無償取引・低額取引と益金認識|法人税で「対価を受け取っていない取引」が課税される理由

「お金を受け取っていないのに、なぜ売上や益金が問題になるのか」。

無償取引や低額取引の法人税務では、まさにこの点でつまずく方が少なくありません。

たとえば、次のような取引です。

よくある取引実務上の疑問
関係会社に商品を無償で渡した売上を立てなくてもよいのか
子会社に時価より安く設備を譲渡した差額は問題になるのか
オーナー所有の不動産を会社が低額で買い取った会社側に受贈益が出るのか
役員に会社資産を安く譲渡した売却損益だけで処理してよいのか
海外子会社に無償で経営支援をしている移転価格や寄附金の問題になるのか
親会社が子会社の費用を肩代わりした単なるグループ支援で済むのか
同族会社間で時価を意識せず資産を移した税務調査で説明できるのか

無償取引・低額取引の難しさは、帳簿の上では「売上がない」「安く売っただけ」「グループ内での調整にすぎない」と見えていても、税務の目から見ると、時価との差額に経済的利益の移転があると評価される場合がある、という点にあります。

法人税が着目するのは、実際に現金を受け取ったかどうかだけではありません。会社の純資産が増えたかどうか、あるいは本来得るべき経済的価値を他者へ移していないかどうかです。法人税法22条2項は、益金に算入すべき金額として、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡・役務の提供、無償による資産の譲受け、その他の取引(資本等取引を除く)に係る収益の額を掲げています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法出典:国税庁税務大学校|益金が生ずる無償取引について―無償による役務の享受の取扱いに関する理論的検討―

本稿では、無償譲渡、低額譲渡、無償の役務提供、無償の譲受け、関係会社間取引、同族関係者取引について、法人税上の益金認識をどう考えるべきかを整理していきます。

目次

無償取引・低額取引は「売上の有無」ではなく「価値移転」の問題である

無償取引や低額取引を考えるとき、最初に押さえておきたいのは、税務上の問題が「請求書を出したかどうか」で決まるわけではない、ということです。

税務上は、次の二つの側面から見ていきます。

視点問題になること
価値を渡した側本来得るべき対価を得ずに、資産・役務・経済的利益を他者に移転していないか
価値を受けた側時価より有利な条件で資産・経済的利益を受け、受贈益が生じていないか

たとえば、時価1,000万円の機械を、関係会社に無償で譲渡したとします。

このとき、会計上は単に固定資産を除却した、あるいは帳簿価額で処理しただけ、という扱いにしても、税務上の問題は整理しきれません。譲渡した会社では、時価相当額の収益認識や寄附金の問題が生じ得ます。譲り受けた会社では、時価相当額の経済的利益を受けたとして、受贈益が問題になり得るからです。

低額譲渡でも考え方は同じです。1,000万円の資産を700万円で売った場合、700万円で売ったという事実だけでなく、残る300万円に相当する価値の移転をどう説明できるかが問われます。

もっとも、時価との差額があれば常に否認される、という単純な話ではありません。商品劣化、在庫処分、販売促進、品質問題、取引数量、長期契約、債権回収可能性、事業再生支援など、合理的な価格差が生じる事情も現実には存在します。

そこで、無償取引・低額取引の判断では、次の順序で見ていくことが重要になります。

判断順序確認すること
1何を移転したのか。資産、役務、権利、経済的利益か
2当事者は誰か。第三者、関係会社、役員、株主、親族、海外子会社か
3取引価格はいくらか。無償か、低額か、名目的対価か
4税務上の時価はいくらか
5価格差に合理的理由があるか
6価値を渡した側で益金・寄附金・給与等が問題になるか
7価値を受けた側で受贈益・給与・みなし贈与等が問題になるか
8会計処理、別表調整、契約書、稟議書、評価資料で説明できるか

無償取引・低額取引は、単なる売上計上の論点ではありません。価値がどこからどこへ移ったのかを追う論点なのです。

まず取引類型を分ける

無償取引・低額取引では、最初に取引の類型を分けておく必要があります。同じ「無償」であっても、資産を渡したのか、役務を提供したのか、それとも資産を受け取ったのかによって、税務上の見方が変わってくるからです。

