資本金を1,000万円未満にして会社を設立すれば、設立1期目・2期目は消費税の免税事業者になる——。
単独の小規模な創業であれば、入口の理解としては、これで大きく外れてはいません。ただ、大規模な法人グループの中に新しい会社を設立する場合や、既存の大規模事業者が出資・支配する会社を立ち上げる場合には、この理解だけに頼るのは危ういところがあります。
消費税には、資本金1,000万円未満の新規設立法人であっても、一定の支配関係と売上規模の要件を満たすときには、設立当初から納税義務を免除しない仕組みが用意されています。これが「特定新規設立法人の納税義務の免除の特例」です。
基準期間のない資本金1,000万円未満の法人であっても、事業年度開始の日に特定要件に該当し、かつ判定対象者の基準期間相当期間における課税売上高が5億円を超える場合には、その課税期間の納税義務は免除されません。さらに、令和6年10月1日以後に開始する課税期間からは、判定対象者の課税売上高5億円超に加えて、売上金額・収入金額その他の収益の額の合計額が、国外分を含めて50億円を超える場合も対象に加わりました。
出典:国税庁|No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例
この制度は、「大企業の子会社だから課税事業者になる」といった大雑把なものではありません。判定にあたっては、次のような事実を、順を追って確認していきます。
| 確認する要素 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 新規設立法人か | 基準期間がなく、期首資本金又は出資金額が1,000万円未満か |
| 特定要件に該当するか | 他の者により50%超の出資・議決権等で支配されているか |
| 判定対象者は誰か | 支配の基礎となった者と、その特殊関係法人を特定する |
| 判定対象者の規模 | 課税売上高5億円超又は総収入金額50億円超か |
| 免税以外の影響 | 申告、届出、簡易課税、固定資産取得、資金繰りへどう反映するか |
本記事は、シリーズ第2テーマ「納税義務・免税点・課税事業者判定」の4本目として、特定新規設立法人と大規模法人の支配関係を整理するものです。
なお、ここでいう「大規模法人」は、特定新規設立法人の判定で問題となる大規模な事業者を指す、便宜的な呼び方です。法人税の中小企業特例などで使われる「大規模法人」とは意味が異なります。消費税のこの論点では、資本金の規模だけでなく、判定対象者の課税売上高や総収入金額、そして支配関係まで確認する必要があります。
まず結論|資本金1,000万円未満でも、大規模グループ内の新会社は免税にならないことがある
特定新規設立法人に該当するかどうかは、次の順序で見ていきます。
1つ目は、その法人が基準期間のない資本金1,000万円未満の法人であること。
資本金又は出資金額が1,000万円以上であれば、前回の記事で扱った「新設法人」の資本金等による納税義務判定の話になり、特定新規設立法人の入口とは別の整理になります。
2つ目は、その基準期間がない事業年度開始の日において、他の者に支配されていること。
代表的なのは、他の者が新規設立法人の株式又は出資の50%超を、直接又は間接に保有している場合です。特定要件に該当するかどうかは、その基準期間がない事業年度開始の日の現況で判定します。
出典:国税庁|特定新規設立法人の納税義務免除の特例(特定要件の判定)
3つ目は、その支配関係の判定の基礎となった者、又はその者と特殊な関係にある法人のいずれかについて、基準期間相当期間の課税売上高が5億円を超えること。
あるいは、令和6年10月1日以後に開始する課税期間では、国外分を含む売上金額・収入金額その他の収益の額の合計額が50億円を超えることです。
出典:国税庁|No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき
この3つを満たすと、その新規設立法人は特定新規設立法人となり、基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間について、原則として免税事業者にはなりません。
要点をひとことに絞れば、こうなります。
資本金1,000万円未満であっても、大規模事業者又はその特殊関係法人の支配下で設立された新会社は、設立当初から消費税の課税事業者になる可能性がある。
「新設法人」と「新規設立法人」は分けて考える
