J-SOX対応で業務プロセス統制を整えようとするとき、多くの会社が最初につまずくのは、「業務フローをきれいに書くこと」と「財務報告リスクに効く統制を設計すること」を混同してしまう点です。
販売、購買、在庫、固定資産、人件費、資金。これらは日々の業務そのものであり、現場にとっては「いつもの仕事」にほかなりません。
しかしJ-SOXの観点からは、業務の流れを追うだけでは不十分です。重要なのは、その業務がどの勘定科目に影響し、どのような虚偽表示リスクを生むのか。そして、そのリスクに対してどの統制が効いており、誰が、どの証跡で、どこまで説明できる状態になっているのか、という点です。
主要業務プロセス統制は、J-SOX対応のなかでも会社の実態が最も表れやすい領域だと感じています。規程やRCM上は整っているように見えても、現場では承認が形骸化している。証跡が残らない。システム処理の前提が説明できない。例外処理だけが属人化している。決算時に経理部門が後追いで修正している。こうした課題が生じやすいからです。
この第七テーマでは、主要業務プロセス統制を、販売・購買・在庫・固定資産・人件費・資金という個別フローごとに整理していきます。ただし、個別論点をばらばらに眺めるのではありません。財務報告リスク、業務実態、証跡、IT、決算・開示、内部監査、監査法人対応をつなげて理解することを目的としています。
金融庁は2023年4月に、企業会計審議会が取りまとめた内部統制基準・実施基準の改訂意見書を公表し、2023年8月には内部統制報告制度に関するQ&A等を改訂しました。内部統制報告制度を理解するうえでは、現行の基準・実施基準・Q&Aを前提に置く必要があります。
出典:金融庁|「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表について
出典:金融庁|「内部統制報告制度に関するQ&A」等の改訂について
また金融庁は、内部統制基準・実施基準の改訂に関して、経営者が評価範囲を検討する際に適切なリスクアプローチを徹底すること、評価範囲の決定の考え方について充実した開示を求めること、国際的な内部統制の枠組みの改訂を踏まえて内部統制の基本的枠組みを見直すことを説明しています。
業務プロセス統制についても、前例踏襲や機械的なフロー整理ではなく、リスクから統制を考える姿勢がより重要になっています。
出典:金融庁|アクセスFSA 第237号
第七テーマで扱うこと
第七テーマ「主要業務プロセス統制」では、財務報告に重要な影響を与える日常業務を、プロセス別に整理します。
- 販売・売上債権プロセス:売上計上、請求、入金、債権管理
- 購買・仕入債務プロセス:発注、検収、仕入計上、請求書照合、支払
- 棚卸資産・原価計算プロセス:数量管理、実地棚卸、原価計算、評価、滞留在庫
- 固定資産・設備投資プロセス:投資承認、取得、台帳登録、現物管理、除売却、減価償却、減損兆候
- 人件費プロセス:人事マスタ、勤怠、給与計算、賞与、退職給付、支払、会計計上
- 資金プロセス:支払承認、銀行口座、振込権限、借入、残高照合、インターネットバンキング、印章管理
これらはいずれも、単なる業務手順ではありません。貸借対照表や損益計算書の勘定科目、決算整理、注記、開示基礎資料、監査証拠に直結するプロセスです。財務経理の業務フローは、現金預金、売上債権、棚卸資産、仕入債務、固定資産、人件費、資金計画・調達、決算、連結、予算管理などを通じて、B/S・P/Lの表示に結びついていきます。
そのため第七テーマでは、「現場がどのように処理しているか」だけでなく、「その処理が財務報告上どのような意味を持つか」を重視します。
業務プロセス統制は、業務フローの清書ではない
J-SOX対応で3点セットを作成すると、どうしても業務記述書やフローチャートの見た目に意識が向きがちです。しかし、業務プロセス統制の本質は、フロー図の完成度にはありません。
本来確認すべきなのは、次のような問いです。
- この取引は、どこで発生し、誰が承認し、どのシステムに入力され、どのタイミングで会計記録に反映されるのか
- その過程で、金額、数量、期間帰属、実在性、網羅性、評価、権限、表示・開示に関するリスクはどこにあるのか
- そのリスクに対して、承認、照合、レビュー、システム制限、職務分掌、例外処理、残高確認、分析といった統制がどこに設計されているのか
