資金繰り表は、制度活用の「現実性」を見るための表である
補助金、融資、税制優遇、共済、認定制度。こうした制度を検討するとき、多くの会社がまず探すのは「使える制度はあるか」という点です。
しかし制度活用の実務では、その手前に確認しておくべきことがあります。制度の対象になるかどうかよりも先に、自社の資金繰りが制度活用に耐えられるかどうかを見ておく必要があるのです。
補助金は、採択されてもすぐに入金されるわけではありません。設備投資が税制優遇の対象になったとしても、支払いは先に発生します。融資は実行時こそ資金が増えますが、その後は毎月の返済が始まります。助成金や補助金は、証憑管理や実績報告が整わなければ、予定どおりの入金にならないこともあります。
つまり制度活用は、「得かどうか」だけでは判断できません。
- いつ支払うのか
- いつ入金されるのか
- いつ返済が始まるのか
- 税金はいつ増減するのか
- 自己資金はいくら必要なのか
- 最も資金が苦しくなる月はいつか
これらを確認するための基本資料が、資金繰り表です。
資金繰りは頭の中だけで把握しようとしても難しく、売掛金・買掛金・手形・借入返済・設備支払といった要素が絡み合います。だからこそ3ヶ月資金繰り表によって必要資金を予測し、早めに手を打つことが重要になります。出典:中小企業庁|「会計」を活用した経営力・資金調達力強化を目指す中小企業のための基本要領
このシリーズで資金繰り表を扱う目的は、単に表の作り方を説明することではありません。
制度を使うか、使わないか。補助金を待つか、融資を併用するか。設備投資を今行うか、延期するか。税制優遇を優先するか、手元資金を残すか。
そうした経営判断を、感覚ではなく数字で整理すること。それが目的です。
資金繰り表で見るべきものは「利益」ではなく「現金の残り方」
制度活用を考えるとき、損益計算書だけを見て判断するのは危険です。
利益が出ていても、現金が残っているとは限りません。売上を計上していても、売掛金として未回収であれば、まだ手元資金にはなっていない。設備投資をすれば、会計上は減価償却によって費用化されていくとしても、支払いは先にまとまって発生します。税額控除には税金を減らす効果がありますが、設備代金そのものを支払ってくれる制度ではありません。
資金繰り表で見るのは、利益ではなく現金の動きです。
制度活用においては、特に次の3つの時間差が重要になります。
1つ目は、支出と入金の時間差です。 補助金は対象経費を支払った後に実績報告を行い、審査を経て入金されることが多いため、先に自社で立替資金を用意しておく必要があります。
2つ目は、投資効果と返済開始の時間差です。 設備投資や新事業の効果が出る前に、借入返済やリース料、人件費、広告費、保守費が先に発生することがあります。
3つ目は、会計・税務上の効果と現金収支の時間差です。 特別償却、税額控除、圧縮記帳などは税務上重要ですが、現金の支払い時期とは一致しません。
したがって、制度活用を判断する資金繰り表で確認するのは、「制度上の有利さ」ではなく「現金が底をつかないか」です。
資金調達の実務でも、資金不足の原因は一つではありません。過大な設備投資、増加運転資金、回収と支払条件のアンバランス、売掛債権の回収遅延、過剰在庫、借入返済方法、過小資本、不明勘定、信用失墜。これだけ要因が分かれる以上、「単に資金が足りない」という見方では不十分です。
制度活用を判断する資金繰り表に入れるべき項目
資金繰り表は、細かく作り込むほどよいというものではありません。
制度活用の判断に使う場合、まずは次の区分で整理することが重要です。
1. 期首現預金
最初に見るのは、今いくら現預金があるかです。
ただし、通帳残高をそのまま「使えるお金」と見てはいけません。近く支払う税金、社会保険料、給与、買掛金、借入返済、カード決済、リース料などがあるなら、それらを差し引いた後に残る資金を見ます。
制度活用を考えるときに見るべきなのは、「今ある現金」ではなく「制度活用に使える余裕資金」です。
2. 経常収入
経常収入には、通常の営業活動による入金を入れます。
売上入金、売掛金回収、手形回収、診療報酬入金、家賃収入など、事業活動から通常入ってくる資金です。
