事前通知・調査開始前に確認すべきこと|税務調査の初動で会社が整えるべき資料と判断軸

税務署から税務調査の連絡が入ると、多くの会社では「何を見られるのか」「何を用意すればよいのか」「指摘を受けたらどうなるのか」といった不安が、まず先に立ちます。

けれども、連絡を受けた直後にいちばん大切なのは、慌てて資料をかき集めることではありません。まずは、これから行われる調査の枠組みを正確につかむことです。

税務調査の事前通知では、調査の開始日時、場所、目的、対象税目、対象期間、そして対象となる帳簿書類その他の物件などが伝えられます。これらは、会社が調査に備えるための出発点であり、調査対象を整理するうえでの前提となる情報です。事前通知の内容は、いわば「どこまでが調査の対象か」を特定する役割を担っています。

この初動を誤ると、必要な資料が足りないまま当日を迎える、担当者の記憶だけで説明してしまう、調査対象外の論点まで不用意に広げてしまう、修正申告の判断を急ぎすぎてしまう、といった問題が生じやすくなります。

本稿では、法人税務の観点から、事前通知を受けた段階で会社が確認すべき事項、調査開始前に整理しておきたい資料、そして専門家と共有すべき論点を、実務に即して整理していきます。

目次

事前通知は「税務調査への準備時間」を確保するための制度

実地の税務調査を行う場合、税務署などは原則として、調査開始日の前までに相当の時間的余裕をもって、電話等により、実地調査を行う旨や、開始日時、場所、対象税目、対象期間などを事前に通知することとされています。

この通知に先立って、納税者本人や税務代理人の都合を聴き取り、必要に応じて日程を調整したうえで、通知事項が正確に伝わるよう、分かりやすく丁寧に知らせる。事務運営指針では、そうした姿勢が示されています。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)

この制度の趣旨を、会社側の実務に引き寄せて考えてみると、事前通知とは「調査が来るという連絡」ではなく、「調査が始まる前に、会社が事実関係と資料を整理するための入口」だといえます。

ですから、事前通知を受けた段階でまず行うべきことは、次の三つに集約されます。

  • 調査の対象範囲を正確に把握すること
  • 調査開始日までに、説明できる資料を整理しておくこと
  • 法人税務上、争点になり得る処理を、あらかじめ棚卸ししておくこと

ここで初動を誤ると、当日に資料を探しながら回答する、担当者ごとに説明が食い違う、根拠のない慣行処理を「前年と同じです」とだけ説明してしまう、といった状態になりがちです。

税務調査は、当日の対応力だけで決まるものではありません。事前通知を受けた日から調査開始日までの準備で、その多くが決まってきます。

まず確認すべきは「調査か、行政指導か」

税務署などから連絡があったとき、最初に確かめておきたいのは、その連絡が税務調査としてのものなのか、それとも行政指導としてのものなのか、という点です。

事務運営指針では、納税者などに対して調査または行政指導に当たる行為を行う際には、対面・電話・書面といった態様を問わず、いずれの事務として行うのかを明示したうえで行うものとされています。また、調査とは、特定の納税者の課税標準や税額を認定する目的などで行う一連の行為であり、証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈・適用などを含むものと整理されています。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)

この区別は、単なる言葉の違いではありません。

行政指導であれば、自主的な見直しや確認の依頼として対応する場面があります。一方、税務調査であれば、質問検査権に基づく手続として、対象税目、対象期間、帳簿書類、調査結果の説明、修正申告・更正、加算税といった論点へとつながっていきます。

実務上も、行政指導と税務調査とでは、修正申告後の加算税の扱いなどに違いが出得るため、最初の連絡段階できちんと区別して把握しておく必要があります。行政指導として行うのか調査として行うのかは明示すべき事項であり、調査に該当する行為であれば、それにふさわしい調査手続を踏むことになります。

会社側では、連絡を受けた担当者が、次の事項を必ず書き留めておきましょう。

  • 連絡してきた税務署・部署・担当者名
  • 連絡の趣旨が調査なのか、行政指導なのか
  • 実地調査なのか、電話・書面などによる確認なのか
  • 対象税目と対象期間
  • 税務代理人への連絡が済んでいるか
  • 折り返し連絡が必要か、回答期限があるか