- その統制は、実際に現場で継続できるのか
- 後から、監査法人、内部監査、経営層、監査役等に説明できる証跡が残るのか
業務フローを理解する目的は、単に手順を知ることではありません。典型的な業務フローを理解しておくことは、適切な内部統制の整備、業務全体の最適化、専門家や指導的立場での業務、そして未成熟な会社における業務フロー構築に役立ちます。
言い換えれば、業務プロセス統制とは「業務をなぞる作業」ではなく、「財務報告リスクに対して、どの統制が効いているかを説明できる状態にする作業」だといえます。
このテーマを読む前に押さえたい3つの視点
1. 重要な勘定科目から業務を見る
業務プロセス統制を業務部門の単位だけで考えると、統制の目的がぼやけてしまいます。販売部門の作業、購買部門の作業、倉庫部門の作業、人事部門の作業、財務部門の作業を個別に見るだけでは、J-SOX上のリスクに十分に対応できません。
まずは、重要な勘定科目から逆算します。
売上、売掛金、貸倒引当金、棚卸資産、売上原価、買掛金、未払金、固定資産、減価償却費、減損損失、人件費、賞与引当金、退職給付債務、現金預金、借入金、支払利息。これらが、どの業務から生じているのかを整理していきます。
そのうえで、それぞれの勘定科目について、実在性、網羅性、正確性、期間帰属、評価、権利義務、表示・開示といった観点からリスクを確認します。
2. 統制を「承認したか」だけで終わらせない
業務プロセス統制でよくある誤解は、承認があれば統制があると考えてしまうことです。
承認はたしかに重要な統制です。しかし、承認印やワークフローの承認ログだけでは、何を確認したのかが分からない場合があります。
販売であれば、取引条件、出荷、検収、売上計上、返品・値引を確認したのか。購買であれば、発注、検収、請求書、支払条件を照合したのか。在庫であれば、数量、評価、滞留、差異を確認したのか。固定資産であれば、投資承認、現物、台帳、減価償却、減損兆候を確認したのか。
J-SOX上の統制は、「承認した」という事実だけでなく、「何を確認し、どのリスクに対応した承認なのか」まで説明できなければなりません。
3. 業務・IT・決算を分けて考えすぎない
現代の業務プロセスは、販売管理システム、購買システム、在庫管理システム、固定資産管理システム、人事給与システム、経費精算システム、インターネットバンキング、会計システムなどに強く依存しています。
そのため、業務プロセス統制を紙の承認フローだけで理解することはできません。マスタ管理、入力制限、自動計算、承認ワークフロー、データ連携、エラー処理、出力帳票、ログ、アクセス権限などを、あわせて見ていく必要があります。
さらに、日常業務で発生したデータは、月次決算、四半期決算、年度決算、連結決算、開示資料へとつながっていきます。決算早期化の実務でも、単体決算、連結決算、開示業務を縦割りで見るのではなく、最終成果物から逆算して全体を俯瞰する「森を見る視点」が重要になります。
主要業務プロセス統制も同じです。現場処理、システム処理、会計処理、決算レビュー、開示基礎資料を分断せず、一つの流れとして捉えていく必要があります。
推奨する読み順
第七テーマは、まず「7-1. 業務プロセス統制の全体像」で共通の考え方を押さえ、その後、財務報告への影響が大きい主要プロセスを順番に確認していく構成です。
基本的には、7-1から読み始めることをおすすめします。すでに自社の課題が明確な場合は、該当する個別プロセスから読み始めていただいても構いません。ただし個別記事を読む場合でも、評価範囲、重要な勘定科目、3点セット、RCM、証跡管理、職務分掌、IT統制との関係を理解しておくと、内容を読み取りやすくなります。
推奨順は、次のとおりです。
- 7-1:業務プロセス統制の考え方を押さえる
- 7-2:販売・売上債権プロセスを確認する
- 7-3:購買・仕入債務プロセスを確認する
- 7-4:棚卸資産・原価計算プロセスを確認する
- 7-5:固定資産・設備投資プロセスを確認する
- 7-6:人件費・給与・賞与・退職給付プロセスを確認する
- 7-7:資金・支払・銀行取引プロセスを確認する
この順番は、企業の一般的な取引循環と財務報告へのつながりを意識したものです。販売で売上と債権を見て、購買で仕入と債務を見て、在庫で数量と原価を見る。固定資産で投資と資産管理を見て、人件費で労務情報と会計を見て、最後に資金で支払・回収・残高管理を確認する、という流れになります。
