税務調査前に専門家へ相談すべき法人税論点|役員給与・交際費・貸倒・在庫・固定資産・関係会社取引・組織再編・国際取引

税務調査の連絡を受けると、多くの会社では、まず「何を聞かれるのか」「どの資料を出せばよいのか」「追加の税額が出るのか」といった不安に意識が向きます。

けれども、税務調査を前に本当に整理しておくべきことは、調査当日の受け答えだけではありません。

大切なのは、自社の申告のなかに、専門家と事前に確認しておくべき法人税論点が残っていないかを、いま一度棚卸ししておくことです。

役員給与、役員退職金、交際費、寄附金、貸倒損失、棚卸資産、固定資産、修繕費、関係会社取引、出向負担、組織再編、M&A、資本取引、国際取引。これらは、申告書の数字を眺めるだけでは結論が出ません。取引の実態、契約関係、社内の承認、会計処理、税務調整、そして根拠となる資料。これらを突き合わせて初めて、調査の場で説明できるかどうかが見えてくるからです。

税務調査の手続について、国税庁は、調査手続の透明性と納税者の予見可能性を高め、納税者の協力を得ながら、円滑かつ効果的な調査の実施と申告納税制度の充実に資するために、従来の運用上の取扱いを法令上明確化したものと位置づけています。そして調査とは、証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用といった一連の行為を指すものとされています。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)

つまり税務調査とは、単に「資料を見せる場」ではありません。申告内容の前提となった事実を確認し、その事実に税法をどう適用したのかを確かめる場なのです。

本記事では、税務調査前に専門家へ相談しておきたい法人税論点を、実務上の優先順位と、確認すべき資料に落とし込みながら整理していきます。

目次

税務調査前の専門家相談は「言い訳づくり」ではない

税務調査の前に専門家へ相談すると聞くと、調査官への説明の仕方を整えることだと受け止められることがあります。

しかし、本来の目的はそこにはありません。

調査前の相談で取り組むべきことは、次の4つに整理できます。

目的内容
事実確認申告処理の前提となった取引実態、契約、承認、資金移動を確認する
税務論点の特定どの税法上の問題になり得るかを整理する
資料の整合性確認申告書、決算書、元帳、契約書、請求書、議事録、稟議書が矛盾していないか確認する
対応方針の判断説明で足りるのか、修正申告を検討すべきか、争点として整理すべきかを見極める

ここで押さえておきたいのは、調査前に資料を「作る」ことが目的ではない、という点です。あくまで、申告時点の事実と判断を、正確に整理し直すことに意味があります。

後から契約書の日付を書き換える。実在しない議事録を用意する。領収書の摘要を都合よく直す。存在しなかった稟議を、あたかもあったように見せる。こうした対応は、資料整理とは呼べません。事実そのものを歪める行為であり、重加算税や、さらに深刻な問題へと発展しかねません。

国税庁の重加算税に関する事務運営指針でも、二重帳簿の作成、帳簿書類の破棄や隠匿、改ざんや虚偽記載、相手方と通謀した虚偽の証憑書類の作成、売上その他収入の脱漏、棚卸資産の除外などが、隠蔽又は仮装に該当する例として示されています。
出典:国税庁|法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

税務調査前の専門家相談は、事実を加工するために行うものではありません。事実を正確に把握し、税務上の評価を誤らないために行うものです。

調査前に最初に確認すべき5つの視点

税務調査を前に、すべての勘定科目を同じ深さで確認していくのは、現実的ではありません。限られた時間のなかで、どこから手をつけるかの優先順位をつける必要があります。

まずは、次の5つに当てはまる取引を洗い出すところから始めてください。

視点相談優先度が高い理由
金額が大きい否認された場合の本税、延滞税、加算税、資金繰り影響が大きい
役員・株主・関係会社が絡む利益移転、寄附金、役員給与、みなし配当、時価が問題になりやすい
判断を伴う処理である貸倒、修繕費、評価損、収益認識、退職金などは事実認定で結論が変わる
資料が弱い契約書、議事録、稟議、検収書、成果物、価格根拠が不足していると説明が難しい
毎期継続している単年度の誤りではなく、複数年度の修正・調査範囲拡大につながりやすい

税務調査では、調査官から求められた資料さえ用意すれば済む、というわけではありません。

法人には、帳簿を備え付けて取引を記録し、その帳簿や、取引に関して作成・受領した書類を、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する義務があります。青色申告書を提出した事業年度で青色繰越欠損金が生じた事業年度などでは、10年間の保存が必要になる場合もあります。ここでいう帳簿には総勘定元帳、仕訳帳、売掛金元帳、固定資産台帳などが、書類には棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書などが含まれます。
出典:国税庁|No.5930 帳簿書類等の保存期間

