創業初期に「後から説明できる状態」を作る考え方|税務・融資・契約・会計で困らない初期設計

創業・開業・法人化の初期対応では、どうしても「手続を早く終わらせること」に意識が向きがちです。

開業届を出し、法人を設立し、口座を作る。会計ソフトを入れ、請求書を発行し、融資を申し込む。給与を支払い、インボイス登録を検討する。いずれも、事業を動かすうえで欠かせない実務です。

ただ、私が創業のご相談を受けていて本当に大切だと感じるのは、これらの対応を一つひとつ「後から説明できる状態」で進めていくことです。

ここでいう「説明」とは、単に書類を保管しているという意味ではありません。もう少し踏み込んだ、次のような問いに答えられる状態を指しています。

  • なぜ、その事業開始ルートを選んだのか
  • なぜ、その資本金、役員報酬、事業年度にしたのか
  • その支出は、何のための支出なのか
  • その売上は、いつ、どの契約に基づいて発生したのか
  • 借入金は何に使い、どの利益・資金で返済していくのか
  • 個人のお金と事業のお金は、どう区分されているのか
  • 税務上の届出や制度選択は、どのような前提で判断したのか
  • 金融機関、税務署、取引先、将来の株主や承継先に見せても、筋が通るか

創業初期は、まだ取引量も少なく、資料も比較的整理しやすい時期です。この時期に「後から説明できる状態」を作っておけるかどうかで、税務調査、融資審査、資金繰り、月次決算、法人成り、投資、M&A、事業承継といった場面で、後々大きな差が生まれます。

本記事では、創業初期に整えておきたい「説明可能性」の考え方を、税務・資金・契約・会計・労務・金融機関対応の観点に分けて整理していきます。

なお、本記事の制度説明は、2026年7月1日現在の公的情報を前提としています。実際の届出期限、税務判断、社会保険手続、消費税・インボイス対応は、事業内容、設立日、課税関係、役員報酬、従業員の有無、自治体の取扱いなどによって変わります。最終的には、個別の事情に応じた確認が必要とお考えください。

目次

「後から説明できる状態」とは何か

創業初期の実務でよく見られる問題は、「手続そのものをしていない」ことだけではありません。むしろ、手続はしたけれど、その中身を説明できない、というケースの方が多い印象です。

  • 手続はしたが、なぜその内容にしたのかが分からない
  • 支出はしたが、事業との関係を説明できない
  • 契約はあるが、請求・入金・会計処理とつながっていない
  • 会計ソフトには入力されているが、証憑や契約書と突合できない
  • 融資を受けたが、資金使途と実際の支出が対応していない
  • 役員報酬を決めたが、利益計画や資金繰りと整合していない
  • インボイス登録はしたが、価格設定や請求書の運用まで整っていない

こうした状態では、資料が手元にあっても、いざというときに説明ができません。

私が考える「後から説明できる状態」とは、次の3つがきちんとつながっている状態です。

事実
契約、請求、入金、支払、資金移動、届出、議事録、証憑など、実際に起こったことが記録されている。

判断
なぜその選択をしたのか、どのような前提で判断したのか、誰が意思決定したのかが整理されている。

数字
会計処理、資金繰り、月次試算表、借入残高、売掛金・買掛金、税金・社会保険の見込みに反映されている。

創業初期に目指したいのは、書類を数多く集めることではありません。事実、判断、数字が一本の線でつながっている状態を作ること。ここに尽きると考えています。

説明すべき相手は、税務署だけではない

「説明できる状態」と聞くと、まず税務調査を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん、税務上の説明可能性は重要です。

法人には、帳簿を備え付けて取引を記録し、その帳簿と、取引に関して作成または受領した書類を保存する義務があります。保存期間は、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間です。ここでいう帳簿には、総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳などが含まれ、書類には、棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書などが含まれます。
出典:国税庁|No.5930 帳簿書類等の保存期間

個人事業者の場合も、1年間に生じた所得を正しく計算して申告するために、日々の取引を記帳し、帳簿や書類を一定期間保存する必要があります。
出典:国税庁|記帳や帳簿等保存・青色申告

ただ、実務の現場で説明を求められる相手は、税務署だけではありません。

金融機関には、創業計画、資金使途、自己資金、返済原資、月次試算表、資金繰り表を説明することになります。取引先には、契約名義、請求書、支払条件、インボイス、納品・検収、責任範囲を説明します。従業員に対しては、労働条件、給与、社会保険、源泉徴収、勤怠管理の説明が求められます。

