組織再編における繰越欠損金と特定資産譲渡等損失|欠損金・含み損を本当に使えるかをどう判断するか

組織再編を検討する場面では、繰越欠損金や含み損資産が、しばしば「税負担を軽くできる材料」として注目されます。

たとえば、こんな発想です。赤字会社を黒字会社に合併すれば、赤字会社の繰越欠損金を黒字会社の利益と相殺できるのではないか。含み損のある不動産や有価証券をグループ内で移せば、売却損や評価損を黒字会社側で使えるのではないか。M&Aで買収した会社を数年以内に合併すれば、買収後の統合と節税を同時に実現できるのではないか——。

こうした発想そのものは、経営判断として自然なものです。税負担をどう管理するかは、資金繰り、投資余力、金融機関対応、M&A後の統合計画に直結するからです。

しかし、組織再編税制には見落とせない制限が用意されています。適格組織再編成に該当すれば資産・負債を簿価で移転でき、非適格組織再編成であれば時価で移転する——これが基本構造です。そのうえで、簿価移転や欠損金の引継ぎを利用した租税回避を防ぐために、繰越欠損金の引継制限・使用制限、そして特定資産譲渡等損失額の損金不算入という重要な制限が設けられています。

本記事では、「組織再編で繰越欠損金や含み損を本当に使えるのか」を、実務判断の順番に沿って整理します。細かな計算例を網羅することが狙いではありません。経営者・管理部門・税務担当者が専門家と対話するために必要な判断軸に絞ってお話しします。

目次

繰越欠損金は「赤字なら自由に使える」ものではない

法人税の繰越欠損金とは、過年度に生じた税務上の欠損金を、将来の所得金額から控除できる制度です。

青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金であれば、各事業年度開始日前10年以内に開始した事業年度のものについて、一定の要件のもとで所得金額の計算上損金に算入できます。ただし、平成30年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金の繰越期間は9年です。また、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していることが前提になります。

さらに、中小法人等以外の法人については、平成30年4月1日以後に開始する事業年度で、繰越控除前所得金額の50%を限度とする控除制限が設けられています。
出典:国税庁|No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除

こうした一般的な欠損金制度に加えて、組織再編ではさらに別の制限が問題になります。とりわけ、適格合併、適格分割、適格現物出資、適格現物分配などによって資産・事業を簿価で移す場合には、欠損金や含み損をどこまで使えるのかを、一つひとつ確認しておかなければなりません。

組織再編で問題になる2つの制限

組織再編における欠損金・含み損の制限は、大きく2つに分けて考えると整理しやすくなります。

制度何を制限するものか主に問題になる場面
繰越欠損金の引継制限・使用制限過去に発生した欠損金を、再編後に利用することを制限する適格合併、残余財産確定、合併法人側の既存欠損金
特定資産譲渡等損失額の損金不算入支配関係発生前から保有していた含み損資産の実現損を制限する適格合併、適格分割、適格現物出資、適格現物分配、M&A後の統合

繰越欠損金の制限は、すでに発生している税務上の赤字を使えるかどうかの問題です。

一方、特定資産譲渡等損失額の損金不算入は、まだ実現していない含み損を、再編後に売却・除却・評価換え・貸倒れなどで実現させたときに、その損失を損金にできるかどうかの問題です。

この2つは似ていますが、対象が異なります。

視点繰越欠損金特定資産譲渡等損失
対象過去に発生済みの欠損金支配関係発生前からある含み損資産の実現損
タイミング再編時点で欠損金として残っている再編後に譲渡・評価換え・除却等で損失が実現する
主な別表別表七(一)・付表別表十四(六)・付表
経営上のリスク欠損金を使える前提の税額計画が崩れる含み損を損金化できる前提の再編計画が崩れる
M&Aでの意味買収対象会社の税務価値に影響買収後統合・資産処分計画に影響

したがって、組織再編で「赤字会社を合併する」「含み損資産を持つ会社を取り込む」という場合には、欠損金と含み損資産を分けて棚卸しする必要があります。

欠損金制限の出発点は「適格組織再編だからこそ制限される」という理解

直感的には、非適格組織再編のほうが税務上不利で、適格組織再編のほうが有利に見えます。確かに、適格組織再編では資産・負債が税務上の簿価で移転し、含み益課税が繰り延べられるため、短期的には有利に映る場面があります。

しかし、欠損金や含み損の制限は、基本的にこの「簿価移転」があるからこそ問題になります。

非適格合併や非適格分割では、資産・負債が時価で移転するため、移転の時点で含み益・含み損がいったん顕在化します。これに対して適格組織再編では簿価で移転するため、含み益・含み損が再編後の法人にそのまま持ち込まれます。その結果、一方の法人の利益と、他方の法人の欠損金・含み損を組み合わせる余地が生じるわけです。

