定款・商号・目的・本店・事業年度・資本金の決め方|法人設立時に後悔しない基本事項の設計

法人を設立するときには、商号、事業目的、本店所在地、事業年度、資本金などを決めていくことになります。

これらは、一見すると設立登記に必要な「入力項目」のように見えます。実際、会社設立サービスや司法書士への依頼でも、まずこうした情報を記入するところから手続が始まることが多いでしょう。

しかし、これらの項目は、単なる登記情報ではありません。それぞれが、設立後の会社運営の入口になります。

  • 商号は、契約書、請求書、銀行口座、取引先審査、採用、ブランドの入口になります。
  • 事業目的は、許認可、融資、取引先への説明、将来の事業展開に影響します。
  • 本店所在地は、登記、税務署、自治体、社会保険、金融機関、郵便物の受領に関係します。
  • 事業年度は、決算、申告、納税、役員報酬、消費税、資金繰りに影響します。
  • 資本金は、設立時の元手であり、信用、消費税、創業融資、純資産、株主構成に関わります。

つまり、定款・商号・目的・本店・事業年度・資本金は、法人設立後の税務、資金、契約、会計、金融機関対応までを左右する「初期設定」なのです。

本記事では、定款の詳細な条項を網羅することを目的とはしていません。法人設立時にまず決めておきたい基本事項について、どのような順番で、何を基準に判断していけばよいのかを整理していきます。

目次

定款は、会社の「根本規則」である

定款は、会社設立のために作成する形式書類ではありません。会社の組織、活動、意思決定、株式、役員、公告、事業年度などに関する基本ルールを定めるものです。

株式会社を設立する場合、発起人は定款を作成し、その全員が署名または記名押印する必要があります。さらに、株式会社の定款には、公証人による認証が求められます。

法務省は、株式会社の定款について、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項の3種類があると整理しています。このうち絶対的記載事項には、目的、商号、本店所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所が含まれます。
出典:法務省|株式会社の設立手続(発起設立)について

相対的記載事項は、定款に定めておかなければ効力が生じない事項です。たとえば、現物出資、財産引受け、設立費用、株式譲渡制限、取締役会・監査役等の設置、公告方法などがこれに当たります。

任意的記載事項は、会社法に反しない範囲で、会社運営を明確にするために定款へ記載する事項です。定時株主総会の招集時期、議長、役員の員数、事業年度などが含まれます。
出典:法務省|株式会社の設立手続(発起設立)について

こうして整理してみると分かるように、定款は「登記のために必要な紙」ではなく、設立後の会社運営を拘束する基礎文書です。

定款の内容が粗いままだと、設立直後には問題が見えなくても、後から次のような場面で支障が出てきます。

  • 事業目的が、許認可と合わない
  • 株式譲渡制限や発行可能株式総数の設計が、将来の資本政策と合わない
  • 本店所在地を安易に決めた結果、郵便、税務、社会保険、銀行口座で不都合が出る
  • 事業年度を深く考えずに決めたため、設立直後にすぐ決算・申告が来る
  • 資本金が少なすぎて、創業直後から役員借入金に依存する

定款を作る前に考えるべきことは、「どの条項を入れるか」ではありません。まずは、自社がどのような事業を、どの場所で、どの資金規模で、どの管理体制で始めるのかを整理することです。

基本事項は、登記の順番ではなく事業の順番で決める

会社設立の書類上は、商号、目的、本店所在地、資本金、役員、事業年度などを順番に埋めていくように見えます。

しかし実務では、次の順番で考えたほうが、全体の整合性を取りやすくなります。

まず、事業内容を確認します。何を売るのか、誰に売るのか、どのような契約で収益を得るのか、許認可が必要か、将来拡張していく事業があるのかを整理します。

次に、取引の形を確認します。法人契約が中心なのか、個人向け取引が中心なのか、継続取引なのか、単発取引なのか、請求書・領収書・インボイスの発行が必要かを確認します。

