M&Aの税務DDでは、どうしても法人税・地方税に目が向きがちです。たしかに、過年度の申告内容、申告調整、繰越欠損金、税務調査の履歴といった論点は、買収後の追加税負担や買収価格に大きく影響します。
ただ、税務DDを法人税の確認だけで終わらせてしまうと、実務上は無視できないリスクを取りこぼすことがあります。たとえば、次のような場面です。
- 消費税の課税区分が誤っている
- 仕入税額控除の前提となるインボイスや帳簿・請求書の保存が不十分である
- 課税売上割合の計算や、個別対応方式・一括比例配分方式の選択に問題がある
- 外注費や士業報酬、退職金、非居住者・外国法人への支払について源泉徴収漏れがある
- 事業譲渡契約書、不動産売買契約書、金銭消費貸借契約書などの印紙税が整理されていない
- 不動産を含むM&Aで、不動産取得税・登録免許税・固定資産税・償却資産税の負担を見落としている
- 輸入取引がある会社で、関税・輸入消費税・通関関連資料の確認が不十分である
こうした論点は、一つひとつを取り出せば、法人税ほど大きくは見えないかもしれません。しかし、買収後にまとめて表面化すると、追加納税や資金流出にとどまらず、契約上の紛争、経理体制の混乱、買収後の管理負担にまでつながっていきます。
税務DDは、一般に法人税が中心になります。とはいえ、消費税や源泉所得税は調査対象に含めることが多く、その他の税目についても、対象会社の事業環境のなかで重要性や税務リスクが高いものは、調査の射程に入れておく必要があります。
この記事では、M&Aの税務DDにおいて、消費税・源泉所得税・その他税目をどのように確認し、発見した事項をどう実行判断へつなげるべきかを整理します。
法人税以外の税目は「小さい論点」ではなく「見落とされやすい論点」
消費税、源泉所得税、印紙税、不動産取得税、登録免許税、固定資産税、関税。こうした税目は、法人税と比べると、M&Aの検討初期では後回しにされがちです。
しかし、これらには共通する三つの特徴があります。
ひとつは、取引単位・支払単位で誤りが生じやすいことです。法人税は年度単位で所得計算を確認しますが、消費税や源泉所得税は、売上、仕入、外注費、報酬、給与、役員退職金、海外送金といった日々の取引処理と密接に結びついています。現場の処理が属人化している会社では、同じ誤りが毎月、毎期、繰り返されていることも珍しくありません。
もうひとつは、赤字会社であってもリスクが生じることです。法人税は、課税所得がなければ税額が発生しない場合もあります。一方で、消費税、源泉所得税、印紙税、固定資産税、登録免許税、不動産取得税などは、会社が赤字であっても発生し得ます。資金繰りが厳しい会社を買収する場面で、こうした税金のキャッシュアウトを見落とすと、買収後の資金計画が崩れてしまいます。
最後に、契約・スキーム・買収後の管理に直結することです。事業譲渡であれば、譲渡対象資産の消費税課税関係、不動産取得税・登録免許税、印紙税、許認可、従業員の承継などが問題になります。株式譲渡であれば、対象会社の過年度の消費税・源泉所得税リスクを、法人格ごと引き継ぐことになります。
つまり、法人税以外の税目は「付随的な論点」ではありません。M&Aの条件、契約、クロージング、買収後の経理・税務管理にまで影響する、実行判断そのものに関わる論点なのです。
消費税DDの出発点は「納税義務・届出・経理方式」の確認
消費税DDでは、いきなり個別取引の課税区分を見にいくのではなく、まず対象会社の消費税ポジションを押さえるところから始めます。
入口として確認したいのは、次のような事項です。
- 課税事業者か、免税事業者か
- 適格請求書発行事業者として登録しているか
- 簡易課税制度を選択しているか
- 課税期間の特例を選択しているか
- 税抜経理方式か、税込経理方式か
- 消費税申告書と決算書・試算表・総勘定元帳が整合しているか
- 未払消費税、未収還付消費税、仮受消費税、仮払消費税の残高が実態と合っているか
- 税務調査で消費税に関する指摘を受けていないか
消費税が課税されるのは、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等、特定仕入れ、そして保税地域から引き取られる外国貨物の引取りに限られます。言い換えれば、消費税DDでは、まずその取引がそもそも消費税の課税対象にあたるのかを見極める必要がある、ということです。
