適格簡易請求書を発行できる事業|レシート・領収書形式を採用できる業種と実務判断

「当社はレシートを出しているのだから、簡易インボイスで問題ないはずだ」

インボイス制度の実務では、こうした受け止め方によく出会います。しかし、適格簡易請求書を発行できるかどうかは、レシート形式かどうかだけで決まるものではありません。

実際に確認すべき順序は、次のとおりです。

  1. 自社が適格請求書発行事業者として登録されているか
  2. その取引が課税資産の譲渡等に該当するか
  3. その事業が適格簡易請求書を交付できる事業に該当するか
  4. 実際に交付するレシート・領収書・電子データが、必要な記載事項を満たしているか
  5. 交付した控えや電子データ、販売データを、後日きちんと説明できる形で保存しているか

適格簡易請求書は、適格請求書の「簡易版」ではあります。ただ、制度の趣旨そのものが軽いわけではありません。買手側にとっては、仕入税額控除のために保存すべき証憑です。売手側にとっては、販売・レジ・予約・領収書発行・システム設定・再交付対応まで含めた、幅広い管理の対象になります。

本稿では、2026年6月26日時点で公表されている国税庁Q&A等を前提に、適格簡易請求書を発行できる事業と、実務上の注意点を整理していきます。

目次

適格簡易請求書とは何か

適格簡易請求書とは、一定の事業を行う適格請求書発行事業者が、通常の適格請求書に代えて交付できる、記載事項を簡略化した請求書等をいいます。

適格請求書発行事業者が、小売業のように不特定かつ多数の相手に課税資産の譲渡等を行う一定の事業を営んでいる場合には、通常の適格請求書に代えて、この適格簡易請求書を交付できます。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58 適格簡易請求書の記載事項

通常の適格請求書との主な違いは、次の2点です。

項目通常の適格請求書適格簡易請求書
書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称必要不要
税率ごとに区分した消費税額等と適用税率両方必要いずれか一方で可
典型例BtoB請求書、月次請求書レシート、領収書、利用明細、電子レシート

ここでいう「簡易」とは、あくまで記載事項が一部簡略化されているという意味にとどまります。納税義務が軽くなる制度でもなければ、簡易課税制度のことでもありません。

適格簡易請求書を発行できる事業

適格簡易請求書を交付できる事業は、次のように整理されています。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24 適格簡易請求書の交付ができる事業

区分事業
1小売業
2飲食店業
3写真業
4旅行業
5タクシー業
6駐車場業。不特定かつ多数の者に対するものに限る
7上記に準ずる事業で、不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業

ここで押さえておきたいのが、上記1から5の事業には「不特定かつ多数の者に対するもの」という限定が付いていない、という点です。たとえば小売業として行う課税資産の譲渡等であれば、その形態を問わず適格簡易請求書を交付できます。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24

もっとも、実務では「業種名」だけで判断を終わらせるべきではありません。自社が小売業や飲食店業などに該当するか、そしてその取引が本当にその事業として行われているかまで、確認しておく必要があります。

たとえば、同じ会社が次のような複数の取引を行っている場合、すべてを同じ扱いにするのは危険です。

取引適格簡易請求書の検討
店舗で一般顧客に商品を販売小売業として適格簡易請求書の対象になり得る
法人向けに個別契約で継続的に保守サービスを提供通常の適格請求書を検討すべき
店舗で飲食を提供飲食店業として適格簡易請求書の対象になり得る
企業研修を個別契約で受託取引の相手方を個別に特定する役務提供として慎重に判断
多数の参加者を募るセミナーを当日精算事業の性質によって適格簡易請求書の対象になり得る

適格簡易請求書を発行できるかどうかは、「レシートを出しているか」ではなく、その事業と取引の性質で判断するものです。

「不特定かつ多数」の意味を誤解しない

適格簡易請求書の判断で最も誤解が多いのが、「不特定かつ多数」という言葉です。

「氏名を確認したのだから不特定多数ではない」と単純に考える必要はありません。取引に当たって相手方の氏名等を確認する場合であっても、相手方を問わず広く一般を対象に資産の譲渡等を行うものであれば、この「不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行うもの」に含まれます。ホテル・旅館等の宿泊サービス、航空サービス、レンタカー事業などがその例です。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24-2 適格簡易請求書を交付することができる事業の具体例