そのうえで、資金と人を確認します。開業準備資金、設備投資、運転資金、役員報酬、給与、社会保険料、借入予定、自己資金を整理します。

最後に、これらを登記・税務・労務・会計へ落とし込みます。商号、目的、本店、事業年度、資本金、発行可能株式総数、公告方法、税務届出、会計ソフト、証憑保存、月次決算体制を決めていきます。

この順番を飛ばして先に定款だけを作ってしまうと、形式上は会社を設立できても、事業開始後の運用と噛み合わない会社になってしまいます。

商号の決め方

商号は、会社の名称です。株式会社であれば商号中に「株式会社」、合同会社であれば「合同会社」という、会社の種類を示す文字を用います。会社法でも、会社はその名称を商号とし、会社の種類に従って、株式会社、合名会社、合資会社または合同会社という文字を商号中に用いることとされています。
出典:e-Gov法令検索|会社法

商号を決めるときは、響きや覚えやすさだけでなく、次の観点も確認しておきたいところです。

取引先に説明しやすいか

商号は、契約書、請求書、見積書、注文書、領収書、銀行口座、登記事項証明書、法人番号公表情報など、さまざまな場面に登場します。

事業内容と大きく離れた商号にすること自体が、直ちに問題になるわけではありません。ただ、創業初期は実績が少ないため、金融機関や取引先は、会社名、目的、代表者、資本金、所在地、事業計画を合わせて見ています。

商号だけで事業内容をすべて表す必要はありません。それでも、初対面の取引先や金融機関に対して、何をしている会社かを説明しやすいかどうかは、やはり重要です。

既存の名称・商標・ドメインと衝突しないか

登記上は使用できる商号であっても、同じ名称や類似した名称がすでに使われている場合には、営業上の混同、商標、ドメイン、SNSアカウント、検索結果などで混乱が生じることがあります。

特に、広告、EC、アプリ、専門サービス、店舗ビジネスでは、商号とサービス名、屋号、ブランド名、ドメイン名を分けるのか、統一するのかを、あらかじめ検討しておく必要があります。

将来の事業展開を狭めすぎないか

創業時の事業に合わせすぎた商号は、後に事業領域が広がったときに違和感が出ることがあります。一方で、抽象的すぎる商号は、創業初期の説明力を弱めてしまうこともあります。

商号は、現在の事業を説明しやすく、なおかつ将来の拡張にも耐えられる範囲で決めておくのが、実務的な落としどころです。

目的の決め方

事業目的は、会社が行う事業の範囲を示す、定款・登記事項です。株式会社の設立登記では、目的、商号、本店、資本金の額、発行可能株式総数、発行済株式の総数、取締役、代表取締役、公告方法などが主な登記事項になります。
出典:法務省|株式会社の設立手続(発起設立)について

事業目的は、定款の中でも、とりわけ実務への影響が大きい項目です。なぜなら、許認可、取引先審査、金融機関への説明、補助金・助成金、契約、将来の事業追加にまで関わってくるからです。

現在行う事業を明確に書く

事業目的には、設立直後に実際に行う事業を、必ず反映させます。

創業時にすぐ売上が立つ事業、契約書に記載する業務、請求書に記載するサービス、許認可の対象となる業務は、曖昧にせず整理しておく必要があります。

たとえば、実際にはシステム開発を受託するのに、目的が「コンサルティング業」だけになっていると、取引先や金融機関に説明しにくくなる場合があります。逆に、まだ具体化していない事業を大量に並べてしまうと、今度は会社の事業内容がぼやけてしまいます。

目的は、広すぎても狭すぎても、かえって使いにくくなるものです。

許認可が必要な事業は、事前に文言を確認する

許認可が必要な事業では、事業目的の記載がとりわけ重要になります。

建設業、宅地建物取引業、古物商、労働者派遣、有料職業紹介、飲食業、医療・介護、産業廃棄物、旅行業、金融関連などは、行政庁や制度ごとに、求められる事業目的の表現があります。