ここで重要なのは、売上計上月ではなく入金月で見ることです。売上が伸びていても、回収が遅ければ資金繰りは悪化します。
売掛金管理は資金繰りの予測にも役立ちます。補助簿や請求残高を管理することで回収予定資金を把握でき、資金繰りの安定につながります。
3. 経常支出
経常支出には、通常の営業活動による支払いを入れます。
仕入、外注費、人件費、家賃、水道光熱費、広告費、通信費、保険料、税理士報酬、社会保険料、税金などです。
制度活用によって人件費や固定費が増える場合には、その増加分も反映します。補助金の対象になるからといって、補助対象外の維持費や人件費が発生しなくなるわけではありません。
4. 投資支出
投資支出には、設備投資、システム導入、店舗改装、機械装置、車両、ソフトウェア、保証金、初期導入費などを入れます。
補助金や税制優遇を使う場合でも、ここに入れるのは実際の支払予定額です。補助対象経費だけではなく、補助対象外経費、消費税部分、付随費用、追加工事、研修費、保守費まで確認します。
設備投資税制や補助金は、対象資産・取得時期・手続時期・申告要件などが判断に影響します。そのため、資金繰り表だけでなく税務・会計処理との接続が欠かせません。設備税制でも、取得価額、対象資産、複数資産の取扱い、補助金を受けた資産の取扱いなど、細かな確認が必要になります。
5. 財務収入
財務収入には、借入金、追加融資、借換による入金、増資、役員借入、補助金入金などを入れます。
補助金入金は、採択時ではなく、実際に入金される見込み月に入れます。採択通知を受けた月に入金扱いにしてしまうと、資金繰り表は現実より良く見えてしまいます。
日本政策金融公庫も、経営計画策定の参考資料として資金繰り表を用意しており、資金繰り計画を策定する際の活用資料として位置づけています。融資を検討する場面でも、資金繰り表は金融機関との対話に必要な資料です。出典:日本政策金融公庫|各種書式ダウンロード 中小企業の方
6. 財務支出
財務支出には、借入金返済、リース料、割賦返済、役員借入金返済、設備代金の分割払いなどを入れます。
融資は実行時には資金を増やしますが、返済が始まれば毎月の資金流出になります。据置期間がある場合でも、据置終了後に返済額がどの程度増えるのかを確認しておきます。
資金繰り表では、借入実行月だけでなく、返済開始月と返済額を必ず反映します。
3ヶ月資金繰り表で「最も苦しい月」を先に見る
制度活用の判断では、まず3ヶ月資金繰り表を作成することが有効です。
3ヶ月先までの資金の動きを予測しておけば、資金不足を起こす時期を事前に把握でき、時間的な余裕をもって対策を取ることができます。資金繰り表は、一定期間の資金の動きを収入総額と支出総額に分けて科目別に分類した表であり、資金不足を起こさないための手段として位置づけられるものです。出典:中小企業庁|「会計」を活用した経営力・資金調達力強化を目指す中小企業のための基本要領
3ヶ月資金繰り表で見るべきなのは、最終月の残高だけではありません。
- 最も現預金残高が少なくなる月はいつか
- その月に、給与・税金・社会保険料・借入返済が重ならないか
- 補助金入金を見込まなくても資金が回るか
- 融資実行が遅れた場合でも支払いに耐えられるか
- 設備投資を1ヶ月遅らせた場合、資金繰りは改善するか
このように、「最も苦しい時期」を先に見ておくことが重要です。
制度活用に前向きな会社ほど、どうしても制度のメリットに目が向きます。しかし資金繰り表で見るべきなのは、制度活用後の一番良い状態ではなく、一番厳しい月です。
補助金が入る月ではなく、補助金が入る前の月。投資効果が出る月ではなく、投資支出が先行する月。融資実行後ではなく、返済開始後。
ここを確認しないまま制度活用を進めると、採択や認定を受けたにもかかわらず、実行段階で資金ショートしてしまうことがあります。
大きな制度活用では6ヶ月から12ヶ月の資金繰りも見る
3ヶ月資金繰り表は、短期の資金ショートを防ぐうえで有効です。
一方、設備投資、新規事業、補助金活用、賃上げ、M&A、事業承継、経営改善を伴う場合には、3ヶ月だけでは足りないことがあります。
制度活用の効果は、3ヶ月以内に完結しないことが多いからです。
設備投資では、発注、納品、検収、支払、稼働、売上増加、補助金入金、税務申告、借入返済が複数月にまたがります。
