事業譲渡・会社分割・事業廃止時の資産移転と消費税|M&A・廃業前に確認すべき課税区分とインボイス

事業譲渡、会社分割、法人成り、個人成り、廃業、清算。

経営者の目線では、これらはいずれも「事業を移す」「事業をやめる」「別会社に切り出す」という一つの意思決定に映るかもしれません。ところが消費税の世界では、どの方法を選ぶかによって課税関係が大きく変わってきます。

とりわけ気をつけたいのは、「事業を丸ごと移す」という言葉に引きずられて、資産ごとの課税区分を見落としてしまうことです。事業譲渡では、建物、機械、備品、棚卸資産、営業権、土地、債権、保証金、前払費用といったものを一つひとつ分解し、課税・非課税・不課税を判定していきます。一方、会社分割は事業譲渡とよく似て見えますが、包括承継という性質をもつため、資産移転そのものは消費税の課税対象外として整理されます。

また、事業廃止のときには、実際に売却していなくても注意が必要です。個人事業者の事業用資産が家事用に移ることで、みなし譲渡が問題になる場面があるからです。法人の廃業・清算においても、残った資産を売却するのか、廃棄するのか、それとも株主・役員・個人事業へ移すのかによって、消費税、法人税、所得税、インボイス、届出、最終申告の整理は変わってきます。

本稿は、令和8年6月26日を基準として、事業移行・M&A・廃業を予定される事業者の方が、契約締結の前に確認しておきたい消費税の論点を整理するものです。なお、法人税の適格組織再編税制、会社法上の手続、労務承継、許認可、M&A法務の詳細については、本稿の対象外とします。

目次

まず結論|「事業を移す」方法によって消費税の入口が違う

事業譲渡、会社分割、事業廃止時の資産移転は、次のように出発点そのものが異なります。

取引・手続消費税の基本的な見方実務上の中心論点
事業譲渡資産・負債を一括して譲渡する契約だが、消費税上は資産ごとに課税・非課税を区分する営業権、建物、機械、棚卸資産、土地、債権債務の価額区分
株式譲渡株式の譲渡は原則として非課税取引株式譲渡で済むのか、資産移転が別途あるのか
会社分割包括承継による資産移転は、原則として消費税の課税対象外承継法人の納税義務、登録、簡易課税、インボイス登録の引継ぎ不可
法人成り個人事業者から法人への資産譲渡として扱う場面が多い個人側の最終申告、法人側の課税事業者選択、仕入税額控除
個人成り法人から個人事業者への資産譲渡・清算として整理する法人側の課税売上、個人側の仕入税額控除、清算手続
個人事業の廃止事業用資産が家事用に移ると、みなし譲渡が生じ得る廃止日、時価、事業廃止届出書、インボイス登録の失効
法人の廃業・清算残余資産の売却・廃棄・現物分配を個別に判定する売却益、資産処分、役員・株主への移転、最終申告

消費税の課税対象となるのは、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等、それに特定仕入れと輸入取引に限られます。したがって、事業再編や廃業の場面であっても、確認する順番は変わりません。「国内で、事業者が、事業として、対価を得て、資産の譲渡等を行ったか」を、まず一つずつたどっていきます。
出典:国税庁|No.6105 課税の対象

判断順序|M&A・廃業時は、税区分より先に「資産一覧」を作る

事業譲渡や廃業時の消費税判断では、いきなり税区分から入ってはいけません。まず先に、移転するものを棚卸しすることから始めます。

順序確認事項実務上の意味
1何の手続か事業譲渡、会社分割、株式譲渡、現物出資、清算、廃業を区別する
2誰から誰へ移るか個人から法人、法人から法人、法人から個人、株主への分配で結論が変わる
3資産ごとの内訳土地、建物、機械、棚卸資産、営業権、債権、保証金、契約上の地位を分ける
4対価の有無と内容現金、株式、債務引受け、相殺、無償、低額譲渡を確認する
5売手が課税事業者か売手側で納税が生じるか、インボイスを発行できるかに影響する
6買手が原則課税か買手側で仕入税額控除を受けられるか、資金繰りに影響する
7登録・届出の効力インボイス登録、簡易課税、課税選択、課税期間特例が承継されるかを確認する
8請求・精算書の設計課税資産と非課税資産の区分、税率、税額、登録番号を明示する
9最終申告・届出事業廃止届、登録取消、最終課税期間、中間申告を確認する
10調査時の説明資料契約書、資産明細、評価資料、請求書、議事録、廃棄証明を保存する