さらに、質問検査権の対象となる「帳簿書類その他の物件」には、法令上の保存義務がある帳簿書類だけでなく、調査目的を達成するために必要と認められる帳簿書類その他の物件も含まれるとされています。国外に保存しているものも対象となる点には、注意が必要です。
出典:国税庁|第1章 法第74条の2~法第74条の6関係(質問検査権)

ですから、専門家への相談も、「申告書を見てください」だけでは足りません。重要な取引については、契約、請求、検収、入出金、社内承認、そして税務調整まで、ひとつながりで確認していく必要があります。

税務調査前に相談すべき論点の全体像

税務調査を前に、優先して確認しておきたい法人税論点を一覧にすると、次のとおりです。

分野相談すべき典型論点
役員給与・役員退職金定期同額給与、事前確定届出給与、臨時改定、分掌変更、退職事実、金額の相当性
交際費・会議費・福利厚生費相手先、参加者、目的、社内飲食、会議実態、役員個人費用との区分
寄附金・経済的利益供与関係会社支援、債権放棄、費用肩代わり、無償・低額取引、経済合理性
貸倒損失法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ、形式基準、回収努力、関係会社債権
棚卸資産実地棚卸、滞留在庫、廃棄、評価損、期末カットオフ
固定資産・修繕費取得価額、事業供用日、耐用年数、修繕費と資本的支出、除却
税額控除・優遇税制賃上げ促進税制、設備投資税制、研究開発税制、別表、保存書類、当初申告要件
関係会社取引価格設定、費用配賦、グループ法人税制、寄附金、受贈益、精算資料
出向・転籍給与負担、賞与・退職金負担、役員出向、源泉所得税、海外出向
資本取引自己株式、減資、資本払戻し、みなし配当、DES、オーナー貸付金
組織再編・M&A適格要件、欠損金制限、時価課税、包括否認、税務DD、買収後処理
国際取引源泉所得税、租税条約、PE、外国税額控除、移転価格、外国子会社合算税制

ここからは、各論点について、調査前に専門家へ相談しておきたいポイントを、具体的に見ていきます。

役員給与・役員退職金は、金額よりも「決め方」と「実態」を確認する

中小企業の税務調査において、役員給与と役員退職金は、とりわけ重要な論点です。

役員給与は、従業員給与と違い、会社側で支給額や支給時期を調整しやすい性質を持っています。だからこそ税務上は、損金に算入できる類型や手続が、厳格に問われることになります。

調査前に専門家へ相談しておきたい典型的な場面を挙げると、次のようになります。

場面確認すべきこと
期中に役員報酬を変更した改定時期、改定理由、定期同額給与への該当性
役員賞与を支給した事前確定届出給与の届出、支給日・支給額との一致
業績悪化で減額した業績悪化改定事由、資金繰り資料、金融機関対応
役員退職金を支給した退職事実、株主総会・取締役会決議、金額算定根拠
分掌変更退職金を支給した実際の職務、権限、代表権、出社状況、報酬水準の変化
オーナー貸付金と相殺した支給事実、源泉所得税、相殺合意、資金移動、株価影響

役員給与で問われるのは、「支給したかどうか」だけではありません。いつ、誰が、どのような根拠で決めたのかが、なにより重要になります。

役員退職金については、さらに一歩踏み込んだ確認が必要です。金額が高額であること自体が、ただちに否認を意味するわけではありません。しかし、退職の実態が乏しい、分掌変更後も実質的に経営権を握り続けている、功績倍率や最終報酬月額の根拠が弱い、議事録が形式的にとどまっている。こうした状況では、調査の場で説明するのが難しくなります。

専門家へ相談する際には、次の資料を準備しておいてください。

資料確認目的
株主総会議事録・取締役会議事録支給決議、改定決議、退職金決議の確認
役員報酬規程・退職慰労金規程支給基準の有無
給与台帳・源泉徴収資料実際の支給額、支給日、源泉処理
事前確定届出給与の届出書控え届出額・届出日・支給実績の一致
組織図・職務分掌表職務変更や退職実態の確認
代表権・決裁権・出社状況資料分掌変更後の実態確認
退職金算定メモ功績倍率、在任年数、最終報酬月額、比較資料

役員給与や退職金は、調査前に社内だけで説明を固めようとすると、議事録の形式的な確認だけで終わってしまいがちです。法人税、所得税、源泉所得税、社会保険、事業承継、そして株価への影響まで視野に入れて、早めに専門家と確認しておきたい論点です。