この段階で大切なのは、消費税申告書の数字だけを眺めるのではなく、対象会社が日々の取引をどう分類し、どの資料に基づいて申告しているかまで見ることです。
消費税は、申告書の数字だけではリスクが見えにくい税目です。販売管理システム、請求書、契約書、仕入明細、インボイス、総勘定元帳、補助元帳、税区分マスター、会計システムの設定まで踏み込んで、はじめて実態が浮かび上がってきます。
課税・非課税・免税・不課税の区分は、消費税DDの中心論点
消費税DDのなかで最も基本でありながら、同時に誤りやすいのが取引区分です。消費税では、取引を大きく次のように整理します。
| 区分 | 概要 | DD上の着眼点 |
|---|---|---|
| 課税取引 | 消費税の課税対象となる取引 | 売上・仕入の税率、請求書、税区分、インボイスの整合性 |
| 非課税取引 | 性質上または政策上、課税しない取引 | 課税売上割合への影響、仕入税額控除の制限 |
| 免税取引 | 輸出取引等、税率ゼロで扱われる取引 | 輸出証明、海外取引資料、課税売上割合への影響 |
| 不課税取引 | そもそも消費税の課税対象外の取引 | 課税売上割合の分母・分子に含めない処理 |
非課税取引と不課税取引は、どちらも消費税が課されないため、実務では混同されがちです。ただ、課税売上割合の計算における取扱いは異なります。非課税取引は原則として課税売上割合の分母にのみ算入し、不課税取引は消費税の適用対象外であるため、分母にも分子にも算入しません。
非課税と免税の違いも見落とせません。両者の分かれ目は、その取引のために行った課税仕入れについて、仕入税額控除ができるかどうかという点にあります。
M&A税務DDでは、対象会社の売上・仕入を、単なる勘定科目としてではなく、取引実態に即して確認します。とくに注意したいのは、次のような取引です。
- 土地・建物・設備・営業権を含む譲渡
- 事業用建物と住宅用建物の賃貸
- 保証金、敷金、権利金、更新料
- 海外売上、輸出取引、海外役務提供
- 関連会社への業務委託・ロイヤルティ
- 補助金、保険金、損害賠償金
- 返品、値引、リベート、販売奨励金
- 社宅、福利厚生、役員・従業員向け取引
- 非課税売上が多い業種の共通仕入
会計上は売上や費用として処理されていても、消費税上の区分はそれとは別に判断しなければなりません。科目名で判断するのではなく、契約内容、請求内容、資産の性質、役務提供地、相手先、対価性で見ていくことが大切です。
仕入税額控除は「インボイスがあるか」だけでは足りない
消費税DDで見落としやすいのが、仕入税額控除です。
インボイス制度のもとでは、仕入税額控除を受けるために、原則として適格請求書等の保存が求められます。インボイスのない仕入れや経費については、原則として仕入税額控除ができません。ただし、一定の特例や経過措置が設けられています。
もっとも、M&A税務DDでは、「インボイス登録番号があるか」を確認するだけでは十分とはいえません。あわせて見ておきたいのは、次のような点です。
- 仕入先が適格請求書発行事業者か
- 請求書に必要事項が記載されているか
- 会計システムの税区分と請求書の内容が一致しているか
- 免税事業者・個人事業主・小規模外注先への支払が多くないか
- 経過措置をどのように適用しているか
- 仕入税額控除の対象外となる費用を控除していないか
- 非課税売上対応仕入、共通対応仕入の区分ができているか
- 課税売上割合が正しく計算されているか
- 個別対応方式と一括比例配分方式の選択が適切か
- 一括比例配分方式を選択した場合の継続適用制限を理解しているか
ここで気をつけたいのが、方式選択の縛りです。一括比例配分方式を選択した場合、2年間以上継続して適用した後でなければ、個別対応方式へ変更することはできません。
消費税DDでは、理論値と実際の申告額を突き合わせるだけでなく、課否判定資料、課税売上割合、輸出免税、輸入消費税、仕入税額控除方式の選択、未確定債務に係る消費税処理まで確認していきます。
