決算書や試算表を眺めていると、実にさまざまな経営指標が顔を出します。
流動比率、自己資本比率、売上高営業利益率、総資本回転率。あるいはROA、ROE、ROIC、EBITDA。さらには借入金月商倍率、債務償還年数、在庫回転率、売掛金回転期間。
どれも大切そうに見えます。ところが実際には、指標が増えるほど、かえって経営判断には使いづらくなることがあります。
- 結局、どの数字を見ればよいのか
- この指標が悪いとき、何を改善すべきなのか
- 金融機関はどこを見ているのか
- 投資判断では、利益率を見ればよいのか、それとも資金余力を見ればよいのか
- 業界平均と比べて良いか悪いか、それだけで判断してよいのか
こうした迷いが生まれるのは、ごく自然なことだと思います。
経営指標は、数式を覚えるためのものではありません。会社の状態を、安全性・収益性・効率性・成長性・資本効率といった目的ごとに分けて読み、次の判断につなげるための道具です。
大切なのは、「どの指標が重要か」ではなく、「何を判断したいから、その指標を見るのか」という順番だと考えています。
経営指標は、目的別に分けて使う
経営指標は、大きく次のように整理すると見通しがよくなります。
| 見る目的 | 主な問い | 代表的な指標 |
|---|---|---|
| 安全性 | 会社は資金面・財務面で持ちこたえられるか | 流動比率、当座比率、自己資本比率、固定比率、固定長期適合率、借入金月商倍率、債務償還年数 |
| 収益性 | 本業で利益を生む力はあるか | 売上総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率、EBITDAマージン |
| 効率性 | 資産や資本をうまく使えているか | 総資本回転率、売上債権回転期間、棚卸資産回転期間、固定資産回転率 |
| 成長性 | 売上・利益・顧客基盤は伸びているか | 売上高成長率、粗利成長率、営業利益成長率、顧客数、客単価、受注残 |
| 資本効率 | 投下した資本に対して十分に稼げているか | ROA、ROE、ROIC、投下資本回転率、フリーキャッシュフロー |
経営計画の実務でも、財務力は収益性・効率性・安全性という三つの視点から見るのが基本になります。収益性では総資本利益率や売上高利益率を、効率性では総資本回転率を、安全性では流動比率や固定比率などを確認し、時系列比較や業界比較を通じて水準を判断していく。この視点が土台になります。
ただ、ここで一つ気をつけておきたいことがあります。
指標は、会社の状態をある角度から切り取ったものにすぎません。一つの指標だけで、会社の良し悪しが決まるわけではないのです。
たとえば、売上高営業利益率が高くても、売掛金の回収が遅ければ資金繰りは苦しくなります。自己資本比率が高くても、低収益の資産を抱えていれば、成長投資の効率は落ちます。ROEが高くても、それが過大な借入によるレバレッジの結果であれば、むしろ財務リスクが高まっている可能性があります。
経営指標は、単独で評価するものではなく、組み合わせて読むものだと考えています。
安全性指標|会社が倒れにくい財務体質かを見る
安全性指標は、会社が資金面・財務面でどれだけ安定しているかを見るための指標です。
中小・中堅企業では、成長の判断に入る前に、まず安全性を確認しておく必要があります。どれだけ立派な売上計画や利益計画があっても、資金繰りが続かなければ経営そのものが立ち行かなくなるからです。
代表的な安全性指標は、次のとおりです。
| 指標 | 見る内容 | 実務上の読み方 |
|---|---|---|
| 流動比率 | 流動負債に対して流動資産がどれだけあるか | 短期の支払能力を見る入口 |
| 当座比率 | 流動負債に対して、より現金化しやすい資産がどれだけあるか | 在庫を除いた支払余力を見る |
| 自己資本比率 | 総資産のうち自己資本で賄っている割合 | 財務体質、借入依存度、金融機関評価に影響する |
