収益力改善で再生可能性を高める|不採算事業・粗利・固定費・在庫債権を見直す実務視点

資金繰りが苦しくなると、経営者の意識は、どうしても「今月の支払いをどう乗り切るか」「追加融資を受けられるか」「返済を待ってもらえるか」へと向かいがちです。

それは当然のことだと思います。資金が尽きてしまえば、事業を続けることはできません。

ただ、事業再生や経営改善を考えるうえで、資金繰り対策だけでは十分とはいえません。返済を一時的に軽くしても、追加借入で当面の資金を確保しても、事業そのものが利益を生まない状態であれば、いずれ同じ問題に戻ってきます。

再生可能性を高めるために必要なのは、資金繰りの延命ではありません。事業が自力で利益とキャッシュを生み出せる状態へ戻すことです。

その中心にあるのが、収益力改善です。

収益力改善とは、単なる売上拡大でも、場当たり的な経費削減でもありません。不採算事業を見極め、粗利を改善し、固定費を適正化し、在庫・債権に滞留した資金を動かす。さらに、価格と原価の関係を見直し、会社として残す事業と、縮小・撤退する事業を判断していく。そうした一連の取り組みのことです。

この記事では、赤字や資金繰り悪化に直面した中小・中堅企業が、再生可能性を高めるために、どのような順番で収益力改善を考えるべきかを整理してみたいと思います。

目次

再生可能性は「返済を待ってもらえるか」だけでは決まらない

事業再生の局面では、金融機関への返済条件の見直し、いわゆるリスケジュールを検討することがあります。返済負担が重すぎる場合には、資金繰りを安定させるために必要な選択肢となることもあります。

ただし、返済を猶予してもらうこと自体が、再生というわけではありません。

返済を一時的に止めても、その間に本業の赤字が続けば、資金不足は再び起こります。むしろ、改善のために与えられた時間を使い切ってしまい、次の選択肢がさらに狭くなってしまうこともあります。

再生可能性を見るときに重要になるのは、次のような問いです。

  • 会社は、金融支援を受けた後に、どの事業で、どれだけの利益を生み出せるのか
  • その利益から、将来の返済、納税、設備更新、人材維持に必要な資金をまかなえるのか
  • 経営者自身が、改善施策を数字で説明し、実行し、毎月検証できるのか

事業再生では、資金繰りと収益力改善を分けて考える必要があります。資金繰り対策は、時間を確保するための手段です。一方の収益力改善は、その時間を使って会社を立て直すための中身そのものです。

過剰債務を抱えた会社が再生を目指す場合は、まず自助努力として収益力改善に取り組み、それでも過剰債務問題が解決できないときに、金融支援や債務減免等の論点へ進む。この順番で考えていく必要があります。厳しい資金繰りのなかで金融機関に返済を待ってもらうことの意味は、そこで生まれた時間を使って事業上の問題点を把握し、改善策を実行する点にあるのです。

まず見るべきは「正常収益力」である

収益力改善を考えるとき、最初に行うべきは、現在の利益をそのまま信じることではありません。

まず、自社の正常収益力を見極める必要があります。

正常収益力とは、特殊要因や一時的な損益を除いたうえで、継続する事業が通常どれだけの利益を生み出せるか、という見方です。

たとえば、次のようなものは、そのまま将来計画の前提にすると判断を誤ります。

  • 一時的な補助金収入
  • 保険金収入や資産売却益
  • 一過性の大口受注
  • 役員報酬の一時的な減額
  • 支払いを先送りしている費用
  • 赤字事業の損失
  • 今後発生する撤退費用
  • 本来計上すべき在庫評価損や貸倒損失
  • 設備修繕や人員補充を先送りしていることによる、見かけ上の利益

再生局面で重要なのは、「今期の利益がいくらか」ではありません。「今後も続ける事業だけで、どれだけ稼げるか」です。

そのためには、損益計算書をそのまま眺めているだけでは足りません。事業別、部門別、商品別、取引先別に利益を分け、継続する事業と見直す事業を区別していく必要があります。

