M&AのDD相談前に整理すべき基本事項|財務・税務DDを依頼する前に確認したいこと

M&Aの財務・税務デューデリジェンス、いわゆる財務DD・税務DDを専門家に相談する際、最初からすべての資料がそろっている必要はありません。

むしろ、初回相談の段階では、対象会社の情報が断片的であったり、売主側から十分な資料開示を受けられていなかったり、買収価格やスキームもまだ固まっていなかったりするのが通常です。

ただ、何も整理しないまま相談に臨むと、専門家の側も「何を目的に、どこまで、どの深さで確認すべきか」を見極めにくくなります。その結果、本来確認すべきリスクに十分な時間を割けなかったり、逆に重要性の低い論点にまで調査範囲が広がりすぎたりすることが起こり得ます。

財務・税務DDは、対象会社の数字を確認するだけの作業ではありません。最終的には、次のような判断につなげるためのプロセスです。

  • 買うべきか、やめるべきか
  • 価格を見直すべきか
  • 契約で手当てすべきか
  • クロージング前に解消すべきか
  • 買収後の管理課題として引き受けるべきか

そのため、DD相談の前に整えておくべきなのは、きれいにそろった資料一式ではありません。「このM&Aで何を判断したいのか」という前提のほうです。

なお、中小企業庁の中小M&Aガイドラインは、M&Aの手続や、各手続における利用者の役割・留意点などを整理する目的で策定されたもので、2024年8月には第3版が公表されています。第3版では、手数料や支援内容の説明、利益相反、最終契約に関するトラブル対応などについても、新たに整理が加えられました。中小M&Aにおいても、DDや契約を「形式的な手続」として流すのではなく、あらかじめ判断材料を整理しておくことの重要性は、年々高まっていると感じています。

出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン

目次

DD相談前の整理は、専門家に説明するためだけのものではない

相談前の整理というと、「専門家に正しく説明するための準備」と捉えられがちです。もちろん、それも大切な側面です。

しかし本質的には、買主自身が、自分たちの判断軸を明確にするための作業だと考えています。

M&Aでは、検討が進むほど、関係者の期待や感情が入り込みやすくなります。売主との関係性、社内の成長期待、金融機関や取引先との事情、後継者不在への対応、競合他社に先を越されたくないという焦り。こうした事情が重なるほど、「この案件を進めたい」という方向へ意識が傾きやすくなるものです。

その局面で財務・税務DDを行う意味は、買収を否定することにあるのではありません。一度立ち止まり、数字と事実に基づいて進め方を選べる状態をつくることにあります。

ですから、相談の前には、次のような問いを整理しておきたいところです。

  • このM&Aで自社は何を実現したいのか
  • 対象会社のどの点に価値を感じているのか
  • 逆に、どの点が崩れると買収の前提が変わるのか
  • どのリスクは価格で調整できるのか
  • どのリスクは契約で手当てすべきなのか
  • どのリスクは買収後の管理体制で吸収できるのか
  • どのリスクが出れば撤退を検討すべきなのか

この整理があるかどうかで、DDの質は大きく変わってきます。

まず整理すべきは「買収目的」である

DD相談の前に、最初に整理しておきたいのは、対象会社の決算書ではなく、買収目的です。

財務・税務DDは対象会社の数字を客観的に確認するプロセスですが、どの数字を重点的に見るべきかは、買収目的によって変わってきます。

たとえば、次のどれを狙っているのかによって、見るべきところは変わります。

  • 対象会社の顧客基盤を取得したいのか
  • 製造能力や技術を取り込みたいのか
  • 人材や拠点を引き継ぎたいのか
  • 自社の既存事業との補完関係を重視しているのか
  • 後継者不在の取引先・外注先を引き継ぐことで、自社のサプライチェーンを守りたいのか
  • 事業再編の一環として、特定の事業や資産だけを取得したいのか

目的が違えば、見るべき財務情報も自ずと変わります。

  • 顧客基盤が目的であれば、売上の継続性、顧客別売上、解約リスク、主要顧客への依存、契約条件が重要になります
  • 製造能力が目的であれば、設備の稼働状況、維持更新投資、原価構造、在庫、外注先、品質コストが重要になります
  • 人材や拠点が目的であれば、人件費、労務リスク、退職給付、キーマンへの依存、買収後の管理体制が重要になります
  • 資金繰りの厳しい会社を取得する場合には、正常収益力よりも、短期の資金繰り、借入条件、担保・保証、未払債務、税金の滞納、資金ショートのリスクといった確認が優先されることもあります