法人成り・個人成りの実務でも、事情は同じです。資産を移すだけで消費税の納付・控除・資金繰りは大きく動きますから、譲渡時における売手の課税事業者該当性と、買手の控除可否とを、あわせて見ておく必要があります。

事業譲渡|「営業を一括譲渡」しても、消費税は資産ごとに分解する

事業譲渡では、契約上「営業」「事業」「店舗」「部門」を一括して譲渡する形をとることがあります。

しかし消費税では、譲渡代金の全体を一つの税区分でまとめて処理することはしません。課税資産、非課税資産、不課税項目を、それぞれ分けて考えます。

譲渡対象消費税上の主な区分注意点
棚卸資産課税取引食品等は軽減税率対象かを確認
建物課税取引土地と一括売買の場合は価額区分が必要
機械装置・車両・備品課税取引固定資産台帳と譲渡明細を整合させる
ソフトウェア課税取引となることが多い権利譲渡か利用許諾かを確認
営業権・のれん課税取引土地や株式と混同しない
土地・借地権非課税取引課税売上割合への影響を確認
株式・出資持分非課税取引事業譲渡ではなく株式譲渡の場合は構造が異なる
売掛金・貸付金等の金銭債権非課税取引譲渡対価・回収リスク・貸倒れの整理が必要
預り保証金・借入金等の債務それ自体は資産の譲渡ではない事業譲渡対価の総額・差引支払額との整合を確認
雇用契約・取引契約上の地位それ自体で課税取引と断定しない契約上の地位移転、承諾、精算金の性質を確認
前払費用・未経過費用内容により判断権利の譲渡か、単なる期間按分精算かを分ける

営業権、土地、建物、債権・債務までをまとめて営業譲渡する場合には、課税資産と非課税資産それぞれの対価を合理的に区分したうえで課税していきます。営業権と有形固定資産は課税対象、土地は非課税として扱う、というのが基本的な整理です。
出典:国税庁|営業の譲渡をした場合の対価の額

資産の譲渡に該当するもの|売買だけでなく現物出資・交換も含む

事業譲渡では、現金による売買だけでなく、現物出資、代物弁済、交換、負担付贈与といった形で資産が移ることもあります。

消費税でいう「資産の譲渡」とは、資産の同一性を保ったまま他人へ移転させることを指します。売買、代物弁済、交換、現物出資などによって資産の所有権を移す場合も、資産の譲渡に該当します。
出典:国税庁|No.6145 資産の譲渡の具体例

したがって、法人成りで「個人事業の資産を新会社へ現物出資した」「法人設立後に譲渡した」というケースでも、消費税では課税資産の譲渡に当たるかどうかを確認します。棚卸資産や固定資産を新会社に移す場合には、所得税・法人税上の価額決定だけで終わらせず、消費税の課税標準、買手側の仕入税額控除、そしてインボイスの保存まで見ておく必要があります。

営業権・のれん|事業譲渡で見落としやすい課税資産

事業譲渡では、貸借対照表にはっきりと表れていない価値が、譲渡対価に含まれていることがあります。顧客基盤、ブランド、商圏、営業ノウハウ、収益力などに対する対価です。

会計や法人税では「のれん」「資産調整勘定」といった論点になりますが、消費税では、これが営業権として課税資産に含まれるかどうかを確認していきます。

支払名目消費税上の確認
営業権課税資産として扱うのが基本
のれん代実質が営業権の対価であれば課税対象
顧客リスト代情報・無体財産の譲渡かを確認
競業避止の対価役務提供・権利制限の対価かを確認
ブランド・商標権利譲渡かライセンスかを確認
事業譲渡差額資産別配分で営業権に整理される場合がある