人材投資や賃上げでは、給与増加は毎月発生する一方、税額控除の効果が確認できるのは申告時点です。助成金も、計画、実施、支給申請、審査、入金まで時間がかかります。
経営改善では、借入返済、条件変更、在庫削減、固定費削減、売上回復が、それぞれ違う時期に起こります。
そのため、制度活用の金額が大きい場合や、固定費増加を伴う場合には、6ヶ月から12ヶ月の資金繰り表もあわせて作成します。
3ヶ月資金繰り表で短期の安全性を見て、6ヶ月から12ヶ月の資金繰り表で制度活用後の継続可能性を見る。この2段階で判断すると、制度活用の失敗を防ぎやすくなります。
補助金は「採択月」ではなく「入金月」で見る
補助金を資金繰り表に反映するとき、最も多い誤りは、採択時点で補助金収入を見込んでしまうことです。
補助金は、採択された時点で自由に使える資金になるわけではありません。多くの補助金では、採択後に交付申請を行い、交付決定を受け、補助事業を実施し、支払いを完了し、実績報告を提出し、検査を経て補助金額が確定し、請求後にようやく入金されます。
採択とは、あくまで補助金交付の候補に選ばれた段階です。交付決定前に発注した経費は補助対象外になりますし、補助金は実績報告書をもとに検査され、支払額が決定された後に請求・入金されます。後払いが原則である以上、事業者が自己資金で事業経費を立て替える必要があるということです。出典:中小企業庁・ミラサポplus|補助金入門 STEP3:補助の審査・交付・報告
したがって、資金繰り表では次のように分けて考えます。
- 採択予定月には入金を入れない
- 交付決定前の支出は原則として慎重に扱う
- 設備代金や外注費は実際の支払月に入れる
- 補助金入金は実績報告・確定検査後の見込み月に入れる
- 補助金が減額される可能性も見込む
- 補助対象外経費と消費税部分を別に見る
補助金支援の実務でも、補助金は税金を原資とするものであり、必ず採択されるわけではなく、後払いが原則です。二重受給、事前着手、目的外使用、無許可での財産処分、計画変更、収益納付、不正受給といった点にも注意が必要になります。
補助金は、資金繰りを改善する可能性を持っています。
しかし、資金ショートを自動的に防いでくれる制度ではありません。資金繰り表では、補助金が入る前に資金が尽きないかを必ず確認します。
融資は「入金」だけでなく「返済後の残高」を見る
融資を受けると、実行月には現預金が増えます。
そのため資金繰り表の上では、一時的に余裕があるように見えます。しかし融資は、返済義務のある資金です。制度融資であっても、信用保証付き融資であっても、日本政策金融公庫の融資であっても、返済が始まれば毎月の資金流出になります。
制度活用の資金繰り表では、融資について次の点を確認します。
- 借入実行月
- 借入金額
- 据置期間
- 返済開始月
- 毎月返済額
- 既存借入との合計返済額
- 補助金入金時に繰上返済するか
- 運転資金として残すか
- 追加融資が必要になる月はないか
特に設備投資や補助金活用では、融資が補助金入金までのつなぎ資金として使われることがあります。
この場合でも、補助金入金後に融資を返すのか、それとも入金後も運転資金として一部を残すのか。あらかじめ資金繰り表の上で確認しておく必要があります。
金融庁は金融機関に対して、事業者の業況を積極的に把握し、ニーズに応じたきめ細かな支援を行うことを求めてきました。各種支援金の給付までのつなぎ融資などについても、決算状況や借入状況のみで機械的・硬直的に判断せず、丁寧かつ親身に対応することを要請しています。出典:金融庁|コロナ克服・地域活性化に向けた金融機関の役割
ただし、金融機関が柔軟に対応する可能性があることと、自社が返済可能な計画を持っていることは、別の問題です。
融資を受ける前に、返済後の資金繰りが回るかどうかを資金繰り表で確認します。
税制優遇は「現金が入る制度」ではない
中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、賃上げ促進税制などの税制優遇は、制度活用の重要な選択肢です。
しかし税制優遇は、補助金とは性質が違います。
補助金は、一定の手続を経て現金が入金される制度です。融資は、返済義務を伴って現金が入金される制度です。そして税制優遇は、税金の計算に影響する制度です。
