免税事業者等からの仕入れに係る7・5・3割控除|令和8年度改正後の経過措置と実務管理

インボイス制度の実務のなかでも、令和8年10月以後に特に注意しておきたいのが、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の見直しです。

インボイス制度が始まって以降、適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れについては、原則として仕入税額控除ができません。もっとも、制度開始後の一定期間に限っては、一定の帳簿と請求書等を保存することを条件に、仕入税額相当額の一部を控除できる経過措置が設けられています。

令和8年度改正により、この経過措置は、従来の「80%・50%」という段階から見直されました。令和8年10月1日以後は「70%・50%・30%」を経て終了する形になります。実務上は、これを「7・5・3割控除」と呼ぶことがあります。

この改正は、単なる税率マスターの更新ではありません。控除割合が変わるということは、同じ仕入先、同じ契約、同じ税込支払額であっても、課税仕入れを行った時期によって、買手側の納付税額が変わるということです。

その影響は、経理処理だけにとどまりません。請求書の保存、帳簿の記載、取引先マスター、仕入先別の金額集計、月次の納税見込、そして取引条件の検討にまで及びます。

本稿では、価格交渉や取引条件の見直しそのものではなく、まず7・5・3割控除を適用するために、買手側がどのように判断し、どのような資料を保存し、どのように税区分を管理すべきかを整理していきます。

目次

7・5・3割控除とは何か

7・5・3割控除とは、適格請求書発行事業者以外の者から行った一定の課税仕入れについて、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置です。

対象となるのは、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れです。ここには、免税事業者、消費者、登録を受けていない課税事業者などが含まれます。適格請求書発行事業者でない者からは、仕入税額控除のために保存が必要な適格請求書等の交付を受けることができません。そのため、原則として仕入税額控除はできない取扱いです。ただし、一定期間については、経過措置により仕入税額相当額の一定割合を控除できます。
出典:国税庁|適格請求書等保存方式に関するQ&A 問113

経過措置の割合は、次のとおりです。

課税仕入れの時期控除できる割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和10年9月30日まで仕入税額相当額の70%
令和10年10月1日から令和12年9月30日まで仕入税額相当額の50%
令和12年10月1日から令和13年9月30日まで仕入税額相当額の30%
令和13年10月1日以後控除不可

令和8年度改正では、適用期限が2年間延長されました。そのうえで、令和8年10月以後の控除可能割合が70%、50%、30%へと見直されています。あわせて、一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、一定額を超える部分には経過措置を適用できないという、控除限度額の見直しも行われています。
出典:国税庁|インボイス制度に関する令和8年度税制改正について

「7・5・3割控除」と「3割特例」は別の制度

名称が似ているため混同しやすいのですが、7・5・3割控除と3割特例は、まったく別の制度です。

7・5・3割控除は、買手側の制度です。適格請求書発行事業者以外の者から課税仕入れを行った場合に、一定割合を仕入税額として控除する経過措置を指します。

一方、3割特例は、売手側、特に小規模個人事業者に関係する納付税額計算の特例です。インボイス発行事業者となった一定の小規模個人事業者について、納付税額の計算負担を軽減する制度であり、免税事業者等から仕入れた買手側の控除割合を定めるものではありません。

したがって、買手側で非登録仕入先の請求書を処理するときに、「3割特例」と「30%控除」を同じ税区分で扱ってはいけません。

買手側の税区分マスターでは、少なくとも次のように分けて管理する必要があります。

区分主な対象管理上の意味
7・5・3割控除買手が非登録仕入先から行う課税仕入れ仕入税額控除の経過措置
3割特例一定の小規模個人事業者である売手側納付税額計算の特例
簡易課税売上税額とみなし仕入率で計算する事業者個別仕入先のインボイス保存を納付税額計算に用いない

この点、簡易課税制度や2割特例・3割特例を適用する場合には、消費税の納付税額計算に当たってインボイスの入手や保存までは求められません。ただし、通常の所得税・法人税等の観点からは、従来どおり領収書や請求書などの保存が必要になります。
出典:国税庁|インボイス制度について

7・5・3割控除の対象になる取引

7・5・3割控除の対象になるのは、すべての支出ではありません。

まず、その支出が課税仕入れである必要があります。給与、保険料、支払利息、土地の取得費、寄附金など、そもそも課税仕入れに該当しない支出については、経過措置の問題ではありません。