この段階で「とりあえず資料を送ってください」と言われた場合でも、何の手続として、どの税目・期間について、どの資料が必要なのかを確認しないまま応じるべきではありません。

事前通知で確認すべき事項

事前通知では、会社が調査対象を把握するために必要な事項が伝えられます。国税通則法上、実地の調査で質問検査等を行わせる場合には、あらかじめ納税者および税務代理人に対して、調査の開始日時、場所、目的、対象税目、対象期間、対象となる帳簿書類その他の物件などを通知するものとされており、事務運営指針でも同様の内容に基づいて事前通知を行うこととされています。
出典:e-Gov法令検索|国税通則法 出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)

会社側では、次の事項を一つずつ確認していきます。

調査開始日時

事前通知では、調査を開始する日時が伝えられます。ただし、調査に要する時間や日数は、開始後の状況によって変わるため、事前通知の時点で確定的に知らされるものではありません。国税庁のFAQでも、調査に要する時間や日数は開始後の状況によって異なるため、通知時点であらかじめ知らせることは難しいとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

開始日時を聞いたら、会社としては、その日が単に「税務署が来る日」ではなく、調査対応のために経理責任者、代表者、必要に応じて営業・購買・総務・人事などの関係者がきちんと対応できる日かどうかを確認します。

代表者が不在である、経理担当者が決算業務で手が離せない、税務代理人が立ち会えない――こうした事情があれば、日程変更を検討すべきでしょう。

調査場所

調査場所は、通常、会社の本店、事務所、店舗、工場、あるいは税理士事務所などが想定されます。

場所を確認する際は、住所を押さえるだけでは十分ではありません。どの場所に帳簿や証憑が保管されているか、電子データを確認できる端末があるか、会議室など調査のためのスペースを確保できるか、原本資料を移動させる必要があるか――こうした点まで確認しておきます。

調査場所と資料の保管場所が異なると、当日に資料不足が生じやすくなります。とくに、複数拠点を持つ会社、クラウド会計を利用している会社、倉庫・工場・店舗で棚卸資料を保管している会社では、調査場所と資料の所在を事前に整理しておく必要があります。

調査目的

調査目的は、たとえば「提出された申告書の記載内容を確認するため」といった形で伝えられます。

ただし、実地調査を行う具体的な理由まで説明されるわけではありません。国税庁のFAQでも、法令上、調査の目的は事前通知事項とされているものの、実地調査を行う理由そのものは通知事項ではないため説明されない、とされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

したがって、会社側が「なぜ当社が調査対象になったのか」を必要以上に推測することはありません。

むしろ大切なのは、通知された調査目的を踏まえ、対象事業年度の申告内容をきちんと説明できる状態に整えておくことです。売上、仕入、在庫、役員給与、交際費、貸倒損失、固定資産、関係会社取引など、申告書に反映された処理の根拠を一つずつ確認していきます。

対象税目

法人の税務調査では、法人税だけでなく、地方法人税、消費税、源泉所得税、印紙税などが関係してくることがあります。

国税庁の税理士向けFAQでも、法人の調査では一般に、法人税、地方法人税、消費税、源泉所得税の調査が同時に行われるとされています。税務代理権限証書についても、法人税以外に消費税や源泉所得税について事前通知に関する同意がある場合には、その旨を記載した証書を提出する必要があるとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)

ここで気をつけたいのは、「法人税の調査」と聞いても、実務上は消費税や源泉所得税の問題が同時に確認されることが多い、という点です。

たとえば外注費の処理は、法人税では損金性や給与該当性が問われ、消費税では仕入税額控除、源泉所得税では源泉徴収義務が問題になります。役員報酬や賞与も、法人税上の損金算入要件だけでなく、源泉所得税、社会保険、議事録との整合性にまで関わってきます。

事前通知を受けたら、対象税目を税目ごとに書き出し、それぞれについて確認すべき資料を分けて整理しておくことが大切です。

対象期間

対象期間は、調査の中心となる事業年度や課税期間を示します。

ただし、対象期間以外の資料が一切見られない、という意味ではありません。国税庁のFAQでは、たとえば対象年度の減価償却費を確認するために、その資産の取得年度の帳簿書類等を検査する必要がある場合には、対象年度以外の帳簿書類等の提示を求めることがあるとされています。これはあくまで対象年度の調査であって、対象年度以外の調査を行っているわけではない、と整理されています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

