創業時に整えるべき契約書の基本|取引内容・支払条件・責任範囲を後から説明できる形にする

創業・開業・法人化の直後は、どうしても契約書より売上づくりが優先されがちです。

「まずは取引を始めたい」
「相手とは信頼関係がある」
「小さな取引だから、契約書まではいらない」
「請求書を出して入金されれば問題ない」

こうした感覚は、決しておかしなものではありません。目の前の事業を回すことが最優先になる時期ですから、自然な発想だと思います。

ただ、実務を振り返ると、創業初期ほど契約書を軽く扱ったことが、後になって効いてくる場面が少なくありません。取引内容が曖昧なまま進み、追加作業の範囲で揉める。支払期限が決まっておらず、入金が遅れる。成果物の検収時期がはっきりせず、売上計上や請求のタイミングを判断しづらい。外注先との契約内容が曖昧なために、源泉徴収、消費税、インボイス、著作権、再委託、秘密保持といった論点が後から次々に出てくる。いずれも、創業期によく見かける光景です。

契約書は、法務トラブルを避けるためだけの書類ではありません。

創業期の契約書は、取引内容、対価、支払条件、責任範囲、成果物、納品・検収、請求、証憑保存を整理し、月次決算、資金繰り、税務申告、そして金融機関への説明へとつなげていくための、いわば基礎資料です。

本稿では、創業・開業・法人化のタイミングで整えておきたい契約書の基本を、取引開始後の会計・税務・資金管理まで見据えながら整理していきます。

目次

契約書は「契約を成立させるため」だけのものではない

はじめに確認しておきたいのは、契約書がなければ契約が成立しないわけではない、という点です。

民法では、契約は、契約内容を示した申込みに対して相手方が承諾したときに成立するとされています。法令に特別の定めがある場合を除けば、契約の成立に書面の作成といった方式は求められていません。つまり、口頭、メール、チャット、発注フォームなどでも、内容によっては契約が成立し得ます。
出典:e-Gov法令検索|民法

それでも、創業時に契約書を整えておく意味は大きいと考えています。

契約書の役割は、契約を「成立させること」だけにとどまりません。実務でむしろ重要なのは、取引が始まったあとに、次のような点を後から確認できることです。

契約書で確認できること実務上の意味
何を提供するのか売上・仕入・外注費の内容を説明できる
いくらで提供するのか請求額、消費税、源泉徴収、粗利を確認できる
いつ提供するのか売上計上、納品、検収、請求の時期を確認できる
いつ支払うのか売掛金、買掛金、資金繰りを管理できる
どこまで責任を負うのか損害賠償、契約不適合、解除時の負担を整理できる
誰が権利を持つのか著作権、成果物、データ、ノウハウの帰属を整理できる
どの資料を残すのか税務調査、金融機関説明、社内引継ぎに備えられる

商取引では、同じ相手と反復して取引を重ねることが多く、金額もしだいに大きくなっていきます。だからこそ、支払条件や、損害が生じたときの対応を、あらかじめ明確にしておく意味があります。

創業初期の契約書は、法律文書であると同時に、経理・税務・資金管理の前提資料でもある。この二つの顔を意識しておくと、契約書との向き合い方が変わってきます。

見積書・注文書・請求書と契約書は、役割が違う

以前の記事では、取引開始時の見積書・注文書・請求書・領収書の基本として、見積、注文、納品、請求、領収という取引書類の流れを整理しました。

契約書は、これらの取引書類よりも一段上位に位置づけられるものです。個々の書類が個別の取引を記録するのに対して、契約書は取引全体のルールを決めます。

書類主な役割
見積書金額、数量、範囲、納期、支払条件を提示する
注文書・発注書相手方が発注した事実を残す
注文請書受注者が注文を受けた事実を残す
納品書・検収書納品・検収・役務提供完了を確認する
請求書請求額、消費税、支払期限、振込先を示す
領収書代金受領の事実を証明する
契約書取引全体の基本条件、責任範囲、解除、紛争時の扱いを定める

継続的な取引であれば、まず取引基本契約書を締結しておき、個別の発注ごとに注文書・注文請書・請求書を発行していく。こうした形にすると、実務が安定します。

一方、単発の取引であっても、金額が大きい、成果物の範囲が曖昧になりやすい、支払時期が長い、秘密情報や知的財産が関係する、外注先を使う、消費者向けである、といった事情があれば、簡単な契約書や個別契約書を作っておいたほうがよい場面もあります。

