メザニン・劣後ローン・優先株式の使いどころ|銀行融資だけでは足りない買収資金をどう設計するか

M&Aの買収資金を組み立てていくと、銀行融資だけでは必要額に届かない場面に何度も出会います。

自己資金をこれ以上入れれば、買収後の運転資金や追加投資が心もとない。シニアローンを積み増したいけれども、金融機関の目線では返済負担が重すぎる。かといって普通株式で出資を受ければ、株主構成や経営権への影響が小さくない。

それでも、買収そのものには事業上の合理性がある。資金構成さえ整えば、ぜひ実行したい——。

こうした局面で検討の俎上に載るのが、メザニン、劣後ローン、優先株式です。

ただ、はじめにお伝えしておきたいことがあります。メザニンは「銀行融資で足りない部分を埋める便利な資金」ではありません。シニアローンよりリスクが高く、普通株式より優先される中間的な資金です。だからこそ、コスト、契約条件、返済順位、経営関与、株主構成への影響を、ひとつずつ丁寧に設計していく必要があります。

メザニンを使うべきかどうかは、「資金が足りるか」ではなく、「誰がどのリスクを負い、どのキャッシュ・フローから、どの順番で回収する設計になっているか」で判断するものです。

本稿では、M&Aファイナンスにおけるメザニン・劣後ローン・優先株式の使いどころを、買収後の資金繰り、返済原資、資本構成、金融機関への説明、経営権への影響という観点から整理していきます。

目次

メザニンとは何か

メザニンとは、シニアローンと普通株式の中間に位置する資金調達手段です。

買収ファイナンスでは、返済順位・リスク・リターンの関係は、おおむね次のように整理できます。

資金の種類返済・回収順位資金提供者のリスク会社側から見た特徴
シニアローン高い低い返済義務が明確で、担保・保証・コベナンツが重視される
メザニン中間中間シニアに劣後し、普通株式に優先する設計が多い
普通株式低い高い返済義務はないが、議決権・希薄化・経営権への影響が大きい

メザニン投資は、リスクとリターンの面でシニアローンに劣後し、普通株式には優先する投資手法として位置づけられます。買収ファイナンスの実務では、劣後ローン、劣後債、優先株式、新株予約権を組み合わせる形で設計されることが少なくありません。

ここで押さえておきたいのは、メザニンが単なる「借入の一種」ではない、ということです。

劣後ローンであれば債務です。優先株式であれば株式です。新株予約権を組み合わせれば、将来の普通株式への転換や希薄化も論点になります。

同じ「メザニン」と呼ばれていても、法的性質、会計上の表示、税務上の取扱い、金融機関からの評価、株主構成への影響は、それぞれ大きく異なります。

ですから、メザニンを検討するときは、「メザニンを入れるか」という大きな問いではなく、「劣後ローンで入れるのか、優先株式で入れるのか、エクイティキッカーを付けるのか」という形まで分けて考えることが欠かせません。

メザニンを検討する典型的な場面

メザニンの典型的な使いどころは、銀行融資だけでは足りないものの、普通株式による出資は大きく増やしたくない、という場面です。

たとえば、次のような状況が当てはまります。

状況メザニンを検討する理由
シニアローンの借入可能額に上限がある返済順位をシニアより下げることで、追加資金を入れられる可能性がある
自己資金を使い切りたくない買収後の運転資金・追加投資・予備資金を残せる
普通株式の希薄化を避けたい優先株式や劣後ローンにより、普通株式の議決権希薄化を抑えられる場合がある
買収価格を維持したいシニアローンと自己資金だけでは届かない価格水準を補完できる
買収後にリファイナンスを予定している一時的な資金階層として利用し、実績確認後に借換え・回収を図ることがある
PEファンド・共同投資家が関与するリスク・リターンを細かく分け、スポンサー、シニア貸付人、メザニン投資家の利害を調整できる

メザニン投資の利点のひとつは、当初想定していた普通株式の出資額の一部をメザニンに振り替えることで、スポンサーの出資額を抑えつつ買収価格の水準を維持しやすくなる点にあります。劣後ローンや優先株式、新株予約権などを通じて、案件に応じたリスク・リターン設計ができることも魅力です。

ただし、これは「買収価格を無理に維持するためにメザニンを使ってよい」という意味ではありません。

買収価格が返済原資に照らして過大であれば、メザニンで調達額を増やしたところで、買収後の財務リスクが消えるわけではないからです。むしろ、シニアローンの上に高コストのメザニンを重ねることで、将来の資金繰りがいっそう圧迫されることもあります。