法人税務では、過年度の資料が必要になる場面は少なくありません。

固定資産の取得価額、耐用年数、修繕履歴、貸倒損失の債権発生時期、繰越欠損金、税務調整の留保項目、役員退職金の在任期間、組織再編時の簿価引継ぎ――これらは、対象事業年度の資料だけでは完結しません。

そのため、対象期間を確認したうえで、その期間の申告内容を説明するために必要となる過年度資料も、あらかじめ洗い出しておく必要があります。

対象となる帳簿書類その他の物件

事前通知では、調査対象となる帳簿書類その他の物件も伝えられます。

ただし、通知された資料だけを用意すれば十分とは限りません。法人税務の実務では、帳簿と証憑、契約書、議事録、社内承認資料、外部とのやり取りが一体となって、はじめて処理の妥当性を説明できます。

たとえば売上計上の時期を説明するには、総勘定元帳や請求書だけでなく、契約書、注文書、納品書、検収書、入金記録、売上管理表が必要になることがあります。役員給与を説明するには、元帳に加えて、株主総会議事録、取締役会議事録、報酬改定の経緯、事前確定届出給与の届出状況などが求められます。

調査対象書類は、法令上の通知事項であると同時に、会社が説明資料を組み立てるための起点でもあるのです。

事前通知は原則として電話で行われる

事前通知は、原則として電話により口頭で行われます。国税庁のFAQでは、実地調査の事前通知の方法は法令上とくに規定されておらず、原則として電話で口頭により行うこと、そして納税者の要望に応じて通知内容を記載した書面を交付することはない、とされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

そのため会社側では、事前通知を受ける可能性のある担当者について、連絡があった際の記録方法をあらかじめ決めておく必要があります。

少なくとも、次のような情報はメモに残しておきましょう。

確認事項記録すべき内容
連絡日時税務署等から電話があった日時
担当者税務署名、部署、担当者氏名、連絡先
手続の性質税務調査か行政指導か
調査開始日時実地調査が開始される日時
調査場所本社、店舗、工場、税理士事務所等
調査目的申告内容確認など、通知された目的
対象税目法人税、地方法人税、消費税、源泉所得税等
対象期間対象事業年度・課税期間
対象資料帳簿書類、証憑、電子データ等
日程変更変更申出が可能か、いつまでに回答すべきか
税務代理人連絡済みか、税務代理権限証書の状況

電話での通知は、聞き漏れや誤解が起きやすい手続です。とくに対象税目や対象期間は、その後の資料準備に直結します。担当者が受けた電話の内容を、社内と税務代理人にそのまま共有できる形で記録しておくことが大切です。

日程変更は可能だが、合理的な理由と早めの対応が必要

事前通知で伝えられた調査開始日時や場所については、一定の場合に変更を申し出ることができます。

国税庁のFAQでは、事前通知の時点で都合の悪い日時が分かっている場合には申し出ることができ、申告業務や決算業務などの繁閑にも配慮して開始日時を調整するとされています。また、通知の後であっても、一時的な入院、親族の葬儀、業務上やむを得ない事情など、合理的な理由があれば変更を協議するとされています。変更申出の方法は法令でとくに定められていないため、口頭による申出でも差し支えないとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

会社側で日程変更を検討すべき典型的な場面としては、次のようなものがあります。

  • 代表者、経理責任者、税務代理人が対応できない
  • 決算、月次締め、株主総会、金融機関対応などと重なっている
  • 主要資料が外部倉庫、別拠点、前任担当者の管理下にあり、準備が間に合わない
  • 電子データの抽出やバックアップに時間を要する
  • 調査対象年度の重要論点について、事実確認が終わっていない

ただし、日程変更は、調査を先延ばしにするための手段ではありません。変更を求める場合は、合理的な理由を明確にしたうえで、代替日程を早めに提示することが大切です。

税務代理権限証書は必ず確認する

調査開始前に、必ず確認しておきたいのが税務代理権限証書です。

税務代理人がいる場合でも、この証書の記載内容によって、事前通知が納税者本人と税務代理人の双方に行われるのか、それとも税務代理人に対して行えば足りるのかが変わってきます。