税額控除であれば、法人税等を減らす効果があります。特別償却であれば、減価償却費を前倒しして計上し、課税所得を圧縮する効果があります。圧縮記帳であれば、補助金等に対応する課税を繰り延べる効果があります。
しかし、いずれも設備代金の支払いそのものを肩代わりしてくれる制度ではありません。
そのため資金繰り表では、税制優遇による効果を次のように見ていく必要があります。
- 設備代金は実際の支払月に出金として入れる
- 税制優遇の効果は納税時期に反映する
- 赤字や税額不足の場合には、想定どおりの効果が出ない可能性を考える
- 税額控除限度や繰越の有無を確認する
- 特別償却は将来年度の償却費減少も考える
税制優遇は、投資判断を後押しする制度ではあります。ただし資金繰り表で見るべきなのは、税務上有利かどうかだけではありません。
設備代金を支払えるか。税金減少の効果が出るまで資金が持つか。税制優遇を使わなくても、投資として合理的か。
この順番で判断する必要があります。
資金繰り表で「使わない判断」もできるようにする
制度活用において重要なのは、使う判断だけではありません。
使わない判断も、同じくらい重要です。
資金繰り表を作成してみると、制度を使わない方がよい場面が見えてきます。
- 補助金を受けても入金前に資金ショートする場合
- 補助対象外経費が大きく、自己負担が重すぎる場合
- 融資を受けても返済開始後に資金残高が急減する場合
- 税制優遇の効果が出る前に現金が不足する場合
- 設備投資後の固定費増加に耐えられない場合
- 売上計画が未達の場合に返済原資が不足する場合
このような場合には、制度を使わない、投資を延期する、投資規模を縮小する、融資を先に確保する、補助金ではなくリースを検討する、既存借入の返済条件を見直す、在庫や売掛金管理を改善する、といった判断が必要になります。
資金繰りの実務では、売上・利益よりも現金を重視し、資金繰り表を使いこなすことが重要です。利益が出ていても現金が残っているとは限りません。不良債権や過剰在庫を抱えていれば、黒字倒産につながることさえあります。
制度活用は、会社を強くするための手段です。
制度を使った結果、資金繰りが悪化し、金融機関への説明が難しくなり、日常業務に支障が出るのであれば、その制度活用は経営判断として再検討すべきものです。
資金繰り表では「通常シナリオ」と「保守シナリオ」を分ける
制度活用の資金繰り表では、予定どおり進む前提だけでは不十分です。
資金繰り表は、少なくとも2つのシナリオで作成します。
通常シナリオ
- 予定どおり採択される
- 予定どおり交付決定される
- 予定どおり投資が完了する
- 予定どおり補助金が入金される
- 予定どおり売上が増える
- 予定どおり融資が実行される
この前提で、制度活用が成立するかを確認します。
保守シナリオ
- 採択されない
- 交付決定が遅れる
- 設備納品が遅れる
- 補助金入金が遅れる
- 補助金額が減額される
- 売上効果が遅れる
- 融資実行が遅れる
- 税額控除の効果が想定より小さい
この前提でも、資金ショートしないかを確認します。
制度活用において本当に見るべきなのは、通常シナリオで成り立つかどうかだけではありません。保守シナリオでどこまで耐えられるかです。
補助金の採択を前提に投資を決めるのではなく、採択されなくても投資として成立するか。融資実行を前提に支払いを組むのではなく、実行が遅れても支払えるか。税制優遇を前提に賃上げするのではなく、控除が限定的でも人件費を負担できるか。
資金繰り表は、楽観的な計画を作るための表ではありません。判断を誤らないために、不利な条件も見える化するための表です。
資金繰り表と月次決算はセットで考える
資金繰り表は、作って終わりではありません。
制度活用後は、資金繰り表と実績を毎月比較していく必要があります。
補助金事業では、計画どおりに支出が進んでいるか。証憑は揃っているか。補助対象外経費が増えていないか。売上・粗利・固定費は計画どおりか。借入返済後の現預金残高は予定どおりか。補助金入金予定が遅れていないか。税金・社会保険料の支払いに影響はないか。