次に、相手方が適格請求書発行事業者以外の者である必要があります。ここには、免税事業者だけでなく、登録を受けていない課税事業者や消費者なども含まれます。

さらに、その課税仕入れについて、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等と、経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存していることが求められます。経過措置の適用は、あくまで請求書等と帳簿の保存が前提です。
出典:国税庁|適格請求書等保存方式に関するQ&A 問113

ここで重要なのは、次の3段階を混同しないことです。

  1. その支出が課税仕入れか
  2. その仕入先が適格請求書発行事業者か
  3. 7・5・3割控除の保存要件を満たしているか

「登録番号がない」という事実だけでは足りません。その支出が課税仕入れであること、かつ、経過措置に必要な帳簿・請求書等の保存があることまで確認する必要があります。

仕入税額控除は、課税売上げに係る消費税から課税仕入れに係る消費税を控除する制度です。ここでいう課税仕入れとは、事業のために他の者から資産の購入・借受け、又は役務提供を受けることをいい、給与等の支払や非課税取引は含まれません。

7・5・3割控除の対象にならないもの

7・5・3割控除は、インボイスがない支出を何でも救済する制度ではありません。

たとえば次のような支出は、7・5・3割控除の対象として扱う前に、別の観点で確認が必要です。

支出・取引確認すべきこと
給与・役員報酬課税仕入れではない
保険料・利息非課税又は不課税の可能性がある
土地の取得・貸付け非課税取引に該当する可能性がある
国外取引国内取引に該当するかを先に確認する
帳簿のみ保存特例の対象取引7・5・3割控除ではなく、帳簿のみで控除できる特例に該当する可能性がある
少額特例の対象取引一定規模以下の事業者であれば、税込1万円未満の課税仕入れについて別途確認が必要
簡易課税・2割特例・3割特例を適用する事業者納付税額計算上、個別仕入先のインボイス保存を用いない

たとえば、一定の公共交通機関による旅客運送、自動販売機による取引、従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等については、一定事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合があります。また、一定規模以下の事業者であれば、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に行う税込1万円未満の課税仕入れについて、同じく一定事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
出典:国税庁|No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存

したがって実務では、次の順序で確認します。

  1. 課税仕入れか
  2. 原則として適格請求書が必要な取引か
  3. 帳簿のみ保存で足りる特例に該当しないか
  4. 少額特例に該当しないか
  5. 7・5・3割控除の対象となるか
  6. 保存要件を満たしているか

この順序を誤ると、本来全額控除できる取引を7割控除にしてしまう、あるいは本来控除できない取引を経過措置対象にしてしまう、という両方向の誤りが生じます。

控除割合は「支払日」ではなく「課税仕入れの時期」で判断する

7・5・3割控除で最も誤りやすいのは、割合の切替時期です。

令和8年10月1日を境に、80%控除から70%控除へ切り替わります。ただし、この判定は、原則として「支払日」ではなく「課税仕入れを行った時期」で判断します。

役務提供の場合、課税仕入れの時期は、原則として約した役務の全部が完了した日で判断します。一方、商品の仕入れ、すなわち資産の譲受けの場合は、原則として引渡しのあった日で判断します。

そのため、令和8年9月21日から役務提供を受け、令和8年10月20日に完了した場合には、70%控除で計算します。これに対して商品の仕入れでは、令和8年9月21日から同月30日までの引渡分は80%、令和8年10月1日以後の引渡分は70%となります。
出典:国税庁|適格請求書等保存方式に関するQ&A 問113-3

実務では、次のように整理すると判断しやすくなります。

取引類型原則的な判断時点注意点
商品・材料・備品の購入引渡しの日出荷日、納品日、検収日など、継続適用している基準を確認する
役務提供役務の全部が完了した日契約期間が月をまたぐ場合、支払日だけで判断しない
継続的な保守・業務委託契約上の役務完了単位月次完了、成果物納品、検収条件を確認する
賃貸借・リース等契約内容と税務上の計上時期前払処理、期間対応、契約変更に注意する