| 固定比率 | 固定資産を自己資本でどれだけ賄っているか | 長期投資の資金調達バランスを見る |
| 固定長期適合率 | 固定資産を自己資本と固定負債で賄えているか | 設備投資と長期資金の整合性を見る |
| 借入金月商倍率 | 借入金が月商の何か月分あるか | 借入規模の重さをざっくり把握する |
| 債務償還年数 | 借入金を返済原資で何年かけて返せるか | 返済能力を金融機関目線で見る |
流動比率は、おおまかにいえば「1年以内に現金化できる資産」と「1年以内に支払う負債」のバランスを見る指標です。固定比率は、長期にわたって固定化される固定資産を、どの程度自己資本で支えているかを見ます。
ただし、流動比率が高ければそれだけで安全、とは限りません。
流動資産の中身が、回収の難しい売掛金や売れ残りの在庫であれば、見かけほど安全ではないからです。逆に、流動比率が一時的に低くても、入金予定がはっきりしていて、資金繰り表のうえで支払能力が確認できていれば、ただちに危険とはいえない場合もあります。
ですから安全性指標を見るときは、必ず貸借対照表の中身まで踏み込んで確認します。
- 売掛金は本当に回収できるのか
- 在庫は販売可能なものか
- 借入の返済は営業キャッシュフローで賄えるのか
- 固定資産は事業に必要なものか
- 役員貸付金や仮払金など、資金の流出要因はないか
- 税金や社会保険の未払・滞納はないか
安全性指標は、資金繰り、金融機関対応、設備投資、そして事業再生といった判断の入口になる数字です。
収益性指標|本業で利益を生む力を見る
収益性指標は、会社がどれだけ利益を生む力を持っているかを見るための指標です。
売上が大きくても、利益が残らなければ会社は強くなりません。とりわけ中小・中堅企業では、売上の拡大に伴って人件費、外注費、在庫、設備、借入も増えていきますから、売上だけを見ていると判断を誤りがちです。
代表的な収益性指標は、次のとおりです。
| 指標 | 見る内容 | 実務上の読み方 |
|---|---|---|
| 売上総利益率 | 売上に対する粗利の割合 | 商品・サービスの基本的な付加価値を見る |
| 売上高営業利益率 | 売上に対する営業利益の割合 | 本業でどれだけ利益を残せているかを見る |
| 売上高経常利益率 | 売上に対する経常利益の割合 | 借入利息や営業外損益を含めた通常収益力を見る |
| EBITDAマージン | 売上に対するEBITDAの割合 | 償却前の収益力、返済原資の目安を見る |
| 限界利益率 | 売上に対する限界利益の割合 | 売上の増減が利益に与える影響を見る |
収益性を見るときは、利益率が高いか低いかという結論だけでなく、その利益率が変化した理由まで分解して捉えることが大切です。
- 売上単価が変わったのか
- 販売数量が変わったのか
- 商品構成が変わったのか
- 原材料価格が上がったのか
- 外注費が増えたのか
- 人件費や家賃などの固定費が増えたのか
- 一時的な利益や損失が含まれていないか
財務デューデリジェンスの収益力分析でも、売上高・粗利益・EBITDAといった主要指標だけを追うのではなく、事業・製品・地域・販売経路といった細かな単位までトレンドを把握することが重視されます。収益力を見極めるには、合計値を眺めるだけでなく、どの要因が利益を動かしているのかまで確認する必要があるのです。
中小・中堅企業の場合、収益性指標は次のような判断に直結します。
- 値上げをすべきか
- 不採算の取引を見直すべきか
- 外注化と内製化のどちらがよいか
- 採用しても固定費を吸収できるか
- 設備投資のあとに採算が取れるか
- 金融機関に返済原資を説明できるか
- M&Aや承継の場面で、会社の収益力を説明できるか
収益性指標は、利益を「結果」として眺めるためではなく、利益を「改善対象」として分解するために使う数字だと考えています。
効率性指標|資産をどれだけ有効に使えているかを見る