「良さそうな会社だから買いたい」という段階から、「この価値を取得したい。その価値が本当に存在するかをDDで確認したい」という段階へ進めること。これが、相談前整理の第一歩になります。

「何を確認したいか」ではなく「何を判断したいか」を言語化する

初回相談では、「財務DDで何を見てもらえますか」と尋ねるよりも、「このM&Aについて、どの判断をするためにDDを使いたいのか」を整理しておくほうが有益です。

財務・税務DDで確認する論点は多岐にわたります。正常収益力、実態純資産、運転資本、ネットデット、簿外債務、偶発債務、税務リスク、関連当事者取引、資金繰り、内部管理体制など、挙げればきりがありません。

しかし、DDの目的は論点を多く並べることではなく、発見した事項を判断へと変えることにあります。

相談の前には、少なくとも、次のどの判断に使いたいのかを考えておきたいところです。

  • 買収を進めるかどうか
  • 提示価格が妥当かどうか
  • 価格調整が必要かどうか
  • 表明保証や補償で手当てすべき事項があるか
  • クロージング前に解消すべき事項があるか
  • 買収後にどの管理課題を引き継ぐことになるか
  • 社内や金融機関に説明できる材料があるか
  • 追加で法務DD、労務DD、IT DDなどに範囲を広げるべきか

この整理がないと、DDは「調べられるものを調べる」作業に寄ってしまいます。

逆に、判断したい事項が明確であれば、専門家はDDのスコープ、優先順位、資料依頼、質問事項、報告の粒度を設計しやすくなります。

検討段階とスケジュールを整理する

DD相談では、対象会社の情報だけでなく、M&Aの検討がどの段階にあるのかを伝えることも大切です。

同じ対象会社であっても、検討段階によって必要な助言は変わってきます。

  • まだ秘密保持契約の締結前なのか
  • 簡易な案件概要だけを受け取った段階なのか
  • インフォメーション・メモランダムや決算書を受領しているのか
  • トップ面談を終えているのか
  • 意向表明書や基本合意書の検討段階なのか
  • DD期間がすでに設定されているのか
  • 最終契約やクロージングの予定日が見えているのか

特に、DD期間が短い場合には、すべてを同じ深さで確認することは現実的ではありません。その場合は、どうしても優先順位をつける必要が出てきます。

短期間であっても、買収判断に重大な影響を与える論点はあります。たとえば、収益力の前提が崩れていないか、ネットデットや運転資本に大きなずれがないか、税務調査で問題となり得る過年度処理がないか、関連当事者取引やオーナー依存が買収後にも残らないか、簿外債務や保証関係がないか、といった論点です。

反対に、時間をかければ確認できるものの、初期判断の段階では優先度を下げてよい論点もあります。

検討段階とスケジュールを正しく共有していただくことで、専門家は「理想的には見るべき論点」と「限られた期間内で必ず見るべき論点」を分けて設計できるようになります。

対象会社について分かっている情報を整理する

DD相談の前に、対象会社の情報を完璧にまとめておく必要はありません。ただ、分かっている範囲で対象会社の輪郭を整理しておくことには、大きな意味があります。

最低限、次のような事項を整理しておくと、相談の密度が高まります。

  • 対象会社の事業内容
  • 主要な商品・サービス
  • 主要な顧客や取引先
  • 商流や収益モデル
  • 株主構成
  • 経営者・役員の関与状況
  • 関係会社やグループ会社の有無
  • 買収対象が株式なのか、事業なのか、特定資産なのか
  • 役員借入、経営者保証、関連当事者取引の有無
  • 不動産、設備、在庫、知的財産、許認可など重要資産の有無
  • 従業員やキーマンの状況
  • 主要契約や長期契約の有無
  • 借入金、担保、保証、リースなどの状況

ここで大切なのは、分からない事項を無理に埋めようとしないことです。「まだ分からない」という事実そのものも、DD設計のうえでは重要な情報になります。

  • 売主側が開示していないのか
  • 資料自体が存在しないのか
  • 存在するが整理されていないのか
  • 関係者が把握していないのか
  • 意図的に開示されていない可能性があるのか

