決算書と法人税申告書の関係|会計利益と課税所得が一致しない理由

決算書では利益が出ているのに、思ったほど法人税が発生しない。反対に、会計上は赤字に近いのに、法人税の納付は生じている。あるいは、税務申告書を開くと「加算」「減算」「留保」「社外流出」といった言葉が並んでいて、決算書とのつながりがどうにも見えてこない。

法人税申告書を初めて本格的に確認する経営者や経理責任者の方が、最初につまずきやすいのが、まさにこの部分です。

法人税申告書は、決算書とは無関係に作られるものではありません。その出発点は、あくまで会社の決算書です。とはいえ、決算書に表示された会計上の利益が、そのまま法人税の課税対象になるわけでもありません。

法人税申告では、決算書上の利益を出発点に置きながら、法人税法上の益金・損金の考え方に合わせて調整を加え、課税所得を計算していきます。この調整の中心にあるのが、別表四と別表五(一)です。

本記事では、決算書と法人税申告書の関係を、会計利益と課税所得の違い、益金・損金、加算・減算、留保・社外流出、そして別表四と別表五(一)のつながりから整理していきます。税効果会計の詳細には立ち入りませんが、後の論点を理解するために必要な位置づけについては、あわせて確認しておきます。

目次

まず押さえたい結論:法人税申告書は「決算書を税務上読み替える資料」である

法人税申告書は、決算書の数字をそのまま書き写したものではありません。

決算書は、会社の一定期間の経営成績や財政状態を示す資料です。損益計算書には、売上、売上原価、販売費及び一般管理費、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益などが並びます。貸借対照表には、資産、負債、純資産の状態が表示されます。

これに対して法人税申告書は、法人税法に基づき、各事業年度の所得金額と税額を計算するための資料です。

法人税法上、内国法人の各事業年度の所得金額は、益金の額から損金の額を控除して計算されます。そして、益金の額に算入すべき収益の額、損金の額に算入すべき原価・費用・損失の額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとされています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法

つまり、法人税の所得計算は、会計を出発点にしています。ただし、法人税法に「別段の定め」がある場合には、会計処理とは異なる税務上の取扱いが優先されます。

この関係を一言でまとめると、次のようになります。

決算書は、会社の利益を会計上表す資料であり、法人税申告書は、その利益を税務上の所得に組み替える資料です。

この理解がないままだと、「利益が出ているのに税金が少ない」「赤字なのに納税がある」「費用処理したのに、なぜ損金にならないのか」といった疑問を、うまく整理できません。

会計上の利益と法人税法上の所得は、そもそも目的が違う

会計上の利益と法人税法上の所得が一致しない最大の理由は、両者の目的が異なるところにあります。

会計は、経営者、金融機関、株主、取引先、後継者、投資家といった相手に対して、会社の経営成績や財政状態を適切に示すことを重視します。収益と費用を適切な期間に対応させ、会社の実態を数字で表すことが目的です。

一方、法人税は、法律に基づき、課税の公平性や税負担の適正性を確保するために課税所得を計算します。ですから、会計上は費用として妥当であっても、税務上は損金算入が制限されることがあります。逆に、政策的な理由から、税額控除や特別償却のような税務上の優遇措置が設けられていることもあります。

たとえば、次のような違いが生じます。

  • 会計上は費用でも、法人税法上は損金にならないものがあります。
  • 会計上は収益でも、法人税法上は益金にならないものがあります。
  • 会計上の費用計上時期と、税務上の損金算入時期がずれるものがあります。
  • 会計上は資産評価や見積りを反映しても、税務上は損金算入要件を満たすまで認められないものがあります。
  • 政策的な理由から、税額控除や特別償却が認められるものがあります。

こうした事情があるため、会計上の利益と法人税法上の所得は、同じ会社の同じ事業年度を対象としていても、必ずしも一致しません。

決算書から法人税申告書への基本的な流れ

決算書と法人税申告書の関係は、次のような流れで眺めると整理しやすくなります。

段階内容主な書類
1会計上の決算を確定する決算書、総勘定元帳、勘定科目内訳
2当期純利益又は当期欠損を確認する損益計算書
3会計と税務の差を加算・減算する別表四
4課税所得又は欠損金を計算する別表四、別表七
5税額を計算する別表一、別表六等
6翌期以降に影響する税務調整を管理する別表五(一)
7納付税額、地方税、申告後管理へつなげる別表五(二)、地方税申告書等