消費税では、「新設法人」と「新規設立法人」という、よく似た言葉が出てきます。ここを混同すると、判定そのものが崩れてしまいます。
| 用語 | 判定の中心 |
|---|---|
| 新設法人 | 基準期間がなく、期首資本金又は出資金額が1,000万円以上の法人 |
| 新規設立法人 | 基準期間がなく、期首資本金又は出資金額が1,000万円未満の法人 |
| 特定新規設立法人 | 新規設立法人のうち、支配関係と判定対象者の売上規模等の要件を満たす法人 |
前回の記事「2-3. 新設法人の資本金等による納税義務」では、主に資本金又は出資金額が1,000万円以上かどうかを扱いました。
本記事が対象とするのは、その資本金判定だけでは課税事業者にならないはずの、資本金1,000万円未満の新規設立法人です。
ただ、資本金が1,000万円未満であることは、免税を確定させる事実ではありません。特定期間、インボイス登録、課税事業者選択、合併・分割、高額資産取得、そして本記事で扱う特定新規設立法人の判定——これらを一通り確認して、はじめて納税義務の有無を判断できます。
実務でも、新設法人と新規設立法人は用語として区別され、基準期間がない法人のうち、期首資本金1,000万円以上を新設法人、1,000万円未満を新規設立法人として整理しています。
特定新規設立法人の判定フロー
特定新規設立法人の判定は、次の順番で進めると整理しやすくなります。
STEP1 その法人に基準期間がないか
まず、対象となる事業年度について、基準期間があるかどうかを確認します。
通常、新たに設立された法人の設立1期目・2期目には、基準期間がありません。基準期間がないため原則として納税義務は免除されますが、新設法人又は特定新規設立法人に該当する場合には、免除されず、課税事業者として申告が必要になります。
出典:国税庁|No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例
設立3期目以後は、原則として基準期間による判定に移ります。ただし、外国法人の国内事業開始や組織再編などでは別の判定が必要になるため、「3期目だから通常判定だけでよい」とは限りません。
STEP2 期首資本金又は出資金額が1,000万円未満か
次に、その事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額を確認します。
1,000万円以上であれば、新設法人の特例によって納税義務が免除されないかを確認します。1,000万円未満であれば、特定新規設立法人の判定へ進みます。
ここで見るのは、法人税上の「資本金等の額」ではなく、原則として資本金の額又は出資の金額です。資本準備金、借入金、純資産額、払込総額とは切り分けて確認してください。
STEP3 特定要件に該当するか
特定要件とは、平たくいえば、他の者によって新規設立法人が支配されている状態を指します。
代表的なのは、他の者が新規設立法人の発行済株式又は出資の50%超を、直接又は間接に保有する場合です。このほか、他の者と親族等又は完全支配法人などを合わせて50%超を有する場合、一定の議決権の50%超を有する場合、持分会社の社員の過半数を占める場合なども、特定要件として整理されています。
出典:国税庁|特定新規設立法人の納税義務免除の特例(特定要件の判定)
ここで大切なのは、「単独で50%超か」だけを見るのでは足りない、という点です。
たとえば、個人甲が新会社に40%出資し、甲が100%保有するA社が20%出資している場合、甲とA社を合わせると60%になります。このようなケースでは、甲と、甲が完全支配するA社によって50%超を保有されているため、特定要件に該当する可能性があります。
一方で、50%ちょうどは「50%超」ではありません。ただし、議決権や持分会社の社員構成、親族等、完全支配法人を合わせることで50%超になる場合もあるため、単純な出資比率の一覧だけで判定を終わらせるのは避けたいところです。
STEP4 判定対象者を特定する
特定要件に該当したら、次に判定対象者を特定します。
判定対象者となるのは、支配関係の判定の基礎となった他の者と、その者と特殊な関係にある法人です。実務では、ここが最も誤りやすいポイントです。
判定対象者には、直接出資している支配者だけでなく、その支配者が完全支配している法人など、特殊関係法人が含まれることがあります。特定要件の判定の基礎となった者に完全支配されている法人は特殊関係法人に該当し、その法人の課税売上高又は総収入金額によって、特定新規設立法人に該当する場合があります。