類型主な税務論点
無償による資産の譲渡商品、固定資産、有価証券、不動産を無償で渡す譲渡側の益金、寄附金、譲受側の受贈益
低額による資産の譲渡時価より安く関係会社や役員に売る時価との差額、寄附金、受贈益、給与、みなし贈与
無償による役務の提供経営支援、技術支援、事務代行を無償で行う提供側の通常得べき対価、寄附金、移転価格
低額による役務提供原価未満又は著しく低い報酬で業務受託する通常得べき対価、関係会社間利益移転
無償による資産の譲受け会社が株主・関係会社・第三者から資産を無償で受ける譲受側の受贈益、譲渡側の課税
無償による役務の享受他社から無償で支援を受ける受け手で益金が生じるかは慎重に整理
債務免除・費用肩代わり借入金免除、費用負担、損失補填債務免除益、寄附金、株価・贈与税への波及

ここで注意しておきたいのは、法人税法22条2項には、無償による資産の譲渡、役務の提供、資産の譲受けは明示されている一方で、「無償による役務の享受」は明示されていない、という点です。そのため、無償でサービスを受けた側に常に受贈益を認識する、といった処理は慎重に考える必要があります。

私自身の理解としても、無償による役務の享受については同項に明示がなく、そこから当然に益金が生じるものとは整理されてこなかった、というのが従来の一般的な理解です。
出典:国税庁税務大学校|益金が生ずる無償取引について―無償による役務の享受の取扱いに関する理論的検討―

一方で、役務を無償で提供した側では、通常得べき対価や寄附金、相手が国外関連者であれば移転価格・国外関連者寄附金の問題が生じ得ます。無償取引を「受けた側」だけで見るのではなく、「提供した側」まで含めて整理することが欠かせません。

法人税法22条の2との関係

本シリーズでは、法人税法22条の2と収益認識を別のテーマとして取り上げています。無償取引・低額取引を検討するうえでも、この22条の2との関係を整理しておく必要があります。

法人税法22条の2は、資産の販売若しくは譲渡、又は役務の提供に係る収益について、その計上時期と計上額を定める規定です。収益の額は、別段の定めがあるものを除き、販売又は譲渡した資産の引渡し時の価額、あるいは提供した役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とされています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法出典:税務研究会|法人税法 第22条の2

ただし、22条の2はあくまで「資産の販売等」を行った側の収益計上時期・金額を整理する規定です。無償による資産の譲受け、受贈益、債務免除益、寄附金との対応関係については、法人税法22条2項、37条、25条の2、さらにグループ法人税制や移転価格税制なども含めて検討していく必要があります。

実務上は、次のように整理しておくと見通しが立ちやすくなります。

取引主に見る規定・論点
法人が資産を無償・低額で譲渡した法人税法22条2項、22条の2、37条
法人が役務を無償・低額で提供した法人税法22条2項、22条の2、37条、移転価格税制
法人が資産を無償・低額で譲り受けた法人税法22条2項、受贈益、取得価額
法人が無償で役務を受けた受け手の益金認識は慎重に検討
完全支配関係法人間で寄附がある法人税法37条2項、25条の2、グループ法人税制
国外関連者との取引租税特別措置法66条の4、国外関連者寄附金、移転価格文書化
同族会社・役員・株主との取引役員給与、寄附金、受贈益、みなし贈与、行為計算否認

22条の2だけで結論を出そうとすると、無償取引・低額取引の全体像を見誤ることがあります。とりわけ関係会社間取引や同族関係者取引では、収益認識だけでなく、損金側、相手方側、株主側まで確認しておかなければなりません。

無償による資産譲渡|「売っていない」では終わらない

法人が資産を無償で譲渡した場合、実務では「売上がない」「対価がない」で処理してしまいがちです。しかし法人税では、無償による資産の譲渡もまた益金の問題になります。

たとえば、法人Aが時価1,000万円、帳簿価額600万円の機械を、法人Bに無償で譲渡したとしましょう。

当事者税務上確認すべきこと
法人A時価相当額の収益認識、帳簿価額との差額、寄附金該当性
法人B無償で資産を受けたことによる受贈益、取得価額
法人A・Bの関係第三者か、関係会社か、完全支配関係か、国外関連者か
株主・役員価値移転により株主間・役員個人に利益が移っていないか

法人Aでは、「資産を無償で渡した」という事実そのものにより、時価相当額で譲渡したものとして収益が問題になります。そのうえで、相手方に経済的利益を与えた部分は、寄附金として損金算入制限の対象になり得ます。

法人Bでは、時価相当額の資産を無償で受けたことにより、受贈益が問題になります。税務上は、現金を受け取った場合だけが益金ではありません。資産を無償で受け取ったことによる経済的利益も、会社の純資産を増加させる要素になり得るのです。