メザニンは「足りない資金の穴埋め」ではなく「リスクの置き場所」である

メザニンを理解するうえで何より大切なのは、これを資金不足の穴埋めとして見ないことです。

買収資金が10億円必要で、自己資金2億円、シニアローン6億円しか用意できない。残り2億円をメザニンで埋めれば実行できる——。

この整理は、表面的にはわかりやすいのですが、実務判断としては不十分です。

本当に見るべきなのは、次のような点です。

メザニン投資家は、どのリスクを引き受けているのか。シニアローンの返済後、どのキャッシュ・フローから回収するのか。返済・配当・取得請求・売却による回収は、いつ、どの条件で行われるのか。買収後に下振れしたとき、誰が先に損失を負担するのか。そして、普通株主の経営権や将来の出口に、どのような影響が出るのか。

メザニンは、シニアローンが取りきれないリスクを引き受ける資金です。だからこそ、資金コストはシニアローンより高くなります。投資家は、劣後性、回収時期の不確実性、担保・保証の弱さ、事業計画の下振れリスクを引き受ける代わりに、利息、優先配当、取得価額、エクイティキッカーなどを通じてリターンを求めます。

つまり、メザニンを入れるかどうかは、「足りない2億円を誰かが出してくれるか」ではなく、「その2億円に、どのような損失吸収機能・回収条件・経営関与が付くのか」を見極める判断なのです。

劣後ローンとは何か

劣後ローンとは、シニアローンに比べて返済順位が劣後する借入です。

法的には借入であり、会社にとっては返済義務のある負債です。ただし、シニアローンとの関係では、元本返済、利息支払、期限前弁済、担保実行時の回収などが制限されます。

買収ファイナンスにおける劣後ローンでは、劣後ローン契約、劣後担保契約、劣後保証契約、債権者間協定書、担保権者間協定書などが論点になります。劣後ローン契約は借入人とメザニン貸付人の関係を規律し、債権者間協定書等はシニア貸付人とメザニン貸付人の利害調整を目的とするものです。

劣後ローンで特に重要なのは、次の3点です。

1つ目は、返済順位です。シニアローンが完済されるまで、劣後ローンの元本返済が制限されることがあります。シニア貸付人の立場からすれば、対象会社グループのキャッシュ・フローがメザニン返済へ先に流出することを防ぐ必要があるためです。

2つ目は、利息設計です。劣後ローンでは、現金利息と、最終返済時まで支払いを繰り延べるPIK利息が組み合わされることがあります。シニアローンの優先性を確保するために、メザニン貸付人は一部の利息支払いを繰り延べざるを得ない場合があるのです。

3つ目は、契約上の制約です。借入人は、シニアローン契約や債権者間協定書に反する劣後ローンの返済、相殺、担保・保証の追加提供、期限前弁済、劣後ローン関連契約の変更などを、シニア貸付人の承諾なく行わない旨を約束することがあります。

このように、劣後ローンは借入ではあるものの、通常の借入とはずいぶん性格が異なります。

会社側から見れば、「返済義務はあるが、シニアローンより後回しにされる借入」です。シニア貸付人から見れば、「シニアの回収を妨げない限りで許容される資金」です。そしてメザニン貸付人から見れば、「シニアより高いリスクを取る代わりに、高いリターンを求める投資」となります。

劣後ローンが向いている場面

劣後ローンが向いているのは、普通株式の希薄化を避けつつ、シニアローンだけでは不足する資金を補いたい場合です。

特に、次のような状況で検討対象になります。

劣後ローンが検討されやすい状況理由
買収後のキャッシュ・フローが一定程度見込める将来的な返済可能性を説明しやすい
シニアローンの追加借入は難しいシニアに劣後することで追加資金の余地を作れる
議決権の希薄化を避けたい借入であり、通常は普通株式の議決権を直接希薄化させない
将来リファイナンスで整理する前提がある実績を作った後、借換えや返済でメザニンを外す設計がしやすい
外部株主の経営関与を抑えたい優先株式より、株主としての権利発生を避けやすい

ただし、劣後ローンは「株式ではないから安全」という資金ではありません。

返済義務があり、利息も発生します。PIK利息を設定すれば現金流出を先送りできますが、その分、最終返済額は膨らみます。買収後の業績が計画どおりに進まなければ、シニアローンの返済に加えて、将来の劣後ローン返済が重くのしかかってきます。

劣後ローンは、短期的にはキャッシュアウトを抑えられることがあります。それでも、最終的には返済すべき債務であることに変わりはありません。

その意味で、劣後ローンを使うのであれば、「いつ、何から返すのか」を曖昧にしたまま実行してはいけないのです。

優先株式とは何か

優先株式とは、普通株式とは異なる内容を持つ種類株式の一つです。典型的には、配当や残余財産の分配について、普通株式に優先する権利を持つ株式を指します。

会社法上、株式会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権、譲渡制限、取得請求権、取得条項などについて、内容の異なる種類株式を発行できます。実際の発行条件や手続は、会社法、定款、株主総会決議、種類株主総会の要否、税務・会計上の取扱いを、その都度確認する必要があります。