この流れの中で、決算書と法人税申告書をつなぐ中心的な役割を担うのが、別表四です。

別表四は、損益計算書上の当期利益又は当期欠損を出発点に置き、法人税法上の加算・減算を行って、所得金額又は欠損金額を計算する明細書です。

そして、別表四で調整した項目のうち、翌期以降へ引き継ぐものを管理するのが、別表五(一)です。

この二つの別表が見えてくると、法人税申告書は「税額だけを計算する書類」ではなく、「会計と税務の差異を管理する書類」でもあることが分かってきます。

益金と収益、損金と費用は同じではない

法人税申告を理解するうえで、最初に整理しておきたいのが「益金」と「損金」という言葉です。

会計では、売上高、受取利息、雑収入などを収益として処理します。仕入、給与、地代家賃、広告宣伝費、減価償却費などは費用として処理します。

一方、法人税では、課税所得を計算するために、益金と損金という概念を使います。

  • 益金は、法人税法上、所得計算においてプラスされる、収入・利益に近い概念です。
  • 損金は、法人税法上、所得計算においてマイナスされる、原価・費用・損失に近い概念です。

ただし、会計上の収益がすべて益金になるわけではありません。会計上の費用がすべて損金になるわけでもありません。

たとえば、会計上費用として処理した交際費の一部、寄附金の一部、役員給与の一部、法人税・住民税、加算税・延滞税、一定の評価損などは、税務上、損金算入が制限されることがあります。

反対に、会計上収益として処理した受取配当等について、一定の要件を満たす場合には、法人税法上、益金不算入となる部分があります。

このように、会計上の収益・費用と、税務上の益金・損金の差を調整していくことが、法人税申告の基本になります。

別表四は「会計利益を課税所得に変換する表」

別表四は、決算書と法人税申告書をつなぐ、最も重要な別表です。

損益計算書で計算された当期純利益又は当期欠損の額を出発点として、税務上加算すべきものを加算し、減算すべきものを減算します。その結果として、法人税法上の所得金額又は欠損金額が計算されます。

国税庁の申告書作成上の留意点でも、別表四では損益計算書の当期純利益又は当期純損失の金額を確認すること、そして加算項目や減算項目、留保・社外流出の記載に注意することが示されています。
出典:国税庁|申告書作成上の留意点

別表四の見方を、あえて単純化すると次のようになります。

別表四の流れ意味
当期利益又は当期欠損決算書上の利益又は損失
加算会計上は利益を減らしているが、税務上は損金にしないもの等
減算会計上は利益を増やしているが、税務上は益金にしないもの等
所得金額又は欠損金額法人税法上の課税所得又は欠損金

ここで気をつけたいのは、加算とは「悪い処理」という意味ではない、という点です。

会計上は適切な費用であっても、税法上の要件を満たさないために損金にならない場合があります。減算のほうも「節税処理」という意味ではなく、税法上、益金不算入や損金算入が認められる項目を反映しているにすぎません。

別表四は、会計処理の善し悪しを評価する表ではなく、会計上の利益と法人税法上の所得の差を整理する表なのです。

加算とは何か

加算とは、会計上の利益に足し戻す税務調整です。

典型的には、会計上は費用として処理されているものの、法人税法上は損金に算入できないものが、ここで加算されます。

たとえば、次のような項目です。

加算項目の例なぜ加算するのか
損金不算入となる役員給与法人税法上の損金算入要件を満たさないため
交際費等の損金不算入額損金算入に制限があるため
寄附金の損金不算入額損金算入限度額を超える部分があるため
法人税・住民税法人税法上、損金に算入されないため
加算税・延滞税・罰科金等税務上、損金算入が制限されるため
減価償却超過額税務上の償却限度額を超えているため
一定の評価損・減損損失税務上の損金算入要件を満たさないため
貸倒引当金の繰入超過額税務上の損金算入限度を超えるため

たとえば、会社が会計上100万円の費用を計上していても、法人税法上その100万円が損金として認められなければ、別表四で100万円を加算します。その結果、会計上の利益よりも課税所得が増えることになります。

ここで経営者の方に注意していただきたいのは、会計上の費用計上と税務上の損金算入は、別の判断だということです。

「会社のために使った支出だから、当然損金になるはず」と考えるだけでは足りません。事業関連性、金額の相当性、支出先、契約内容、社内承認、証憑、そして法人税法上の個別規制まで、あわせて確認していく必要があります。