実務上の検討では、ここを取り違えないことが大切です。

「適格だから安全」ではありません。

「適格だからこそ、欠損金と含み損の利用制限を確認する」——そう考えておく必要があります。

適格合併では、被合併法人の欠損金を引き継げるのが原則

適格合併では、被合併法人の一定の繰越欠損金を、合併法人へ引き継ぐことができます。実務では、被合併法人の適格合併日前10年以内に開始した事業年度に生じた繰越欠損金を合併法人に引き継ぐこと、そしてその欠損金が、発生した被合併法人の事業年度開始日の属する合併法人の事業年度に生じた欠損金とみなされることを確認します。

ただし、これは「常に全額使える」という意味ではありません。とりわけ、支配関係が生じてから短期間で適格合併を行う場合には、欠損金の引継制限が問題になります。

再編類型欠損金の引継ぎ
適格合併被合併法人の一定の欠損金を合併法人へ引継ぎ可能。ただし制限あり
非適格合併被合併法人の欠損金は原則として引き継がれない
適格分割通常、分割法人の欠損金が分割承継法人へそのまま移る制度ではない
適格現物出資通常、現物出資法人の欠損金が被現物出資法人へそのまま移る制度ではない
適格現物分配欠損金引継ぎよりも、受け手側の使用制限・特定資産損失制限が問題になりやすい
残余財産の確定完全支配関係等のもとで欠損金引継ぎが問題になる場面がある

つまり、欠損金の「引継ぎ」は、主に合併で問題になります。合併以外の適格組織再編では、引継ぎというより、受け手側・存続側がもともと持っている欠損金の使用制限や、移転資産・保有資産の含み損の損金不算入を確認する場面が多くなります。

欠損金の「引継制限」と「使用制限」は分けて考える

組織再編では、欠損金について次の2つの制限が問題になります。

区分内容典型例
引継制限被合併法人等から合併法人等へ引き継ぐ欠損金が制限される赤字会社を被合併法人として適格合併する場合
使用制限合併法人等がもともと持っていた欠損金の使用が制限される欠損金を持つ会社を合併法人として、黒字会社を取り込む場合

実務で見落とされやすいのは、合併法人側の使用制限です。

被合併法人に繰越欠損金がある場合は、多くの関係者が注意を向けます。ところが、合併法人側に欠損金があると、「自社の欠損金だから通常どおり使える」と誤解されてしまうことがあります。適格合併では、被合併法人だけでなく、合併法人が合併前から保有していた繰越欠損金にも使用制限が課される場合があります。

たとえば、買収会社側に多額の繰越欠損金があり、その買収会社を合併法人として黒字会社を吸収合併する。このとき、合併法人側の欠損金を再編後の黒字事業の所得と相殺できる前提で税額を試算すると、実行後になって計画が崩れることがあります。

制限がかかるかどうかの基本判定

繰越欠損金の引継制限・使用制限、そして特定資産譲渡等損失額の損金不算入は、おおむね次の順番で判定します。

1. 支配関係のある法人間の適格組織再編か

まず、支配関係のある法人間で適格合併等が行われるのかを確認します。ここでいう支配関係とは、一般に、50%超の株式等を直接または間接に保有する関係などを指します。

特定資産譲渡等損失額の損金不算入について整理しておくと、共同事業を営むための適格合併等に該当しない適格合併等が行われ、被合併法人等と合併法人等との間に発行済株式等の総数の50%超を直接または間接に保有するといった特定資本関係があり、かつ、その関係が一定期間内に生じている場合には、特定資産譲渡等損失額は損金に算入されません。

この判定にあたっては、株主名簿上の名義だけを見るのではなく、名義株がある場合には実際の権利者を基礎として判断する点にも注意が必要です。
出典:国税庁|14 特定資産に係る譲渡等損失額

2. 支配関係が5年超継続しているか

次に、支配関係がいつ生じたかを確認します。

典型的には、適格合併の日の属する合併法人の事業年度開始の日の5年前の日、被合併法人の設立日、合併法人の設立日のうち、一定の基準日から支配関係が継続しているかを見ます。支配関係が生じてから5年を経過していない法人との間で適格組織再編を行う場合には、欠損金制限・特定資産譲渡等損失制限の検討が必要になります。

