創業や開業、法人化を考えはじめたとき、多くの方が最初に迷うのは、次の3つの選択ではないでしょうか。
個人事業として始めるのか。最初から法人を設立するのか。あるいは、個人事業として始めたうえで、どこかのタイミングで法人成りするのか。
この選択は、単なる手続の違いではありません。どの形で始めるかによって、税務の届出、社会保険、役員報酬、源泉徴収、消費税・インボイス、創業融資、契約名義、会計管理、資金繰り、さらには将来の採用や投資判断まで、幅広く変わってきます。
「個人事業は簡単」「法人は信用がある」「利益が出たら法人成り」といった一般論だけで判断してしまうと、開業後に思わぬ負担や手続の漏れが生じることがあります。かといって、必要以上に複雑に考えすぎて事業開始そのものが遅れてしまうのも、望ましいことではありません。
大切なのは、自社の事業内容、資金、取引先、採用予定、利益見通し、社会保険の負担、そして将来の成長方針を踏まえ、どの事業開始ルートが今の状況に合っているのかを整理しておくことです。
本記事では、個人事業、法人設立、法人成りの違いを、創業時に確認しておきたい判断軸に沿って整理していきます。
まず押さえておきたい3つの事業開始ルート
創業時の事業開始ルートは、大きく次の3つに分けられます。
1つ目は、個人事業として開業する方法です。2つ目は、最初から法人を設立して事業を始める方法です。そして3つ目が、個人事業として一定期間運営したうえで、法人を設立して事業を移行する方法です。
個人事業として始める場合は、法人設立登記を行わず、個人として事業をスタートします。個人が新たに事業を始めたときは、所得税、源泉所得税、消費税に関する各種の届出書等を提出する必要があります。
出典:国税庁|No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
法人を設立して始める場合は、会社法上の会社を設立することになります。会社法上、会社とは株式会社、合名会社、合資会社、合同会社をいいます。実務上、創業時に主に検討されるのは株式会社と合同会社ですが、会社形態ごとに、出資者の責任、意思決定、信用、将来の資金調達の考え方が変わってきます。
出典:e-Gov法令検索|会社法
法人成りは、すでに個人事業として営んでいる事業を、法人へ移行することを指します。法人を新たに設立する点では「法人設立」と共通しますが、これに加えて、既存の売上、資産、契約、借入、従業員、消費税、インボイス、屋号、取引先との関係を、どのように法人へ引き継ぐかという移行実務が伴います。
つまり、3つの違いは「どの届出を出すか」だけではありません。事業を始める前の判断なのか、法人という器を作る判断なのか、それとも既存の事業を法人へ移す判断なのか。この違いを押さえておくことが、最初の整理になります。
個人事業として始める場合の特徴
個人事業は、比較的始めやすい事業開始ルートです。
法人設立登記や定款認証は不要で、事業を開始したうえで必要な税務届出を行い、帳簿や請求書、口座、証憑の管理を整えていくことになります。個人事業の開業届出・廃業届出等の手続は、新たに事業所得、不動産所得または山林所得を生ずべき事業を開始した方などが対象で、その提出時期は、事業開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までとされています。
出典:国税庁|A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続
個人事業の利点は、開始時の事務負担が比較的軽いことにあります。事業規模がまだ小さい、固定費を抑えて試したい、取引先から法人であることを求められていない、従業員をすぐに雇う予定がない。こうした場合には、個人事業として始めることに十分な合理性があります。
ただし、個人事業にも注意しておきたい点があります。
もっとも大きいのは、個人と事業の区分が曖昧になりやすいことです。事業用の口座を分けていない、クレジットカードを分けていない、請求書や領収書の保存が不十分、家事関連費と事業経費の区分が曖昧。こうした状態になると、確定申告だけでなく、資金繰りや将来の融資説明にも影響が及びます。