出典:国税庁|特定新規設立法人の納税義務免除の特例(特殊関係法人の範囲)
たとえば、A社が新会社X社の株式を50%超保有している場合、A社は判定対象者になります。さらに、A社が100%保有するC社があれば、C社はX社に直接出資していなくても、A社の特殊関係法人として判定対象者に入ることがあります。
この点は、「新会社の株主だけを見ればよい」という発想では取りこぼします。新規設立法人を50%超支配するA社が株主である場合、A社が完全支配するC社は特殊関係法人として判定対象者となり、A社又はC社の基準期間相当期間の課税売上高のいずれかが5億円を超えれば、新会社は特定新規設立法人となる、と整理できます。
反対に、グループ図の上位にいる親会社が常に判定対象者になるとも限りません。誰が「特定要件の判定の基礎となった者」なのか、その者が新規設立法人の株主等なのか、その者とどの法人が特殊関係法人になるのか——ここを条文の構造に沿って確認する必要があります。「最終親会社が大きいから課税」と一足飛びに断定するのは危険です。
STEP5 判定対象者の課税売上高又は総収入金額を確認する
最後に、判定対象者の基準期間相当期間における規模を確認します。現行制度では、少なくとも次のどちらかに該当するかを見ます。
| 判定基準 | 内容 |
|---|---|
| 課税売上高基準 | 判定対象者の基準期間相当期間における国内課税売上高が5億円を超える |
| 総収入金額基準 | 令和6年10月1日以後開始課税期間について、売上金額・収入金額その他の収益の額の合計額が国外分を含め50億円を超える |
令和6年10月1日以後に開始する課税期間からは、国内課税売上高5億円超だけでなく、国外売上や資産譲渡等の対価以外の収入を含む総収入金額50億円超も対象になりました。国内課税売上高だけを見て「5億円以下だから該当しない」と判断すると、国外収入や非課税・不課税の収入が大きい事業者を見落とすおそれがあります。
出典:国税庁|No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例
この改正は、海外売上の大きいグループ、持株会社、投資会社、国外事業収入の大きい法人が関係する新会社では、特に重みを持ちます。
「大規模法人の子会社」だけを見ると判定を誤る
特定新規設立法人の実務で危ないのは、次のような思い込みです。
- 「親会社が大企業かどうかを見ればよい」
- 「新会社の直接株主だけを見ればよい」
- 「国内課税売上高が5億円以下なら関係ない」
- 「資本金1,000万円未満なら2年間免税」
- 「届出書を出していないから免税のまま」
いずれも、判定材料として不十分です。特定新規設立法人の判定では、支配関係の入口と、判定対象者の範囲を、それぞれ分けて考える必要があります。
直接株主だけでは足りない
新会社X社の株主がA社で、A社の課税売上高が5億円以下であっても、A社が100%保有するC社の課税売上高が5億円を超える場合には、C社が特殊関係法人として判定対象者に入る可能性があります。
このとき、C社はX社に出資していないため、株主名簿だけを見ても表には出てきません。必要になるのは、株主名簿ではなく、グループ関係図です。
個人支配でも対象になり得る
特定要件でいう「他の者」は、法人に限られません。個人も含まれます。
個人オーナーが新会社に出資し、その個人が完全支配する既存法人がある場合、その既存法人の課税売上高又は総収入金額が判定に影響することがあります。
オーナー企業グループでは、個人、配偶者、親族、資産管理会社、事業会社、不動産保有会社が複数絡んできます。形式的な直接株主だけでなく、個人を起点にした支配関係を丁寧に整理しておく必要があります。
解散法人も見落としやすい
判定にあたっては、過去に解散した特殊関係法人が問題になることもあります。
新規設立法人の設立日前1年以内、又は新設開始日前1年以内に解散した法人で、その解散日に特殊関係法人に該当していたものは、特殊関係法人とみなされます。その解散法人の基準期間相当期間における課税売上高が5億円を超える場合には、新規設立法人が特定新規設立法人に該当することがあります。解散法人は現在のグループ組織図に表れないため、特に注意が必要です。
「現在のグループ図」だけで判定すると、過去に畳んだ会社を見落としてしまうことがあるのです。
判定対象者の売上は、新会社の売上ではない
特定新規設立法人の判定で確認する5億円又は50億円は、新会社自身の売上ではありません。
