不動産を取得すると、売買代金のほかにも実に多くの支払が発生します。
固定資産税・都市計画税の精算金、仲介手数料、司法書士報酬、登録免許税、不動産取得税、印紙代、火災保険料、融資関係手数料、管理費・修繕積立金の精算金、上下水道やガスの負担金、測量費、建物診断費、決済立会料。決済明細を眺めると、これらが「諸費用」「清算金」「立替金」「登記費用」といった名称でひとまとめに表示されていることも少なくありません。
ところが消費税の判断において、この一括処理こそが最も危うい入り口になります。
固定資産税等精算金は、名前に「税」と付いていても、買主が地方公共団体へ納める固定資産税そのものではありません。仲介手数料は、たとえ土地の売買に関するものであっても、不動産会社の仲介役務に対する対価です。司法書士への支払は、司法書士報酬と登録免許税等の立替部分とを切り分けて確認する必要があります。保険料に至っては、建物取得に関連していても課税仕入れとは限りません。
本稿では、不動産決済明細に登場する固定資産税等精算金・仲介手数料・登記費用・司法書士報酬・保険料・各種負担金について、消費税の課税区分、仕入税額控除、インボイス、会計処理、そして税務調査対応という観点から順に整理していきます。
なお、本稿は2026年6月26日を確認基準日としています。
まず結論|不動産決済明細は「総額」ではなく「項目別」に見る
不動産取得時の消費税判断では、決済総額をひとつの税区分でまとめて処理してはいけません。判断の出発点は、次の四つです。
第一に、その支払が「不動産そのものの対価」なのか、それとも「別の役務・手数料の対価」なのかを分けます。
第二に、不動産そのものの対価であれば、土地部分か建物部分かを分けます。土地の譲渡は非課税ですが、事業者が事業として行う建物の譲渡は課税対象となるからです。
第三に、手数料や報酬であれば、誰がどの役務を提供したのかを確認します。仲介、司法書士業務、測量、建物診断、登記申請補助などは、それぞれ役務提供の対価として消費税の課税対象となり得ます。
第四に、税金・保険料・法令に基づく手数料・立替金であれば、課税仕入れになるかどうかを別途確認します。登録免許税、不動産取得税、印紙税などは、そもそも消費税を支払っているわけではありません。
消費税法上、課税対象となる「資産の譲渡等」とは、事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供を指します。仲介や専門家による業務提供も、この役務の提供に含まれます。
出典:国税庁|No.6105 課税の対象 出典:国税庁|No.6117 『資産の譲渡等』とは
固定資産税等精算金|「税金の負担」ではなく「売買対価の一部」
不動産売買では、売主と買主の間で、固定資産税・都市計画税の未経過分を日割りで精算するのが一般的です。
たとえば、1月1日時点の所有者である売主がその年度の固定資産税を負担し、引渡日以後の期間に対応する金額を買主が売主へ支払う、という処理です。
この支払は、名称だけを見ると「固定資産税を買主が負担した」ように映ります。しかし消費税の世界では、買主が地方公共団体へ固定資産税を納付したわけではありません。あくまで売主と買主の合意に基づく私人間の利益調整であり、不動産の譲渡対価の一部として扱います。
不動産売買にあたり固定資産税・都市計画税の未経過分を買主が分担する場合、その分担金は地方公共団体に納付すべき固定資産税そのものではなく、不動産の譲渡対価の一部を構成するものとして課税の対象になります。
出典:国税庁|未経過固定資産税等の取扱い
ここでいう「課税の対象になる」とは、単純に全額を10%で課税するという意味ではありません。売買対象が土地なのか建物なのかに連動します。
土地に対応する固定資産税等精算金は、土地譲渡の対価の一部です。土地の譲渡は非課税取引にあたります。
建物に対応する固定資産税等精算金は、建物譲渡の対価の一部です。売主が事業者として課税対象となる建物を譲渡している場合には、建物売買代金と同じく課税対象として扱います。
したがって、土地建物の一括売買では、固定資産税等精算金についても土地対応分と建物対応分に区分しておく必要があります。
なお、土地の譲渡および貸付けは、借地権など土地の上に存する権利を含めて非課税取引とされています。
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引
固定資産税等精算金を「租税公課」にしてはいけない
買主側でとりわけ多い誤りが、固定資産税等精算金を「租税公課」として処理してしまうことです。