営業権を「一括譲渡対価の残額」として最後に処理してしまうと、土地や債権の価額評価が不十分なまま、課税対象額が決まってしまいます。そうならないよう、契約前の段階で資産評価を行い、課税資産・非課税資産・営業権の配分について、その根拠を残しておくことが大切です。

土地・有価証券・金銭債権|非課税だが、申告への影響は残る

事業譲渡で土地、株式、売掛金、貸付金などが移るとき、消費税の課税対象から外れるもの、あるいは非課税として処理されるものがあります。

主な非課税取引には、土地の譲渡・貸付け、有価証券等の譲渡、金銭債権などの譲渡、支払手段の譲渡、そして預貯金利子や保険料を対価とする役務提供などが含まれます。
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引

ここで気をつけたいのは、「消費税がかからないから重要ではない」というわけではない、という点です。

非課税資産実務上の注意点
土地課税売上割合の分母に影響する場合がある
株式・出資事業譲渡ではなく株式譲渡スキームかを確認する
売掛金譲渡か回収代行か、貸倒れリスクの帰属を確認する
貸付金利息、保証料、割引料、譲渡差損益を区別する
保証金返還請求権金銭債権として扱うか、敷金・保証金の地位承継かを確認する
支払手段現金・預金の単なる移動と資産譲渡を混同しない

とりわけ土地の譲渡額が大きい場合には、課税売上割合が下がり、買手側・売手側それぞれの仕入控除税額に影響することがあります。事業譲渡の年だけ課税売上割合が大きく変動するようなときは、個別対応方式、課税売上割合に準ずる割合、共通対応課税仕入れの整理まで、あわせて検討しておきます。

債務引受け・預り保証金|「差引支払額」だけで課税標準を決めない

事業譲渡では、資産だけでなく、借入金、買掛金、未払金、預り保証金、前受金といった負債も承継されることがあります。

このとき、売買代金として実際に支払われる金額は、資産総額から負債を差し引いた額になることがあります。しかし、消費税の課税対象額は、単純に「振込額」だけで決まるものではありません。

国税庁の営業譲渡に関する質疑応答事例でも、土地、営業権、有形固定資産、預り保証金を含む事例において、差引支払金額ではなく、課税資産と非課税資産を合理的に区分したうえで、営業権と有形固定資産を課税対象として整理しています。
出典:国税庁|営業の譲渡をした場合の対価の額

実務では、次の3つを混同しないよう注意します。

項目意味
資産の譲渡対価消費税の課税・非課税を判定する対象
債務引受け現金支払額を調整する要素
差引支払額決済額であり、消費税の課税標準そのものとは限らない

契約書に「譲渡価格3億円」とだけ書き、別紙の資産負債明細がないとどうなるか。後日になって、課税資産の対価、非課税資産の対価、営業権の金額、債務引受け額を説明できなくなります。これは消費税の申告以前に、契約書の設計段階でつまずいている状態だといえます。

前払費用・未経過契約|精算金なのか、権利の譲渡なのかを分ける

事業譲渡では、保険料、賃料、保守料、サブスクリプション契約、ライセンス料、リース料といった前払費用を、譲渡日で日割り精算することがあります。

ここで大切なのは、前払費用という会計科目だけを見て税区分を決めない、ということです。

処理対象確認すべきこと
前払賃料建物賃貸借契約上の地位移転か、単なる日割精算か
前払保険料保険契約者の変更か、未経過分の実費精算か
前払保守料保守サービスを誰が受けるのか、請求先が誰か
ソフトウェア利用料ライセンスの移転可否、利用期間、契約主体
リース料リース契約の承継か、残債精算か
前受金顧客への役務提供義務を承継するのか、債務引受けか

前払費用の精算は、一見すると費用負担の調整にすぎないように見えます。それでも実質的には、権利や契約上の地位の移転を伴っている場合があります。反対に、権利の移転はなく、当事者間で期間按分しただけというケースもあります。契約書、相手方承諾書、請求書、精算明細、会計仕訳を一体で確認していきます。