買収後、対象会社を買主グループの経理体制に組み込む場合には、消費税区分のマスター設定、インボイスの保存ルール、請求書の発行・受領フローを見直す必要が出てきます。だからこそ、消費税DDは過年度の申告だけでなく、買収後の経理運用にも直結するのです。
事業譲渡では、消費税・印紙税・不動産関連税を一体で見る
M&Aのスキームによって、消費税の見方は大きく変わります。
株式譲渡では、対象会社の株式を取得するため、対象会社が保有する資産・負債・契約・税務リスクは会社のなかに残ります。買主は、その会社を取得することで、過年度の消費税申告リスクや未払消費税リスクを引き継ぐことになります。
一方、事業譲渡では、対象会社の資産・負債・契約を個別に移転します。そのため、譲渡対象資産ごとに消費税の課税・非課税を判定しなければなりません。
中小M&Aの実務に即して整理すると、事業譲渡では取得する資産・負債を取捨選択できる一方、不動産を取得する場合には不動産取得税・登録免許税が生じます。さらに、減価償却資産等は消費税の課税売上に該当するため、課税事業者であれば消費税等の課税関係にも留意が必要になります。
事業譲渡でとくに注意したいのは、譲渡対価の内訳です。
| 譲渡対象 | 消費税DD上の主な着眼点 |
|---|---|
| 棚卸資産 | 課税資産として処理されているか |
| 機械装置・備品 | 課税資産として譲渡対価に含まれているか |
| 建物 | 原則として課税関係を確認する |
| 土地 | 非課税取引として区分されているか |
| 営業権・のれん | 課税資産として扱われているか |
| 売掛金・債権 | 譲渡対象と消費税課税関係の整理が必要 |
| 敷金・保証金 | 返還義務の有無、権利金性の有無を確認する |
事業譲渡契約書の対価配分が曖昧なままだと、消費税額、印紙税、不動産取得税、登録免許税、会計処理、そして価格交渉にまで影響が及びます。
なお、中小企業者等が一定の経営力向上計画に基づいて他者から事業を譲り受け、不動産の権利移転等を行う場合には、不動産取得税の軽減措置が設けられています。適用期限や対象要件は、改正・延長の有無を含め、必ず最新情報で確認しておく必要があります。
事業譲渡は、税務リスクの一部を切り離せる一方で、取引時の税務コストが増えることもあります。したがって、税務DDでは「株式譲渡より安全かどうか」ではなく、「どのリスクを遮断でき、どの税務コストが新たに発生するのか」を比較する視点が欠かせません。
輸入・輸出・海外取引がある会社では、消費税DDの深度を上げる
対象会社に海外取引がある場合、消費税DDの難度は一段上がります。確認したい主な論点は、次のとおりです。
- 輸出免税の適用要件を満たしているか
- 輸出許可書、船荷証券、インボイス等の証憑が保存されているか
- 海外役務提供の内外判定が適切か
- 海外からの役務提供についてリバースチャージの検討が必要か
- 輸入消費税と関税が適切に処理されているか
- 通関書類、輸入許可通知書、関税納付書と会計処理が整合しているか
- 関連会社間取引の価格設定が、消費税・関税・法人税の各論点と矛盾していないか
輸入については、見落とされやすい点があります。輸入品を保税地域から引き取る取引は、対価性のない取引であっても消費税が課税されます。
輸入消費税や関税は、仕入原価、在庫評価、粗利率、資金繰りにも影響します。財務DDで粗利率や棚卸資産を分析しているのであれば、税務DD側で輸入消費税・関税・通関実務を確認し、財務DDチームと情報を共有しておくことが重要です。
源泉所得税DDは「支払先」と「支払内容」を一件ずつ見る
源泉所得税は、法人税や消費税とは仕組みが異なります。「支払う側」が税金を差し引いて納付する税目です。そのため、対象会社が支払者として、適切に源泉徴収・納付を行っているかを確認していきます。
会社や個人が給与を支払ったり、税理士・弁護士・司法書士などに報酬を支払ったりする場合には、その支払の都度、支払金額に応じた所得税および復興特別所得税を差し引き、原則として支払月の翌月10日までに国へ納める必要があります。
M&A税務DDでは、源泉所得税について、次のような支払を確認します。
- 給与、賞与、役員報酬
- 役員退職慰労金、退職金