出典:e-Gov法令検索|会社法

メザニンとして優先株式を使う場合、投資家は株主になります。そのため、劣後ローンとは異なり、返済義務のある借入ではなく、資本性のある資金として設計されます。

優先株式によるメザニン投資では、優先株式発行要項によって株式の内容を定め、投資契約、シニア貸付人・発行会社との関係者間合意書、普通株主との株主間契約が締結されることがあります。

優先株式で主に問題になる条件は、次のとおりです。

条件実務上の意味
優先配当普通株主より優先して配当を受ける設計
残余財産分配優先権清算時などに普通株式より先に分配を受ける設計
議決権議決権を付けるか、無議決権とするか
取得請求権投資家が会社に取得を請求できる権利
取得条項会社側が一定条件で取得できる権利
普通株式への転換金銭回収ができない場合に普通株式へ転換する設計
譲渡制限投資家が第三者に自由に譲渡できるか
株主間契約出口、共同売却、売却参加、拒否権等を調整する

優先株式を使うメリットは、普通株式による増資に比べて、既存株主の議決権希薄化を抑えながら、資本性の資金を入れられる場合があることです。メザニン投資を優先株式で構成すれば、普通株式による増資とは異なり、スポンサーの議決権希薄化を避けつつ、エクイティ性の資金を調達できる可能性があります。

一方で、優先株式は契約も手続も複雑です。

分配可能額がなければ、優先配当や金銭対価の取得請求に応じられない場合があります。投資家が普通株式への転換権を持てば、将来の議決権・希薄化・経営権に影響します。投資契約や株主間契約に、情報提供、拒否権、役員派遣、出口条項が入れば、経営の自由度も制約を受けます。

優先株式は、返済義務がないから軽い資金、というものではありません。むしろ、株主としての権利、契約条件、出口条件まで含めて見ていく必要がある、重い資本性資金だと考えるべきです。

優先株式が向いている場面

優先株式が向いているのは、買収後の返済負担を過度に増やしたくない一方で、普通株式の希薄化や経営権への影響も一定程度コントロールしたい、という場合です。

たとえば、次のようなケースが挙げられます。

優先株式が検討されやすい状況理由
返済義務を増やすと資金繰りが厳しい借入ではなく資本性資金として設計できる
普通株式の議決権希薄化を避けたい無議決権優先株式等により議決権設計が可能
投資家に一定の優先回収権を与えたい優先配当・残余財産分配・取得請求権で調整できる
将来の出口を契約で整理したい株主間契約で共同売却・売却参加等を定めやすい
財務耐久力を高めたい自己資本・資本性資金として見られる可能性がある

ただし、優先株式は株式である以上、株主構成の問題を避けて通れません。

「無議決権にすれば経営権への影響はない」という単純な話でもありません。種類株主総会、拒否権、取得請求権、普通株式への転換、株主間契約上の同意事項などによって、重要事項の意思決定に影響が及ぶことがあるからです。

また、優先株式の取得価額や優先配当の設計は複雑になりやすく、投資家の想定IRR、優先配当、取得請求権、早期償還時の違約金、エクイティキッカーなどを反映させる必要があります。合意した経済条件が発行要項や契約へ正確に反映されているかは、慎重に確認しなければなりません。

優先株式は、資本構成を柔軟にしてくれる一方で、会社法・税務・会計・契約・株主構成が交差する、高度な設計事項なのです。

新株予約権・エクイティキッカーを組み合わせる場合

メザニンでは、劣後ローンや優先株式に新株予約権を組み合わせることがあります。これは、投資家に将来の株式価値上昇への参加機会を与えるためです。

新株予約権は、株式会社に対して行使することで株式の交付を受ける権利です。発行時には、目的株式数、行使価額、行使期間、譲渡制限などの内容を定める必要があります。

出典:e-Gov法令検索|会社法

メザニン投資家から見れば、エクイティキッカーは、利息や優先配当だけでは不足するリターンを補う仕組みです。会社が成長し、企業価値が上がれば、投資家は株式価値上昇の一部を享受できます。

会社側から見れば、エクイティキッカーを付けることで、現金利息や優先配当を抑えられる場合があります。買収後のキャッシュアウトを抑えたい局面では、一見、魅力的に映るでしょう。