法人設立後に許認可を申請する段階で、目的が合っていないことが判明すると、定款変更や目的変更登記が必要になる場合があります。これは時間も費用もかかり、開業スケジュールにも影響します。

許認可が少しでも関係する可能性があるなら、定款作成の前に、行政庁、行政書士、司法書士、税理士などに確認しておくべきです。

将来事業は、現実的な範囲で入れる

事業目的には、将来行う可能性のある事業を入れておくこともあります。

ただし、いつかやるかもしれない事業をすべて詰め込んでしまうと、会社の説明が難しくなります。金融機関や取引先から見ても、目的が多すぎる会社は「結局、何を中心に行う会社なのか」が分かりにくくなってしまいます。

将来目的を入れる場合は、現在の事業との関連性、実現可能性、許認可の有無、資金計画との整合性を確認しておきましょう。

金融機関に説明できる目的になっているか

創業融資や制度融資を受ける場合、金融機関は事業内容、資金使途、返済原資を確認します。金融機関の融資審査では、債務者の事業内容、業績、今後の見通し、資金使途、返済原資などが確認されます。

創業直後は実績が少ないため、定款の目的、事業計画書、契約予定、見積書、資金繰り表の整合性が重要になります。

言い換えれば、目的は登記のためだけのものではなく、「この会社は何で売上を作り、何に資金を使い、どう返済していくのか」を説明する材料でもあるのです。

本店所在地の決め方

本店所在地は、会社の登記上の住所であり、会社の実態とも密接に結びついています。登記、税務署、都道府県・市区町村、社会保険、労働保険、銀行口座、郵便物、契約書、請求書、法人番号公表情報などに影響します。

本店所在地を決めるときは、単に「どこで登記できるか」ではなく、「設立後に法人として継続的に運用できるか」という視点で確認しておくことが大切です。

郵便物・行政書類を確実に受け取れるか

法人を設立すると、税務署、自治体、年金事務所、金融機関、取引先から、重要な書類が届くようになります。

本店所在地で郵便物を確実に受け取れないと、税務届出、納付書、社会保険関係書類、銀行からの通知、取引先からの契約書などに支障が出ます。

バーチャルオフィスや自宅住所を使う場合には、郵便物の受領・転送、金融機関の口座開設、許認可、契約先の審査への影響を、あらかじめ確認しておく必要があります。

許認可や営業所要件に合うか

許認可が必要な事業では、本店所在地と実際の営業所・事務所が、制度上問題ないかを確認します。

許認可によっては、独立した事務所、設備、専任者、標識の掲示、面積、使用権限、賃貸借契約書などが求められることがあります。

本店の登記自体はできても、許認可上の営業所としては認められない、というケースもあります。許認可業種では、本店所在地を決める前に、行政手続の要件を確認しておくべきです。

税務・社会保険の管轄を意識する

本店所在地によって、税務署、都道府県税事務所、市区町村、年金事務所などの管轄が変わります。

法人を設立すると、国税については法人設立届出書などの提出が必要になり、地方税についても自治体への法人設立・設置届が必要になります。法人設立届出書は、内国法人である普通法人等を設立した場合、設立の日、すなわち設立登記の日以後2か月以内に、定款等の写しを添付して、納税地の所轄税務署長へ提出する必要があります。
出典:国税庁|No.5100 新設法人の届出書類

本店所在地を途中で変更すると、本店移転登記、税務署・自治体への異動届、社会保険関係の手続、契約書・請求書・銀行口座情報の更新が、まとめて必要になります。

設立時に本店所在地を安易に決めてしまうと、後から細かな手戻りが発生しがちです。

事業年度の決め方

事業年度は、会社の決算期間です。

多くの会社では、定款に事業年度を定めます。法務省も、事業年度を任意的記載事項の一例として示しています。
出典:法務省|株式会社の設立手続(発起設立)について

事業年度は、単なる決算月の問題ではありません。税務申告、納税、役員報酬、消費税、インボイス、資金繰り、金融機関への説明、補助金、月次決算の運用にまで関係してきます。