ここで大切なのは、契約書、注文書、請求書をバラバラに作らないことです。

たとえば、契約書では「月末締め翌月末払い」としているのに、請求書には「納品後10日以内」と書いてある。契約書は税込のはずが、見積書は税抜表示になっている。契約書では検収後に支払うとしているのに、検収の期限や方法が決まっていない。

こうしたズレは、請求・入金・会計処理・税務処理のすべてに影響してきます。

創業時に、まず整理しておきたい契約書の種類

創業時に必要となる契約書は、業種や取引形態によって変わります。すべての事業者が同じ契約書を揃えればよい、というものではありません。

とはいえ、多くの創業期の事業で検討対象になりやすい契約書は、次のように整理できます。

契約書の種類主な用途創業時の確認ポイント
秘密保持契約書商談前、提携前、開発前に情報を共有する何が秘密情報か、利用目的、第三者提供、返還・廃棄、期間
取引基本契約書継続的に売買・業務委託・請負などを行う個別発注、支払条件、検収、損害賠償、解除、反社条項
個別契約書案件ごとに条件を定める業務内容、成果物、納期、金額、支払条件、納品・検収
業務委託契約書外注先、専門家、制作会社、開発会社などに委託する請負か準委任か、成果物、検収、再委託、源泉、消費税、知的財産
売買契約書商品、材料、設備などを売買する商品内容、数量、単価、納期、危険負担、契約不適合責任
利用規約Webサービス、アプリ、EC、会員制サービスなど定型約款、禁止事項、料金、解約、免責、個人情報、特商法
代理店契約・販売店契約他社の商品を販売する、販売網を作る販売権限、価格、在庫、返品、広告表示、顧客情報
共同事業・業務提携契約他社と協力して事業を進める役割分担、収益配分、費用負担、知的財産、終了時の扱い
雇用契約書・労働条件通知書従業員を雇用する賃金、労働時間、社会保険、労働条件、就業規則との整合性

本稿では、特に創業期の取引開始に直結する「取引基本契約書」「業務委託契約書」「秘密保持契約書」「利用規約」を中心に扱います。雇用契約や労務管理については、人事・給与・社会保険の論点として、別の機会に詳しく取り上げたい領域です。

なお、契約書の法的レビューや紛争対応は、あくまで弁護士の専門領域です。税理士・公認会計士が契約書に目を通す場合は、主に会計・税務・資金繰り・証憑管理・金融機関説明に影響する論点を確認し、必要に応じて弁護士等と連携していく。そうした前提で整理していくことが大切だと考えています。

取引基本契約書は、継続取引の土台になる

同じ取引先と継続的に取引していく場合、毎回すべての条件を契約書に書き直すのは、現実的ではありません。

そこで用いられるのが、取引基本契約書です。

取引基本契約書では、継続取引に共通して適用される基本条件を定めておきます。そのうえで、個別の数量、単価、納期、発注内容などは、注文書や個別契約でその都度決めていく。これが一般的な形です。

取引基本契約で定める事項実務上の意味
取引の目的・対象どの種類の取引に適用する契約かを明確にする
個別契約の成立方法注文書、注文請書、メール、システム発注のどれで成立するか
納品・検収いつ納品とし、いつ検収完了とするか
代金・支払条件締日、支払期限、振込手数料、遅延損害金
所有権・危険負担物品の引渡しや検収前後のリスクを整理する
契約不適合責任不良品、不足、仕様違いがあった場合の対応
秘密保持取引を通じて知った情報の管理
知的財産成果物、資料、データ、ノウハウの権利帰属
再委託外注先の利用を認めるか、事前承諾を必要とするか
損害賠償どの範囲の損害を、どこまで負担するか
解除どのような場合に契約を終了できるか
反社会的勢力排除取引継続リスクを遮断する
協議・管轄紛争時の協議方法、裁判管轄

印紙税の観点も、あわせて押さえておきたいところです。国税庁は、印紙税における第7号文書「継続的取引の基本となる契約書」について、特定の相手方との間で継続的に生じる取引の基本となる契約書と説明しています。営業者間で売買、売買委託、運送、請負などの複数取引を継続的に行うために、目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行時の損害賠償方法など、一定の事項を定めるものが含まれます。ただし、契約期間が3か月以内で、更新の定めがないものは除かれます。
出典:国税庁|No.7104 継続的取引の基本となる契約書