7-1. 業務プロセス統制の全体像
最初に読んでいただきたい記事です。
このコラムでは、業務プロセス統制とは何か、J-SOX上なぜ重要なのか、そして販売、購買、在庫、固定資産、人件費、資金がどのように財務報告へつながるのかを整理します。
業務プロセスごとの統制が整理できない。3点セットはあるが、リスクと統制の対応関係が見えない。監査法人から「業務プロセスの理解が不十分」と指摘される。こうした課題を抱える会社に向いた内容です。
この総論を読んでおくと、個別プロセスの記事で登場する「取引の発生から会計記録まで」「承認・照合・レビュー」「職務分掌」「ITとの接続」「証跡の品質」といった共通論点を理解しやすくなります。
7-2. 販売・売上債権プロセスの統制
売上計上、請求、入金、債権管理に不安がある会社向けの記事です。
販売プロセスは、財務報告上も監査上も重要性が高い領域です。売上は業績評価や株価形成に直結しやすく、架空売上、前倒し売上、期間帰属誤り、返品・値引の未反映、滞留債権の評価不足といったリスクが生じます。
このコラムでは、与信、受注、出荷、検収、売上計上、請求、入金消込、滞留債権、返品・値引という一連の流れを、財務報告リスクと統制の対応関係から整理します。
販売管理システムと会計システムの連携、入金消込の属人化、検収証跡の不足、債権残高の確認不足などに課題がある会社には、特にお読みいただきたい記事です。
7-3. 購買・仕入債務プロセスの統制
発注、検収、仕入計上、支払承認、取引先管理の統制が曖昧な会社向けの記事です。
購買プロセスでは、会社が本当に発注した取引か、実際に商品・サービスを受けたか、請求書の内容は正しいか、仕入・経費・固定資産の会計処理は妥当か、支払先は適切かを確認する必要があります。
このコラムで扱うのは、取引先審査、発注承認、検収、仕入計上、請求書照合、支払、債務残高、リベートやキックバックリスクなどです。
購買は、支払プロセスや資金プロセスとも密接につながる領域です。そのため購買記事では、調達戦略そのものではなく、財務報告に係る購買・仕入債務統制に焦点を当てます。
7-4. 棚卸資産・原価計算プロセスの統制
在庫数量、評価、原価計算、棚卸差異、滞留在庫に不安がある会社向けの記事です。
棚卸資産は金額的重要性が大きくなりやすく、数量と評価の両面でリスクが生じます。実地棚卸を実施していても、対象範囲、立会、カウント方法、差異処理、外部倉庫、委託在庫、滞留在庫、評価減、原価配賦が整理されていなければ、J-SOX上十分な説明はできません。
このコラムでは、入出庫、実地棚卸、棚卸差異、評価減、滞留在庫、原価計算、外部倉庫、委託在庫を扱います。
在庫プロセスは、販売、購買、生産、原価計算、決算整理が交差する領域です。詳細コラムでは、個別の原価計算方式を網羅的に解説するのではなく、財務報告リスクに対応する統制設計の考え方を中心に整理します。
7-5. 固定資産・設備投資プロセスの統制
取得、除売却、台帳登録、減価償却、減損兆候の統制が曖昧な会社向けの記事です。
固定資産プロセスでは、投資承認、発注、検収、取得価額、台帳登録、現物管理、除売却、減価償却、減損兆候、リースなど、多くの判断と証跡が必要になります。
設備投資は金額が大きく、経営判断とも密接につながります。一方でJ-SOX上は、投資採算評価そのものを詳細に扱うのではなく、財務報告に影響する固定資産の取得・管理・会計処理・決算検討が適切に統制されているかが中心になります。
このコラムでは、資産管理と決算統制をつなげて理解したい会社に向けて、固定資産プロセスの論点を整理します。
7-6. 人件費・給与・賞与・退職給付プロセスの統制
人事情報と会計処理の接続が弱い会社向けの記事です。
人件費プロセスは、人事部門、労務部門、経理部門、システム部門が関与する横断領域です。人事マスタ、勤怠、給与計算、賞与、社会保険、源泉税、退職給付、支払承認、個人情報の管理が会計計上とつながっていなければ、未払計上、引当金、支払、開示資料の信頼性に影響します。
このコラムでは、労務管理全体ではなく、財務報告に係る人件費統制に焦点を当てます。