一方で、通常の事業者間取引や、消費者を含む多数の相手に対する取引であっても、相手方を一意に特定したうえで契約し、その契約内容に応じて個別に課税資産の譲渡等を行うものは、一般的には適格簡易請求書を交付できる事業には当たりません。電気・ガス・水道水の供給や、電話料金などがこれに当たります。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24-2

判断を整理すると、次のようになります。

判断要素適格簡易請求書に近い取引通常の適格請求書に近い取引
相手方広く一般に販売・提供契約相手を個別に特定
価格条件あらかじめ提示された料金・メニュー契約ごとに個別設定
取引頻度都度取引、窓口精算、店舗販売継続契約、月次請求
証憑レシート、領収書、利用明細請求書、契約別明細
店舗販売、飲食、ホテル宿泊、航空、レンタカー、セミナー参加費電気、ガス、水道、電話、個別業務委託、保守契約

見るべきは、氏名確認の有無だけではありません。広く一般に提供している取引なのか、相手方ごとに個別契約として組成される取引なのかという点です。

セミナー・イベント・会員向けサービスはどう判断するか

事業者団体が多数の会員から参加者を募ってセミナーを開催し、当日、参加者から対価を徴収する。こうしたケースについては、参加者が会員に限られていても、相手方を一意に特定したうえで開催されるものではなく、対象者も多数に上ることから、適格簡易請求書を交付できる事業に該当すると整理されています。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24-2

この整理は、実務上かなり重要です。

会員制、予約制、申込制であっても、そのことだけで適格簡易請求書が否定されるわけではありません。反対に、多数の顧客がいるからといって、そのすべてが適格簡易請求書の対象になるわけでもありません。

判断の分かれ目は、次の点にあります。

確認事項見るべき内容
募集方法広く対象者を募る形式か、個別指名・個別契約か
契約関係参加単位の都度取引か、個別契約に基づく役務提供か
料金一律料金・事前提示料金か、相手方別の個別条件か
領収書宛名なし又は共通宛名で処理する合理性があるか
参加者数実務上、個別宛名管理が困難な程度に多数か

たとえば、公開セミナー、説明会、講習会、イベント、入場料収入、施設利用料などは、取引の実態によっては適格簡易請求書の対象となり得ます。一方で、個別企業向けに内容・日程・講師・成果物・報酬まで定めて実施する研修業務は、通常の適格請求書を交付する設計のほうが自然です。

「セミナーだから簡易インボイスでよい」と決めつけるのではなく、募集・契約・料金・精算の実態を確認することが欠かせません。

適格簡易請求書に必要な記載事項

適格簡易請求書の記載事項は、次の5つです。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58

記載事項内容
1適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
2課税資産の譲渡等を行った年月日
3課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容。軽減対象課税資産の譲渡等である場合はその旨
4税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
5税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率

通常の適格請求書と比べると、適格簡易請求書では書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称が不要です。また、消費税額等又は適用税率のいずれか一方の記載で足ります。もちろん、両方を記載しても構いません。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58

ここで注意したいのは、適格簡易請求書であっても、登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの対価の額は必要だという点です。

「宛名が不要」「税率か税額のどちらかでよい」という簡略化はあります。それでも、何を、いつ、いくらで、どの税率で販売したかを説明できなければなりません。

宛名省略は「買手を無視してよい」という意味ではない

適格簡易請求書では、宛名の記載は不要です。手書き領収書による適格簡易請求書の場合も宛名は省略でき、「上様」の表記も認められています。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58-2 手書きの領収書による適格簡易請求書の交付

