適格請求書、いわゆるインボイスは、単なる請求書の書式ではありません。
これは、売手が買手に対して、どの取引に、どの税率が適用され、消費税額等がいくらであるかを伝えるための証憑です。買手側では、この適格請求書を保存することが、原則として仕入税額控除の要件になります。一方、売手側には、取引の相手方である課税事業者から求められた場合に適格請求書等を交付し、その写しを保存する義務があります。
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
したがって、適格請求書の整備は、請求書に登録番号を追加するだけでは足りません。
取引内容、税率、税率ごとの対価、消費税額等、端数処理、宛名、控えの保存、そして会計システムへの連携までを、一体で確認する必要があります。特に端数処理については注意が必要です。インボイス制度開始前の請求書処理をそのまま続けていると、法令上求められる消費税額等の記載と合わなくなることがあります。
本稿では、適格請求書の記載事項と消費税額等の端数処理に絞って整理します。適格簡易請求書、複数書類によるインボイス、返還インボイス、電子保存の詳細は、それぞれ別記事で深掘りする前提としつつ、ここでは請求書様式を整備する際に必ず押さえておきたい基礎を扱います。
適格請求書は「取引情報を税務上説明できる状態」にする書類
適格請求書とは、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段であり、一定の事項が記載された請求書や納品書、その他これらに類する書類を指します。そして、この適格請求書を交付できるのは、税務署長の登録を受けた適格請求書発行事業者に限られます。
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
ここで押さえておきたいのは、適格請求書が「請求書」という名称の一枚の紙に限定されるわけではない、という点です。
請求書、納品書、領収書、レシート、支払通知書、電子データなど、名称や媒体を問わず、必要事項を満たしていれば適格請求書になり得ます。逆に、見た目が請求書であっても、必要事項を満たしていなければ、買手側の仕入税額控除の証憑としては不十分になる可能性があります。
適格請求書の実務では、次の3つを分けて考える必要があります。
| 観点 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 法律上の要件 | 消費税法上、適格請求書に必要な記載事項を満たしているか |
| 取引事実 | 実際に誰が、いつ、何を、いくらで提供した取引なのか |
| 証拠・運用 | 請求書、納品書、契約書、販売管理データ、会計処理が後から照合できるか |
請求書様式だけを直しても、取引内容や税率判定が誤っていれば、適正なインボイス対応とはいえません。消費税実務では、取引区分、税率、請求書記載、帳簿、申告書がつながって初めて、第三者に説明できる処理になります。
適格請求書に必要な6つの記載事項
適格請求書には、次の事項が記載されている必要があります。
出典:国税庁|No.6625 適格請求書等の記載事項 出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問54 適格請求書に記載が必要な事項
| 記載事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 1. 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号 | 誰がインボイスを発行したかを特定する |
| 2. 課税資産の譲渡等を行った年月日 | いつの売上・仕入れかを特定する |
| 3. 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容 | 何を提供したかを特定する。軽減税率対象品目である場合はその旨も必要 |
| 4. 税率ごとに区分して合計した税抜価額又は税込価額及び適用税率 | 10%対象、8%対象など、税率別の対価を示す |
| 5. 税率ごとに区分した消費税額等 | 買手が確認する消費税額等を示す |
| 6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称 | 誰宛てのインボイスかを示す |
区分記載請求書等保存方式との違いで特に重要なのは、登録番号、適用税率、そして税率ごとに区分した消費税額等の記載が必要になった点です。実務の観点でも、インボイスには従来の区分記載請求書等の記載事項に加えて、この3点を追加する必要があると整理できます。
以下、それぞれの記載事項を実務目線で確認していきます。
1. 発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