これらは、資金繰り表だけでは管理できません。月次試算表、売掛金一覧、買掛金一覧、在庫一覧、固定資産台帳、借入金一覧表、証憑管理とつなげて確認していく必要があります。
会計活用の観点でも、資金繰り安定のレベルでは、現預金出納帳、債権管理、債務管理、在庫管理、売上目標、3ヶ月資金繰り表が基礎項目として挙げられます。その次の段階として、自計化、発生主義への移行、月次実地棚卸、翌月10日までの月次決算、実績検討会、全社予算管理、資金計画管理が整理されます。
また月次監査の実務では、設備投資、新規契約、資産売却・除却、会計データに現れない状況変化、今後の計画、発注から回収までの業務プロセス、証憑書類の発行・保存状況などを確認することが重要になります。
制度活用後に必要なのは、申請時の計画ではなく、実行後の数字です。
制度活用が本当に経営改善につながっているかを確認するには、資金繰り表と月次決算をセットで管理する必要があります。
金融機関に説明できる資金繰り表にする
資金繰り表は、自社の内部管理だけでなく、金融機関への説明にも使います。
特に補助金と融資を併用する場合、金融機関は次の点を見ています。
- 何のための投資か
- 補助金の対象になる経費はどこか
- 補助金が入るまでの立替資金はいくらか
- 自己資金はいくら用意するか
- 融資はいくら必要か
- 返済原資は何か
- 補助金が入金された後、資金繰りはどう変わるか
- 売上計画が未達の場合、返済は可能か
- 既存借入と合わせた返済負担は重すぎないか
金融機関に説明する資金繰り表では、制度名を並べるだけでは不十分です。
金融機関が見たいのは、「その制度を使うことで会社の資金繰りと返済可能性がどう変わるか」です。
経理・財務の実務でも、外部の金融機関が納得でき、内部の社員にとっても現実性のある数字に落とし込むことが重要になります。経営者が一人で作った現実性の乏しい予算計画が、そのまま外部に出てしまう。そこには危うさがあります。
金融機関説明に耐える資金繰り表にするためには、次の点を整えます。
- 売上入金は、請求月ではなく回収月で見る
- 補助金入金は、採択月ではなく見込み入金月で見る
- 融資は、実行月と返済開始月を分けて見る
- 設備支出は、発注・納品・支払時期を分けて確認する
- 税金・社会保険料の支払いを入れる
- 既存借入返済をすべて入れる
- 最も資金が苦しい月を説明できるようにする
- 保守シナリオも示せるようにする
資金繰り表は、金融機関を説得するための資料ではありません。金融機関と同じ前提で経営判断を共有するための資料です。
制度活用前に資金繰り表で確認すべき判断軸
制度活用前には、少なくとも次の順番で確認します。
1. 事業目的が明確か
制度を使う前に、まず事業目的を確認します。
なぜ設備投資をするのか。なぜ人材投資をするのか。なぜ補助金を使うのか。なぜ融資が必要なのか。
事業目的が曖昧なまま資金繰り表を作っても、数字の妥当性は判断できません。
事業計画とは、事業を通じて達成したい定性的・定量的目標に対して、必要な経営資源・施策の仮説を定め、目標達成と仮説検証の方法・手順・指標を定めるものです。制度活用も、この事業計画の中に位置づけて考える必要があります。
2. 支出時期が見えているか
次に、支出時期を確認します。
発注時に前払金が必要か。納品時に一括支払いか。分割払いか。補助対象外経費はいつ支払うか。消費税部分はいつ負担するか。追加費用は発生しないか。
制度活用では、支出時期の見落としが資金ショートにつながります。
3. 入金時期が保守的に見積もられているか
補助金、助成金、融資、売上入金、税金還付などの入金予定を確認します。
ここでは、楽観的な入金月ではなく、保守的な入金月で見るべきです。
補助金は実績報告後の入金です。融資には審査があります。売掛金には回収遅延があります。税制優遇の効果は、税務申告や納税時期と関係します。
入金予定は、遅れる前提でも資金が回るかを確認します。
4. 返済と固定費増加を反映しているか
制度活用後には、返済や固定費が増えることがあります。
借入返済。リース料。保守費。人件費。広告費。外注費。システム利用料。減価償却費に対応する税務・会計処理。
制度活用の効果だけでなく、制度活用後に増える支出を資金繰り表に入れます。
5. 最も苦しい月に資金が残るか