新会社には基準期間がないため、そもそも新会社自身の前々期売上は存在しません。ここで見るのは、支配関係の判定対象者の、基準期間相当期間における売上規模です。
この見方を誤ると、次のような判断ミスが起こります。
| 誤った見方 | 正しい見方 |
|---|---|
| 新会社の第1期売上見込みが1,000万円以下だから免税 | 特定新規設立法人では、支配者側の基準期間相当期間の規模を見る |
| 親会社の資本金が小さいから問題ない | 判定対象者の課税売上高5億円超又は総収入金額50億円超を確認する |
| 直接株主の売上だけを見る | 特殊関係法人も判定対象者に入ることがある |
| 国内課税売上高だけを見る | 令和6年10月1日以後開始課税期間では、国外分を含む総収入金額50億円超も確認する |
| 会計ソフトの課税売上高だけを見る | グループ会社ごとの税務上の課税売上高、収入金額、期間対応を確認する |
この制度は、設立会社の実績ではなく、「誰に支配されて設立されたのか」と「その支配側の事業規模はどの程度か」を見る制度なのです。
設立1期目だけでなく、設立2期目も判定する
特定要件に該当するかどうかは、基準期間がない事業年度開始の日の現況で判定します。
したがって、設立1期目だけでなく、設立2期目についても、期首時点の支配関係を確認する必要があります。
たとえば、設立1期目の期首では大規模法人に支配されていなかったものの、期の途中で株式譲渡が行われ、設立2期目の期首には大規模法人に50%超支配されている——このような場合、設立2期目で特定新規設立法人に該当する可能性があります。
反対に、設立1期目で特定新規設立法人に該当したとしても、設立2期目の開始日に支配関係が解消されているなら、2期目の判定を改めて行うことになります。ただし、インボイス登録、課税事業者選択、特定期間、高額資産取得など、別の理由で課税事業者となることもあるため、支配関係だけを見て免税と断じるのは禁物です。
設立2期目は、特定新規設立法人の判定に加えて、特定期間による判定も重なります。設立1期目に特定期間が生じている場合には、特定期間の課税売上高等による納税義務判定も必要になります。
出典:国税庁|No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例
特定新規設立法人に該当した場合の実務影響
特定新規設立法人に該当すると、単に「消費税申告が必要になる」だけでは終わりません。設立初年度から、次のような実務対応が求められます。
| 項目 | 実務上の影響 |
|---|---|
| 申告義務 | 設立1期目から消費税の確定申告が必要になる |
| 請求設計 | 税込・税抜、消費税の転嫁、契約書の価格表示を確認する |
| 会計処理 | 仮受消費税・仮払消費税、税込経理・税抜経理を設計する |
| 仕入税額控除 | インボイス、帳簿、用途区分、証憑保存を整備する |
| 資金繰り | 納付時期、中間申告の可能性、納税資金を見込む |
| 届出 | 特定新規設立法人に該当する旨の届出書を提出する |
| 課税方式 | 原則課税か簡易課税かを検討する |
| 固定資産取得 | 調整対象固定資産、高額特定資産による将来制限を確認する |
| 税務調査対応 | 支配関係、売上判定、届出、申告根拠を説明できるようにする |
消費税は、売上が立ってから慌てて計算する税金ではありません。特定新規設立法人に該当する可能性があるなら、設立前の段階で、価格、契約、請求書、会計処理、資金繰りまで確認しておく必要があります。
届出書は「課税を選ぶ書類」ではなく、該当事実の届出である
特定新規設立法人に該当した場合には、「消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書」を提出します。
提出時期は「事由が生じた場合、速やかに」とされ、提出先は納税地を所轄する税務署長です。
出典:国税庁|D1-11 消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出手続
この届出書は、課税事業者になることを任意に選ぶための書類ではありません。特定新規設立法人の要件を満たせば、法令上、納税義務は免除されません。「届出書を出していないから免税になる」という関係ではないのです。
このあたりは、消費税課税事業者選択届出書と混同しやすいところです。
| 書類 | 役割 |
|---|---|