国税庁のFAQでは、納税者の事前の同意がある場合には、証書を提出している税務代理人に事前通知を行えば足りるとされています。この場合には、証書に納税者の同意を記載しておく必要があります。同意の記載がなければ、納税者と税務代理人の双方に事前通知が行われます。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

また、令和6年4月1日以後の税務代理権限証書では、「調査の通知・終了の際の手続に関する同意」のうち「調査の通知」欄にチェックを記載することとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)

法人税務の調査では、法人税だけでなく消費税や源泉所得税も同時に対象となることがあります。そのため、税務代理権限証書については、次の点を確認しておきましょう。

  • 法人税について税務代理権限証書が提出されているか
  • 地方法人税、消費税、源泉所得税についても委任範囲に含まれているか
  • 調査の通知に関する同意欄にチェックがあるか
  • 過年分に関する税務代理欄の記載が必要ないか
  • 前任税理士が関与していた対象年度について、現税理士が代理できる状態か
  • 複数の税務代理人がいる場合、代表する税務代理人の定めがあるか

とくに、顧問税理士を変更した後の税務調査では、過去の事業年度について現税理士が正式に税務代理できる状態になっているかを確認する必要があります。税理士向けのFAQでも、新たに税務代理を委任された場合、過年分に関する税務代理欄および調査通知に関する同意欄への記載によって、過去の年分等について調査が行われる場合の税務代理を委任できる、とされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)

税務代理権限証書は、一見すると形式的な書類のようですが、調査通知、調査立会い、調査結果の説明、修正申告の判断にまで影響する、重要な書類です。

事前通知がない調査への対応

実地調査は、原則として事前通知が行われます。ただし、例外的に事前通知が行われない場合もあります。

国税庁のFAQでは、申告内容、過去の調査結果、事業内容などから、事前通知をすると違法または不当な行為を容易にし、正確な課税標準や税額の把握を困難にするおそれがある場合、あるいは調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある場合には、事前通知をしないこともあるとされています。事前通知がない場合でも、運用上、対象税目、課税期間、調査目的などは、臨場後すみやかに説明されることとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

また、事前通知をしないこと自体は、不服申立ての対象となる処分には当たらないとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

ここで注意したいのは、「事前通知がないのだから、調査に応じなくてよい」と単純に判断してはならない、という点です。

実際に、事前通知のない税務調査は違法であり対応する必要はないとして調査対応を拒否した税理士について、依頼者が調査に応ずる機会を失ったとして、善管注意義務違反が認められた裁判例があります。

事前通知がない場合でも、会社としては、まず次の点を確認します。

  • 調査担当者の身分証明書・質問検査章の提示
  • 調査か、行政指導か
  • 対象税目、対象期間、調査目的
  • 税務代理人への連絡・立会いの可否
  • その場で対応すべき範囲と、後日対応にできる範囲
  • 資料の原本・電子データの所在
  • 代表者、経理責任者、税務代理人への即時共有

事前通知の有無について疑義がある場合でも、感情的に拒否するのではなく、手続と事実を確認し、必要に応じて税務代理人と連携しながら対応方針を決めるべきです。

調査開始前に作っておきたい「論点メモ」

事前通知を受けた後、会社が用意すべきものは、単なる資料のリストではありません。

作っておきたいのは、「対象事業年度の法人税務上の論点メモ」です。これは、調査で聞かれそうなことを予想するためだけの資料ではなく、会社自身が自社の処理をきちんと説明できるようにするための整理です。

論点メモには、少なくとも次の事項を含めておきます。

区分整理する内容
対象年度調査対象となる事業年度・課税期間
対象税目法人税、地方法人税、消費税、源泉所得税等
重要処理金額的重要性がある処理、通常と異なる処理
判断論点税務上の解釈・事実認定が問題になり得る事項
根拠資料契約書、請求書、議事録、稟議書、台帳、明細等
社内担当事実関係を説明できる部署・担当者
税務代理人確認事項事前に専門家と検討すべき点
資金影響指摘時に追加納税が生じ得る項目
将来影響金融機関、M&A、承継、資本政策への影響

