経営支援制度について調べ始めると、補助金、助成金、税制優遇、融資、信用保証、共済、認定制度と、次々に制度名が出てきます。一見すると、どれも「会社にとって有利な制度」のように映ります。
しかし実務では、それぞれの制度が会社に与える影響はまったく異なります。返済不要の資金が入る制度もあれば、税額を減らす制度もある。資金を借りやすくする制度もあれば、将来の退職金や取引先の倒産リスクに備える制度もあります。
さらに、制度を使うためには、事業計画の作成、認定手続、証憑管理、実績報告、税務申告、月次管理といった作業が求められることも少なくありません。
そう考えると、経営支援制度は「使える制度を探す」だけでは足りないことがわかります。大切なのは、自社の事業目的、資金繰り、税務影響、管理体制、そして将来の説明責任まで含めて、どの制度を使うべきかを整理することです。
この記事では、個別制度の細かな要件ではなく、経営支援制度を大きな類型に分けたうえで、それぞれの役割と、判断における違いを整理していきます。
中小企業向けの支援情報は、中小企業庁の支援策ページやミラサポplusで案内されています。ミラサポplusは、中小企業・小規模事業者に向けて補助金等のサポートを案内する国のサイトです。制度は年度、予算、税制改正、公募状況によって変わりますので、実際の判断にあたっては、必ず最新の公式情報をご確認ください。
出典:中小企業庁|支援策チラシ一覧
出典:中小企業庁・ミラサポplus|補助金・助成金 中小企業支援サイト
経営支援制度は「お金がもらえる制度」だけではない
経営支援制度と聞くと、まず補助金や助成金を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
もちろん、補助金や助成金は重要です。設備投資、販路開拓、IT導入、人材育成、雇用、賃上げ、事業承継といった取り組みを後押しする制度として、活用できる可能性があります。
ただ、経営支援制度はそれだけではありません。
たとえば設備投資であれば、補助金に限らず、中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制といった税制優遇も検討の対象になります。中小企業経営強化税制は、認定を受けた経営力向上計画に基づいて対象設備を取得等した場合に、即時償却または税額控除を選択できる制度です。中小企業投資促進税制も、対象設備を取得等した場合に、特別償却または税額控除を選択できる仕組みになっています。
出典:中小企業庁|中小企業経営強化税制
出典:中小企業庁|中小企業投資促進税制
資金繰りの面では、日本政策金融公庫の融資制度や、信用保証協会の信用保証制度も選択肢になります。日本政策金融公庫は、事業に取り組む方々を支援する政策金融機関として事業資金の融資制度を設けています。信用保証制度は、中小企業・小規模事業者、金融機関、信用保証協会の三者を基本的な当事者とする仕組みです。
出典:日本政策金融公庫|事業資金
出典:全国信用保証協会連合会|もっと知りたい信用保証
将来の退職金や取引先の倒産リスクへの備えということであれば、小規模企業共済、経営セーフティ共済、中小企業退職金共済といった共済制度も検討の対象です。小規模企業共済は小規模企業の経営者にとっての退職金にあたる制度であり、経営セーフティ共済は取引先が倒産した際の資金手当てに備える制度です。中退共制度は、独力では退職金制度を設けることが難しい中小企業について、事業主の相互共済の仕組みと国の援助によって退職金制度を設けるものです。
出典:中小機構|共済サポートnavi
出典:厚生労働省|中小企業退職金共済制度(中退共制度)
このように、経営支援制度は「お金をもらう制度」にとどまらず、複数の機能を持っています。
- 資金を受け取る
- 税負担を軽減する
- 資金調達をしやすくする
- 将来のリスクに備える
- 経営計画を公的に認定してもらう
- 専門家支援や金融機関対応につなげる
- 承継、M&A、再生、廃業といった経営局面を支援する
この違いを整理しないまま制度を探すと、「補助金はもらえるが資金繰りが苦しい」「税制優遇は使えるが申告や証憑が整っていない」「融資を受けたが返済原資が見えていない」といった事態が起こりやすくなります。
まず押さえるべき6つの制度類型
