創立費・開業費・設立期間中の損益の考え方|設立前後の支出を初年度決算につなげる実務整理

法人を設立する前後には、細かな支出が一気に発生します。

定款認証費用、登録免許税、司法書士報酬、印鑑作成費用、創業融資のための資料作成費、事務所契約、内装工事、パソコン、広告、ホームページ、名刺、交通費、クラウドサービス、採用費、研修費、試作品、仕入れ、許認可申請費用。数え上げればきりがありません。

設立直後の経理で私がよく目にするのは、これらをまとめて「創立費」「開業費」「雑費」「消耗品費」などに入れてしまう処理です。金額が小さいうちは、大きな問題にならないように見えるかもしれません。

しかし、創業期の支出整理は、初年度決算、税務申告、消費税・インボイス、資金繰り、創業融資、そして将来の月次決算体制にまで、そのまま影響していきます。

本記事では、法人設立前後に支払った費用を、どの順番で整理し、創立費・開業費・通常経費・固定資産・棚卸資産などにどう区分すべきかを整理します。

目次

最初に押さえておきたい結論

創立費・開業費を考えるとき、「設立前に払ったか」「開業前に払ったか」という時期だけで判断するのは危険です。

実務では、少なくとも次の5つに分けて考えます。

区分判断の中心典型例
創立費法人を設立するための費用か定款作成、定款認証、設立登記、登録免許税、設立手続に関する専門家報酬
開業費法人設立後、事業開始までの開業準備のために特別に支出した費用か開業前広告、市場調査、開業準備期間の賃借料・通信費・交通費、準備要員の給与など
通常経費事業開始後の通常の営業活動費か開業後の広告宣伝費、地代家賃、通信費、旅費交通費、業務委託費
固定資産・無形資産長期間使う資産の取得か内装工事、機械装置、什器、パソコン、ソフトウェア、保証金・敷金
棚卸資産販売目的で仕入れた商品・材料か商品、材料、製品、試作品のうち販売用・製造用に該当するもの

創立費・開業費は便利な勘定科目ですが、「設立前後の支出を何でも入れる箱」ではありません。

創業期こそ、支出の目的、時期、契約名義、支払者、証憑、消費税区分を一つずつ確認しながら整理していく必要があります。

まず「4つの日付」を分ける

創立費・開業費を整理する前に、次の4つの日付をはっきりさせておきます。

日付意味会計・税務上の影響
準備開始日事業構想、調査、会社設立準備を始めた日個人が立て替えた支出が発生しやすい
会社成立日設立登記によって法人が成立した日法人として権利義務の主体になる
事業開始日実際に営業活動を開始した日開業費と通常経費の境目になる
初回売上・請求日顧客へ提供・納品・請求した日売上計上、消費税、請求書管理に影響する

株式会社は、本店所在地で設立登記をすることによって成立します。法人は登記によって初めて成立するため、設立登記前の契約や支払は、原則として、まだ存在していない法人そのものの行為ではありません。
出典:e-Gov法令検索|会社法

したがって、設立前に代表者や発起人が支払ったものについては、法人設立後に「法人が負担すべきものか」「代表者個人の支出か」「個人事業の支出か」を一つずつ整理していく必要があります。

この区分を曖昧にしたまま法人口座から精算してしまうと、後になって「これは法人の費用なのか」「役員への貸付ではないのか」「個人事業時代の費用ではないのか」と、説明に困る場面が出てきます。

創立費とは何か

創立費とは、法人の設立のために支出する費用で、法人の負担に帰すべきものをいいます。法令上は、発起人に支払う報酬、設立登記のために支出する登録免許税、その他法人の設立のために支出する費用で法人の負担に帰すべきものが、創立費として掲げられています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法施行令

創立費に入りやすいものとしては、次のような支出があります。

支出内容創立費になりやすい理由
定款作成費用会社設立のための基本書類の作成費用
定款認証手数料株式会社設立手続に必要な費用
登録免許税設立登記のための税金
司法書士報酬設立登記手続に関する専門家報酬
発起人会・設立事務に関する費用会社設立事務に直接関係する費用
設立登記前の会社印作成費設立手続や登記後手続に必要な範囲であれば、創立費として整理する余地がある

法人の設立のために通常必要と認められる費用については、その費用を法人の負担とすべきことが定款等で定められていない場合でも、創立費に該当するものとして取り扱われます。
出典:国税庁|法人税基本通達 第8章 第1節 繰延資産の意義及び範囲等