ここで大切なのは、会計仕訳だけで税務判断を終わらせないことです。

たとえば、譲渡側で帳簿価額600万円だけを除却損として処理し、譲受側では簿外のまま使用しているようなケースでは、税務上も会計上も実態を反映していない可能性があります。固定資産台帳、契約書、譲渡の理由、時価資料、取締役会議事録、関係会社間契約の有無を、あらためて確認しておく必要があります。

低額譲渡|時価との差額が「合理的な値引き」か「利益供与」かを分ける

低額譲渡は、無償譲渡よりも判断が難しくなります。なぜなら、対価が一応存在するため、表面上は通常の売買に見えてしまうからです。

しかし、時価との差額が大きい場合には、その差額について、実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められるかどうかが問題になります。

この点、寄附金とは、名義を問わず、法人が行った金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与をいい、低額譲渡等の場合で、その差額が実質的な贈与等をしたと認められるときは、その差額をもって計算する、というのが基本的な考え方です。
出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

また、国税不服審判所の公表裁決でも、法人税法37条7項・8項に関し、資産譲渡や経済的利益の供与の対価が時価に比べて低いとき、その差額のうち実質的に贈与又は無償供与をしたと認められる金額が寄附金の額に含まれる、と整理されています。
出典:国税不服審判所|令和5年3月8日裁決

低額譲渡で最初に確認すべきなのは、次の点です。

確認項目内容
対象資産商品、棚卸資産、固定資産、不動産、有価証券、無形資産など
帳簿価額会計上・税務上の簿価
時価第三者間で通常成立すると考えられる価額
実際の譲渡価額契約書・請求書・入金額
価格差時価との差額
価格差の理由劣化、在庫処分、品質不良、販売促進、支援、資金繰り、グループ調整など
当事者関係第三者、関係会社、役員、株主、親族、海外子会社
意思決定資料稟議、議事録、価格算定資料、社内承認
相手方処理受贈益、給与、寄附金、移転価格、贈与税など

低額譲渡で最も危ういのは、「身内だから安くした」「グループ会社だから原価でよい」「オーナー会社だから問題ない」といった説明しか残っていないケースです。

第三者にも同じ条件で販売しているのか。同じ条件で販売しないのであれば、その理由は何か。その価格で売ることが会社にとって合理的だと言えるのか。取締役会や稟議でその理由を確認しているのか。ここが説明できないと、低額部分が利益供与と見られるリスクが残ります。

「時価の2分の1」という単純な基準で考えない

低額取引のご相談では、「時価の2分の1以上なら大丈夫ですか」と尋ねられることがあります。

この発想には、所得税法上の個人から法人への低額譲渡や、消費税における役員への低額譲渡など、別の制度の基準が混ざり込んでいることが少なくありません。

たとえば、所得税基本通達59-3では、個人が譲渡所得の基因となる資産を法人に対して時価の2分の1以上の対価で譲渡した場合には、所得税法59条1項2号の規定の適用はない一方、その譲渡が同族会社等の行為計算否認に該当する場合には、税務署長の認めるところにより時価相当額で所得計算できる、とされています。
出典:国税庁|法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係

また消費税については、法人が役員に対して資産を著しく低い金額で譲渡した場合の課税標準について、おおむね50%に関する取扱いが示されています。
出典:国税庁|No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い

しかし、法人税の寄附金・受贈益・益金認識の判断を、いつでも「時価の2分の1」という一つの基準だけで処理してしまうのは危険です。法人税法37条8項は、時価に比して低い対価で譲渡等をした場合に、その差額のうち実質的に贈与又は無償供与をしたと認められる金額を寄附金に含める構造になっています。つまり重要なのは、形式的な割合そのものではなく、その価格差が実質的に利益供与といえるかどうかなのです。

法人税務では、次のように整理しておくほうが実務に即しています。

視点誤った考え方実務上の整理
価格差50%以上なら常に安全税目・制度ごとに基準が異なる
法人税著しく低くなければ問題ない時価との差額のうち実質的贈与部分が問題
同族会社身内間だから自由に価格設定できる経済合理性と時価資料が必要
関係会社グループ内なら税負担は同じ寄附金、受贈益、グループ法人税制、地方税、国際税務を確認
役員・株主給与や配当ではない経済的利益、役員給与、みなし配当、贈与税まで確認