減算とは何か

減算とは、会計上の利益から差し引く税務調整です。

典型的には、会計上は収益として処理されているが法人税法上は益金に算入しないもの、あるいは会計上は費用にしていないが税務上は損金に算入できるものが、ここで減算されます。

代表的なものを挙げると、次のとおりです。

減算項目の例なぜ減算するのか
受取配当等の益金不算入額一定の配当について、二重課税調整等の趣旨から益金不算入が認められるため
還付事業税等過年度に損金算入された事業税との対応を調整するため
減価償却超過額の認容過年度に加算した償却超過額が当期に税務上認容されるため
引当金・評価損否認額の戻入・認容過年度に加算した項目が、後に税務上損金となるため
欠損金の当期控除額青色欠損金等を当期所得から控除するため

減算もまた、単純に「税金を減らすための操作」ではありません。税法上、当期の課税所得から控除すべき理由があるものを、別表四で反映しているにすぎません。

特に、過年度に加算した項目が当期に減算される場合には、別表五(一)で過年度から引き継がれている留保項目との整合性が重要になってきます。

留保と社外流出の違い

別表四には、「総額」「留保」「社外流出」という欄があります。

ここが、法人税申告書を読みにくくしている大きな原因のひとつです。とはいえ、考え方そのものは、それほど複雑ではありません。

留保とは

留保とは、会計と税務の差が会社内部に残り、翌期以降に解消する可能性があるものをいいます。

たとえば、減価償却超過額を考えてみます。

会計上は減価償却費を100万円計上したものの、税務上の償却限度額が80万円だった場合、差額の20万円は当期の損金になりません。この20万円は、別表四で加算されます。

ただし、この20万円が永久に損金にならないとは限りません。翌期以降、税務上の償却限度額の範囲で認容される可能性があるからです。このように、将来解消する可能性のある差異は、留保として管理されます。

実務上、会計上の収益又は費用と法人税法上の益金又は損金の帰属年度が相違する調整項目は、別表四の留保欄に記載され、別表五(一)へ転記される形で管理されていきます。

社外流出とは

社外流出とは、会社内部に、将来解消すべき差異として残らないものをいいます。

典型的には、配当、損金不算入の交際費、損金不算入の寄附金、罰科金など、将来の事業年度で損金として認容されることが予定されていないものです。

国税庁の別表四の記載要領でも、留保されている金額は「留保」に、社外に流出している金額は「社外流出」に記載することが示されています。
出典:国税庁|申告書作成上の留意点

この違いが分かると、法人税申告書を見る視点が変わってきます。

当期の税額だけを見るのではなく、「この税務調整は将来戻るのか」「翌期以降に管理すべきものか」「それとも永久に差異として残るものか」を確認することが必要になるからです。

別表五(一)は「税務上の純資産を管理する表」

別表五(一)は、決算書と法人税申告書の関係を理解するうえで、たいへん重要な別表です。

別表五(一)は、利益積立金額と資本金等の額を管理する明細書です。かみ砕いていえば、会計上の純資産とは別に、法人税法上の純資産に関する管理を行う表だといえます。

別表四が「当期の会計利益を課税所得に変換する表」だとすれば、別表五(一)は「その変換によって生じた税務上の差異を、翌期へ引き継ぐ表」です。

特に、別表四で留保として処理した項目は、別表五(一)で翌期以降に管理されていきます。

この関係を整理すると、次のようになります。

項目別表四での役割別表五(一)での役割
当期の税務調整加算・減算により課税所得を計算する留保項目を翌期へ引き継ぐ
減価償却超過額当期に損金にならない部分を加算する将来認容されるまで管理する
評価損否認当期に損金にならない評価損を加算する将来の処分・実現時まで管理する
引当金否認税務上未確定の費用を加算する実際の支出・要件充足時まで管理する
資本等取引所得計算に影響しない場合がある資本金等の額、利益積立金額を管理する

ですから、法人税申告書を確認するときに、別表一の税額だけを見ていては十分ではありません。

別表五(一)にどのような項目が残っているかを見ることで、翌期以降に戻る税務調整、将来の課税所得に影響する項目、そして資本政策や組織再編に影響する項目まで把握できるようになります。