また、所得が増えてきた場合には、所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険料などの負担も含めて考える必要があります。所得税だけを見て「個人が有利」「法人が有利」と判断するのではなく、事業主個人の生活費、社会保険、家族の働き方、そして将来の法人化の可能性まで含めて確認しておくことが欠かせません。
個人事業は、手続が簡単だからといって、管理まで簡単というわけではありません。むしろ、個人と事業が混ざりやすいからこそ、創業直後から帳簿、証憑、口座、請求、入金、支払を分けて管理していくことが重要になります。
法人を設立して始める場合の特徴
法人を設立して事業を始める場合は、個人事業とは異なり、会社という独立した法的な器を作ることになります。
法人は、個人とは別の権利義務の主体です。そのため、契約、口座、資産、借入、税務申告、社会保険、役員報酬などが、いずれも法人単位で発生します。
株式会社を設立する場合には、定款の作成、出資、設立登記などが必要です。株式会社の設立手続としては、定款の作成、定款認証、出資の履行、設立登記申請といった流れが定められています。
出典:法務省|株式会社の設立手続(発起設立)について
法人設立後は、税務署への法人設立届出のほか、必要に応じて青色申告の承認申請、棚卸資産の評価方法、減価償却資産の償却方法などの届出を確認していきます。新設法人が設立第1期目から青色申告の承認を受けようとする場合、その提出期限は、設立の日以後3か月を経過した日と設立第1期の事業年度終了の日とのうち、いずれか早い日の前日までとされています。
出典:国税庁|No.5100 新設法人の届出書類
法人設立の利点は、事業と個人を分けやすいことです。法人名義で契約し、法人口座で入出金を行い、法人の会計帳簿を作成するため、事業の損益や資金の流れを把握しやすくなります。取引先によっては、法人であることが信用面で有利に働く場合もあります。
また、法人では役員報酬を設定します。これにより、法人の利益と経営者個人の給与所得を分けて設計できるようになります。ただし、役員報酬は、法人税、所得税、住民税、社会保険料、そして資金繰りに影響します。単に利益を減らすために報酬額を決めるのではなく、法人と個人を合わせた資金設計として考えていく必要があります。
法人設立で特に見落とされやすいのが、社会保険です。常時従業員を使用する法人事業所は、事業主のみの場合を含め、厚生年金保険および健康保険への加入が法律で義務づけられています。新規適用届は、事実の発生から5日以内に提出することとされています。
出典:日本年金機構|新規適用の手続き
法人は、個人事業よりも管理負担が重くなります。法人税の申告、地方税、社会保険、役員報酬、株主総会や議事録、法人口座、契約名義、会計処理など、継続的に管理すべき項目が増えていきます。
したがって、法人設立は「信用がありそうだから」「節税になりそうだから」といった理由だけで選ぶものではありません。法人として運営していく体制を作れるかどうかが、判断の要になります。
法人成りする場合の特徴
法人成りは、個人事業として始めた後に、法人へ移行するという選択です。
この場合、個人事業と法人設立の両方の論点が重なってきます。個人事業をどの時点で区切るのか。法人の設立日はいつにするのか。そして、個人事業の売上、売掛金、在庫、固定資産、借入、契約、従業員、許認可を、どのように法人へ移すのか。これらを一つひとつ整理していかなければなりません。
法人成りの判断でよくあるのが、「利益が増えてきたから法人化したい」という考え方です。これは一つのきっかけにはなりますが、判断軸としては、まだ十分とはいえません。
法人化すると、所得税と法人税の違いだけでなく、役員報酬、社会保険、法人住民税、消費税、インボイス、会計・申告のコスト、契約変更、金融機関対応まで変わってきます。個人事業では発生していなかった、法人特有の固定費や管理負担も生じます。
また、個人事業で使っていた資産を法人で使う場合には、個人から法人への売買、現物出資、賃貸、使用貸借といった形を検討することになります。実務上は、資産をどの価額で移すのか、消費税の課税関係がどうなるのか、減価償却をどう引き継ぐのか、借入やリース契約をどう扱うのか、といった点が問題になります。
法人化は、税負担だけでなく、事業の信用、採用、融資、契約、資金繰り、そして将来の承継やM&Aまで含めて検討すべきものです。