ただし、税務上、創立費に該当し得ることと、会社法上・契約上・資金管理上、何でも法人負担にしてよいこととは、同じではありません。

発起人報酬、現物出資、財産引受、会社が負担する設立費用などは、会社法上の確認が必要になる場合があります。設立前に大きな支出や特殊な契約があるときは、定款、発起人決定書、契約書、支払証憑まで含めて整理しておくべきです。

開業費とは何か

開業費とは、法人の設立後、事業を開始するまでの間に、開業準備のために特別に支出する費用をいいます。法令上も、開業費は「法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」と定められています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法施行令

開業費に入りやすいものとしては、次のような支出があります。

支出内容開業費として検討しやすい場面
開業前の広告宣伝費店舗オープン前のチラシ、告知広告、プレオープン告知
市場調査費開業前の顧客調査、競合調査、商圏調査
開業準備期間の交通費取引先候補、物件、仕入先、許認可窓口への移動
開業前の通信費開業準備のための電話、郵送、クラウドサービス利用料
開業前の事務用消耗品費開業準備に必要な少額備品や消耗品
開業準備要員の給与営業開始前の研修、準備、立上げ作業に従事した人件費
開業前の家賃事業開始前に発生した事務所・店舗の賃借料

会計基準上も、開業費は原則として支出時に費用処理しつつ、繰延資産に計上できるとされています。繰延資産に計上した場合には、開業のときから5年以内の効果の及ぶ期間にわたって定額法で償却します。開業費の例としては、賃借料、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品費、支払利子、使用人の給料、保険料、水道光熱費などが挙げられています。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第19号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い

ここで大切なのは、「設立後・開業前」という時期だけでなく、「開業準備のために特別に支出したものか」という目的の面です。

同じ広告費でも、開業前のオープン告知であれば開業費として検討しやすく、開業後の通常営業広告であれば通常の広告宣伝費になります。同じ家賃でも、開業準備期間中の店舗家賃であれば開業費として検討しやすく、営業開始後の家賃は通常の地代家賃です。

創立費・開業費に入れてはいけないもの

創立費・開業費で特に注意したいのは、「支払った時期」だけで処理してしまわないことです。

設立前後の支出であっても、次のようなものは別の処理を検討します。

支出・取引基本的な考え方
パソコン、机、機械、車両、内装工事固定資産または少額資産・消耗品として判断
ソフトウェア、システム開発費無形固定資産、研究開発費、業務委託費など、内容に応じて判断
商品・材料の仕入れ棚卸資産として管理
敷金・保証金返還される部分は資産
前払家賃・前払保険料前払費用として期間対応を検討
許認可に関する保証金・供託金資産性や制度上の性格を確認
代表者個人の生活費法人費用ではない
個人事業時代の売上対応費用個人事業の経費、または法人への事業承継取引として整理
開業後の通常経費広告宣伝費、地代家賃、通信費などとして通常処理

特に、内装工事、機械装置、什器、ソフトウェアは、金額が大きくなりがちです。これらを開業費として一括で処理してしまうと、固定資産台帳、減価償却、償却資産税、補助金、融資の資金使途、消費税の仕入税額控除にまで影響します。

また、棚卸資産を開業費に入れてしまうと、売上原価や在庫管理が崩れてしまいます。

創業初年度は、売上が少ない一方で支出は多く見えるため、つい支出をまとめたくなる場面があります。それでも、後からきちんと説明できる決算書にするためには、最初の分類こそが重要です。

会計上の処理|原則は費用、ただし繰延資産計上も可能

会計上、創立費と開業費は、原則として支出時に費用処理します。ただし、繰延資産として計上することも認められています。

創立費については、原則として支出時に営業外費用として処理し、繰延資産に計上した場合には、会社成立のときから5年以内の効果の及ぶ期間にわたり定額法で償却します。開業費についても、原則は支出時の費用処理としつつ、繰延資産に計上した場合は開業のときから5年以内の効果の及ぶ期間で定額法により償却します。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第19号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い

したがって、会計上の選択肢は、大きく2つに整理できます。

処理方法内容実務上の影響
支出時に費用処理支払った期に費用として処理初年度の損益に費用が反映される
繰延資産に計上いったん資産計上し、一定期間で償却初年度の費用負担を平準化できるが、資産計上の根拠と償却方針が必要