ここで重要なのは、「合併日」だけを見るのではなく、「合併法人の合併事業年度開始の日」を基準に見る場面があることです。たとえば、3月決算法人が4月1日開始事業年度中に合併する場合、合併日そのものではなく、その事業年度開始日から5年前の日との関係で判定する必要があります。

3. みなし共同事業要件を満たすか

支配関係が5年未満でも、みなし共同事業要件を満たす場合には、欠損金制限・特定資産譲渡等損失制限を回避できる場面があります。

みなし共同事業要件としては、事業関連性要件、事業規模要件、被合併法人の事業規模継続要件、合併法人の事業規模継続要件、特定役員引継要件が挙げられています。
出典:国税庁|持株会社と事業会社が合併する場合の事業関連性の判定について

実務では、次のように整理します。

要件確認する内容
事業関連性要件再編当事者の事業が相互に関連しているか
事業規模要件両社の事業規模に著しい差がないか
事業規模継続要件支配関係発生時から再編時まで、事業規模が大きく変動していないか
特定役員引継要件事業規模要件等を満たせない場合に、支配関係発生前からの特定役員の引継ぎがあるか

みなし共同事業要件は、形式的なチェックリストではありません。買収後に形式だけ整えた事業規模、役員、事業内容では、要件を満たしていると説明することが難しくなります。この要件は、グループ内の適格組織再編でありながら、実質的には共同事業型の再編と同様に評価できる場合に、制限を課さないための仕組みだと理解すると分かりやすいでしょう。

みなし共同事業要件で特に問題になる「事業関連性」

みなし共同事業要件の入口で、とりわけ重要になるのが事業関連性です。

事業関連性については、たとえば同種の事業が行われている場合、製造と販売のように業態は異なっても同一製品に関連する場合、合併後に合併法人において一体として行われている現状にある場合などが例示されています。

持株会社と事業会社の合併でも、持株会社が単なる株主としての立場にとどまらず、グループの事業計画策定、営業指導、監査、財務面・監査面での経営管理などを行い、グループ全体として一つの事業を営む実態がある場合には、事業関連性が認められる可能性があります。
出典:国税庁|持株会社と事業会社が合併する場合の事業関連性の判定について

逆に、合併前に被合併法人の事業を他社へ移してしまい、合併の直前には被合併法人に実質的な事業が残っていない場合、事業関連性の説明は難しくなります。実務でも、被買収会社の繰越欠損金を引き継ぐ目的で適格合併を予定していたにもかかわらず、合併前に事業を別法人へ移管した結果、被合併法人に事業が残らず、みなし共同事業要件を満たせなくなる、という失敗が問題になります。

したがって、M&A後の統合スケジュールでは、次の順番を慎重に検討する必要があります。

検討事項注意点
事業移管を合併前に行うか被合併法人に事業が残らないと事業関連性が問題になる
人員移動を先行させるか従業者要件・事業継続要件に影響する
契約移管を先行させるか事業実体の所在が変わる
管理機能だけを残すか事業といえるか検討が必要
合併後に統合するか税務上は説明しやすい場合がある

「早くPMIを進めたい」という経営上の要請と、「欠損金制限を回避するために事業実体をどう残すか」という税務上の要請は、ときに衝突します。ここは、税務部門だけでなく、経営企画、法務、人事、財務、M&A担当者を交えて、事前に設計しておくべき論点です。

制限される欠損金の範囲

制限がかかる場合でも、すべての欠損金が一律に使えなくなるとは限りません。

基本的には、次のように分けて考えます。

欠損金の発生時期制限の考え方
支配関係事業年度前に生じた欠損金原則として全額が制限対象
支配関係事業年度以後に生じた欠損金そのうち特定資産譲渡等損失相当額が制限対象
合併事業年度開始日から合併日前日までの被合併法人の欠損金被合併法人側ではみなし事業年度で確定し、引継制限の対象に含まれ得る
合併法人の合併事業年度開始日から合併日前日までの損失合併法人側ではその時点で欠損金として確定しないため、特定資産譲渡等損失の論点になり得る

「支配関係事業年度」とは、支配関係発生日の属する事業年度をいいます。支配関係事業年度前の繰越欠損金は全額が制限対象となり、支配関係事業年度以後の繰越欠損金は、そのすべてではなく、特定資産譲渡等損失相当額が制限対象となる——この整理が、実務では重要です。

ここでいう特定資産譲渡等損失相当額とは、支配関係事業年度開始日前から保有していた資産について、仮に特定資産譲渡等損失額の損金不算入規定を適用したとした場合に、損金不算入の対象となる金額に達するまでの金額として整理されます。