経営支援制度は、細かく分けていくと非常に数が多くなります。ただ、経営判断に使うという目的からすれば、まずは大きく6つに整理しておくと理解しやすくなります。
1つ目は、補助金・給付型の制度。
2つ目は、助成金型の制度。
3つ目は、税制優遇型の制度。
4つ目は、融資・信用保証型の制度。
5つ目は、共済型の制度。
6つ目は、認定制度・計画認定型の制度です。
順番に見ていきましょう。
補助金・給付型|投資や取り組みを後押しするが、後払いと管理負担がある
補助金・給付型の制度は、一定の事業計画や取り組みに対して、対象経費の一部を補助するものです。販路開拓、設備投資、IT導入、省力化、事業承継、M&A、新事業進出といった場面で検討されることが多いでしょう。ミラサポplusでは、補助金を「知る」から「受け取る」までの流れや必要書類が整理され、主要な補助金への案内も用意されています。
出典:中小企業庁・ミラサポplus|補助金とは
出典:中小企業庁・ミラサポplus|人気の補助金
補助金の最大の特徴は、返済不要の資金であることです。この点だけを見れば、たしかに魅力的に映ります。
しかし実務上は、注意すべき点が少なくありません。
補助金は、原則として採択されなければ使えません。申請すれば必ず受け取れるものではないのです。
加えて、多くの補助金では、まず会社が支出を行い、その後の実績報告や検査を経て補助金が支払われます。つまり、入金される前に、自己資金や融資で支出を先行させる必要があります。ここを見落とすと、採択はされたのに、支払いの時期に資金が足りない、という事態が起こります。
さらに補助金では、対象経費、対象期間、発注・契約・支払方法、証憑保存、計画変更、実績報告、財産処分制限といったルールが定められます。対象外の経費が混ざっていたり、証憑が不足していたり、交付決定前に発注していたりすれば、補助対象から外れる可能性があります。
そのため、補助金を検討するときは、次の順番で考える必要があります。
まず、その投資や取り組みは、補助金がなくても自社にとって必要なものか。次に、不採択でも実行するのか、それとも採択された場合にだけ実行するのか。そのうえで、支出時期、入金時期、自己資金、融資、税務処理、実績報告までを見通しておく。
補助金は「もらえるかどうか」ではなく、「その補助事業を実行する経営上の意味があるか」から判断すべき制度です。
助成金型|雇用・人材育成・労務管理と一体で判断する制度
助成金型の制度は、雇用、労働、人材育成、職場環境整備といった分野に多く見られます。厚生労働省は事業主向けに雇用関係助成金を案内しており、雇用調整、産業雇用安定、早期再就職支援、特定求職者雇用開発、トライアル雇用、地域雇用開発など、さまざまな助成金が整理されています。
出典:厚生労働省|事業主の方のための雇用関係助成金
出典:厚生労働省|雇用関係助成金一覧
助成金は、補助金と同じく「お金が受け取れる制度」と見られがちです。しかし、その性格は補助金とは異なります。
補助金は、設備投資や新規事業など、特定の事業計画や経費に対する支援として設計されることが多い制度です。これに対して雇用関係助成金は、採用、雇用維持、教育訓練、処遇改善、両立支援など、労務管理上の取り組みと密接に結びついています。
助成金で特に重要なのは、申請時点で書類を整えればよい、というものではないという点です。就業規則、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿、労働時間管理、教育訓練記録など、日常の労務管理そのものが制度利用の前提になります。後から形式的に整えようとしても、要件を満たせないことがあります。
また、助成金を使うかどうかは、人件費や労務管理と切り離しては判断できません。
採用を増やすのか。賃上げを続けられるのか。教育訓練の時間を確保できるのか。制度を導入した後も、管理を継続できるのか。
助成金は、単発の受給額だけで判断するものではありません。人材戦略、人件費計画、労務管理体制、月次損益を合わせて検討すべき制度です。
税制優遇型|現金が入る制度ではなく、税負担を調整する制度
税制優遇型の制度は、一定の投資や賃上げなどを行った場合に、特別償却、即時償却、税額控除といった税務上の優遇を受けられるものです。
たとえば賃上げ促進税制は、給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除として設けられています。中小企業向けの賃上げ促進税制については、中小企業庁や国税庁が制度情報を公表しています。