3月決算にする必要はない

日本では3月決算の会社が多いですが、創業する会社が必ずしも3月決算にする必要はありません。

決算期は、次のような観点から決めていくとよいでしょう。

  • 売上の繁忙期を避けられるか
  • 在庫や仕掛品の確認をしやすい時期か
  • 決算後の申告・納税の時期に、資金余力があるか
  • 役員報酬の見直しや利益予測を行いやすい時期か
  • 金融機関への決算説明を行いやすい時期か
  • 補助金・融資・許認可のスケジュールと衝突しないか

たとえば、売上が最も忙しい月を決算月にしてしまうと、棚卸、請求、入金確認、決算整理、資金繰り確認が一度に重なってしまいます。決算期は、税理士の繁忙期だけでなく、自社の営業・入金・支払のリズムも踏まえて決める必要があります。

設立第1期が短すぎないか

設立日と決算月の関係にも、注意が必要です。

たとえば、設立後すぐに決算日が来るような事業年度にしてしまうと、法人設立届出、青色申告承認申請、給与支払事務所、役員報酬、会計ソフト、請求書、口座、証憑整理を整える前に、初年度の決算・申告が到来してしまいます。

設立第1期から青色申告の承認を受けたい場合、青色申告の承認申請書の提出期限は、設立の日以後3か月を経過した日と、設立第1期の事業年度終了の日とのうち、いずれか早い日の前日までとされています。
出典:国税庁|No.5100 新設法人の届出書類

設立第1期が短いと、青色申告の承認申請、消費税関係届出、インボイス登録、役員報酬の決定、月次決算体制の整備が、一気に迫ってきます。

「早く設立したい」という理由だけで設立日を決めるのではなく、設立日、決算日、税務届出の期限、事業開始日、売上開始時期を、セットで確認しておくことが大切です。

消費税・インボイスにも影響する

法人の消費税は、事業年度を単位として考えます。

新設法人については、原則として設立1期目・2期目は基準期間がありません。ただし、期首の資本金または出資金が1,000万円以上である場合など、一定の場合には納税義務が免除されず、課税事業者として消費税の申告が必要になります。また、適格請求書発行事業者は、基準期間の課税売上高や新設法人特例の有無にかかわらず、納税義務が免除されません。
出典:国税庁|No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例

新たに設立された法人が、事業開始時から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合には、登録申請書の提出時期や、課税事業者選択届出書との関係を確認しておく必要があります。国税庁のインボイス制度Q&Aでも、新たに設立された法人が免税事業者である場合、事業開始時から適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、原則として設立後、その課税期間の末日までに所定の手続を行う必要がある旨が示されています。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A 問11 新たに設立された法人等の登録時期の特例

このように、事業年度は消費税・インボイスの判断期限にも影響します。決算月は「いつでもよい」というものではなく、税務選択の期限管理とセットで決めるべきものだといえます。

資本金の決め方

資本金は、設立時に会社へ払い込む出資のうち、資本金として計上される金額です。

資本金は登記事項であり、貸借対照表の純資産にも表示されます。株式会社の設立登記では、資本金の額も登記事項になります。
出典:法務省|株式会社の設立手続(発起設立)について

資本金については、次のような誤解がよく見られます。

  • 少なくても設立できるのだから、できるだけ少なくてよい
  • 多いほうが信用されるのだから、できるだけ多くすればよい
  • 資本金は、会社に入れたら使えなくなる
  • 資本金を1,000万円未満にすれば、消費税は必ず免税になる

いずれも、少し単純化しすぎです。

資本金は、開業後の必要資金から逆算する

資本金は、設立時の見栄えだけで決めるものではありません。開業後に必要となる資金から逆算して考えます。

少なくとも、次のような資金を確認しておきましょう。

  • 設立費用
  • 開業準備費用
  • 設備投資
  • 仕入資金
  • 広告宣伝費
  • 外注費
  • 役員報酬
  • 従業員給与
  • 社会保険料
  • 家賃・システム利用料などの固定費
  • 借入返済開始までの運転資金
  • 税金・消費税の納付見込み