M&Aや財務デューデリジェンスの実務でも、正常収益力分析では、廃止予定の赤字事業の損益、一時的な費用、業績不振に伴う給与カットなどを調整し、継続事業の実力を把握していきます。これはM&Aに限った話ではなく、再生局面で自社の収益力を見極める際にも有効な考え方だと感じています。

正常収益力を見ないまま改善計画を作ると、売上や利益の見通しが甘くなります。金融機関に説明しても、計画の実現可能性に疑問を持たれてしまう。社内で実行しようとしても、どこを改善すればよいか分からない計画になってしまいます。

収益力改善の出発点は、希望的な目標ではなく、実態の把握にあります。

売上拡大より先に、粗利と限界利益を見る

赤字になると、多くの会社は売上を増やそうとします。

売上を増やすこと自体は重要です。しかし、再生局面で「売上さえ戻れば何とかなる」と考えるのは危険だと思います。

売上が増えても、粗利率が低ければ利益は残りません。売上を増やすために値引きや無理な取引条件を受け入れれば、資金繰りはむしろ悪化します。売上拡大に伴って在庫、外注費、人件費、物流費、売掛金が増えていけば、利益よりも先に資金が出ていってしまいます。

収益力改善で最初に見るべきなのは、売上高ではなく、粗利と限界利益です。

粗利は、売上から売上原価を差し引いた利益です。商品やサービスが、直接的にどれだけの利益を生んでいるかを示します。

限界利益は、売上から変動費を差し引いた利益です。売上が増えたときに、固定費を回収し、利益を生む力を見るための指標です。

月次決算で業績を把握するには、費用を、売上の増減に伴って変化する変動費と、売上の増減にかかわらず発生する固定費に分けて表示する、変動損益計算書が有効です。変動費には商品仕入原価や材料費など、固定費には人件費や地代家賃などが含まれます。

再生局面では、次のように売上を分解して見ていく必要があります。

  • どの商品・サービスが粗利を生んでいるか
  • どの取引先が限界利益を生んでいるか
  • 売上は大きいが、粗利が薄い取引はないか
  • 値引き販売で売上を作っていないか
  • 追加対応、手直し、返品、クレーム対応で利益が削られていないか
  • 物流費、外注費、販売手数料まで入れると赤字になる取引はないか

損益計算書の売上総利益、つまり粗利は、企業にとって利益の源泉であり、最終利益への影響も大きいものです。そのため、業種や管理目的によっては、販管費や営業外損益よりも粗利に焦点を当てた管理が有効になります。

売上を追う前に、「利益になる売上」と「資金を消耗する売上」を分けること。これが重要です。

不採算事業を見える化する

収益力改善で避けて通れないのが、不採算事業の見直しです。

全社では赤字でも、すべての事業が悪いとは限りません。反対に、全社では黒字でも、一部の事業が利益を食いつぶしていることがあります。

問題は、中小・中堅企業では、不採算事業が見えにくいことです。

試算表が全社単位でしか作られていない。部門別損益がない。共通費の配賦が曖昧である。経営者の感覚では「あの取引先は大事だ」「あの商品は昔からやっている」と思っていても、実際の採算は分からない。

この状態では、収益力改善は進みません。

不採算を見える化するには、少なくとも次の切り口で損益を見る必要があります。

  • 事業別
  • 部門別
  • 商品・サービス別
  • 店舗・拠点別
  • 取引先別
  • プロジェクト別
  • 営業担当別
  • 製造ライン別

もちろん、最初から精緻な管理会計を作る必要はありません。まずは、売上、直接原価、直接人件費、外注費、物流費、販売手数料など、直接把握できる費用を割り当てるところから始めればよいと思います。

共通費の配賦は、慎重に扱うべきです。配賦方法によって部門損益は変わります。配賦後の赤字だけで撤退を判断すると、誤った結論になることがあります。

実務では、まず「直接利益」を見ることが有効です。売上から、その事業や取引に直接関係する費用を差し引いた利益のことです。そこから、共通費をどの程度負担できるかを確認していきます。