適格請求書には、適格請求書発行事業者の氏名又は名称と登録番号を記載します。
登録番号は、法人であれば通常「T+法人番号13桁」、個人事業者等であれば「T+13桁の数字」です。登録番号が記載されていない請求書は、令和5年10月1日以後の適格請求書等保存方式の下では、原則として適格請求書としての要件を満たしません。
ただし、名称の記載については、必ずしも登記上の正式名称を完全に記載しなければならないわけではありません。適格請求書を交付する事業者を特定できる場合には、屋号や省略した名称などの記載でも差し支えないとされています。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問55 屋号による記載
また、取引先コード表などを売手・買手で共有し、そのコードから名称や登録番号を確認できる場合には、取引先コードの表示によって、発行事業者の氏名又は名称及び登録番号の記載があると認められることがあります。ただしこの場合、売手が適格請求書発行事業者でなくなったときには速やかにコード表を修正し、事後確認のために登録期間を確認できる措置を講じる必要があります。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問56 記号、番号による適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号の記載
実務上は、次の点を確認します。
- 請求書、領収書、レシート、電子請求書のすべてに登録番号が反映されているか
- 登録番号が「T」から始まる正しい番号になっているか
- 法人名、屋号、店舗名、ブランド名で発行する場合、発行事業者を特定できるか
- 複数店舗・複数事業部で、異なる名義の帳票が混在していないか
- 登録番号を取引先コードで管理する場合、買手側が確認できる資料を共有しているか
登録番号は、単なる表示項目ではありません。買手側が登録番号を確認し、仕入税額控除の可否を判断する入口になるものです。
2. 課税資産の譲渡等を行った年月日
適格請求書には、課税資産の譲渡等を行った年月日を記載します。
これは、請求書の発行日や入金日と常に一致するとは限りません。物品販売であれば引渡し、役務提供であれば役務提供の完了、継続取引であれば一定期間の取引をまとめて記載する方法など、取引の実態に応じて判断します。
なお、課税期間の範囲内であれば、一定期間内の取引をまとめて記載する方法も認められています。
出典:国税庁|No.6625 適格請求書等の記載事項
実務では、次のような整理が必要です。
| 取引形態 | 年月日の考え方 |
|---|---|
| 都度販売 | 実際の販売日・引渡日を記載する |
| 月次請求 | 対象期間を明示し、期間内の取引であることを分かるようにする |
| 納品書と請求書を組み合わせる場合 | 納品書側に納品日を記載し、請求書と関連付ける |
| 継続役務 | 役務提供期間や締日を明確にする |
| 前受金・予約販売 | いつ課税資産の譲渡等が行われたかを別途確認する |
請求書の発行日だけで売上計上時期を判断すると、会計処理と消費税の課税時期がずれることがあります。適格請求書の年月日は、売上計上、申告対象期間、取引先の仕入計上時期にも影響します。だからこそ、営業・販売管理・経理が同じ基準を共有しておくことが重要です。
3. 取引内容と軽減税率対象品目である旨
適格請求書には、課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容を記載します。軽減税率対象品目である場合には、その旨もあわせて記載する必要があります。
もっとも、商品名やサービス名を一つひとつ詳細に記載する方法だけが認められるわけではありません。個々の名称ではなく包括的な記載であっても、課税資産の譲渡等に当たることを明らかにできればよいとされています。商品名を記号や番号で表示する場合も同様で、記号表などによって課税資産の譲渡等に当たることを明らかにできれば差し支えありません。
出典:国税庁|No.6625 適格請求書等の記載事項
軽減税率対象品目については、「※」や「☆」などの記号を付し、その記号が軽減税率対象品目であることを示す方法も認められます。このほか、同一請求書内で商品を税率ごとに区分し、区分した商品が軽減税率対象であることを表示する方法や、税率ごとに請求書を分ける方法もあります。
出典:国税庁|No.6625 適格請求書等の記載事項
実務で問題になりやすいのは、次のような記載です。
- 「商品代」だけで、何を販売したか分からない
- 「一式」とだけ記載され、軽減税率対象かどうか判断できない
- 軽減税率対象品目の記号はあるが、記号の意味が請求書上で説明されていない
- 標準税率と軽減税率の商品が混在しているのに、税率別に区分されていない
- 物品、役務、立替金、非課税・不課税項目が一つの金額に混在している