ただし、宛名が不要だからといって、買手側の仕入税額控除の判断まで不要になるわけではありません。

買手側では、その支出が自社の課税仕入れに該当するか、事業用途か、誰の支出か、経費精算書等と紐付くかを確認する必要があります。売手側が適格簡易請求書を交付できる事業であっても、買手側の仕入税額控除は、取引の実在性、事業関連性、帳簿保存、社内承認などと切り離せません。

売手側でも、法人顧客から「宛名を入れてほしい」と求められる場面はあります。適格簡易請求書としては宛名が不要であっても、取引先対応や経費精算の便宜のために、任意で宛名を記載する運用は十分あり得ます。

税率又は消費税額等は「どちらか一方」で足りる

適格簡易請求書では、「税率ごとに区分した消費税額等」又は「適用税率」のいずれか一方を記載すれば足ります。通常の適格請求書では税率と消費税額等の両方が求められますから、この点は大きな違いです。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58

ただし、レシートの設計上は、次の点を確認しておきたいところです。

表示方針注意点
適用税率のみを表示買手が税額を確認しやすいか、会計システム取込時に問題がないか
消費税額等のみを表示適用税率が明細や区分表示から分かるか
適用税率と消費税額等を両方表示情報量は増えるが、取引先確認や経費精算には有利な場合がある

制度上は「どちらか一方」で足りますが、実務では両方を記載しておいたほうが、取引先からの問い合わせが減ることもあります。自社の販売形態、客層、経費精算での利用の多さ、システム連携のしやすさを踏まえて設計するとよいでしょう。

手書きの領収書でも適格簡易請求書にできる

適格簡易請求書は、レジから出力されるレシートに限られません。適格請求書、適格簡易請求書のいずれについても、手書きの領収書等によって交付できます。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58-2

また、税込価額が記載されていれば、税抜価額まで記載する必要はありません。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58-2

手書き領収書を使う事業者は、次の点を運用ルールとして定めておくべきです。

項目実務対応
登録番号ゴム印、印字済み領収書、スタンプ等で漏れを防ぐ
取引年月日領収日ではなく、課税資産の譲渡等の日として問題ないか確認
取引内容「品代」「サービス料」だけで足りるかを検討
税率別合計10%、8%、課税対象外を区分できる様式にする
税率又は税額どちらを記載するか社内で統一
控え保存複写式、控え番号、一連番号、電子化後の保存方法を決める

自社で使う領収書等の文書は定型化し、担当者の責任のもとで保管しておく必要があります。一連番号を付しておけば、効率的な保管にもつながります。

課税対象外の項目を同じ領収書に記載する場合

旅館、ホテル、温泉施設、駐車場、イベント会場などでは、課税取引と課税対象外の金額が同じ領収書に載ることがあります。

たとえば、宿泊料と入湯税、利用料と保証金、飲食代と立替金などです。

課税対象外の取引について適格請求書等の交付義務はありませんが、適格請求書等に併せて記載することは可能です。その場合には、受け取った対価のうち課税対象外のものを除いた税抜価額又は税込価額を、税率ごとに区分して合計した金額として記載する必要があります。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問58-2

実務では、次のように分けて表示します。

項目表示・処理の考え方
宿泊料、飲食代、物品販売課税対象として税率別合計に含める
入湯税、一定の立替金等課税対象外として区分表示する
非課税項目課税売上とは別に表示する
請求総額実際に受領した総額として表示する
税率別合計課税対象外を除いた金額で作成する

「領収総額」と「消費税計算の対象額」は、必ずしも一致しません。この区別が曖昧なレシートは、買手側の経費精算でも、税務調査時の説明でも問題になりやすくなります。

電子レシート・予約サイト・オンライン領収書も対象になり得る

適格簡易請求書は、紙に限られるものではありません。適格簡易請求書についても、その交付に代えて、記載事項に係る電磁的記録を提供できます。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24

したがって、次のような形も検討の対象になります。

形態実務上の確認
電子レシート登録番号、税率別合計、税率又は税額が表示されているか
Web領収書取引年月日、取引内容、発行者情報が明確か
予約サイト上の領収データ誰が発行主体か、販売主体と決済主体が一致しているか
アプリ内明細保存可能性、再表示可能性、データ改ざん防止を確認
PDF領収書電子取引として保存要件を満たす運用にする