ここで誤解してはいけないのは、繰延資産に計上したからといって、現金が戻ってくるわけではないという点です。

支払はすでに発生しています。繰延資産処理は、あくまで損益計算書上の費用認識のタイミングを調整する会計処理であって、資金繰りそのものを改善するものではありません。

創業期の資金計画では、創立費・開業費を含めた支払予定額を、実際の出金ベースで資金繰り表に反映させておく必要があります。

税務上の処理|創立費・開業費は任意償却の余地がある

税務上も、創立費・開業費は繰延資産に該当します。

繰延資産のうち一定のものについては、その額から既に損金算入された償却額を控除した金額が償却限度額とされています。つまり創立費・開業費については、税務上、未償却残高の範囲で損金経理した金額を損金算入する、いわゆる任意償却に近い運用が可能です。
出典:e-Gov法令検索|法人税法施行令

ただし、これを「利益が出た年に好きなだけ落とせる節税手段」とだけ捉えるのは危険です。

実務では、次の点を確認しておきます。

確認事項理由
そもそも創立費・開業費に該当するか固定資産、棚卸資産、前払費用、通常経費との区分が必要
会計上どう処理しているか税務上の損金算入には損金経理が関係する
初年度の決算書をどう見せたいか金融機関、投資家、取引先の見方に影響する
青色申告の承認申請を出しているか欠損金の繰越控除など、初年度の税務に影響する
将来の利益計画と整合しているか任意償却のタイミングは利益計画と連動する
会計方針として継続的に説明できるかIPO、M&A、金融機関説明では、恣意性が問題になることがある

新設法人が第1期から青色申告の承認を受けようとする場合、提出期限は、設立の日以後3か月を経過した日と、設立第1期の事業年度終了の日の、いずれか早い日の前日までとされています。設立直後の費用処理だけでなく、青色申告承認申請、棚卸資産の評価方法、減価償却方法の届出も、初年度申告に関わってきます。
出典:国税庁|No.5100 新設法人の届出書類

創立費・開業費の処理は、それ単体では完結しません。初年度の税務届出、会計方針、利益計画、資金繰りとセットで考えるべきものです。

「設立期間中の損益」は、どの期間を指すかで整理が変わる

「設立期間中の損益」という言葉は、実務上、やや曖昧に使われがちです。

少なくとも、次の3つに分けて考える必要があります。

期間法人の有無基本的な整理
設立登記前法人はまだ成立していない発起人・代表者個人の支出、または将来法人が負担すべき創立費等として整理
設立登記後・事業開始前法人は成立している開業準備費用、固定資産、前払費用、通常の法人取引として整理
事業開始後法人が営業活動を開始している通常の売上、売上原価、販売費及び一般管理費として処理

なかでも問題になりやすいのが、設立登記前にすでに売上が発生しているケースです。

たとえば、法人設立前に代表者個人が顧客と契約し、商品を納品し、代金を受け取っていた場合、それは原則として、個人側の売上・所得として整理すべき可能性があります。この取引を法人設立後に法人へ移すには、契約名義、請求書、入金口座、消費税、インボイス、売掛金の承継、事業譲渡の有無を確認しなければなりません。

一方、設立前に代表者が支払った定款認証費用や設立登記費用のように、会社設立のために通常必要な支出は、設立後に法人が負担すべき創立費として整理する余地があります。

つまり、設立前の取引は「法人のものにしたいから法人のもの」とはなりません。契約、請求、入金、納品、役務提供、消費税、証憑を確認し、法人に帰属させる合理的な根拠が必要です。

開業日をいつにするかは、単なる形式ではない

開業費を判断するうえで重要になるのが、「開業日」です。

開業日とは、形式的なホームページ公開日や名刺作成日ではなく、実際に事業を開始したといえる日を指します。店舗型事業であれば営業開始日、サービス業であれば顧客への役務提供開始日、物販であれば販売開始日、SaaSやアプリであれば有償提供開始日などが、一つの目安になります。

ただし、その判断は業種によって変わります。

業種・形態開業日判断の目安
飲食店・美容室・店舗型事業実際に顧客へ営業を開始した日
コンサルティング・士業・制作業顧客との契約・役務提供を開始した日
EC・物販商品販売を開始した日
SaaS・アプリ有償利用開始日、または課金開始日
製造業製品の販売活動、または製造販売体制が稼働した日
許認可業種許認可取得日と、実際の営業開始日を両方確認

プレオープン、試験販売、β版提供、モニター販売、クラウドファンディング、予約販売などがある場合は、さらに慎重な整理が必要です。売上が発生しているのに「まだ開業前」として処理してしまうと、実態と合わなくなることがあります。