買主は、その年度の固定資産税の納税義務者ではありません。売主に対して支払った精算金は、税金そのものではなく、不動産を取得するための対価の一部にほかなりません。
所得税の質疑応答事例においても、賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税等清算金は、購入した賃貸用アパートの取得価額に算入されるため、その全額をその年分の不動産所得の必要経費に算入することはできないとされています。
出典:国税庁|賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて
税務調査の現場でも、不動産取得時に売主へ支払った固定資産税精算金を租税公課として損金処理していた点に着目され、固定資産税精算金は売買対価そのものとして不動産の取得価額に含めるべきものと整理された事例があります。
本稿では、法人税・所得税上の取得価額処理そのものには深入りしません。ただし消費税の入力にあたっても、固定資産税等精算金を「税金だから対象外」と処理するのではなく、土地・建物の譲渡対価として分類しなければならない、という点は押さえておきたいところです。
固定資産税等精算金の実務処理|土地・建物に分ける
固定資産税等精算金を処理する際には、まず次の資料に目を通します。
売買契約書、決済明細書、固定資産税・都市計画税の納税通知書、評価証明書、公租公課精算書、日割計算表、土地建物の内訳書、そして売主のインボイスまたは精算書です。
理想を言えば、決済明細書には次のように分けて記載されているのが望ましい形です。
- 土地売買代金
- 建物売買代金
- 建物に係る消費税額
- 土地対応の固定資産税等精算金
- 建物対応の固定資産税等精算金
- 建物対応の固定資産税等精算金に係る消費税額
もっとも実務では、「固定資産税等精算金」とだけ一括表示されている場合も珍しくありません。そうしたときは、土地・建物それぞれの固定資産税等の金額や日割計算資料から、合理的に区分できる状態を整えておく必要があります。
建物対応分については、税込処理なのか税別処理なのかも、契約書や精算書で明確にしておきましょう。税別で追加請求するのか、総額に消費税相当額を含むのかが曖昧なままだと、売主側では納付税額に、買主側では仕入税額控除額に影響が及びます。
売主側の影響|売上税額・課税売上割合・インボイスに波及する
売主側では、固定資産税等精算金を受け取った場合、それが不動産譲渡対価の一部であることを前提に、土地部分と建物部分に分けます。
土地部分は非課税売上です。建物部分は、売主が事業者として行う課税資産の譲渡であれば課税売上となります。
この区分は、単に当期の納付税額だけにとどまる問題ではありません。
土地の譲渡対価が大きい場合、非課税売上が増え、課税売上割合に大きく影響することがあります。固定資産税等精算金の土地部分も土地譲渡対価に含まれますから、課税売上割合の分母に入る金額を丁寧に整理しておく必要があります。
非課税取引と不課税取引は、いずれも消費税が課されない点では共通しますが、課税売上割合の計算では扱いが異なります。非課税取引は原則として分母に算入され、不課税取引は分母にも分子にも算入されません。
出典:国税庁|No.6209 非課税と不課税の違い
また、売主が適格請求書発行事業者であり、建物部分について買主が仕入税額控除を受けることを予定している場合には、固定資産税等精算金の建物対応分についても、インボイス上の税率別対価・消費税額の整合性を確認しておく必要があります。
買主側の影響|仕入税額控除できるのは「課税仕入れ」だけ
買主側では、「決済時に支払った金額」ではなく、「その支払が課税仕入れに該当するかどうか」を確認します。
土地代金、土地対応の固定資産税等精算金、保険料、登録免許税、不動産取得税、印紙税などは、支払っていても仕入税額控除の対象にはなりません。
一方、建物代金、建物対応の固定資産税等精算金、不動産仲介手数料、司法書士報酬、測量費、建物診断費などは、取引の相手方や内容、用途、証憑要件を満たせば、課税仕入れとして仕入税額控除の対象となり得ます。
ただしインボイス制度の下では、課税仕入れであっても、帳簿と適格請求書等の保存が欠かせません。適格請求書等保存方式における仕入税額控除の要件、請求書等の保存、帳簿のみの保存で認められる場合などは、令和8年5月改訂のインボイス制度Q&Aに整理されています。
出典:国税庁|通達・Q&A|適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和8年5月改訂)
不動産決済では、売買契約書だけではインボイスの記載事項を満たさないことがあります。登録番号、税率別対価、消費税額、課税対象項目の内容が不足している場合には、適格請求書、精算書、登録番号通知書などを組み合わせて要件を満たす設計が必要になります。