会計利益と課税所得がずれる代表的なパターン

会計利益と課税所得の差は、多くの場合、次の五つのパターンに整理できます。

1. 会計上は費用だが、税務上は損金にならない

もっとも分かりやすいのが、損金不算入項目です。

たとえば、役員給与のうち法人税法上の要件を満たさないもの、交際費等の損金不算入額、寄附金の損金不算入額、法人税・住民税、加算税・延滞税、一定の罰科金などが該当します。

この場合、会計上は利益を減らしていますが、税務上は損金にならないため、別表四で加算します。

経営判断上の注意点は、支出した時点で資金は出ているにもかかわらず、税務上は所得を減らせないことです。つまり、資金の流出と税負担の軽減が一致しません。

2. 会計上は収益だが、税務上は益金にならない

代表例は、受取配当等の益金不算入です。

会計上は受取配当金として収益計上されますが、税務上は一定の要件に基づき、益金不算入となる部分があります。この場合、別表四で減算します。

このような項目は、会計上の利益より課税所得を小さくする方向に働きます。ただし、適用要件や保有割合、関連法人株式等の区分、負債利子控除などの確認が必要になる場合があります。

3. 会計上と税務上で、収益・費用の時期がずれる

会計上の費用計上時期と、税務上の損金算入時期がずれる場合があります。

たとえば、減価償却超過額、貸倒引当金、賞与引当金、退職給付引当金、棚卸資産評価損、固定資産減損損失などです。

この場合、当期の課税所得は会計利益と異なりますが、将来の事業年度で差異が解消する可能性があります。このような項目は、留保として別表五(一)に引き継がれることが多く、税効果会計上も一時差異の検討対象になります。

4. 税務上の政策的な制度により、税額が変わる

税額控除、特別償却、欠損金控除などは、会計利益と税負担の関係を大きく変えることがあります。

たとえば、会計上は利益が出ていても、過年度からの欠損金があれば課税所得が圧縮されることがあります。賃上げ促進税制や研究開発税制、設備投資税制などの税額控除が適用できれば、課税所得ではなく税額そのものが減少することもあります。

ただし、優遇税制では、要件、添付書類、保存書類、申告書記載、当初申告要件、控除限度額などが重要になります。決算書の利益だけを見て判断するのではなく、申告書上どの制度を適用しているのかを確認する必要があります。

5. 資本取引・組織再編・グループ取引により、損益計算書だけでは分からない差が生じる

自己株式、減資、資本剰余金の配当、合併、分割、現物出資、グループ内資産移転などは、損益計算書だけを見ても、税務上の影響が読み取りにくい領域です。

会計上は資本剰余金やその他資本剰余金で処理されるものでも、法人税法上は資本金等の額や利益積立金額の調整が必要となることがあります。これらは別表五(一)で管理され、将来のみなし配当、株主課税、組織再編、清算、M&A、事業承継に影響することがあります。

資本等取引は、当期の税額に直ちに表れないこともあります。しかし、将来の資本政策や株主課税に大きな影響を残すため、決算書と法人税申告書の両方から確認しておくべき領域です。

税効果会計との関係

本記事では税効果会計の詳細には立ち入りませんが、決算書と法人税申告書の関係を理解するうえで、その位置づけだけは押さえておく必要があります。

税効果会計は、会計上の資産・負債の金額と、課税所得計算上の資産・負債の金額に差異がある場合に、法人税等の額を適切な会計期間に配分し、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させるための会計処理です。税効果会計基準では資産負債法が採用され、一時差異に係る税金の額を適切な会計期間に配分する考え方が示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計審議会 税効果会計に係る会計基準

また、回収可能性適用指針では、一時差異とは貸借対照表に計上されている資産・負債の金額と課税所得計算上の資産・負債の金額との差額であるとされ、将来減算一時差異、将来加算一時差異、スケジューリング不能な一時差異などの定義が示されています。
出典:企業会計基準委員会|繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

税効果会計で重要なのは、法人税申告書上の税額と、損益計算書に表示される法人税等の金額が、必ずしも同じ意味を持たない、という点です。

法人税申告書は、当期の課税所得と納付税額を計算します。これに対して税効果会計は、会計上の利益に対応する税金費用を表示するために、将来の税金影響を繰延税金資産・繰延税金負債として認識します。

たとえば、会計上は費用にしたが当期の税務上は損金にならない項目でも、将来損金になる可能性が高いものは、一時差異として税効果会計の対象になります。一方、交際費等の損金不算入額や受取配当金の益金不算入額のように、将来において差異が解消しないものは、永久差異として税効果会計の対象にはなりません。