- 税理士、弁護士、司法書士、公認会計士等への報酬
- 原稿料、講演料、デザイン料、顧問料
- 外注費、業務委託費
- 個人事業主への支払
- ホステス、外交員、紹介料、販売手数料等
- ストックオプション、株式報酬関連
- 非居住者・外国法人への利子、配当、使用料、ロイヤルティ、役務提供対価
- 役員・従業員への経済的利益
源泉徴収が必要な報酬・料金等の範囲は、支払を受ける者が居住者か内国法人かによって変わってきます。
出典:国税庁|No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
源泉所得税DDで肝心なのは、勘定科目ではなく、支払の実態を見ることです。たとえば、会計上は「外注費」として処理されていても、実態が給与に近い場合には、労務DDや社会保険、源泉所得税の論点が立ち上がってきます。
「業務委託費」「紹介料」「顧問料」「支払手数料」といった科目のなかに、個人への支払や海外への支払が混在しているときは、とりわけ慎重に見ておく必要があります。
士業報酬・外注費・旅費交通費は、源泉と消費税が交差する
士業報酬や個人への報酬では、源泉所得税と消費税の両方を確認します。
弁護士や税理士などに支払う報酬・料金については、謝金、調査費、日当、旅費などの名目で支払われるものも、源泉徴収の対象に含まれます。一方で、支払者が交通機関やホテル等へ直接支払う、通常必要な範囲の交通費・宿泊費等は、源泉徴収の対象に含めなくてもよいとされています。また、報酬・料金に消費税等が含まれている場合は、原則として消費税等を含めた金額が源泉徴収の対象になりますが、請求書等で報酬額と消費税等が明確に区分されているときは、報酬額のみを対象として差し支えありません。
出典:国税庁|No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金
M&A税務DDでは、次の点を確認していきます。
- 士業報酬に源泉徴収漏れがないか
- 請求書上、報酬額と消費税額が明確に区分されているか
- 実費精算、旅費、日当、調査費の扱いが一貫しているか
- 個人事業主への外注費に源泉徴収対象取引が混在していないか
- 支払調書、源泉徴収簿、納付書、総勘定元帳が一致しているか
- 買収後も同じ処理を継続して問題ないか
源泉所得税のリスクは、単純な納付漏れだけにとどまりません。対象会社が「誰に、何の対価として、どのような名目で支払っているのか」を把握できていない場合、買収後も同じ誤りが繰り返されていきます。
非居住者・外国法人への支払は、源泉所得税DDで重点的に見る
海外取引がある会社では、非居住者・外国法人への支払が重要な論点になります。
非居住者および外国法人については、日本国内で稼得した国内源泉所得のみが課税の対象となります。国内源泉所得には、国内にある不動産の譲渡対価、国内で行う人的役務提供の対価、国内不動産の貸付対価、内国法人から受ける配当、国内業務に係る貸付金利子、国内業務に係る工業所有権等・著作権・機械装置等の使用料などが含まれます。
M&A税務DDでは、海外送金一覧、契約書、請求書、送金依頼書、租税条約届出書、ロイヤルティ契約、技術支援契約、経営指導料契約などを確認します。とくに、次のような支払には注意が必要です。
- 海外親会社・関連会社へのロイヤルティ
- 海外子会社への経営指導料・管理費
- 海外ベンダーへのシステム利用料・ライセンス料
- 外国法人への利子・保証料
- 非居住者への役務提供対価
- 外国人役員・従業員への報酬
- 海外不動産・国内不動産に関する賃料・譲渡対価
- 海外広告、クラウドサービス、デジタルサービス関連支払
租税条約の適用にも目を配る必要があります。源泉徴収の対象となる国内源泉所得の支払を受ける非居住者等が、租税条約に基づく軽減・免除を受けようとする場合には、租税条約に関する届出書を、原則として最初に支払を受ける日の前日までに、支払者を経由して所轄税務署長へ提出しなければなりません。届出書等が提出されていないと、支払者は租税条約上の限度税率ではなく、国内法上の税率で源泉徴収を行うことになります。
出典:国税庁|No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)