仲介手数料|土地売買でも住宅賃貸でも「仲介役務」は課税対象
仲介手数料は、不動産そのものの対価ではありません。不動産会社が売主・買主、あるいは貸主・借主の間に入り、契約成立に向けた媒介・仲介役務を提供したことへの対価です。
そのため、対象不動産が土地であっても、住宅賃貸であっても、仲介手数料そのものは不動産会社による役務提供の対価として課税対象になります。
役務の提供の例としては、仲介、広告、宿泊、飲食、情報提供、専門家による役務提供などが挙げられます。
出典:国税庁|No.6117 『資産の譲渡等』とは
買主や借主が事業者であり、その不動産を事業用に使用する場合には、仲介手数料は課税仕入れとして仕入税額控除を検討します。ただしその際には、用途区分、課税売上対応・非課税売上対応・共通対応の判断、そしてインボイスの保存が必要です。
たとえば、賃貸住宅を取得するために支払った仲介手数料は、仲介役務それ自体は課税仕入れであるものの、その用途が住宅賃貸という非課税売上に対応する場合には、個別対応方式では非課税売上対応課税仕入れとなり、控除対象にならないことがあります。
一方、事務所用不動産の取得や、課税売上事業に使う店舗の取得に係る仲介手数料であれば、課税売上対応課税仕入れとして控除できる可能性があります。
仲介手数料の上限額は「税込」で示されるが、税務処理は別に確認する
不動産会社が受領できる仲介手数料には、宅地建物取引業法に基づく告示による上限があります。
不動産業者が依頼者から受領できる仲介手数料については、法律に基づく告示で上限額が定められており、媒介契約締結時に上限額の範囲内で合意しておくことが大切です。また、令和6年7月1日以後は、価格800万円以下の低廉な空家等について一定の特例も設けられています。
出典:国土交通省|不動産取引に関するお知らせ|不動産取引の仲介手数料について
ただし、仲介手数料の上限額や契約上の金額が税込で示されていることと、買主側で仕入税額控除できるかどうかは、別の問題です。
控除のためには、課税仕入れであること、事業用途であること、インボイス等を保存していること、原則課税で控除計算を行うことなどが求められます。
登録免許税|消費税はかからないが、司法書士報酬と分ける
所有権移転登記や抵当権設定登記では、登録免許税が発生します。
登録免許税は、国に納付する税金です。買主が不動産取得に関連して支払う重要な支出ではありますが、消費税を含む課税仕入れではありません。したがって、登録免許税そのものについて仕入税額控除はできません。
やっかいなのは、司法書士への請求書に、登録免許税、登記事項証明書等の実費、司法書士報酬、日当、交通費、郵送費などが一括で記載されがちな点です。
司法書士等の業務に関する報酬・料金は源泉徴収の対象となりますが、国等に対して登記・申請等をするために本来納付すべき登録免許税や支払手数料等に充てるものとして支払われたことが明らかなものは、源泉徴収をする必要がないとされています。また、報酬と消費税額が請求書等で明確に区分されている場合には、源泉徴収の対象額を報酬本体に限ることができます。
出典:国税庁|No.2801 司法書士等に支払う報酬・料金
消費税の観点でも、同じ発想が効いてきます。
司法書士報酬は、司法書士による役務提供の対価として課税対象です。これに対し、登録免許税や法務局手数料の明確な立替部分は、司法書士の課税売上や買主の課税仕入れとは区別します。
請求書に「登記費用一式」とだけ記載されていると、課税仕入れ部分と対象外部分を後から説明することができません。決済前の段階で、司法書士報酬、登録免許税、証明書手数料、郵送費、交通費などの内訳を明確にしてもらいましょう。
不動産取得税|後日発生するが、消費税の課税仕入れではない
不動産取得税は、不動産を取得したことに対して都道府県から課される地方税です。通常は売買決済時ではなく、取得後しばらくしてから納税通知書が届きます。
不動産取得税そのものに消費税はかかりません。したがって、仕入税額控除の対象にもなりません。
とはいえ、資金繰りの面では見逃せない支出です。大型不動産や複数物件を取得する場合には、決済時の支払だけでなく、後日発生する不動産取得税、固定資産税、修繕費、管理費、借入返済、さらには消費税の納税または還付の時期まで含めた資金計画が欠かせません。
不動産取得税、登録免許税、司法書士報酬などは、不動産取得時に必ず検討すべき諸費用です。不動産管理会社による建物取得の実務でも、建物登記に伴う登録免許税、司法書士手数料、後日の不動産取得税を予算に織り込んでおく必要があると整理されています。