したがって、決算書を見るときは、法人税等、法人税等調整額、繰延税金資産、繰延税金負債の意味を、法人税申告書上の課税所得や納付税額とは分けて理解しておく必要があります。

「赤字なのに法人税が発生する」理由

実務上、よくいただく疑問のひとつが、「赤字なのに法人税が発生するのはなぜか」というものです。

理由はいくつかあります。

まず、会計上は赤字でも、税務上の加算項目が大きければ、課税所得が発生することがあります。役員給与の損金不算入、交際費の損金不算入、寄附金の損金不算入、評価損の否認、減価償却超過などが重なると、会計上の赤字が税務上は黒字に変わることがあるのです。

次に、法人住民税の均等割のように、所得がなくても発生する税金があります。これは法人税の課税所得とは別に、法人の存在や事業所の所在に基づいて課される性格を持つため、赤字でも納付が必要になる場合があります。

さらに、過年度の申告内容、地方税、外形標準課税、グループ通算制度、国際最低課税額に関する処理など、会社の規模や制度の適用状況によっても、税負担の見え方は変わってきます。

「赤字なのに税金がある」という状態は、必ずしも誤りではありません。ただし、その理由を説明できないとすれば、それは問題です。別表四の加算項目、地方税の均等割、税務上の損金不算入項目を、あらためて確認する必要があります。

「黒字なのに法人税が少ない」理由

反対に、会計上は黒字なのに法人税が少ない、というケースもあります。

この場合、次のような要因が考えられます。

  • 過年度の青色欠損金を控除している。
  • 受取配当等の益金不算入がある。
  • 税額控除を適用している。
  • 特別償却や圧縮記帳など、税務上の特例を適用している。
  • 会計上の収益と税務上の益金の時期が異なる。
  • グループ通算制度により損益通算が行われている。

こうした場合も、税額が少ないこと自体が問題なのではありません。重要なのは、その理由を申告書上で説明できるかどうかです。

税負担が少ない理由が、適用要件を満たした制度利用によるものなのか、単なる処理誤りなのか、それとも資料が足りないまま適用しているのか。それによって、将来のリスクは大きく変わってきます。

決算書だけでは見えない法人税務上のリスク

決算書は、会社の経営状態を把握するために重要です。しかし、法人税務上のリスクは、決算書だけでは十分に見えないことがあります。

たとえば、損益計算書に交際費が計上されていても、そのうち税務上損金不算入となる金額は、申告書を見なければ分かりません。貸借対照表に固定資産が計上されていても、税務上の償却超過額や取得価額の調整は、別表十六や別表五(一)を確認する必要があります。役員借入金や株主との取引が貸借対照表に残っていても、それが将来の債務免除益、DES、みなし贈与、株価評価にどう影響するかは、申告書と株主資料を合わせて確認しなければ判断できません。

特に、次のような項目は、決算書と申告書をセットで確認しておくべきです。

  • 役員給与、役員退職金。
  • 交際費、寄附金、福利厚生費、広告宣伝費。
  • 棚卸資産、評価損、廃棄損。
  • 固定資産、減価償却、修繕費、資本的支出。
  • 貸倒損失、貸倒引当金、債権放棄。
  • 税額控除、特別償却、欠損金。
  • 関係会社取引、グループ内貸付、出向負担金。
  • 自己株式、減資、資本剰余金、みなし配当。
  • 組織再編、M&A、事業承継、清算。
  • 海外取引、外国税額控除、移転価格、外国子会社合算税制。