会社分割|事業譲渡に似ていても、消費税の入口は異なる

会社分割は、会社法上、吸収分割と新設分割に分かれます。吸収分割は、会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を既存会社に承継させるものであり、新設分割は、分割によって新しく設立する会社に承継させるものです。
出典:e-Gov法令検索|会社法

消費税では、会社分割による資産移転は、事業譲渡のような個別資産の売買とは扱いが異なり、包括承継として整理されます。合併・会社分割による資産移転は、消費税法上の資産の譲渡等から除かれ、課税対象外の取引になる、という整理です。
出典:公益財団法人日本税務研究センター|合併、分割による資産の移転は消費税の課税財産の譲渡となるか

もっとも、会社分割では「消費税がかからない」で話を終えてはいけません。実務上の重要な論点は、その先にあります。分割後の承継法人が、どの課税方式で、いつから、どの登録番号で、誰にインボイスを発行するのか。ここを押さえておく必要があります。

会社分割では、インボイス登録・簡易課税は自動承継されない

会社分割でとくに誤りやすいのが、「事業を承継したのだから、税務上の届出や登録も引き継がれるはずだ」と考えてしまうことです。

項目会社分割時の注意点
適格請求書発行事業者の登録分割法人の登録効力は、承継法人に及ばない
登録番号承継法人は自社の登録番号で取引する必要がある
簡易課税制度選択届出書分割法人の届出効力は承継法人に及ばない
課税事業者選択承継法人で別途確認が必要
課税売上割合分割日後の取引をどの法人で集計するか確認
取引先通知請求主体、登録番号、振込口座、契約名義を更新する
請求システム分割日前後の売上・仕入・返品・値引きを分ける

分割法人が受けた適格請求書発行事業者の登録効力は、分割によって事業を承継した分割承継法人には及びません。承継法人が登録を受けるには、あらためて登録申請書を提出する必要があります。
出典:国税庁|消費税法基本通達1-7-6 合併又は分割があった場合の登録の効力

同じく、分割法人が提出した簡易課税制度選択届出書の効力も、分割承継法人には及びません。承継法人が簡易課税を適用したいのであれば、新たに簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。
出典:国税庁|消費税法基本通達13-1-3の4 分割があった場合の簡易課税制度選択届出書の効力等

会社分割は、資産移転そのものの消費税負担を避けられる場面があります。しかし、分割後に登録が間に合わずインボイスを発行できない、簡易課税の届出を失念する、取引先マスターの登録番号が古いままになっている――こうした運用上のミスが起きれば、取引先対応や申告に影響が及びます。

承継法人の納税義務|「新会社だから免税」とは限らない

会社分割で新会社を設立した場合や、既存の会社が事業を承継した場合、「基準期間がないから免税だ」と単純に判断することはできません。

相続、合併、分割によって事業を承継したときは、被相続人、被合併法人、分割法人の課税売上高等を参照したうえで、納税義務の免除が制限されることがあります。
出典:国税庁|No.6501 納税義務の免除

承継法人の側では、少なくとも次の事項を確認しておきます。

確認事項実務上の意味
分割法人の課税売上高承継法人の納税義務判定に影響する場合がある
分割日課税期間、登録申請、請求主体の切替日に影響する
承継事業の売上規模基準期間、特定期間、登録判断へ影響する
承継法人の資本金等新設法人の納税義務判定へ影響する
高額資産の取得・承継原則課税拘束や還付調査の対象になり得る
登録申請日分割後のインボイス発行可否に影響する
簡易課税届出承継法人で新たに提出が必要かを確認する

この論点は、M&Aを実行してから気付いても手遅れになりやすい領域です。分割計画書を作成する段階で、税務スケジュールも並行して組み立てていく必要があります。

個人事業の廃止|売却していなくても、みなし譲渡が生じることがある

個人事業者が事業を廃止した場合、課税事業者であれば、その廃止日の属する課税期間について消費税の申告が必要になります。

さらに、事業用資産が事業廃止によって家事用に移ったときは、事業を廃止した時点で家事のために消費または使用したものとして、事業として対価を得て譲渡したものとみなされる場合があります。非課税取引に該当しない限り、これは消費税の課税対象となり、その事業廃止時の時価を課税標準に含めることになります。
出典:国税庁|No.6603 個人事業者が事業を廃止した場合