「何を売ったか」は、税率判定の出発点です。取引内容の記載が曖昧だと、税率、課税標準、消費税額等、そして買手の仕入税額控除まで、連鎖的に不明確になっていきます。
4. 税率ごとに区分して合計した対価の額及び適用税率
適格請求書には、課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を、税率ごとに区分して合計した金額と、適用税率を記載します。
ここでのポイントは、税率ごとに区分して合計するという点にあります。
標準税率10%の取引、軽減税率8%の取引、課税対象外の取引、非課税取引が混在する場合、単に請求総額だけを記載しても、適格請求書として必要な情報を十分に示したことにはなりません。
たとえば、同一請求書に10%対象と8%対象が混在する場合には、次のような区分が必要です。
| 区分 | 記載イメージ |
|---|---|
| 10%対象 | 10%対象 税込〇〇円又は税抜〇〇円 |
| 8%対象 | 8%対象 税込〇〇円又は税抜〇〇円 |
| 課税対象外 | 入湯税、印紙代、立替金等として区分表示 |
税抜価額と税込価額のどちらで記載するかは、帳票設計上の重要な選択です。一つの適格簡易請求書のなかで、税抜価額を記載した商品と税込価額を記載した商品が混在する場合には、いずれかに統一したうえで「税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した額」を記載し、これに基づいて消費税額等を算出して記載する必要があります。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問59 税抜価額と税込価額が混在する場合
実務上は、次のいずれかに方針を統一しておくことが望ましいでしょう。
| 方針 | 留意点 |
|---|---|
| 税込ベースで税率別合計を記載する | 小売、飲食、BtoC取引では分かりやすいが、消費税額の割戻計算に注意 |
| 税抜ベースで税率別合計を記載する | BtoB請求書では管理しやすいが、税込表示や契約金額との整合性が必要 |
| 明細は税込・税抜混在、合計欄で統一する | システム設計を誤ると端数処理が崩れやすい |
見るべきは請求書の見た目ではありません。税率別の合計額が、消費税額等の計算、会計処理、申告集計と整合しているかどうかを確認する必要があります。
5. 税率ごとに区分した消費税額等
適格請求書では、税率ごとに区分した消費税額等の記載が必要です。
ここが、インボイス制度において請求書様式と会計処理のズレが最も生じやすい箇所です。
適格請求書に記載する消費税額等は、税率ごとに合計した課税資産の譲渡等に係る税抜価額又は税込価額に、一定割合を乗じて算出します。そして1円未満の端数が生じた場合には、一の適格請求書につき、税率ごとに1回だけ端数処理を行います。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問66 複数の契約に係る適格請求書の交付の可否
計算の考え方は、次のとおりです。
| 記載する対価の額 | 消費税額等の計算 |
|---|---|
| 税抜価額の合計額 | 税抜価額の合計額 × 10%又は8% |
| 税込価額の合計額 | 税込価額の合計額 × 10/110又は8/108 |
端数処理の方法自体は、切上げ、切捨て、四捨五入など任意です。ただし、個々の商品ごとに消費税額等を計算して端数処理し、その合計額を消費税額等として記載することは認められません。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問57 適格請求書に記載する消費税額等の端数処理
この点は、実務の整理としても同じです。適格請求書の消費税額等は、一の適格請求書につき税率ごとに1回の端数処理を行うものであり、個々の商品ごとに端数処理した消費税額等を合計する方法は認められません。
端数処理で特に間違えやすい実務パターン
明細行ごとに端数処理している
販売管理システムやレジシステムでは、商品明細ごとに消費税を計算していることがあります。
しかし、適格請求書に記載する消費税額等としては、明細ごとに端数処理した金額の合計ではなく、一の適格請求書につき税率ごとに1回端数処理した金額を記載する必要があります。
明細行ごとの税額を参考情報として表示すること自体は、直ちに問題になるわけではありません。ただし、法令上の記載事項としての消費税額等がどの金額なのか、請求書上で明確にしておく必要があります。
契約ごとに端数処理した税額を合計している
複数の契約や複数の事業所分を1枚の請求書でまとめて請求する場合、契約ごとに計算した消費税額等を合計したくなります。