これらは、単年度の税額だけでなく、将来の資金調達、金融機関への説明、税務調査、株価評価、M&Aのデューデリジェンス、事業承継にも影響してきます。

法人税申告書を読むときの実務的な順番

法人税申告書に慣れていないうちは、最初からすべての別表を読み込もうとすると混乱してしまいます。まずは、次の順番で確認していくと整理しやすくなります。

1. 損益計算書の当期純利益を確認する

はじめに、決算書上の当期純利益又は当期純損失を確認します。

この金額が、別表四の出発点と整合しているかを確かめます。ここが一致していなければ、申告書と決算書の接続が崩れているということです。

2. 別表四の加算項目を見る

次に、別表四の加算項目を確認します。

特に、金額が大きいもの、前年から増減しているもの、役員・株主・関係会社が関与するもの、税務調査で説明を求められやすいものに目を向けます。

加算項目を見れば、会計上費用にしているが税務上は損金になっていない項目が見えてきます。

3. 別表四の減算項目を見る

続いて、減算項目を確認します。

受取配当等の益金不算入、欠損金控除、減価償却超過額の認容、還付事業税など、課税所得を減らしている項目を見ていきます。

減算項目については、適用要件や根拠資料がきちんと整っているかが重要です。

4. 留保と社外流出を分けて見る

同じ加算でも、留保なのか社外流出なのかで意味が変わります。

留保であれば、翌期以降に解消する可能性があるため、別表五(一)へ引き継がれます。社外流出であれば、原則として将来の税務調整として戻る性質のものではありません。

ここを見分けることで、当期だけの税負担と、将来に残る税務上の影響とを、分けて把握できるようになります。

5. 別表五(一)の期首・期末を確認する

別表五(一)は、前期からの引継ぎと当期の増減を確認する表です。次の点を見ていきます。

  • 期首残高が、前期申告書の期末残高と一致しているか。
  • 当期の別表四の留保項目が、正しく反映されているか。
  • 資本金等の額と利益積立金額の調整が、妥当か。
  • 長期間残っている留保項目の内容を、説明できるか。

この確認を怠ると、翌期以降の申告で、調整漏れや二重調整が生じる可能性があります。

6. 税額計算と納税資金を確認する

最後に、別表一で法人税額を確認し、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税などの地方税申告書とも整合しているかを確かめます。

会計利益、課税所得、税額、納付額、未払法人税等、法人税等調整額は、それぞれ意味が異なります。経営判断に使う場合は、いま自分がどの数字を見ているのかを、明確にしておく必要があります。

決算書と法人税申告書の関係を誤解すると何が起きるか

決算書と法人税申告書の関係を誤解すると、次のような問題が生じます。

税額予測を誤る

会計上の利益だけを見て法人税を予測すると、加算・減算項目を見落としてしまうことがあります。

特に、役員給与、交際費、寄附金、評価損、減価償却、税額控除、欠損金がある会社では、会計利益と課税所得が大きくずれる可能性があります。

納税資金の準備を誤ると、資金繰りに直接影響します。

金融機関への説明が弱くなる

金融機関は、決算書だけでなく、税務申告書や勘定科目内訳書を確認することがあります。

会計上の利益と法人税額の関係、税務調整の内容、役員・株主との取引、借入金、固定資産、貸付金、欠損金の状況を説明できないと、決算書そのものの信頼性に疑問を持たれることがあります。

税務申告書は、金融機関に対する説明資料でもあるのです。

M&Aや事業承継で過去リスクが問題になる

M&Aや事業承継では、過去の税務申告書が確認されます。そのとき、次のような状態は問題になり得ます。

  • 過去の別表四・別表五(一)に、不明な留保項目が残っている。
  • 役員給与や退職金の処理を、説明できない。
  • 関係会社取引や債権放棄の根拠が、不十分である。
  • 税額控除の適用要件や保存書類を、確認できない。
  • 資本金等の額や利益積立金額の管理が、不明確である。

こうした状態では、税務デューデリジェンスや株価評価、承継対策の場面で問題になる可能性があります。

税務調査で説明できない

税務調査では、申告書に記載された数字の根拠が確認されます。

別表四の加算・減算の根拠資料、留保項目の管理、別表五(一)の引継ぎ、損金算入要件、益金不算入要件、証憑、契約書、議事録、稟議書などが確認されることがあります。

「前年も同じ処理だった」「会計ソフトでそう処理されていた」「顧問税理士に任せていた」という説明だけでは、会社の税務判断として十分とはいえません。

経営者が最低限確認しておきたいポイント

経営者が、法人税申告書のすべてを細かく読める必要はありません。しかし、次の点は確認しておきたいところです。

  • 当期純利益と課税所得が、どの程度違うか。
  • その差の主な原因は、何か。
  • 加算項目のうち、金額が大きいものは何か。
  • 減算項目のうち、要件確認が必要なものは何か。
  • 留保項目として、翌期以降に残るものは何か。
  • 別表五(一)に、長期間残っている項目は何か。
  • 欠損金は、どのくらい残っているか。
  • 税額控除や特別償却に、適用漏れはないか。
  • 役員・株主・関係会社との取引を、税務上説明できるか。
  • 金融機関、株主、後継者、買い手候補に説明できる数字になっているか。