しかし、新株予約権は将来の希薄化要因でもあります。

劣後ローンによるメザニン投資でも、エクイティキッカーとして新株予約権を付せば、メザニン投資家は将来的にエクイティ・ホルダーとなります。シニアローン完済前に廉価で普通株式が発行されると、シニア貸付人が担保権を取得している普通株式が希薄化してしまうため、シニアローン完済を新株予約権の行使条件とする設計が検討されます。

エクイティキッカーは、現金負担を抑える代わりに、将来の株式価値を渡す仕組みです。買収時点の資金繰りだけを見れば有利に見えても、将来の出口、株主構成、議決権、普通株主の経済的取り分にまで影響していきます。

メザニンのコストはなぜ高いのか

メザニンのコストは、シニアローンより高くなります。

理由は明確です。メザニンはシニアローンより回収順位が低く、担保・保証の面でも劣後し、回収時期も不確実だからです。

シニア貸付人は、優先的に返済を受ける立場にあります。対象会社グループのキャッシュ・フロー、担保、保証、コベナンツを通じて、回収可能性を高めています。

一方、メザニン投資家は、シニアローンの返済後に残る余力から回収します。業績が下振れすれば、シニアは回収できてもメザニンの回収余地が減る、という事態も起こり得ます。

そのため、メザニン投資家は次のようなリターンを求めます。

リターンの形内容
現金利息定期的に支払われる利息
PIK利息現金支払を繰り延べ、元本等に加算する利息
優先配当優先株式に対する配当
取得価額の上乗せ投資回収時に一定リターンを織り込んだ取得価額
早期償還プレミアム想定投資期間より早く回収される場合の補償
新株予約権将来の株式価値上昇への参加権
転換権・ステップイン回収困難時に普通株式を取得し、経営関与を強める手段

メザニンは、低金利の融資ではありません。シニアローンでは取れないリスクを引き受ける資金である以上、高いリターンを求めるのは自然なことです。

「銀行より少し高い金利で借りられる資金」という感覚で検討すると、契約条件や将来の負担を見誤ることになります。

メザニンが適している買収

メザニンが適しているのは、買収の事業合理性と返済原資が一定程度確認できているにもかかわらず、シニアローンと自己資金だけでは資本構成が硬すぎる、という場合です。

典型的には、次のような買収が挙げられます。

1つ目は、対象会社のキャッシュ・フローが安定している買収です。メザニンはシニアローンより後順位で回収されるため、対象会社のキャッシュ・フローに一定の厚みが求められます。シニアローン返済後にも、メザニンの利息・配当・将来回収へ充てられる余力が残っていなければなりません。

2つ目は、買収後に投資余力を残す必要がある買収です。自己資金を使い切る、あるいはシニアローンを最大限借りてしまうと、買収後の設備更新、人材採用、IT投資、在庫増加、管理体制の整備が立ち行かなくなることがあります。メザニンを使えば、資金の層を厚くし、短期の現金負担を調整できる場合があります。

3つ目は、経営権への影響を抑えながら資本性を補いたい買収です。普通株式で外部投資家を入れると、議決権の希薄化や株主間の利害調整が大きくなります。優先株式や劣後ローンで設計すれば、普通株式の議決権希薄化を抑えながら、リスクマネーを入れられる場合があります。

4つ目は、将来のリファイナンスが現実的な買収です。買収後に対象会社の業績が安定し、グループ管理体制が整い、金融機関への説明実績ができれば、メザニンをシニアローンやコーポレートローンへ借り換える余地が出てくることがあります。

5つ目は、スポンサーや共同投資家が関与し、契約管理に耐えられる買収です。メザニンは契約関係が複雑です。債権者間協定、関係者間合意、株主間契約、投資契約、発行要項などを管理できる体制が必要になります。

メザニンを使うべきでない買収

メザニンは高度な資本構成を可能にしますが、使うべきでない場面もあります。

特に注意したいのは、次のような買収です。

メザニンを慎重にすべき状況理由
買収価格が高すぎるメザニンで資金を足しても、返済原資不足は解消しない
対象会社のキャッシュ・フローが不安定シニア返済後にメザニン回収原資が残らない可能性がある
シナジー前提が強すぎる実現しなければ、高コスト資金だけが残る
買収後に大きな追加投資が必要メザニン利息・配当・回収条件が投資余力を圧迫する
契約管理体制がないコベナンツ、報告義務、同意事項に対応できない
経営権を絶対に変えたくない優先株式・新株予約権・株主間契約が経営に影響する可能性がある
金融機関説明が弱いシニア貸付人にとって、投資家・条件・劣後性の説明が不可欠