出典:中小企業庁|中小企業向け「賃上げ促進税制」
出典:国税庁|No.5927-2 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)
税制優遇型で特に意識しておきたいのは、補助金とは違い、原則として会社に直接お金が入ってくる制度ではない、という点です。
税額控除は、一定額を法人税等から控除する制度です。特別償却や即時償却は、減価償却費を通常より前倒しで計上する制度です。
いずれも税負担を軽減または繰り延べる効果を持ちますが、その効果は、会社の利益水準、法人税額、資産の取得時期、申告要件、控除限度額などによって変わってきます。
たとえば税額控除は、そもそも税額がなければ十分に使い切れないことがあります。特別償却には初年度の税負担を抑える効果がありますが、将来年度の減価償却費は減りますから、効果を課税の繰延べとして理解すべき場面もあります。
また、税制優遇では、申告書の添付書類、明細書、取得価額、対象資産、事業供用時期、認定計画、証明書といった管理が必要になることがあります。設備投資に関する税制のなかには、取得前の証明書取得や計画認定が問題になるものもあり、購入した後に検討したのでは間に合わない、ということも起こり得ます。
したがって税制優遇型の制度は、「節税できるか」だけではなく、次の観点から判断する必要があります。
- その投資や賃上げは、経営上必要なものか
- 税額控除と特別償却のどちらが自社に合うか
- 税金だけでなく、資金繰りにどのように影響するか
- 申告要件や保存書類を満たせるか
- 将来年度の損益や税負担まで見て合理的か
税制優遇は、制度名だけで判断すると効果を誤りやすい分野です。会計処理、税務申告、資金繰りを一体で確認しておく必要があります。
融資型|資金は入るが、返済原資の説明が必要になる制度
融資型の制度は、事業資金を借りるものです。補助金や助成金と違い、融資には返済が伴います。
ですから、融資を受けるかどうかは、借りられるかどうかではなく、返せるかどうかを中心に判断することになります。
制度融資や政策金融を検討する際には、資金使途が重要になります。設備資金なのか、運転資金なのか、創業資金なのか、増加運転資金なのか、あるいは借換資金なのか。それによって、説明すべき内容が変わってきます。
また融資では、事業計画、資金繰り表、試算表、決算書、借入一覧、返済予定、投資効果などを整理しておく必要があります。
補助金と融資は、しばしば併せて考えるべきものです。補助金は後払いになることが多いため、補助対象事業を実行するには立替資金が必要になります。補助金の入金を待つだけでは、資金が不足する可能性があるのです。
一方で、融資を受けすぎれば、返済負担は重くなります。制度を活用して設備投資や新事業に取り組む場合であっても、その投資から生まれる利益やキャッシュ・フローで返済できるかどうかは、必ず確認しておきたいところです。
融資型の制度は、資金不足を一時的に埋める手段であると同時に、将来の返済義務を負う制度でもあります。資金使途、必要額、返済原資、返済期間、金利、既存借入との関係を整理し、金融機関に説明できる状態にしておくことが重要です。
信用保証型|融資を受けやすくするが、借入そのものがなくなるわけではない
信用保証型の制度は、信用保証協会が中小企業・小規模事業者の資金調達を支援する仕組みです。
金融機関からの融資に信用保証協会が関与することで、融資枠の拡大や長期借入などの可能性が広がります。信用保証制度は、中小企業・小規模事業者、金融機関、信用保証協会の三者を基本的な当事者とする仕組みとして組み立てられています。
出典:全国信用保証協会連合会|もっと知りたい信用保証
信用保証には、融資を受けやすくする効果があります。ただし、借入が返済不要になるわけではありません。
保証付き融資も、会社にとっては借入です。返済義務があり、保証料が発生し、将来の資金繰りに影響します。
しかも、信用保証の枠には限りがあります。短期的に保証付き融資で資金を確保できたとしても、将来、本当に必要な設備投資や運転資金の場面で保証余力が足りなくなる可能性もあるのです。
信用保証型の制度を判断するときは、次の点が重要になります。
- 保証付き融資を何の資金使途に使うのか