効率性指標は、会社が保有する資産や資本を、どれだけ有効に使って売上や利益を生んでいるかを見るための指標です。
利益率自体は悪くなくても、資産を多く抱えすぎていれば、資金効率は悪くなります。とくに在庫、売掛金、固定資産が大きい会社では、効率性指標が重要になってきます。
代表的な効率性指標は、次のとおりです。
| 指標 | 見る内容 | 実務上の読み方 |
|---|---|---|
| 総資本回転率 | 総資本に対して売上をどれだけ上げているか | 会社全体の資産活用効率を見る |
| 売上債権回転期間 | 売掛金・受取手形が何日分の売上に相当するか | 回収サイトや滞留債権を見る |
| 棚卸資産回転期間 | 在庫が何日分の売上・原価に相当するか | 過剰在庫、滞留在庫、資金固定化を見る |
| 仕入債務回転期間 | 買掛金・支払手形の支払期間を見る | 支払条件と資金繰りの関係を見る |
| 固定資産回転率 | 固定資産に対して売上をどれだけ上げているか | 設備投資の活用度を見る |
| 人件費生産性 | 人件費に対して粗利・売上をどれだけ生んでいるか | 採用、配置、給与水準の判断に使う |
効率性の代表格は、やはり総資本回転率でしょう。これは会社の全資本を使ってどれだけ売上を上げたかを見るもので、回転率が高いほど、資本を効率よく使えていると判断されます。
とはいえ、効率性指標もまた、高ければよいというものではありません。
在庫回転率を上げようとして在庫を減らしすぎれば、欠品が増えて販売機会を失うことがあります。売掛金回転期間を短くしようと取引条件を厳しくしすぎれば、顧客との関係に影響が出ることもあります。固定資産回転率ばかりを重視すれば、必要な設備更新を先送りし、生産性や品質を落としてしまう恐れもあります。
効率性指標は、資金繰りと現場実務とが交わるところにある数字です。
- 在庫をどこまで持つべきか
- 回収条件をどう見直すべきか
- 支払サイトをどう交渉するか
- 設備を更新すべきか、使い続けるべきか
- 低収益の資産を処分すべきか
- 売上拡大に伴って運転資金がどれだけ増えるか
こうした判断に使う数字だと捉えています。
成長性指標|伸びているかではなく、持続可能に伸びているかを見る
成長性指標は、会社が伸びているかどうかを見るための指標です。
ただ、ここで気をつけたいのは、売上の成長だけを追わないことです。
- 売上は伸びているのに、粗利率が下がっている
- 新規顧客は増えているが、既存顧客が離れている
- 売上は増えているが、在庫と売掛金が膨らんでいる
- 営業利益は増えているが、借入返済後の資金が残っていない
- 成長投資はしているが、投資回収の見通しが曖昧である
こうした成長は、必ずしも会社を強くしているとはいえません。
代表的な成長性指標は、次のとおりです。
| 指標 | 見る内容 | 実務上の読み方 |
|---|---|---|
| 売上高成長率 | 売上がどれだけ増減したか | 市場拡大、営業成果、単価・数量変化を見る |
| 粗利成長率 | 売上総利益がどれだけ増減したか | 付加価値の成長を見る |
| 営業利益成長率 | 本業利益がどれだけ増減したか | 成長が利益につながっているかを見る |
| 顧客数 | 顧客基盤が広がっているか | 新規開拓・既存維持の状況を見る |
| 客単価 | 1件あたりの売上が上がっているか | 値上げ、商品構成、顧客層変化を見る |
| 受注残 | 将来売上の裏付けがあるか | 短期的な売上見通しを見る |
| 解約率・リピート率 | 顧客が継続しているか | 売上の安定性を見る |
当年度の収益力を分析するときは、予算、前年同期、直近12か月累計、そして期中の実績と予測を比較し、足元のトレンドや、成長・悪化の要因がどこまで続きそうかを見極めることが大切です。単年度の売上の増減だけでは、いまの事業の姿を十分にはつかめないことがあります。
成長性指標は、過去を褒めるためではなく、これからを判断するために使います。