こうした論点メモがあれば、調査当日に質問を受けても、担当者がその場の記憶だけで答えてしまう事態を防げます。

税務代理人との事前打合せでも、論点の優先順位が明確になります。単に「税務調査が来るので立ち会ってください」と依頼するのではなく、「この年度には役員退職金、貸倒損失、関係会社への支援金、固定資産除却があり、資料はここまで揃っています」と共有できれば、調査前の検討の質は大きく変わってきます。

法人税務で優先して確認すべき論点

調査開始前に、すべての仕訳を同じ深さで確認することは現実的ではありません。大切なのは、否認リスク、金額的重要性、資料不足、将来影響の大きい論点から、優先して確認していくことです。

売上・収益認識

売上については、計上漏れ、期ずれ、検収基準、請求書の発行日、入金日、前受金、未収収益などが問題になります。

とくに期末前後の売上では、出荷日、納品日、検収日、役務提供の完了日、請求日、入金日が一致しないことがあります。税務調査では、会計処理だけでなく、契約上の履行、取引先との検収、実際の引渡しや役務提供の完了が確認されます。

調査開始前には、期末前後の主要な売上について、契約書、注文書、納品書、検収書、請求書、売上管理表、入金記録を整理しておきます。

仕入・外注費・原価

仕入や外注費では、架空計上、期ずれ、外注費と給与の区分、関係会社への支払、成果物の有無が問題になりやすい領域です。

外注費については、契約書があるだけでは足りません。業務内容、成果物、請求の根拠、作業の実態、指揮命令の関係、源泉徴収の要否、消費税処理との整合性を確認します。

役員給与・役員退職給与

役員給与では、定期同額給与、事前確定届出給与、改定時期、臨時改定事由、議事録、届出書の有無が確認されます。

役員退職給与では、退職の事実、分掌変更、支給決議、金額の相当性、功績倍率、最終報酬月額、支給時期などが問題になります。

調査開始前には、単に給与台帳を用意するだけでなく、役員報酬の決定・改定に関する議事録、事前確定届出給与の届出控え、退職金規程、退職金の計算資料、支給決議の資料を確認しておきます。

交際費・会議費・福利厚生費

日常の経費のなかでは、交際費、会議費、福利厚生費、広告宣伝費の区分が確認されやすい領域です。

とくに飲食費については、参加者、相手先、目的、金額、社内飲食か社外飲食か、会議の実態が重要になります。領収書だけでなく、参加者の記録、会議資料、稟議書、社内ルールとの整合性まで確認します。

貸倒損失・債権放棄

貸倒損失は、税務上、事実確認の密度が高い論点です。

調査開始前には、債権発生時の契約書・請求書、督促の履歴、入金の状況、相手先の財務状態、破産・民事再生等の資料、債権放棄の通知、取締役会議事録、回収不能と判断した経緯を整理しておきます。

「回収できないと思ったから」では、説明になりません。いつ、どの事実に基づいて、どの債権について、どのように回収不能と判断したのかを、説明できる必要があります。

棚卸資産・固定資産・修繕費

棚卸資産では、数量、評価方法、滞留在庫、廃棄、評価損が確認されます。固定資産では、取得価額、事業供用日、耐用年数、償却方法、除却、そして修繕費と資本的支出の区分が重要になります。

調査開始前には、棚卸表、廃棄記録、写真、固定資産台帳、請求書、工事見積書、修繕内容の明細、稟議書を確認しておきます。

とくに修繕費と資本的支出は、金額だけで判断されるものではなく、工事の内容、目的、資産価値の増加、耐用年数への影響が問われます。

関係会社間取引・同族会社取引

関係会社間取引は、寄附金、受贈益、役員給与、移転価格、同族会社の行為計算否認などに接続しやすい領域です。

調査開始前には、取引契約書、価格設定の根拠、精算書、費用負担の基準、取引の実態、役務提供の内容、関係会社の財務状態、取締役会・稟議の資料を確認しておきます。

「グループ会社だから」「親会社が負担するのが当然だから」といった説明では不十分です。第三者間でも説明できる取引条件になっているか、会社にとって経済合理性があるかを確認する必要があります。

消費税・源泉所得税との接点

法人税調査で問題になる支出は、消費税や源泉所得税にも波及することがあります。

外注費が給与と判断されれば、法人税だけでなく源泉所得税、そして消費税の仕入税額控除にも影響します。海外への支払が使用料や人的役務提供の対価に該当する場合には、源泉所得税や租税条約の届出も問題になります。