不採算事業の見直しで大切なのは、単に赤字部門を切ることではありません。

  • その事業は、今後改善可能なのか
  • 他の事業への波及効果があるのか
  • 取引先との関係上、残す意味があるのか
  • 撤退した場合に、固定費は本当に減るのか
  • 撤退費用や違約金は発生しないか
  • 残す場合、いつまでに、どの水準まで改善するのか

こうした論点を整理したうえで、継続、縮小、再設計、撤退を判断していきます。

ROIC経営の文脈でも、短期的な改善アクションとして、不採算・低収益事業への抜本的対応、事業部門の非効率部分の改善、低収益資産の処分などが位置づけられています。中小企業であっても、事業ごとの利益と資金の使い方を分けて見る視点は、やはり重要です。

粗利改善は「原価を下げる」だけではない

粗利改善というと、仕入価格や外注費を下げることを想像しがちです。

もちろん、原価低減は重要です。しかし、粗利改善はそれだけではありません。

粗利は、次のような要素で決まります。

  • 販売単価
  • 販売数量
  • 商品・サービスの構成
  • 材料費
  • 仕入価格
  • 外注費
  • 労務投入量
  • 歩留まり
  • 不良・手直し
  • 返品・値引き
  • 物流費
  • 販売手数料

つまり粗利改善は、営業、購買、製造、物流、品質管理、経理が関わる、全社課題なのです。

たとえば、販売単価が同じでも、原材料価格が上がれば粗利率は下がります。仕入価格が同じでも、不良や手直しが増えれば粗利は下がります。値引きが増えれば、売上は維持できても利益は落ちます。高粗利商品の販売比率が下がれば、売上が横ばいでも利益は減ってしまいます。

粗利改善では、次の順番で原因を分解していきます。

まず、単価の問題か。 次に、数量の問題か。 次に、商品構成の問題か。 次に、原価率の問題か。 次に、ロスや非効率の問題か。 最後に、取引条件や販売方法の問題か。

製造業や加工業では、材料費、労務費、外注費、物流費など、原価を構成する主な要素に分けて管理することが有効です。管理項目の粒度は業種業態によって異なります。売上中心の業態であれば売上を細分化し、人件費比率の高い業態であれば労務費を細分化するなど、管理目的に合わせて設計する必要があります。

また、調達活動は、企業のコスト競争力や収益創出力に大きな影響を持ちます。調達を現場任せにしていると、仕様の集約、大ロット発注、サプライヤー見直し、間接材管理といった改善余地を見逃してしまうことがあります。調達改革では、短期的な交渉による成果と、中期的な調達力の強化を組み合わせることが重要です。

粗利改善とは、仕入先に単純な値下げを迫ることではありません。自社の仕様、工程、品質、在庫、販売価格、そして顧客価値まで含めて見直していくことだと考えています。

価格改定は、再生局面ほど数字で判断する

赤字が続いている会社では、価格が収益力を大きく左右していることがあります。

特に、原材料、人件費、外注費、物流費、エネルギーコストが上がっているにもかかわらず、販売価格を据え置いている場合、利益は静かに削られていきます。

再生局面では、価格改定を避け続けることが、かえって事業継続を難しくしてしまうことがあります。

ただし、値上げをすれば必ず改善するわけではありません。価格改定は、限界利益、販売数量、顧客別採算、競争環境、契約条件、説明可能性を踏まえて判断する必要があります。

確認すべき論点は、次のとおりです。

  • どの商品・サービスで価格改定が必要か
  • 原価上昇分を、どこまで価格に転嫁できているか
  • 値上げにより数量がどの程度減っても、利益が改善するか
  • 値引き販売が常態化していないか
  • 赤字取引を継続する理由はあるか
  • 価格改定を顧客に説明できる根拠があるか
  • 契約上、改定時期や通知手続に制約はないか

再生局面で重要なのは、「顧客が離れるかもしれない」という不安だけで判断しないことです。値上げによって一部の取引が減っても、粗利が改善し、資金繰りが安定する場合があります。反対に、値上げで数量が大きく落ち、固定費を回収できなくなる場合もあります。