- 返済原資は何か
- 既存借入との返済バランスはどうか
- 保証枠を今使うべきか、将来に残すべきか
- プロパー融資との関係をどう考えるか
信用保証は、資金調達を支える重要な仕組みです。ただ、制度があるからという理由で借入を判断するのではなく、資金繰り表と返済計画のなかに位置づけて考える必要があります。
共済型|節税ではなく、退職金・倒産リスク・事業継続に備える制度
共済型の制度は、将来のリスクや資金需要に備えるためのものです。
小規模企業共済は、経営者個人の退職金準備として使われる制度です。経営セーフティ共済は、取引先の倒産による連鎖倒産や経営難に備える制度です。中小企業退職金共済は、従業員の退職金制度を整備するための制度です。
共済制度は、税務上のメリットが注目されがちです。掛金の所得控除や損金算入といった効果を持つ制度もあります。
しかし共済は、「節税商品」としてだけ判断すべきものではありません。
共済には、資金の拘束が伴います。将来の解約時や受取時には課税関係が生じることもあります。掛金を支払うことで、短期の手元資金が減ることもあります。
また、経営セーフティ共済は、取引先倒産時の資金手当てという本来の目的を理解したうえで使うべき制度です。中小企業倒産防止共済は、取引先企業が倒産した場合に、積み立てた掛金総額の10倍の範囲内、最高8,000万円で、回収が困難となった売掛債権等の額以内の共済金の貸付けを受けられる仕組みです。
出典:中小企業庁|中小企業倒産防止共済制度について
共済型の制度を判断するときは、次の観点が重要です。
- 誰のための資金準備か
- いつ資金が必要になるのか
- 掛金支出により手元資金が不足しないか
- 税務メリットと資金拘束のバランスはどうか
- 解約時、受取時、貸付時の影響を理解しているか
共済は、短期の節税効果だけを見ていると判断を誤ります。退職金、取引先リスク、従業員の福利厚生、事業継続、そして資金繰りまで含めて検討すべき制度です。
認定制度・計画認定型|制度利用の入口であり、経営管理の型でもある
認定制度・計画認定型の制度は、一定の計画について国や自治体等の認定を受けるものです。代表的なものとして、経営力向上計画、経営革新計画、先端設備等導入計画、経営改善計画などが挙げられます。
また、認定経営革新等支援機関が関与する制度もあります。認定経営革新等支援機関は、税務、金融、企業財務に関する専門的知識や支援実務の経験が一定レベル以上の個人、法人、中小企業支援機関等を認定し、中小企業に対して専門性の高い支援を行う体制を整えるための制度です。
出典:中小企業庁|認定経営革新等支援機関
認定制度は、税制優遇や金融支援の入口になることがあります。たとえば経営力向上計画は、人材育成、コスト管理、設備投資など、自社の経営力を向上させるための計画であり、認定を受けた事業者は税制や金融の支援等を受けることができます。
出典:中小企業庁|経営力向上支援
出典:経営力向上計画申請プラットフォーム|制度のご紹介
認定制度で大切なのは、認定を受けること自体を目的にしないことです。
計画認定は、あくまで経営課題を整理し、実行計画を作り、税制や金融支援につなげるための手段にすぎません。認定を受けても、計画を実行しなければ意味がないのです。
一方で、認定制度は、会社の数字や課題を整理する機会にもなります。
現状の売上、利益、資金繰り、設備、人材、管理体制を確認する。どの経営課題を解決するのかを明確にする。必要な投資や施策を整理する。そして実行後に、計画と実績を比較する。
この流れをつくることができれば、認定制度は単なる手続ではなく、経営管理の型になっていきます。
制度類型ごとの「効き方」はまったく違う
ここまで見てきたとおり、経営支援制度は、類型ごとに会社への効き方が異なります。
補助金は、対象事業の支出の一部を後から補填する制度です。助成金は、雇用や労務管理上の取り組みに対して支給される制度です。税制優遇は、法人税等の負担を軽減または繰り延べる制度です。融資は、資金を調達する代わりに返済義務を負う制度です。信用保証は、融資を受けやすくする制度です。共済は、将来の退職金や倒産リスクに備える制度です。認定制度は、税制や金融支援の入口となると同時に、計画策定と実行管理の枠組みにもなります。
同じ「支援制度」という言葉でくくられていても、資金繰りへの影響、税務への影響、管理負担、実行後の責任は、まったく違うのです。