開業日は、開業費の範囲だけでなく、売上計上、消費税、役員報酬、給与、社会保険、月次決算の開始月にまで影響していきます。

消費税・インボイスとの関係

創立費・開業費を整理するうえでは、消費税も見落とせません。

消費税の仕入税額控除を受けるためには、法定事項が記載された帳簿および請求書等の保存が要件とされています。適格請求書等保存方式のもとでは、適格請求書、適格簡易請求書、仕入明細書等や、それらの電磁的記録も関係してきます。
出典:国税庁|No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿及び請求書等の記載事項

設立前後の支出について、注意しておきたい点は次のとおりです。

論点確認すべきこと
請求書の宛名個人名か法人名か。法人設立前なら、誰が契約当事者か
支払者代表者個人か法人か。立替精算の記録があるか
インボイス適格請求書発行事業者からの請求か
税区分課税、非課税、不課税、対象外を分けているか
電子取引メール、PDF、クラウド領収書を電子保存しているか
課税事業者選択設備投資が大きい場合、消費税の届出判断と連動しているか

免税事業者である期間の支出、課税事業者を選択するかどうか、インボイス登録をするかどうかによって、消費税の取扱いは変わってきます。

特に、内装工事、設備投資、広告費、システム開発費など、消費税額が大きい支出があるときは、設立前に消費税の届出判断を確認しておくべきです。後になって「還付を受けられると思っていた」「届出期限を過ぎていた」とならないよう、資金計画と税務届出は一体で確認します。

証憑保存は、初年度決算の前から始まっている

創立費・開業費の判断で最も大切なのは、証憑と説明資料です。

法人税では、法人は帳簿を備え付けて取引を記録し、帳簿と、取引等に関して作成または受領した書類を、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければならないとされています。青色繰越欠損金が生じた事業年度などでは、10年間の保存が必要となる場合があります。
出典:国税庁|No.5930 帳簿書類等の保存期間

設立前後の支出については、次の資料を残しておきます。

資料残す理由
領収書・請求書支出の事実と金額を証明する
契約書・申込書誰が契約当事者かを確認する
振込明細・カード明細誰が支払ったかを確認する
立替精算書個人支払を法人が精算する根拠になる
定款・登記事項証明書会社成立日・事業目的・本店を確認する
取締役決定書・発起人決定書法人が負担する意思決定を示す
資金繰り表実際の出金時期と資金残高を説明する
固定資産台帳資産計上・減価償却の根拠になる
棚卸表商品・材料の在庫管理に必要
請求書控え・売上台帳事業開始日や売上計上時期を確認する

「領収書がある」だけでは足りません。

その支出が、会社設立のためなのか、開業準備のためなのか、通常営業のためなのか、それとも資産の取得なのか。そこまで説明できることが求められます。

設立前後費用台帳を作る

実務では、設立後すぐに「設立前後費用台帳」を作成しておくことをおすすめします。

最低限、次の項目を一覧にしておきます。

項目記載内容
支出日領収書・請求書の日付
支払日実際に支払った日
支払者代表者個人、発起人、法人、クレジットカードなど
支払先取引先名
内容何のための支出か
金額税込金額・税抜金額・消費税額
証憑領収書、請求書、契約書、メール、クラウド明細
契約名義個人名、法人名、屋号、未定など
事業との関係設立手続、開業準備、通常営業、資産取得、仕入など
会計処理案創立費、開業費、消耗品費、固定資産、棚卸資産など
消費税区分課税、非課税、不課税、対象外、インボイスの有無
精算状況役員立替金、未払金、精算済み、未精算
メモ判断理由、確認事項、専門家確認済みか

この台帳があれば、初年度決算で「この支出は何だったか」を一つずつ思い出す手間がなくなります。月次決算、資金繰り、融資面談、税務調査への対応にも、そのまま活かせます。

代表者が立て替えた場合の基本整理

法人設立の前後は、法人口座がまだ開設されていないため、代表者や発起人が費用を立て替える場面が多くなります。

この場合は、法人設立後に次のように整理します。

状況実務整理
法人が負担すべき創立費・開業費を代表者が支払った法人側で創立費・開業費等を認識し、相手科目を役員借入金または未払金として整理
法人が負担すべき固定資産を代表者が購入した固定資産として計上し、代表者立替として整理
個人事業の支出を法人が精算しようとしている個人事業の経費か、法人への事業譲渡・資産承継かを確認
代表者個人の私的支出を法人が支払った役員貸付金、役員報酬、給与課税等の問題になり得る