なお、給与計算そのものを外部委託している会社であっても、J-SOX上の説明責任がなくなるわけではありません。人事マスタの変更、勤怠データの承認、給与計算結果のレビュー、支払データ、会計仕訳、賞与・退職給付の見積り。これらを会社としてどこまで確認するかが重要になります。
7-7. 資金・支払・銀行取引プロセスの統制
支払承認、口座管理、資金移動、銀行残高照合、インターネットバンキング権限に不安がある会社向けの記事です。
資金プロセスは、会社の資産保全と財務報告の信頼性が直接交わる領域です。支払承認が曖昧である。振込権限が集中している。銀行口座台帳がない。銀行印や電子証明書の管理が属人化している。残高照合が遅い。借入台帳と会計処理がつながっていない。こうした課題は、J-SOX上も実務上も重要な意味を持ちます。
このコラムでは、支払承認、振込権限、銀行口座、資金繰り、借入、残高照合、インターネットバンキング、印章管理を扱います。
資金統制は、単に支払を厳しくするためのものではありません。誰の判断で、どの資金を、どこへ、なぜ動かしたのかを説明できる状態にすることが目的です。
どの記事から読むべきか
自社の課題がまだ整理できていない場合は、7-1から読み始めることをおすすめします。業務プロセス統制の全体像を理解してから個別プロセスに進むことで、統制設計の考え方がぶれにくくなります。
売上計上、請求、入金、債権管理に不安がある場合は、7-2を優先してください。特に、収益認識、検収、返品・値引、滞留債権、入金消込に課題がある会社では、販売プロセスの整理が重要になります。
発注、検収、請求書照合、支払承認に課題がある場合は、7-3を先にお読みください。購買プロセスは、不正支払、架空請求、二重支払、債務計上漏れと関係しやすい領域です。
在庫数量、原価計算、棚卸差異、評価減、外部倉庫に不安がある場合は、7-4が出発点になります。在庫は金額的重要性が大きく、業務部門と経理部門の認識差が出やすい領域です。
設備投資、資産管理、除売却、減価償却、減損兆候の管理が弱い場合は、7-5をご確認ください。固定資産プロセスは、日常的な件数が少ない会社であっても、一件あたりの金額や判断の重要性が高くなることがあります。
人事労務情報と会計処理が分断されている場合は、7-6をお読みください。給与計算、賞与、退職給付、社会保険、源泉税、支払データ、個人情報管理が複数部門にまたがる会社では、特に重要です。
支払、銀行口座、IB権限、資金繰り、借入、残高照合に不安がある場合は、7-7を優先してください。資金プロセスは、不正支払や横領リスクだけでなく、決算・開示・金融機関対応にも影響します。
業務プロセス統制を整えるときに、最初から完璧を目指さない
主要業務プロセス統制を整える際、すべての業務に同じ水準の統制を置こうとすると、現場が回らなくなります。
J-SOX対応では、重要性とリスクに応じて、どの業務プロセスを評価対象とするか、どの統制をキーコントロールとするか、どの証跡を評価対象とするかを判断していきます。販売件数が多い会社、在庫金額が大きい会社、設備投資が重い会社、人件費比率が高い会社、資金移動が頻繁な会社では、重点を置くプロセスがそれぞれ異なります。
また、同じ販売プロセスであっても、BtoB、BtoC、サブスクリプション、代理店販売、EC、検収基準、出荷基準、役務提供型などによって、リスクの出方は変わります。購買も同様に、仕入、外注、業務委託、広告宣伝費、クラウドサービス、リース、固定資産取得では、統制の見方が変わってきます。
大切なのは、自社の事業、取引、システム、人員、子会社、決算体制を踏まえて、過剰統制と統制不足の境界を見極めることです。
業務プロセス統制と3点セット・RCMの関係
第七テーマの各詳細コラムは、第四テーマ「3点セット・RCM・文書化と証跡管理」と密接に関係します。
業務記述書では、取引の開始から会計記録までを説明できる必要があります。フローチャートでは、部門間の流れ、承認点、システム処理、例外処理、証跡を見える化する必要があります。そしてRCMでは、財務報告リスクに対してどの統制が効いているかを示す必要があります。
主要業務プロセス統制を整えるとは、詳細なマニュアルを作ることではありません。業務・リスク・統制・証跡の対応関係を整理し、評価可能な状態にすることです。
したがって各詳細コラムを読む際には、「このプロセスを自社の業務記述書・フローチャート・RCMに落とすと、どこがキーコントロールになるか」という視点を持つと効果的です。