とりわけ危険なのは、「銀行が貸してくれない分をメザニンで補えばよい」という発想です。

銀行が融資に慎重なのは、単に担保が足りないからとは限りません。返済原資が不足している、買収価格が高い、事業計画が楽観的すぎる、対象会社の資料が不足している、既存借入が重い、買収後の資金繰りに余裕がない——こうした理由が背後にあるのかもしれないのです。

このような状態でメザニンを入れれば、資金調達は一時的に成立しても、買収後に高コスト資金の負担が表面化してきます。

メザニンは、弱い買収を成立させるための資金ではありません。成立する見込みのある買収について、リスクの負担順序と資本構成を調整するための資金なのです。

シニアローンとの関係をどう整理するか

メザニンを使う場合、シニア貸付人との関係整理が欠かせません。

シニア貸付人は、対象会社グループのキャッシュ・フローから優先的に回収する立場です。そのため、メザニン投資家への支払いや回収行為が、シニアローンの返済を妨げないように設計する必要があります。

ここで重要になるのが、劣後ローンであれば債権者間協定書や担保権者間協定書、優先株式であれば関係者間合意書などです。メザニン投資は、シニアローンに劣後し普通株式に優先する関係を実現しなければならないため、劣後ローンであればシニア貸付人との債権者間協定書、優先株式であれば関係者間合意書や株主間契約によって、関係者間の権利を調整していくことになります。

シニア貸付人が確認する主なポイントは、次のとおりです。

  • メザニン投資家は誰か
  • 劣後性は契約上明確か
  • メザニンへの利息・配当・取得請求はいつ認められるか
  • シニアローン完済前にメザニンが回収行為をできるか
  • メザニンに担保・保証を提供するか
  • 新株予約権による希薄化がシニアの担保価値に影響しないか
  • メザニン関連契約の変更にシニアの承諾が必要か
  • メザニン投資家の譲渡に制限があるか

金融機関の融資審査は、担保の有無だけでなく、債務者評価、案件事情、資金使途、返済原資、保全面、他行状況、資金調達余力などを踏まえて行われます。

メザニンを入れる場合、シニア貸付人に対して「劣後しているから大丈夫です」と伝えるだけでは不十分です。

メザニンの条件が、シニアローンの返済原資・担保・コベナンツ・期限前弁済・情報提供義務と矛盾しないことを、きちんと説明できる必要があります。

優先株式と普通株主の関係をどう整理するか

優先株式を使う場合、普通株主との関係整理も大切です。

優先株主は、通常、普通株主より優先して一定の経済的回収を求めます。一方、普通株主は、会社の成長によって残余価値を取る立場です。

両者の利害は重なる部分もありますが、出口の場面では対立することがあります。

たとえば、普通株主は会社全体を売却したいけれども、優先株主は投資回収額が不足するため売却に反対する、というケース。反対に、優先株主は回収確保のため売却参加を求めるが、普通株主はまだ成長余地があると考えて売却したくない、というケースもあります。

こうした事態を避けるため、株主間契約では次のような事項を定めることがあります。

条項内容
共同売却請求権一定条件で、他の株主にも売却を求める権利
売却参加請求権他の株主が売却する場合に、自分も同条件で売却に参加する権利
重要事項の同意権合併、事業譲渡、追加借入、配当、役員変更等について同意を求める仕組み
情報提供義務月次資料、予算実績、資金繰り、事業計画等の提出
役員派遣・オブザーバー経営監視・助言のための関与
譲渡制限投資家が第三者に自由に譲渡しないようにする制約
出口条項一定期間後の売却、取得、償還、IPO、M&A時の取扱い

優先株式によるメザニン投資では、優先株主の存在がスポンサーの出口を妨げないよう共同売却請求権を定めることや、スポンサーの出口時に優先株主の投資回収を可能にするため売却参加請求権を定めることが検討されます。

こうした条項は、投資家にとっては合理的なものです。

ただ、経営者・既存株主にとっては、将来の意思決定に制約を受けることを意味します。

優先株式は「議決権を付けなければ経営権に影響しない」と考えるのではなく、契約上の拒否権・同意権・出口権まで含めて、支配権への影響を確かめておくべきです。

金融機関から見たメザニンの評価

メザニンを入れることが、金融機関から常に好意的に受け止められるわけではありません。

良いメザニンは、シニアローンの返済可能性を高めます。一方で悪いメザニンは、資金構成を複雑にし、将来のキャッシュ・フローを圧迫し、金融機関の回収可能性を不透明にしてしまいます。

金融機関から評価されやすいのは、次のようなメザニンです。

  • シニアローンに対する劣後性が明確
  • メザニンの支払いがシニア返済を妨げない
  • メザニン投資家の信用力・姿勢が確認できる
  • 契約関係が整理されている
  • 買収後の資金繰りに余裕がある
  • メザニンが過大な買収価格を支えるためだけに使われていない
  • 将来のリファイナンスまたは出口が説明できる
  • 経営管理・情報提供体制が整っている