個人事業での売上や利益が伸びてきたとしても、法人化後に役員報酬と社会保険料を負担し、法人の申告・管理コストが増えることで、かえって資金繰りが圧迫されることもあります。逆に、取引先との関係、採用、資金調達、事業拡大を見据えると、早めに法人化した方が事業運営上は適している場合もあります。
法人成りは、個人事業の延長線上にあるものではありません。個人から法人へ、事業の器そのものを変える手続です。だからこそ、法人化のタイミングだけでなく、移行する資産・契約・人・税務・会計をどう整理するかが重要になります。
違い1:手続と届出の違い
個人事業、法人設立、法人成りでは、最初に必要となる手続が異なります。
個人事業では、個人事業の開業届、青色申告承認申請、給与支払事務所等の届出、消費税関係の届出などを確認します。法人を設立する場合には、定款作成、出資、設立登記、法人番号、法人設立届出、青色申告、地方税、給与支払事務所、社会保険といった手続が関係してきます。
法人設立に関する手続については、法人設立ワンストップサービスを利用し、質問に答えていくことで必要な手続をリストアップし、オンラインで申請・届出を行うこともできます。
出典:デジタル庁・マイナポータル|法人設立ワンストップサービス
ただし、オンラインで提出できることと、正しく判断できることは、別の話です。
たとえば、青色申告を出すかどうか、消費税の課税事業者を選択するかどうか、インボイス登録を行うかどうか、事業年度をどう設定するか、役員報酬をいつからいくらにするか。これらは、単なる提出作業ではありません。届出の選択が、初年度以降の税務、資金繰り、取引先対応に影響していきます。
法人成りの場合には、さらに、個人事業側の廃業届、個人事業の最終確定申告、法人側の設立届出、資産や契約の移行、社会保険の切替などが加わります。単に「法人を作る」だけでなく、個人事業をどう閉じ、そこから法人へどうつなぐかが、実務上の中心になります。
違い2:税務上の違い
個人事業と法人では、課税の仕組みそのものが異なります。
個人事業では、事業で得た利益は、原則として個人の事業所得として所得税の対象になります。所得税は累進税率であり、住民税、個人事業税、国民健康保険料なども含めて負担を考える必要があります。
一方、法人では、法人の所得に対して法人税等が課され、経営者が受け取る役員報酬には、個人側で所得税・住民税がかかります。つまり、法人と個人を分けて考える必要があるということです。
この違いだけを見ると、一定以上の利益が出れば法人化が有利に見えることがあります。しかし実務上は、税率だけで判断するのは危険です。
法人化すると、社会保険料の負担が生じます。法人住民税の均等割のように、赤字であっても発生する負担もあります。さらに、法人の決算申告、会計処理、議事録、法人口座、契約変更などの管理コストも増えていきます。
その一方で、法人には、役員報酬、退職金、生命保険、福利厚生、欠損金の繰越、事業承継、資本政策といった、個人事業とは異なる設計の余地があります。ただし、これらはいずれも制度の要件や実態に基づいて判断すべきもので、形式だけ整えればよいというものではありません。
税務上の違いは、「どちらが安いか」ではなく、「どの所得構造、資金繰り、社会保険、将来設計に合っているか」で考えるべきものです。
違い3:消費税・インボイスの違い
創業時の判断で特に注意しておきたいのが、消費税とインボイスです。
消費税では、事業者が売上に係る消費税から、仕入れに係る消費税を控除して納付税額を計算します。インボイス制度のもとでは、仕入税額控除のために、原則として適格請求書の保存が重要になります。このインボイス制度は、令和5年10月1日から開始されています。
出典:国税庁|インボイス制度について
個人事業で始める場合は、免税事業者として始めるのか、それともインボイス登録を行うのかを、取引先との関係を踏まえて検討します。法人を設立する場合も、新設法人としての消費税判定、資本金、特定期間、課税事業者選択、簡易課税、インボイス登録などを確認していきます。
法人成りでは、個人事業者としての消費税の状況と、新設法人としての消費税の状況が分かれます。個人では課税事業者だったものの、法人では免税事業者になる場合もあります。逆に、インボイス登録や資本金、特定期間の状況によっては、法人側で消費税対応が必要になる場合もあります。