廃止時の資産消費税上の確認
商品在庫自家消費・譲渡・廃棄のいずれかを確認
車両事業用から家事用に移るとみなし譲渡が問題
機械・備品時価、用途、廃棄有無を確認
建物事業用部分と家事用部分を区分
土地非課税取引だが課税売上割合に影響する場合あり
売掛金債権回収・貸倒れ・債権譲渡を区別
未収入金対価の発生時期を確認
借入金消費税の課税資産譲渡ではないが資金繰りに影響

事業廃止時の誤りは、「最後だから大した問題にはならない」どころか、むしろ最後の課税期間に集中して表れます。廃業の時点で残った資産の処分、時価、廃棄証明、売却先、使用状況を、あらかじめ一覧にまとめておくことが欠かせません。

事業廃止届とインボイス登録|取消届ではなく事業廃止届が必要な場合がある

個人事業者が事業を廃止した場合には、消費税に関する各種の届出書を提出する必要があります。

適格請求書発行事業者が事業の廃止にともなって登録を取り消すときは、適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書ではなく、事業廃止届出書を提出します。
出典:国税庁|No.6603 個人事業者が事業を廃止した場合

状況提出・確認すべき主な手続
課税事業者が事業廃止事業廃止届出書
インボイス発行事業者が事業廃止事業廃止届出書
課税事業者を選択していた課税事業者選択不適用届出書の要否
簡易課税を選択していた簡易課税制度選択不適用届出書の要否
課税期間特例を選択していた課税期間特例選択不適用届出書の要否
任意の中間申告をしていた任意の中間申告書を提出することの取りやめ届出書

法人成りの際に、個人事業の廃業届や消費税関連の届出が不十分だと、簡易課税などの効力がまだ残っていると誤解しやすくなります。廃業処理を「法人設立のおまけ」と考えず、個人事業の最終申告・届出までを一つのプロジェクトとして管理していきましょう。

法人の廃業・清算|売却、廃棄、現物移転を分ける

法人が事業を廃止する場合、法人そのものをすぐに消滅させるわけではありません。一般には、営業停止、解散、清算、残余財産の確定、清算結了という流れをたどっていきます。

消費税では、その過程で残った資産をどのように処分したかを、一つずつ個別に見ていきます。

処理消費税上の確認
第三者へ売却課税資産なら課税売上、非課税資産なら非課税売上
役員・株主へ低額譲渡時価との差額、みなし譲渡、法人税・所得税も確認
個人事業へ移転法人から個人事業主への資産譲渡として確認
廃棄廃棄・滅失は資産の譲渡等ではないが、証拠保存が必要
スクラップ売却廃棄ではなく売却なら課税対象となる場合がある
債務弁済の代物弁済資産の譲渡に該当する場合がある
現物分配会社法、法人税、消費税を個別確認
休眠資産を残したままなら、賃貸・管理・登録継続の論点が残る

法人の役員に対する贈与や、著しく低い価額による譲渡については、消費税上のみなし譲渡が問題になる場合があります。
出典:国税庁|No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い

個人成りでは、法人の資産を個人事業へ完全に移す必要がある場面が少なくありません。もし法人所有の資産を賃貸したままにしておくと、法人としての事業活動が残ってしまい、清算との整合が問題になります。

廃棄・除却|資産をなくしただけなら課税売上ではないが、証拠が必要

廃業のときには、在庫、備品、機械装置、什器、古いソフトウェア、内装設備などを廃棄することがあります。

廃棄、盗難、滅失は、資産の譲渡等には該当しないものとして整理されます。
出典:国税庁|消費税法基本通達5-2-13 資産の廃棄、盗難、滅失

ただし税務調査では、「本当に廃棄したのか」「役員や関係会社へ無償で渡したのではないか」「スクラップ売却収入が漏れていないか」といった点が確認されます。

保存すべき資料目的
廃棄依頼書廃棄の意思決定を示す
廃棄業者の請求書廃棄処理の実在性を示す
マニフェスト・処分証明産業廃棄物の処理を示す
廃棄前後の写真資産の状態と処分を示す
固定資産台帳の除却記録会計処理との整合を示す
在庫廃棄リスト棚卸資産の数量・内容を示す
スクラップ売却明細売却収入の有無を示す
稟議・取締役会議事録廃棄決定の承認を示す