つまり、支配関係後に生じた欠損金であっても、その中身が支配関係前から存在していた含み損資産の損失であれば、制限される可能性があるということです。

「支配関係発生日」の確認を誤ると結論が変わる

欠損金制限・特定資産譲渡等損失制限では、支配関係発生日が非常に重要です。

支配関係発生日を誤ると、5年要件、支配関係事業年度、制限対象となる欠損金、制限対象資産の範囲が、すべてズレてしまいます。

特に注意すべきなのは、次のような場面です。

場面確認すべきこと
段階取得いつ50%超の支配関係が生じたか
複数株主からの取得最後に支配関係があることとなった日はいつか
名義株がある実質的な株主は誰か
親族・同族関係者が関与一の者による支配関係の判定をどう行うか
株式交換・株式移転後の合併どの時点で支配関係が形成されたか
M&A後の再編買収日、クロージング日、議決権移転日をどう確認するか
3社以上の再編当事者間の支配関係発生日を個別に確認するか、全体で見るか

3社以上の新設合併などでは、それぞれの組み合わせを個別に見るだけでは足りず、合併全体として支配関係発生日を確認する場面があります。実務では、当事会社間の支配関係が生じた日のうち最も遅い日を基礎に検討する必要があるケースもあります。

株式譲渡契約書、株主名簿、クロージング資料、議決権移転日、種類株式、自己株式の有無を確認しないまま、単に「グループ内だから5年超」と判断するのは危険です。

特定資産譲渡等損失額の損金不算入とは何か

特定資産譲渡等損失額の損金不算入は、再編後に実現した含み損の損金算入を制限する制度です。

たとえば、次のようなケースを考えてみます。

買収会社P社が、含み損のある土地を持つA社を買収し、2年後にA社をP社に適格合併した。その後、P社がその土地を売却して譲渡損を計上した——。

この場合、支配関係発生日から5年未満で、みなし共同事業要件を満たさないときは、その土地の譲渡損が特定資産譲渡等損失額として損金不算入になる可能性があります。

共同事業を営むための適格合併等に該当しない適格合併等が行われ、特定資本関係が特定合併等事業年度開始日から5年以内に生じているときは、適用期間において生ずる特定資産譲渡等損失額は損金に算入されません。
出典:国税庁|14 特定資産に係る譲渡等損失額

特定資産譲渡等損失では、次の2種類の資産を意識すると整理しやすくなります。

区分内容実務上の意味
特定引継資産適格組織再編により相手方から引き継いだ資産被合併法人・分割法人などから移ってきた含み損資産
特定保有資産合併法人等が再編前から保有していた一定の資産合併法人側の含み損資産も制限対象になり得る

ここでも重要なのは、被合併法人側だけでなく、合併法人側の含み損資産も確認が必要だという点です。合併法人側の欠損金や特定資産は、クライアント自身が見落としやすい論点です。

「含み損資産を売れば損金になる」とは限らない

特定資産譲渡等損失額の損金不算入が問題になる資産は、典型的には次のようなものです。

資産実務上の確認点
土地・建物取得価額、時価、鑑定評価、減損、担保状況
有価証券取得価額、時価、評価損、売却予定
金銭債権回収可能性、貸倒れ、債務者の財務状況
固定資産除却予定、減損、償却状況
繰延資産残存価額、費用化時期
資産調整勘定非適格再編・事業譲受けとの関係
繰延譲渡損失グループ法人税制との接点

会計上の減損損失や評価損を計上したからといって、税務上もそのまま損金になるとは限りません。組織再編後に売却損や除却損を計上する計画がある場合は、その資産が支配関係発生前から存在していた含み損資産なのか、再編によって引き継がれた資産なのか、適用期間内に損失が実現するのかを確認します。

特定資産譲渡等損失額の損金不算入は、別表四、別表五(一)、別表十四(六)に影響します。実務上の別表処理では、特定資産譲渡等損失額の損金不算入額を別表十四(六)から別表四へ転記し、税務上の帳簿価額と会計上の帳簿価額との差額を別表五(一)で管理する必要があります。

「非適格にすれば制限がない」は短絡的すぎる

繰越欠損金や特定資産譲渡等損失額の制限は、主に適格組織再編で問題になります。そのため、「非適格にすれば欠損金制限は問題にならないのではないか」という発想が出てくることがあります。

確かに、非適格再編では、資産・負債が時価で移転し、繰越欠損金を引き継がないため、適格再編に特有の欠損金引継制限や特定引継資産譲渡等損失額の損金不算入が問題になりにくい場面があります。