消費税の届出は、提出の時期を誤ると、その課税期間で希望する取扱いを受けられないことがあります。特に、設備投資や大きな資産移転がある場合には、消費税の還付、仕入税額控除、課税事業者選択、簡易課税の選択などを、事前に確認しておく必要があります。
消費税・インボイスは、創業初期は売上が小さいから関係ない、と考えられがちです。しかし、取引先が事業者である場合には、請求書や価格交渉にも影響するため、開業の時点から確認しておきたい論点です。
違い4:社会保険・労働保険の違い
個人事業と法人設立で大きく変わるのが、社会保険です。
個人事業では、事業主本人は原則として国民健康保険・国民年金の枠組みになります。従業員を雇う場合には、業種や人数、勤務形態に応じて、社会保険や労働保険の加入を確認します。
法人では、代表者のみであっても、一定の要件を満たせば健康保険・厚生年金保険の適用事業所となります。法人化した後に役員報酬を支給する場合には、社会保険料の負担を資金繰りに織り込んでおく必要があります。
出典:日本年金機構|新規適用の手続き
従業員を雇う場合には、労働保険も確認します。一元適用事業の場合、保険関係成立届は、保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内に、概算保険料申告書は50日以内に提出することとされています。
出典:厚生労働省|労働保険の成立手続
法人化によって税負担が下がるように見えても、社会保険料まで含めて考えると、手元に残る資金は変わってきます。特に役員報酬を設定する場合には、法人側の負担と個人側の負担の両方を確認しておく必要があります。
したがって、法人化の判断では、税金だけでなく、社会保険料を含めた実質的な負担を見ておかなければなりません。
違い5:責任・信用・契約名義の違い
個人事業では、事業上の契約や借入、支払義務は、原則として個人に帰属します。事業がうまくいかなかった場合にも、個人の財産と事業の責任が分かれにくい点には、注意が必要です。
法人では、会社が契約の主体になります。株式会社や合同会社では、出資者の責任は、原則として出資額を限度とする有限責任です。ただし、金融機関からの借入では経営者保証を求められる場合があり、法人だから個人の責任が一切なくなる、と単純に考えることはできません。
信用面では、法人であることが、取引先や金融機関にとって安心材料になる場合があります。法人番号、登記簿、定款、決算書、法人口座などによって、外部から会社の存在や基本情報を確認しやすくなるためです。国税庁の法人番号公表サイトでは、法人番号の指定を受けた法人等について、商号または名称、本店または主たる事務所の所在地、法人番号という基本3情報が公表されています。
出典:国税庁|法人番号公表サイト
もっとも、法人であれば必ず信用される、というわけではありません。資本金が極端に少ない、決算書が整っていない、社会保険や税務届出が不十分、契約書や請求書が整備されていない。こうした状態では、法人格があっても、その説明力は弱くなってしまいます。
法人の信用は、登記しただけで得られるものではありません。数字、契約、税務、資金管理を継続して整えていくことで、はじめて高まっていくものです。
違い6:資金調達・創業融資の違い
創業時には、自己資金だけで始めるのか、借入を行うのか、出資を受けるのか、あるいは補助金を検討するのかを、整理しておく必要があります。
個人事業でも創業融資の対象になり得ますし、法人でも創業融資の対象になり得ます。重要なのは、個人か法人かという点だけではなく、事業内容、経験、自己資金、資金の使途、返済の原資、資金繰りを、きちんと説明できるかどうかです。
創業期の方は、営業実績が乏しいなどの理由で資金調達が難しい場合も少なくありません。こうした状況を踏まえ、日本政策金融公庫では、新規開業・スタートアップ支援資金をはじめとする創業融資が用意されています。
出典:日本政策金融公庫|創業融資のご案内
法人設立を選ぶ場合には、資本金の額、役員構成、事業目的、事業年度、創業計画書、資金繰り表、借入金の返済計画を、一体として考えていく必要があります。
法人成りの場合には、個人事業時代の実績を融資の説明に使える一方で、法人化後の売上、契約、資産、借入、役員報酬、社会保険料をどう見込むかが重要になります。個人時代の利益を、そのまま法人化後の返済原資として見ることはできません。法人化によって費用構造が変わるからです。