- 来期も伸びるのか
- その成長は粗利を伴っているのか
- 資金繰りは耐えられるのか
- 採用や設備投資が先行しすぎていないか
- 市場の成長によるものか、自社の競争力によるものか
- 一時的な特需なのか、継続的な需要なのか
成長性は、収益性・安全性・効率性とセットで見るべきものだと考えています。
資本効率指標|投下した資金に対してどれだけ稼いでいるかを見る
会社が成長していくほど、売上や利益そのものに加えて、「どの資本を使って、その利益を生んでいるのか」が重要になってきます。
ここで使うのが、ROA・ROE・ROICといった資本効率指標です。
| 指標 | 主な意味 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| ROA | 総資産に対する利益率 | 会社全体の資産効率を見るが、非事業資産の影響を受ける |
| ROE | 自己資本に対する利益率 | 株主資本の効率を見るが、借入が多いと高く見えることがある |
| ROIC | 事業に投下した資本に対する利益率 | 事業の稼ぐ力を見やすいが、分子・分母の定義を明確にする必要がある |
| 投下資本回転率 | 投下資本に対して売上をどれだけ上げているか | 資本の使い方を売上面から見る |
| フリーキャッシュフロー | 事業から自由に使える資金をどれだけ生んだか | 投資・返済・成長余力を見る |
ROAは総資産を分母としてリターンを見る指標です。ROICには、投下資本を「有利子負債+自己資本」と捉える方法と、「運転資本+固定資産」と捉える方法があり、どちらの定義で計算しているのかをはっきりさせておく必要があります。ROEは、自己資本に対する当期純利益のリターンを見る指標です。
中小・中堅企業にとって、ROICはやや高度な指標に映るかもしれません。
ただ、考え方そのものは、きわめて実務的です。
- どの事業に資金を投じているのか
- 在庫や売掛金に資金が寝ていないか
- 設備投資は利益とキャッシュフローに貢献しているか
- 低収益の資産を抱えすぎていないか
- 借入と自己資本を、事業成長に有効に使えているか
ROICは、投資家向けの指標というより、「会社の資金をどの事業・資産に使うべきか」を考えるための指標として活用できます。
もっとも、ROA・ROE・ROICのどれか一つだけを見ても、企業価値や資本効率が改善しているかどうかは判断できません。ROA・ROIC・ROEのバランスには、バランスシート、投下資本、資本コストに対する会社の考え方や戦略が映し出されるからです。
たとえば、ROEが高い会社でも、自己資本が薄く、ただ借入負担が大きいだけかもしれません。ROAが低い会社でも、将来の投資に備えて一時的に資産が増えている可能性があります。ROICが高くても、必要な維持投資を先送りしていれば、将来の競争力を落としているかもしれません。
資本効率指標は、数字の高低だけで読むのではなく、経営戦略と合わせて読む必要があります。
指標は「時系列比較」「業界比較」「計画比較」で見る
経営指標を見るときは、単年度の数字だけで判断しないことが大切です。
最低限、次の三つの比較を行います。
| 比較方法 | 見る内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 時系列比較 | 自社の過去からの変化 | 改善・悪化の方向性を見る |
| 業界比較 | 同業他社や業界平均との違い | 業種特性、規模、商流の違いを考慮する |
| 計画比較 | 予算・経営計画との差異 | 計画の現実性と実行状況を見る |
時系列比較
時系列比較では、自社の過去数年、あるいは月次の推移を見ます。
- 売上高営業利益率は改善しているか
- 自己資本比率は上がっているか
- 借入金月商倍率は重くなっていないか
- 売掛金回転期間は長期化していないか
- 棚卸資産回転期間は伸びていないか