低額取引では、「何%ならよいか」ではなく、「その価格を第三者にも説明できるか」を出発点に据えるべきです。

役務を無償・低額で提供した場合

無償取引というと資産の譲渡を思い浮かべがちですが、実務で多いのはむしろ役務提供です。

たとえば、次のような取引が挙げられます。

  • 親会社が子会社の経理・人事・法務を無償で支援している
  • グループ会社のシステム保守を無償で行っている
  • 代表会社がグループ全体の広告宣伝を負担している
  • 日本親会社が海外子会社に技術指導を無償で行っている
  • 役員個人や関連会社の業務を、会社の従業員が無償で行っている
  • 関係会社に対し、原価未満の業務委託料で継続的に業務を提供している

法人税法22条2項は、有償又は無償による役務の提供を、益金に関係する取引として掲げています。したがって、法人が他者に役務を無償で提供した場合には、提供側で通常得べき対価の額が問題になり得ます。
出典:e-Gov法令検索|法人税法出典:国税庁税務大学校|益金が生ずる無償取引について

役務提供で大切になるのは、「本当に役務提供があったのか」と「対価を取らない理由があるのか」の二点です。

取引確認すべきこと
経営指導指導内容、頻度、担当者、成果物、子会社の受益
技術支援技術資料、現地訪問、作業時間、ノウハウ移転
事務代行経理・人事・法務・システム等の範囲
広告宣伝どの会社の売上に貢献する支出か
債権管理回収先、担当会社、回収効果
保証・信用補完保証料相当額、保証の必要性、リスク負担
海外子会社支援国外関連者取引、独立企業間価格、文書化

特に海外子会社への役務提供では、移転価格税制との接点が生じます。国外関連者との役務提供については、その目的、費用、機能などを踏まえた検討が調査上求められる、というのが実務上の整理です。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)第3章 調査

本稿では移転価格税制の詳細までは立ち入りませんが、海外子会社への無償支援や低額支援を、国内の寄附金の感覚だけで処理してはいけない、という点はお伝えしておきたいところです。対価設定、機能・リスク、契約、役務提供の実績、そしてローカルファイルの要否まで確認しておく必要があります。

無償で役務を受けた側は常に受贈益を計上するのか

無償で資産を受け取った場合には、受贈益が問題になります。では、無償で役務提供を受けた場合も、受け手側で常に受贈益を計上することになるのでしょうか。

この点は、資産の無償譲受けと同じように単純化しないほうがよい論点です。

先に触れたとおり、法人税法22条2項には「無償による資産の譲受け」は明示されていますが、「無償による役務の享受」は明示されていません。そのため、無償でサービスを受けた側については、一般的に、役務を享受したことだけを理由に当然に益金を認識するとは整理されてきませんでした。
出典:国税庁税務大学校|益金が生ずる無償取引について―無償による役務の享受の取扱いに関する理論的検討―

ただし実務では、次の点をあわせて確認しておく必要があります。

確認項目内容
役務の内容実際に何を受けたのか
役務の受益者どの法人の利益になっているか
提供者の処理提供側で収益・寄附金を認識すべきか
関係会社間契約役務提供契約、費用分担契約があるか
継続性一時的支援か、継続的業務代行か
国外関連者か移転価格税制の対象になるか
他の税目消費税、源泉所得税、給与課税への影響

受け手側の受贈益だけを見て安心するのではなく、提供側の寄附金・国外関連者寄附金・移転価格まで含めて整理しておくことが大切です。

関係会社間取引では「グループ支援」という説明だけでは足りない

無償取引・低額取引が最も問題になりやすいのは、関係会社間取引です。

第三者間の取引では、通常、会社は損をする価格では取引しません。ところが関係会社間では、グループ全体の資金繰り、赤字会社の支援、銀行対応、利益調整、事業再編の準備といった理由から、通常とは異なる価格が設定されることがあります。

たとえば、次のようなケースです。

ケース問題になりやすい税務論点
親会社が子会社に商品を無償供与親会社の益金・寄附金、子会社の受贈益
親会社が子会社に時価より安く設備売却低額譲渡、寄附金、受贈益、減価償却基礎
親会社が子会社の広告費を負担自社費用か、子会社への寄附金か
黒字会社が赤字会社に高値で仕入代金を支払う高額購入部分の寄附金、利益移転
子会社の債務を親会社が肩代わり債務免除益、寄附金、再建支援の合理性
100%グループ内で資産移転グループ法人税制、譲渡損益繰延、寄附金・受贈益
海外子会社との価格調整移転価格、国外関連者寄附金、源泉税