しかし、非適格にすれば、別の問題が生じます。

非適格再編で生じる主な論点内容
時価課税移転資産・負債を時価で譲渡したものとして課税される
含み益課税資産に含み益がある場合、現金収入がなくても課税所得が発生する
欠損金切捨て被合併法人の欠損金は原則として引き継がれない
株主課税みなし配当、株式譲渡損益が問題になる
消費税・地方税資産移転に伴う他税目への波及があり得る
会計処理のれん、資産調整勘定、取得原価配分が問題になる
金融機関説明税額・純資産・利益計画への影響説明が必要になる

したがって、「適格だと制限があるから非適格にする」という単純な判断ではなく、適格の場合と非適格の場合の税額、資金繰り、会計表示、株主課税、将来の資産処分を比較する必要があります。

M&A後の組織再編で特に注意すべき理由

この論点が最も問題になりやすいのは、M&A後の統合です。

買収の時点では株式譲渡だけで完了していても、その後に管理部門の統合、吸収合併、事業分割、資産移転、子会社再編を行うことがあります。買収から5年以内に適格合併等を行う場合、みなし共同事業要件を満たさないと、欠損金や含み損の利用制限が問題になります。

典型的には、次のような場面です。

場面リスク
赤字会社を買収し、2年後に黒字会社へ合併被買収会社の繰越欠損金が引き継げない可能性
欠損金を持つ買収会社が黒字会社を合併合併法人側の欠損金使用制限が問題になる可能性
含み損不動産を持つ会社を買収し、合併後に売却特定資産譲渡等損失額が損金不算入になる可能性
事業移管を先行し、後で合併被合併法人に事業実体がなくなり、みなし共同事業要件を満たせない可能性
買収対象会社の子会社に欠損金がある子会社側の欠損等法人規制や再編制限を見落とす可能性
グループ通算加入と再編を同時期に行う欠損金の特定欠損金化、時価評価、通算加入制限が重なる可能性

M&Aの税務デューデリジェンスでは、対象会社の申告書、別表七(一)、固定資産台帳、有価証券明細、債権管理表だけでなく、買収後5年間の再編予定も確認すべきです。買収時に「繰越欠損金があるから税務メリットがある」と評価しても、買収後の再編で使用制限がかかるのであれば、その価値評価は修正が必要になります。

時価純資産超過額・簿価純資産超過額による特例

欠損金制限・特定資産譲渡等損失制限には、時価純資産価額と簿価純資産価額の関係に応じた特例があります。

考え方はこうです。欠損金や含み損を持つ法人が、同時に十分な含み益資産を持っている場合、その法人は再編をしなくても、自社の中で欠損金や含み損を吸収できた可能性があります。このような場合にまで一律に制限をかけると過度な制限になるため、一定の調整が設けられています。

状況実務上の意味
時価純資産価額が簿価純資産価額を上回る含み益があるため、欠損金や含み損を自社で吸収できた可能性がある
簿価純資産価額が時価純資産価額を上回るネットの含み損があるため、制限対象額の計算が重要になる
含み益と含み損が混在資産別評価と純資産ベースの検討が必要
評価資料がない特例適用や説明が困難になる

適格合併がみなし共同事業要件にも、5年超等の支配関係にも該当しない場合、合併法人は被合併法人の欠損金額について引継制限を受けるとともに、特定資産譲渡等損失額について損金算入制限を受けます。そのうえで、時価純資産価額・簿価純資産価額を基礎にした特例計算が示されています。
出典:国税庁|簿価純資産超過額がある場合の特定資産譲渡等損失額から控除することができる金額等(法令123の9①二)について

この特例を検討するには、単なる決算書では不十分です。不動産、非上場株式、有価証券、債権、固定資産について、支配関係事業年度の直前事業年度末時点など、必要な基準日時点の時価を説明できる資料が必要になります。

平成29年度改正後は、支配関係発生直前の損失にも注意する

現行制度を理解するうえでは、平成29年度改正の影響にも目を向けておく必要があります。

平成29年度税制改正では、支配関係がある法人間で、みなし共同事業要件を満たさない適格合併等が行われた場合の欠損金制限措置および特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入制度について、支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までに生じた特定資産の譲渡等損失額を制限対象に加える、という見直しが行われました。

この改正は、支配関係が生じる直前に含み損資産を処分して欠損金を発生させ、その後の適格合併でその欠損金を利用するような設計を封じる方向のものです。

実務では、支配関係発生日そのものだけでなく、その属する事業年度開始日から支配関係発生日の前日までに、どの資産について、どのような譲渡損・評価損・貸倒損失が発生しているかを確認する必要があります。

