消費税の課税対象を判断するとき、私たちはまず「国内において、事業者が事業として、対価を得て、資産の譲渡・貸付け・役務の提供を行ったかどうか」を確認します。
このうち、実務でとりわけ判断に迷いやすいのが「事業として」という要件です。
たとえば、同じ資産の売却であっても、それが事業用資産であれば消費税の課税対象となり、生活用資産であれば課税対象にならないことがあります。報酬の支払いも同様です。独立した事業者への外注費であれば課税仕入れとなりますが、給与であれば課税仕入れにはなりません。
同じ個人の活動であっても、単なる私的な取引なのか、それとも反復・継続・独立して行われる事業活動なのかによって、消費税の取扱いは変わってくるのです。
この点について、国税庁は「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡・貸付け・役務の提供を、反復・継続・かつ独立して行うことをいうと説明しています。さらに、事業活動の一環として、あるいはこれに関連して行われる取引も課税対象に含まれ、事業に使用していた自動車・機械・建物などの事業用資産を売却した場合も、事業として行う取引にあたると整理されています。
出典:国税庁|No.6109 事業者が事業として行うものとは
本記事では、この「事業として」の判断について、法人・個人事業者・個人取引・副業・事業用資産の売却、そして給与と外注費の区分まで含めて整理していきます。
「事業として」は、所得税の事業所得と同じではない
最初に押さえておきたいのは、消費税でいう「事業」と、所得税でいう「事業所得」は、同じ概念ではないという点です。
所得税では、所得を事業所得・不動産所得・給与所得・雑所得・譲渡所得などに区分します。この区分は、所得金額の計算方法、必要経費の範囲、損益通算、青色申告などに影響します。
一方で消費税は、所得の種類そのものを問いません。見るのは、その取引が「事業者の立場で、反復・継続・独立して行われる資産の譲渡等」にあたるかどうかです。
国税庁の質疑応答事例でも、所得税法における「事業」と「業務」の区分は消費税法における「事業」とは異なり、消費税法上の「事業」は所得税法にいう「事業」よりも広い概念であると示されています。
出典:国税庁|消費税における「事業」の定義
この違いは、実務のうえでかなり重要です。
たとえば、個人事業者が事業用資産を売却した場合、所得税では譲渡所得として処理されることがあります。ところが消費税では、その資産が事業用資産である以上「事業者が事業として行う取引」にあたり、課税対象となる可能性があるのです。実務上も、個人事業者の事業用資産の譲渡は、所得税の所得区分にかかわらず消費税の課税要件で判断する必要があり、事業用資産か個人用資産かで課税関係が変わってきます。
したがって、「これは所得税では事業所得ではないから、消費税も関係ない」と短絡的に判断することはできません。消費税では、消費税法上の事業性を別途確認しておく必要があります。
法人が行う取引は、原則として「事業として」に該当する
法人の場合、「事業として」の判断は、個人よりも広く捉えられます。
国税庁は、株式会社などの会社、国、都道府県、市町村、公共法人、宗教法人、医療法人など、法人はすべて事業者になると説明しています。
出典:国税庁|No.6109 事業者が事業として行うものとは
また、消費税法基本通達においても、法人が行う資産の譲渡・貸付け・役務の提供は、そのすべてが「事業として」に該当するとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達 第5章第1節 通則
ただし、ここで誤解してはなりません。法人の入金や支出が、すべて課税取引になるという意味ではないからです。法人が行う取引であっても、次のような確認は別途必要になります。
| 確認項目 | 判断内容 |
|---|---|
| 国内取引か | 国外取引であれば、国内取引としての課税対象から外れる可能性がある |
| 対価性があるか | 反対給付のない入金は、課税対象にならない可能性がある |
| 資産の譲渡等か | 単なる資金移動、配当、保険金などは資産の譲渡等に該当しないことがある |
| 非課税取引か | 土地の譲渡、住宅貸付け、金融取引等は非課税となる場合がある |
| 免税取引か | 輸出取引等は課税対象に含まれつつ免税となる場合がある |
法人については、「事業として」の要件そのもので迷う場面は比較的少ないといえます。むしろ、取引の性質、対価性、非課税、免税、内外判定といった部分で誤りが生じやすくなります。