電子帳簿保存法上、電子取引とは、メールでの請求書データの授受など、紙を最初から使わない取引のデータ保存を義務付ける制度です。契約書、請求書、領収書などの電子データは、保存方法まで含めて管理の対象になります。

本稿では電子保存要件の詳細までは踏み込みませんが、電子レシートを採用する場合は、インボイスの記載事項と電子帳簿保存法の保存要件を、それぞれ別に確認しておく必要があります。

適格簡易請求書を交付していれば、後日の再交付義務はどうなるか

小売業や飲食店では、顧客がレシートを紛失し、後日、再発行を求めてくることがあります。

販売時に適格簡易請求書を交付しているのであれば、一義的には、その時点で交付義務を果たしています。そのため、後日、改めて交付する義務は生じません。したがって、一定期間が経過してレジシステムによる再交付ができなくなったとしても、消費税法上、何らかの対応が求められるわけではありません。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24-5 適格請求書の交付に当たっての期間制限

一方で、適格簡易請求書を一度も交付していない場合には、事情が異なります。レジシステムの仕様等によって一定期間しか発行できないとしても、そのことだけで交付義務が免除されるわけではありません。相手方から具体的な取引記録が示され、適格簡易請求書を交付すべき事情があると認められる場合には、手書きなど、何らかの対応が必要になります。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24-5

この点は、店舗運用のルールに落とし込んでおく必要があります。

状況消費税法上の考え方実務対応
取引時に適格簡易請求書を交付済み交付義務は原則として履行済み再発行可能期間を店頭・規約で明示
顧客が受け取らなかった交付したこととして差し支えない場合ありレシート発行ログを保存
取引時に交付していないシステム制約だけで免除されない取引記録に基づき手書き等で対応
後日、法人顧客から求められた具体的取引の確認が必要日付、店舗、金額、決済情報で照合

「レジで出しているから大丈夫」で終わらせず、発行ログ、控え、再発行方針、例外対応まで整えておくことが大切です。

消費者向けサービスでも課税事業者から求められる場合がある

「当社のサービスは消費者向けだから、インボイスは出さない」と考えている事業者もいます。

消費者に対して適格請求書を交付する義務は生じません。ただし、利用規約等で対象を消費者に限定していても、実際にそのサービスを利用した課税事業者から適格請求書の交付を求められた場合には、消費税法上、交付義務が生じます。そのサービスが不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業であれば、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付できます。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24-3 消費者に限定した取引についての適格請求書の交付義務

実務では、BtoC事業者ほど注意が必要です。

  • サブスクサービス
  • 予約サイト経由の宿泊・交通・施設利用
  • チケット販売
  • コワーキングスペース
  • レンタカー・シェアサービス
  • 駐車場・時間貸しサービス
  • イベント・セミナー
  • ECサイト

これらは、形式上は一般消費者向けに見えても、実際には事業者が利用することがあります。利用規約、領収書発行画面、FAQ、カスタマーサポート、管理画面の出力項目を確認し、課税事業者から求められたときの対応を、あらかじめ決めておく必要があります。

適格簡易請求書の採用判断は「売手側」と「買手側」を分ける

適格簡易請求書を発行するかどうかは、売手側の判断です。しかし、その書類を保存して仕入税額控除を受けるのは、買手側です。

この2つを混同すると、実務上の判断が崩れてしまいます。

立場確認すべきこと
売手側自社が適格簡易請求書を交付できる事業か、記載事項を満たしているか、控えを保存しているか
買手側受領書類が適格請求書等に該当するか、支出が自社の課税仕入れか、帳簿と紐付いているか
双方共通登録番号、取引日、取引内容、税率別対価、税率又は税額が確認できるか

インボイス制度では、必要な事項が記載された適格請求書の保存が仕入税額控除の要件です。売手側でも、交付した適格請求書の写しを保存する必要があります。

買手側が「宛名がないから使えない」と誤解することもあれば、売手側が「宛名不要だから登録番号もいらない」と誤解することもあります。適格簡易請求書は、あくまで宛名の記載が不要なだけであり、登録番号その他の記載事項は必要です。