最後に見るのは、最も苦しい月です。
その月の現預金残高が、給与、税金、社会保険料、仕入、借入返済に耐えられるかを確認します。
ここで資金が不足するのであれば、制度活用の前提を見直します。
- 投資時期をずらす
- 融資を先に確保する
- 投資額を減らす
- 補助金以外の資金調達を検討する
- 既存借入の返済条件を確認する
- 売掛金回収や在庫管理を改善する
- 制度活用そのものを見送る
資金繰り表は、制度活用を進めるためだけでなく、止めるためにも使うべき資料です。
資金繰り表で制度活用を判断する結論
制度活用の失敗は、制度の要件を知らなかったことだけで起きるわけではありません。
- 採択されたのに資金が足りない
- 交付決定前に発注してしまう
- 補助金入金までの立替資金を見ていない
- 融資返済後の資金繰りを見ていない
- 税制優遇を現金収入のように考えてしまう
- 補助対象外経費を見落とす
- 投資効果が出る前に固定費が増える
- 月次管理が追いつかない
こうした失敗は、資金繰り表によって、事前にかなりの部分を発見できます。
制度を使えるかどうかではなく、制度を使った後も会社が資金的に耐えられるか。補助金が入る前に資金ショートしないか。融資返済が始まっても手元資金が残るか。税制優遇の効果が出るまで資金が持つか。制度活用後の月次管理に対応できるか。
これらを確認して初めて、制度活用は経営判断として成立します。
資金繰り表は、単なる経理資料ではありません。制度活用を「使える制度探し」から「自社にとって合理的な意思決定」へと変えるための、最も実務的な判断資料です。
資金繰り表を使った制度判断に迷ったときは
補助金、融資、税制優遇、共済、認定制度。それぞれ単独で見ると、魅力的に映ることがあります。
しかし実際の経営では、支払い、入金、返済、税金、証憑管理、実績報告、月次管理が同時に動いていきます。
制度を使う前に資金繰り表で整理しておくことで、使うべき制度、使わない方がよい制度、融資を併用すべき場面、投資時期を見直すべき場面が見えやすくなります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、制度を「利用できるか」だけではなく、事業目的、資金使途、補助金入金前の立替資金、融資返済、税務・会計処理、月次資金繰り、金融機関説明まで含めて整理することを重視しています。
制度活用を進めたいものの、資金繰り表の上でどこまで耐えられるか分からない。補助金と融資をどう組み合わせるべきか判断したい。そうした場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り
| 論点 | 資金繰り表で確認すること | 判断上の注意点 |
|---|---|---|
| 制度活用の入口 | 制度名ではなく、支出・入金・返済の時期を見る | 使える制度でも、資金繰りに耐えられなければ再検討する |
| 補助金 | 支払月、実績報告、確定検査、入金見込み月 | 採択月に入金扱いしない。後払いを前提にする |
| 融資 | 借入実行月、返済開始月、毎月返済額 | 入金時だけでなく、返済後の資金残高を見る |
| 税制優遇 | 税金が減る時期、控除限度、赤字時の影響 | 現金が直接入る制度ではない |
| 設備投資 | 設備代金、付随費用、補助対象外経費、消費税 | 投資効果が出る前の資金不足を確認する |
| 運転資金 | 売掛金回収、在庫、買掛金、固定費 | 売上増加による資金需要と赤字補填を分ける |
| 3ヶ月資金繰り表 | 直近の資金ショート時期 | 最も苦しい月を先に見る |
| 6〜12ヶ月資金繰り | 投資効果、補助金入金、返済開始後の影響 | 大きな制度活用では短期表だけでは不足する |
| 保守シナリオ | 入金遅延、不採択、減額、売上未達 | 予定どおり進まない場合でも資金が回るかを見る |
| 金融機関説明 | 資金使途、返済原資、補助金入金前の立替資金 | 制度名ではなく、資金繰りと返済可能性を説明する |
| 月次管理 | 資金繰り表と実績の差異 | 作って終わりではなく、毎月見直す |
| 使わない判断 | 資金ショート、自己負担過大、返済負担過大 | 制度活用を止める判断も経営判断である |