資金調達の観点では、個人事業、法人設立、法人成りのどれが有利かを、一律に決めることはできません。金融機関に対して、どの形であれば事業内容と資金の使途、返済の可能性を最も説明しやすいのか。この点を確認していくことが大切です。
違い7:会計・月次決算・管理体制の違い
会計管理は、個人事業でも法人でも必要です。ただし、求められる管理の水準や、外部への説明責任は異なります。
個人事業では、確定申告のために帳簿を整える、という意識になりがちです。しかし、事業として継続していく以上は、月次で売上、経費、利益、資金繰りを把握しておくことが重要です。個人と事業のお金を分けていなければ、事業が利益を出しているのか、それとも生活費で資金が減っているのかが、見えにくくなってしまいます。
法人では、会社単位で会計帳簿を作成し、法人税の申告を行います。役員報酬、社会保険、未払金、売掛金、買掛金、固定資産、借入金、資本金、利益剰余金など、法人特有の会計項目も管理していくことになります。
法人成りでは、個人事業の最終年度と法人の第1期が重なるため、売上や経費の帰属、資産の移転、売掛金・買掛金の引継ぎ、消費税、源泉所得税、給与、社会保険を、それぞれ区分して整理する必要があります。
創業時に会計ソフトを導入したとしても、入力ルール、証憑の保存、口座連携、請求書の発行、月次締めのルールがなければ、経営判断に使える数字にはなりません。
個人事業で始める場合も、法人で始める場合も、法人成りする場合も、創業初期から月次で数字を確認できる体制を整えておくことが重要です。
どのルートを選ぶべきかを判断するための視点
個人事業、法人設立、法人成りのどれを選ぶべきかは、単一の基準では決まりません。
判断にあたっては、少なくとも次のような視点を整理しておきたいところです。
まず、事業の内容です。許認可、取引先の信用、契約の主体、設備投資、在庫、外注、従業員の有無によって、個人で始めるべきか、法人で始めるべきかが変わってきます。
次に、資金計画です。自己資金で小さく始めるのか、創業融資を受けるのか、あるいは出資を受ける可能性があるのか。これによって、必要な事業計画や会計管理の水準が変わります。
次に、税務と社会保険です。所得税・法人税だけでなく、住民税、事業税、消費税、インボイス、社会保険料、役員報酬、給与計算までを含めて考える必要があります。
次に、責任と信用です。個人として契約するのか、それとも法人として契約するのか。取引先や金融機関が、どのような情報を確認するのか。法人番号、登記、決算書、口座、契約書を整える必要があるかを確認していきます。
そして最後に、将来の見通しです。採用、設備投資、店舗展開、共同創業、資本政策、融資、法人成り、承継、M&Aを、どこまで想定するか。ここまで見据えることで、創業時の選択は変わってきます。
「まず個人で始める」「最初から法人にする」「利益が出てから法人化する」という表面的な順番だけでなく、自社の事業がどのように成長し、どのような管理体制を必要とするのかを考えていくことが重要です。
選択を誤りやすい典型的な考え方
創業時には、次のような考え方に注意しておきたいところです。
「法人の方が信用があるから、とりあえず法人にする」
法人であることは信用の一要素ではありますが、決算書、資金繰り、契約、税務届出、社会保険が整っていなければ、実務上の説明力は弱くなってしまいます。
「個人事業は簡単だから、経理は後で考える」
個人事業でも、売上、経費、入金、支払、消費税、インボイス、外注、源泉徴収といった論点は発生します。将来法人化する可能性があるのなら、初期の管理はなおのこと重要になります。
「利益が出たら法人成りすればよい」
利益は重要な判断材料です。ただし、法人化した後には、役員報酬、社会保険、法人住民税、会計・申告コスト、契約変更が加わります。利益だけで判断してしまうと、資金繰りを見誤ることがあります。
「税金だけを比べればよい」
税金だけでなく、社会保険、資金繰り、信用、契約、融資、採用、管理負担を、合わせて見ておく必要があります。
「手続は自分でできるから専門家は不要」
手続そのものはオンライン化が進み、以前より進めやすくなっています。しかし、どの届出を出すか、どの制度を選ぶか、どのタイミングで法人化するか、どの数字を金融機関へ説明するかは、個別の事情に応じた判断が必要になります。