法人税務を整理するときは、法人税単体で完結させず、消費税、源泉所得税、地方税への波及まで確認しておきましょう。

調査通知後の修正申告に注意する

事前通知と関連して、実務上とくに注意しておきたいのが「調査通知」です。

税務調査手続上、調査通知とは、事前通知事項のうち、実地の調査を行う旨、調査対象税目、調査対象期間という三つの通知をいうものと整理されています。

平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税については、調査通知の後、かつ、更正または決定があるべきことを予知する前にされた修正申告または期限後申告に対しても、一定の過少申告加算税等が課されることがあります。国税庁のFAQでも、この調査通知には、事前通知に関する同意のある税務代理人に対して行う通知が含まれるとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

ここで大切なのは、事前通知を受けた後に誤りを見つけた場合に、「自主的に直せば加算税は当然に回避できる」と安易に考えないことです。

もちろん、誤りが見つかったときに是正を検討することは重要です。しかし、調査通知の後かどうか、更正予知の前かどうか、どの税目・期間に関する誤りか、重加算税の問題がないか――こうした点によって、対応方針は変わってきます。

調査開始前に誤りを見つけた場合は、次の点を整理したうえで、税務代理人と協議すべきです。

  • 誤りの内容は、事実誤認か、解釈違いか、資料不足か
  • 対象税目、対象期間、金額はいくらか
  • 調査通知の前に把握していた誤りか、通知後に発見した誤りか
  • 修正申告を先行すべきか、調査のなかで説明すべきか
  • 加算税、延滞税、重加算税の可能性はあるか
  • 会計上の修正、金融機関への説明、社内の責任整理が必要か

調査前の修正申告は、会社を守る手段になることもあります。ただ、判断を誤ると、かえって争点を曖昧にしたり、後の説明を難しくしたりすることもあります。

事前通知の後にやってはいけないこと

調査開始前の期間は、会社にとって大切な準備期間です。しかし、この期間に誤った対応をしてしまうと、調査時の印象や事実認定に影響することがあります。

避けるべき対応は、次のとおりです。

  • 事前通知の内容を記録せず、記憶で社内共有する
  • 税務代理人に連絡せず、社内だけで資料準備を進める
  • 調査対象の税目・期間を確認しないまま資料を提出する
  • 資料の不足を隠すために、後付けで書類を作成する
  • 担当者の記憶だけで処理理由を説明する
  • 不明点を「多分」「慣例で」「前任者がそうしていた」で処理する
  • 誤りを発見しても、税務代理人に相談せず放置する
  • 修正申告の意味を理解しないまま、早く終わらせるために提出する
  • 証憑や電子データを整理する過程で、原本性や更新履歴を損なう
  • 重加算税に関係し得る事実を軽く扱う

とくに、資料の後付け作成や改ざんは、絶対に避けるべきです。処理当時の資料が不足している場合は、不足している事実を前提として、残っている資料、取引先の資料、社内承認の記録、入出金の記録などから、説明の可能性を組み立てていくべきです。

税務調査では、誤りそのものだけでなく、その誤りをどのように説明し、どのように是正しようとしているかも見られています。

調査開始前の資料準備

調査開始前の資料準備は、単に「言われた資料を集める」作業ではありません。帳簿、証憑、契約、社内承認、税務判断の資料をつなげて、申告内容を説明できる状態に整える作業です。

基本資料

まずは、次の基本資料を整理します。

資料確認ポイント
法人税申告書別表一、四、五(一)、五(二)、六、七、八、十六等
地方法人税・地方税申告書法人住民税、法人事業税、外形標準課税の有無
消費税申告書課税方式、課税売上割合、仕入税額控除
決算書貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書
勘定科目内訳明細書役員借入金、貸付金、買掛金、未払金、固定資産等
総勘定元帳対象年度全体の取引確認
補助元帳売掛金、買掛金、固定資産、借入金等
試算表月次推移、期末整理仕訳の把握
固定資産台帳取得、除却、償却、修繕費との関係
棚卸表数量、評価方法、廃棄、滞留在庫
給与台帳役員・従業員給与、賞与、源泉所得税