グループ通算制度との接点

組織再編における欠損金制限は、グループ通算制度とも接続します。

グループ通算制度では、100%資本関係にある企業グループ内で損益通算が可能ですが、開始・加入時の繰越欠損金や含み損資産については、組織再編税制と整合する形で制限が設けられています。開始・加入前の繰越欠損金が特定欠損金として自己の所得を限度にしか使えない場面もあります。

そのため、M&A後に対象会社をグループ通算制度へ加入させるのか、それとも適格合併で統合するのかによって、欠損金の使い方、税効果会計、将来課税所得の見通しが変わってきます。

選択肢欠損金に関する主な検討
単体のまま運営対象会社自身の所得で欠損金を利用
適格合併引継制限・使用制限、特定資産損失制限を確認
グループ通算加入特定欠損金・非特定欠損金、開始・加入時制限を確認
事業譲渡欠損金は対象会社に残り、資産負債は時価移転
非適格再編時価課税・資産調整勘定・株主課税を確認

どの手法が有利かは、単年度の税額だけでは判断できません。将来の所得見込み、対象会社の欠損金期限、含み損益、事業計画、会計上の繰延税金資産、M&A契約上の価格調整まで含めて比較する必要があります。

税効果会計・金融機関説明への影響

繰越欠損金は、法人税申告だけでなく、税効果会計にも影響します。

会計上、繰延税金資産を計上している会社では、組織再編によって欠損金の引継ぎや使用が制限されると、繰延税金資産の回収可能性が低下する可能性があります。とりわけ、M&A時の事業計画で欠損金控除を前提に税引後キャッシュフローを見積もっていた場合、制限によって、キャッシュフロー、税金費用、純資産、金融機関向けの説明までが変わってきます。

影響領域具体的な影響
法人税申告欠損金控除額、損金不算入額、別表処理が変わる
税効果会計繰延税金資産の回収可能性が変わる
M&A評価欠損金の税務価値が変わる
金融機関説明税引後利益・返済原資が変わる
PMI統合時期、資産処分時期を再検討する必要がある
株主説明再編効果、税負担、純資産への影響を説明する必要がある

「欠損金があるから将来の税金が減る」という説明は、組織再編が絡むと不十分になります。いつ、どの法人の所得で、どの欠損金を、どの限度で使えるのかを、具体的に示す必要があります。

申告書・別表で確認すべきこと

この論点は、スキーム検討だけで終わりません。最終的には、申告書で表現できる状態にしておく必要があります。

主に確認する別表・資料は、次のとおりです。

資料・別表確認する内容
別表七(一)繰越欠損金の発生年度、残高、控除額
別表七(一)付表適格組織再編により引き継ぐ欠損金、調整後控除未済欠損金
別表十四(六)特定資産譲渡等損失額の損金不算入額
別表十四(六)付表一時価純資産価額・簿価純資産価額、特定資産に関する明細
別表四損金不算入額、欠損金控除額の所得調整
別表五(一)資産の税務簿価、利益積立金額、資本金等の額の継続管理
固定資産台帳特定資産、取得時期、帳簿価額、売却損・除却損
有価証券明細含み損益、銘柄、取得時期、売却予定
債権明細貸倒損失、回収可能性、支配関係前からの債権か
組織図・株主名簿支配関係発生日、名義株、実質株主

M&A・組織再編では、計算そのものよりも、資料の不整合で事故が起きることがあります。組織再編税務では、重大なミスの背景に、単純なケアレスミスやレビュー不足があることも少なくありません。関係者が少ない中小・中堅企業ほど、資料確認とレビュー体制を意識しておく必要があります。

よくある判断ミス

組織再編における繰越欠損金・特定資産譲渡等損失では、次のようなミスが起きやすいものです。

判断ミス何が問題になるか
適格合併なら欠損金を当然に使えると考える引継制限・使用制限を見落とす
被合併法人の欠損金だけを見る合併法人側の既存欠損金の使用制限を見落とす
支配関係発生日を株式譲渡契約日で判断するクロージング日・議決権移転日・実質株主の確認漏れ
5年判定を合併日だけで見る事業年度開始日基準の検討漏れ
みなし共同事業要件を形式だけで判断する事業実体・規模・役員・事業継続の説明が不足する
買収後に事業移管を先行する被合併法人に事業が残らず、事業関連性が問題になる
含み損資産を売却すれば損金になると考える特定資産譲渡等損失額が損金不算入になる
会計上の評価損と税務上の損金を混同する税務調整漏れ、繰延税金資産の誤認につながる
別表十四(六)を確認しない特定資産譲渡等損失額の申告処理を誤る
M&A価格に欠損金価値を織り込む実際には使えず、買収価額の妥当性が崩れる