反対に、金融機関が警戒しやすいのは、次のようなメザニンです。

  • メザニンへの支払い条件が重い
  • シニアローン完済前にメザニン回収が可能になっている
  • エクイティキッカーにより担保株式価値が希薄化する
  • 投資家の譲渡が自由で、誰が権利者になるか分からない
  • 優先株主の拒否権が強く、金融機関対応に支障が出る
  • メザニンを入れないと買収価格が説明できない
  • 返済原資が楽観的なシナジーに依存している

メザニンは、金融機関にとっても説明が必要な資金です。特に中小企業のM&Aでは、関係者がメザニンに慣れていないことも少なくありません。

だからこそ金融機関への説明では、メザニンの種類、投資家、金額、返済・配当条件、劣後性、契約制約、出口、シニアローンとの関係を、明確に整理しておく必要があります。

「資本性借入金」と劣後ローンを混同しない

劣後ローンを検討するとき、「資本性借入金」と混同されることがあります。

金融庁の監督指針では、資本性借入金について、貸出条件が資本に準じた十分な資本的性質を有する借入金として、債務者評価において資本とみなして取り扱うことが可能なものとされています。その資本類似性は、償還条件、金利設定、劣後性といった観点から判断されるとされています。

出典:金融庁|中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針

ただし、すべての劣後ローンが、金融機関の評価上、資本性借入金として扱われるわけではありません。

買収ファイナンスで使われる劣後ローンは、投資家との個別契約によって設計されます。返済期限、利息、劣後性、担保・保証、期限前弁済、契約変更、シニアローンとの優先劣後関係によって、実質は大きく変わってきます。

したがって、「劣後ローンを入れれば自己資本が厚く見える」という単純な判断は危険です。

会計上の負債・純資産区分、税務上の利息・配当の取扱い、金融機関評価上の資本性、既存金融機関との契約、保証・担保への影響は、いずれも個別に確認する必要があります。

メザニン導入前に作るべき資金構成表

メザニンを検討するときは、まず資金調達と資金使途を、同じ表のうえで整理します。

区分金額説明
買収代金〇〇円株式取得代金・事業譲受代金
対象会社既存借入の返済・借換え〇〇円期限前返済、一括返済、保証解除等
関連費用〇〇円FA、DD、弁護士、税理士、登記、手数料等
買収後運転資金〇〇円売掛金、在庫、仕入、人件費、税金等
追加投資・設備投資〇〇円IT、設備、人材、拠点、管理体制等
予備資金〇〇円下振れ・一時費用への備え
必要資金合計〇〇円上記合計

次に、調達側を整理します。

区分金額主な確認事項
自己資金〇〇円手元流動性を残せるか
シニアローン〇〇円返済期間、金利、コベナンツ、担保・保証
劣後ローン〇〇円劣後性、現金利息、PIK、返済時期、債権者間協定
優先株式〇〇円優先配当、取得請求権、議決権、株主間契約
新株予約権〇〇円行使条件、希薄化、出口、シニアとの関係
普通株式出資〇〇円希薄化、議決権、経営権、外部株主との関係
調達合計〇〇円必要資金合計と一致するか

この表を作る目的は、単に資金の帳尻を合わせることではありません。

どの資金が、どのリスクを負い、どの順番で回収され、買収後のキャッシュ・フローをどの程度拘束するのかを、目に見える形にすることにあります。

メザニンは、この表の中で初めて意味を持ちます。単独で眺めても、妥当かどうかは判断できないのです。

メザニンを使う場合の判断軸

メザニンを使うべきかどうかは、次の順番で判断していきます。

1. まずシニアローンで無理がないかを見る

シニアローンの返済だけで資金繰りに余裕がないなら、メザニンを上乗せする余地は限られます。

メザニンはシニアより後順位で回収されますが、最終的には利息、配当、取得、償還、売却による回収が必要です。シニア返済で資金が尽きる計画では、メザニン投資家の回収も説明できません。