たとえば、法人が固定資産を売却した場合、それは通常、法人が事業として行う資産の譲渡にあたります。売却が本業ではないからといって、直ちに消費税の課税対象外になるわけではありません。税務調査でも、固定資産の売却益の計上時期や資産処分は確認対象になりやすく、臨時的な取引だからと軽視するのは禁物です。
個人事業者は「事業者の立場」と「消費者の立場」を分ける
個人事業者の場合は、法人よりも判断が難しくなります。同じ一人の個人が、「事業者の立場」と「消費者の立場」の両方を併せ持っているからです。
国税庁も、個人事業者については、事業者の立場で行う取引は「事業として」に該当し、消費者の立場で行う取引は「事業として」には該当しないと説明しています。
出典:国税庁|No.6109 事業者が事業として行うものとは
そのため、個人事業者が何かを売却した場合には、その資産がどちらの立場で保有・使用されていたのかを、まず確認することになります。
- 事業用の商品を販売する
- 事業で使用していた車両を売却する
- 店舗設備や機械を売却する
- 賃貸事業に使用していた建物を譲渡する
こうした取引は、事業活動の一環として、あるいはこれに関連して行われる取引として、消費税の課税対象になり得ます。
一方で、生活用の自家用車、家庭用テレビ、家財など、事業用ではない生活用資産を売却した場合は、通常「事業として」には該当しません。国税庁も、個人事業者が事業用でない生活用資産を売った場合には、事業として行う取引とはならず、消費税は課税されないと説明しています。
消費税法基本通達でも、個人事業者が生活の用に供している資産を譲渡する場合、その譲渡は「事業として」には該当しないとされています。
この判断は、金額の大小だけで決まるものではありません。高額な資産であっても、生活用資産であれば原則として事業としての取引にはなりません。逆に、事業で使用していた資産であれば、本業の商品販売ではない臨時的な売却であっても、事業として行う取引になり得ます。
判断の中心は「反復・継続・独立」
「事業として」の中核をなすのは、反復・継続・独立という三つの視点です。
国税庁も、消費税法における事業を、同種の行為を反復・継続かつ独立して遂行することと説明しています。
この三つは、次のように整理できます。
| 要素 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 反復 | 同種の取引が繰り返される性質を持っているか |
| 継続 | 一時的・偶発的ではなく、継続的に行う意思や実態があるか |
| 独立 | 自己の計算と責任で取引を行っているか |
ここで大切なのは、形式的な回数だけを見るのではなく、取引全体の性質を見るということです。
一度きりの取引であっても、既存の事業活動に付随する資産売却であれば、事業として行う取引になり得ます。反対に、複数回の取引があったとしても、雇用契約に基づく給与収入のように、自己の計算と責任で独立して行っていないものは、消費税上の事業には該当しません。
実務では、次のような資料を確認していきます。
| 確認資料 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 契約書・注文書 | 継続取引か、単発取引か、契約上の義務は何か |
| 請求書・領収書 | 継続的な請求か、対価の計算方法はどうなっているか |
| 入出金明細 | 取引の頻度、相手方、金額の推移 |
| 広告・ウェブサイト・出品ページ | 外部に向けて継続的に販売・提供しているか |
| 仕入・在庫・固定資産台帳 | 事業用として取得・管理しているか |
| 許認可・登録情報 | 事業としての活動に必要な手続を行っているか |
| 業務報告書・成果物 | 独立した役務提供として説明できるか |
「反復・継続・独立」は、単なる概念にとどまるものではありません。後日、税務調査で確認された際に、契約・請求・証憑・会計処理・業務実態をもって説明できることが求められます。
副業・個人取引は、所得区分だけで判断しない
近年は、個人がさまざまな形で収入を得る機会が増えました。副業、オンライン販売、継続的な役務提供、デジタルコンテンツ、シェアリングサービスなど、個人の活動と事業活動の境界が見えにくい取引も少なくありません。
こうした場合も、所得税上の事業所得か雑所得かだけで消費税を判断するのは適切ではありません。
消費税で見るのは、あくまで対価を得て資産の譲渡・貸付け・役務の提供を反復・継続・独立して行っているかどうかです。国税庁の研究でも、消費税法における「事業」の意義は、所得税法や地方税法のそれよりも広く捉えられることが示されています。
出典:国税庁 税務大学校論叢|シェアリングエコノミーと消費税-「事業として」の範囲及びその捕捉の在り方-