レシート形式を採用する前に確認すべき社内項目

適格簡易請求書を発行できる事業に該当していても、レシートや領収書の実物が要件を満たしていなければ意味がありません。

次の項目を確認してください。

項目確認内容
発行主体店舗名、屋号、法人名、登録番号で発行事業者を特定できるか
登録番号全店舗・全レジ・全EC領収書に正しい番号が反映されているか
日付取引年月日が明確か
内容商品・役務の内容が分かるか。「一式」だけになっていないか
軽減税率軽減対象品目である旨が記号や区分で分かるか
税率別合計10%、8%、課税対象外を区分しているか
税率又は税額適用税率又は税率ごとの消費税額等のいずれかを記載しているか
手書き領収書登録番号、税率別金額、税率又は税額を記載できる様式か
電子領収書保存可能な形式で提供できるか
控え保存紙控え、電子ログ、販売データを後日確認できるか
再発行対応交付済み・未交付の区別を踏まえた対応フローがあるか

月次確認の実務では、発注、商品の受入れ、検収、販売、請求、代金回収までのプロセスと、その過程で発行される証憑書類、そして作成担当者を確認し、帳簿書類の漏れを防ぐ視点が欠かせません。

適格簡易請求書は、経理部だけで完結するものではありません。店舗、営業、販売管理、予約システム、EC、カスタマーサポート、情報システム、経理が、同じ前提で運用する必要があります。

適格簡易請求書でよいか迷いやすい取引例

1. 店舗小売だが、法人への大量販売がある

小売業として行う課税資産の譲渡等であれば、その形態を問わず適格簡易請求書を交付できます。とはいえ、法人への大量販売、請求書払い、掛売り、個別条件付き販売が増えてくると、通常の適格請求書のほうが取引先の経理処理に合うこともあります。

制度上、可能かどうかと、取引管理上、望ましいかどうかは、分けて考えます。

2. 飲食店の手書き領収書

飲食店業は、適格簡易請求書を交付できる事業です。手書き領収書でも、登録番号、取引日、内容、税率別合計、税率又は税額を満たせば、適格簡易請求書になり得ます。

ただし、会議、懇親会、接待など法人利用が多い店舗では、登録番号の漏れや税率別表示の漏れが、取引先から指摘されやすくなります。

3. ホテル・旅館の宿泊領収書

ホテル・旅館等の宿泊サービスは、相手方の氏名等を確認したとしても、相手方を問わず広く一般を対象に資産の譲渡等を行うものとして、適格簡易請求書の対象に含まれます。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24-2

宿泊料、飲食代、入湯税、宿泊税、キャンセル料、予約サイト手数料などが絡むため、課税対象・課税対象外・非課税・立替の区分は、別途確認しておく必要があります。

4. 駐車場業

駐車場業は、不特定かつ多数の者に対するものに限り、適格簡易請求書の対象になります。

時間貸し駐車場、コインパーキング、商業施設の駐車場などは、対象になり得ます。一方、月極駐車場のように、契約者を個別に特定して継続契約を結ぶ取引は、通常の適格請求書の設計を検討するほうが自然です。

5. レンタカー・航空サービス

レンタカー事業や航空サービスは、氏名等を確認する場合でも、相手方を問わず広く一般を対象に資産の譲渡等を行うものとして、適格簡易請求書の対象に含まれる例として示されています。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24-2

予約システム、決済代行、代理店、ポイント利用、キャンセル料などが絡む場合には、どの主体が何の対価を受け取っているのかを整理しておく必要があります。

6. 電気・ガス・水道・電話料金

多数の契約者を相手にしていても、相手方を一意に特定した契約に基づき、契約内容に応じて個別に課税資産の譲渡等を行うものは、一般的には適格簡易請求書を交付できる事業には当たりません。電気・ガス・水道水の供給や、電話料金などが、その例として挙げられています。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問24-2