交際費・会議費・福利厚生費は、領収書ではなく「目的」と「相手先」を見る

交際費等は、一件あたりの金額は小さくても、件数が多く、調査で確認されやすい項目です。

なかでも次のような支出は、調査前に専門家へ確認しておきたいところです。

支出調査で問題になりやすい点
役員だけの飲食会社の交際費か、役員個人費用か
社内飲食会議費、福利厚生費、交際費、役員給与の区分
高額な贈答品交際費、寄附金、役員給与、個人費用の区分
ゴルフ・旅行事業関連性、参加者、相手先、役員個人利用
会議費会議実態、議題、参加者、通常必要な範囲か
福利厚生費全従業員対象か、特定役員・特定従業員への利益供与か
広告宣伝費・販売促進費不特定多数向けか、特定取引先への供応か

交際費等でもろくなりがちなのは、領収書だけが残っている状態です。領収書は支出の事実こそ示してくれますが、その支出が何のためのものだったかまでは語ってくれません。

調査前に確認しておきたい資料は、次のとおりです。

資料確認目的
領収書・請求書金額、日付、支払先
会計ソフト摘要欄相手先、参加者、目的の記録
参加者一覧社内外の人数、役員・従業員の区分
案件名・商談記録事業関連性の確認
会議資料・議事メモ会議費処理の妥当性
社内規程福利厚生費としての公平性
稟議書高額支出の承認過程

調査前に専門家へ相談する際は、「交際費の金額が大きいかどうか」だけでなく、役員個人の費用に見えるものが紛れ込んでいないかを、重点的に確認しておくとよいでしょう。

寄附金・関係会社支援は「会社のため」と説明できるかを確認する

関係会社への支援、取引先への支援、債権放棄、費用の肩代わり、無償や低額での役務提供。これらは、税務調査で寄附金や経済的利益の供与として問題になりやすい領域です。

会社としては「グループ全体のため」「取引先を守るため」「将来の売上につながるため」と考えていても、税務上は、その説明を具体的な資料で示していく必要があります。

調査前に相談しておきたい典型的な場面は、次のとおりです。

場面確認すべきこと
赤字子会社への資金支援支援の必要性、回収可能性、再建計画、金融機関対応
関係会社の費用を負担した本来誰が負担すべき費用か、負担割合の合理性
債権放棄をした回収不能性、支援の経済合理性、寄附金該当性
無償で役務提供した対価を収受しない理由、通常対価、関係会社間契約
低額で資産を譲渡した時価、差額の性質、受贈益・寄附金・株主課税
取引先に協賛金を支払った広告宣伝費か、交際費か、寄附金か

寄附金の論点で問われるのは、支出先のためだったかではなく、自社の事業上どのような必要性があったのかです。

次の資料を整理しておくと、専門家との検討がぐっと具体的になります。

資料確認目的
支援先の決算書・資金繰り表支援の必要性
再建計画・事業計画支援後の回収可能性、事業継続性
取引関係資料自社への影響、支援しない場合の損失
取締役会議事録・稟議書会社としての意思決定
契約書・覚書費用負担、返済条件、支援条件
価格算定資料時価・通常対価との比較
金融機関資料支援の外部要請、再建スキーム

関係会社への支援は、法人税だけの問題にとどまりません。グループ法人税制、株価、債務免除益、みなし贈与、事業承継にまで波及していきます。調査前に単独で判断せず、専門家とともに事実関係を整理しておきたい論点です。

貸倒損失は「回収できないと思う」では足りない

貸倒損失は、税務調査で慎重に見られる代表的な論点です。

会社としては、長年回収できていない債権を、そろそろ損失として処理したいと考えることがあります。しかし税務上の貸倒損失は、経営者の感覚だけで自由に損金算入できるものではありません。

法人税基本通達では、金銭債権の貸倒れについて、法的整理等により切り捨てられる場合、債務超過が相当期間続いて弁済を受けられないと認められる場合に書面で債務免除した額、債務者の資産状況や支払能力などから全額回収不能が明らかになった場合、一定期間の取引停止後に弁済がない売掛債権などについて、それぞれの取扱いが示されています。
出典:国税庁|第1款 金銭債権の貸倒れ

調査前に専門家へ相談しておきたい場面は、次のとおりです。

場面相談すべき理由
多額の売掛金を貸倒処理した回収不能時期、回収努力、相手先状況が問われる
関係会社貸付金を貸倒処理した寄附金又は支援損失との区分が問題になる
債権放棄をした貸倒損失か寄附金か、債務免除益との関係が問題になる
担保・保証人がある担保処分前の貸倒処理が認められるか確認が必要
長期滞留債権を一括処理したいつ回収不能になったか、過年度処理が問題になる