だからこそ制度選択では、次の順番で考えることが重要になります。
制度を選ぶ前に確認すべき順番
最初に確認すべきなのは、制度名ではありません。自社の目的です。
何のために制度を使うのか。設備投資なのか。採用なのか。賃上げなのか。資金繰りの安定なのか。事業承継なのか。M&Aなのか。それとも経営改善なのか。
目的が曖昧なまま制度を探せば、使えそうな制度に合わせて事業計画を作ることになります。この進め方では、計画の実行力は弱くなってしまいます。
次に確認すべきなのは、資金繰りです。
補助金が後払いであれば、先に支出できる資金があるか。税制優遇であれば、実際に税額が発生するか。融資であれば、返済原資があるか。共済であれば、掛金を支払っても手元資金が不足しないか。
その次に、税務・会計処理を確認します。
補助金では、収益計上や圧縮記帳の検討が必要になることがあります。税額控除や特別償却では、申告要件や保存資料が問題になります。助成金や補助金は、消費税の取扱いを含めて確認が必要になる場面もあります。共済や退職金制度は、掛金支出時だけでなく、解約時・受取時の課税関係まで見ておく必要があります。
最後に、実行後の管理を確認します。
証憑は保存できるか。月次で実績を追えるか。報告義務に対応できるか。金融機関や後継者に説明できるか。制度活用の後に、売上、利益、資金繰りがどう変わったかを確認できるか。
この順番を踏むことで、制度を「使えるかどうか」ではなく、「自社にとって合理的か」で判断しやすくなります。
経営支援制度を使わない判断も、重要な経営判断である
制度活用に前向きな会社ほど、使える制度を逃したくないと考えるものです。その感覚は自然なものだと思います。
しかし、制度は使えば必ずよい、というものではありません。
補助金のために、本来は不要な投資をする。税額控除のために、収益計画のない設備を取得する。助成金のために、管理できない労務制度を導入する。節税目的で共済掛金を増やし、手元資金が不足する。返済原資が見えないまま、制度融資を利用する。
このような使い方をすれば、制度は会社を助けるどころか、経営判断そのものを歪めてしまうことがあります。
制度を使わないという判断も、立派な経営判断です。
いまは資金繰りを優先する。設備投資は来期に回す。補助金ではなく融資でスピードを優先する。税制優遇よりも手元資金を残す。認定制度に取り組む前に、月次決算と資金繰り表を整える。
こうした判断が合理的な場面も、確かにあるのです。
経営支援制度は、目的ではありません。自社の経営課題を解決するための、選択肢の一つです。
制度情報を見るときに注意すべきこと
制度情報は、常に更新されていきます。
補助金は、年度予算や補正予算、公募回によって内容が変わります。助成金は、雇用政策や労働関係の改正によって要件が見直されます。税制優遇は、税制改正により、適用期限、対象者、対象設備、控除率、上乗せ要件などが変わります。認定制度や金融支援も、制度改正や自治体ごとの運用によって内容が変わることがあります。
ですから、制度情報を確認するときには、次の点を意識しておきたいところです。
- いつ時点の情報か
- 国の制度か、自治体の制度か
- 公式情報か、解説記事か
- 公募要領、手引き、Q&A、申請様式が最新版か
- 自社の事業年度や投資時期に適用されるか
- 税制改正や経過措置が関係しないか
- 併用可否や二重受給制限がないか
特に税制や補助金は、「以前は使えた」「前回の公募では対象だった」という情報だけでは判断できません。
制度利用を具体的に検討する段階では、必ず公式情報、最新の公募要領、税法・通達、申告要件を確認する必要があります。
専門家に相談すべきタイミング
経営支援制度には、自社で調べられる部分も多くあります。
ただ、次のような場面では、早めに専門家へ相談されたほうがよいと考えています。
- 複数制度の併用を検討している
- 設備投資と税制優遇を同時に検討している
- 補助金を前提に大きな支出を予定している
- 融資と補助金を組み合わせたい
- 賃上げ、助成金、税額控除を一体で考えたい
- 事業承継やM&Aに関する制度を使いたい
- 経営改善計画や金融機関対応が必要である
- グループ会社、医療法人、非上場株式、組織再編など個別性の高い論点がある
- 制度を使った後の会計処理、税務処理、証憑管理に不安がある