だからこそ価格改定は、感覚ではなく、シミュレーションで判断する必要があります。

たとえば、限界利益率が30%の取引を5%値上げした場合、販売数量がどこまで減っても利益を維持できるか。逆に、5%値引きした場合、どれだけ数量を増やさなければ利益を維持できないか。

この計算をしないまま値引きや値上げを判断すると、売上は守れても、利益を失うことになります。

価格は、経営者の覚悟だけで決めるものではありません。数字で影響を確認し、顧客に説明できる根拠を整えたうえで判断するものです。

固定費見直しは「削る」より先に「残す理由」を確認する

赤字になると、固定費削減が議論されます。

固定費とは、売上の増減にかかわらず発生する費用です。人件費、地代家賃、リース料、保険料、システム利用料、役員報酬、広告宣伝費の一部、管理部門費用などが該当します。

固定費が重い会社では、売上が少し落ちるだけで赤字になります。したがって、固定費見直しは、収益力改善の重要な論点です。

ただし、固定費見直しを単純な削減として進めてしまうと、会社の再生可能性をかえって下げてしまうことがあります。

  • 必要な人材を失う
  • 品質管理が弱くなる
  • 営業力が落ちる
  • 管理体制が壊れる
  • 将来の受注に対応できなくなる
  • 月次決算や資金管理がさらに遅れる

これでは、短期的には費用が減っても、事業の立て直しが難しくなってしまいます。

固定費見直しでは、まず次の3つに分けて考えます。

第一に、すぐに見直すべき固定費です。利用していないサービス、重複契約、効果が確認できない広告、過剰な保険、不要なリース、低稼働の拠点などが該当します。

第二に、条件を見直す固定費です。家賃、外部委託費、システム費、保守契約、物流契約、顧問契約などです。単純にやめるのではなく、範囲、単価、契約条件、利用実態を見直していきます。

第三に、維持すべき固定費です。経理、資金管理、品質、営業、顧客対応、現場管理など、再生に必要な機能を支える費用です。

固定費削減で大切なのは、「何を削るか」だけではありません。「何を残すか」を決めることです。

再生局面の固定費見直しは、会社を小さくする作業ではありません。利益を生む事業に経営資源を集中させる作業なのです。

在庫と債権の改善は、収益力と資金繰りを同時に改善する

収益力改善というと、損益計算書だけに目が向きがちです。

しかし、在庫と債権の見直しは、再生可能性を高めるうえで非常に重要です。

在庫が過剰であれば、資金が固定化します。滞留在庫や陳腐化在庫がある場合は、将来の評価損や処分損につながります。売掛金の回収が遅れれば、利益が出ていても資金が足りなくなる。回収不能債権が残っていれば、実態利益は帳簿よりも悪い可能性があります。

在庫・債権の改善は、収益力改善と資金繰り改善を同時に進められる領域です。

在庫で確認すべきことは、次のとおりです。

  • 適正在庫水準はどれくらいか
  • 売れ筋と死に筋を分けているか
  • 長期滞留在庫はどれくらいあるか
  • 値引き販売や廃棄が必要な在庫はないか
  • 仕入ロットや発注点は実態に合っているか
  • 在庫評価は実態を反映しているか
  • 在庫を減らしても、欠品リスクを管理できるか

債権で確認すべきことは、次のとおりです。

  • 売掛金の回収サイトは長期化していないか
  • 期日を過ぎた滞留債権はないか
  • 特定取引先への依存が高すぎないか
  • 与信限度を超えて販売していないか
  • 請求漏れ、入金消込漏れはないか
  • 回収不能リスクを早めに見積もっているか

資金繰りの観点でいえば、売上は回収されて初めて、会社を支える現金になります。在庫は販売され、代金が回収されて初めて、資金に戻ります。

中小企業の資金繰りでは、現金、利益、売上の順で重視する視点が重要です。売上や利益があっても、それがそのまま現金として手元にあるわけではありません。不良債権や過剰在庫は、黒字倒産の典型的な要因となります。