2. 自己資金を入れなさすぎていないかを見る

買主がほとんどリスクを取らず、シニアローンとメザニンで買収資金の大半を賄う構造は、金融機関や投資家から見て説明が難しくなります。

自己資金は、買主のコミットメントを示す資金でもあります。自己資金を温存したい心理は理解できますが、外部資金へ過度に依存すれば、買収後の利害調整が難しくなります。

3. メザニンのリターンを返済原資に織り込む

メザニンのコストは、利息だけではありません。

優先配当、取得価額、PIK、早期償還プレミアム、エクイティキッカー、出口時の優先回収まで含めて、投資家にどれだけの経済的リターンを渡すのかを計算します。

資金調達の時点では負担が軽く見えても、出口時やリファイナンス時に重くなることがあるからです。

4. 経営権・株主構成への影響を見る

優先株式や新株予約権を使う場合は、株主構成への影響を確かめます。

無議決権優先株式であっても、投資契約・株主間契約上の同意事項、拒否権、情報提供義務、役員派遣、共同売却請求権、売却参加請求権が入れば、経営の自由度は制約されます。

5. 買収後の追加投資余力を見る

メザニンを入れて買収が実行できても、買収後の投資余力がなければ意味がありません。

買収後に必要な設備更新、IT、人材、在庫、拠点、管理体制の整備を織り込んだうえで、シニアローン返済、メザニン利息・配当、将来回収に耐えられるかを確認します。

6. 下振れ時の資金繰りを見る

売上未達、粗利低下、運転資金の増加、設備投資の増加、対象会社の既存顧客の離脱、PMIの遅延——こうした事態が起きたときに、メザニンの条件が資金繰りを圧迫しないかを確認します。

メザニンは、計画どおりなら成立する買収ではなく、一定の下振れがあっても説明できる買収にこそ使うべきものです。

メザニン導入時に確認すべき契約論点

メザニンを検討する場合、契約条件は必ず早い段階で確認します。

論点確認すべき内容
劣後性シニアローンに対して、どの範囲で劣後するか
支払制限利息、優先配当、取得請求、期限前弁済がいつ可能か
担保・保証メザニンに担保・保証を付けるか、シニアとの順位はどうなるか
コベナンツ財務制限、情報提供、禁止事項、同意事項
期限前弁済・取得借入人・発行会社側から終了できる条件
投資家側回収権取得請求権、普通株式転換、担保実行、ステップイン
譲渡制限メザニン投資家が第三者へ譲渡できるか
エクイティキッカー新株予約権の行使条件、行使価額、希薄化
株主間契約共同売却、売却参加、拒否権、役員派遣
シニアとの整合性シニアローン契約、債権者間協定、関係者間合意との矛盾がないか
税務・会計利息・配当、負債・純資産、源泉税、評価、資本金等への影響

契約が複雑になること自体は、悪いことではありません。

問題は、経営者がその制約を理解しないまま契約してしまうことです。

メザニンは、資金を得る代わりに、返済順位・回収条件・情報提供・経営関与・出口条件について、詳細な約束を交わすものです。買収時点の資金調達だけでなく、買収後3年、5年、そして出口時にどのような影響が出るのかまで、見通しておく必要があります。

中小M&Aでメザニンは現実的か

中小M&Aでは、メザニンが常に現実的な選択肢になるわけではありません。

メザニンは、契約設計、投資家の探索、金融機関調整、株主間契約、会社法手続、税務・会計の確認に、相応のコストと時間がかかります。取引金額が小さい場合には、専門家費用や契約管理コストの方が重くなってしまうこともあります。

また、国内の買収ファイナンス市場では、大型案件を除くと、メザニン投資の利用件数は欧米に比べて多くないとされています。

そのため、中小M&Aでは、まず次の選択肢を整理することが多くなります。

  • 自己資金の投入額を見直す
  • 買収価格を見直す
  • 支払条件を分割払いにする
  • 売主ローンを検討する
  • 対象会社の既存借入を借り換える
  • 買収後の運転資金を別枠で確保する
  • 追加投資の時期を調整する
  • 普通株式による共同投資を検討する
  • 政府系金融機関や保証付き融資の可否を確認する
  • 買収スキームを見直す

そのうえで、買収規模、対象会社のキャッシュ・フロー、買主の信用力、投資家候補、金融機関の理解、契約コストに照らして、メザニンが合理的かどうかを見極めていきます。

中小M&Aでメザニンを使う場合に問われるのは、制度や手法の高度さよりも、「契約を管理できるか」「買収後の資金繰りを説明できるか」「既存株主・金融機関・投資家の利害を調整できるか」という点です。

メザニンを検討する前に専門家へ確認すべきこと

メザニンは、財務、法務、税務、会計、金融機関対応、株主構成が交差する論点です。

検討に入る前に、少なくとも次の事項は整理しておく必要があります。

確認事項目的
買収目的資金調達のためではなく、事業上なぜ買うのかを確認する
必要資金総額買収代金だけでなく、費用・運転資金・追加投資を含める
返済原資対象会社CF、買主CF、配当可能性、資金移動制約を確認する
シニアローン条件メザニンがシニア返済を妨げないか確認する
メザニン種類劣後ローン、優先株式、新株予約権のどれを使うか
経済条件利息、PIK、優先配当、取得価額、IRR、出口を確認する
株主構成議決権、希薄化、拒否権、株主間契約を確認する
契約制約コベナンツ、情報提供、同意事項、譲渡制限を確認する
会計・税務負債・純資産、利息・配当、評価、資本金等への影響を確認する
下振れ耐性業績未達時に資金繰りが耐えられるか確認する
出口・リファイナンスいつ、どのようにメザニンを解消するか確認する