しかし、1枚の適格請求書として発行するのであれば、その請求書全体について税率ごとに合計し、税率ごとに1回端数処理するのが原則です。契約ごとに算出した消費税額等を参考として記載すること自体は問題ありませんが、それは法令上求められる適格請求書の記載事項としての消費税額等にはなりません。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問66
この場合、対応は大きく2つに分かれます。
| 方法 | 端数処理 |
|---|---|
| 複数契約を1枚の適格請求書にまとめる | その1枚につき、税率ごとに1回 |
| 契約ごとに別々の適格請求書を発行する | 各適格請求書ごとに、税率ごとに1回 |
どちらが正しいというより、請求実務、控えの保存、取引先の利便性、会計システムの対応を踏まえて、どの単位を「一の適格請求書」とするかを決めることが大切です。
納品書と請求書の組合せで端数処理の単位が曖昧になっている
適格請求書は、一の書類だけですべての記載事項を満たす必要はありません。複数の書類相互の関連が明確で、取引内容を正確に認識できる方法で交付されていれば、複数の書類により適格請求書の記載事項を満たすことができます。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問67 複数書類で適格請求書の記載事項を満たす場合の消費税額等の端数処理
ただし、複数書類で対応する場合は、どの書類に「税率ごとに区分した消費税額等」を記載するかによって、端数処理の単位が変わります。
たとえば、納品書に税率ごとの合計金額、適用税率、消費税額等を記載し、請求書には登録番号を記載して両者を組み合わせる場合には、納品書につき税率ごとに1回の端数処理を行うことになります。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問67
つまり、複数書類方式では、次の設計が重要になります。
- 納品書単位で消費税額等を確定させるのか
- 月次請求書単位で消費税額等を確定させるのか
- 納品書番号、請求書番号、取引期間をどう関連付けるのか
- 買手側がどの書類一式を保存すればよいのか
- 売手側がどの書類一式を写しとして保存するのか
複数書類方式は、既存の業務を活かせる一方で、関連性が曖昧だと証憑不備になりやすい方法でもあります。
6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
適格請求書には、書類の交付を受ける事業者、つまり買手の氏名又は名称を記載します。
BtoB取引では、請求書の宛名がこの記載事項に当たります。法人名、屋号、部署名、店舗名、支店名などが混在する場合には、取引先を特定できるかどうかを確認する必要があります。
一方、小売業、飲食店業、タクシー業など、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う一定の事業では、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付することができます。適格簡易請求書では、書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称の記載が不要であり、税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率のいずれか一方の記載で足ります。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58 適格簡易請求書の記載事項
また、手書きの領収書であっても、適格請求書又は適格簡易請求書として交付することは可能です。適格簡易請求書では宛名の省略が認められており、「上様」の表記も可能とされています。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58-2 手書きの領収書による適格簡易請求書の交付
ただし、適格簡易請求書を発行できるかどうかは、単にレシート形式かどうかで決まるものではありません。不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う一定の事業に該当するかを確認する必要があります。業種名だけで判断せず、実際の販売形態を確認することが重要です。
課税対象外・非課税項目を同じ書類に記載する場合
請求書や領収書には、課税取引だけでなく、課税対象外の項目や非課税項目が混在することがあります。
たとえば、宿泊料と入湯税、商品代と立替金、課税手数料と印紙代、賃料と保証金などです。こうした課税対象外の取引について、適格請求書等の交付義務はありませんが、適格請求書等に併せて記載すること自体は可能です。ただしその場合には、受け取った対価のうち課税対象外のものを除いた税抜価額又は税込価額を、税率ごとに区分して合計した金額として記載する必要があります。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58-2