印紙税・印紙代|課税仕入れではない
不動産売買契約書には、印紙税が発生することがあります。
印紙税は、文書に課される税金です。収入印紙を購入して契約書に貼付する場合、その印紙代は消費税の課税仕入れではありません。
日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡、地方公共団体などが行う証紙の譲渡は、いずれも非課税取引に掲げられています。
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引
一方で、契約書作成代行、契約レビュー、電子契約サービス利用料などは、別途、役務提供の対価として課税対象となる場合があります。
「印紙代」と「契約書作成手数料」を一括で処理しないことが大切です。
火災保険料・地震保険料|保険料は非課税
不動産取得時には、火災保険料、地震保険料、施設賠償責任保険料などを支払うことがあります。
保険料は、建物取得に関連して支払うものではありますが、保険料を対価とする役務提供等は非課税取引です。したがって、保険料に係る仕入税額控除はありません。
預貯金や貸付金の利子、信用保証料、保険料、保険料に類する共済掛金などは、いずれも非課税取引に掲げられています。
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引
ただし、保険会社や代理店から、保険料とは別に課税対象の事務手数料等が請求される場合には、その内容を確認します。通常の保険料本体と、別個の事務代行役務の対価とを混同しないよう注意が必要です。
管理費・修繕積立金の精算金|何を精算しているかで変わる
区分所有マンションやテナントビルを取得する場合、決済明細に管理費、修繕積立金、駐車場使用料、専用使用料などの精算金が含まれることがあります。
これらは、固定資産税等精算金と同じように売主と買主の期間按分の名目で支払われることがありますが、消費税区分は一律ではありません。
マンション管理組合への管理費・修繕積立金の性質、売主が立て替えていたものの精算なのか、それとも売買価格の調整なのか、あるいは駐車場や施設使用料の対価なのかを、ひとつずつ確認していきます。
とりわけ、駐車場使用料や施設利用料が含まれる場合には、土地貸付けなのか、駐車施設の利用なのか、管理サービスの対価なのかによって判断が変わります。
決済明細上の「管理費等精算金」は、少なくとも、管理費、修繕積立金、駐車場料、専用庭使用料、トランクルーム使用料、町内会費、ケーブルテレビ料などに分けて確認すべきものです。
上下水道・ガス・開発負担金|公的手数料か、事業者の役務提供か
不動産取得や建築に関連して、水道加入金、下水道受益者負担金、ガス工事負担金、電力引込負担金、開発負担金、道路負担金などが発生することがあります。
これらは、名称だけでは消費税区分を決められません。
国や地方公共団体が法令に基づいて行う一定の事務に係る役務提供で、法令に基づいて徴収される手数料は非課税です。その例としては、登記、登録、特許、免許、許可、検査、検定、試験、証明、公文書の交付などが挙げられています。
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引
一方で、民間事業者や公営企業が行う工事、接続、設備負担、サービス提供の対価である場合には、課税対象となることがあります。
したがって負担金については、支払先、根拠規程、請求書の内容、対価性、工事・役務の有無、返還義務の有無を確認します。
「負担金」という名称でひとまとめに処理しないことが大切です。
測量費・鑑定料・建物診断費・デューデリジェンス費用
不動産取得の前には、測量、境界確定、不動産鑑定、建物診断、アスベスト調査、土壌汚染調査、耐震診断、法務デューデリジェンス、税務デューデリジェンスなどを実施することがあります。
これらは、専門業者や専門家が行う役務提供の対価であり、原則として課税対象です。
ただし、仕入税額控除を受けるためには、その不動産をどの事業に用いるのかを確認する必要があります。
課税売上に対応する事務所、店舗、工場等の取得であれば、控除対象となる可能性があります。住宅賃貸事業など非課税売上に対応する不動産取得であれば、個別対応方式では非課税売上対応課税仕入れとして控除できない可能性があります。課税・非課税が混在する事業用不動産であれば、用途区分が必要です。
不動産業は非課税売上が発生しやすく、税抜経理方式を採用している場合には控除対象外消費税額等が生じる可能性があります。課税売上割合が95%以下になる場合の処理には、特に注意が必要です。