業務プロセス統制と決算・開示の関係
第七テーマは日常業務の統制を扱いますが、その目的は日常業務だけで完結するものではありません。
- 販売プロセスは、売上、売掛金、貸倒引当金、収益認識、注記、開示基礎資料に影響します
- 購買プロセスは、仕入、買掛金、未払金、費用計上、固定資産計上、支払予定に影響します
- 在庫プロセスは、棚卸資産、売上原価、評価減、原価計算に影響します
- 固定資産プロセスは、有形固定資産、減価償却費、減損、リース、投資活動に影響します
- 人件費プロセスは、人件費、未払費用、賞与引当金、退職給付、税金、社会保険に影響します
- 資金プロセスは、現金預金、借入金、支払利息、資金繰り、キャッシュ・フローに影響します
つまり、業務プロセス統制は決算・開示統制の前工程にあたります。
月次で業務データが正しく締まり、残高が確認され、例外処理が説明されていれば、期末決算の手戻りは減ります。逆に、日常業務の証跡や残高管理が弱ければ、決算時に経理部門が後追いで修正することになり、監査法人対応も重くなります。
業務プロセス統制とIT統制の関係
第七テーマの各プロセスは、第八テーマ「IT統制・システム・データ管理」とも接続します。
販売管理システム、購買システム、在庫管理システム、固定資産管理システム、人事給与システム、経費精算システム、インターネットバンキング、会計システムが利用されている場合には、業務処理統制とIT全般統制を分けて整理する必要があります。
たとえば、システム上の承認ワークフローをキーコントロールとして利用するのであれば、その承認権限が適切に設定され、異動・退職時に更新され、ログが保存され、変更管理が行われていることが前提になります。自動計算やデータ連携を利用するのであれば、計算ロジック、マスタ、インターフェース、エラー処理、出力帳票の信頼性も確認の対象となります。
業務プロセス統制は、現場部門だけの論点でも、経理部門だけの論点でもありません。IT部門、内部監査、監査法人との共通理解が必要です。
業務プロセス統制と子会社管理の関係
主要業務プロセス統制は、親会社単体だけでなく、子会社管理にも影響します。
重要な子会社で、販売、購買、在庫、固定資産、人件費、資金の証跡が不足している場合、親会社は連結財務報告の説明責任を果たしにくくなります。特に海外子会社や買収直後の子会社では、業務フロー、権限、証跡、システム、会計方針、決算スケジュールが親会社と異なるため、親会社のJ-SOX対応に手戻りが生じやすくなります。
第七テーマでは各プロセスを単体会社の業務として整理しますが、読み進める際には、子会社に同じリスクがないか、親会社がどの水準まで把握すべきかもあわせて意識しておくとよいでしょう。テーマ12「グループ・子会社・海外拠点・組織再編への対応」につながる視点です。
業務プロセス統制と不正リスク
主要業務プロセスは、不正リスクとも密接に関係します。
- 販売では、架空売上、循環取引、前倒し売上が問題になり得ます
- 購買では、架空請求、キックバック、二重支払が問題になり得ます
- 在庫では、数量水増し、評価減の先送り、棚卸差異の隠蔽が問題になり得ます
- 固定資産では、架空資産、除却漏れ、減損兆候の見落としが問題になり得ます
- 人件費では、架空従業員、不正な勤怠、賞与・退職給付の見積り誤りが問題になり得ます
- 資金では、横領、不正支払、不正送金、口座管理不備が問題になり得ます
ただし、第七テーマで不正調査の詳細までは扱いません。ここで扱うのは、不正リスクも含めて、財務報告リスクに効く業務プロセス統制をどう捉えるかという点です。不正の兆候、重大不備、訂正対応、再発防止については、テーマ13で詳しく扱います。
第七テーマのゴール
第七テーマを読み終えた段階で目指す状態は、次のとおりです。
- 自社の主要業務プロセスが、どの重要な勘定科目に影響しているかを説明できる
- 各プロセスにどのような財務報告リスクがあるかを整理できる
- そのリスクに対して、どの統制が効いているかをRCM上説明できる
- 承認、照合、レビュー、職務分掌、IT統制、証跡のどこに弱さがあるかを把握できる
- 決算・開示・監査法人対応に影響する業務上のボトルネックを見つけられる
- 過剰統制と統制不足の境界を、会社の実態に応じて検討できる