実務上は、次のように分けて表示します。
| 項目 | インボイス上の扱い |
|---|---|
| 課税売上10% | 税率別合計と消費税額等の対象 |
| 軽減税率8% | 税率別合計と消費税額等の対象 |
| 非課税取引 | 課税対象とは別に表示 |
| 不課税・課税対象外 | 課税対象とは別に表示 |
| 立替金 | 本来の債務者・証憑関係を確認し、対価と区別 |
課税対象外の金額を請求総額に含めること自体はあります。しかし、それを消費税額等の計算対象に含めるかどうかは、まったく別の問題です。請求総額と、税率別の課税対象額を区別できるようにしておくことが、請求書設計上の基本になります。
売上税額の積上げ計算と請求書上の消費税額等
インボイス制度の下では、令和5年10月1日以後の消費税申告において、売上税額及び仕入税額の計算方法を選択できます。適格請求書に記載のある消費税額等を積み上げて計算する「積上げ計算」と、適用税率ごとの取引総額を割り戻して計算する「割戻し計算」の2つです。ただし、売上税額を積上げ計算により計算する場合には、仕入税額も積上げ計算により計算しなければならないとされています。
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
このため、請求書に記載する消費税額等は、申告計算にも影響し得ます。
「請求書に載せる消費税額」と「申告で使う売上税額」は別物だと考えてしまうと、請求・会計・申告の整合性が崩れてしまいます。特に積上げ計算を採用する場合には、請求書上の消費税額等、売上データ、会計仕訳、申告集計が一致するように管理する必要があります。
請求書様式を整えるときの実務チェック
適格請求書の様式を整えるときは、次の順序で確認していくと、漏れを減らせます。
1. 自社の発行帳票を洗い出す
請求書だけでなく、領収書、レシート、納品書、支払通知書、精算書、電子請求書、PDF、EDI、ECサイト上の領収データも確認します。
一部の帳票だけ登録番号が入っていない、店舗レジだけ税率別表示が古い、EC領収書だけ消費税額等の表示が違う、といったミスは少なくありません。
2. どの帳票を適格請求書とするか決める
すべての帳票を単独で適格請求書にする必要はありません。
納品書と請求書を組み合わせる、月次請求書でまとめる、レシートを適格簡易請求書とするなど、業務実態に合った設計が必要です。ただし、複数書類で対応する場合には、書類相互の関連性を明確にしておかなければなりません。
3. 税率判定と商品マスターを整える
税率別の対価と消費税額等は、商品・役務ごとの税率設定に依存します。
商品マスター、サービスマスター、販売区分、軽減税率フラグ、非課税・不課税区分を整備しないまま請求書だけを直しても、正しいインボイスにはなりません。
4. 端数処理の方針を決める
端数処理は、切上げ、切捨て、四捨五入など任意です。ただし、取引先や請求システムごとにバラバラだと、管理が難しくなります。
最低限、次の方針を明文化しておきましょう。
- 税抜ベースか税込ベースか
- 税率ごとの合計額をどの欄に表示するか
- 消費税額等の端数処理方法
- 契約別税額を参考表示するか
- 複数書類方式の場合、どの書類で税額を確定させるか
5. 控え保存と修正履歴を管理する
売手側には、交付した適格請求書等の写しを保存する義務があります。適格請求書の保存が買手側の仕入税額控除の要件であり、売手側でも交付した写しを保存する必要がある——この点は、実務上の内部点検項目としても重視されます。
請求書を修正した場合には、どの請求書をいつ、どのように修正したのか、そして取引先にどのように再交付又は通知したのかを記録しておく必要があります。
よくある誤りと対応策
| よくある誤り | 問題点 | 対応策 |
|---|---|---|
| 登録番号だけ追加している | 税率、税率別対価、消費税額等が不足している可能性がある | 6つの記載事項をチェックする |
| 明細ごとに端数処理している | 一の適格請求書につき税率ごとに1回というルールに反する | 税率別合計額から消費税額等を算出する |
| 税込・税抜が混在している | 消費税額等の算出根拠が不明確になる | 合計欄では税込又は税抜のいずれかに統一する |
| 軽減税率対象品目の表示がない | 8%対象の根拠が分からない | 記号、区分表示、税率別請求書などで明示する |
| 宛名が不正確 | 買手側で証憑確認が難しくなる | 正式名称、屋号、支店名の管理ルールを決める |
| 納品書と請求書の関連が不明 | 複数書類方式として成立しにくい | 納品書番号、請求対象期間、取引明細を紐付ける |
| 課税対象外項目を課税対象額に含めている | 消費税額等が過大又は誤記載になる | 課税取引と課税対象外を内訳で分ける |
| 修正前の請求書しか保存していない | 後日、正しい交付内容を説明できない | 修正前後の控えと再交付履歴を保存する |