また、運転資本や固定資産の割合が高い事業では、在庫や債権の回転率を改善し、投下資本を適正化することが、収益力と資本効率の改善につながります。

撤退・集中判断を先送りしない

収益力改善で最も難しいのは、撤退や集中の判断です。

不採算事業を続ける理由は、多くの場合、いくつもあります。

  • 長年続けてきた
  • 既存顧客との関係がある
  • 従業員の仕事がある
  • 撤退費用がかかる
  • 売上が減るのが怖い
  • 将来回復するかもしれない
  • 経営者自身に思い入れがある

これらは、決して軽視できるものではありません。しかし、すべてを残したまま再生することは、難しい場合があります。

撤退・集中判断では、売上規模だけで判断してはいけません。

見るべきなのは、利益、資金、改善可能性、将来性、そして他事業への影響です。

たとえば、売上は大きいが、粗利が薄く、回収サイトが長く、在庫負担が重く、クレーム対応も多い事業は、会社の資金を消耗している可能性があります。一方で、売上は小さくても、粗利率が高く、固定費が軽く、顧客からの評価が高い事業は、残す価値があるかもしれません。

撤退を検討する場合には、次の点を整理します。

  • 撤退によって、売上、粗利、固定費、資金繰りはどう変わるか
  • 撤退費用、違約金、原状回復費、在庫処分損はどれくらいか
  • 従業員配置や雇用への影響はどうなるか
  • 取引先や金融機関にどう説明するか
  • 撤退後に残る事業の収益力は十分か
  • 撤退ではなく、縮小・価格改定・条件変更で改善できないか

撤退は、敗北ではありません。再生局面においては、限られた資金、人材、経営者の時間を、利益を生む事業に集中させるための判断です。

むしろ、撤退判断を先送りすることで、残すべき事業まで傷めてしまうことがあります。

再生可能性を高めるには、「何をやめるか」を、経営判断として明確にする必要があるのです。

実行管理がなければ、改善策は計画で終わる

収益力改善の打ち手を整理しても、実行されなければ意味がありません。

再生局面では、改善策を「やるべきことリスト」で終わらせないことが重要です。誰が、いつまでに、何を行い、どの数字で効果を確認するのか。そこまで決めなければなりません。

実行管理では、次の項目を明確にします。

  • 改善テーマ
  • 担当者
  • 期限
  • 実施内容
  • 期待効果
  • 資金繰りへの影響
  • 確認するKPI
  • 月次での進捗確認方法
  • 未達の場合の対応策

たとえば、「粗利率を改善する」では不十分です。

  • 「A商品の仕入先を見直し、3か月以内に原価率を2ポイント改善する」
  • 「B取引先について、次回更新時に単価改定または取引条件変更を交渉する」
  • 「C拠点の固定費を6か月以内に月額100万円削減する」
  • 「滞留在庫を四半期内に処分し、資金回収額を1,000万円確保する」

このように、数字と期限に落とし込んでいく必要があります。

早期経営改善計画策定支援でも、事実を俯瞰して収益の仕組みや商流を見える化し、現状分析を踏まえて経営課題と解決策を検討し、アクションプラン、損益計画、資金繰表に落とし込むことが想定されています。計画策定後も、数値計画と実績の差異、アクションプランの取組状況を確認し、対応策を検討し、金融機関等へ報告していく流れが示されています。(出典:中小企業庁|早期経営改善計画策定支援

収益力改善は、計画を作った時点では、まだ始まっただけです。再生可能性を高めるのは、毎月の実行と検証にほかなりません。

金融機関に説明すべき収益力改善の中身

金融機関に対しては、「頑張ります」ではなく、何を、どう改善するのかを、数字で説明する必要があります。

特に、返済条件の見直しや金融支援を依頼する場合、金融機関は次の点を見ています。

  • 現状の損益と資金繰りはどうなっているか
  • 赤字の原因は何か
  • どの事業が利益を生み、どの事業が損失を出しているか
  • 改善策は具体的か
  • 改善効果は数字に反映されているか
  • 経営者が実行責任を持っているか
  • 改善後の返済原資はどれくらいか
  • 計画未達の場合の対応策はあるか
  • 月次で報告できる体制があるか