結局、個人事業・法人設立・法人成りは何が違うのか
違いを一言でまとめるなら、次のようになります。
個人事業は、個人として事業を始める方法です。開始の手続は比較的簡素ですが、個人と事業のお金が混ざりやすいため、将来の法人化や融資を見据えた管理が重要になります。
法人設立は、会社という独立した器を作って事業を始める方法です。信用、契約、採用、資金調達、管理体制の面で利点がある一方、税務、社会保険、会計、役員報酬、法務面での継続的な管理が必要になります。
法人成りは、個人事業として行ってきた事業を、法人へ移す方法です。税務負担や信用面だけでなく、資産、契約、借入、消費税、従業員、社会保険、会計の移行を、丁寧に整理していく必要があります。
どの方法が正しい、という話ではありません。
大切なのは、自社の事業内容、資金、取引先、採用、税務、社会保険、そして将来の成長に照らして、いま選ぶべき形を自分の言葉で説明できることです。
創業時の選択は、将来の経営判断の土台になります。だからこそ、手続の早さや費用だけでなく、開業後に数字と事実をもとに説明できる状態を作れるかどうかを、判断の基準にしていただきたいと思います。
個人事業・法人設立・法人成りの判断を整理したい方へ
個人事業で始めるべきか。最初から法人を設立すべきか。あるいは、現在の個人事業をどのタイミングで法人化すべきか。
この判断は、税金だけで決められるものではありません。創業時の資金計画、取引先との契約、消費税・インボイス、役員報酬、社会保険、創業融資、会計環境、月次決算体制まで含めて整理して、ようやく実務上の判断ができるようになります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、創業・開業・法人化を、単なる手続としてではなく、事業開始後の数字と管理体制を整えるための初期設計として捉えています。
どの形で始めるべきか迷っている方、法人化のタイミングを確認したい方、税務・資金繰り・社会保険・会計管理を一体で整理したい方は、現在の状況と今後の見通しをもとに、一度ご相談ください。お問い合わせページから、創業・開業・法人化に関するご相談内容をお送りいただけます。
振り返り|個人事業・法人設立・法人成りの違い
| 比較項目 | 個人事業 | 法人設立 | 法人成り |
|---|---|---|---|
| 基本的な位置づけ | 個人として事業を開始する | 会社という法人格を作って事業を開始する | 個人事業を法人へ移行する |
| 手続の特徴 | 開業届、青色申告、給与支払、消費税届出などを確認 | 定款、出資、登記、法人設立届出、地方税、社会保険などを確認 | 法人設立に加え、個人事業の廃止・資産・契約・売上の移行を確認 |
| 税務の考え方 | 事業所得として個人に課税 | 法人所得と役員報酬を分けて課税 | 個人事業の最終申告と法人第1期の税務を分けて整理 |
| 社会保険 | 事業主本人は国民健康保険・国民年金が基本 | 法人は代表者のみでも社会保険加入が必要となる場合がある | 個人の保険関係から法人の社会保険へ切替が必要 |
| 消費税・インボイス | 免税・課税・登録の判断を取引先との関係で確認 | 新設法人の納税義務、資本金、登録、届出を確認 | 個人と法人で消費税・インボイスの地位が分かれる |
| 資金調達 | 個人として創業融資を検討できる | 法人として創業融資・法人口座・契約を整えやすい | 個人事業の実績を法人化後の計画へどう接続するかが重要 |
| 信用・契約 | 個人名義で契約・借入・請求する | 法人名義で契約・口座・請求ができる | 契約名義や許認可を個人から法人へ変更する必要がある |
| 会計管理 | 個人資金と事業資金の分離が重要 | 法人会計、役員報酬、借入、資本金、月次決算が重要 | 個人事業と法人の売上・費用・資産を明確に区分する必要がある |
| 向いている場面 | 小さく始めたい、固定費を抑えたい、事業検証段階 | 信用、採用、融資、契約、成長を初期から重視したい | 個人事業の実績があり、税務・信用・成長面から法人化を検討したい |
| 判断上の注意点 | 簡単に始められるが管理を後回しにしない | 信用だけでなく管理負担・社会保険負担を確認する | 節税だけでなく資金繰り・契約・資産移行を確認する |