とりわけ、欠損金や含み損がある会社を「節税価値のある会社」として評価する場合は、制限後に実際に使える金額を確認しておく必要があります。

実行前に整理すべき判断プロセス

組織再編で欠損金・含み損が関係する場合、次の順番で検討すると、論点の漏れを減らせます。

1. まず欠損金を年度別に棚卸しする

別表七(一)をもとに、欠損金を年度別に整理します。

確認事項内容
発生事業年度いつ発生した欠損金か
残存期間いつまで繰越可能か
発生原因通常の営業損失か、資産売却損か、貸倒損失か
青色申告発生年度に青色申告書を提出しているか
連続申告その後、連続して確定申告書を提出しているか
既控除額すでに控除済みの金額はないか
繰戻還付還付計算の基礎になっていないか

欠損金の金額だけでなく、欠損金の中身を見ることが重要です。支配関係後に発生した欠損金であっても、支配関係前からある含み損資産の実現損であれば、制限対象となる可能性があります。

2. 支配関係のタイムラインを作る

株式取得、増資、自己株式取得、株式交換、株式移転、種類株式、議決権制限、名義株を確認し、支配関係発生日を特定します。

日付確認資料
株式譲渡契約締結日株式譲渡契約書
クロージング日決済資料、株主名簿
議決権移転日株主名簿、定款、種類株式内容
増資日登記簿、払込証明、議事録
株式交換・株式移転日再編契約書、登記資料
最後に支配関係があることとなった日上記資料の総合確認

M&A後の再編では、買収日から5年を経過しているかだけでなく、事業年度開始日基準での判定も必要です。

3. 適格・非適格を判定する

次に、再編そのものが適格組織再編に該当するかを判定します。

適格であれば、簿価移転により含み損益が持ち込まれるため、欠損金制限・特定資産損失制限を確認します。非適格であれば、時価課税、株主課税、資金流出を確認します。

4. みなし共同事業要件を確認する

支配関係が5年未満の場合は、みなし共同事業要件を確認します。

要件具体的に確認する資料
事業関連性事業内容説明、商品・サービス、顧客、サプライチェーン
事業規模売上、従業者数、資産額、営業利益など
事業規模継続支配関係発生時から再編時までの推移
特定役員引継役員履歴、就任日、支配関係発生日前からの役員か
従業者・事業継続人員表、出向・転籍資料、事業計画

単に要件名を満たすかどうかではなく、税務調査やM&A後の説明に耐えられる資料があるかを確認します。

5. 特定資産を洗い出す

固定資産台帳、有価証券明細、債権明細をもとに、含み損資産を洗い出します。

確認事項内容
取得日支配関係発生前から保有していたか
帳簿価額税務簿価と会計簿価の差異
時価基準日時点の時価資料
含み損益帳簿価額と時価の差額
売却予定再編後に譲渡・除却する予定があるか
評価損予定会計上・税務上の評価損予定
貸倒予定債権回収可能性の低下があるか

とりわけ、支配関係発生日の属する事業年度開始日から支配関係発生日の前日までに実現した損失も確認します。

6. 適格・非適格の税額比較を行う

欠損金を使える前提、制限される前提、非適格で時価課税される前提を並べて比較します。

比較項目適格再編非適格再編
含み益課税原則として繰延べ移転時に課税
欠損金引継ぎ可能な場合あり。ただし制限あり原則として引継ぎなし
含み損利用特定資産損失制限あり時価移転で損益顕在化
株主課税株式対価なら繰延べの場面ありみなし配当・譲渡損益が問題
資金繰り税額は抑えられる可能性現金収入のない課税が生じ得る
将来管理別表管理が重要取得価額・資産調整勘定管理が重要

この比較を行わないまま、「適格にしたほうが税金が少ないはず」と判断するのは危険です。

7. 申告書で表現できるか確認する

最後に、申告書上の表現を確認します。

別表七(一)、別表七(一)付表、別表十四(六)、別表五(一)を作成できる資料が揃っているか。支配関係発生日、みなし共同事業要件、特定資産の時価、簿価純資産超過額・時価純資産超過額の資料を保存できるか。ここまで確認しておきます。