貸倒損失で求められる資料は、請求書や売掛金台帳だけにとどまりません。

資料確認目的
債権発生資料売上計上、請求、契約内容
入金履歴回収状況、最終入金日
督促記録回収努力の有無
相手先の決算書・登記・倒産情報支払能力、事業継続状況
弁護士・金融機関との相談記録回収可能性の判断
債権放棄通知書債権切捨ての事実
取締役会議事録・稟議書損失処理の意思決定
担保・保証人資料担保処分、保証履行の確認

貸倒損失については、調査前に専門家と「どの類型で説明するのか」を、あらかじめ明確にしておくべきです。法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ、形式基準では、必要となる資料も、説明の組み立て方も異なってくるからです。

在庫・棚卸資産は、利益操作に見えないように確認する

棚卸資産は、売上原価を通じて利益に直接影響します。そのため税務調査では、数量、単価、評価、廃棄、そして期末のカットオフが確認されます。

調査前に専門家へ相談しておきたい場面は、次のとおりです。

場面確認すべきこと
期末棚卸額が大きく変動した数量変動、単価変動、評価方法、原価計算
滞留在庫を評価減した陳腐化、販売可能性、処分見込み
在庫を廃棄した廃棄事実、廃棄業者、写真、稟議
期末直前の仕入・売上が多い入出庫日、検収日、請求日、所有権移転
委託在庫・預け在庫がある保管場所、所有権、相手先確認
棚卸表が手書き又はExcelのみ作成者、承認者、棚卸手順、修正履歴

在庫は、経営上の見せ方にも影響します。金融機関向けに利益を確保しようと在庫を多めに見せる、あるいは税負担を抑えようと棚卸を少なくする。こうした処理は、税務だけでなく、決算書全体の信頼性にも関わってきます。

専門家へ相談する際には、次の資料を用意しておいてください。

資料確認目的
実地棚卸表数量、棚卸日、担当者、承認
在庫管理表入出庫履歴、期末残高
評価方法届出・原価計算資料単価計算の根拠
滞留在庫リスト滞留期間、販売可能性
廃棄稟議・廃棄証明・写真廃棄事実の確認
期末前後の仕入・売上資料カットオフ確認
倉庫証明・預り証預け在庫、委託在庫の確認

棚卸資産は、数字の修正が一見たやすく見える一方で、調査では実地確認や期末前後の動きから、矛盾が見つかりやすい領域でもあります。資料が弱いと感じる場合は、調査前に必ず専門家へ相談しておいてください。

固定資産・修繕費は、支出の内容を工事明細まで確認する

固定資産と修繕費は、資産に計上するか費用として処理するかで、税額が変わってきます。

修繕費として処理した支出が、実際には資本的支出だと判断されれば、損金に算入できる時期が変わります。逆に、本来なら資産計上すべきものを消耗品費や修繕費で処理していると、調査で指摘を受けやすくなります。

調査前に相談しておきたい場面は、次のとおりです。

場面確認すべきこと
多額の修繕費を計上した維持回復か、価値増加・耐用年数延長か
建物・設備工事を行った工事内容、資産単位、付随費用
ソフトウェア開発費を費用処理した自社利用か、研究開発か、資産計上対象か
除却損を計上した実際の廃棄・使用停止・台帳除却
設備投資税制を使った対象資産、供用日、証明書、申告書別表
少額資産処理が多い取得価額、資産単位、供用日、制度選択

固定資産や修繕費では、請求書の金額だけでなく、工事の内容そのものを説明できる資料が重要になります。

資料確認目的
契約書・見積書・請求書支出内容、金額、工事項目
工事明細修繕か改良かの判断
施工前後写真現状回復か機能向上か
稟議書支出目的、社内判断
固定資産台帳取得価額、耐用年数、償却状況
納品書・検収書取得日、事業供用日
除却資料廃棄証明、写真、使用停止資料
税額控除資料証明書、計画認定、別表、供用日

固定資産は、法人税だけでなく、償却資産税、消費税、補助金、金融機関への説明にも関わってきます。調査前に専門家へ相談する際は、会計処理と税務処理はもちろん、台帳の管理状況まで含めて確認しておくことが大切です。

税額控除・優遇税制は「適用した後」の調査で資料不足が出やすい

賃上げ促進税制、設備投資税制、研究開発税制といった税額控除は、税負担の軽減効果が大きい反面、要件の確認や保存資料が不十分だと、調査で問題になりやすい制度です。

調査前に相談しておきたい場面は、次のとおりです。

税制確認すべきこと
賃上げ促進税制対象給与、比較年度、教育訓練費、上乗せ要件、別表
中小企業投資促進税制中小企業者等判定、対象資産、指定事業、供用日
中小企業経営強化税制経営力向上計画、証明書、取得時期、供用時期
研究開発税制試験研究費該当性、プロジェクト資料、人件費・外注費区分
特別償却・税額控除どちらを選択したか、将来償却・控除限度への影響

