補償請求期間が切れてしまう可能性があります。かといって、売り手へ無期限の責任を負わせるのも現実的ではありません。

実務では、税務リスクについては一般の表明保証より長い期間を設定する、特定リスクについては個別に期間を定める、重加算税・不正行為に関するリスクは別扱いにする、といった設計が考えられます。

リスクの種類契約上の期間設計の考え方
一般的な申告誤り税務当局の通常の更正期間を意識する
偽りその他不正が疑われる事項7年リスクを考慮する
繰越欠損金・純損失等10年リスクを考慮する
移転価格7年リスクと海外当局対応を考慮する
既知の特定リスク個別の特別補償期間を設定する
軽微なリスク一般補償期間内に含めることもある

大切なのは、補償期間を「契約慣行」だけで決めてしまわないことです。税務リスクが顕在化する時期と、税務当局が権限を行使できる期間を踏まえて設計しなければ、契約条項が実務の場面で機能しなくなってしまいます。

補償上限・免責金額・バスケットは税務リスクに合っているか

補償条項では、売り手の責任上限、免責金額、バスケット条項が設けられることがあります。

条項内容
キャップ補償額の上限
デ・ミニミス一定金額未満の小さな請求は対象外
バスケット損害額が一定額を超えた場合に補償対象とする
デダクタブル一定額を超えた部分のみ補償
チッピングバスケット一定額を超えたら全額補償
特別補償除外特定税務リスクはキャップ・バスケットの対象外とする

税務リスクで気をつけたいのは、本税に加えて延滞税、加算税、地方税、専門家費用が積み上がると、思いのほか金額が大きくなるという点です。たとえば、源泉所得税の不納付が数年分見つかった場合、単年度では小さく見えても、累計すると重要な金額になっていることがあります。

そのため、税務リスクを一般補償のキャップに含めるのか、それとも特別補償として別枠にするのかを検討する必要があります。とくにDDで具体的に見つかったリスクは、一般的な補償上限に埋もれさせず、個別に扱うほうが実務上はっきりします。

売り手に支払能力がなければ、補償条項だけでは守れない

補償条項は、売り手に支払能力があって初めて機能します。売り手が個人オーナーで、譲渡代金を借入返済、相続対策、生活資金、他の投資に使ってしまうような場合には、数年後に税務リスクが顕在化しても回収できない可能性があります。

債務超過会社や零細企業の買収では、表明保証条項や損害賠償条項を入れても、売り手側に支払能力がなければ十分なリスクヘッジにはなりません。だからこそ、事業譲渡方式や会社分割方式を検討せざるを得ない場面が出てきます。

こうした事情から、契約実務では次のような保全策を検討します。

保全策内容注意点
エスクロー譲渡代金の一部を第三者口座等で一定期間留保手続コスト、期間、解除条件を明確にする
ホールドバック買い手が譲渡代金の一部を一定期間支払留保売り手の資金需要との調整が必要
分割支払譲渡対価を複数回に分けて支払う買い手側の不履行リスクもある
相殺権補償請求権と未払譲渡対価を相殺相殺可能な債権債務の設計が必要
親会社保証売り手が法人の場合に親会社等が保証保証人の信用力確認が必要
表明保証保険保険会社に表明保証違反リスクを移転DDレポートや引受審査が必要
スキーム変更株式譲渡ではなく事業譲渡・会社分割を検討税務・消費税・許認可・契約承継を再検討

「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、クロージング後の支払や手続については、決済の遅滞や契約解釈の相違から争いへ発展するリスクがあるため、慎重な検討が求められるとされています。
出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン(第3版)

買い手にとっては、補償条項を厚くすること以上に、実際に回収できる設計にしておくことが重要です。一方で売り手にとっては、無制限に資金を拘束されると売却の目的そのものが達成できなくなる場合があります。金額、期間、対象リスクのバランスを、双方でていねいに取っていく必要があります。

税務調査対応条項は必ず入れておく

M&A契約における税務リスクは、買収後の税務調査で顕在化することが多くあります。ですから、税務調査が入った場合の対応を、あらかじめ契約で定めておくことが重要です。