制度上も、完全支配関係がある他の内国法人に対して支出した寄附金のうち一定のものは全額損金不算入となり、また国外関連者に対する寄附金は全額損金不算入となる、と整理されています。
出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

関係会社間取引で見落としがちなのは、「グループ全体では損していない」という説明が、必ずしも単体法人の法人税務の説明にはならない、という点です。

法人税申告は、原則として法人単位で行われます。グループ通算制度を採用している場合でも、各法人の個別申告を前提とした制度設計です。グループ全体で見れば資金が移っただけであっても、法人単体で見れば、利益を移転した法人、利益を受けた法人、損失を負担した法人が存在します。

そのため、関係会社間の無償・低額取引では、少なくとも次の資料を整えておくべきです。

資料目的
グループ組織図資本関係・支配関係を確認
関係会社間契約書取引条件、対価、役務内容を確認
価格算定資料第三者価格、原価、利益率、鑑定評価等
取引別損益資料誰が利益・損失を負担しているかを確認
取締役会議事録・稟議書価格決定の理由、事業目的、承認過程
再建支援資料子会社支援の場合の経済合理性
資金繰り表支援の必要性と金額の妥当性
税務調整資料寄附金、受贈益、譲渡損益の別表管理
移転価格文書国外関連者取引の価格妥当性

関係会社間取引は、値決めの自由度が高い分、税務上は説明責任が重くなる、と考えておくのが安全です。

同族関係者取引では、法人税だけでなく所得税・贈与税・相続税に波及する

同族会社では、会社、オーナー、親族、役員、株主の境界が曖昧になりやすい取引があります。

たとえば、次のような取引です。

取引法人税以外に波及し得る税目
オーナーから会社へ不動産を低額譲渡所得税、法人税、贈与税、株価評価
会社から役員へ資産を低額譲渡法人税、所得税、源泉所得税、消費税
親族会社へ資産を安く譲渡法人税、贈与税、相続税、株価移転
会社がオーナーの費用を負担役員給与、賞与、源泉所得税
オーナーが会社債務を免除債務免除益、株価上昇、みなし贈与
同族株主間で低額増資・高額払込み受贈益、寄附金、みなし贈与

たとえば、オーナーが会社に不動産を低額で譲渡した場合、会社側では時価との差額について受贈益が問題になり得ます。個人側では、所得税法59条の譲渡所得課税が問題になることがあります。さらに、会社の純資産価額や株式価値が上昇すれば、他の株主に経済的利益が移転したと見られる可能性も出てきます。

このように、同族関係者取引では、「会社の法人税申告だけ」を見ていては不十分です。会社側の益金、個人側の譲渡所得、役員給与、源泉所得税、贈与税、将来の相続税、非上場株式の評価まで、連動して動いていきます。

同族会社では、次のような説明が税務上は弱くなりがちです。

弱い説明なぜ危ないか
社長の会社だから安くしてよい会社と個人は別人格
親族間なので時価は不要同族関係者間ほど時価が問題になる
会社に得だから問題ない他株主への価値移転や個人側課税が残る
帳簿価額で移せばよい税務上の時価とは限らない
将来相続対策になるみなし贈与や否認リスクが生じ得る
顧問税理士に任せている価格根拠と意思決定資料は会社側にも必要

同族関係者との無償・低額取引は、税負担の軽減だけを目的に設計してしまうと、後から説明が難しくなります。取引目的、時価、資金移動、株価への影響、相続・承継への波及を、一体で見ておく必要があります。

完全支配関係法人間取引は「課税されない」ではなく「別の管理が必要」

100%グループ内の内国法人間では、一定の寄附金・受贈益について、通常の第三者間取引とは異なる取扱いがあります。完全支配関係がある他の内国法人に対する寄附金のうち、法人税法25条の2第2項に規定する受贈益に対応するものは、全額損金不算入とされています。
出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

この制度は、「グループ内なら自由に利益を移転してよい」という意味ではありません。

完全支配関係法人間では、寄附金や受贈益の取扱い、譲渡損益調整、グループ通算制度、地方税、資本関係の変動、M&A時の税務デューデリジェンスなど、いわば別の管理が求められます。

特に、次の点は確認が必要です。

確認項目実務上の意味
完全支配関係の有無法人による完全支配関係か、個人を含むかで取扱いが変わる
国内法人か国外法人か国外関連者寄附金や移転価格税制の問題が生じる
寄附金・受贈益の対応関係どの金額が対応するのか管理が必要
資産譲渡か費用負担か譲渡損益調整や寄附金処理が変わる
グループ通算制度の採用有無損益通算とは別に個別取引の適正性を確認
将来の離脱・M&Aグループ外に出ると過去処理がリスクになる
地方税・消費税国税と同じ結論とは限らない