仕訳だけを見ると簡単に思えますが、重要なのは、その仕訳の前提です。

「誰が契約したのか」「誰が支払ったのか」「法人が負担すべき理由は何か」「いつ法人から精算したのか」。この経緯を残しておくことが欠かせません。

創立費・開業費を繰延資産にするか、費用処理するか

創立費・開業費を繰延資産にするか、支出時に費用処理するか。これは単なる節税判断ではありません。

次の観点から決めていきます。

判断観点確認すべきこと
初年度の損益初年度の赤字がどの程度になるか
青色欠損金欠損金の繰越控除を前提にできるか
金融機関対応初年度決算書をどう説明するか
投資家・株主対応会計方針の恣意性をどう避けるか
税務上の損金算入任意償却のタイミングをどう管理するか
会計方針の継続性翌期以降も説明できる処理か
資金繰り実際の出金はすでに発生していることを踏まえているか

創業初年度に大きな赤字が出る場合は、創立費・開業費を繰延資産にして、費用計上を後ろ倒しにしたいと考えることがあります。反対に、税務上の欠損金を活用する前提であれば、支出時の費用処理を選ぶこともあります。

どちらが正しいかは、一律には決まりません。

大切なのは、創業計画、資金繰り、初年度決算、税務申告、金融機関への説明を踏まえたうえで、その会社にとって説明可能な処理を選ぶことです。

創業融資・金融機関対応との関係

創立費・開業費の整理は、創業融資にも影響します。

金融機関は、創業者が何にいくら使ったのか、自己資金をどう準備し、どの資金使途に充てるのかを確認します。設立前後の支出を整理できていないと、次のような説明が曖昧になってしまいます。

  • 自己資金はいくら残っているのか
  • 設立費用にいくら使ったのか
  • 設備資金と運転資金はいくら必要なのか
  • すでに支払った費用と、これから支払う費用は何か
  • 代表者立替分を法人が返済する予定はあるのか
  • 売上が立つまで、何か月分の固定費が必要なのか

創立費・開業費は会計科目ですが、金融機関対応の場では、資金使途そのものです。

「設立費用」「開業準備費用」「設備投資」「運転資金」「生活資金」を分けて説明できるようにしておく必要があります。

初年度決算で確認すべきポイント

初年度決算では、設立前後の支出について次の点を確認します。

確認項目内容
創立費法人設立のための費用だけが含まれているか
開業費会社成立後、事業開始前の開業準備費用だけが含まれているか
事業開始日開業費と通常経費の境目が明確か
固定資産内装、機械、什器、ソフトウェアが正しく資産計上されているか
棚卸資産商品・材料が在庫として管理されているか
前払費用家賃、保険料、クラウド費用などの期間対応が必要か
役員立替金代表者が立て替えた支出が精算・残高管理されているか
消費税インボイス、税区分、課税事業者選択の判断が整っているか
青色申告青色申告承認申請の期限に間に合っているか
証憑保存領収書、請求書、契約書、電子取引データが保存されているか

決算直前になって初めて整理しようとすると、支出の目的や契約名義が分からなくなりがちです。創業直後から月次で確認しておくことで、初年度決算の負担は大きく減らせます。

よくある判断ミス

設立前の支出をすべて創立費にしてしまう

設立前に支払ったものでも、法人設立のための支出とは限りません。個人事業の営業費、個人的な学習費、将来の事業構想に関する支出などは、法人の創立費に入れる前に、慎重な確認が必要です。

設立後の支出をすべて開業費にしてしまう

設立後であっても、固定資産、棚卸資産、前払費用、通常経費に分ける必要があります。特に内装工事や商品仕入れを開業費に入れてしまうと、資産管理や原価管理が崩れてしまいます。

開業日を曖昧にする

開業日が曖昧だと、開業費と通常経費の境目も曖昧になります。初回売上、初回請求、サービス提供開始日、店舗営業開始日などを確認し、実態に合った日付を決めます。

立替精算を記録しない

代表者が立て替えた支出を、法人が後でまとめて返金する場合、明細がないと、役員貸付金・役員報酬・私的支出との区分が曖昧になります。立替精算書と証憑のひも付けが必要です。

繰延資産処理を「節税」だけで決める

創立費・開業費をいつ償却するかは、税務上の効果だけでなく、決算書の見え方、金融機関への説明、会計方針の継続性にも影響します。利益調整に見える処理にならないよう、判断理由を残しておくべきです。