税額控除の調査では、「計算が合っているか」だけでなく、そもそも制度適用の前提を満たしていたのかが確認されます。

必要となる資料は、次のとおりです。

資料確認目的
適用判定メモ対象法人、対象年度、要件確認
給与台帳・賃金台帳賃上げ促進税制の基礎資料
教育訓練費資料上乗せ要件、対象費用
証明書・認定書設備投資税制の要件確認
固定資産台帳・供用資料取得・供用時期の確認
研究開発プロジェクト資料試験研究費該当性
別表六等の申告書類税額控除の申告反映
社内承認資料投資目的、賃上げ方針、研究開発目的

税額控除は、「使えるなら使う」という判断だけでは不十分です。調査で説明できるだけの要件資料が残っているかどうかを、専門家とともに確認しておいてください。

関係会社取引・出向契約は、グループ内の「なあなあ」を整理する

グループ会社間の取引は、外部との取引よりも、調査で説明責任が重くのしかかります。

理由は単純です。グループ内では、価格、費用負担、支払時期、契約内容を、いくらでも調整できてしまうからです。

調査前に相談しておきたい場面は、次のとおりです。

取引確認すべきこと
経営指導料実際の支援内容、対価算定、報告書
業務委託料契約範囲、成果物、工数、価格根拠
共通費配賦配賦基準、対象費用、各社負担額
資産売買時価、譲渡損益、グループ法人税制
資金貸借契約書、利率、返済条件、回収可能性
債権放棄寄附金、債務免除益、再建計画
出向者給与誰が支給し、誰が負担すべきか
役員出向役員給与規制、負担金、議事録、源泉

出向契約では、給与負担の合理性がとりわけ重要です。出向先が便益を受けているのに、出向元が給与を負担している。そうした場合、その理由を説明できなければ、寄附金などの問題が生じます。

専門家へ相談する際には、次の資料を準備しておいてください。

資料確認目的
グループ組織図資本関係、完全支配関係
関係会社間契約書業務内容、対価、負担関係
精算書・請求書実際の費用負担
価格算定資料時価・通常対価との比較
配賦計算表共通費配賦の合理性
出向契約書・出向命令雇用関係、職務内容
給与台帳・源泉資料支給者、負担者、源泉処理
取締役会議事録・稟議書重要なグループ取引の承認

関係会社取引は、法人税だけでなく、消費税、源泉所得税、移転価格、グループ通算制度、そしてM&A時の税務DDにまでつながります。調査前に専門家とともに取引一覧を作成し、契約と実態が一致しているかどうかを、あらかじめ確認しておいてください。

資本取引・自己株式・DESは、損益に出にくいからこそ危険

自己株式の取得、減資、資本の払戻し、DES、オーナー貸付金の整理、非上場株式の売買。これらは、損益計算書だけを追っていると見落とされやすい論点です。

しかし税務上は、法人税、所得税、源泉所得税、相続税・贈与税、株価評価、資本金等の額、利益積立金額に、幅広く影響します。

調査前に相談しておきたい場面は、次のとおりです。

取引確認すべきこと
自己株式取得みなし配当、譲渡損益、源泉税、取得価額
減資・資本払戻し資本金等の額、利益積立金額、みなし配当
DES債務消滅益、資本金等の額、債権評価、株価影響
オーナー貸付金整理債権放棄、債務免除益、みなし贈与
非上場株式売買時価、当事者関係、株主間価値移転
低額増資・高額払込み受贈益、寄附金、みなし贈与

資本取引で必要となる資料は、次のとおりです。

資料確認目的
株主名簿株主構成、同族関係
定款・登記簿株式内容、資本金、機関設計
株主総会・取締役会議事録取引の承認
株価算定資料時価、評価前提
資本金等の額・利益積立金額資料別表五(一)との整合性
資金移動資料払込、支払、相殺の実態
契約書・合意書取引条件
債権債務残高表DES・債権放棄の前提

資本取引は、税務調査だけでなく、将来の事業承継、M&A、少数株主対応、金融機関への説明にも影響します。調査前に過去の資本取引を棚卸しし、申告書の別表と株主資料が一致しているかどうかを確認しておくことが大切です。