100%グループ内の取引ほど、「申告書上は最終的に大きな税額差が出ない」と見えてしまうことがあります。しかし実際には、別表管理、利益積立金額、資本金等の額、投資簿価、そして将来の株式譲渡・再編・M&Aに影響することがあります。

国外関連者との無償・低額取引は、国内取引よりも早めに整理する

海外子会社や海外関連会社との無償・低額取引は、国内取引よりも慎重な整理が必要です。

理由はシンプルで、日本の法人税の問題だけにとどまらないからです。

論点内容
移転価格税制国外関連取引が独立企業間価格で行われたか
国外関連者寄附金国外関連者に対する寄附金が全額損金不算入となる可能性
源泉所得税ロイヤリティ、利子、役務提供対価等の支払時に源泉が必要か
租税条約相手国との条約上の取扱い
現地課税相手国での受贈益・移転価格・源泉課税
二重課税日本と相手国で所得認識がずれる可能性
文書化ローカルファイル、契約書、価格設定方針の整備

移転価格事務運営要領は、国外関連者との取引について、移転価格税制の適正かつ円滑な執行のための指針を整備したものです。国外関連者との役務提供についても、その取引内容、目的、費用、価格算定方法が調査上の検討対象になります。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)出典:国税庁|移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)第3章 調査

海外子会社への無償支援は、事業上はごく自然に見えることがあります。立ち上げ直後の支援、品質改善の指導、販売支援、本社管理部門によるサポートなどです。

しかし税務上は、次の問いに答えられるようにしておく必要があります。

  • その役務は誰の利益のために行われたか
  • 親会社自身にも利益がある活動か
  • 子会社が第三者から受ければ対価を支払う性質の役務か
  • 契約書や請求書はあるか
  • 原価、工数、担当者、成果物を記録しているか
  • 無償とした理由に合理性があるか
  • 同種の役務を他社に提供する場合の価格はあるか
  • 移転価格文書に反映しているか

国外関連者との取引では、「日本では寄附金で調整すればよい」という発想だけでは足りません。相手国での課税、二重課税、移転価格調査、相互協議の可能性まで見据えておく必要があります。

時価をどう考えるか

無償取引・低額取引では、最終的に「時価」が中心の論点になります。

ただし、税務上の時価は、単に帳簿価額や取得価額を意味するものではありません。第三者間で通常成立する価額を軸に、資産の性質、取引条件、当事者関係、評価方法、取引時点の状況を踏まえて判断していきます。

対象時価確認の主な資料
商品・製品通常販売価格、値引率、在庫処分実績、品質資料
棚卸資産仕入価額、販売実績、陳腐化資料、廃棄予定
機械装置中古市場価格、査定書、残存性能、使用年数
車両中古車査定、買取見積、オークション相場
不動産不動産鑑定評価、取引事例、公示価格、固定資産税評価額、路線価
非上場株式法人税・所得税・相続税それぞれの評価視点、株価算定資料
ソフトウェア・無形資産開発費、収益力、利用権、ライセンス契約
役務提供原価、工数、担当者単価、外部委託相場、契約単価
保証・信用補完保証料率、信用リスク、金融機関条件

時価資料は、取引後に慌てて集めると、どうしても説得力が落ちてしまいます。とりわけ同族関係者間取引や関係会社間取引では、取引を実行する前に価格の根拠を残しておくべきです。

なお、不動産や非上場株式のように評価方法が複数存在する資産では、どの税目・どの取引当事者・どの目的で評価するかによって、用いるべき評価方法が変わることがあります。法人税、所得税、相続税で同じ評価額をそのまま使えるとは限りません。この点は、本シリーズの別稿「税務上の時価をどう考えるか」「非上場株式の税務上の時価」で詳しく取り上げる領域です。

価格差に合理性がある場合

低額取引だからといって、すべてが寄附金・受贈益になるわけではありません。実務では、時価との差額に合理的な理由がある場合も当然にあります。

たとえば、次のような場合です。

価格差の理由説明に必要な資料
在庫処分滞留期間、販売不能理由、処分価格の実績
品質不良検査結果、不具合報告、クレーム資料
型落ち・陳腐化新製品発売、販売停止、需要低下データ
大量販売数量割引条件、第三者向け価格表
長期契約契約期間、安定供給条件、取引条件比較
販売促進キャンペーン条件、対象顧客、期間、効果測定
事業再生支援支援先の再建計画、回収可能性、支援合理性
グループ共通目的グループ方針、各社受益、費用配分基準
早期現金化資金繰り表、見積比較、売却先選定資料