海外支払の源泉徴収漏れは、買収後に税務調査で問題化すると、金額が大きくなりやすい論点です。しかも、法人税、移転価格、消費税、関税、法務DD上の契約有効性とも絡み合います。だからこそ、税務DDのなかだけで完結させず、財務DD・法務DDと連携しながら確認していく必要があります。
印紙税は「契約書名」ではなく「記載内容」で見る
M&Aでは、秘密保持契約書、基本合意書、株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、不動産売買契約書、金銭消費貸借契約書、業務委託契約書、移行サービス契約書など、数多くの契約書が作成されます。
印紙税DDでは、これらの文書が課税文書に該当するか、該当する場合に印紙税額が適切かを確認します。
課税文書に該当するかどうかは、文書の名称や呼称ではなく、その文書に記載されている内容に基づいて判断します。
出典:国税庁|No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断
また、印紙税額一覧では、不動産、無体財産権、営業の譲渡に関する契約書などが、課税文書として整理されています。
M&A税務DDでは、対象会社が過去に締結した契約書の印紙税だけでなく、今回のM&Aで作成される契約書の印紙税もあわせて確認します。とくに注意したいのは、次のような場面です。
- 事業譲渡契約書に、営業譲渡、不動産譲渡、債権譲渡など複数の要素が含まれる
- 不動産売買契約書と事業譲渡契約書が一体的に作成される
- 金銭消費貸借契約、債務引受契約、保証契約が作成される
- 紙の契約書と電子契約が混在している
- 過去の重要契約に、収入印紙の貼付漏れ・消印漏れがある
- 契約金額の記載方法が印紙税額に影響する
印紙税は、金額だけで見れば小さく映ることがあります。しかし、契約書の管理が行き届いていない会社では、契約書原本の所在、契約条件の把握、法務DD、取引先管理といった領域にも、課題を抱えている可能性があります。
固定資産税・償却資産税は、資産実態と買収後負担を見る
固定資産税・償却資産税は、M&Aで見落とされやすい税目のひとつです。
固定資産税は、土地、家屋、償却資産を所有している者にかかる税であり、償却資産には、構築物、機械・装置、工具・器具・備品、船舶、航空機などの事業用資産が含まれます。
償却資産については、1月1日現在に所有している償却資産を、その年の1月31日までに申告する実務になっています。
M&A税務DDでは、次の点を確認します。
- 固定資産台帳と償却資産申告書が一致しているか
- 実在しない資産、除却済資産が残っていないか
- 事業用設備が償却資産申告から漏れていないか
- リース資産、賃借資産、建物附属設備の申告関係が整理されているか
- 遊休資産、老朽化設備、撤去予定資産に将来負担があるか
- 不動産を取得する場合、固定資産税・都市計画税の日割精算をどう扱うか
- 買収後に事業所・設備を移転、閉鎖、統合する場合、税負担がどう変わるか
固定資産税・償却資産税は、貸借対照表の資産評価、設備投資、維持更新投資、そして買収後の資金繰りとつながっています。財務DDで固定資産の実態を確認する際には、税務DD側でも償却資産申告や固定資産税負担を押さえておくべきです。
事業所税・関税・酒税等は「対象会社の業種と取引構造」で判断する
その他の税目については、すべての案件で同じ深度まで確認する必要はありません。大切なのは、対象会社の業種、事業所、取引構造、資産構成、海外取引の有無に応じて、調査対象を選び取ることです。
たとえば事業所税は、一定の指定都市等に所在する事業所等に関係する税目です。これは、都市環境の整備に充てる財源を確保するための目的税であり、指定都市等が提供する行政サービスと、事業所等で行う企業活動との受益関係に着目して課税する仕組みとされています。
輸入取引がある会社では、関税・輸入消費税・通関実務も確認の対象になります。輸出入手続、品目分類、税率、原産地規則、関税評価、保税制度などについては、税関が公式情報を公表しています。
このほか、業種によっては、酒税、揮発油税、軽油引取税、たばこ税、入湯税、宿泊税、産業廃棄物税、法定外税などが問題になることもあります。