これらの誤りは、単なる書式ミスではありません。買手側の仕入税額控除、売手側の売上税額、申告書作成、さらには税務調査での説明にまで波及していきます。
適格請求書の設計は、経理だけで完結しない
適格請求書の記載事項は、経理部門だけで管理できるものではありません。
登録番号は税務・総務、商品名や税率は営業・商品管理、取引年月日は販売管理、税込・税抜表示は契約・価格設定、端数処理はシステム設定、控え保存は経理・情報システム・文書管理——このように、社内の広い範囲に関係します。
月次監査や経理チェックの実務でも、新規契約、更新、解約、設備投資、資産売却、販売・請求・代金回収までのプロセスを確認し、その過程で発行される証憑書類と作成担当者を把握することが重要です。
適格請求書を正しく発行するには、次のような業務フローの設計が必要になります。
| 業務 | 確認する内容 |
|---|---|
| 契約 | 税込・税抜、税率、請求単位、端数処理をどう定めるか |
| 商品・役務登録 | 税率、軽減税率、非課税・不課税区分をどう設定するか |
| 販売・納品 | 取引日、納品日、検収日をどう記録するか |
| 請求 | 税率別合計、消費税額等、登録番号、宛名をどう表示するか |
| 保存 | 交付した適格請求書の写しをどの形式で保存するか |
| 会計 | 請求書上の税率・消費税額等を仕訳・申告へどう連携するか |
| 修正 | 誤記載、値引き、返品、税率誤りをどう訂正するか |
請求書様式を整えることは、消費税管理の入口にすぎません。重要なのは、その様式を毎月、すべての取引で、同じ基準で使い続けられる状態にしておくことです。
専門家に相談した方がよい場面
次のような場合には、請求書様式を自社だけで改定する前に、専門家へ相談する価値があります。
- 10%、軽減8%、非課税、不課税が一つの請求書に混在している
- 明細ごとに消費税を計算しており、端数処理の変更が必要か分からない
- 複数契約、複数店舗、複数納品を1枚の請求書にまとめている
- 納品書、請求書、領収書を組み合わせてインボイスにしたい
- レジ、EC、販売管理、会計ソフトで税額が一致しない
- 手書き領収書やレシートを適格簡易請求書として使いたい
- 課税対象外項目や立替金を請求書に含めている
- 取引先から請求書の記載不備を指摘された
- 売上税額の積上げ計算を採用するか検討している
- 請求書の修正・再交付ルールが整っていない
このような場面では、単に「記載事項を満たすか」だけでなく、税率判定、端数処理、売上計上、控え保存、会計連携、申告方法まで、一体で整理する必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、消費税を申告時の計算だけで捉えるのではなく、取引設計、契約、請求書発行、証憑保存、月次経理、税務調査対応までを含めた管理項目として整理しています。適格請求書の様式整備、税率別集計、端数処理、複数書類方式、販売管理システムとの整合性を確認したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
重要事項の振り返り
| 論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 適格請求書の意味 | 正確な適用税率と消費税額等を買手に伝えるための証憑 |
| 発行できる者 | 税務署長の登録を受けた適格請求書発行事業者のみ |
| 必要な記載事項 | 発行者名・登録番号、取引年月日、取引内容、税率別対価・適用税率、税率別消費税額等、買手名 |
| 登録番号 | 請求書・領収書・レシート・電子請求書などすべての対象帳票に反映する |
| 取引内容 | 商品・役務の内容を明確にし、軽減税率対象品目はその旨を表示する |
| 税率別対価 | 10%、8%、非課税・不課税等を区分して表示する |
| 消費税額等 | 税率ごとに区分して記載する |
| 端数処理 | 一の適格請求書につき、税率ごとに1回。商品ごとの端数処理合計は不可 |
| 端数処理方法 | 切上げ、切捨て、四捨五入などは任意。ただし社内ルール化が必要 |
| 税込・税抜混在 | 合計欄では税込又は税抜のいずれかに統一して税率別合計を記載する |
| 複数契約の請求 | 1枚の請求書にまとめる場合は、請求書全体で税率ごとに1回端数処理する |
| 複数書類方式 | 納品書と請求書などの関連が明確であれば、複数書類で記載事項を満たすことが可能 |
| 適格簡易請求書 | 一定の事業では宛名不要、消費税額等又は適用税率のいずれか一方で足りる |
| 課税対象外項目 | インボイスに併記可能だが、課税対象額とは区分する |
| 申告計算との関係 | 請求書上の消費税額等は、売上税額の積上げ計算に影響する |
| 実務管理 | 請求書様式、商品マスター、税率設定、端数処理、控え保存、会計連携を一体で管理する |