そこで、副業収入については、次のような観点から整理していきます。
| 確認観点 | 判断のポイント |
|---|---|
| 継続性 | 継続的に受注・販売・提供しているか |
| 事業目的 | 利益を得る目的で仕入れ、制作、販売、提供をしているか |
| 独立性 | 取引条件、価格、提供方法を自ら決定しているか |
| 顧客対応 | 不特定または複数の相手方にサービスや商品を提供しているか |
| 必要経費・設備 | 事業用の設備、材料、外注、広告等があるか |
| 証憑 | 契約、請求、決済、納品、業務記録が残っているか |
もっとも、これらの要素が一つ当てはまるだけで、直ちに課税対象と断定できるわけではありません。大切なのは、その個人が消費者として単発・私的に取引しているのか、それとも事業者として独立して取引しているのかを、事実に基づいて丁寧に整理することです。
事業用資産の売却は、本業でなくても課税対象になり得る
「本業ではない取引だから、消費税は関係ない」——このように考えてしまうと、事業用資産の売却で誤りが生じます。
国税庁は、事業活動の一環として、あるいはこれに関連して行われる取引も課税対象になると説明しています。たとえば、商品の配達用に使用していたトラックを売却した場合のように、事業に使用していた自動車・機械・建物などの事業用資産を売った場合も、事業として行う取引にあたるとされています。
出典:国税庁|No.6109 事業者が事業として行うものとは
この考え方は、法人だけでなく個人事業者にとっても重要です。
個人事業者が事業用資産を法人へ移転する、いわゆる法人成りの場面でも、通常は個人から法人への資産の譲渡として処理します。個人事業者が課税事業者である場合には、その事業用資産の譲渡が消費税の課税対象取引となります。
また、個人事業者の事業用資産の譲渡は、所得税では譲渡所得として扱われることがあっても、消費税では事業用資産の譲渡として課税対象になる可能性があります。
実務上は、次のような資産について確認が必要になります。
| 資産 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 車両 | 事業用として使用していたか、家事用部分があるか |
| 機械装置 | 製造・作業・サービス提供に使用していたか |
| 建物 | 事業用、賃貸用、住宅用のいずれか |
| 備品 | 事務所、店舗、作業場で使用していたか |
| 棚卸資産 | 販売目的か、事業供用へ転用したものか |
| 無形資産 | 営業権、ソフトウェア、権利等の取引か |
とりわけ高額な資産を売却する場合は、課税売上高、課税売上割合、インボイスの発行、納税資金、原則課税・簡易課税の選択にまで影響が及びます。固定資産の売却を「臨時収入」としてだけ捉えてしまうと、消費税の申告で大きなズレが生じかねません。
家事共用資産は、事業用部分と生活用部分を分ける
個人事業者の場合、一つの資産が事業用と生活用の両方に使われていることがあります。いわゆる家事共用資産です。
この場合、消費税では、資産全体を一括して課税または不課税と見るのではなく、事業用部分と家事用部分を分けて考える必要があります。
実務上も、家事共用資産を譲渡した場合、個人事業者が消費税の課税事業者であれば、事業用に供した部分に係る譲渡対価のみが課税売上となり、家事用部分に係る譲渡対価は課税売上にはならない、と整理されます。
また、家事共用資産の取得時には、事業用部分に係る消費税のみが仕入税額控除の対象となり、家事用部分に係る消費税は仕入税額控除の対象にはなりません。
この区分を行うには、取得時・使用時・売却時の記録がものをいいます。
| 確認事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 使用実態 | 事業用と生活用の割合をどう把握するか |
| 取得時の処理 | 仕入税額控除の対象部分をどう判断したか |
| 固定資産台帳 | 事業用資産として管理していたか |
| 経費計上 | 減価償却費、保険料、修繕費等をどう按分していたか |
| 売却時の契約 | 譲渡対価のうち事業用部分をどう説明するか |
| インボイス | 課税取引部分について適格請求書を発行できるか |
家事共用資産は、税務調査で説明が難しくなりやすい領域です。取得時の判断、使用実態、売却時の処理がつながっていないと、後から合理的に説明することが困難になります。
給与か外注費かは「事業として」の判断に直結する
「事業として」の判断のなかでも、実務上の影響がとりわけ大きいのが、給与と外注費の区分です。