これらを確認することで、法人税申告書は単なる提出書類ではなく、経営判断のための資料になっていきます。

専門家と対話するときに整理しておきたい資料

決算書と法人税申告書の関係について専門家に相談する場合、次の資料を準備しておくと、議論がぐっと具体的になります。

  • 直近3期分の決算書。
  • 直近3期分の法人税申告書一式。
  • 別表四、別表五(一)、別表五(二)、別表七、別表十六、別表六。
  • 勘定科目内訳書。
  • 総勘定元帳。
  • 固定資産台帳。
  • 棚卸表。
  • 役員報酬・役員退職金に関する議事録。
  • 交際費、寄附金、福利厚生費の明細。
  • 貸倒損失や債権放棄に関する資料。
  • 関係会社取引の契約書・精算書。
  • 税額控除や特別償却の適用資料。
  • 過去の税務調査結果や修正申告資料。

相談の際には、「法人税を減らしたい」という結論だけを持ち込むのではなく、「どの数字が分からないのか」「どの処理を後から説明できるか不安なのか」「将来の資金調達や承継に影響しそうな項目は何か」を整理しておくと、実務的な検討が進めやすくなります。

決算書と法人税申告書をつなげて読むことが、申告品質を高める

法人税申告書は、税額を計算するためだけの書類ではありません。

決算書上の利益が、どのように課税所得へ変換されたのか。どの費用が税務上損金にならなかったのか。どの収益が益金不算入とされたのか。どの差異が翌期以降に残るのか。そして、どの項目が将来の税負担、税効果会計、資金繰り、M&A、事業承継に影響するのか。

こうした点を読み取ることで、法人税申告書は経営管理の資料へと変わっていきます。

前年踏襲で申告書を作成しているだけでは、会社に残る税務判断の品質はなかなか高まりません。決算書と法人税申告書をつなげて読むことで、税務処理の意味、将来への影響、そして説明責任を、はじめて把握できるようになります。

決算書と法人税申告書の関係に不安がある場合は

次のような不安がある場合は、申告書の見直しや、決算・申告プロセスの整理を検討する価値があります。

  • 会計上の利益と課税所得が、なぜ違うのか説明できない。
  • 別表四の加算・減算の内容を、把握していない。
  • 別表五(一)に残っている留保項目の意味が、分からない。
  • 税額控除や欠損金の管理が、属人的になっている。
  • 金融機関や株主に、税額の増減理由を説明できない。
  • 事業承継やM&Aを考えているが、過去の申告内容に不安がある。
  • 税務調査で説明できる資料が、整っていない。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人税申告書を単なる提出書類としてではなく、決算書、税務調整、別表管理、資金繰り、そして将来の経営判断へとつながる資料として整理します。

自社の決算書と法人税申告書の関係を見直し、会計利益と課税所得の違いを説明できる状態に整えたいという場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

振り返り:決算書と法人税申告書の重要ポイント

項目意味実務上の確認ポイント
決算書会計上の利益、資産、負債、純資産を示す資料金融機関・株主・経営判断に使われる数字である
法人税申告書法人税法上の所得金額と税額を計算する資料決算書を出発点に税務調整を行う
会計利益損益計算書上の利益課税所得とは一致しないことがある
課税所得益金から損金を控除した法人税法上の所得別表四で加算・減算して計算する
益金税務上、所得計算に含める収入・利益会計上の収益と完全には一致しない
損金税務上、所得計算から控除する原価・費用・損失会計上の費用と完全には一致しない
加算会計利益に足し戻す税務調整損金不算入項目や時期差異を確認する
減算会計利益から差し引く税務調整益金不算入、過年度加算項目の認容、欠損金控除等を確認する
留保将来解消する可能性がある、社内に残る差異別表五(一)へ引き継ぎ、翌期以降も管理する
社外流出将来解消が予定されない差異や、社外に流出した項目原則として翌期以降の留保管理には残らない
別表四会計利益を課税所得に変換する表当期純利益、加算、減算、留保、社外流出を確認する
別表五(一)利益積立金額・資本金等の額を管理する表前期からの引継ぎ、当期増減、将来影響を確認する
税効果会計会計上の利益と税金費用を合理的に対応させる会計処理法人税申告書上の納付税額とは目的が異なる
経営判断への影響税負担、資金繰り、金融機関説明、M&A、承継に影響申告書を提出して終わりにせず、翌期の管理に反映する
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