会計上の支払日や請求書日付だけで控除割合を判定すると、令和8年10月をまたぐ取引で誤りが生じやすくなります。

特に、外注費、業務委託費、保守料、サブスクリプション、継続的な役務提供、月末締め翌月払いの取引では、請求書の発行日ではなく、課税仕入れの時期を確認する必要があります。

控除額の考え方

7・5・3割控除では、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除します。

標準税率10%の課税仕入れについて、税込1,100,000円を支払った場合を単純化して考えると、消費税相当額は100,000円です。

控除割合控除できる金額のイメージ控除できない部分のイメージ
80%控除80,000円20,000円
70%控除70,000円30,000円
50%控除50,000円50,000円
30%控除30,000円70,000円
控除不可0円100,000円

実際の申告計算では、税率、地方消費税、積上げ計算・割戻し計算、端数処理、課税売上割合、個別対応方式又は一括比例配分方式などが関係します。そのため、社内で影響額を試算するときは概算で把握し、申告計算では申告書・付表の計算方法に合わせて精査する必要があります。

なお、経過措置による仕入税額控除の適用に当たっては、適格請求書発行事業者以外の者から受領する、区分記載請求書と同様の事項が記載された請求書等の保存が必要です。あわせて、80%控除及び7・5・3割控除の特例を受ける課税仕入れである旨を記載した帳簿の保存も求められます。
出典:国税庁|日本適格請求書等保存方式

帳簿に何を記載する必要があるか

7・5・3割控除を適用するには、帳簿に通常の課税仕入れの記載事項を残すだけでは足りません。あわせて、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載する必要があります。

具体的には、帳簿に次の事項が必要です。

帳簿記載事項実務上の確認ポイント
課税仕入れの相手方の氏名又は名称仕入先マスターと一致しているか
課税仕入れを行った年月日支払日ではなく課税仕入れの時期と整合しているか
課税仕入れに係る資産又は役務の内容商品・役務内容が請求書等から分かるか
軽減税率対象である旨8%対象取引の場合、区分されているか
経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨「70%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」などで識別できるか
課税仕入れに係る支払対価の額税込額、税率別金額、会計データと一致するか

帳簿への記載方法としては、「80%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」などと個々の取引ごとに記載する方法のほか、「※」や「☆」といった記号・番号を表示し、その記号が経過措置対象である旨を別途表示する方法も認められています。
出典:国税庁|適格請求書等保存方式に関するQ&A 問113

このため、会計ソフト上では、単に「課税仕入10%」と処理するだけでは足りません。少なくとも、次のような税区分が分かれている必要があります。

  • 課税仕入10%・適格請求書あり
  • 課税仕入10%・80%控除
  • 課税仕入10%・70%控除
  • 課税仕入10%・50%控除
  • 課税仕入10%・30%控除
  • 課税仕入10%・控除不可
  • 課税仕入8%・適格請求書あり
  • 課税仕入8%・80%控除
  • 課税仕入8%・70%控除
  • 課税仕入8%・50%控除
  • 課税仕入8%・30%控除
  • 課税仕入8%・控除不可

さらに、課税売上割合による用途区分が必要な事業者では、課税売上対応、非課税売上対応、共通対応も管理しなければなりません。

税区分が細かくなるほど、担当者ごとの判断差が生じやすくなります。税区分マスターの設計と運用ルールが曖昧なままでは、制度改正に対応したつもりでも、決算時や税務調査時に説明できない処理になりやすい点に注意が必要です。

請求書等に何が必要か

7・5・3割控除では、適格請求書そのものは取得できません。しかし、区分記載請求書等と同様の記載事項がある請求書等の保存が必要です。

具体的には、次の事項が必要です。

請求書等の記載事項実務上の確認ポイント
書類の作成者の氏名又は名称仕入先名が確認できるか
課税資産の譲渡等を行った年月日役務完了日・引渡日と整合するか
課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容内容が空欄又は不明確でないか
軽減税率対象である旨8%対象の場合に明示されているか
税率ごとに合計した税込価額10%・8%が区分されているか
書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称宛名が必要な取引で記載されているか

免税事業者等から受領した請求書等に、軽減税率対象である旨や税率ごとの税込価額の記載がない場合には、一定の場合に限り、受領者が自ら追記して保存することが認められています。電磁的記録を整然とした形式かつ明瞭な状態で出力した書面に追記して保存している場合も、同様に扱われます。
出典:国税庁|適格請求書等保存方式に関するQ&A 問113