さらに、共同創業者や株主には、出資、持株比率、役員報酬、資金調達、意思決定の経緯を。将来の投資家、買い手、承継先には、創業時からの資本、契約、会計、税務、労務、許認可の整合性を説明する場面が出てきます。

つまり、創業初期の記録は、過去の証拠であると同時に、将来の信用を作る資料でもあるのです。

まず「事業開始ルート」の判断理由を残す

創業初期に、まず説明できるようにしておきたいのが「事業開始ルート」です。

個人事業として始めるのか。最初から法人を設立するのか。あるいは、個人事業から法人化していくのか。

この判断は、税負担だけで決めるものではありません。取引先信用、資金調達、責任範囲、社会保険、許認可、共同創業、採用、将来の法人成り、M&A・承継の可能性まで含めて検討していく必要があります。

後から説明できなくなる典型例は、「なんとなく法人の方が信用がありそうだから」「ネットで節税になると見たから」「設立費用が安かったから」といった理由だけで進めてしまうケースです。

そうではなく、創業初期には、次のような判断メモを残しておくことをおすすめします。後の整理が、ずいぶんと楽になります。

  • どの事業を、誰に、どの契約形態で提供するのか
  • 売上規模、利益見込み、固定費、資金需要をどう見込んだのか
  • 取引先から法人化を求められる可能性はあるのか
  • 社会保険や役員報酬の負担を織り込んでいるか
  • 創業融資や制度融資を検討しているか
  • 消費税やインボイス登録をどう考えているか
  • 将来、法人成り、投資、共同経営、承継を想定しているか

法人を設立する場合は、設立後に法人設立届出書などの提出が必要です。法人設立届出書の提出期限は、設立の日以後2か月を経過する日までとされています。
出典:国税庁|No.5100 新設法人の届出書類

個人で事業を始める場合は、開業後1か月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出することとされています。
出典:国税庁|個人で事業を始めたとき/法人を設立したとき

届出期限を守ることは、もちろん大切です。ただ、それ以上に「なぜこの形で始めたのか」を残しておくことが、後の法人化判断、金融機関対応、税務説明につながっていきます。

資本金・自己資金・借入金の流れを説明できるようにする

創業初期の資金は、後から最も確認されやすい論点です。

自己資金はいくらか。その自己資金は、どこから準備したのか。法人設立時の資本金はいくらか。借入金はいくらで、何に使うのか。補助金や助成金を見込んでいるのか。事業用口座と個人口座は分けているのか。開業前に支払った費用をどう扱うのか。

このあたりが曖昧なままだと、税務上は、事業関連性、資金移動、役員・代表者との貸借、創立費・開業費、資産計上といった点が問題になりやすくなります。金融機関対応の場面でも、自己資金の蓄積、資金使途、返済可能性の説明が、どうしても弱くなってしまいます。

創業融資を検討する場合、日本政策金融公庫の創業計画書には、創業の動機、経営者の略歴等、取扱商品・サービス、取引先・取引関係等、必要な資金と調達方法などを整理する様式が用意されています。
出典:日本政策金融公庫|各種書式ダウンロード 小規模事業者/個人事業主の方

この創業計画書は、融資申請のためだけの書類ではありません。創業後に「当初、何にいくら使う予定だったのか」「借入金は計画どおり使われたのか」「返済原資はどの売上・利益から生まれるのか」を確認していくための、基礎資料でもあります。

資金について説明できる状態を作るには、少なくとも次の資料をつなげて管理しておきたいところです。

  • 資本金の払込記録
  • 自己資金の蓄積が分かる通帳や入出金履歴
  • 借入契約書、返済予定表、保証関係資料
  • 創業計画書、資金使途明細、見積書
  • 設備投資、備品購入、内装、広告、システム費用などの請求書・領収書
  • 事業用口座の入出金履歴
  • 代表者と会社・事業との貸付金・借入金の記録
  • 開業前支出の一覧と証憑

資金の流れは、後から記憶で説明するものではありません。口座、契約、証憑、会計処理をつなげて説明するものだと考えておくと、日々の記録の意味が変わってきます。

契約・請求・入金の流れを一本化する

売上は、入金されたら終わり、ではありません。

誰と契約したのか。何を提供したのか。いつ納品・提供したのか。いつ請求したのか。いつ入金されたのか。消費税やインボイスの記載はどうしたのか。売掛金は残っていないか。値引き、返金、キャンセル、未回収はないか。