少なくとも、次の事項は検討しておくべきでしょう。

項目契約で定めるべき内容
通知義務税務調査の通知を受けた場合、相手方へ何日以内に通知するか
資料提供売り手・買い手が過年度資料を提供する義務
立会い・意見陳述売り手が調査対応に関与できるか
修正申告買い手が単独で修正申告できるか、売り手の同意が必要か
更正対応更正を受けるか、争うかの判断権限
不服申立て審査請求・訴訟を行う場合の費用負担
補償請求いつ、どの資料を添えて請求するか
守秘義務調査対応資料や当局とのやり取りの共有範囲

税務調査では、調査結果の内容説明、修正申告等の勧奨、更正決定等という一連の流れが問題になります。実務上は、申告内容等に誤りがある場合、まず調査結果の内容説明と修正申告等の勧奨が原則として行われ、その勧奨に納税者が応じないときに更正決定等がなされる、という流れをたどります。

買い手が対象会社を支配している以上、買収後の税務調査で実際に対応するのは買い手側です。しかし、追加税額を売り手へ請求する可能性があるなら、売り手に防御の機会を与えないまま修正申告を行うことは避けるべきです。契約上の通知・協議手続を定めておかなければ、後になって補償請求をめぐる争いになってしまいます。

税務リスクは「開示資料」とセットで読む

表明保証では、売り手が一定の事実を表明します。ただし、売り手が開示資料で例外事項を明示している場合、その事項については表明保証違反にならないように設計されることがあります。

この開示資料が、実はとても重要です。

たとえば、売り手が「現在進行中の税務調査はない」と表明する一方で、開示資料には「消費税還付申告に関する税務署からの問い合わせあり」と記載されていたとします。この場合、その問い合わせが税務調査なのか、行政指導なのか、それとも単なる確認なのかを見極める必要があります。

また、「過去の税務調査で重要な指摘はない」と表明されていても、開示資料に修正申告書や是認通知が含まれていないのであれば、買い手は追加の資料を求めるべきです。

開示資料で確認しておきたい税務資料は、次のとおりです。

資料確認目的
法人税申告書一式所得計算、別表調整、欠損金、税額控除
別表四・五(一)・七(一)税務調整、利益積立金、欠損金の継続管理
消費税申告書課税区分、簡易課税、還付、課税売上割合
源泉所得税納付書給与、報酬、退職金、非居住者支払
税務調査資料事前通知、調査結果、修正申告、更正、是認通知
税務届出書青色申告、消費税、事前確定届出給与、グループ通算
固定資産台帳償却、除却、修繕費・資本的支出
棚卸表在庫数量、評価損、廃棄証憑
関係会社取引資料契約書、請求書、貸付金利息、債権放棄
役員議事録役員給与、退職金、配当、資本取引
海外取引資料源泉、租税条約、移転価格、外国税額控除

開示資料は、売り手を守るためだけのものではありません。買い手にとっても、後から「知らなかった」とは言えない範囲を明確にするものです。曖昧な開示は、双方にとって危ういものになります。

契約締結日からクロージングまでの税務誓約も重要

M&A契約では、契約締結日とクロージング日が異なることがあります。そしてこの間に、対象会社が通常と異なる行為をとると、税務リスクや価格の前提が変わってしまう可能性があります。

そのため、税務に関する誓約事項を設けることがあります。

誓約事項目的
通常の事業運営を継続する買収前提となった利益・資産状態を維持する
重要な会計方針・税務処理を変更しない税務ポジションの急な変更を防ぐ
重要な資産処分をしない譲渡損益、消費税、固定資産税への影響を防ぐ
役員退職金・賞与を支給しない損金算入・株価・資金流出リスクを防ぐ
税務申告・修正申告を単独で行わない買い手の承諾なく税務状態を変えない
関係会社取引条件を変更しない寄附金・移転価格・利益移転リスクを防ぐ
債権放棄・債務免除を行わない債務免除益・寄附金・株価変動を防ぐ
税務調査通知を速やかに共有するクロージング前リスクを把握する

この誓約は、単なる形式ではありません。契約締結後に売り手が役員退職金を支給した、関係会社への債権を放棄した、在庫を大幅に処分した、修正申告を行った――こうした事態が起きれば、買い手は当初想定していた税務状態とは異なる会社を取得することになってしまうのです。