創業初期は、売上が発生しても入金が遅れることがあります。利益が出ていても、売掛金、在庫、設備投資、借入返済、税金、社会保険料によって、手元の現金が減っていくこともあります。

資本金は、こうした創業直後の資金繰りを支える元手です。小さくしすぎると、設立直後から代表者借入や短期借入に頼る状態になり、金融機関や取引先への説明が難しくなる場合があります。

資本金と役員借入金は、説明上の意味が違う

創業者が会社に資金を入れる方法には、出資と貸付があります。

出資は、会社の純資産になります。返済期限はありませんが、株式・持分・資本構成に影響します。

貸付は、会社から見れば借入金です。返済義務があり、貸借対照表では負債として扱われます。

同じ創業者の資金であっても、資本金として入れるのか、役員借入金として入れるのかで、会社の見え方は変わってきます。

創業直後に役員借入金が大きくなること自体が、直ちに問題になるわけではありません。ただし、最初から資本金が極端に少なく、実態としては代表者借入で事業を回している場合には、なぜそうした資本構成にしたのかを、金融機関や取引先に説明できるようにしておく必要があります。

消費税の資本金判定を確認する

資本金は、消費税の納税義務にも影響します。

新たに設立された法人の設立1期目・2期目は、原則として基準期間がないため、納税義務が免除されます。しかし、事業年度開始の日における資本金の額または出資金の額が1,000万円以上である法人は、その課税期間の納税義務が免除されません。設立1期目または2期目の期首における資本金または出資金が1,000万円以上である場合、その期は課税事業者となります。
出典:国税庁|No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例

ただし、資本金を1,000万円未満にすれば常に免税になる、というわけではありません。適格請求書発行事業者である場合、特定期間の課税売上高等が1,000万円を超える場合、課税事業者選択届出書を提出している場合、特定新規設立法人に該当する場合などには、免税とならないことがあります。
出典:国税庁|No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例

資本金は、消費税だけで決めるものではありません。資金繰り、信用、融資、株主構成、税務上の判定を合わせて検討していく必要があります。

資本金と資本準備金をどう分けるか

株式会社では、設立時の払込額の全額を資本金にするだけでなく、会社法の範囲内で、その一部を資本準備金とする設計もできます。会社法は、資本金の額および資本準備金の額について定めています。
出典:e-Gov法令検索|会社法

資本金と資本準備金の区分は、単なる会計表示にとどまりません。将来の増資、資本政策、税務上の判定、外部への説明にも関係します。

創業直後の小規模な会社では、資本準備金まで細かく設計しないことも多いものです。ただし、外部投資家からの出資、種類株式、新株予約権、ストックオプション、IPO、M&Aを見据えるのであれば、資本金・資本準備金・発行株式数・株価の設計を、早めに検討しておくべきです。

この論点は、単なる会社設立ではなく、資本政策の入口だといえます。

発行可能株式総数も忘れてはいけない

株式会社では、発行可能株式総数も重要です。

発行可能株式総数は、会社が将来発行できる株式の上限です。株式会社の設立登記では、発行可能株式総数、発行済株式の総数、発行する株式の内容なども登記事項になります。
出典:法務省|株式会社の設立手続(発起設立)について

発行可能株式総数を小さくしすぎると、将来の増資、株式分割、ストックオプション、新株予約権の発行時に、定款変更が必要になる場合があります。

一方で、将来の資本政策を考えないまま、形式的に大きな数字を入れておくだけでは意味がありません。大切なのは、設立時発行株式数、1株あたりの払込額、将来の株式発行、共同創業者の持株比率、投資家受入れの可能性を、セットで見ておくことです。