ここで注意しておきたいのは、契約書の名称ではなく、内容によって印紙税の扱いが変わるという点です。

「業務委託基本契約書」「取引基本契約書」「覚書」「合意書」など、表題が違っていても、記載内容によっては印紙税の課税文書に該当し得ます。創業時に契約書を紙で作成するのであれば、法務面だけでなく印紙税もあわせて確認しておきたいところです。

業務委託契約は「請負」か「準委任」かを意識する

創業期には、デザイン、システム開発、記事制作、広告運用、営業代行、経理代行、コンサルティング、講師、専門家業務など、さまざまな外注取引が生まれます。

実務ではまとめて「業務委託契約」と呼ばれますが、民法上、「業務委託」という独立した契約類型があるわけではありません。実際の内容に応じて、請負、委任、準委任などの性質を帯びることになります。

民法では、請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約とされています。委任は、法律行為をすることを相手方に委託し、相手方が承諾することによって効力を生じます。そして、法律行為でない事務の委託については、準委任として委任の規定が準用されます。
出典:e-Gov法令検索|民法

この違いは、実務上とても重要です。

区分請負型準委任型
契約の中心仕事の完成・成果物業務の遂行・事務処理
報酬の考え方成果物の完成や検収と結びつきやすい稼働時間、月額、業務提供と結びつきやすい
検収重要になりやすい成果物がない場合は報告・業務遂行確認が中心
契約不適合成果物がある場合に問題になりやすい業務遂行義務・善管注意義務の問題になりやすい
会計処理納品・検収・完成時期が売上や費用計上に影響する役務提供期間に応じた処理が問題になりやすい
契約書での注意点成果物、仕様、検収、修補、納期を明確にする業務範囲、稼働条件、報告、成果保証の有無を明確にする

「業務委託契約」と書いてあるから安心、というわけではありません。

たとえば、契約書では「月額報酬」としているのに、運用の実態は、完成物の納品がなければ支払わない形になっている。反対に、契約書では「成果物」としているのに、実際には助言や運用支援が中心で、成果物の合否判定ができない。こうした食い違いがあると、請求、検収、解約、会計処理の各場面で混乱が生じます。

契約書を作るときは、まず「成果物を完成させる取引なのか」「一定期間、業務を遂行する取引なのか」を切り分けておく必要があります。契約書の作成や審査にあたっては、ビジネスの理解、リスクマネジメント、契約目的、法的性質、重要条項、法令遵守、そして起こり得る場面のシミュレーションといった視点が欠かせません。

秘密保持契約は、商談の前に必要になることがある

秘密保持契約書、いわゆるNDAは、取引が始まる前に締結することがあります。

創業初期には、営業資料、価格表、顧客リスト、事業計画、開発中の商品、システム仕様、資金調達資料、財務情報、提携候補先との協議内容など、外部に出すべきでない情報を共有する場面が出てきます。

このとき、まだ取引が決まっていないからといって、何も取り決めずに情報を渡してしまうと、後から困ることになります。「その情報は秘密情報だったのか」「どの目的で使ってよかったのか」「誰まで共有してよかったのか」——こうした点が、すべて曖昧になってしまうのです。

秘密保持契約では、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。

確認項目実務上のポイント
秘密情報の範囲口頭情報、資料、データ、ノウハウ、事業計画を含めるか
秘密情報から除外するもの既に公知の情報、受領前から保有していた情報など
利用目的商談、提携検討、見積作成、開発検討など目的を限定する
開示できる範囲役員、従業員、外部専門家、委託先に共有できるか
管理義務どの程度の注意義務で管理するか
返還・廃棄商談終了時や契約終了時に資料を返すか、廃棄するか
有効期間契約期間終了後も秘密保持義務が残るか
違反時の対応損害賠償、差止め、協議、管轄など

創業期の事業計画や資金調達資料は、単なる営業資料ではありません。商品・サービスの構想、価格、収益構造、外注先、販売先、資金計画など、事業の根幹に関わる情報が詰まっています。金融機関や投資家への説明資料にもつながっていくものですから、どの情報を、誰に出したのかを、きちんと管理しておく必要があります。

利用規約は、オンライン取引では契約書そのものになる

Webサービス、アプリ、ECサイト、会員制サービス、サブスクリプション、オンライン講座、予約システムなどを始める場合、利用規約が契約書の役割を果たすことがあります。