クロージング条件にすべき税務・金融論点

税務リスクの中には、補償で後から処理するのではなく、クロージング前に解消しておくべきものがあります。

代表的なものは、次のとおりです。

クロージング条件にし得る事項理由
未納税金の納付買収直後の資金流出を防ぐ
期限後申告・修正申告の完了過去リスクを確定させる
税務調査の終結不確定リスクを残さない
重要な税務届出の確認欠損金・消費税・税額控除等に影響
金融機関同意借入契約、担保、保証に影響
経営者保証の解除・移行売り手側の重要条件になり得る
役員借入金・貸付金の整理債務免除益、贈与、株価影響を防ぐ
重要契約の承諾事業譲渡・会社分割で契約承継が必要

とくに中小M&Aでは、譲り渡し側の経営者保証の扱いが重要になります。中小企業庁の参考資料では、譲り渡し側の経営者保証に関するトラブルを防ぐため、M&A成立前の早い段階から金融機関等と相談し、可能な限り最終契約の締結より一定期間前に相談を開始することが望ましいとされています。
出典:中小企業庁|中小M&A時の経営者保証の取扱いについて

また同じ資料では、譲り受け側からの借換えによる解消や、最終契約において経営者保証の解除等を譲り受け側の義務として位置付けること、解除や買戻し条項を検討することも示されています。
出典:中小企業庁|中小M&A時の経営者保証の取扱いについて

税務リスクと金融機関対応は、別々の話ではありません。未払税金、保証、担保、借入契約、財務制限条項は、M&A契約と同時に整理していくべき論点です。

売り手側が注意すべきこと

売り手側にとって、税務表明保証は軽く考えてよい条項ではありません。買い手から提示された契約書に、「税務申告はすべて正確であり、税務リスクは存在しない」といった広い表明保証が入っている場合、そのまま受け入れてしまうと、過去のすべての税務処理について責任を負う可能性があります。

売り手側は、次の点を確認しておくべきです。

確認項目実務上の意味
表明保証の対象期間何年前まで責任を負うのか
対象税目法人税だけか、消費税・源泉・地方税も含むか
知識限定売り手が知っている範囲に限定されるか
重要性限定軽微な誤りまで違反になるか
開示資料例外事項を正しく開示しているか
補償上限譲渡対価を超える責任になっていないか
補償期間税務リスクと整合しているか
特別補償既知リスクを個別に扱っているか
税務調査対応買い手が一方的に修正申告できない設計か

売り手側にとって大切なのは、不利な情報を隠すことではありません。むしろ、重要な税務リスクを開示資料へ正確に反映し、価格・補償・期間・上限のなかで合理的に整理していくことです。

開示しないままクロージングを迎えてしまうと、後になって表明保証違反として、より大きな紛争へ発展しかねません。

買い手側が注意すべきこと

買い手側は、表明保証条項を入れたからといって安心してはいけません。

税務DDで見えなかったリスクは、そのまま残ります。小規模な会社では、資料が十分に整備されていないこともあります。過去の会計処理が顧問税理士任せで、会社側では説明できないこともあります。税務調査の履歴が口頭でしか共有されない、というケースも珍しくありません。

買い手側は、次の点を確認しておくべきです。

確認項目実務上の意味
売り手に支払能力があるか補償請求の実効性に直結
税務DDの範囲は十分か重要税目・重要年度を見落としていないか
過去申告書を確認したか別表、消費税、源泉、地方税まで見る
DDで見つかったリスクを価格に反映したか契約でなく価格で処理すべきものがある
特別補償を設定したか既知リスクを一般条項に埋もれさせない
エスクロー等の保全があるか売り手が個人の場合は特に重要
税務調査対応条項があるか買収後の防御手続に影響
PMIで会計税務体制を整えるか買収後の申告誤りを防ぐ

実務では、DDをどこまで丁寧に行っても、100%の情報を入手することは現実的ではありません。とくに簿外債務を把握するのは難しく、その懸念が大きい場合には、事業譲渡方式や会社分割方式を選択すべき場面もあります。

買い手側は、契約条項だけでなく、スキーム選択そのものを見直す視点を持っておく必要があります。

税務リスクを契約で扱う前に整理すべき資料

M&A契約へ税務条項を反映する前に、次の資料を整理しておくと、専門家との対話がぐっと具体的になります。

資料確認する論点
過去5〜10年分の法人税申告書欠損金、税務調整、税額控除、別表の継続性
消費税申告書課税区分、簡易課税、還付、インボイス
源泉所得税納付資料報酬、給与、退職金、非居住者支払
税務調査関連資料事前通知、結果説明、修正申告、更正、是認通知
税務届出書控え青色申告、消費税、役員給与、通算制度等
固定資産台帳償却、除却、修繕費、償却資産税
棚卸表在庫評価、滞留在庫、廃棄証憑
役員議事録役員給与、退職金、配当、自己株式
関係会社取引契約貸付、利息、業務委託、債権放棄
借入・保証・担保資料金融機関同意、経営者保証、担保解除
契約書一覧印紙税、契約承継、解除条項
DD指摘事項一覧価格調整、特別補償、開示資料への反映