メザニンは、調達できるかどうか以上に、導入後に説明し続けられるかが重要です。

買収後に、金融機関、投資家、既存株主、経営陣、対象会社の役職員に対して、資金構成と経営方針を説明できなければ、せっかく資金調達が成立しても、かえって経営の足かせになってしまいます。

メザニン・劣後ローン・優先株式の結論

メザニン、劣後ローン、優先株式は、銀行融資だけでは足りない買収資金を補う、有力な選択肢です。

しかし、これらは単なる追加資金ではありません。

シニアローンより高いリスクを引き受ける資金であり、普通株式より優先的な回収を求める資金です。劣後ローンであれば、将来返済すべき債務になります。優先株式であれば、株主構成と契約上の権利が問題になります。新株予約権を付ければ、将来の希薄化や経営権への影響が生じます。

メザニンを使うべきかどうかは、次の問いに答えられるかどうかで判断すべきです。

  • その買収価格は、返済原資に照らして過大ではないか
  • シニアローンの返済後に、メザニンの回収原資は残るか
  • メザニンを入れても、買収後の運転資金・追加投資余力は残るか
  • 劣後性、支払制限、コベナンツを金融機関に説明できるか
  • 優先株式や新株予約権による株主構成への影響を理解しているか
  • 契約上の同意事項や情報提供義務を運用できるか
  • 下振れ時にも、資金繰りと関係者への説明に耐えられるか
  • 将来のリファイナンス、取得、売却、出口を説明できるか

メザニンは、買収を無理に成立させるための資金ではありません。

買収後も会社を耐えさせるために、リスクの負担順序と資本構成を調整するための資金なのです。

メザニンを含む買収資金調達を検討している方へ

銀行融資だけでは買収資金が足りない場合、メザニン、劣後ローン、優先株式は有力な選択肢になり得ます。

ただし、メザニンを入れると、資金調達は成立しても、返済順位、契約条件、株主構成、金融機関への説明、将来の出口が複雑になります。特に中小企業・非上場会社のM&Aでは、メザニンを使う前に、買収価格、必要資金、返済原資、既存借入、自己資金、シニアローン、買収後の運転資金、追加投資余力を、一体として検証することが欠かせません。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&Aを「買えるか」だけでなく、「買った後も耐えられるか」という観点から、買収資金調達、返済計画、資本構成、金融機関説明、株主構成への影響を整理する支援を行っています。

メザニン、劣後ローン、優先株式を使うべきか迷っている場合、あるいは銀行融資だけでは買収資金が不足している場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。買収を進める前に、資金調達の構造そのものが買収後の経営に耐えられるかを、一緒に確認いたします。

振り返り

論点重要な考え方
メザニンの位置づけシニアローンと普通株式の中間にある資金であり、リスク・リターンも中間に位置する
使いどころ銀行融資だけでは足りないが、普通株式の希薄化や自己資金投入を抑えたい場合に検討する
注意点資金不足の穴埋めではなく、リスクの負担順序を設計する資金として考える
劣後ローン借入であるため返済義務があるが、シニアローンに対して返済順位が劣後する
劣後ローンの利息現金利息とPIK利息を組み合わせることがあり、将来返済額の増加に注意する
優先株式株式であり、優先配当、残余財産分配、取得請求権、議決権などを設計できる
優先株式の注意点返済義務はなくても、株主構成・拒否権・出口条件・分配可能額の問題がある
新株予約権投資家に将来の株式価値上昇への参加機会を与えるが、希薄化要因となる
シニアローンとの関係債権者間協定書、関係者間合意書により、シニア貸付人の優先性を明確にする必要がある
普通株主との関係株主間契約で共同売却、売却参加、拒否権、情報提供等を整理する必要がある
金融機関説明メザニンの投資家、条件、劣後性、返済原資、シニアとの整合性を説明できることが重要
資本性借入金との違い劣後ローンすべてが、金融機関評価上の資本性借入金になるわけではない
中小M&Aでの現実性契約コスト・管理体制・投資家候補・取引規模を踏まえて慎重に判断する
最終判断メザニンを入れて買えるかではなく、買収後に返済・投資・説明責任に耐えられるかで判断する
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