利用規約は、単なるサイト上の文章ではありません。ユーザーとの契約条件を定めるものです。

民法には、定型約款に関する規定があります。定型取引を行うことに合意した者は、一定の場合には、定型約款の個別条項についても合意したものとみなされます。ただし、相手方の権利を制限し、または義務を加重する条項で、信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、合意しなかったものとみなされます。
出典:e-Gov法令検索|民法

利用規約を整えるときは、次の点を確認します。

項目確認すべき内容
サービス内容何を提供するサービスなのか
利用条件登録、アカウント、年齢、事業者利用の可否
料金月額、年額、従量課金、無料期間、更新
支払方法クレジットカード、振込、決済代行、請求書払い
解約・返金いつ解約できるか、日割り返金の有無
禁止事項不正利用、転売、権利侵害、迷惑行為
知的財産コンテンツ、データ、投稿物、成果物の帰属
免責・責任制限どの範囲で責任を負うか
規約変更いつ、どの方法で変更できるか
個人情報プライバシーポリシーとの整合性
特定商取引法通信販売に該当する場合の表示
消費者契約法消費者向け取引で無効になり得る条項

とりわけ、消費者向けのサービスでは注意が必要です。消費者契約法では、事業者の損害賠償責任を免除する条項や、消費者の利益を一方的に害する条項が、無効となる場合があります。
出典:消費者庁|消費者契約法 逐条解説

また、インターネット等で広告し、郵便・電話等の通信手段によって申込みを受ける取引は、特定商取引法上の通信販売に該当する場合があります。通信販売では、広告表示、誇大広告等の禁止、未承諾者への電子メール広告の規制などが定められています。
出典:消費者庁|通信販売(特定商取引法ガイド)

BtoB取引とBtoC取引とでは、契約書や利用規約で許される表現、そして責任制限の考え方が異なります。創業時にオンラインサービスを始めるのであれば、税務・会計だけでなく、消費者法、表示規制、個人情報保護、決済実務まで視野に入れておきたいところです。

支払条件は、契約書の中でも特に重要になる

創業期の契約書のなかで、会計・税務・資金繰りに直結するのが支払条件です。

支払条件が曖昧だと、売上は立っているのに資金が入らない、外注費や仕入の支払いが先に来る、請求漏れが起きる、未回収債権が増える、といった問題が起こります。

利益と資金は、一致しません。掛取引では、売上を計上しても入金は数か月後になることがあり、利益が出ていても、資金の回収が間に合わなければ資金繰りに支障が生じます。

契約書では、少なくとも次の支払条件を確認しておきたいところです。

支払条件確認すべきこと
請求締日月末締め、20日締め、都度請求など
支払期限翌月末払い、検収後30日以内、請求書受領後10日以内など
支払方法銀行振込、カード決済、口座振替、決済代行
振込手数料どちらが負担するか
前払・着手金制作・開発・長期案件で設定するか
分割請求中間納品、月次請求、マイルストーン請求を認めるか
検収後支払検収期限が定まっているか
遅延損害金支払遅延時にどう扱うか
消費税税込・税抜、税率変更、インボイス登録の扱い
源泉徴収報酬・料金に該当する支払か
相殺相互債権債務を相殺できるか
経費精算実費、交通費、外注費、立替金の扱い

創業初期は、とにかく受注したい気持ちが強いために、支払条件を相手任せにしてしまうことがあります。しかし、支払サイトの長い取引が増えると、売上が伸びても売掛金ばかりが膨らみ、手元資金が不足していきます。

契約書に支払条件を明確に書くのは、相手を疑うためではありません。自社の資金繰りを守り、月次決算と入金管理をつなげていくための、前提づくりです。

検収条項は、売上・請求・責任範囲を左右する

制作、開発、工事、コンサルティング、広告制作、システム導入などの取引では、検収条項が重要になります。

検収とは、納品された成果物が契約内容に合っているかを、相手方が確認する手続です。検収が終わらなければ請求できない契約、検収後に支払いが発生する契約、検収完了をもって成果物の引渡しとする契約など、扱いはさまざまです。

検収条項で曖昧になりやすいのは、次のような点です。

検収条項で確認すべきこと実務上の意味
何を納品するのか成果物の範囲を明確にする
どの形式で納品するのかデータ、紙、システム、レポートなどを明確にする
誰が検収するのか相手方の担当者・責任者を確認する
いつまでに検収するのか検収遅延による請求遅れを防ぐ
不合格時の対応修正範囲、再納品、追加費用の扱い
みなし検収一定期間内に通知がない場合の扱い
検収後の責任契約不適合責任や保証期間との関係