発行可能株式総数は、設立時には見落とされやすい項目ですが、将来の資本政策と強くつながっています。

公告方法も形式的に決めない

公告方法は、会社が法律上必要な公告を行う方法です。

公告方法には、官報、日刊新聞紙、電子公告などがあります。法務省は、公告方法を、定款に定めることができる事項の一つとして示しています。また、公告方法について定款の定めがあるときは、設立登記の登記事項にもなります。
出典:法務省|株式会社の設立手続(発起設立)について

創業する会社では、官報公告を選ぶことが多いですが、電子公告を選ぶ場合には、ウェブサイトの管理、公告期間、調査機関の対応などを確認しておく必要があります。

公告方法は、日常的にはあまり意識されにくい項目です。しかし、減資、組織再編、解散、決算公告など、会社法上の手続で関係してくる場面があります。

設立時には簡単に決めてしまいがちですが、将来の運用コストと管理体制を踏まえて選んでおきたい項目です。

定款・基本事項を決めるときの実務上の順番

法人設立時の基本事項は、次の順番で整理していくと、手戻りを防ぎやすくなります。

1. 事業内容と許認可を確認する

まず、何を事業として行うのかを明確にします。許認可が必要な業種であれば、目的、本店、営業所、役員、資格者、設備、資本金要件などを、先に確認しておきます。

2. 会社形態を確認する

株式会社か合同会社か、あるいは特殊法人や業種別の法人形態が必要かを確認します。会社形態によって、定款、出資者、役員、機関設計、将来の資金調達が変わってきます。

3. 商号を決める

取引先に説明しやすく、既存名称や商標と衝突しにくく、将来の事業展開にも耐えられる商号を検討します。

4. 目的を決める

現在の事業、近い将来の事業、許認可が必要な事業を整理します。金融機関、取引先、行政庁に説明できる目的にしておきます。

5. 本店所在地を決める

郵便物の受領、税務署・自治体・社会保険の管轄、銀行口座、許認可、契約書、実際の事業場所との整合性を確認します。

6. 事業年度を決める

繁忙期、資金繰り、税務申告、納税時期、役員報酬、消費税、インボイス、初年度決算のタイミングを踏まえて決めます。

7. 資本金を決める

必要資金、自己資金、創業融資、消費税、外部信用、資本政策を見て決めます。少なすぎる資本金も、多すぎる資本金も、それぞれ説明が必要になります。

8. 発行可能株式総数・公告方法などを決める

将来の増資、株式分割、ストックオプション、投資家受入れ、会社法上の公告手続を見据えて決めます。

よくある失敗

目的を広げすぎて、何の会社か分からなくなる

将来の可能性を考えるあまり、多数の目的を入れすぎてしまうケースがあります。

目的が多いこと自体が、必ずしも悪いわけではありません。ただし、設立直後の会社では、金融機関や取引先に「主たる事業」を説明する必要があります。目的が多すぎる場合は、事業計画書や面談の中で、現在の主力事業と将来目的を分けて説明できるようにしておくべきです。

許認可に必要な目的が入っていない

許認可が必要な業種で、目的の記載が、制度上求められる表現と合っていないケースがあります。

この場合、設立後に目的変更が必要になることがあります。許認可が関係する可能性があるなら、定款作成の前に、行政庁または専門家に確認しておくほうが確実です。

設立直後に決算が来る

設立日と決算月を深く考えずに決めてしまうと、設立後すぐに決算・申告が来ることがあります。

創業直後は、口座開設、税務届出、社会保険、給与、会計ソフト、請求書、契約書、証憑保存を整えていく時期です。ここに決算申告が重なると、経営者も経理も混乱しやすくなります。

資本金が少なすぎる

資本金を少額にしすぎると、開業直後から資金不足になり、役員借入金や短期借入に頼ることになりがちです。

資本金は、登記のためだけのものではなく、実際に事業を回していくための資金です。設立後数か月分の運転資金を見込まずに資本金を決めてしまうと、資金繰りが苦しくなります。