金融機関は、担保だけで判断しているわけではありません。融資審査では、まず債務者評価として、事業内容、業績、今後の見通しを確認し、そのうえで資金使途、返済原資、保全面、他行状況などを見ていきます。

したがって、収益力改善の計画は、金融機関にとっても重要なものです。返済条件を見直す場合でも、将来どの利益から返済するのかが見えなければ、支援の判断は難しくなります。

中小企業庁の経営改善計画策定支援では、金融支援を伴う本格的な経営改善の取組が必要な中小企業・小規模事業者を対象に、認定経営革新等支援機関が経営改善計画の策定を支援します。DD・計画策定支援、アクションプラン、金融支援を受けた資金繰り安定、伴走支援などが位置づけられています。(出典:中小企業庁|経営改善計画策定支援

また、中小企業活性化協議会では、収益力低下・借入増加のおそれのある中小企業を対象に、収益力改善アクションプランと簡易な収支・資金繰り計画を内容とする収益力改善支援が位置づけられています。収益性のある事業はあるものの財務上の問題がある中小企業に対しては、事業面・財務面での改善を図るプレ再生支援・再生支援も用意されています。(出典:中小企業庁|中小企業活性化協議会(収益力改善・再生支援・再チャレンジ支援)

なお、制度の名称、要件、補助対象、運用は変更されることがあります。中小企業庁は2026年3月26日に、中小企業活性化協議会実施基本要領等の改定を公表しており、相談の早期化、支援メニューの適切な選択、出口の明確化、伴走支援の強化が重要性を増していることを踏まえた見直しが行われています。特に、収益力改善支援実施要領については、2026年10月1日適用で「収益力改善支援(金融支援あり)の廃止」が示されています。実際に支援制度を利用する場合は、必ず最新の公表情報を確認してください。(出典:中小企業庁|「中小企業活性化協議会実施基本要領」等を改定します

収益力改善でやってはいけないこと

再生局面では、焦りから誤った打ち手を選んでしまうことがあります。

代表的なのは、利益を見ずに、売上だけを追うことです。赤字取引を増やせば、売上は増えても、資金はかえって苦しくなります。

次に、必要な固定費まで一律に削ってしまうことです。経理、品質、営業、現場管理など、再生に必要な機能まで削れば、会社の立て直しに必要な力を失ってしまいます。

また、価格改定を先送りし続けることも危険です。原価上昇を価格に反映できなければ、粗利は下がり続けます。

在庫や売掛金を放置することも問題です。損益計算書上の利益だけを見ていると、資金が在庫や債権に固定化していることに気づけません。

さらに、改善策を多数並べるだけで、実行責任者と期限を決めない計画も機能しません。

収益力改善で避けるべきなのは、「全部少しずつ頑張る」という曖昧な改善です。

再生局面では、資金、人材、時間が限られています。だからこそ、改善効果の大きい論点から、優先順位をつけていく必要があります。

専門家に相談すべき場面

収益力改善には、経営者だけで考えられる部分もあります。

しかし、次のような場合には、会計・税務・財務の専門家と一緒に整理した方がよい段階だと思います。

  • 月次試算表が遅く、直近の損益が分からない
  • 部門別・商品別・取引先別の採算が見えていない
  • 資金繰り表と損益計画がつながっていない
  • 借入返済が重く、金融機関対応が必要になりそうである
  • 税金や社会保険料の支払いが資金繰りを圧迫している
  • 不採算事業を続けるべきか、撤退すべきか判断できない
  • 在庫や売掛金の実態が分からない
  • 金融機関に提出する改善計画を作る必要がある
  • 経営改善計画策定支援や中小企業活性化協議会の活用を検討している