外注費として処理すれば、支払先が事業者として役務を提供していることを前提に、支払側では課税仕入れとして仕入税額控除の対象となる可能性があります。一方、給与として処理すべきものは、雇用関係に基づく労務の提供であり、消費税の課税仕入れにはなりません。
消費税法基本通達では、事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうとしたうえで、個人が雇用契約またはこれに準ずる契約に基づいて他の者に従属し、その他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないとされています。出来高払の給与は事業に該当せず、請負による報酬は事業に該当します。区分が明らかでないときは、代替性、指揮監督、報酬請求権、材料・用具の供与などを総合的に勘案して判定することになります。
出典:国税庁|消費税法基本通達 第1章第1節 個人事業者の納税義務
この判断は、契約書の表題だけで決まるものではありません。たとえば、次のような事情があったとします。
- 「業務委託契約書」がある
- 請求書が発行されている
- 消費税額が請求されている
- 源泉徴収していない
- 社会保険に加入していない
これらは判断材料にはなりますが、それだけで外注費と確定するわけではありません。実態として、指揮監督を受け、代替性がなく、作業時間に応じて報酬が支払われ、材料や用具を会社が用意し、未完成リスクを本人が負っていない——このような場合には、給与に近い性質を持つ可能性があります。
実務上も、外形上は業務委託契約が締結されていても、報酬が時間単価で算定され、会社の指揮監督下で作業しているなど、雇用契約と同視できる実態がある場合には、外注費ではなく給与として扱われ、源泉所得税と消費税の追徴につながることがあります。
給与か外注費かを判断する際には、次の観点を整理します。
| 観点 | 外注・請負に近い事情 | 給与に近い事情 |
|---|---|---|
| 代替性 | 本人以外の者による履行が可能 | 本人の労務提供が前提 |
| 指揮監督 | 作業方法を自ら決める | 会社の具体的指示に従う |
| 報酬請求権 | 成果・完成に応じて請求 | 時間・勤務に応じて支払 |
| リスク負担 | 未完成・瑕疵のリスクを負う | 労務提供自体で報酬が発生 |
| 材料・用具 | 自ら準備する | 会社が供与する |
| 独立性 | 複数顧客、自己の計算と責任 | 特定会社への従属性が強い |
この区分を誤ると、支払側では仕入税額控除の過大計上、源泉所得税の不徴収、社会保険・労務上の問題が連鎖して生じます。単なる勘定科目の問題ではなく、契約・人事・経理・税務が交差する重要な論点です。
出向負担金・人件費名目の支払いにも注意する
人に関する支払いでは、出向負担金にも注意が必要です。
出向先が出向元に支払う金額について、その名目が「経営指導料」や「業務委託料」などであっても、実質的に出向者の給与負担金である場合には、給与として取り扱われることがあります。消費税実務でも、給与負担金は出向先における出向者に対する給与として取り扱う、という整理がなされています。
このような取引では、名称よりも実態が重要になります。
| 名目 | 確認すべき実態 |
|---|---|
| 経営指導料 | 実際に独立した指導役務が提供されているか |
| 業務委託料 | 出向者個人の人件費相当額ではないか |
| 負担金 | 本来誰が負担すべき給与か |
| 手数料 | 役務提供の対価として合理的な計算か |
| 出向負担金 | 出向契約、給与支給、指揮命令関係と一致しているか |
人件費に関する支払いは、契約名や請求書だけで税区分を決めると誤りやすい領域です。事業として独立した役務提供があるのか、それとも雇用・出向・給与負担の実質なのかを、丁寧に分けて判断する必要があります。
付随行為も「事業として」に含まれる
事業者が行う取引は、本業の販売やサービス提供だけにとどまりません。
- 事業活動のために取得した資産を処分する
- 事業用設備を売却する
- 店舗を閉鎖して備品を売却する
- 法人成りに伴って個人事業の資産を法人へ移転する
- 事業廃止に伴って棚卸資産や固定資産を処分する
これらは、本業そのものではなくても、事業活動の一環として、あるいはこれに関連して行われる取引です。
国税庁の説明でも、事業に使用していた自動車・機械・建物などの事業用資産の売却は、事業として行う取引になるとされています。
出典:国税庁|No.6109 事業者が事業として行うものとは
したがって、事業用資産の売却を、単なる雑収入・不課税収入・譲渡所得の問題としてだけ処理するのは不十分です。消費税の課税対象となるか、非課税取引に該当するか、課税売上割合に影響するか、インボイスを発行すべきか——これらを確認しておく必要があります。