同じ「資料がない」でも、その意味するところは大きく異なります。

対象会社の情報は、分かっていること、分からないこと、違和感があることに分けて整理しておくと、専門家がリスクの仮説を立てやすくなります。

財務資料は「あるかどうか」だけでなく「使えるかどうか」を確認する

財務・税務DDでは、決算書、申告書、試算表、総勘定元帳、補助元帳、月次資料、資金繰り表、借入明細、在庫資料、売掛金・買掛金の明細など、さまざまな資料を確認していきます。

しかし、相談前の段階で重要なのは、資料をすべてそろえることではありません。どの資料があり、どの資料がなく、どの資料がどの程度信頼できそうかを把握しておくことです。

たとえば、次のような状況があります。

  • 決算書はあるが、月次試算表が遅れている
  • 申告書はあるが、勘定科目内訳明細書が十分に整理されていない
  • 売上資料はあるが、顧客別・部門別には分解されていない
  • 資金繰り表はあるが、実績と予測が混在している
  • 在庫表はあるが、滞留在庫や評価減の検討がされていない
  • 借入一覧はあるが、担保・保証・財務制限条項が整理されていない
  • 月次資料はあるが、決算時に大きく修正される
  • 経営者が管理している数字と、会計帳簿の数字が一致していない

こうした情報は、財務DDの重要な出発点になります。

財務資料は、単に存在すればよいというものではありません。その数字が、どのようなルールで、誰によって、どのタイミングで、どの証憑に基づいて作られているのか。そこが問われます。

特に中小・オーナー企業では、税務申告のための決算書は作成されていても、経営判断に使える月次の管理資料や部門別損益は十分でない、というケースが少なくありません。

この場合、財務DDでは、決算書の表面だけでなく、数字が作られる仕組みそのものまで確認していく必要があります。

税務資料は「過去の申告内容」と「買収後に引き継ぐリスク」に分けて見る

税務DDの相談前には、可能であれば、過年度の法人税・地方税・消費税などの申告書、勘定科目内訳明細書、税務調査の履歴、修正申告や更正の有無、税務上の繰越欠損金、グループ通算の有無、関連当事者取引の状況などを整理しておきます。

ただし、税務DDで重要なのは、申告書があるかどうかだけではありません。買収後に、どの税務リスクを引き継ぐ可能性があるのか、という点です。

株式譲渡であれば、原則として対象会社の法人格をそのまま取得するため、過年度の税務リスクも対象会社に残ります。

事業譲渡や会社分割など、ほかのスキームでは、承継する資産・負債、契約、税務コスト、許認可、従業員関係などの見方が変わってきます。

組織再編税制や繰越欠損金の利用可能性が関係する場合には、現行の法令・通達・実務上の取扱いを踏まえた、慎重な確認が欠かせません。

相談前の段階で、税務上の結論を出す必要はありません。むしろ、「税務で気になっていること」を率直に整理しておくことのほうが大切です。

たとえば、次のような点です。

  • 役員報酬や役員退職金の扱い
  • オーナーへの貸付金や借入金
  • 社宅、車両、保険、交際費などのオーナー関連費用
  • 消費税区分の誤りが疑われる取引
  • 海外取引や外注費の源泉所得税
  • 繰越欠損金を価値として見込んでいる場合の、その利用可能性
  • 税務調査で過去に指摘されたものの、現在も類似の処理が続いている事項

税務DDは、税務申告の正誤を後追いで確認するだけの作業ではありません。買収価格、契約条件、補償、クロージング前の対応、買収後の申告体制に影響する論点として、整理しておく必要があります。

懸念事項は、遠慮せずに早めに共有する

DD相談では、資料として確認できる事項だけでなく、買主側が感じている違和感や懸念も重要な手がかりになります。

  • 「売主の説明が、少し楽観的に聞こえる」
  • 「売上は伸びているが、資金が増えていない」
  • 「利益率が急に改善している」
  • 「特定の取引先に依存している」
  • 「経理担当者が一人しかいない」
  • 「オーナーが抜けた後に、事業が回るか不安がある」
  • 「借入金以外に、実質的な債務がありそうだ」
  • 「税務調査の話を濁された」
  • 「在庫や売掛金の説明が曖昧だ」
  • 「買収後に追加投資が必要そうだが、金額が見えていない」