専門家に相談する目的は、経営判断を丸投げすることではありません。

自社の数字を整理し、実態収益力を把握し、改善策の優先順位を決め、資金繰りと返済可能性を見通し、金融機関や関係者に説明できる資料へ落とし込んでいくことです。

認定支援機関の実務でも、関与先企業の財務経営力と資金調達力を強化するには、適切な記帳に加えて、財務情報を「書ける」「読める」「使える」「見通せる」「話せる」段階へと高めていく視点が重要とされています。

再生局面ほど、数字の信頼性が問われます。希望的な計画ではなく、説明できる数字を作る必要があるのです。

収益力改善は、会社を小さくするためではなく、残す事業を強くするために行う

収益力改善という言葉には、縮小、削減、撤退といった、後ろ向きな印象があるかもしれません。

しかし、本来の目的は、会社を弱くすることではありません。残すべき事業を強くすることです。

不採算事業を見直すのは、成長可能性のある事業に、資金と人材を集中するためです。

粗利を改善するのは、売上を利益と資金に変える力を取り戻すためです。

固定費を見直すのは、事業規模に合った体制へ戻し、将来投資の余力を作るためです。

在庫・債権を改善するのは、現金を動かし、資金繰りの自由度を高めるためです。

価格を見直すのは、顧客に提供している価値と、自社のコスト構造を、正しく結びつけるためです。

撤退・集中を判断するのは、会社の限られた経営資源を、再生可能性の高い領域へ向けるためです。

再生可能性は、金融支援の有無だけで決まるものではありません。事業が稼ぐ力を取り戻せるかどうかで決まります。

そのためには、感覚ではなく、月次の数字、資金繰り、採算、実行管理を使って、改善の道筋を具体化していく必要があります。

収益力改善は、厳しい局面で会社を守るための守りであると同時に、次の成長判断へ進むための土台づくりでもあるのです。

ご相談について

赤字が続いている。資金繰りが重い。借入返済が負担になっている。不採算事業を続けるべきか迷っている。粗利や部門別採算が見えていない。そうした状況では、まず自社の収益力を数字で整理することが重要です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次決算、資金繰り表、部門別・商品別・取引先別の採算、借入返済、在庫・債権の状況をもとに、収益力改善の論点を整理し、経営者が自ら判断できる状態を整えるご支援を行っています。

改善策を並べるだけではありません。どの事業を残すのか、どの費用を見直すのか、どの価格や取引条件を変えるのか、金融機関にどのように説明するのか。そこまで、数字と事実に基づいて検討していくことが大切です。

収益力改善や経営改善計画、金融機関対応にご不安がある場合は、現在の損益・資金・借入・採算の状況を整理するところから、お気軽にご相談ください。

重要ポイントの振り返り

論点確認すべきこと経営判断への影響
正常収益力一時損益、赤字事業、役員報酬調整、在庫評価、貸倒リスクを除いた実力将来計画と返済可能性の前提になる
粗利改善単価、原価、商品構成、値引き、ロス、不良、外注費売上を利益に変える力を高める
限界利益売上から変動費を差し引いた利益固定費を回収できる売上構造か判断する
不採算事業事業別・部門別・商品別・取引先別の採算継続、縮小、撤退、集中の判断材料になる
価格改定原価上昇、数量変化、顧客別採算、契約条件値上げ・値引きの利益影響を判断する
固定費見直し不要費用、条件見直し費用、維持すべき機能会社を弱くせず、利益が残る体制にする
在庫改善適正在庫、滞留在庫、評価損、仕入条件資金固定化を防ぎ、粗利と資金を改善する
債権管理回収サイト、滞留債権、与信、請求・入金管理売上を現金化し、資金繰りを安定させる
撤退・集中撤退費用、固定費削減効果、残す事業の収益性限られた資源を再生可能性の高い領域へ集中する
実行管理担当者、期限、KPI、月次確認、未達時対応改善計画を実際の行動と成果につなげる
金融機関説明改善策、損益計画、資金繰り、返済原資、モニタリング金融支援や返済条件見直しの説明力を高める
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次