法人成りの場面でも、個人事業者が事業用資産を法人へ譲渡する場合には、通常、個人から法人への資産の譲渡として処理します。時価や販売価額、法人側の取得価額、消費税の負担・控除関係まで含めて検討することが求められます。
「事業として」に該当しても、直ちに課税取引とは限らない
ここまで「事業として」の判断を見てきました。ただ、忘れてはならないのは、これが消費税判断の一部にすぎないという点です。
「事業として」に該当したとしても、その後には次の判断が残ります。
- 国内取引か
- 対価を得ているか
- 資産の譲渡・貸付け・役務の提供に該当するか
- 非課税取引に該当しないか
- 免税取引に該当しないか
- 適用税率は標準税率か軽減税率か
- インボイスの発行・保存要件を満たすか
- 買手側で仕入税額控除できるか
たとえば、事業者が行う土地の譲渡は、事業として行う取引であっても、非課税取引となります。事業者が国外で行う取引は、事業として行っていても、そもそも国内取引ではない可能性があります。また、事業者への入金であっても、対価性のない補助金や損害賠償金であれば、課税対象外となる可能性があります。
つまり、「事業として」に該当するかどうかは、課税対象性を判断するための一つの関門にすぎません。ここを通過したうえで、非課税・免税・税率・課税標準・仕入税額控除へと進んでいく必要があります。
実務での確認手順
「事業として」に該当するかを判断する際は、次の順序で整理すると、実務に落とし込みやすくなります。
1. 取引主体を確認する
まず、取引を行っている者が法人か個人かを確認します。
法人であれば、その法人が行う資産の譲渡・貸付け・役務の提供は、原則として事業としての取引です。個人であれば、事業者の立場で行っているのか、それとも消費者の立場で行っているのかを確認します。
ここを曖昧にしたまま処理してしまうと、個人の生活用資産の売却を課税売上にしてしまったり、逆に個人事業者の事業用資産の売却を不課税にしてしまったりする誤りが生じます。
2. 取引が事業活動とどう関係するかを確認する
次に、その取引が事業活動そのものなのか、事業活動に付随する取引なのか、あるいは私的な取引なのかを確認します。
販売用商品の売上、役務提供、賃貸料、委託料などは、通常、事業活動そのものです。事業用車両や機械の売却、店舗閉鎖時の備品売却、法人成りに伴う資産移転は、事業活動に付随する取引です。生活用資産の売却や私的な財産処分は、原則として消費者の立場での取引にあたります。
3. 反復・継続・独立の有無を確認する
個人の副業や個人取引では、反復・継続・独立の有無が重要になります。
- 継続的に顧客を募集しているか
- 同種の取引を繰り返しているか
- 自己の計算と責任で価格や条件を決めているか
- 雇用関係に従属していないか
- 事業用の設備、在庫、広告、契約、決済手段があるか
これらを総合して判断します。
4. 給与・外注の境界を確認する
人に関する支払いでは、契約書の名称だけでなく、実態を確認します。
業務委託契約書があっても、実態が雇用に近ければ、給与と判断される可能性があります。請求書があっても、指揮監督、代替性、材料・用具の供与、報酬請求権などの事情を確認する必要があります。
給与と外注費の区分は、消費税だけでなく、源泉所得税、社会保険、労務管理、税務調査対応にも影響します。
5. 証憑と判断記録を残す
最後に、判断の根拠を記録します。
消費税の税区分は、担当者の頭の中に残しておくものではありません。契約書、請求書、業務報告書、固定資産台帳、使用実態、社内承認、判断メモを残しておく必要があります。
月次監査や月次確認でも、新規契約、更新・解約、設備投資、資産売却・除却、特殊な販売形態、電子取引など、税務判断に影響する取引を事前に確認しておくことが大切です。
なお、国税庁も、事業等を行うすべての方について記帳と帳簿書類の保存が必要であり、消費税の課税事業者は取引等を税率ごとに区分して記帳することなどが必要であると案内しています。
出典:国税庁|確定申告 記帳・帳簿等の保存について
税務調査で問われるのは「事業として」と判断した理由
税務調査では、税区分の結論だけでなく、その結論に至った事実関係が確認されます。
- なぜ事業用資産と判断したのか
- なぜ生活用資産ではないと判断したのか
- なぜ外注費と判断したのか
- なぜ給与ではないと判断したのか
- なぜ副業収入を事業として扱ったのか
- なぜその資産売却を課税売上に含めたのか
このとき、会計ソフトの税区分や勘定科目だけでは、説明として十分ではありません。