この領域で重要なのは、網羅的にすべての税目を深掘りすることではありません。対象会社の事業に照らして、どの税目が実行判断に影響するのかを絞り込むことです。
発見事項は「価格・契約・クロージング・買収後管理」に分けて扱う
消費税、源泉所得税、その他税目で見つけた事項は、報告書に並べて終わりにしては不十分です。実行判断に活かすためには、次のように整理していきます。
価格に反映すべき事項
未払消費税、未納源泉所得税、加算税・延滞税の見込み、印紙税の過怠税リスク、不動産取得税・登録免許税の見積不足、固定資産税の精算不足。これらは、実態純資産、ネットデット、価格調整、事業計画上の税金キャッシュアウトに影響します。
とくに、事業譲渡で譲渡対象資産に消費税課税資産が含まれる場合には、消費税相当額を誰が負担するのかを、契約上で明確にしておく必要があります。
契約で手当てすべき事項
過年度の消費税区分誤り、源泉徴収漏れ、海外支払の源泉税、印紙税、固定資産税・償却資産税の申告漏れ。これらは、表明保証、補償、特別補償、責任期間、責任上限、クロージング条件に反映していくことがあります。
金額化できるものは価格調整で対応しやすい一方で、税務調査で初めて顕在化するリスクや、資料不足によって金額化しにくいリスクについては、契約上のリスク配分が重要になります。
クロージング前に対応すべき事項
次のような事項は、クロージング前の対応として整理することがあります。
- 未納税額の納付
- 消費税・源泉所得税の修正申告、期限後納付
- インボイス登録状況の確認
- 契約書の印紙税対応
- 事業譲渡対価の資産別配分の明確化
- 不動産取得税・登録免許税の特例適用可否の確認
- 海外支払に関する租税条約届出書の整備
- 関連当事者取引・外注契約の整理
買収後管理に回すべき事項
すべての税務論点を、クロージング前に解消できるとは限りません。なかには、買収後に経理・税務管理体制として整備していくべきものもあります。
- 消費税区分マスターの見直し
- インボイス保存ルールの整備
- 仕入税額控除の承認フロー
- 源泉徴収対象支払の判定フロー
- 海外送金時の源泉税・租税条約チェック
- 契約書作成時の印紙税チェック
- 固定資産台帳と償却資産申告の整合
- 通関資料、輸入消費税、関税の管理
- 顧問税理士・経理担当者・親会社経理部門の役割分担
税務DDは、リスクを見つけるためだけに行うものではありません。見つかった事項を、価格、契約、クロージング、買収後管理のどこで扱うのかに変換していく。そこにこそ、税務DDの価値があります。
法人税以外の税目で、特に注意すべき兆候
次のような兆候が見られる場合は、消費税・源泉所得税・その他税目の調査深度を上げるべきです。
- 消費税申告書と会計帳簿の仮受・仮払消費税残高が合わない
- 会計システムの税区分が担当者任せになっている
- 非課税売上や海外売上があるのに、課税売上割合を十分確認していない
- インボイス制度への対応が、経理担当者の属人的判断に依存している
- 外注費・業務委託費が多い
- 個人事業主、士業、紹介者、顧問への支払が多い
- 海外関連会社へのロイヤルティ・管理費・システム利用料がある
- 非居住者・外国法人への支払について、租税条約届出書が見当たらない
- 事業譲渡で、土地・建物・営業権・設備が一括評価されている
- 契約書原本の管理が不十分で、印紙税対応が確認できない
- 固定資産台帳と現物資産、償却資産申告が一致しない
- 輸入取引があるのに、通関資料と会計処理の照合が行われていない
- 税務調査で法人税以外の指摘事項があったが、改善状況が不明である
これらは、単なる税額リスクではありません。対象会社の経理・税務管理体制が、買収後の管理水準に耐えられるかどうかを判断する材料でもあります。
税務DDを専門家に相談すべき場面
消費税・源泉所得税・その他税目について、次のような状況があるときは、税務DDの段階で専門家に相談する必要性が高くなります。
- 株式譲渡で、対象会社の過年度税務リスクを法人格ごと引き継ぐ
- 事業譲渡で、土地・建物・設備・営業権を取得する
- 対象会社に、非課税売上、海外売上、輸出入取引がある