創業初期からこの流れを整えておくと、売上計上、消費税、資金繰り、債権管理、金融機関への説明が、いずれも安定してきます。

反対に、契約書はあるが請求書とつながらない、請求書はあるが入金確認がされていない、入金はあるがどの契約の売上か分からない――こうした状態では、会計処理も税務説明も、どうしても不安定になります。

取引を開始するときは、次の流れを基本として整えておくと安心です。

見積 → 注文・申込 → 契約 → 納品・役務提供 → 検収・完了確認 → 請求 → 入金 → 会計処理 → 証憑保存 → 売掛金管理

もちろん、すべての取引で厳密な契約書が必要になるわけではありません。ただ、継続取引、高額取引、成果物がある取引、外注を使う取引、入金サイトが長い取引、責任範囲が問題になりやすい取引などでは、契約条件を明確にしておく必要があります。

また、インボイス制度のもとでは、仕入税額控除を受けるために、原則としてインボイスの保存が求められます。インボイスがない仕入れや経費については、経過措置や簡易課税制度等の例外を除き、原則として仕入税額控除ができません。
出典:国税庁|インボイス制度について

取引先に説明できる請求書を発行するだけでなく、自社が受け取る請求書についても、登録番号、取引内容、税率、消費税額、保存方法を確認できる体制を整えておく必要があります。

事業用支出は「何のために使ったか」を残す

創業初期の支出は、事業と私的支出の境界が曖昧になりやすい領域です。

自宅兼事務所の費用。スマートフォン、通信費、PC、クラウドサービス。打合せの飲食費。開業前の交通費、調査費、研修費。家族への支払い。代表者個人のカードで支払った法人費用。個人口座から支払った開業費用。

これらは、支出したこと自体よりも、事業との関係を説明できるかどうかが重要になります。

説明できる状態にするには、領収書だけでは足りません。次のような情報が必要です。

  • 支払日
  • 支払先
  • 金額
  • 支払方法
  • 利用目的
  • 関係する契約・案件・取引先
  • 個人利用との区分
  • 法人・個人事業のどちらに帰属するか
  • 会計処理の科目
  • 証憑の保存場所

特に法人設立の前後では、設立前の支出、設立後の法人支出、代表者立替、法人から代表者への精算が混在します。ここを曖昧にしてしまうと、初年度決算で資料を集め直すことになり、資金移動や費用性の説明も難しくなってしまいます。

創業初期は、支出の件数がまだ少ないうちに、支出一覧を作っておくことが有効です。会計ソフトに入力する前の段階で、「これは何のための支出か」を一言メモしておくだけで、後の月次決算や申告での確認がぐっと楽になります。

税務届出と制度選択は「提出したか」だけでなく「なぜ選んだか」を残す

創業時には、税務署や自治体への届出が複数発生します。

  • 個人事業の開業届
  • 所得税の青色申告承認申請
  • 法人設立届出
  • 法人税の青色申告承認申請
  • 給与支払事務所等の開設届出
  • 源泉所得税の納期の特例
  • 消費税の課税事業者選択届出
  • 簡易課税制度選択届出
  • インボイス登録
  • 地方税の法人設立・設置届出

ここで注意しておきたいのは、届出の提出漏れだけではありません。届出や制度選択の前提が整理されていないことも、後々の説明を難しくします。

  • なぜ、青色申告を選ぶのか
  • なぜ、その事業年度にするのか
  • なぜ、課税事業者を選択するのか、しないのか
  • なぜ、簡易課税を選択するのか、しないのか
  • なぜ、インボイス登録をするのか、しないのか
  • 給与支払開始日、役員報酬開始日、源泉納付方法をどう管理するのか

消費税関係の届出は、提出時期や適用開始時期を誤ると、設備投資、インボイス、還付、簡易課税、資金繰りに影響することがあります。とくに「いつまでに提出すべきか」「提出した場合、いつから効力が生じるか」は、個別の確認が欠かせません。

仕入税額控除の適用を受けるためには、法定事項が記載された帳簿および請求書等の保存が要件とされています。ここでいう請求書等には、適格請求書、適格簡易請求書、仕入明細書等が含まれます。
出典:国税庁|No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項

届出書は、提出して終わりではありません。提出控え、受付日、適用開始時期、判断メモ、会計処理、請求書運用まで、一体として管理しておく必要があります。

電子取引・証憑保存は創業初期から運用を決める

創業初期から、取引の多くは電子データで発生します。

メール添付の請求書。クラウドサービスの領収書。ECサイトの購入履歴。クレジットカード明細。電子契約。チャット上の発注・承認。オンライン広告の利用明細。クラウド会計に連携された銀行・カードデータ。