重要取引資料

重要な取引については、帳簿だけでなく、取引の実態を説明できる資料を揃えておきます。

論点準備資料
売上計上契約書、注文書、納品書、検収書、請求書、入金記録
外注費業務委託契約書、成果物、請求書、作業報告書、支払記録
役員給与株主総会議事録、取締役会議事録、報酬改定資料、届出書
役員退職金退職金規程、支給決議、計算資料、退職事実の資料
交際費領収書、参加者、相手先、目的、社内承認記録
貸倒損失債権管理資料、督促記録、相手先状況、債権放棄通知
修繕費見積書、工事明細、写真、稟議書、資本的支出との区分資料
関係会社取引契約書、価格設定根拠、精算書、役務提供記録
組織再編・資本取引契約書、株主名簿、議事録、株価算定資料、税務検討資料
海外取引契約書、送金記録、源泉税資料、租税条約届出、価格設定資料

資料準備で重要なのは、量ではなく、つながりです。

調査担当者に大量の資料を見せても、処理の根拠を説明できなければ意味がありません。逆に、資料が整理されていれば、必要な範囲で的確に説明できます。

調査前の打合せで確認すべきこと

税務代理人がいる場合は、調査開始前に必ず打合せを行っておきましょう。

調査前の打合せでは、次の事項を確認します。

  • 事前通知の内容
  • 対象税目・対象期間
  • 調査開始日時・場所
  • 会社側の出席者
  • 税務代理人の立会い範囲
  • 初日に提出する資料
  • 当日すぐに回答できる事項と、確認後に回答する事項
  • 重要な論点と、想定される質問
  • 誤りを発見した場合の対応方針
  • 修正申告を検討すべき事項の有無
  • 追加納税が発生した場合の資金繰り
  • 金融機関、株主、親会社、後継者などへの説明が必要になる可能性

ここで大切なのは、会社と税務代理人の認識を一致させておくことです。

会社側が「問題ない」と思っている処理でも、税務代理人から見れば、資料不足、議事録の不備、金額の相当性、税務調整の漏れが問題になることがあります。逆に、会社側が過度に不安を感じている処理でも、資料が整っていれば十分に説明できる場合もあります。

調査前の打合せは、安心するための儀式ではなく、事実と資料に基づいて対応方針を決める場です。

調査開始前に社内で決めておきたい回答ルール

税務調査では、誰が、どの範囲で、どのように回答するかを、あらかじめ決めておく必要があります。

とくに複数の担当者がいる会社では、回答の食い違いが生じることがあります。営業担当者は取引の実態を知っているが会計処理は知らない。経理担当者は仕訳を知っているが契約の背景は知らない。代表者は意思決定を知っているが細かな資料は知らない。こうしたズレは、調査で誤解を生む原因になります。

調査開始前に、次のルールを決めておきましょう。

  • 質問には、原則として経理責任者または代表者が回答する
  • 事実確認が必要な事項は、その場で断定せず、確認のうえ回答する
  • 推測、感想、一般論を、事実のように話さない
  • 税務処理の判断については、税務代理人と確認したうえで回答する
  • 担当者が個別に資料を提出しない
  • 追加資料の提出は、何の論点に関する資料かを確認してから行う
  • 議事録、契約書、電子データの原本管理を徹底する
  • 調査中の質問・回答・提出資料を記録する

税務調査では、会社の説明が一貫していることが重要です。一貫性とは、都合のよい説明を作ることではありません。事実、資料、会計処理、税務判断が、矛盾なく整理されている状態をいいます。

調査開始前に専門家へ相談すべき場面

税務調査の事前通知を受けたからといって、すべての調査が複雑になるわけではありません。

しかし、次のような事情がある場合には、調査開始前に専門家へ相談する必要性が高いといえます。

  • 対象年度に大きな役員給与・役員退職金がある
  • 貸倒損失、債権放棄、債務免除益を計上している
  • 関係会社間取引、グループ内費用負担、出向者給与がある
  • 多額の修繕費、固定資産除却、評価損がある
  • 交際費、会議費、福利厚生費の区分に不安がある
  • 税額控除や優遇税制の適用を受けている
  • 組織再編、M&A、自己株式取得、資本の払戻しがある
  • 海外取引、海外子会社、ロイヤリティ、海外送金がある
  • 税務代理人を変更しており、過年度資料の把握に不安がある
  • 過去の申告に誤りがある可能性を認識している
  • 重加算税につながり得る事実関係がある
  • 追加納税が資金繰りや金融機関対応に影響し得る