登記費用・取得付随費用は「会計上の資産計上」と「消費税区分」を分ける
不動産取得に関連する支出については、会計上・法人税上、取得価額に含めるのか、費用処理できるのか、という論点があります。
しかし消費税実務では、資産計上するか費用処理するかだけで課税区分を決めてはいけません。
たとえば、司法書士報酬を建物や土地の取得原価に含める会計処理をしたとしても、その司法書士報酬が課税仕入れであることは変わりません。逆に、登録免許税を租税公課として費用処理したとしても、消費税の仕入税額控除はできません。
法人税基本通達では、不動産取得税、登録免許税その他登記・登録のために要する費用などについて、固定資産の取得に関連して支出するものであっても取得価額に算入しないことができる費用として例示されています。これは法人税上の取得価額処理の論点であり、消費税の課税仕入れ該当性とは切り分けて整理する必要があります。
出典:国税庁|法人税基本通達 第1款 固定資産の取得価額
実務では、固定資産台帳に取得原価を入力する作業と、消費税の税区分・用途区分を入力する作業を同時に進めることが多く、両者が混同されやすくなります。
固定資産の取得に際しては、設置費用や運送費などの付随費用、資本的支出、前払費用、繰延資産などを後日確認できるよう、契約書・請求書等の証憑を保存しておくことが重要です。
インボイス制度下で特に注意すべき点
不動産取得時のインボイス対応では、支払先ごとに確認していく必要があります。
売主、不動産仲介会社、司法書士、測量会社、建物診断会社、金融機関、保険会社、管理会社、管理組合、地方公共団体、法務局といった具合です。
このうちインボイスが必要になるのは、課税仕入れについて仕入税額控除を受ける場合です。
登録免許税、不動産取得税、印紙税、保険料、土地代金、土地対応の固定資産税等精算金など、そもそも課税仕入れではないものについては、インボイスの有無を確認しても仕入税額控除にはつながりません。
一方、建物代金、建物対応の固定資産税等精算金、仲介手数料、司法書士報酬、測量費、建物診断費などについては、相手方が適格請求書発行事業者か、インボイスの記載事項を満たすかを確認します。
令和8年度改正では、免税事業者など適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れについて、経過措置の控除可能割合が70%、50%、30%へと見直されました。あわせて、令和8年10月1日以後開始課税期間からは、一の非登録事業者からの課税仕入れが年または事業年度で1億円を超える場合の控除限度額についても見直されています。
出典:国税庁|インボイス制度に関する令和8年度税制改正について
ここで押さえておきたいのは、この経過措置はあくまで「課税仕入れ」に関するものだという点です。
土地代金、保険料、登録免許税、不動産取得税などには適用されません。仲介手数料や司法書士報酬など、課税仕入れに該当する項目についてのみ、相手方の登録状況と経過措置を確認します。
決済前に作るべき「消費税チェック表」
不動産決済では、決済当日になって消費税区分を考えていたのでは間に合いません。
契約前、遅くとも決済前には、次の項目をチェック表にまとめておきましょう。
物件の用途、売主の属性、売主が事業者か、売主が適格請求書発行事業者か、売買対象が土地か建物か、土地建物の内訳が合理的か、建物消費税の表示があるか、固定資産税等精算金が土地・建物に区分されているか、仲介会社の登録番号、司法書士請求書の内訳、登録免許税と司法書士報酬の区分、保険料の内容、管理費等精算金の内訳、負担金の支払先と根拠、融資手数料の性質、インボイスの保存方法、会計ソフト上の税区分、固定資産台帳への登録方法、課税売上割合への影響、資金繰りへの影響。
月次監査・決算監査の観点でも、新規契約、更新、解約、設備投資、資産の売却・除却の有無を事前に確認し、税務判断に大きく影響する取引を早めに把握しておくことが重要です。
不動産取得は、決済明細が完成した後ではなく、契約条件を決める前から消費税を確認しておくべき取引なのです。
税務調査で確認されやすいポイント
不動産取得に関する税務調査では、次のような点が確認されやすくなります。
固定資産税等精算金を租税公課処理していないか。土地・建物の区分が合理的か。建物対応の精算金を課税対象に含めているか。土地対応の金額を課税仕入れにしていないか。仲介手数料を非課税処理していないか。司法書士報酬と登録免許税を区分しているか。保険料を課税仕入れにしていないか。管理費等精算金を一括処理していないか。課税売上割合に大きな影響が出ていないか。インボイスを保存しているか。取得用途に応じた個別対応方式の用途区分ができているか。