こうした事情があれば、価格差のすべてが直ちに利益供与になるとは限りません。

ただし、合理性は「後から口頭で説明するもの」ではありません。取引の時点で、価格決定の理由、比較資料、承認過程を残しておくことが前提になります。

とりわけ注意したいのは、価格差の理由が本当に譲渡法人自身の事業上の理由なのか、それとも相手方を支援する理由なのか、という点です。

たとえば、在庫処分として安く売ったのであれば、自社の在庫処分・保管コスト削減・廃棄損回避という説明が成り立ちます。一方で、相手先の赤字補填や資金繰り支援が主たる目的であれば、寄附金や経済的利益供与の論点が強く出てきます。

会計処理と税務調整で確認すべきこと

無償取引・低額取引では、会計処理と法人税申告が一致しないことがあります。

会計処理の例税務上の確認
帳簿価額で固定資産除却処理時価譲渡収益、寄附金、譲渡損益の認識が必要か
実際の譲渡価額だけを売上計上時価との差額に利益供与がないか
受贈資産を簿外で使用受贈益・固定資産計上漏れがないか
関係会社支援費として費用処理寄附金、交際費、広告宣伝費、業務委託費の区分
役員への低額譲渡を雑収入だけで処理役員給与・源泉所得税・消費税の確認
海外子会社支援を本社費に含める移転価格、国外関連者寄附金、文書化の確認

法人税申告では、別表四・五(一)で税務調整が必要になる場合があります。会計上は費用処理していても税務上は寄附金の損金不算入となる、あるいは会計上は収益計上していなくても税務上は受贈益を認識する、といった処理が求められることがあるからです。

税務調整を行う場合には、翌期以降の管理も重要になります。固定資産の取得価額、減価償却、税効果会計、利益積立金額、グループ会社間の対応関係を、継続して追えるようにしておく必要があります。

税務調査で見られやすいポイント

無償取引・低額取引は、税務調査で問題になりやすい論点です。売上計上漏れ、寄附金、役員給与、受贈益、時価、関係会社間の利益移転が、同時に現れやすいからです。

税務調査では、次のような点が確認されます。

調査で確認されやすい点具体例
取引の存在資産移転、役務提供、費用負担が実際にあったか
当事者関係同族、関係会社、役員、親族、国外関連者か
契約内容契約書、覚書、取引条件、価格改定条項
価格妥当性第三者価格、鑑定、見積、相場
価格差の理由値引き、支援、利益移転、在庫処分
経済合理性自社にとって取引する理由があるか
会計処理売上、雑収入、寄附金、役員給与、固定資産
相手方処理受贈益、資産計上、費用計上、消費税
稟議・議事録誰が、いつ、何を根拠に承認したか
継続性毎期同じ処理か、特定年度だけの調整か

調査対応で避けたいのは、「担当者が決めた」「昔からそうしている」「税理士に任せていた」という説明です。無償・低額取引は、経営判断そのものです。後から説明するためには、取引を行った時点での意思決定記録が欠かせません。

経営判断としてのリスク

無償取引・低額取引のリスクは、追徴税額だけにとどまりません。

経営上の影響内容
利益の信頼性売上、利益、資産価額が実態とずれる
金融機関対応関係会社支援や利益移転が返済能力評価に影響
株主説明特定株主・役員・関係会社への利益移転が問題になる
事業承継株価上昇、みなし贈与、オーナー貸付金整理に波及
M&A税務デューデリジェンスで過去リスクとして指摘される
グループ再編過去の資産移転・価格設定が再編時に問題になる
国際税務移転価格調査、二重課税、相手国課税に発展する
税務調査益金計上漏れ、寄附金否認、重加算税リスクが生じ得る
専門家責任資料不足や助言範囲の不明確さがトラブルになる

短期的には、低額取引によって特定法人の利益を圧縮できるように見えるかもしれません。しかし、その処理を後から説明できなければ、税務調査はもちろん、金融機関、株主、後継者、買収候補先に対しても、そのままリスクとして残ってしまいます。