検収が曖昧な契約では、納品したのに検収されない、検収されないので請求できない、請求できないので売掛金にも入金予定にも反映しづらい、という連鎖が起きてしまいます。

月次決算を早く、正確に行うには、売上、請求、入金、未収、前受、外注費を毎月確認できる状態が必要です。経営者が月次決算を活かすには、会計処理だけでなく、取引書類と契約条件が整理されていることが前提になります。

契約不適合責任は「何を約束したか」で決まる

商品や成果物を提供する契約では、契約不適合責任も重要になります。

民法では、引き渡された目的物が、種類、品質または数量に関して契約内容に適合しない場合、買主は履行の追完を請求できるとされています。また、一定の場合には、代金減額、損害賠償、解除の問題にもつながっていきます。
出典:e-Gov法令検索|民法

契約不適合責任で軸になるのは、「契約内容に適合しているか」という点です。

言い換えれば、何を、どの仕様で、どの品質で、どの数量で、どの納期で提供する約束だったのか。ここが曖昧だと、適合しているかどうかも判断しにくくなってしまいます。

契約書では、次の点を確認します。

確認項目実務上の意味
仕様・品質何を満たせば契約どおりといえるか
数量・範囲不足や過剰対応を防ぐ
検査方法どう確認するか
通知期間不具合や不足をいつまでに通知するか
修補・交換どの範囲で対応するか
追加費用仕様変更や追加作業を有償にするか
保証期間いつまで責任を負うか
免責事由相手方の利用方法や提供資料の不備による場合の扱い

契約不適合責任は、売主・受託者だけの問題ではありません。買主・発注者の側にとっても重要です。自社が仕入れる側、外注する側であれば、仕入税額控除、外注費、資産計上、修繕費、売上原価にも関係してきます。

契約内容が曖昧なまま取引を始めてしまうと、会計上も税務上も、「何に対する支払いなのか」を説明しづらくなります。

損害賠償条項は、広げすぎても狭めすぎても危ない

契約書では、損害賠償条項を入れることが多くあります。

民法では、債務者が債務の本旨に従った履行をしないときなどには、債権者は損害賠償を請求できる場合があるとされています。
出典:e-Gov法令検索|民法

ただ、創業期の契約書で問題になりやすいのは、損害賠償の範囲を、何も考えずに定めてしまうことです。

たとえば、受託者側であるにもかかわらず、間接損害、逸失利益、特別損害まで無限定に負担する契約になっていると、取引金額に見合わない過大な責任を抱え込む可能性があります。

反対に、発注者側でありながら、相手方の責任が極端に制限されていると、不具合や情報漏えいが起きたときに、十分な対応を求められないこともあります。

損害賠償条項では、次の点を確認します。

確認項目実務上の意味
何に違反した場合か契約違反、秘密保持違反、知財侵害、納期遅延など
どの損害を対象とするか通常損害、特別損害、逸失利益、間接損害
上限を設けるか契約金額、直近数か月の支払額など
上限の例外故意・重過失、秘密保持、知財侵害、個人情報漏えい
証明方法損害額をどう立証するか
遅延損害金支払遅延時の利率や起算日
消費者向け取引責任免除条項が無効にならないか

消費者向けの契約や利用規約では、「当社は一切責任を負いません」といった包括的な免責条項が、消費者契約法上、問題となる可能性があります。事業者の損害賠償責任を全部免除する条項や、消費者の利益を一方的に害する条項は無効となり得るため、BtoC取引では、とりわけ慎重に確認したいところです。
出典:消費者庁|消費者契約法 逐条解説

解除条項は、取引を終えるためのルールである

創業時は、取引をどう始めるかにばかり意識が向きがちです。しかし、契約書では「どう終えるか」も、同じくらい重要です。

取引先との関係が続く前提であっても、次のような事態は起こり得ます。

起こり得る事態契約上の確認ポイント
支払いが遅れる何日遅れたら解除できるか
納期が守られない催告後に解除できるか
品質不良が続く是正要求、再納品、解除の流れ
相手方が破産・差押えを受ける期限の利益喪失、即時解除
連絡が取れなくなる通知方法、みなし到達
反社会的勢力との関係が判明する無催告解除、損害賠償
事業方針が変わる中途解約、解約予告期間、精算