組織再編・M&Aは、調査前に「事業目的」と「適格要件」を再確認する

合併、分割、株式交換等、株式移転、現物出資、現物分配、株式分配。こうした組織再編を行った会社は、税務調査の前に必ず専門家へ相談しておくべきです。

組織再編は、実行時の申告だけでなく、その後の税務調査でも、適格要件、欠損金、含み損益、みなし配当、株主課税、包括否認が問題になることがあります。

調査前に確認しておきたい事項は、次のとおりです。

論点確認すべきこと
税制適格要件支配関係、共同事業、対価、従業者引継、事業継続
事業目的税負担軽減以外の合理的な事業目的
繰越欠損金引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失
時価課税非適格再編時の資産・負債の時価
みなし配当合併、分割、資本払戻し、自己株式との関係
株主課税法人株主・個人株主の処理
消費税・地方税資産移転、届出、地方税申告
M&A後処理税務DDで把握したリスク、買収後の会計・税務統一

組織再編の調査前相談では、スキーム図だけでは足りません。

資料確認目的
再編契約書・計画書法的手続、対価、効力発生日
再編前後の組織図支配関係、完全支配関係
株主名簿株主課税、支配関係
事業計画・稟議書事業目的、経済合理性
適格要件判定メモ要件充足の確認
欠損金資料別表七、過年度申告書
資産負債明細含み損益、時価評価
税務意見書・専門家回答当時の判断過程
会計仕訳・別表申告反映の確認

組織再編は、単純なケアレスミスであっても、影響額が大きくなりがちです。調査通知を受けてから初めてスキームを見直すのではなく、再編を行った年度については、調査前に専門家とともに論点を棚卸ししておいてください。

国際取引は、契約書と送金資料だけでは足りない

海外との取引がある会社では、税務調査の前に、国際税務の論点を確認しておく必要があります。

海外への支払がある場合、まずは国内源泉所得に該当するか、源泉徴収が必要か、租税条約による軽減・免除を受けるための届出が必要かを確認します。租税条約に基づいて源泉所得税等の軽減又は免除を受ける場合には、非居住者等が届出書を作成し、最初にその所得の支払を受ける日の前日までに、支払者を経由して、支払者の納税地を所轄する税務署長へ提出することとされています。
出典:国税庁|No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)

また、国外関連者との取引がある場合には、移転価格税制の観点から、価格設定や利益水準についての説明が求められます。財務省は、移転価格税制について、海外の関連企業との取引価格を通常の価格と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方へ移転できてしまうため、海外関連企業との取引が独立企業間価格で行われたものとして所得を計算し課税する制度である、と説明しています。
出典:財務省|移転価格税制の概要

調査前に相談しておきたい国際取引は、次のとおりです。

取引確認すべきこと
海外法人への使用料支払国内源泉所得、源泉税、租税条約届出
海外役務提供・コンサル料役務提供地、成果物、源泉税、PE
海外子会社への経営支援対価設定、役務提供実態、移転価格
ロイヤリティ権利関係、料率根拠、契約書
海外子会社への貸付利率、返済条件、移転価格、源泉税
海外出向給与負担、PE、源泉、移転価格
海外子会社配当益金不算入、源泉税、外国税額控除、CFC
海外子会社損益外国子会社合算税制の対象可能性

国際取引で必要となる資料は、次のとおりです。

資料確認目的
英文契約・和訳支払内容、権利、役務提供範囲
送金資料支払日、金額、相手先
租税条約届出書軽減・免除の手続
源泉税納付資料源泉徴収義務の履行
役務提供報告書実際の役務提供
価格算定資料移転価格、料率、利率
海外子会社決算書CFC、配当、外国税額控除
組織図・資本関係資料国外関連者、外国関係会社の判定

国際取引は、取引の開始時、契約時、送金時に確認しておくべき論点が多く、調査前に慌てて資料を集めても、不足が生じやすい領域です。海外子会社や海外への支払がある会社は、税務調査の前に専門家へ相談する優先度が高いといえます。

修正申告をすべきか、説明で対応すべきか

税務調査を前に重要論点を確認していくと、「これは修正申告した方がよいのではないか」という論点が浮かび上がることがあります。

ここで気をつけたいのは、税務リスクがあることと、ただちに修正申告すべきことは、同じではないという点です。

判断は、次のように分けて考える必要があります。

状況検討すべき対応
明らかな計算誤り・転記誤り修正申告を検討する
売上計上漏れなど事実上の誤りが明確修正申告と附帯税影響を検討する
法令解釈に争いがある根拠資料と説明方針を整理する
事実認定が分かれる契約、実態、資料を整理し、争点化する可能性を確認する
資料不足だが処理自体は合理的代替資料、当時資料、説明資料を整理する
隠蔽・仮装が疑われる直ちに専門家へ相談し、事実関係を慎重に確認する