特に、M&Aや事業承継を予定している会社では、過去の関係会社間取引やオーナー関連取引が、後から精査されます。無償取引・低額取引は、将来の選択肢を狭めてしまう可能性があるため、単年度の税額だけで判断すべきではありません。

相談前に整理すべき資料

無償取引・低額取引について専門家に相談する場合、次の資料を整理しておくと、判断の精度が大きく上がります。

資料確認目的
契約書・覚書取引条件、対価、移転時期
請求書・領収書・入金記録実際の対価の授受
対象資産の明細種類、数量、取得日、簿価、利用状況
固定資産台帳帳簿価額、償却状況
時価資料鑑定、見積、相場、第三者取引実績
価格算定メモ価格決定の根拠
稟議書・取締役会議事録意思決定過程
当事者関係図資本関係、役員関係、親族関係
関係会社間取引一覧継続的な取引条件の確認
相手方の会計処理受贈益、資産計上、費用処理との整合
税務申告書・別表過去の税務調整状況
資金繰り表・再建計画支援目的の場合の合理性
移転価格関連資料国外関連者取引の価格根拠
株主名簿価値移転・株価影響の確認

相談の際には、「この処理でよいか」だけでなく、次の点までを整理しておくことをおすすめします。

  • 取引を行う目的は何か
  • その価格でなければならない理由は何か
  • 第三者にも同じ条件で取引するか
  • 取引をしない場合、会社にどのような影響があるか
  • 相手方は誰で、どのような利益を受けるか
  • 税務上、益金・寄附金・受贈益・給与・贈与税のどれが問題になるか
  • 会計処理と税務調整をどう管理するか
  • 将来のM&A、承継、再編、資金調達に影響しないか

まとめ|無償・低額取引は「価格を付けなかった理由」を説明する税務判断である

無償取引・低額取引は、形式的には、売上がない、あるいは低い対価で取引しただけに見えます。しかし法人税では、資産や役務、経済的利益の価値が、どこからどこへ移ったのかを見ていきます。

無償譲渡では、譲渡側の益金・寄附金、譲受側の受贈益が問題になります。低額譲渡では、時価との差額に合理的な理由があるのか、それとも実質的な贈与又は無償供与と見られるのかが重要です。役務提供では、提供側で通常得べき対価や寄附金、相手が国外関連者であれば移転価格税制まで確認していく必要があります。

特に、関係会社間取引、同族関係者取引、オーナー関連取引、海外子会社取引では、法人税だけにとどまりません。所得税、源泉所得税、贈与税、相続税、消費税、移転価格、そして税務調査対応へと波及していきます。

大切なのは、後から「なぜその価格で取引したのか」を説明できる状態をつくっておくことです。時価資料、契約書、稟議書、議事録、相手方との関係、取引目的、会計処理、税務調整を、一体で整理しておく必要があります。

無償取引・低額取引について、自社の処理が益金、受贈益、寄附金、役員給与、移転価格、時価評価のどこに該当するのか不安がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。契約関係、価格根拠、会計処理、税務調整、さらには将来の承継・再編・M&Aへの影響まで含めて、後から説明できる判断整理をお手伝いします。

この記事の振り返り

論点重要ポイント
無償取引の本質対価の有無ではなく、価値移転と純資産増加を確認する
法人税法22条2項無償による資産譲渡、役務提供、資産譲受けも益金認識の問題になり得る
法人税法22条の2資産の販売等を行った側の収益計上時期・金額を整理する規定
無償譲渡譲渡側では益金・寄附金、譲受側では受贈益を確認する
低額譲渡時価との差額が合理的な価格差か、実質的な贈与かを検討する
50%基準の誤解法人税の寄附金・受贈益判断を一律に「時価の2分の1」で処理しない
役務提供無償・低額の経営支援、技術支援、事務代行は提供側の通常得べき対価が問題になる
役務享受無償で役務を受けた側の益金認識は、資産の無償譲受けとは区別して慎重に整理する
関係会社間取引グループ支援だけでは足りず、契約・価格・受益・経済合理性を説明する
同族関係者取引法人税だけでなく、所得税、源泉所得税、贈与税、相続税、株価へ波及する
国外関連者取引移転価格税制、国外関連者寄附金、文書化、二重課税まで確認する
時価資料鑑定、見積、相場、第三者価格、原価、工数、評価資料を取引前に整える
会計・税務調整売上、受贈益、寄附金、役員給与、固定資産取得価額、別表管理を確認する
経営上の影響金融機関、株主、後継者、M&A、税務調査に耐えられる処理を残す
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