民法には、債務不履行による解除について、催告による解除や、一定の場合の催告によらない解除の規定があります。
出典:e-Gov法令検索|民法

契約書では、民法の規定にすべて委ねるのではなく、自社の取引実態に合わせて、解除事由、是正期間、通知方法、精算方法、契約終了後の義務を整理しておくことが大切です。

解除条項のない契約でも、法律上、解除できる場合はあります。ただ、創業期の実務では、解除できるかどうかを争うよりも、契約書上のルールに沿って冷静に対応できる状態を整えておくこと。そこに大きな価値があると感じています。

知的財産・成果物の帰属を、曖昧にしない

制作、開発、デザイン、文章、写真、動画、広告、システム、ノウハウ、研修資料などを扱う場合、知的財産の帰属は、必ず確認しておきたい論点です。

創業初期によく見かけるのが、次のような認識のずれです。

認識違い実務上の問題
代金を払えば著作権も当然に移ると思っている実際には権利移転が明記されていない
納品物を自由に改変できると思っている著作者人格権や利用許諾の範囲が問題になる
外注先が作った素材を自由に再利用できると思っている第三者素材やライセンス違反のリスクがある
自社が作った資料を取引先が自由に使ってよいと思っていない利用範囲を定めていないため揉める
SaaSやシステムのデータ利用範囲が曖昧顧客データ、学習データ、ログの利用で問題になる

契約書では、成果物の所有権、著作権、利用許諾、二次利用、改変、第三者素材、そして権利侵害が起きたときの責任を確認しておきます。

税務・会計の面でも、知的財産やソフトウェア、Webサイト、システム開発費は、経費処理、資産計上、償却、売上原価、外注費の判断に影響することがあります。契約書で成果物の内容と権利関係が整理されていれば、会計処理の説明もしやすくなります。

消費税・インボイス・源泉徴収は、契約書にも影響する

契約書は法務書類ですが、税務にも大きく影響します。

創業時に特に気をつけたいのは、消費税、インボイス、そして源泉徴収です。

消費税・インボイス

契約書では、報酬や代金について、税込なのか税抜なのか、消費税率が変更された場合にどう扱うのか、インボイス登録番号をどう扱うのかを確認します。

インボイス制度では、適格請求書等を交付できるのは、税務署長の登録を受けた適格請求書発行事業者に限られます。また、適格請求書には、登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの対価の額、税率ごとの消費税額等、書類の交付を受ける事業者の氏名または名称など、一定の記載事項が求められます。
出典:国税庁|No.6625 適格請求書等の記載事項
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)

仕入税額控除を正確に受けるには、帳簿と請求書等の保存が重要です。契約書上の取引内容、請求書の記載、会計処理が一致していないと、後から確認に時間がかかってしまいます。契約書に定める取引内容や支払条件は、仕入税額控除の実務にも関わってくるのです。

源泉徴収

外注先や専門家に報酬を支払う場合、支払内容によっては源泉徴収が必要になることがあります。

契約書では、報酬額を源泉徴収前の金額で定めるのか、源泉徴収後の手取り額で定めるのか、消費税を区分して記載するのかを、あらかじめ確認しておく必要があります。

源泉徴収は、支払者が一定の所得の支払時に所得税等を徴収し、国に納付する制度です。報酬・料金等に関する源泉徴収の要否は、支払内容と相手方の属性によって判断していくことになります。

契約書・請求書・支払処理の認識がずれていると、相手方との入金差額のトラブルや、源泉所得税の納付漏れにつながりかねません。

紙の契約書、電子契約、印紙税、電子保存は分けて考える

創業時に、電子契約サービスを使うケースも増えています。

電子契約は便利な一方で、次の3つの論点を混同しないよう、注意が必要です。

論点確認すべきこと
契約の有効性電子で合意しても契約として成立するか
証拠力誰が、いつ、どの内容に合意したか証明できるか
税務保存電子取引データを電子帳簿保存法に従って保存できるか

電子署名法は、電子署名に関して、電磁的記録の真正な成立の推定や、特定認証業務に関する認定制度などを定める法律です。また、デジタル庁は、電子署名法および関係法令、電子契約サービスに関するQ&Aなどを公表しています。
出典:e-Gov法令検索|電子署名及び認証業務に関する法律
出典:デジタル庁|電子署名

印紙税については、紙の契約書を作成する場合と、電子データで契約する場合とで、扱いが異なります。国税庁は、印紙税の課税対象は課税物件表に掲げられている「文書」であり、電磁的記録は文書に含まれないため、照会事例の電磁的記録には印紙税が課税されない、と説明しています。
出典:国税庁|取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い