消費税の届出判断を後回しにする

設立初年度に設備投資や開業準備費用が大きい場合は、消費税の課税事業者選択やインボイス登録の判断が重要になります。届出期限を過ぎると、後から選択できなくなることがあります。

実務での進め方

設立前後の支出整理は、次の順番で進めると、実務が安定します。

  1. 設立日、開業日、初回売上日を確認する
  2. 設立前後のすべての支出を一覧化する
  3. 領収書、請求書、契約書、カード明細、振込明細を集める
  4. 支払者と契約名義を確認する
  5. 支出目的ごとに、創立費、開業費、通常経費、固定資産、棚卸資産、前払費用に分類する
  6. 代表者立替分を役員借入金または未払金として整理する
  7. 消費税区分とインボイスの有無を確認する
  8. 会計上、費用処理するか繰延資産に計上するかを決める
  9. 税務上の償却方針を、初年度の利益計画と合わせて確認する
  10. 月次決算と資金繰り表に反映する

創業期は、事業そのものに集中したい時期です。だからこそ、最初の支出整理を後回しにすると、初年度決算で大きな負担になってしまいます。最初の1〜2か月で台帳を作り、月次で整理していくことが、実務上の近道です。

専門家に相談すべき場面

次のような場合は、早めに税理士・公認会計士へ相談することをおすすめします。

  • 設立前にすでに売上が発生している
  • 個人事業から法人成りする
  • 代表者個人名義の契約を法人へ移す
  • 内装工事、機械、ソフトウェアなど、大きな投資がある
  • 補助金や創業融資を利用する予定がある
  • インボイス登録や消費税還付を検討している
  • 設立前後の支出が、代表者個人のカード・口座に混在している
  • 開業日が明確でない
  • 共同創業者や複数株主が費用を立て替えている
  • 初年度決算で、赤字または黒字の見通しが大きく変わりそう

創立費・開業費の判断は、一見すると勘定科目の問題に見えて、実際には税務、会社法、契約、資金繰り、金融機関への説明、月次決算にまたがる問題です。

「この領収書は経費になりますか」ではなく、「この支出は、いつ、誰が、何のために支払い、法人がどのように負担すべきものか」。そうした視点で整理することが重要です。

創立費・開業費の整理でお悩みの方へ

法人設立前後の支出は、金額だけでなく、時期、目的、契約名義、支払者、証憑、消費税区分まで確認して初めて、後からきちんと説明できる会計処理になります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人設立後の初年度決算を見据えて、創立費・開業費・固定資産・棚卸資産・代表者立替金・消費税・インボイス・資金繰りを一体で整理しています。

設立前に支払った費用をどう処理すべきか。開業費として繰延資産にするか、初年度の費用にするか。代表者個人の立替分をどう精算すべきか。消費税や創業融資の資料とどう整合させるべきか。初年度から月次決算に耐える経理体制を、どう作っていくべきか。

こうした点を自社の実態に合わせて確認したい場合は、お問い合わせページから、現在の状況をお聞かせください。設立前後の支出を、初年度決算とその後の経営管理に耐える形で整理いたします。

振り返り|創立費・開業費・設立期間中の損益の重要ポイント

論点重要ポイント実務上の確認事項
創立費法人設立のために支出した費用定款、登記、登録免許税、司法書士報酬などが該当しやすい
開業費法人設立後、事業開始前の開業準備費用開業前広告、調査費、準備期間の家賃・通信費・交通費など
固定資産長期利用する資産は創立費・開業費に混ぜない内装工事、設備、什器、パソコン、ソフトウェアを確認
棚卸資産販売目的の商品・材料は在庫管理が必要開業前に仕入れた商品でも、売上原価・在庫と連動する
設立前支出法人がまだ存在しない期間の支出発起人・代表者個人の立替か、法人負担すべき創立費かを確認
開業日開業費と通常経費の境目初回売上、サービス開始、店舗営業開始など、実態で判断
会計処理原則は費用処理、繰延資産計上も可能繰延資産にする場合は、5年以内の定額償却が基本
税務処理創立費・開業費は任意償却の余地がある損金経理、利益計画、青色申告、初年度申告と連動
消費税仕入税額控除には帳簿・請求書等の保存が必要インボイス、税区分、課税事業者選択を確認
証憑保存領収書だけでなく、契約・支払・目的を残す原則7年、欠損金がある場合は10年保存が関係する
代表者立替個人口座・カード支払を法人で整理する立替精算書、役員借入金、未払金の管理が必要
資金繰り繰延資産処理をしても、出金は消えない資金繰り表では、実際の支払時期で管理する
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