ただし、すべてを買手側で自由に補正できるわけではありません。取引内容そのもの、取引年月日、仕入先名、支払金額などが不明確な場合には、そもそも課税仕入れの事実を確認できないことになります。

インボイス制度下では、請求書の記載だけでなく、契約書、発注書、納品書、検収書、精算書、メール、業務報告書などを組み合わせて、取引実態を説明できるようにしておく必要があります。

仕入税額控除の実務では、取引の実在性、課税仕入れの帰属、帳簿・請求書等の保存が否認リスクの中心になります。形式上の税区分だけでなく、課税仕入れの事実と証拠を一体で確認することが重要です。

免税事業者が消費税相当額を請求すること自体は否定されない

実務では、「免税事業者なのに消費税を請求してよいのか」という疑問が出ることがあります。

この点、免税事業者が請求書等に消費税相当額を記載したとしても、それが適格請求書等と誤認されるおそれのあるものでなければ、基本的に罰則の対象とはなりません。また、免税事業者であっても、仕入れの際に負担した消費税相当額を取引価格に上乗せして請求すること自体は、適正な転嫁として問題ないものと整理されています。
出典:国税庁|多く寄せられるご質問 令和8年4月1日更新

一方で、適格請求書発行事業者以外の者が、適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認されるおそれのある表示をした書類を交付することは禁止されています。たとえば、登録番号に類似した英数字や、自己のものではない登録番号を記載するような書類は問題になります。
出典:国税庁|多く寄せられるご質問 令和8年4月1日更新

したがって、買手側としては、次のように整理する必要があります。

  • 免税事業者等が消費税相当額を価格に含めて請求すること自体は、直ちに問題とはいえない
  • ただし、買手側が仕入税額控除できるかどうかは別問題である
  • 適格請求書と誤認される表示がある場合には、取引先への確認が必要である
  • 消費税相当額の記載があることと、適格請求書であることを混同しない

この整理を誤ると、請求書に「消費税」と書かれているから全額控除できる、あるいは免税事業者だから消費税相当額を一切支払う必要がない、といった極端な判断に流れやすくなります。

原則課税の事業者にとっての影響

7・5・3割控除が直接問題になるのは、主に原則課税で消費税を計算している事業者です。

原則課税では、売上税額から仕入控除税額を差し引いて納付税額を計算します。したがって、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、全額控除できず70%、50%、30%しか控除できない場合、その差額は納付税額を増加させる方向に働きます。

ただし、影響額は、単に非登録仕入先への支払総額だけで決まるわけではありません。次の要素によって変わります。

  • 標準税率10%か軽減税率8%か
  • 課税売上対応か、非課税売上対応か、共通対応か
  • 課税売上割合が何%か
  • 個別対応方式か、一括比例配分方式か
  • 経過措置の控除割合が80%、70%、50%、30%のどれか
  • 少額特例又は帳簿のみ保存特例の対象か
  • 一の仕入先ごとの控除限度額に抵触しないか

特に、非課税売上がある事業者では、非登録仕入先への支払額だけを集計しても、納付税額への影響は分かりません。

非課税売上にのみ対応する仕入れであれば、もともと仕入税額控除の対象になりません。そのため、インボイスの有無による税額差は限定されます。一方、共通対応の仕入れであれば、経過措置後の金額に課税売上割合が関係します。

そのため、7・5・3割控除の影響額を把握するには、「仕入先別」だけでなく、「用途区分別」に集計する必要があります。

簡易課税・2割特例・3割特例の事業者はどう考えるか

簡易課税、2割特例、3割特例を適用する場合、消費税の納付税額計算では、個別の仕入税額を積み上げて控除するわけではありません。

そのため、これらの制度を適用する事業者では、納付税額計算上、免税事業者等からの仕入れについて7・5・3割控除を直接用いる場面は、通常ありません。

とはいえ、だからといって非登録仕入先の管理が不要になるわけではありません。理由は3つあります。

1つ目は、将来、原則課税へ移行する可能性があることです。設備投資、売上構成の変化、簡易課税の不適用、課税方式の変更などにより、翌期以降に原則課税へ移る場合には、現在の仕入先管理がそのまま影響します。