「廃棄しました」と口頭で説明するだけでは足りません。廃業時ほど資料は散逸しやすいものですから、廃棄・売却・移転の証拠ファイルを、あらかじめ作っておくことをおすすめします。

買手側の仕入税額控除|課税資産の取得でも、控除できるとは限らない

事業譲渡の買手側では、課税資産を取得したからといって、自動的に全額を控除できるわけではありません。

確認事項実務上の意味
売手が適格請求書発行事業者かインボイスを受け取れるか
買手が原則課税か実額による仕入税額控除を行うか
簡易課税を選択していないか実際の仕入税額は控除計算に使わない
免税事業者でないか仕入税額控除を受けられない
課税売上対応か個別対応方式では用途区分が必要
非課税売上対応資産でないか控除制限が生じる場合がある
高額特定資産か将来の免税・簡易課税への制約が生じる場合がある
居住用賃貸建物か仕入税額控除制限を確認する
インボイス保存があるか帳簿・請求書等の保存要件を満たすか
譲渡日・引渡日課税仕入れの計上時期を確認する

仕入税額控除の適用には、法定事項が記載された帳簿および請求書等の保存が必要です。ここでいう請求書等には、適格請求書、適格簡易請求書、仕入明細書等のほか、電磁的記録も含まれます。
出典:国税庁|No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項

とくに、売手が免税事業者または非登録事業者である場合には、買手側で経過措置の適用可否、控除割合、仕入先別限度額、取引条件を、別途あらためて確認しておく必要があります。事業譲渡は一回の取引金額が大きいだけに、通常の月次仕入よりも影響額が大きくなりがちです。

インボイス・請求書設計|一枚の請求書ではなく、別紙明細まで含めて管理する

事業譲渡の請求書・精算書は、次のような構成にしておくのが望ましい形です。

書類記載すべき内容
事業譲渡契約書譲渡対象、譲渡日、対価、債務引受け、価格調整、消費税の扱い
資産負債明細表資産ごとの名称、帳簿価額、時価、譲渡価額、税区分
課税資産明細税率別対価、消費税額、登録番号
非課税資産明細土地、有価証券、金銭債権等の金額
不課税・精算項目明細債務引受け、預り金、期間按分精算
適格請求書登録番号、税率別対価、税率別消費税額等
仕入明細書買手作成の場合は売手確認が必要
引渡確認書課税仕入れ・売上計上時期の根拠
価格調整合意書クロージング後調整がある場合の処理根拠

事業譲渡では、契約書、精算書、インボイス、会計仕訳がそろって一致していないと、売手側の課税売上と買手側の課税仕入れが対応しなくなります。

とりわけ、営業権や固定資産の消費税額を買手が控除する場面では、売手が適格請求書発行事業者であること、課税資産の内容が明確であること、そして譲渡日・引渡日・検収日を説明できること――この三点が重要になります。

契約書で必ず整理したい消費税条項

事業譲渡契約書や資産譲渡契約書では、消費税条項を最後に形式的に入れて済ませるだけでは不十分です。

契約条項実務上の確認事項
譲渡対象資産別紙明細と固定資産台帳・在庫表を整合させる
譲渡対象外資産個人使用資産、除却予定資産、契約未承継資産を明確にする
譲渡価額課税資産・非課税資産・営業権の配分を明示する
消費税税抜価格か税込価格か、誰が負担するかを明示する
登録番号売手の適格請求書発行事業者登録を確認する
インボイス交付交付日、形式、訂正方法を定める
債権債務金銭債権、保証金、前受金、買掛金の扱いを明確にする
前払費用期間按分か、権利譲渡か、相手方承諾の有無を整理する
価格調整調整額が売上返還か追加対価かを定める
表明保証税区分、登録、未納税額、届出状況を確認する
クロージング条件登録申請、届出、許認可、相手方承諾を条件化する
資料保存契約書、明細、請求書、評価資料の保存責任を定める