国税庁は、法人税の過少申告加算税及び無申告加算税について、臨場調査、反面調査、申告書内容の検討後の非違事項の指摘などにより、法人が調査のあったことを了知したと認められた後に修正申告書が提出された場合には、原則として「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当するとしています。一方で、臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則としてこれには該当しないとされています。
出典:国税庁|法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)

また、国税庁のタックスアンサーでは、申告内容の誤りに気付いた場合や、納める税金が少なすぎた場合などには修正申告により訂正すること、事前通知の前に自主的に修正申告をすれば過少申告加算税がかからないこと、事前通知後や調査後では過少申告加算税の取扱いが変わることが説明されています。
出典:国税庁|No.2026 確定申告を間違えたとき

修正申告は、税額を訂正する重要な手続です。調査前に慌てて提出するのではなく、次の点を専門家と確認しておいてください。

確認事項理由
誤りが明確か判断論点か、単純誤りかで対応が変わる
対象年度はどこまでか複数年度に波及する可能性がある
法人税以外の税目に影響するか消費税、源泉税、地方税に波及する
別表五(一)等に影響するか翌期以降の利益積立金額に影響する
附帯税の見込み額はいくらか資金繰りへの影響を把握する
争う余地があるか修正申告後の対応余地を考える
取締役会・金融機関への説明が必要か経営上の説明責任が生じる

調査前相談の値打ちは、単に「修正するかどうか」を決めることだけにあるのではありません。処理の前提、影響額、説明の可能性、将来への波及を整理したうえで、会社として責任ある判断を下すこと。そこにこそ意味があります。

専門家へ相談する前に準備すべき資料

税務調査前の相談では、資料が揃っているほど、判断の精度が上がります。

最低限、次の資料を準備しておいてください。

資料用途
調査通知・事前通知の内容メモ対象税目、対象期間、調査日時、調査場所、担当者
過去3〜5期分の申告書・決算書調査対象年度、比較分析
総勘定元帳勘定科目別の取引確認
勘定科目内訳明細書役員・関係会社・債権債務の確認
消費税申告書・地方税申告書他税目への波及確認
税務調整表・別表四・五(一)会計処理と税務調整の連動
契約書・請求書・領収書取引実在性
議事録・稟議書意思決定過程
固定資産台帳・棚卸表資産論点
給与台帳・役員報酬資料役員給与・退職金
関係会社取引一覧グループ内取引
海外取引一覧源泉、租税条約、移転価格
過去の税務調査資料以前の指摘事項、修正履歴
顧問税理士への相談記録当時の判断前提

資料を渡す際には、ただフォルダを共有するのではなく、次のような一覧に整えておくと、相談がぐっと進みやすくなります。

整理項目記載内容
論点名例:役員退職金、貸倒損失、関係会社支援
対象年度どの申告年度に関係するか
金額会計処理額、税務影響額
処理内容会計処理、税務調整、申告書反映
根拠資料契約書、議事録、請求書、稟議書
不安点何が説明しにくいか
会社の認識当時どう判断したか
専門家に聞きたいこと修正要否、説明資料、追加確認事項

この整理ができているだけで、相談の質は大きく変わってきます。

調査前にしてはいけないこと

税務調査を前にすると、不安から、つい場当たり的な対応をしてしまうことがあります。しかし、次のような対応は避けてください。

避けるべき対応理由
契約書や議事録を過去日付で作る事実と異なる資料作成は重大なリスクになる
調査で聞かれそうな資料を削除する隠匿・破棄と見られる可能性がある
担当者ごとに説明を変える供述の不一致が疑義を強める
資料不足を隠す後で判明した場合、信頼性を失う
すべて税理士任せにする経営判断や取引実態は会社が説明する必要がある
明らかな誤りを放置する修正申告・附帯税・重加算税の検討が遅れる
争点を整理せず修正申告する本来争える論点まで確定させる可能性がある
反面調査を恐れて相手先に口裏合わせを依頼する事実認定・重加算税上の重大リスクになる

資料に不足があったとしても、それだけでただちに不利になるとは限りません。大切なのは、足りない資料を隠すことではなく、代替資料、当時のメール、入出金記録、社内の承認履歴などから、事実を正確に復元していくことです。

税務調査前相談で得るべき成果物

専門家へ相談した結果として、最終的には、次のような成果物を残しておくことが望ましいといえます。

成果物内容
調査前論点一覧高リスク論点、対象年度、金額、資料状況
論点別判断メモ事実関係、税務処理、根拠、リスク
資料一覧提示可能資料、不足資料、追加確認資料
修正申告検討メモ修正要否、対象年度、影響税目、附帯税
回答方針メモ調査で聞かれた場合に事実として説明する内容
追加資料依頼リスト社内で集める資料、相手先へ確認する資料
再発防止メモ今後の資料管理、承認フロー、月次レビュー改善