2つ目は、法人税・所得税の証憑保存は別途必要であることです。簡易課税制度や2割特例・3割特例を適用する場合でも、所得税等の観点からは、領収書や請求書などの保存が引き続き必要になります。
出典:国税庁|インボイス制度について

3つ目は、取引先との契約や価格協議では、買手側・売手側の制度理解が前提になることです。自社が簡易課税であるにもかかわらず、原則課税と同じ税額影響があるように説明してしまうと、取引先との協議の前提を誤ることになります。

つまり、簡易課税等を適用する事業者でも、7・5・3割控除を「自社に無関係」として完全に切り離すのは適切ではありません。将来の方式変更、証憑保存、取引先対応の観点から、内容を把握しておく必要があります。

控除限度額の見直しにも注意する

令和8年度改正では、控除割合だけでなく、控除限度額も見直されています。

一の適格請求書発行事業者以外の者から行う経過措置対象の課税仕入れについて、その年又は事業年度の合計額が一定額を超える場合には、その超過部分に経過措置を適用できません。

この一定額は、令和6年10月1日から令和8年9月30日までの間に開始する課税期間については税込10億円、令和8年10月1日以後に開始する課税期間については税込1億円とされています。
出典:国税庁|適格請求書等保存方式に関するQ&A 問113

この論点は、通常の少額仕入先には大きな影響がないこともあります。しかし、外注費、業務委託費、地代家賃、専門サービス、制作委託、仲介、個人事業者との継続取引など、一の非登録仕入先への支払額が大きい場合には、仕入先別の年間累計額を把握する必要があります。

控除割合だけを税区分マスターで管理していても、仕入先別の限度額集計ができなければ、超過部分の控除誤りが発生します。

この論点は、本シリーズの続編であらためて詳しく取り上げます。ただし本稿の段階でも、7・5・3割控除が「取引単位の税区分」だけで完結しないことは、あわせて押さえておく必要があります。

税区分マスターは「日付」と「相手先」で切り替える

7・5・3割控除の実務で重要なのは、会計ソフトの税区分を増やすこと自体ではありません。必要なのは、どの取引にどの税区分を適用すべきかを、社内で再現できる状態にすることです。

税区分マスターは、少なくとも次の情報と連動させる必要があります。

管理項目管理する理由
仕入先の登録番号適格請求書発行事業者かを判定するため
登録の効力日・取消日取引時点で登録が有効か確認するため
請求書等の種類適格請求書、区分記載請求書等、領収書、精算書を区分するため
課税仕入れの時期80%・70%・50%・30%を切り替えるため
税率10%・8%を区分するため
用途区分課税売上対応、非課税売上対応、共通対応を管理するため
経過措置区分帳簿に経過措置対象である旨を残すため
仕入先別累計額控除限度額を確認するため
特例区分少額特例、帳簿のみ保存特例などと混同しないため

自社が仕入先の登録状況を初回取引時だけ確認している場合、登録取消しや登録日の変更、月途中の登録などを見落とす可能性があります。登録番号は、取引時点で有効なものかどうかを確認する必要があります。自主点検の観点でも、適格請求書の保存、登録番号の確認、税率ごとの区分記帳は、重要な管理項目です。

特に令和8年10月以後は、税区分マスターに「80%控除」だけが残っている状態では不十分です。70%、50%、30%、控除不可の区分へ段階的に移行できるよう、システム、経理規程、チェックリスト、月次確認表を更新する必要があります。

請求書受領時の確認フロー

7・5・3割控除の誤りは、決算時に一括で修正しようとすると負担が大きくなります。できれば、請求書受領時点で次の確認を行うことをおすすめします。

1. 登録番号の有無を確認する

請求書等に登録番号があるかを確認します。登録番号がある場合には、適格請求書発行事業者公表サイト等で有効性を確認します。

ただし、登録番号がないからといって、直ちに7・5・3割控除にするわけではありません。登録番号の記載漏れ、複数書類による記載、媒介者交付、仕入明細書、立替精算書など、他の書類と組み合わせて適格請求書等の要件を満たす場合があるためです。