とりわけ不動産賃貸業では、住宅賃貸による非課税売上、土地取引、建物取得、修繕、仲介、管理、借入関係費用が入り混じります。税区分を会計ソフトの初期設定に任せてしまうと、誤りが継続しやすい領域です。
証憑管理の観点では、必要な資料をすぐに取り出せる状態にし、契約書、請求書、届出書、申告書控えなどを適切に保存しておくことが大切です。これは情報漏洩や紛失を防ぐだけでなく、後日の説明可能性を高めることにもつながります。
実務で保存すべき証憑
不動産取得時には、少なくとも次の資料を一式で保存しておきます。
売買契約書、重要事項説明書、土地建物内訳書、固定資産税・都市計画税納税通知書、公租公課精算書、決済明細書、領収書、振込記録、売主のインボイス、仲介会社の請求書・インボイス、司法書士の請求書・インボイス、登録免許税の計算資料、登記申請書控え、登記事項証明書、評価証明書、不動産取得税納税通知書、火災保険証券、保険料領収書、管理費・修繕積立金精算書、測量・鑑定・建物診断の契約書・報告書・請求書、融資関係書類、そして社内の税区分判断メモです。
電子取引で受領した請求書・精算書については、電子データの保存要件もあわせて確認します。紙の書類をPDF化しただけでは、電子帳簿保存法上の保存対応として不十分な場合があるためです。
まとめ|不動産取得時の消費税は、決済明細を分解できるかで決まる
不動産取得時の消費税は、売買代金だけを眺めていても判断できません。
固定資産税等精算金は、税金そのものではなく、不動産譲渡対価の一部です。土地対応分は土地譲渡の対価として非課税、建物対応分は建物譲渡の対価として課税対象になり得ます。
仲介手数料は、土地や住宅に関する取引であっても、仲介役務の対価として課税対象です。
登録免許税、不動産取得税、印紙税、保険料は、支払っていても仕入税額控除の対象にはなりません。
司法書士報酬、測量費、建物診断費などは、役務提供の対価として課税仕入れになり得ますが、用途区分とインボイス保存が前提となります。
つまり不動産決済明細は、総額で処理するものではなく、項目ごとに税区分・用途区分・証憑要件を確認していくための資料なのです。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産の取得・売却に関する消費税について、売買契約書、決済明細、固定資産税等精算金、土地建物内訳、仲介手数料、司法書士報酬、インボイス、課税売上割合、資金繰りまでを一体で確認しています。高額な不動産取得、居住用賃貸建物、土地建物の一括売買、非登録事業者との取引、還付見込みのある案件では、契約締結前または決済前の確認が特に重要になります。判断に迷う決済明細がありましたら、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 項目 | 消費税の基本的な考え方 | 実務上の確認事項 |
|---|---|---|
| 固定資産税等精算金 | 税金そのものではなく不動産譲渡対価の一部 | 土地対応分・建物対応分に区分する |
| 土地対応の固定資産税等精算金 | 土地譲渡対価の一部として非課税 | 課税売上割合への影響を確認 |
| 建物対応の固定資産税等精算金 | 建物譲渡対価の一部として課税対象になり得る | 税込・税別、インボイス記載を確認 |
| 仲介手数料 | 仲介役務の対価として課税対象 | 対象不動産が土地・住宅でも手数料自体は課税対象 |
| 登録免許税 | 国に納付する税金であり課税仕入れではない | 司法書士報酬と立替税金を分ける |
| 司法書士報酬 | 専門家の役務提供として課税対象 | 請求書の内訳、源泉徴収、インボイスを確認 |
| 不動産取得税 | 地方税であり課税仕入れではない | 決済後の資金繰りに織り込む |
| 印紙税・印紙代 | 課税仕入れではない | 契約書作成手数料等と区別する |
| 火災保険料・地震保険料 | 保険料として非課税 | 事務手数料等が別にないか確認 |
| 管理費・修繕積立金精算 | 内容により判断が分かれる | 管理費、積立金、駐車場料等に分解 |
| 水道・ガス等の負担金 | 公的手数料か役務提供かで変わる | 支払先、根拠規程、工事・役務の有無を確認 |
| 測量費・鑑定料・建物診断費 | 役務提供として課税対象になり得る | 取得用途とインボイスを確認 |
| 非登録事業者への支払 | 課税仕入れなら経過措置を検討 | 令和8年度改正後の7・5・3割控除を確認 |
| 決済明細 | 一括税区分処理は危険 | 項目別の税区分表を作成する |
| 税務調査対応 | 契約・請求・証憑・判断メモで説明する | 決済前から資料を整える |