| 消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書 | 特定新規設立法人に該当した事実を届け出る |
| 消費税課税事業者選択届出書 | 本来免税となる事業者が、課税事業者になることを選択する |
| 消費税簡易課税制度選択届出書 | 納付税額の計算方法として簡易課税を選択する |
| 適格請求書発行事業者の登録申請 | インボイス発行事業者として登録を受ける |
届出書の提出漏れは、税額そのものの誤りだけにとどまりません。申告漏れや無申告、取引先への説明不足、税理士との責任範囲の不明確化にもつながっていきます。
特定新規設立法人でも、簡易課税を検討できる場合がある
特定新規設立法人に該当して課税事業者になる場合でも、常に原則課税しか選べないわけではありません。
特定新規設立法人の判定は、判定対象者の課税売上高又は総収入金額を使って、納税義務を免除するかどうかを判断する制度です。判定対象者の課税売上高を、新会社自身の基準期間の課税売上高とみなす制度ではありません。
そのため、特定新規設立法人に該当して納税義務が免除されない場合でも、新会社自身には基準期間がないことから、一定の場合には簡易課税制度を選択できる余地があります。特定新規設立法人に該当して納税義務が免除されない場合であっても、その法人には基準期間がないため、簡易課税制度を適用できる、というのが実務上の整理です。ただし、調整対象固定資産又は高額特定資産の取得等がある場合には、簡易課税制度の適用が制限されることがあります。
もっとも、「簡易課税が使える可能性がある」ことと、「簡易課税を選ぶべき」ことは、別の話です。
設立初期に設備投資、システム投資、内装工事、在庫仕入れ、不動産取得などがある場合、原則課税であれば仕入税額控除によって納付額が減り、場合によっては還付が生じることもあります。一方、簡易課税を選ぶと、実際の仕入税額ではなく、売上税額にみなし仕入率を乗じて計算するため、初期投資の消費税負担が十分に反映されないことがあります。
また、新設法人及び特定新規設立法人が、基準期間がない各課税期間中に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行い、その課税期間の確定申告を一般課税で行う場合には、一定期間は免税事業者となることができず、簡易課税制度選択届出書を提出することもできません。
出典:国税庁|No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例
こうした事情から、特定新規設立法人では、少なくとも次の比較が欠かせません。
| 検討項目 | 原則課税で確認すること | 簡易課税で確認すること |
|---|---|---|
| 初期投資 | 仕入税額控除・還付可能性 | 実際の仕入税額は使えない |
| 仕入構造 | インボイス・用途区分・証憑保存が重要 | 仕入インボイスの税額計算上の影響は限定的 |
| 事務負担 | 税区分、用途区分、課税売上割合の管理が必要 | 事業区分の判定と区分記帳が必要 |
| 将来投資 | 固定資産調整や高額特定資産を確認 | 選択後の拘束・不適用時期を確認 |
| 資金繰り | 還付又は納付額減少の可能性 | 納付額が読みやすい場合がある |
課税方式の選択は、単年度の有利・不利だけでは決められません。設備投資計画、グループ内取引、取引先のインボイス要請、事務負担、将来の免税復帰制限まで含めて判断する必要があります。
インボイス登録との関係
特定新規設立法人に該当しない場合でも、適格請求書発行事業者、いわゆるインボイス発行事業者として登録を受けると、免税点制度の適用関係が変わります。
適格請求書発行事業者は、基準期間における課税売上高や、基準期間がない法人の納税義務の免除の特例の適用の有無にかかわらず、納税義務は免除されません。
出典:国税庁|No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例
大規模法人グループ内の新会社では、設立当初からBtoB取引を行い、取引先又はグループ会社からインボイス登録を求められることがあります。
このとき、特定新規設立法人として課税事業者になるのか、インボイス登録によって課税事業者になるのか、課税事業者選択届出書が必要なのか、簡易課税を選ぶのか——これらを切り分けて確認する必要があります。
「どうせ課税事業者になるから同じ」ではありません。課税事業者となる根拠が違えば、届出、登録、経過措置、方式選択、将来の免税復帰の整理も、それぞれ変わってきます。