ただし、電子契約で印紙税がかからないからといって、保存義務までなくなるわけではありません。

電子帳簿保存法では、電子メールやクラウドサービスなどでやり取りした注文書、契約書、見積書、請求書、領収書などに相当する電子取引データを、保存する必要があります。国税庁は、電子取引データについて、改ざん防止措置、「日付・金額・取引先」で検索できること、ディスプレイやプリンタ等の備付けなどを示しています。
出典:国税庁|電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください

電子帳簿保存法上も、契約書、見積書、請求書、領収書などは、電子保存・スキャナ保存・電子取引保存の対象となり得る、典型的な取引書類です。

したがって、創業時に電子契約を導入するのであれば、契約締結の手軽さだけでなく、次のような運用まで決めておきたいところです。

項目決めておくこと
契約締結権限誰が契約締結できるか
電子署名方法どの電子契約サービスを使うか
承認フロー契約前に誰が内容を確認するか
保存場所契約書データをどこに保管するか
ファイル名取引先名、契約名、締結日、金額をどう入れるか
検索項目日付、金額、取引先で検索できるか
会計連携請求書、証憑、会計ソフトと連動するか
更新管理契約期間、解約期限、自動更新をどう管理するか

契約書を作る前に、取引の設計を整理する

契約書は、ひな形を埋めれば完成する、というものではありません。

創業初期にまず取り組みたいのは、自社の取引そのものを整理することです。

事前に整理すべき事項確認する内容
取引相手法人、個人事業主、消費者、海外取引先
自社の立場売主、買主、受託者、委託者、販売者、代理店
取引の性質売買、請負、準委任、賃貸借、利用許諾、共同事業
取引頻度単発、継続、月額、年額、案件ごと
金額の決め方固定報酬、時間単価、成果報酬、従量課金
支払条件前払、後払、分割、検収後、月末締め
成果物物品、データ、レポート、システム、役務提供
権利関係所有権、著作権、利用権、データ利用
税務消費税、インボイス、源泉徴収、印紙税
保存紙保存、電子保存、電子取引データ
資金繰り入金サイト、外注費支払、前受金、売掛金
将来影響融資、補助金、投資、M&A、事業承継

ここを整理しないままひな形を使うと、見た目は整っていても、自社の取引実態に合わない契約書になってしまいます。

契約書は、法務だけの問題ではありません。支払条件は資金繰りに、検収条件は売上計上に、契約期間は前受金や前受収益に、外注契約は源泉徴収や消費税に、成果物の帰属は資産計上や将来の事業価値に、それぞれ影響していきます。

創業時に、最低限確認したい契約書チェックリスト

創業時に契約書を整える際は、次の観点から見直しておくと、論点の抜け漏れを減らせます。

チェック項目確認内容
当事者契約相手は誰か。法人名、個人名、屋号、代表者、所在地は正しいか
契約目的何のための契約か明確か
業務内容・取引内容商品、サービス、作業範囲、成果物が具体的か
個別発注方法注文書、メール、システム発注など成立方法が明確か
契約期間開始日、終了日、自動更新、解約期限が明確か
報酬・代金税込・税抜、消費税、源泉徴収、経費精算が明確か
支払条件締日、支払期限、支払方法、振込手数料が明確か
納品・検収納品方法、検収期限、不合格時の対応が明確か
契約不適合修補、代替、減額、通知期間が整理されているか
知的財産成果物やデータの権利帰属が明確か
秘密保持秘密情報、利用目的、管理義務、期間が明確か
再委託外注先利用の可否、責任範囲が明確か
個人情報個人情報を扱う場合の管理責任が明確か
損害賠償責任範囲、上限、例外が明確か
解除解除事由、催告、即時解除、終了後の義務が明確か
反社条項反社会的勢力排除条項があるか
印紙税紙契約の場合、課税文書に該当するか
電子保存電子契約・電子取引データを保存できる体制があるか
会計連携請求書、売掛金、買掛金、前受金、未払費用とつながるか
専門家確認法務、税務、労務、許認可で確認すべき専門家が明確か