2. 課税仕入れかどうかを確認する

支出の性質を確認します。非課税、不課税、給与、租税公課、保険料、土地取引などであれば、経過措置の対象ではありません。

3. 請求書等が区分記載請求書等の記載事項を満たしているか確認する

仕入先名、取引年月日、取引内容、税率ごとの税込価額、宛名などを確認します。記載が不十分な場合には、追記できる事項なのか、相手方への確認が必要なのかを分けて考えます。

4. 課税仕入れの時期を確認する

令和8年10月1日、令和10年10月1日、令和12年10月1日をまたぐ取引では、特に注意が必要です。請求書日付や支払日ではなく、引渡日、役務完了日、検収日、契約上の完了単位を確認します。

5. 経過措置区分を帳簿に反映する

税区分コード、摘要欄、補助科目、取引先マスター、承認メモなど、社内で決めた方法により、経過措置対象である旨を残します。

月次で確認すべき項目

7・5・3割控除は、決算整理だけで対応するには向きません。

月次で確認しないと、非登録仕入先の金額がどの程度あるのか、どの控除割合で処理されているのか、翌期以降の税額影響がどれくらいあるのかが見えなくなります。

月次で確認すべき項目は、次のとおりです。

月次確認項目確認目的
登録番号なしの課税仕入れ金額非登録仕入先への依存度を把握する
80%・70%・50%・30%控除の税区分別金額控除割合の適用誤りを防ぐ
登録番号あり・なしの混在取引同一仕入先、同一契約内の区分漏れを防ぐ
用途区分別金額課税売上対応・非課税売上対応・共通対応を管理する
仕入先別累計額控除限度額を確認する
記載不備請求書の未解決残決算時の証憑不備を防ぐ
少額特例・帳簿のみ保存特例との区分本来の特例処理と経過措置処理を混同しない
翌期以降の控除率低下による影響見込資金繰り・取引条件検討の基礎資料とする

月次監査の実務では、新規契約、設備投資、資産売却、電子取引、特殊取引など、会計データに表れる前提条件をヒアリングし、発注から請求、代金回収までのプロセスと証憑書類を確認することが重視されます。

7・5・3割控除も同じです。請求書を受け取ってから税区分を選ぶだけではなく、取引開始時点で、相手方の登録状況、契約内容、請求方法、証憑の形式、社内承認フローを確認しておくことが、後日の修正や調査対応を減らします。

令和8年10月前後で特に誤りやすい処理

令和8年10月1日は、80%控除から70%控除へ移行する重要な境目です。この時期には、次のような誤りが生じやすくなります。

1. 支払日で80%・70%を判定する

令和8年9月中に役務提供が完了しているのに、10月支払だからと70%にする。あるいは、令和8年10月に役務提供が完了しているのに、9月請求だからと80%にする。このような処理は、課税仕入れの時期の判断を誤っている可能性があります。

2. 請求書単位で一括処理する

9月分と10月分が1枚の請求書に含まれている場合、請求書全体を80%又は70%で処理してしまうことがあります。商品の引渡しや役務提供の完了時期が分かれる場合には、内訳を区分する必要があります。

3. 旧税区分を使い続ける

会計ソフトに「免税事業者80%控除」という税区分だけが残っていると、令和8年10月以後も誤って80%控除を適用するおそれがあります。令和8年10月1日前後には、税区分マスター、入力マニュアル、チェックリストを必ず更新する必要があります。

4. 請求書等の保存要件を見落とす

控除割合だけを修正しても、帳簿と請求書等の保存要件を満たしていなければ、経過措置の適用はできません。特に、登録番号のない領収書、内容欄が空欄の請求書、税率ごとの税込価額が不明な請求書、電子取引データの保存漏れには注意が必要です。

電子取引については、電子データのまま保存することが求められる制度です。電子帳簿保存法は、帳簿の電子保存、書類の電子保存、スキャナ保存、電子取引の保存義務に分かれます。

税務調査で説明できる状態にしておく

7・5・3割控除は、税務調査でも確認対象になりやすい論点です。理由は、仕入税額控除が納付税額を直接減少させる項目だからです。

税務調査で説明すべきことは、「この仕入先は免税事業者です」という一点ではありません。少なくとも、次の事項を説明できるようにしておく必要があります。

  • その支出が課税仕入れであること
  • 相手方が適格請求書発行事業者以外であること
  • 適格請求書ではなく、経過措置対象として処理した理由
  • 区分記載請求書等と同様の請求書等を保存していること
  • 帳簿に経過措置対象である旨を記載していること
  • 課税仕入れの時期をどのように判断したか
  • 適用した控除割合が80%、70%、50%、30%のいずれか
  • 税率、用途区分、課税売上割合との関係
  • 仕入先別の控除限度額に抵触していないか
  • 少額特例や帳簿のみ保存特例との区分
  • 月次又は決算時のチェック体制