- ROAやROICは悪化していないか
時系列比較は、自社の変化を捉えるうえで有効です。ただし、過去といまとで事業内容や会計処理、商品構成、取引条件が変わっている場合は、単純には比較できません。
業界比較
業界比較では、自社が同業のなかでどの位置にあるのかを確認します。
ただし、業界平均は絶対的な基準ではありません。同じ業種でも、商流、取引先、地域、価格帯、在庫方針、外注比率、設備の保有方針、資金調達の方針によって、適正な指標の水準は変わってきます。
業界平均は、いわば自社の違和感を見つけるための材料です。平均より悪いから即問題、良いから即安心、という単純な話ではありません。
業種別審査事典、日経経営指標、TKC経営指標といった業界別データは、業界平均との位置関係をつかむうえで便利です。ただし、それはあくまで分析の入口であり、個々の会社の事業構造やリスクは、別途しっかり確認する必要があります。
計画比較
計画比較では、予算や経営計画と実績を突き合わせます。
ここで大切なのは、差異を「達成・未達」で終わらせないことです。
- 売上が未達なのか
- 粗利率が悪化したのか
- 固定費が超過したのか
- 在庫が増えたのか
- 回収が遅れたのか
- 投資時期がずれたのか
- 一時的な要因なのか、構造的な要因なのか
計画比較は、次の行動を決めるために行うものです。
指標の限界|数字は会社の一部しか表していない
経営指標は重要ですが、万能ではありません。
財務諸表は、会社の状態を数字で整理したものです。けれども、経営の実態すべてを表しているわけではありません。
たとえば、次のような要素は、財務指標だけでは十分に読み切れません。
- 経営者の判断力
- 幹部や現場の実行力
- 従業員の定着率や士気
- 顧客との信頼関係
- 主要取引先への依存度
- 技術力やブランド力
- 後継者の有無
- 内部統制や文書管理の状態
- 法務・コンプライアンスのリスク
- 将来の市場変化
- 設備の老朽化や更新の必要性
また、制度会計上の財務諸表は、一定のルールと継続企業を前提として作成されます。M&Aなどの場面では、財務諸表監査だけでは会社の実態や将来キャッシュフローまでは把握しきれず、正常収益力分析や貸借対照表分析といった、制度会計を超えた実態把握が必要になります。
これはM&Aに限った話ではありません。
通常の経営判断においても、指標はあくまで入口です。指標が悪化しているなら、その原因を、現場・契約・取引条件・資金繰り・組織体制まで掘り下げていく必要があります。逆に指標が良いときでも、それが一時的な特需やコストの先送りによるものであれば、過信は禁物です。
指標を経営判断に使うための実務ステップ
中小・中堅企業で経営指標を使うにあたって、最初から多くの指標を管理する必要はありません。
まずは、経営判断に直結する指標から始めるのがよいと思います。
1. 月次で見られる数字を整える
経営指標は、数字の信頼性が前提になります。
- 月次試算表の確定が遅い
- 売掛金や買掛金の残高が合っていない
- 在庫が月次で反映されていない
- 未払費用や前払費用が整理されていない
- 部門別・取引先別の管理ができていない
この状態のままでは、指標を計算しても、判断材料としては弱いものになってしまいます。
ですからまずは、月次決算を「早く、正しく、比較でき、説明できる」状態に整えることが先決です。
2. 指標を5つ程度に絞る
最初から多くの指標を並べてしまうと、経営会議が数字の報告会になってしまいます。
たとえば、まずは次のような指標から始めると実務的です。
| 目的 | 最初に見る指標の例 |
|---|---|
| 安全性 | 手元資金月商倍率、自己資本比率、借入金月商倍率 |
| 収益性 | 売上総利益率、売上高営業利益率 |
| 効率性 | 売掛金回転期間、棚卸資産回転期間 |
| 成長性 | 売上高成長率、粗利成長率 |
| 資本効率 | ROA、簡易ROIC、フリーキャッシュフロー |