この資料整理が不十分なまま契約交渉に入ってしまうと、表明保証の文言だけが先行し、実態に合わない契約になってしまいます。

M&A契約における税務リスクについて相談するタイミング

税務リスクは、最終契約の直前になって相談しても、十分に反映しきれないことがあります。価格、スキーム、補償、税務調査対応、金融機関同意、クロージング条件は、互いに関係し合っているからです。

とりわけ、次のような場合には、早い段階で相談されることをおすすめします。

  • 株式譲渡で対象会社の過去の税務リスクを承継する
  • 税務DDで消費税、源泉所得税、役員給与、関係会社取引の指摘が出ている
  • 対象会社に繰越欠損金や税額控除がある
  • 買収価格に税務メリットを織り込んでいる
  • 税務調査中、または税務署から問い合わせを受けている
  • 売り手が個人で、補償の支払能力に不安がある
  • 債務超過会社・赤字会社を買収する
  • 役員退職金、債権放棄、DES、会社分割、合併を組み合わせる
  • 経営者保証の解除・移行がM&Aの重要条件になっている
  • クロージング後の初回申告や税務調査対応を、誰が行うか決まっていない

M&A契約は法務文書です。しかし、税務リスクを正しく反映しておかなければ、買収後の資金流出、税務調査対応、売り手・買い手間の紛争、そして金融機関への説明にまで影響が及んでいきます。

M&A契約・表明保証と税務リスクについて相談する際の視点

M&A契約における税務リスクの整理では、単に「表明保証条項を入れるかどうか」ではなく、税務DDで把握した事実を、価格、補償、特別補償、開示資料、クロージング条件、買収後の管理へどう接続していくかが重要になります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&Aにおける税務DD、税務リスクの金額影響の整理、表明保証・補償条項への反映、未払税金・偶発債務の検討、税務調査対応条項、そして買収後の初回申告・PMI税務管理まで、一体としてお手伝いしています。

M&A契約に税務リスクをどう反映すべきか不安がある場合、税務DDで見つかった指摘事項を契約書へ落とし込む前に整理しておきたい場合、あるいは買収後の税務調査や追加納税に備えておきたい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからお気軽にご相談ください。

重要ポイントの振り返り

論点実務上のポイント判断を誤った場合のリスク
税務DDリスクの発見だけでなく契約・価格へ反映する発見したリスクが買収後にそのまま資金流出になる
表明保証申告、納税、税務調査、未払税金等の事実を表明する抽象的すぎると紛争時に機能しない
開示資料表明保証の例外事項を明確にする売り手・買い手双方の認識がずれる
補償条項本税、延滞税、加算税、専門家費用の範囲を定める追加税額発生時に負担者をめぐって争う
特別補償DDで発見済みの個別リスクを切り出す既知リスクが一般補償に埋もれる
補償期間税務の更正期間を踏まえて設計する税務調査前に補償請求期間が切れる
補償上限税務リスクを一般キャップに含めるか検討する大きな税務リスクを回収できない
売り手の支払能力エスクロー、ホールドバック、相殺権を検討する補償条項があっても回収できない
税務調査対応通知、協議、修正申告、更正対応を契約で定める買い手が単独対応し、売り手との紛争になる
未払税金決算書上の未払税金と簿外税務債務を分けて確認買収後に想定外の納税が発生する
偶発債務消費税、源泉、役員給与、関係会社取引を確認する税務調査で過年度リスクが顕在化する
クロージング条件未納税金、調査、保証解除、金融機関同意を条件化する実行後に解消不能な問題が残る
経営者保証M&A成立前から金融機関等と相談する売り手側の保証が残りトラブルになる
スキーム選択株式譲渡だけでなく事業譲渡・会社分割も検討する契約条項だけではリスク遮断できない
PMI税務買収後の初回申告、資料保存、税務調査履歴を整備する買収後に申告品質が低下しリスクが拡大する
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