税務調査では、契約書、請求書、業務実態、指揮監督関係、支払方法、固定資産台帳、使用状況、取引先とのやり取りなどをもとに、課税要件に該当する事実が確認されます。課税要件と要件事実、そして証拠資料を分けて整理しておくことは、税務調査対応の前提になります。
つまり、「事業として」の判断は、申告時に税区分を選ぶ作業ではありません。取引の開始時から証拠を残していく、継続的な管理項目なのです。
本記事で扱わない論点
本記事では、「事業として行う取引」に該当するかどうかを中心に整理してきました。
一方で、次の論点は本記事の対象外としています。
- 国内取引か国外取引かの内外判定
- 対価性の有無
- 資産の譲渡・貸付け・役務の提供の区分
- 非課税取引に該当するか
- 輸出免税に該当するか
- 軽減税率の適用可否
- 課税標準や売上計上時期
- 仕入税額控除の帳簿・インボイス保存要件
- 簡易課税、2割特例、3割特例の適用判断
「事業として」に該当するかどうかは、消費税の課税対象性を判断する入口の一部にすぎません。ここを整理したうえで、他の要件や特例へと進んでいく必要があります。
まとめ
「事業として行う取引」とは、対価を得て行う資産の譲渡・貸付け・役務の提供を、反復・継続・独立して行うことをいいます。
- 法人が行う資産の譲渡・貸付け・役務提供は、原則として事業として行う取引に該当します。
- 個人事業者の場合は、事業者の立場で行う取引と、消費者の立場で行う取引を分ける必要があります。
- 事業用資産の売却は、本業でなくても課税対象になり得ます。
- 生活用資産の売却は、原則として事業としての取引には該当しません。
- 給与と外注費の区分では、契約名ではなく実態を確認します。
- 副業や個人取引では、所得税上の所得区分だけでなく、消費税法上の反復・継続・独立性を確認します。
消費税の判断を安定させるためには、法律上の要件、取引の事実、保存された証拠を分けて整理することが欠かせません。とりわけ、個人事業者の資産売却、家事共用資産、法人成り、業務委託、出向負担金、副業収入については、取引の開始時、あるいは処理の時点で、判断の根拠を残しておく必要があります。
主な根拠・参照情報
- 出典:e-Gov法令検索|消費税法
- 出典:国税庁|No.6109 事業者が事業として行うものとは
- 出典:国税庁|消費税における「事業」の定義
- 出典:国税庁|消費税法基本通達 第1章第1節 個人事業者の納税義務
- 出典:国税庁|消費税法基本通達 第5章第1節 通則
- 出典:国税庁|確定申告 記帳・帳簿等の保存について
ご相談について
「事業として」に該当するかどうかは、単に課税・不課税を分けるだけの問題ではありません。
事業用資産の売却、法人成り、家事共用資産、副業収入、業務委託、出向負担金などでは、消費税の納税額、仕入税額控除、インボイス対応、源泉所得税、社内運用、そして税務調査時の説明にまで影響が及びます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、消費税の課税対象性、事業用資産・生活用資産の区分、給与・外注費の判定、証憑整理、月次経理への落とし込みまで、取引の実態に基づいて整理する支援を行っています。
自社または個人事業の取引について、会計ソフト上の税区分や前例処理に不安がある場合は、契約書、請求書、固定資産台帳、業務フロー、支払資料を整理したうえで、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 確認事項 | 実務上のポイント |
|---|---|
| 事業としての意味 | 対価を得て行う資産の譲渡・貸付け・役務提供を反復・継続・独立して行うこと |
| 所得税との違い | 消費税の「事業」は、所得税の事業所得より広く捉えられる |
| 法人の取引 | 法人が行う資産の譲渡・貸付け・役務提供は原則として事業として行う取引 |
| 個人事業者 | 事業者の立場と消費者の立場を分けて判断する |
| 事業用資産の売却 | 本業ではない臨時売却でも、事業活動に関連すれば課税対象になり得る |
| 生活用資産の売却 | 個人事業者であっても、生活用資産の売却は原則として事業としての取引ではない |
| 家事共用資産 | 事業用部分と家事用部分を分けて課税関係を整理する |
| 副業・個人取引 | 所得区分ではなく、反復・継続・独立性と証拠で判断する |
| 給与と外注費 | 契約名ではなく、代替性、指揮監督、報酬請求権、材料・用具の供与等で判断する |
| 税務調査対応 | なぜ事業として、または私的取引として判断したのかを、契約・証憑・使用実態で説明できる状態にする |