大事なのは、指標の数を増やすことではありません。経営者が毎月見て、判断し、次の行動を決められる指標に絞ることです。
3. 指標ごとに「誰が、何をするか」まで決める
指標は、見るだけでは改善しません。
- 売掛金回転期間が長いなら、請求・回収管理を誰が見直すのか
- 在庫回転期間が長いなら、滞留在庫を誰が確認するのか
- 粗利率が下がっているなら、価格・原価・商品構成を誰が分析するのか
- 固定費が増えているなら、採用計画・外注費・経費を誰が確認するのか
- 借入返済が重いなら、資金繰り表と返済予定を誰が更新するのか
指標は、改善アクションとセットになって、はじめて意味を持ちます。
4. 金融機関や外部関係者に説明できる形にする
経営指標は、社内の管理だけでなく、外部への説明にも使います。
金融機関は、会社の事業内容、業績、今後の見通し、資金使途、返済原資などを総合的に確認します。融資審査も、担保だけで決まるわけではなく、債務者評価、案件事情、資金使途、返済原資、保全面、他行の状況といったさまざまな観点を踏まえて進みます。
ですから金融機関への説明では、単に「自己資本比率が何%です」「営業利益率が何%です」と数字を伝えるだけでは足りません。
- なぜその水準なのか
- 改善しているのか、悪化しているのか
- 業界と比べてどうなのか
- 今後どう改善していくのか
- 資金使途と返済原資にどう関係するのか
ここまで説明できてはじめて、数字は信用形成の材料になります。
経営指標を使い分ける、場面別の見方
経営判断の場面ごとに、重視すべき指標は変わってきます。
| 経営判断の場面 | 重視する指標 | 見るべき論点 |
|---|---|---|
| 資金繰りが不安 | 手元資金、営業CF、借入金月商倍率、債務償還年数 | いつ資金不足になるか、返済余力があるか |
| 売上はあるが利益が残らない | 売上総利益率、営業利益率、限界利益率 | 原価、価格、固定費、商品構成のどこに問題があるか |
| 設備投資を検討している | ROA、ROIC、投資回収期間、固定長期適合率 | 投資額、回収可能性、借入返済、資金繰りへの影響 |
| 部門別採算を見直したい | 部門別営業利益率、直接利益、投下資本、労働生産性 | どの部門が利益・資金を生んでいるか |
| 金融機関に説明したい | 自己資本比率、営業利益率、営業CF、債務償還年数 | 返済原資、改善計画、財務体質を説明できるか |
| 事業承継・M&Aを考えている | 正常収益力、純資産、EBITDA、運転資本、借入状況 | 外部に説明できる収益力・財務体質か |
| 成長投資を進めたい | ROIC、FCF、売上成長率、粗利成長率 | 成長が資本効率と資金余力を伴っているか |
| 経営改善が必要 | 営業利益率、営業CF、借入返済額、在庫・売掛金回転 | 本業改善と資金改善のどちらが優先か |
指標は、経営判断の目的に応じて選ぶものです。
同じ会社でも、資金繰りが厳しい局面では安全性指標を重視します。成長投資を検討する局面では、資本効率や投資回収を重視します。金融機関への対応では、返済原資と説明可能性を重視します。承継やM&Aの場面では、正常収益力、財務体質、管理体制が重要になってきます。
指標管理を重くしすぎないために
中小・中堅企業では、管理を重くしすぎると、結局続きません。
大切なのは、毎月続けられる運用にすることです。
最初から高度なダッシュボードを作る必要はありません。全社で何十個ものKPIを追う必要もありません。すべての指標を精緻に計算する必要もありません。
まずは、経営者が毎月確認すべき指標を絞ります。たとえば、次のような形で十分です。
| 月次で確認する項目 | 見る目的 |
|---|---|
| 売上高・粗利額・粗利率 | 売上の質を見る |
| 営業利益・営業利益率 | 本業の採算を見る |
| 預金残高・手元資金月商倍率 | 資金余力を見る |