グループ内新会社で特に確認すべき資料
特定新規設立法人の判定では、法律上の要件、実際の支配関係、保存すべき証拠を、それぞれ分けて整理しておくと見通しがよくなります。
1. 法律上の要件を確認する資料
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 定款 | 事業年度、株式・持分、議決権、種類株式の有無 |
| 履歴事項全部証明書 | 設立日、資本金、役員、目的 |
| 株主名簿・出資者名簿 | 直接株主、出資比率 |
| 出資契約・株主間契約 | 実質的な議決権、拒否権、支配条項 |
| 種類株式の内容 | 議決権、配当、残余財産分配、役員選任権 |
| 持分会社の定款 | 業務執行社員、社員構成、議決権類似の権限 |
| グループ組織図 | 直接・間接支配、完全支配法人、兄弟会社 |
| 親族関係資料 | 個人支配の場合の親族等の範囲 |
2. 判定対象者の規模を確認する資料
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 判定対象者の消費税申告書 | 課税売上高、課税売上割合、申告方式 |
| 法人税申告書・決算書 | 売上高、営業外収益、特別利益等 |
| 総勘定元帳 | 収益科目の内訳 |
| 国外子会社・海外支店資料 | 国外収入、海外売上、ロイヤルティ等 |
| グループ内取引明細 | 収益の重複、相殺、純額処理の有無 |
| 解散法人資料 | 過去1年以内の解散法人と特殊関係法人該当性 |
| 事業年度資料 | 基準期間相当期間の期間対応 |
3. 申告・運用に反映する資料
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書 | 提出要否、提出日、控え |
| 課税事業者選択届出書 | 別途選択があるか |
| 簡易課税制度選択届出書 | 選択要否、提出期限 |
| インボイス登録通知 | 登録日、登録番号、取引先通知 |
| 請求書ひな型 | 税率、登録番号、税抜・税込表示 |
| 会計マスター | 税区分、取引先区分、インボイス区分 |
| 資金繰り表 | 消費税納付資金、中間申告の可能性 |
| 固定資産取得計画 | 調整対象固定資産、高額特定資産の確認 |
消費税の納税義務判定は、申告書だけを眺めても見えてきません。支配関係、契約、登記、株主名簿、過去の解散法人、グループ会社の売上資料まで、一体で確認してはじめて判断できるものです。
税務調査では、支配関係と判定過程を説明できるかが問われる
税務調査で問われるのは、「資本金1,000万円未満だったか」だけではありません。特定新規設立法人では、次のような点が確認されます。
- 設立1期目・2期目に基準期間があったか
- 期首資本金又は出資金額が1,000万円未満だったか
- 特定要件に該当する支配関係があったか
- 直接株主だけでなく、親族等・完全支配法人を確認したか
- 判定対象者をどのように特定したか
- 判定対象者の基準期間相当期間をどのように計算したか
- 課税売上高5億円超の有無をどう確認したか
- 総収入金額50億円超の有無をどう確認したか
- 解散法人を確認したか
- 届出書を提出したか
- 課税方式の選択をどう判断したか
- インボイス登録と納税義務判定を混同していないか
- 調整対象固定資産や高額特定資産の取得を確認したか
ここで必要になるのは、単なる結論ではなく、判断過程の記録です。
- 「親会社から課税事業者と聞いていた」
- 「設立時の税理士がそう判断した」
- 「グループ会社なので課税だと思った」
- 「資本金が1,000万円未満なので免税だと思った」
こうした言い分は、第三者への説明としては十分とはいえません。後から説明できるように、判定メモとして、次の事項を残しておきたいところです。
| 判定メモの項目 | 記載すべき内容 |
|---|---|
| 対象法人 | 法人名、設立日、事業年度、資本金 |
| 判定対象課税期間 | 設立1期目、2期目、課税期間短縮の有無 |
| 支配関係 | 直接・間接出資、議決権、親族等、完全支配法人 |
| 特定要件 | 該当する要件と根拠資料 |
| 判定対象者 | 誰を判定対象者としたか、除外した者があれば理由 |
| 売上規模判定 | 課税売上高5億円超、総収入金額50億円超の有無 |
| 結論 | 特定新規設立法人該当性、納税義務の有無 |