税務調査実務では、帳簿等の保存が仕入税額控除の要件となります。そのため、帳簿等の保存がないケースでは、仕入税額控除が認められないと考えられます。

これは7・5・3割控除でも同じです。経過措置は、控除を認めるための緩和措置である一方、帳簿・請求書等の保存を前提としています。税区分だけを正しく入力していても、後から請求書等が確認できなければ、説明可能な処理とはいえません。

取引先への対応は、税額影響を整理してから行う

7・5・3割控除は、取引条件の見直しにも影響します。ただし、この記事で扱っているのは、価格交渉そのものではありません。

重要なのは、価格や契約条件の協議に入る前に、自社の税額影響を正しく把握することです。同じ非登録仕入先でも、次のような場合には税額影響が異なります。

  • 自社が原則課税か、簡易課税か
  • その仕入れが課税売上対応か、非課税売上対応か
  • 少額特例又は帳簿のみ保存特例の対象か
  • 課税売上割合が高いか低いか
  • 継続取引か単発取引か
  • 仕入先別の年間取引額が大きいか
  • 将来、原則課税又は簡易課税へ移行する予定があるか
  • 令和8年10月以後の70%、令和10年10月以後の50%、令和12年10月以後の30%で、どの程度影響が変わるか

この整理をしないまま、単に「インボイスがないので価格を下げてください」と伝えるのは危険です。税額影響を過大に見積もっている可能性もありますし、反対に、将来の控除率低下を十分に見込めていない可能性もあります。

また、免税事業者等との取引条件変更については、公正取引の観点からも慎重な対応が必要です。経過措置により一定範囲で仕入税額控除が認められているにもかかわらず、免税事業者に対して消費税相当額を一方的に引き下げるなどの対応は、独占禁止法や下請法上、問題となるおそれがあるとされています。

価格交渉を行う場合でも、まずは税額影響、契約内容、取引継続の必要性、代替可能性、協議記録を整理することが先です。

社内で整備しておきたい管理資料

7・5・3割控除に対応するためには、次の資料を整えておくと実務が安定します。

管理資料主な目的
仕入先登録番号一覧登録番号の有無、有効日、取消日を管理する
非登録仕入先一覧経過措置対象となる仕入先を把握する
経過措置税区分一覧80%、70%、50%、30%、控除不可を区分する
請求書不備リスト記載不足、確認中、再発行依頼中を管理する
課税仕入れ時期判定表令和8年10月等の切替時期をまたぐ取引を管理する
用途区分表課税売上対応、非課税売上対応、共通対応を整理する
仕入先別累計額表控除限度額の確認に使う
月次納税見込表控除率低下による納付税額の増加を見える化する
取引条件検討メモ価格協議前の税額影響と前提条件を整理する
税務調査対応ファイル契約書、請求書、帳簿、判断メモを一体で保存する

これらは、形式的な資料作成のためではありません。後から第三者に説明できる処理を、継続していくためのものです。

消費税の仕入税額控除は、取引の事実、帳簿、請求書、税区分、申告書がつながって初めて説明できます。

実務上の判断フロー

7・5・3割控除の実務判断は、次の順序で進めると整理しやすくなります。

  1. 自社の申告方式を確認する 原則課税か、簡易課税か、2割特例又は3割特例かを確認します。
  2. 取引が課税仕入れか確認する 非課税、不課税、給与等でないかを確認します。
  3. 相手方の登録状況を確認する 適格請求書発行事業者か、登録番号が有効かを確認します。
  4. 適格請求書等の保存可否を確認する 登録番号がない場合でも、複数書類、仕入明細書、媒介者交付等により要件を満たす可能性があります。
  5. 帳簿のみ保存特例・少額特例を確認する 経過措置より先に、別の特例で控除できるかを確認します。
  6. 経過措置対象か確認する 区分記載請求書等と同様の請求書等、経過措置対象である旨の帳簿記載を確認します。
  7. 課税仕入れの時期を確認する 支払日ではなく、引渡日、役務完了日などを確認します。
  8. 控除割合を判定する 80%、70%、50%、30%、控除不可のいずれかを判断します。
  9. 用途区分・課税売上割合を確認する 原則課税で全額控除できない事業者は、個別対応方式又は一括比例配分方式との関係を確認します。
  10. 月次・決算・税務調査で説明できるよう保存する 帳簿、請求書等、判断メモ、登録状況確認資料を保存します。