契約書は法務部門だけで完結させるのではなく、税務・経理・販売管理・固定資産管理の担当者も確認しておくべきものです。商取引では、契約内容を具体的に明確化し、取引を円滑に進めるための取り決めをしておくことが大切になります。

資金繰りへの影響|売手の納付と買手の控除時期は一致しない

事業譲渡では、消費税が数千万円単位になることも珍しくありません。

とくに、次のような場合には資金繰りへの影響が大きくなります。

状況起こり得る影響
売手が課税事業者、買手が免税事業者売手は納税、買手は控除できず、消費税負担が外部流出する
売手が課税事業者、買手が簡易課税買手は実額控除できず、譲渡価格に含まれる消費税の回収が難しい
売手が非登録事業者買手の仕入税額控除が制限される
買手が課税選択を失念高額資産取得の控除を受けられない
譲渡日が期末近い売手の申告・納税時期が早く到来する
還付申告になる資料確認や還付保留への備えが必要
土地譲渡が大きい課税売上割合が下がり、控除額が減る場合がある
高額特定資産を取得将来の免税・簡易課税選択に制限がかかる場合がある

法人成り・個人成りでも同様です。売手側で消費税が発生する一方、買手側が免税事業者または簡易課税事業者であれば、仕入税額控除が十分に機能せず、資金繰りに大きな影響が出ることがあります。

税務調査で確認されるポイント

事業譲渡・会社分割・事業廃止は、通常の取引よりも金額が大きく、契約・会計・税務の処理が一回限りになりがちです。そのため税務調査では、次のような点が確認されます。

調査ポイント確認される資料
事業譲渡か会社分割か契約書、分割計画書、議事録、登記資料
課税資産と非課税資産の区分資産明細、固定資産台帳、棚卸表、不動産評価
営業権の金額事業計画、DCF、第三者評価、価格交渉資料
土地建物の価額区分売買契約書、鑑定評価、固定資産税評価、合理的配分資料
債権債務の承継売掛金明細、保証金台帳、債務引受契約
前払費用・前受金期間按分表、契約書、相手方承諾
インボイス登録番号、税率別金額、修正インボイス
仕入税額控除買手側の帳簿、請求書、用途区分
事業廃止時の資産廃止日資産一覧、時価算定、廃棄証明
関連当事者取引価格の合理性、役員・株主への利益移転
届出事業廃止届、登録申請、簡易課税、課税選択
最終申告廃止日、清算期間、消費税申告書、付表

月次・決算監査の実務でも同じことがいえます。新規契約、更新・解約、設備投資、資産売却・除却の有無を事前に確認し、発注から検収、請求、回収までのプロセスや、証憑書類の作成担当者を押さえておくことが大切です。

実行前チェックリスト

事業譲渡、会社分割、事業廃止を実行に移す前に、少なくとも次の事項は確認しておきます。

区分確認項目
スキーム株式譲渡、事業譲渡、会社分割、現物出資、清算のどれか
売手課税事業者か、免税事業者か、適格請求書発行事業者か
買手原則課税か、簡易課税か、免税か、課税選択が必要か
資産課税資産、非課税資産、不課税項目を一覧化したか
価額資産別評価、営業権、土地建物区分の根拠があるか
債権債務売掛金、保証金、前受金、未払金の承継方法が明確か
前払費用期間按分か、権利移転か、契約上の地位承継か
インボイス適格請求書を交付・保存できる設計か
届出登録申請、事業廃止届、簡易課税、課税選択の期限を確認したか
最終申告個人・法人それぞれの最終課税期間を確認したか
調査対応契約書、明細、評価、議事録、廃棄証明を保存したか
資金繰り納付時期、還付時期、価格交渉、消費税負担者を試算したか

このチェックを、契約締結後や決算時に行うのでは遅い場合があります。譲渡価格、消費税負担、登録、届出、クロージング日を契約条件に反映させるには、基本合意・分割計画・廃業方針を検討する段階から、消費税を確認しておく必要があります。