「顧客が多い」というだけでは、適格簡易請求書の対象にはなりません。

税務調査で説明できるレシート運用にする

適格簡易請求書の実務品質は、税務調査で次のことを説明できるかどうかで測れます。

  • なぜ自社の事業が適格簡易請求書を交付できる事業に該当するのか
  • どの帳票を適格簡易請求書として位置付けているのか
  • 店舗、EC、手書き領収書、電子データで記載事項が揃っているか
  • 登録番号や税率表示の変更履歴を確認できるか
  • 税率別売上データと申告集計が一致しているか
  • 課税対象外項目を消費税計算から除外しているか
  • レシートの控え又は電子ログを保存しているか
  • 再交付を求められた場合の対応ルールがあるか

税務調査では、帳簿書類その他の物件の提示・提出を求められることがあります。請求書・領収書・レシートが単なる形式にとどまらず、取引事実を示す資料として機能するよう、保存場所、権限、検索方法、修正履歴を整理しておくことが重要です。

専門家に相談した方がよい場面

次のような場合には、適格簡易請求書を採用してよいかどうか、専門家と確認することをおすすめします。

  • 小売、飲食、宿泊、イベント、EC、予約サイトなど、複数の販売経路がある
  • 店舗ではレシート、法人取引では請求書を発行している
  • 消費者向けサービスだが、法人利用もある
  • 会員制、予約制、申込制のサービスを提供している
  • 駐車場、レンタカー、施設利用料など、都度利用と月額契約が混在している
  • 入湯税、宿泊税、立替金、保証金など、課税対象外項目が領収書に載る
  • 手書き領収書とレジ領収書が併用されている
  • 登録番号が店舗・EC・アプリで正しく反映されているか不安がある
  • レシート再発行、電子領収書、予約サイト決済の対応が整理されていない
  • 販売データと消費税申告の税率別集計が一致しているか確認したい

適格簡易請求書は、レシートの見た目を整えれば終わる制度ではありません。事業の性質、取引の実態、請求・領収の方法、保存、会計連携、申告集計まで、ひと続きにつながっています。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、消費税を申告時の計算だけでなく、販売フロー、レシート・領収書設計、税率別マスター、証憑保存、月次確認、税務調査対応まで含めた、経営管理の一部として整理します。適格簡易請求書を採用できる事業かどうか、レシート・領収書・電子データが要件を満たしているかどうかを確認したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

重要事項の振り返り

論点実務上のポイント
適格簡易請求書の位置づけ一定の事業で通常の適格請求書に代えて交付できる簡略化されたインボイス
発行できる前提自社が適格請求書発行事業者であること
対象事業小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業、これらに準ずる一定の事業
駐車場業不特定かつ多数の者に対するものに限られる
小売業等1から5国税庁Q&Aでは「不特定かつ多数の者に対するもの」との限定はない
不特定かつ多数氏名確認の有無だけでなく、広く一般を対象とする事業かで判断
含まれ得る例ホテル・旅館、航空サービス、レンタカー、一定のセミナー等
含まれにくい例電気、ガス、水道、電話料金など、相手方を個別特定する継続契約型取引
宛名適格簡易請求書では不要。「上様」や宛名省略も可能
税率・税額税率ごとの消費税額等又は適用税率のいずれか一方でよい
必須記載登録番号、取引年月日、取引内容、税率別対価、税率又は税額は必要
手書き領収書必要事項を満たせば適格簡易請求書として交付可能
課税対象外項目併記は可能だが、税率別合計からは除外する
電子データ適格簡易請求書の記載事項に係る電磁的記録の提供も可能
再交付取引時に交付済みなら原則として後日再交付義務は生じない
未交付の場合システム制約だけで交付義務は免除されず、手書き等の対応が必要になる場合がある
社内運用店舗、EC、予約、手書き領収書、電子領収書、控え保存を一体で管理する
調査対応なぜ適格簡易請求書を交付できる事業か、どの帳票が要件を満たすかを説明できる状態にする
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