- 必要に応じて、外部専門家に相談すべき論点を整理できる
J-SOX対応は、業務を硬直化させるための制度ではありません。業務の実態を理解し、財務報告リスクに効く統制を見極め、後から説明できる証跡を残し、決算・開示・経営管理に使える情報の流れを整えていく取り組みです。
専門家に相談する前に整理しておきたいこと
主要業務プロセス統制について専門家に相談される際は、いきなり3点セットの修正依頼から始めるよりも、まず自社の課題を整理しておくことが重要です。
- 販売、購買、在庫、固定資産、人件費、資金のうち、どのプロセスで監査法人から指摘を受けているのか
- どのプロセスで証跡不足や属人化が起きているのか
- どのプロセスが決算遅延や監査対応の手戻りにつながっているのか
- どのシステムに依存しており、アクセス権限やマスタ管理に不安があるのか
- 子会社や海外拠点で、同じ統制水準を説明できるのか
- 既存の業務記述書、フローチャート、RCMが現場実態と合っているのか
- キーコントロールが多すぎるのか、少なすぎるのか
- どの統制を評価対象とし、どの統制を補完的な管理手続として位置づけるのか
これらを整理しておくと、専門家との相談は単なる文書修正ではなく、評価範囲、重要性、業務実態、統制設計、証跡管理、監査法人対応、改善ロードマップを含む実質的な検討になります。
主要業務プロセス統制の見直しをご検討の方へ
犬飼公認会計士・税理士事務所では、J-SOX対応を単なる制度対応や3点セット作成ではなく、会社が自らの数字・業務・権限・証跡・判断過程を説明できる状態に整える取り組みとして捉えています。
販売、購買、在庫、固定資産、人件費、資金の各業務プロセスについて、どのリスクにどの統制が効いているのか。現場で継続運用できるのか。監査法人に説明できる証跡が残るのか。決算・開示・経営管理にどう接続するのか。これらを整理するには、制度理解だけでなく、業務実態、監査目線、IT、子会社管理、運用負荷を踏まえた判断が必要です。
自社の主要業務プロセス統制を見直したい、監査法人からの指摘を整理したい、3点セットやRCMが現場実態と合っているか確認したい、過剰統制と統制不足の境界を判断したい。このようなご要望がございましたら、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り|第七テーマ「主要業務プロセス統制」で押さえるポイント
| 振り返り項目 | 要点 |
|---|---|
| 第七テーマの役割 | 販売、購買、在庫、固定資産、人件費、資金など、財務報告に直結する主要業務プロセスを体系的に整理する |
| 中心メッセージ | 業務プロセス統制は、業務フローをなぞるのではなく、財務報告リスクに効く統制を見極めることが重要 |
| 最初に読む記事 | 7-1「業務プロセス統制の全体像」で、共通する考え方を押さえる |
| 販売プロセス | 売上計上、請求、入金、債権管理、不正リスクを整理する |
| 購買プロセス | 発注、検収、仕入計上、請求書照合、支払承認、取引先管理を整理する |
| 在庫プロセス | 数量、実地棚卸、棚卸差異、評価減、原価計算、滞留在庫を整理する |
| 固定資産プロセス | 投資承認、取得、台帳登録、現物管理、除売却、減価償却、減損兆候を整理する |
| 人件費プロセス | 人事マスタ、勤怠、給与計算、賞与、退職給付、支払、会計計上を整理する |
| 資金プロセス | 支払承認、銀行口座、振込権限、借入、残高照合、IB、印章管理を整理する |
| 3点セットとの関係 | 業務記述書、フローチャート、RCMは、業務・リスク・統制・証跡を説明するために使う |
| 決算・開示との関係 | 日常業務の統制が弱いと、決算遅延、開示資料の不整合、監査対応の手戻りにつながる |
| IT統制との関係 | システム承認、自動計算、マスタ、データ連携、ログ、アクセス権限を合わせて見る必要がある |
| 子会社管理との関係 | 子会社の業務プロセス統制が弱いと、親会社の連結財務報告責任に影響する |
| 不正リスクとの関係 | 各プロセスには不正リスクがあり、財務報告リスクに効く統制として整理する必要がある |
| 専門家相談の入口 | 監査法人指摘、証跡不足、属人化、IT統制、子会社管理、過剰統制・統制不足の整理から始める |