| 届出 | 提出した届出書、提出日、控え保存場所 |
| 課税方式 | 原則課税・簡易課税の判断理由 |
| 再確認時期 | 2期目、株式異動時、組織再編時の再判定予定 |
特定新規設立法人は、法令上の要件が複雑なだけでなく、事実確認そのものも入り組んでいます。属人的な判断に委ねず、設立の時点でチェックリストとして整えておくことが、税務調査への備えと社内統制の両面で効いてきます。
実務上の典型的な判断ミス
1. 資本金1,000万円未満だけで免税と判断する
最も多い誤りです。資本金が1,000万円未満であっても、特定新規設立法人、特定期間、インボイス登録、課税事業者選択などによって、課税事業者になることがあります。
2. 直接株主の売上高だけを見る
直接株主の課税売上高が5億円以下でも、その株主が完全支配する法人が5億円超、又は総収入50億円超であれば、判定に影響することがあります。
3. 親族・資産管理会社を見落とす
個人オーナー企業では、本人、配偶者、親族、資産管理会社、事業会社が分散して出資することがあります。形式上は誰も50%超を持っていなくても、親族等や完全支配法人を合わせると特定要件に該当する場合があります。
4. 50億円総収入基準を見落とす
令和6年10月1日以後開始課税期間では、国内課税売上高だけでは足りません。国外売上、非課税収入、営業外収益、資産譲渡収入などを含む総収入金額が50億円を超えるかを確認する必要があります。持株会社、投資法人、海外売上比率が高い会社では特に注意が必要です。
5. 届出書を選択手続と誤解する
特定新規設立法人に該当する旨の届出書は、該当事実の届出です。「届出を出さなければ課税事業者にならない」というものではありません。
6. 設立2期目の再判定を忘れる
支配関係は、基準期間がない事業年度開始の日の現況で判定します。設立1期目の判定で終わらせず、設立2期目の期首でも改めて確認する必要があります。
7. 設立後の株式異動を税務に連携していない
資本政策、グループ再編、持株会社化、M&A、ストックオプション、種類株式発行などは、消費税の納税義務判定に影響する可能性があります。法務・経営企画・経理が分断されていると、税務判定が後手に回ってしまいます。
特定新規設立法人の判定は、設立前に行うべき経営判断である
この論点は、申告のときに初めて確認するものではありません。
大規模法人グループが新会社を設立する場合、設立前の段階で、次の判断が必要になります。
| 設立前の検討事項 | 経営上の意味 |
|---|---|
| 資本政策 | 直接出資、間接出資、共同出資、個人出資の組み方 |
| 消費税の納税義務 | 設立初年度から課税事業者になるか |
| 価格設定 | 消費税を転嫁できる契約・請求設計になっているか |
| インボイス登録 | 取引先が仕入税額控除を受けるため登録が必要か |
| 課税方式 | 原則課税・簡易課税のどちらが合理的か |
| 初期投資 | 還付可能性、固定資産調整、免税復帰制限 |
| 資金繰り | 消費税納付時期と運転資金 |
| 証憑・会計処理 | 請求書、帳簿、税区分、電子保存 |
| グループ内取引 | 役務提供、立替、出向、ライセンス、資産移転の税区分 |
| 将来再編 | 合併、分割、持株会社化、事業譲渡時の影響 |
「免税にしたいから資本金を1,000万円未満にする」という発想だけでは、判断としては足りません。
資本金を低く抑えても、支配関係と判定対象者の売上規模によっては、特定新規設立法人になります。逆に、課税事業者になることが避けられないのであれば、インボイス登録、原則課税・簡易課税、初期投資、還付、資金繰りを前提に設計したほうが、結果として合理的な場合もあります。
消費税の納税義務判定は、設立手続の一部ではなく、事業設計の一部なのです。
本記事で扱わない論点
本記事は、特定新規設立法人と大規模法人等の支配関係を中心に扱っています。次の論点については、別記事で整理します。
| 論点 | 主な整理先 |
|---|---|
| 基準期間による通常の納税義務判定 | 2-1 |
| 特定期間による設立2期目の判定 | 2-2 |
| 資本金1,000万円以上の新設法人 | 2-3 |
| 合併があった場合の納税義務 | 2-6 |
| 会社分割があった場合の納税義務 | 2-7 |
| 法人成り・個人成り | 2-8 |
| 高額資産取得後の免税復帰制限 | 2-9 |
| インボイス登録と課税事業者選択 | 2-10 |