- インボイス対応や仕入税額控除の運用に不安がある
- 外注費・業務委託費・紹介料・顧問料が多い
- 非居住者・外国法人への支払がある
- 過去に消費税・源泉所得税・印紙税で指摘を受けている
- 不動産取得税・登録免許税・固定資産税の買収後負担を見積もりたい
- DD結果を、価格、契約、補償、クロージング前対応にどう反映すべきか判断したい
なかでも消費税と源泉所得税は、過年度の誤りが買収後も繰り返されやすい税目です。税額だけでなく、処理プロセス、証憑保存、社内承認、システム設定、そして買収後の運用まで見ておく必要があります。
まとめ|法人税以外の税目こそ、実務の粗さが表れやすい
消費税、源泉所得税、印紙税、不動産取得税、登録免許税、固定資産税、関税。これらは、法人税に比べると、M&Aの初期検討では目立ちにくい税目です。
しかし、いずれの税目も、対象会社の日々の取引処理、支払管理、契約管理、資産管理、海外取引、経理体制の実態を映し出します。
消費税区分が曖昧な会社は、売上・仕入・請求管理に課題を抱えている可能性があります。源泉徴収漏れがある会社は、支払先や支払内容の管理が不十分な可能性があります。印紙税や契約書管理が曖昧な会社は、法務・契約管理にも課題を残している可能性があります。固定資産税や償却資産申告が整っていない会社は、資産台帳や設備管理に課題がある可能性があります。
税務DDでは、法人税以外の税目を、単なる周辺の税目として扱うべきではありません。買収後に引き継ぐ実務リスク、資金流出、契約上のリスク配分、管理体制の整備課題として捉えていく必要があります。
消費税・源泉所得税・その他税目のDD範囲の整理、事業譲渡における消費税・不動産関連税の検討、海外支払に係る源泉税、DDで見つかった事項の価格・契約条件への反映でお迷いの際は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。
買収を前に進めるべきか、条件を見直すべきか、追加調査を行うべきか。税目ごとのリスクと実行判断の両面から、整理してまいります。
振り返り|消費税・源泉所得税・その他税目のDD論点
| 確認論点 | DDで見るべきこと | 実行判断へのつながり |
|---|---|---|
| 消費税の納税義務 | 課税事業者・免税事業者、届出、簡易課税、課税期間 | 過年度申告リスクと買収後の税金キャッシュアウトを把握する |
| インボイス対応 | 適格請求書発行事業者登録、請求書保存、仕入先管理 | 仕入税額控除の可否と買収後の経理運用に影響する |
| 課税区分 | 課税、非課税、免税、不課税の区分 | 課税売上割合、納付税額、価格調整に影響する |
| 仕入税額控除 | 個別対応方式、一括比例配分方式、共通仕入、経過措置 | 過年度追加納税と買収後の消費税管理に影響する |
| 事業譲渡の消費税 | 資産別対価配分、土地・建物・設備・営業権の区分 | 譲渡対価、契約条項、資金繰りに反映する |
| 輸出入取引 | 輸出免税、輸入消費税、関税、通関資料 | 粗利率、在庫評価、資金繰り、税務リスクを把握する |
| 源泉所得税 | 給与、報酬、外注費、士業報酬、退職金 | 未納源泉税、加算税、買収後支払管理に影響する |
| 非居住者・外国法人 | 国内源泉所得、ロイヤルティ、利子、配当、租税条約届出 | 海外送金リスク、契約条件、補償条項に反映する |
| 印紙税 | 契約書の記載内容、課税文書該当性、印紙貼付・消印 | 契約管理の精度、過怠税リスク、クロージング対応を見る |
| 不動産取得税・登録免許税 | 事業譲渡・不動産取得・特例適用可否 | 取引コスト、スキーム選択、資金計画に影響する |
| 固定資産税・償却資産税 | 固定資産台帳、償却資産申告、除却・遊休資産 | 資産実態、買収後税負担、設備管理に反映する |
| その他業種別税目 | 関税、事業所税、酒税、法定外税等 | 対象会社の業種・取引構造に応じてDD範囲を調整する |
| 契約・価格への反映 | 表明保証、補償、価格調整、前提条件 | 税務リスクを実行判断とリスク配分に変換する |
| 買収後管理 | 税区分、源泉判定、証憑保存、契約管理、資産管理 | DDで見つけた弱点を買収後の管理体制に接続する |