この流れを整えておくことで、単なる税区分入力にとどまらず、申告・資金繰り・取引先対応・税務調査に耐える管理になります。

まとめ

7・5・3割控除は、免税事業者等との取引を一時的に緩和するための経過措置です。しかし、実務上は単なる「控除割合の変更」ではありません。

令和8年10月以後、80%控除から70%控除へ移行し、その後50%、30%を経て、令和13年10月以後は控除不可へ向かいます。控除割合の低下は、原則課税の事業者にとって、納付税額と資金繰りに直接影響します。

一方で、すべての免税事業者等からの仕入れが、同じ影響をもつわけではありません。簡易課税、2割特例、3割特例を適用している場合、非課税売上対応の仕入れ、少額特例又は帳簿のみ保存特例の対象となる取引などでは、影響の出方が変わります。

重要なのは、取引先の属性だけで判断しないことです。自社の申告方式、課税仕入れ該当性、相手方の登録状況、請求書等の記載、帳簿の記載、課税仕入れの時期、用途区分、課税売上割合、仕入先別累計額まで確認して初めて、7・5・3割控除の適用可否と税額影響を判断できます。

経過措置は、いずれ終了します。そのため、令和8年10月以後の対応は、一時的な会計処理としてではなく、非登録仕入先との取引を今後どのように管理するかを見直す機会として捉えるべきです。

7・5・3割控除の影響を確認したい方へ

免税事業者等からの仕入れが多い場合、7・5・3割控除の影響は、決算時に初めて把握するのでは遅くなることがあります。

特に、原則課税で申告している場合、非課税売上がある場合、外注費や業務委託費が大きい場合、令和8年10月以後に継続取引や契約更新がある場合には、早い段階で税額影響と管理方法を整理しておくことが重要です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、消費税の申告書作成だけでなく、取引内容、請求書・証憑、登録番号管理、税区分マスター、月次の納税見込、取引先別の影響額まで含めて、後から説明できる形で整理することを重視しています。

7・5・3割控除の適用可否、自社の納付税額への影響、税区分マスターの見直し、非登録仕入先との取引管理について確認したい場合は、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り

項目重要ポイント
7・5・3割控除とは適格請求書発行事業者以外の者からの一定の課税仕入れについて、仕入税額相当額の70%・50%・30%を控除できる経過措置。
適用期間令和8年10月から70%、令和10年10月から50%、令和12年10月から30%、令和13年10月以後は控除不可。
80%控除との関係令和5年10月1日から令和8年9月30日までは80%控除。令和8年10月1日以後は70%控除へ移行する。
対象取引適格請求書発行事業者以外の者から行う課税仕入れで、保存要件を満たすもの。
対象外取引給与、非課税取引、不課税取引、課税仕入れでない支出は経過措置の対象外。
保存要件区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等と、経過措置対象である旨を記載した帳簿の保存が必要。
割合判定支払日ではなく、原則として課税仕入れの時期で判断する。役務提供は完了日、商品の仕入れは引渡日が基本。
税区分マスター80%、70%、50%、30%、控除不可を税率別に分け、登録番号・効力日・用途区分と連動させる。
控除限度額令和8年10月1日以後に開始する課税期間では、一の非登録仕入先ごとの一定額超過部分に経過措置を適用できない点に注意。
簡易課税等簡易課税、2割特例、3割特例では納付税額計算上インボイス保存を用いないが、証憑保存や将来の方式変更には注意が必要。
税務調査対応課税仕入れ該当性、相手方登録状況、請求書等、帳簿記載、控除割合、用途区分を説明できる状態にしておく。
実務対応決算時だけでなく、請求書受領時、月次処理時、契約更新時に継続的に確認する。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次