こうした違和感は、DDの重要な入口になります。

もちろん、違和感があるからといって、ただちに問題があるとは限りません。それでも、違和感をあらかじめ共有しておくことで、専門家は資料依頼やインタビューの焦点を絞りやすくなります。

DDは、対象会社を疑うためだけの手続ではありません。とはいえ、売主の説明をそのまま受け入れるだけでも足りません。説明と数字、数字と証憑、証憑と事業実態が整合しているかを確かめること。ここに、DDの意味があります。

価格・契約・クロージングへの反映イメージを持っておく

DD相談前の段階で、価格調整や表明保証、補償、前提条件の具体的な条項まで決めておく必要はありません。これらは、財務DD・税務DD、法務DD、契約交渉の結果を踏まえて検討すべき事項だからです。

ただし、DDの結果をどのような意思決定に使うのか、その大枠は、相談前から意識しておきたいところです。

  • 財務DDで正常収益力が想定より低いと分かった場合、買収価格を見直すのか、将来業績に連動する条件を検討するのか、買収後の改善余地として受け入れるのか
  • ネットデットや運転資本に差異がある場合、価格調整で反映するのか、クロージング前に一定水準を求めるのか
  • 税務リスクが見つかった場合、買収価格に反映するのか、補償条項で手当てするのか、クロージング前に修正申告などの対応を求めるのか
  • 関連当事者取引やオーナー依存がある場合、買収後に解消できるのか、一定期間の引継ぎを契約で定めるのか
  • 内部管理体制が弱い場合、買収後の管理課題として受け入れるのか、それとも買収後の負担が大きすぎると判断するのか

このように、DDで見つかった事項は、価格、契約、クロージング、買収後管理のいずれかに接続して考える必要があります。

相談前に、ここまで明確に決め切る必要はありません。それでも、「DD報告書を受け取った後に何を決めたいのか」だけは、早い段階で共有しておきたいところです。

財務・税務DDだけで判断できない論点も整理しておく

本記事は財務・税務DDを中心に扱っていますが、M&Aの実行判断は、財務・税務だけで完結するものではありません。

  • 財務DDで売上の継続性に疑問が出れば、ビジネスDDで市場、顧客、競争力、商流を確認する必要があります
  • 財務DDで偶発債務の可能性が見えれば、法務DDで契約、訴訟、許認可、権利義務関係を確認する必要があります
  • 人件費や未払費用に違和感があれば、労務DDで未払残業代、労働条件、退職給付、キーマン依存を確認する必要があります
  • 会計システムや在庫管理に不安があれば、IT DDや業務プロセスの確認が必要になることもあります
  • 環境規制、知的財産、医療・介護・建設・運送などの業種規制が関係する場合には、その専門領域での確認が必要になります

財務・税務DDの相談前には、「これは財務・税務だけで見られるのか」「別の専門家と連携すべきか」という視点も、あわせて整理しておくとよいでしょう。

財務・税務の専門家は、法務・労務・IT・環境のすべての論点を判断する立場にはありません。一方で、財務数値のなかに、ほかのDDで確認すべき兆候が現れることは少なくありません。

ですから初回相談では、財務・税務DDの範囲だけでなく、ほかのDDとの接続も含めて相談していただくことをおすすめします。

買収後の管理課題も、相談前から意識しておく

DDはクロージング前の手続ですが、そこで見つかった事項の多くは、買収後の管理課題として残ります。

  • 経理体制が弱い
  • 月次決算が遅い
  • 部門別損益がない
  • 資金繰り表が作られていない
  • 証憑管理が属人的である
  • 税務申告の前提となる資料が整理されていない
  • オーナーしか把握していない取引がある
  • 取引先や従業員との関係が属人的である

こうした事項は、買収価格や契約条件だけで解決できるとは限りません。買収後に、誰が、どの順番で、どの管理体制を整えていくのか、という課題になります。

中小企業庁は、PMIを「主にM&A成立後に行われる統合に向けた作業であり、M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なプロセス」と説明しています。DD相談前の段階であっても、買収後にどのような管理・統合の課題が生じ得るかを意識しておくことは、DDの範囲を決めるうえで有効です。