もはや、紙の領収書だけを集める時代ではありません。電子データを受け取った場合に、どこへ保存し、どのように検索でき、会計処理とどう紐づけるのかを、あらかじめ決めておく必要があります。

電子帳簿保存法は、税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律であり、電子取引に関する保存義務や保存方法も定めています。国税庁も、所得税法・法人税法上の保存義務者となる方に対しては、特に「電子取引」について確認するよう案内しています。
出典:国税庁|電子帳簿等保存制度特設サイト

創業初期に決めておきたいのは、細かなシステム比較ではなく、基本ルールです。

  • 請求書、領収書、契約書、注文書、納品書をどこに保存するか
  • 電子取引データを、紙出力だけで管理していないか
  • ファイル名に日付、取引先、金額、内容を入れるか
  • 会計ソフトや証憑保存サービスと連携するか
  • クレジットカード明細だけでなく、利用明細・請求書本体を保存しているか
  • 代表者個人のメールやスマートフォンに、証憑が散在していないか
  • 税理士・会計事務所と共有できる状態になっているか

証憑保存は、税務対応だけの話ではありません。月次決算を早く締めるための前提でもあります。

役員報酬・給与・外注費は、支払の性質を説明できるようにする

創業初期には、人に関する支払いも混在しやすくなります。

代表者への役員報酬。従業員への給与。アルバイトへの賃金。外注先への業務委託費。専門家への報酬。家族への給与や外注費。共同創業者への報酬。

これらは、支払先が同じ「人」であっても、税務・社会保険・労務・契約上の扱いが異なります。

給与や一定の報酬・料金を支払う場合、支払者は所得税および復興特別所得税を源泉徴収し、原則として支払った月の翌月10日までに国に納める必要があります。
出典:国税庁|No.2502 源泉徴収義務者とは
出典:国税庁|No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例

また、常時従業員を使用する法人事業所は、事業主のみの場合を含めて、厚生年金保険および健康保険への加入が法律で義務づけられています。新規適用届は、事業所が加入要件を満たした場合、事実発生から5日以内に提出するものとされています。
出典:日本年金機構|新規適用の手続き

外注費として処理している支払いについても、実態が雇用に近い場合は、給与・労務・社会保険の論点が生じる可能性があります。契約書上の名称だけでなく、指揮命令関係、代替性、成果物、勤務時間、報酬計算、請求書の有無、インボイス対応などを確認しておく必要があります。

創業初期には、次のような情報を整理しておきましょう。

  • 誰に支払うのか
  • 役員、従業員、外注先、専門家のどれに該当するのか
  • 支払根拠は、雇用契約、委任契約、請負契約、役員報酬決議のどれか
  • 源泉徴収が必要か
  • 社会保険・労働保険の手続が必要か
  • 消費税・インボイスの対象となる支払いか
  • 会計上、給与、役員報酬、外注費、支払報酬のどれで処理するか
  • 支払開始日、支払日、納付期限を管理しているか

人に関する支払いは、後から修正しにくい領域です。だからこそ、創業初期の段階で、支払の性質を明確にしておくことが重要になります。

会社の意思決定は、議事録・決定メモで残す

法人を設立する場合、会社は個人とは別の主体です。たとえ代表者が一人で経営していても、「会社として決めたこと」を説明できる状態にしておく必要があります。

資本金、本店所在地、事業目的、役員、事業年度、役員報酬、借入、大きな設備投資、株式発行、株主構成、本店移転、重要な契約、利益相反取引、代表者との貸借。

これらの事項は、定款、登記、株主総会、取締役決定、取締役会、契約書、会計処理と関連してきます。

会社法上も、株式会社の機関や議事録に関するルールが定められており、株主総会や取締役会に関する議事録の作成・備置などが求められる場面があります。
出典:e-Gov法令検索|会社法

創業初期の会社では、形式的な議事録が後回しになりがちです。しかし、役員報酬、株主構成、共同創業者との合意、代表者との資金移動、大口契約などは、後から紛争・税務・金融機関対応・投資家対応の場面で確認されることがあります。

すべてを過度に複雑にする必要はありません。ただ、重要な意思決定については、次の要素を残しておくべきだと考えています。

  • 決定日
  • 決定者
  • 決定内容
  • 判断理由
  • 前提となる資料
  • 金額
  • 実行予定日
  • 関係者への影響
  • 会計・税務・資金繰りへの反映