| 売掛金・在庫・買掛金 | 運転資金を見る |
| 借入残高・月次返済額 | 返済負担を見る |
| 予算差異 | 計画とのズレを見る |
| 重要な非財務KPI | 受注、顧客数、稼働率、離職率などを見る |
そのうえで、課題が見えてきた分野について、詳細な指標を追加していきます。
- 在庫が増えているなら、商品別・拠点別の在庫回転を見る
- 粗利率が下がっているなら、商品別・取引先別の粗利を見る
- 借入負担が重いなら、債務償還年数や資金繰り表を見る
- 投資判断が必要なら、投資回収期間やROICを見る
経営指標は、管理のための管理にしてはいけません。意思決定のために必要な範囲で、使える形に整えておくことが大切です。
経営指標は、会社を縛るものではなく、判断の自由度を高めるもの
経営指標を管理すると聞くと、会社を細かく縛るものだと感じる方もいるかもしれません。
しかし、本来はその逆だと考えています。
経営指標が整っている会社は、判断が速くなります。
- どこまで借入できるか
- どこまで投資できるか
- どの事業を伸ばすべきか
- どの取引を見直すべきか
- 値上げをすべきか
- 採用してもよいか
- 不採算部門を改善すべきか、撤退すべきか
- 金融機関にどう説明すべきか
- 後継者や外部関係者に何を伝えるべきか
これらの判断を、感覚だけで進めるのではなく、数字と事実で整理できるようになります。
指標は、経営者の判断を代替するものではありません。経営者が納得して判断するための、材料です。
経営指標を経営判断に使える状態へ整えたい方へ
経営指標は、計算するだけでは意味がありません。
安全性・収益性・効率性・成長性・資本効率を目的別に整理し、月次決算、資金繰り表、予算、経営計画、金融機関への説明とつなげて、はじめて経営判断に使える数字になります。
次のような課題をお持ちの場合は、まず指標の整理から始める価値があります。
- 試算表はあるが、経営上の論点が見えてこない
- 指標が多すぎて、どれを見ればよいか分からない
- 売上は伸びているのに、利益や資金が残らない
- 金融機関に、自社の財務状態をうまく説明できない
- 設備投資や採用に、どこまで踏み込めるか判断できない
- 部門別・取引先別・商品別の採算を見える化したい
- 後継者や幹部と、数字に基づいて経営を話せる状態にしたい
犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次決算、財務分析、資金繰り、予算管理、経営計画をつなぎ、経営者が自社の数字を判断に使える状態づくりを支援しています。
経営指標を単なる分析表で終わらせず、資金繰り、利益改善、投資判断、金融機関への説明に使える管理資料へ整えたい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
この記事の振り返り
| 論点 | 重要なポイント |
|---|---|
| 経営指標の基本 | 指標は目的別に使う。単独で会社の良し悪しを判断しない |
| 安全性指標 | 流動比率、自己資本比率、固定比率、債務償還年数などで支払能力・財務体質を見る |
| 収益性指標 | 売上総利益率、営業利益率、EBITDAなどで本業の稼ぐ力を見る |
| 効率性指標 | 総資本回転率、売掛金・在庫回転期間などで資産の使い方を見る |
| 成長性指標 | 売上成長だけでなく、粗利・営業利益・顧客基盤・資金負担を合わせて見る |
| 資本効率指標 | ROA、ROE、ROICは分母・分子の意味を理解し、戦略と合わせて読む |
| 比較の方法 | 時系列比較、業界比較、計画比較を組み合わせる |
| 指標の限界 | 財務指標だけでは、組織力、顧客関係、将来リスク、内部管理までは読み切れない |
| 実務運用 | 最初は重要指標を絞り、月次で継続できる形にする |
| 専門家活用 | 指標を計算するだけでなく、意思決定・資金管理・外部説明に使える形へ整理することが重要 |