これらは、税務調査のためだけにとどまりません。将来の決算レビュー、税務判断の品質管理、金融機関への説明、M&Aの税務DDにも役立っていきます。

税務調査前の相談は、会社の税務判断を見直す最後の機会

税務調査前の専門家相談は、単に調査当日を乗り切るためのものではありません。

むしろ、会社に対して、次のような問いを突きつける機会です。

この役員報酬は、会社としていつ、どのような理由で決めたのか。

この退職金は、本当に退職の実態に対応しているのか。

この貸倒損失は、回収不能になった事実をきちんと説明できるのか。

この関係会社支援は、支援先のためではなく、自社の事業上必要だったと説明できるのか。

この在庫評価や修繕費の処理は、金融機関や株主にも同じ説明ができるのか。

この組織再編や資本取引は、税負担の軽減以外に、どのような事業目的があったのかを資料で示せるのか。

この海外取引は、源泉税や移転価格を、契約の段階できちんと確認していたのか。

税務調査で問題になる処理の多くは、調査当日に突然生まれるわけではありません。決算のとき、契約のとき、支払のとき、役員会のとき、投資判断のとき。そのそれぞれの場面で、論点はすでに発生しているのです。

ですから調査前の相談で本当に重要なのは、「どう答えるか」ではありません。なぜその処理をしたのかを、会社として説明できる状態に戻しておくことなのです。

まとめ

税務調査前に専門家へ相談すべき法人税論点は、売上や経費を単純に確認するだけにとどまりません。

役員給与、交際費、寄附金、貸倒、在庫、固定資産、関係会社取引、出向、資本取引、組織再編、国際取引。会社の経営判断と密接に結びつくこうした論点こそ、事前に棚卸ししておくべきものです。

税務調査前の相談で確認すべきことは、大きく次の3つに整理できます。

第一に、事実です。契約、請求、検収、入出金、議事録、稟議、成果物、価格根拠が、申告処理ときちんと整合しているかを確認します。

第二に、税務判断です。会計処理をそのまま税務上も認めてよいのか、税務調整が必要だったのか、別表や届出に反映されているかを確認します。

第三に、対応方針です。説明で足りるのか、修正申告を検討すべきか、争点として整理すべきか。附帯税や将来への影響まで含めて判断します。

税務調査は、過去の申告を確認する手続です。しかしその対応は、将来の会社の信用にも影響していきます。金融機関、株主、後継者、そしてM&Aの相手方に対しても説明できる数字を残すためには、調査が始まる前の段階で、重要論点を整理しておくことが欠かせません。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査前の論点整理、申告書・別表・証憑のレビュー、そして役員給与・退職金・貸倒・関係会社取引・組織再編・国際取引といった高リスク論点の事前確認を支援しています。税務調査の連絡を受けた場合や、過去の申告処理に説明しにくい論点があると感じる場合は、調査が始まる前の早い段階で、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り

項目重要ポイント
調査前相談の目的言い訳づくりではなく、事実・資料・税務判断・対応方針を整理すること
最初に見るべき視点金額が大きい、役員・株主・関係会社が絡む、判断を伴う、資料が弱い、継続処理である
役員給与定期同額給与、事前確定届出給与、期中改定、議事録、届出を確認する
役員退職金退職事実、分掌変更後の実態、金額算定、支給決議を確認する
交際費領収書だけでなく、相手先、参加者、目的、事業関連性を確認する
寄附金関係会社支援、債権放棄、費用負担の経済合理性を確認する
貸倒損失法律上・事実上・形式基準のどれで説明するかを整理する
在庫実地棚卸、評価損、廃棄、期末カットオフを確認する
固定資産取得価額、供用日、耐用年数、修繕費と資本的支出を確認する
税額控除要件、保存書類、別表、当初申告要件、制度選択を確認する
関係会社取引契約、価格根拠、費用配賦、寄附金・受贈益リスクを確認する
出向・転籍給与負担、賞与・退職金負担、役員出向、源泉処理を確認する
資本取引自己株式、減資、DES、みなし配当、株価資料を確認する
組織再編適格要件、事業目的、欠損金制限、時価課税、包括否認を確認する
国際取引源泉税、租税条約、PE、移転価格、外国子会社合算税制を確認する
修正申告判断明らかな誤りか、解釈・事実認定の争点かを分けて判断する
避けるべき対応過去日付資料、資料隠し、説明の不一致、安易な修正申告
相談前資料申告書、決算書、元帳、契約書、議事録、稟議書、台帳、関係会社資料を準備する
相談の成果物論点一覧、判断メモ、資料一覧、修正申告検討メモ、再発防止メモを残す
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