議事録や決定メモは、過去の自分を守るためだけのものではありません。将来の経営判断を支える資料でもあります。

月次決算で「説明できる状態」を継続する

創業初期に資料を整えても、月次で更新されていかなければ、意味が薄れてしまいます。

事業は、毎月動きます。売上が変わり、固定費が増え、外注が発生し、給与が始まり、借入返済が始まり、消費税や源泉所得税、社会保険料の支払いが発生する。その変化を月次で確認できなければ、せっかく作った「説明できる状態」も、すぐに崩れていきます。

月次で確認したいのは、損益だけではありません。

  • 売上は計画どおりか
  • 粗利率は想定どおりか
  • 固定費は増えすぎていないか
  • 役員報酬と人件費は資金繰りに合っているか
  • 売掛金は回収されているか
  • 買掛金・未払金は残っていないか
  • 借入金残高と返済予定は合っているか
  • 消費税、源泉所得税、社会保険料の支払いを見込んでいるか
  • 証憑は月次で揃っているか
  • 資金繰り表と試算表が整合しているか

月次決算は、税務申告のためだけの作業ではありません。経営者が現在地を把握し、金融機関に説明し、次の資金調達や投資判断を行うための基礎です。

金融機関は、融資審査において、事業内容、業績、今後の見通し、資金使途、返済原資などを確認します。創業時の説明も、借入後の説明も、結局は数字と資料の整合性がものを言います。
出典:日本政策金融公庫|各種書式ダウンロード 小規模事業者/個人事業主の方

創業初期から月次で説明できる会社は、資金繰りの異常にも早く気づけます。利益が出ていても、売掛金の回収が遅れ、在庫や設備投資が先行し、税金や社会保険料の支払いが重なれば、資金は不足します。

説明できる状態は、資料を保管しているだけでは維持できません。月次の運用によって、はじめて保たれるものだと考えています。

「きれいな資料」より「つながる資料」を重視する

創業初期に整える資料は、見た目がきれいである必要はありません。大切なのは、資料同士がつながっていることです。

契約書と請求書がつながる。請求書と入金がつながる。入金と売上計上がつながる。支出と領収書がつながる。領収書と会計処理がつながる。借入金と資金使途がつながる。役員報酬と議事録・源泉・社会保険がつながる。インボイスと消費税処理がつながる。月次試算表と資金繰り表がつながる。創業計画と実績がつながる。

資料がつながっていれば、後から状況をきちんと説明できます。反対に、資料が点在していると、たとえ正しい処理をしていても、説明に時間がかかってしまいます。

創業初期の実務では、次のような管理方法が有効です。

  • 事業用口座を分ける
  • 事業用クレジットカードを分ける
  • 契約書、請求書、領収書、届出控えを保存する場所を決める
  • クラウド会計に銀行・カードを連携する
  • 取引先別に売掛金・入金を確認する
  • 月次で証憑不足リストを確認する
  • 大きな支出には、目的・承認・資金使途をメモする
  • 代表者立替や代表者貸付を放置しない
  • 創業計画と実績の差異を毎月確認する

「あとでまとめて整理する」という発想は、創業初期には少し危険です。あとで整理しようとするほど、記憶は薄れ、資料は散らばり、判断理由は失われていきます。

説明できない状態が生むリスク

創業初期に説明できる状態を作れていないと、次のような問題が起こりやすくなります。

  • 税務調査で、売上、外注費、交際費、開業費、役員報酬、個人・法人間取引を説明できない
  • 消費税やインボイスの判断が曖昧で、仕入税額控除や登録後の義務に対応できない
  • 融資面談で、資金使途、返済原資、自己資金、売上根拠を説明できない
  • 借入後に、金融機関へ月次の進捗を説明できない
  • 契約書と請求書が合わず、取引先との認識違いが生じる
  • 売掛金の回収状況が分からず、資金繰りが悪化する
  • 役員報酬や給与に関する源泉・社会保険の対応が遅れる
  • 共同創業者や株主との間で、出資・役割・報酬の認識がずれる
  • 将来の法人成り、投資、M&A、承継の場面で、創業時の経緯を説明できない