消費税だけを見て資本金を決める

資本金1,000万円未満という基準だけを見て、資本金を決めてしまうケースがあります。

しかし、消費税には、資本金以外にも、インボイス登録、特定期間、特定新規設立法人、課税事業者選択、設備投資などの論点があります。資本金は、消費税だけでなく、資金繰りと信用まで含めて決めるべきものです。

本店所在地を実態と切り離しすぎる

費用を抑えるために、実態と離れた所在地で本店登記をするケースがあります。

この判断が合う場合もありますが、郵便物、銀行口座、許認可、社会保険、契約先審査に影響することがあります。本店所在地は、形式上の住所ではなく、法人運営の起点だと考えておくべきです。

決定内容の根拠を残す

設立時の基本事項は、後から説明できるようにしておくことが重要です。

  • なぜ、この商号にしたのか
  • なぜ、この目的を入れたのか
  • なぜ、この本店所在地にしたのか
  • なぜ、この決算月にしたのか
  • なぜ、この資本金にしたのか
  • なぜ、この発行可能株式総数にしたのか

創業の時点では、これらを正式な稟議書にまでする必要はないかもしれません。ただし、事業計画、創業計画書、資金繰り表、許認可確認メモ、株主間の合意、専門家との相談記録、定款案の検討履歴は、残しておくべきです。

税務署、金融機関、取引先、将来の投資家、承継先、M&Aの買い手に対して、設立時の判断を説明できる状態にしておくことは、会社の信頼性を高めます。

法人設立は、書類を出す作業ではありません。会社の前提を固める作業なのです。

定款・基本事項の設計でお悩みの方へ

定款、商号、目的、本店所在地、事業年度、資本金は、一度決めても、後から変更できる項目です。

しかし、変更には、登記、税務届出、契約変更、許認可確認、金融機関への説明、取引先への通知などが伴うことがあります。最初から完璧に将来を予測する必要はありませんが、設立の時点で、重要な論点を見落とさないことが大切です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人設立を単なる登記手続としてではなく、設立後の税務届出、消費税・インボイス、役員報酬、社会保険、創業融資、会計ソフト、月次決算、金融機関対応までを見据えた初期設計として整理しています。

  • 商号や目的を、どう設計すべきか
  • 決算月を、いつにすべきか
  • 資本金を、いくらにすべきか
  • 創業融資や消費税、インボイスまで含めて、どう判断すべきか

設立前にこうした点を整理しておきたい場合は、お問い合わせページから、現在のご状況をお聞かせください。事業内容、設立予定時期、資金計画、許認可の有無、取引先、役員報酬、会計体制を確認しながら、優先して決めるべき論点を整理していきます。

振り返り|定款・基本事項を決めるときの確認ポイント

項目決めるときの視点見落とした場合に起こりやすいこと
定款会社の根本規則として、設立後の運営まで見据える形式的な定款になり、後から変更や説明が必要になる
商号取引先、金融機関、採用、ブランド、検索性を考える事業内容を説明しにくい、既存名称・商標と衝突する
目的現在の事業、将来事業、許認可、融資説明を整理する許認可申請や金融機関説明で不整合が出る
本店所在地郵便、税務、社会保険、銀行口座、許認可を確認する書類不達、口座開設や許認可で支障が出る
事業年度繁忙期、納税時期、資金繰り、初年度決算を考える設立直後に決算・申告が来て、初期対応が混乱する
資本金必要資金、自己資金、消費税、信用、融資を総合判断する資金不足、過度な役員借入、消費税判定ミスが起こる
資本準備金将来の増資や資本政策を見据えて検討する外部出資や資本政策の整理が後手に回る
発行可能株式総数将来の増資、株式分割、ストックオプションを見据える増資時に定款変更が必要になる
公告方法官報・電子公告等の運用コストと管理体制を確認する将来の会社法手続で想定外の対応が必要になる
記録の残し方なぜその設計にしたかを説明できる資料を残す税務、金融機関、投資家、承継先に説明しにくくなる
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