調査が始まって争点が明らかになってから相談するよりも、事前通知を受けた段階で論点を整理しておいたほうが、対応の選択肢は広がります。

とくに、法人税務上の判断が経営判断と結び付いている場合、税務調査対応は単なる申告書の修正では終わりません。資金繰り、金融機関への説明、M&A、事業承継、株主対応にまで影響する可能性があります。

事前通知後の準備は、将来の税務管理体制の見直しにもつながる

税務調査の事前通知を受けると、多くの会社は「今回の調査をどう乗り切るか」に意識が向きがちです。

しかし本質的には、事前通知後の準備は、会社の税務管理体制を見直す機会でもあります。

  • 申告書の内容を、会社自身が理解しているか
  • 税務判断が担当者任せになっていないか
  • 役員給与や届出書の期限管理ができているか
  • 関係会社間取引の契約書と実態が一致しているか
  • 固定資産台帳、棚卸表、貸倒資料が整っているか
  • 税額控除や優遇税制の適用根拠が保存されているか
  • 月次決算で税務論点が把握されているか
  • 重要取引について、議事録・稟議書・判断メモが残っているか

これらは、税務調査のためだけに整えるものではありません。金融機関、株主、親会社、後継者、買収候補先に対して、会社の数字を説明するためにも必要になります。

税務調査は、過去の申告を確認する手続です。しかし、調査開始前の準備を通じて、会社は将来の税務判断の質を高めていくことができます。

まとめ

税務調査の事前通知を受けたとき、会社が最初にすべきことは、慌てて資料をかき集めることではありません。

まずは、調査か行政指導かを確認し、対象税目、対象期間、調査場所、調査目的、対象資料、税務代理権限証書、そして日程変更の必要性を整理することです。

そのうえで、対象事業年度の法人税務上の論点を棚卸しし、資料と説明を結び付けていきます。売上、役員給与、交際費、貸倒損失、固定資産、関係会社取引、税額控除、組織再編、国際取引など、重要な論点は会社ごとに異なります。

事前通知後の準備は、税務調査当日のためだけのものではありません。会社の税務判断を、後からきちんと説明できる状態にするための、大切なプロセスです。

税務調査の連絡を受けたものの何から整理すべきか分からない場合、過年度の処理に不安がある場合、あるいは調査開始前に法人税務上の重要論点を確認しておきたい場合には、早い段階で専門家とともに、事実関係・資料・対応方針を整理しておくことが有効です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査の事前通知後の初動の整理から、調査対象年度の法人税務論点の確認、調査前の資料整理、税務代理人としての対応方針の検討、調査後の是正・再発防止まで、会計と税務の両面から支援しています。調査開始前に自社の論点を整理し、説明できる状態を整えたい場合は、お問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

項目確認すべきこと
最初の確認税務署等からの連絡が税務調査か行政指導かを確認する
事前通知調査開始日時、場所、目的、対象税目、対象期間、対象資料を記録する
通知方法事前通知は原則として電話で行われるため、聞き漏れ防止のメモが重要
日程変更合理的理由があれば、調査開始日時・場所の変更協議が可能
税務代理権限証書調査通知に関する同意、過年分、対象税目、代表税務代理人を確認する
事前通知なし調査例外的にあり得るため、即拒否ではなく身分・目的・対象範囲を確認する
調査通知後の修正申告加算税に影響するため、誤りを見つけた場合は専門家と方針を検討する
資料準備帳簿、証憑、契約書、議事録、稟議書、台帳を論点ごとに整理する
法人税務論点売上、役員給与、交際費、貸倒、固定資産、関係会社取引を優先確認する
社内回答ルール推測で回答せず、事実・資料・税務判断を分けて説明する
専門家相談高リスク論点、過年度誤り、重加算税懸念、資金繰り影響がある場合は早期相談する
本質的な目的税務調査を乗り切るだけでなく、会社の税務判断を説明できる状態に整える
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