これらは、創業者の能力不足によって起こるものではありません。多くは、最初に「資料と判断をつなぐ仕組み」を作らなかったことから生じています。

創業初期に、完璧な管理体制を作る必要はありません。ただ、説明できる最低限の「型」だけは、用意しておきたいところです。

創業初期に最低限整えたい「説明可能性」の型

創業初期にまず整えておきたい型は、次の5つです。

1. 判断メモ
個人事業か法人か、資本金、事業年度、役員報酬、消費税、インボイス、融資、会計ソフトなど、重要な選択について理由を残す。

2. 証憑保存ルール
契約書、請求書、領収書、見積書、注文書、納品書、通帳、カード明細、電子取引データを保存する場所と方法を決める。

3. 資金管理表
自己資金、資本金、借入金、資金使途、代表者立替、返済予定、税金・社会保険の支払いを整理する。

4. 月次確認資料
月次試算表、資金繰り表、売掛金一覧、買掛金・未払金一覧、借入金一覧、証憑不足一覧を確認する。

5. 届出・期限管理表
税務署、自治体、年金事務所、労基署、ハローワークへの届出、提出期限、提出日、控えの保存場所、適用開始日を管理する。

この5つがあれば、創業初期の多くの論点は、後からでも確認できます。反対に、これらがないと、個別の書類は揃っていても、全体像を説明しにくくなってしまいます。

創業初期の説明可能性を整えたい方へ

創業初期に「後から説明できる状態」を作ることは、単なる几帳面さの問題ではありません。

税務リスクを下げるため。金融機関に信用されるため。資金繰りを見える化するため。契約や請求のトラブルを防ぐため。役員報酬、給与、社会保険を適切に管理するため。そして、将来の法人成り、資金調達、投資、M&A、承継に耐えられる土台を作るため。

創業直後は、事業そのものに集中したい時期です。だからこそ、最初に仕組みを整えておくことに意味があると考えています。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、創業・開業・法人化を、単なる届出や設立手続としてではなく、事業開始後の月次決算、資金繰り、税務判断、金融機関対応、契約・証憑管理まで見据えた「初期設計」として支援しています。

  • すでに開業しているが、資料整理に不安がある
  • 法人設立前に、何をどこまで決めるべきか整理したい
  • 創業融資を受ける前に、資金使途と返済原資を確認したい
  • 役員報酬、社会保険、インボイス、会計ソフトの初期設定をまとめて確認したい
  • 創業後の月次決算体制を、早めに整えたい

こうした場合は、現在の準備状況や事業の前提を整理したうえで、なるべく早い段階でご相談いただければと思います。

お問い合わせページから、創業・開業・法人化に関するご相談内容をお送りいただけます。

振り返り|創業初期に「後から説明できる状態」を作るための確認表

確認領域後から説明すべきこと残しておきたい資料・記録
事業開始ルート個人事業、法人設立、法人成りのどれを選んだ理由判断メモ、事業計画、届出控え、設立資料
事業内容誰に、何を、どの契約・価格・請求条件で提供するか事業概要、契約書、見積書、請求書、創業計画書
資本金・自己資金元手の金額、出所、事業資金としての使い道通帳、払込記録、資本金資料、資金計画
借入金借入理由、資金使途、返済原資借入契約書、返済予定表、創業計画書、資金繰り表
事業用支出その支出が事業に必要である理由領収書、請求書、利用目的メモ、会計処理
契約・請求契約、納品、請求、入金、会計処理のつながり契約書、注文書、納品書、請求書、入金記録
売掛金・回収売上がいつ発生し、いつ回収されたか売掛金一覧、入金確認表、請求管理表
税務届出何を、いつ、なぜ提出したか届出控え、受付記録、期限管理表、判断メモ
消費税・インボイス登録・課税選択・請求書運用の判断理由登録通知、請求書、受領インボイス、消費税判断メモ
電子取引・証憑保存電子データをどこに、どの方法で保存しているか保存フォルダ、会計ソフト、証憑保存ルール
役員報酬・給与支払額、支払根拠、源泉、社会保険との整合性議事録、給与台帳、源泉納付記録、社会保険書類
外注・業務委託給与ではなく外注費と整理する理由業務委託契約書、請求書、成果物、支払記録
会社の意思決定誰が、いつ、どのような理由で決めたか株主総会議事録、取締役決定書、取締役会議事録、決定メモ
月次決算毎月の損益、資金、債権債務、計画差異月次試算表、資金繰り表、売掛金・買掛金一覧
金融機関対応事業状況、資金繰り、返済可能性を説明できるか月次資料、借入一覧、計画差異資料、事業進捗メモ
将来の法人化・投資・承継創業時からの経緯を第三者に説明できるか定款、株主名簿、契約書、会計資料、意思決定記録
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