| 簡易課税・方式選択 | 第11テーマ |
とりわけ、グループ内で新会社を設立する場合には、特定新規設立法人の判定だけでなく、合併・分割、事業譲渡、役務提供、出向、立替、インボイス、固定資産取得が同時に絡んでくることがあります。対象となる論点を切り分けながら確認していくことが大切です。
まとめ|特定新規設立法人は「資本金」ではなく「支配関係」と「判定対象者」で決まる
特定新規設立法人の判定で押さえておきたいのは、次の点です。
資本金1,000万円未満で設立した法人でも、基準期間がない事業年度開始の日において、他の者により50%超の出資・議決権等で支配されている場合には、特定要件に該当する可能性があります。
さらに、その支配関係の判定の基礎となった者、又はその特殊関係法人のうち、いずれかの判定対象者について、基準期間相当期間の課税売上高が5億円を超える場合、あるいは令和6年10月1日以後開始課税期間では国外分を含む総収入金額が50億円を超える場合には、特定新規設立法人として納税義務が免除されないことがあります。
判定で見るべきは、新会社自身の売上ではありません。誰が新会社を支配しているのか、その支配者と特殊関係にある法人は誰か、その判定対象者の売上規模はどうか——ここが焦点になります。
ですから、グループ内新会社の消費税判定では、設立登記、株主名簿、グループ組織図、親族関係、議決権、種類株式、過去の解散法人、そして判定対象者の申告書・決算書まで確認する必要があります。
そして、この判定を設立後の申告時に行うのでは、間に合わない場合があります。設立前の段階で、納税義務、インボイス登録、課税方式、初期投資、資金繰り、請求業務、証憑保存を一体で検討しておくこと。それが、消費税実務を経営管理の一部として扱ううえで欠かせません。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
大規模法人グループ内で新会社を設立する場面では、資本金1,000万円未満かどうかだけで、消費税の納税義務を判断することはできません。
直接株主、親族等、完全支配法人、兄弟会社、過去の解散法人、国外売上、総収入金額、インボイス登録、簡易課税、固定資産取得——ここまで確認しておかなければ、設立初年度からの申告義務、納税資金、取引先対応に影響が及びます。
当事務所では、特定新規設立法人の該当性を、資本関係図、株主構成、グループ会社の売上資料、設立後の契約・請求・会計処理まで含めて整理いたします。
「グループ内の新会社が消費税の免税事業者になれるか確認したい」「資本金1,000万円未満で設立するが、大規模法人の出資がある」「設立前に、インボイス登録、課税方式、設備投資まで含めて判断したい」——このようなお悩みがございましたら、当事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
重要事項の振り返り
| 項目 | 重要ポイント |
|---|---|
| 対象法人 | 基準期間がなく、期首資本金又は出資金額が1,000万円未満の法人 |
| 新設法人との違い | 資本金1,000万円以上は新設法人、1,000万円未満は新規設立法人として別判定 |
| 特定要件 | 他の者により50%超の出資・議決権等で支配される場合など |
| 判定時点 | 基準期間がない事業年度開始の日の現況で判定 |
| 判定対象者 | 特定要件の判定の基礎となった者と、その特殊関係法人 |
| 特殊関係法人 | 支配者が完全支配する法人などが含まれることがある |
| 売上基準 | 判定対象者の基準期間相当期間の課税売上高が5億円超 |
| 総収入基準 | 令和6年10月1日以後開始課税期間では、国外分を含む総収入金額50億円超も確認 |
| 新会社自身の売上 | 新会社の売上見込みではなく、判定対象者の規模を見る |
| 設立2期目 | 1期目だけでなく、2期目開始日の支配関係も再確認する |
| 届出 | 該当した場合は「消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書」を速やかに提出 |
| 簡易課税 | 適用できる場合があるが、初期投資・固定資産取得・届出制限に注意 |
| インボイス | 登録事業者は免税点制度にかかわらず納税義務が免除されない |
| 税務調査対応 | 支配関係、判定対象者、売上判定、届出、課税方式の判断メモを保存する |
| 設立前検討 | 資本政策、請求設計、会計処理、納税資金、証憑保存を一体で確認する |