出典:中小企業庁|PMIを実施する

なお、本シリーズではPMIの詳細設計までは扱いません。ここで強調したいのは、DDの段階で「買収後に何が残るのか」を見落とさないことです。

専門家に相談する前に、社内の意思決定者を確認しておく

DD相談では、資料や論点だけでなく、社内で誰が意思決定するのかも重要です。

M&Aでは、経営者、役員、経営企画、財務経理、事業部門、法務、金融機関、FA、弁護士、税務・会計の専門家など、複数の関係者が関与します。しかし、DDの結果を最終的にどう使うのかが曖昧なままだと、報告した内容が意思決定に結びつきません。

相談の前には、少なくとも次の点を整理しておくとよいでしょう。

  • 誰が買収実行の最終判断をするのか
  • 誰が価格交渉を担当するのか
  • 誰が契約交渉を担当するのか
  • 誰がDD資料の受領・管理を担当するのか
  • 財務・税務DDの報告を誰に共有するのか
  • 金融機関や外部株主に説明する必要があるのか
  • 社内で、いつまでに判断しなければならないのか

とりわけ、財務・税務DDの報告は、単なる専門資料ではありません。買収価格、契約条件、クロージング前の対応、買収後の管理に影響するため、意思決定者が理解できる形に整理される必要があります。

専門家に相談する前に、社内の意思決定の流れを整理しておくこと。それによって、DD報告の粒度や報告形式も、適切に設計しやすくなります。

相談前に無理に結論を出さなくてよい

DD相談前の整理で誤解されやすいのは、「事前に答えを出してから相談しなければならない」と考えてしまうことです。

しかし、相談の前に必要なのは、結論ではありません。論点です。

  • 買収すべきかどうか分からない
  • 価格が高いのか安いのか判断できない
  • どこまでDDすべきか分からない
  • 売主の資料をどこまで信用してよいか分からない
  • 税務リスクがあるように見えるが、その重要性が分からない
  • 買収後に管理できる課題なのか、そもそも引き受けるべきでないリスクなのか分からない

こうした状態で相談すること自体は、まったく問題ありません。むしろ、分からないことを分からないまま放置し、案件が進んでから慌てて確認に動くほうが、はるかに危険です。

DD相談前の整理とは、「専門家に説明するために、きれいな答えを作ること」ではありません。何を判断できておらず、何を確認すべきかを明らかにすること。そこに意味があります。

DD相談前に避けたい進め方

一方で、相談前の段階で避けておきたい進め方もあります。

まず、買収価格やスキームを実質的に固めてから、後付けでDDを依頼する進め方です。これでは、DDで重要な問題が見つかっても、価格や契約条件に反映しにくくなってしまいます。

次に、「小規模案件だからDDは簡易でよい」と、最初から決めてしまう進め方です。取引規模が小さくても、税務リスク、保証債務、未払費用、労務リスク、オーナー依存、資金繰りリスクが小さいとは限りません。小規模案件では、むしろ管理体制や資料整備が十分でないことすらあります。

また、売主の説明や仲介者の説明だけを前提にして、証憑や会計資料の確認を軽く扱うことも避けたいところです。説明はもちろん重要ですが、DDでは、説明と資料、資料と数字、数字と実態を照合する必要があります。

さらに、財務・税務DDだけで、M&A全体のリスクをすべて判断しようとすることも危険です。契約、許認可、労務、IT、環境、知財など、財務・税務だけでは判断できない領域については、必要に応じて、ほかの専門家と連携していく必要があります。

初回相談では、何を持参・共有すればよいか

初回相談の段階で、すべての資料がそろっていなくても構いません。ただ、可能であれば、次のような情報を整理しておくと、相談が進めやすくなります。

  • 対象会社の概要資料
  • 過去数期分の決算書
  • 直近期の試算表や月次資料
  • 税務申告書や勘定科目内訳明細書
  • 借入金一覧
  • 主要な顧客・取引先・仕入先の情報
  • 事業計画や売主側の説明資料
  • 買収スキームの想定
  • 提示価格や、価格算定の前提
  • 基本合意書、意向表明書、秘密保持契約、その他の関連資料
  • 売主側から受けている説明の内容
  • 買主側が感じている懸念事項
  • 希望するスケジュール
  • 社内での意思決定期限

資料が不足している場合は、「何がないか」を共有していただくことが大切です。たとえば、「決算書はあるが、月次資料は未入手」「申告書はあるが、税務調査履歴は不明」「借入金一覧はあるが、担保・保証の詳細は未確認」といった整理でも、十分に意味があります。