このチェックリストは、契約書を複雑にするためのものではありません。必要な論点を見落とさず、自社の規模と取引内容に合った契約書へと近づけるためのものです。

創業初期の契約書整備は、将来の説明力を高める

創業時に契約書を整える目的は、相手を疑うことではありません。

事業を始める以上、取引は続き、売上や外注費が発生し、請求書が発行され、入金や支払いが行われていきます。やがてそれは、月次決算、資金繰り表、金融機関への説明、税務申告、補助金申請、投資家への説明、そしてM&Aや事業承継の検討にまでつながっていく可能性があります。

そのとき、契約書が整っている会社は、説明がしやすくなります。

「この売上は何に基づくものか」
「この外注費はどの契約に基づくものか」
「この入金は前受金なのか、売上なのか」
「この成果物の権利は誰にあるのか」
「この取引先とはいつまで契約が続くのか」
「この請求書の支払条件は何に基づくのか」

こうした問いに、きちんと答えられること。それが、会社の信頼性につながっていきます。

反対に、契約書がない、契約書と請求書が合っていない、契約名義が個人と法人で混在している、電子データが保存されていない、支払条件が曖昧である——こうした状態では、後から整理する負担が、どうしても大きくなります。

契約書は、創業期の守りの仕組みです。そして、守りが整うことで、営業、採用、投資、融資、提携、法人化、承継といった、攻めの判断もしやすくなっていきます。

創業時の契約書・取引管理に不安がある場合

創業・開業・法人化の直後は、契約書、請求書、領収書、インボイス、電子帳簿保存法、会計ソフト、事業用口座、資金繰りを、それぞれ別々のものとして考えてしまいがちです。

しかし実務では、これらはすべてつながっています。

契約書で支払条件を決め、請求書で請求し、入金を確認し、会計ソフトに反映し、月次決算で売掛金や資金繰りを確認し、必要に応じて金融機関や税務署に説明する。この一連の流れを創業時から整えておくことが、後の管理負担を大きく減らしてくれます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、創業期の契約書や取引条件を、単なる書類作成としてではなく、税務・会計・資金繰り・月次決算・金融機関説明につながる初期設計として整理しています。

「契約書と請求書の内容が合っているか不安がある」
「業務委託契約の支払条件や源泉徴収、消費税の扱いを確認したい」
「電子契約や電子保存も含めて、創業時の取引管理を整えたい」

このような場合は、現在の取引内容、契約書案、請求書の運用、会計環境を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り|創業時に整えるべき契約書の基本

論点重要ポイント
契約書の役割契約成立だけでなく、取引内容・支払条件・責任範囲を後から説明するための資料になる
取引書類との違い見積書・注文書・請求書は個別取引、契約書は取引全体のルールを整理する
取引基本契約書継続取引では、共通条件を基本契約で定め、個別条件を注文書等で管理する
業務委託契約請負型か準委任型かを意識し、成果物・検収・報酬条件を整理する
秘密保持契約商談前でも、事業計画・顧客情報・価格表・技術情報を共有する場合は検討する
利用規約オンラインサービスでは契約条件そのものになり、定型約款・消費者契約法・特商法に注意する
支払条件締日、支払期限、前払、分割、源泉徴収、消費税を明確にし、資金繰りに反映する
検収条項納品・検収・請求・売上計上の時期を左右するため、検収期限と方法を明確にする
契約不適合責任仕様、品質、数量、修補、通知期間を整理し、トラブル時の対応を明確にする
損害賠償責任範囲と上限を確認し、過大な責任や無効になり得る免責条項を避ける
解除条項取引を終える条件、催告、即時解除、終了後の精算を決めておく
知的財産成果物、著作権、データ、ノウハウの帰属と利用範囲を明確にする
消費税・インボイス税込・税抜、登録番号、請求書記載事項、仕入税額控除との関係を確認する
電子契約・電子保存印紙税と電子帳簿保存法は別論点として整理し、電子取引データの保存体制を作る
専門家連携法務は弁護士、税務・会計・資金繰りは税理士・公認会計士など、論点ごとに確認先を分ける

主な出典・参照情報

出典:e-Gov法令検索|民法
出典:e-Gov法令検索|電子署名及び認証業務に関する法律
出典:デジタル庁|電子署名
出典:国税庁|No.7102 請負に関する契約書
出典:国税庁|No.7104 継続的取引の基本となる契約書
出典:国税庁|No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
出典:国税庁|No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで
出典:国税庁|取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い
出典:国税庁|No.6625 適格請求書等の記載事項
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
出典:国税庁|電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください
出典:消費者庁|消費者契約法 逐条解説
出典:消費者庁|通信販売(特定商取引法ガイド)

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