まとめ

事業譲渡、会社分割、事業廃止時の資産移転は、消費税の判断ミスが起きやすい領域です。

事業譲渡では、事業を一括して移すように見えても、消費税では資産ごとに課税・非課税・不課税を分けていきます。営業権や有形固定資産は課税対象になり得ますが、土地、株式、金銭債権は非課税として扱います。債務引受けや前払費用の精算は、振込額だけで判断せず、契約上の権利義務と精算内容から整理していきます。

会社分割では、資産移転そのものは包括承継として課税対象外と整理されます。しかし、承継法人の納税義務、インボイス登録、簡易課税、請求主体の切替えは、自動的に解決するわけではありません。分割後の初回請求・初回申告で問題が表面化しやすいため、事前の準備がものをいいます。

事業廃止では、売却していなくても、個人事業者の事業用資産が家事用に移ることで、みなし譲渡が生じる場合があります。法人の清算では、売却、廃棄、現物移転を分けて考え、証拠資料を残しておく必要があります。

消費税は、M&Aや廃業の最後に計算する税金ではありません。スキーム、契約、価額配分、請求、インボイス、届出、資金繰り、最終申告までを一体として設計しておくことで、取引実行後の修正・追徴・取引先対応を未然に防ぐことができます。

事業譲渡・会社分割・事業廃止の消費税でお困りの場合

次のような状況では、契約締結前、あるいは実行日前の確認がとくに重要になります。

状況相談前に整理したい資料
事業譲渡を予定している事業譲渡契約書案、資産負債明細、譲渡価額案
土地建物を含む事業を譲渡する不動産評価、土地建物内訳、固定資産税評価、鑑定資料
営業権・のれんが発生する価格算定資料、事業計画、交渉資料
個人事業を法人化する廃業予定日、資産一覧、在庫表、法人側の課税方式
法人から個人事業へ移す清算方針、資産譲渡契約、株主・役員関係
会社分割を予定している分割計画書、承継資産負債、登録・届出スケジュール
事業を廃止する廃止日資産一覧、廃棄証明、売却資料、届出状況
インボイス登録が絡む登録番号、登録申請状況、取引先通知案
買手側で仕入税額控除を取りたいインボイス、課税方式、用途区分、資金繰り試算
税務調査に備えたい契約書、明細、評価根拠、議事録、承認記録

犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業譲渡、会社分割、法人成り、個人成り、廃業・清算にともなう消費税について、契約・請求・インボイス・届出・申告・証憑保存までを一体で整理いたします。

事業移行や廃業をご予定の場合は、取引を実行される前の段階で、資産一覧、契約書案、譲渡価額案、課税方式、登録状況を整理いただいたうえで、お問い合わせページからご相談ください。

重要ポイントの振り返り

論点実務上のポイント
事業譲渡一括譲渡でも資産ごとに課税・非課税・不課税を分ける
営業権事業譲渡対価に含まれる営業権は課税資産になり得る
土地非課税取引だが課税売上割合に影響する場合がある
有価証券・金銭債権原則として非課税取引として整理する
債務引受けそれ自体は資産譲渡ではないが、対価配分に影響する
前払費用単なる精算か、権利・契約上の地位の移転かを確認する
会社分割包括承継による資産移転は課税対象外として整理される
分割後の登録インボイス登録は承継法人へ自動承継されない
簡易課税分割法人の簡易課税届出の効力は承継法人に及ばない
承継法人の納税義務新会社だから免税とは限らず、分割法人の売上高等を確認する
個人事業廃止事業用資産の家事転用にみなし譲渡が生じる場合がある
法人清算売却、廃棄、現物移転を個別に判定する
廃棄資産譲渡ではないが、廃棄証明・写真・台帳処理が必要
インボイス課税資産明細、税率別対価、税額、登録番号を明確にする
買手側控除原則課税、用途区分、帳簿・請求書保存が必要
資金繰り売手の納付と買手の控除可否・還付時期は一致しない
税務調査契約書、資産明細、評価資料、議事録、届出控えが説明資料になる
相談時期契約締結後ではなく、スキーム選択・価額決定前に確認する
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