初回相談では、資料の精査そのものよりも、DDの目的、範囲、優先順位、そして追加で必要になる資料を整理することのほうが重要です。

相談前整理のゴール

DD相談前整理のゴールは、専門家にすべてを説明し切ることではありません。初回相談を通じて、次のような状態に近づけることです。

  • このM&Aで何を判断すべきかが見えている
  • 財務・税務DDで確認すべき主要論点が整理されている
  • 優先して依頼すべき資料が明確になっている
  • DDのスコープと深度を検討できる
  • ほかのDDとの連携が必要な領域が見えている
  • 価格、契約、クロージング、買収後管理への接続が意識されている
  • 社内の意思決定者に説明すべき論点が整理されている

ここまで整理できていれば、DDは単なるチェック作業ではなく、M&A判断を支える実務プロセスとして機能しやすくなります。

財務・税務DDは、相談前から始まっている

財務・税務DDは、専門家が資料を受け取ってから始まるものではありません。本当は、相談の前の段階から、すでに始まっています。

  • なぜこの会社を買いたいのか
  • どの数字が買収判断の前提になっているのか
  • 何が分かれば前に進めるのか
  • 何が分からなければ条件を変えるのか
  • どのリスクを受け入れ、どのリスクを契約で手当てし、どのリスクで撤退を検討するのか

この整理があるからこそ、DDの結果を意思決定に使うことができます。

DDは、専門家に丸投げする作業ではありません。買主自身が、目的と判断軸を持ったうえで活用するものです。

専門家の役割は、経営者の代わりに買収判断を下すことではありません。判断に必要な数字、事実、証憑、リスク、選択肢を整理し、後から説明できる形に整えること。そこにあります。

M&Aを前に進める局面では、勢いも必要です。しかし、勢いだけでは、買収後に残るリスクを引き受けることはできません。

守りを仕組みに変え、攻めのM&A判断を支えるために。財務・税務DDの相談前には、まず自社の判断軸を整理しておくことが何より大切です。

ご相談について

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&Aにおける財務・税務DD、DD前の論点整理、対象会社資料の読み解き、DDスコープの検討、そしてDD結果を踏まえた実行判断の整理について、ご相談を承っています。

まだ資料が十分にそろっていない段階でも、買収目的、検討状況、入手済みの資料、懸念事項を一緒に整理していくことで、どの範囲で財務・税務DDを行うべきか、どの論点を優先すべきかが見えやすくなります。

  • 「この案件について、財務・税務DDを実施すべきか」
  • 「売主から受け取った資料を、どう見ればよいか」
  • 「価格や契約条件に影響しそうな論点を、事前に整理したい」
  • 「買収後に管理できるリスクなのか、事前に確認すべきリスクなのかを切り分けたい」

このような段階でお悩みの場合は、現在の検討状況を整理したうえで、お問い合わせページよりご相談ください。

この記事の振り返り

整理項目相談前に確認したいこと実務上の意味
買収目的なぜその会社・事業を取得したいのかDDで重点的に見るべき論点が変わる
判断したい事項買う・やめる・条件変更・契約手当のどれに使うのかDDを調査報告で終わらせず、意思決定に接続できる
検討段階NDA前、基本合意前後、DD開始前、契約交渉前などスコープ、深度、優先順位が変わる
スケジュールDD期間、契約交渉、クロージング予定限られた期間で、必ず見るべき論点を絞れる
対象会社情報事業内容、商流、株主、役員、関係会社、重要資産財務数値の背景にある事業実態を把握できる
財務資料決算書、試算表、月次資料、借入一覧、資金繰り資料数字の信頼性と、買収後の負担を確認できる
税務資料申告書、税務調査履歴、繰越欠損金、関連当事者取引過年度税務リスクや、買収後の承継リスクを整理できる
懸念事項売上、資金繰り、在庫、税務、オーナー依存、管理体制など資料依頼やインタビューの焦点を定めやすい
他DDとの接続法務、労務、IT、知財、環境、許認可などの必要性財務・税務だけでは判断できないリスクを補完できる
買収後管理月次決算、資金管理、税務申告体制、内部管理DD結果を、クロージング後の課題に接続できる
社内意思決定誰が判断し、誰に報告し、いつまでに決めるのかDD報告を経営判断に使いやすくなる
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