相談の目的は、「どの制度が使えるか」を聞くことだけではありません。むしろ重要なのは、次のような問いを整理することです。
この制度を使う目的は何か。自社の資金繰りで実行できるか。税務上、どのような影響があるか。他の制度と比べて合理的か。使わないほうがよい可能性はないか。実行後に、どの数字を確認すべきか。金融機関や後継者に説明できる状態になるか。
制度活用を経営判断として扱うためには、会計、税務、財務、資金繰り、経営計画を切り離さずに整理していく必要があります。
制度を探す前に、まず自社の判断軸を持つ
経営支援制度は、会社にとって有効な選択肢になり得ます。しかし、制度が多いからこそ、判断軸を持たないまま探し始めると、かえって迷いやすくなります。
補助金は魅力的に見えますが、後払い、採択の不確実性、証憑管理、実績報告が伴います。助成金は有効ですが、日常の労務管理が前提になります。税制優遇には効果がありますが、税額や申告要件、将来年度への影響を確認しなければなりません。融資や保証は資金調達に役立つ一方で、返済義務と資金使途の説明が求められます。共済は備えになりますが、資金拘束と、受取時・解約時の影響があります。認定制度は支援策の入口になりますが、計画を作って終わりではなく、実行とモニタリングが欠かせません。
制度選択で大切なのは、「使える制度は何か」だけではないのです。
自社にとって本当に必要な制度は何か。他の選択肢と比べて合理的か。資金繰り、税務、会計、管理体制まで含めて実行できるか。制度を使った後に、成果を数字で説明できるか。
この視点を持てるかどうかで、制度活用の質は大きく変わります。
制度活用の判断に迷う場合は、早い段階で整理することが重要です
経営支援制度には、申請期限、取得前手続、認定前手続、支出時期、事業期間、申告期限など、タイミングが重要になるものが少なくありません。
「設備を買った後に税制を調べる」
「支出した後に補助金の対象か確認する」
「賃上げをした後に税額控除の要件を確認する」
「資金が不足してから融資や保証を探す」
こうした順番になってしまうと、選べる選択肢が限られてしまうことがあります。
制度活用を検討されているのであれば、制度名を決める前に、事業目的、資金計画、税務影響、必要資料、実行後の管理を整理しておくことが重要です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、補助金・税制優遇・融資・認定制度などを単独で見るのではなく、月次の数字、資金繰り、事業計画、税務処理、実行後の管理まで含めて、制度活用の判断材料を整理するご支援を行っています。
制度を使うべきか迷っている場合、あるいは複数の制度を比較したい場合は、現在の状況と検討中の取り組みを整理したうえで、まずはご相談ください。お問い合わせページから、制度活用に関するご相談内容をお送りいただけます。
この記事の振り返り
| 制度類型 | 主な役割 | 資金・税務への影響 | 注意すべき点 | 判断のポイント |
|---|---|---|---|---|
| 補助金・給付型 | 投資や取り組みの一部を補助する | 後日入金されることが多い | 後払い、不採択、対象外経費、実績報告 | 補助金がなくても必要な事業か |
| 助成金型 | 雇用・人材育成・労務施策を支援する | 支給要件を満たせば資金効果がある | 労務管理、就業規則、賃金台帳、記録 | 日常管理を継続できるか |
| 税制優遇型 | 税額控除・特別償却等で税負担を調整する | 税額軽減または課税繰延の効果 | 申告要件、保存資料、控除限度、将来影響 | 税金だけでなく資金繰りも見ているか |
| 融資型 | 必要資金を借り入れる | 入金はあるが返済義務がある | 返済原資、資金使途、既存借入 | 借りられるかではなく返せるか |
| 信用保証型 | 融資を受けやすくする | 保証付き融資として資金調達を支える | 保証料、保証枠、返済義務 | 保証枠をどの資金使途に使うか |
| 共済型 | 退職金・倒産リスク・事業継続に備える | 掛金支出、所得控除・損金算入等の効果 | 資金拘束、解約時・受取時の課税 | 節税ではなく備えとして合理的か |
| 認定制度・計画認定型 | 税制・金融支援の入口、計画管理の枠組み | 税制や金融支援につながる場合がある | 認定前手続、計画実行、モニタリング | 認定後に実行管理できるか |