専門家へ相談する前に準備すべき資料

この論点を相談する場合、次の資料があると、検討がぐっと具体的になります。

資料確認できる論点
組織図・資本関係図支配関係、完全支配関係、グループ関係
株主名簿支配関係発生日、名義株、実質株主
株式譲渡契約書M&Aクロージング日、議決権移転日
登記事項証明書合併日、増資日、組織再編日
直近10年分の法人税申告書欠損金の発生年度、別表七(一)
別表七(一)・付表欠損金残高、引継対象欠損金
別表五(一)税務上の資産簿価、利益積立金額
固定資産台帳特定資産、帳簿価額、取得日
不動産評価資料含み損益、時価純資産・簿価純資産
有価証券明細含み損益、銘柄別評価
債権明細貸倒損失、回収可能性
事業計画みなし共同事業要件、事業継続
従業者名簿従業者従事・事業規模継続
役員履歴特定役員引継要件
再編契約書案合併、分割、現物出資、現物分配の内容
PMI計画買収後の合併・資産処分・人員移動
税額試算適格・非適格、制限あり・なしの比較

「欠損金がいくらあるか」だけでは判断できません。いつ、なぜ発生し、どの資産に紐づき、どの支配関係のもとで再編されるのかまで整理して、はじめて全体が見えてきます。

組織再編における欠損金は、節税効果ではなく「使える条件」を先に見る

繰越欠損金や含み損資産は、会社にとって税務上の価値を持つことがあります。しかし、その価値は無条件のものではありません。

組織再編税制は、事業目的を伴う再編を妨げる制度ではありません。その一方で、欠損金や含み損を黒字事業と組み合わせることだけを目的とするような再編には、引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入、さらには組織再編成に係る包括否認規定の検討が必要になります。

大切なのは、税負担の軽減効果を見込む前に、次の問いに答えられるかどうかです。

  • この欠損金は、どの年度に、どの原因で発生したのか
  • この含み損は、支配関係発生前から存在していたものか
  • 支配関係はいつ、どの株主関係で発生したのか
  • 5年要件を満たすのか
  • みなし共同事業要件を、事業実態と資料で説明できるのか
  • 合併法人側の欠損金や含み損も確認したのか
  • 適格と非適格の税額・資金繰り・会計影響を比較したのか
  • 申告書別表と根拠資料で、後から説明できるのか

犬飼公認会計士・税理士事務所では、組織再編、M&A後統合、グループ内再編、事業承継前の再編における繰越欠損金・含み損資産の取扱いについて、適格要件、支配関係発生日、みなし共同事業要件、別表七・別表十四、税効果会計、M&A後の資金繰りまで含めて検討します。

欠損金や含み損を前提に組織再編を検討している場合は、契約書や再編スケジュールを固める前に、欠損金の年度別明細、支配関係のタイムライン、特定資産の時価資料、再編後の事業計画を整理したうえでご相談ください。

欠損金は、存在するだけでは会社を守りません。使える条件を確認し、後から説明できる再編として設計して、はじめて経営判断に活かせる税務資産になります。

振り返り|この記事の重要ポイント

項目重要ポイント
繰越欠損金の基本青色申告等の要件を満たす欠損金は原則10年繰越可能。ただし控除限度や個別制限がある
組織再編での問題適格再編により簿価移転が行われるため、欠損金・含み損の不当利用防止規定が問題になる
引継制限被合併法人等から引き継ぐ欠損金が制限される制度
使用制限合併法人等がもともと持つ欠損金の使用が制限される制度
見落としやすい点被合併法人だけでなく、合併法人側の欠損金・含み損も確認する
5年要件支配関係発生日から一定期間が経過しているかを確認する
支配関係発生日株主名簿、契約書、クロージング資料、実質株主を確認する
みなし共同事業要件事業関連性、事業規模、事業規模継続、特定役員引継を確認する
事業関連性同種事業、製造販売関係、一体運営、持株会社の実質的経営管理などを確認する
制限対象欠損金支配関係事業年度前の欠損金は原則全額、以後の欠損金は特定資産譲渡等損失相当額が制限対象
特定資産譲渡等損失支配関係発生前からの含み損資産の譲渡・評価換え・除却等による損失が制限される制度
特定引継資産適格組織再編で引き継いだ含み損資産
特定保有資産合併法人等が再編前から保有していた含み損資産
M&A後統合買収後5年以内の適格合併・再編では特に注意が必要
非適格再編欠損金制限は避けられる場合があるが、時価課税・株主課税・資金流出が問題になる
税効果会計欠損金の使用制限により繰延税金資産の回収可能性が変わる
申告書管理別表七(一)、別表七(一)付表、別表十四(六)、別表五(一)の整合性が重要
相談前資料組織図、株主名簿、申告書、別表、固定資産台帳、時価資料、事業計画を準備する
実務上の結論欠損金や含み損は、金額だけでなく、発生時期・原因・支配関係・事業実態・資料化まで確認して初めて判断できる
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