銀行融資のご相談をいただくと、経営者の方から決まって出てくる言葉があります。
「担保を出せば借りられますか」 「保証人を付ければ大丈夫ですか」 「経営者保証を外すことはできますか」 「根抵当権に空きがあるはずなので、追加で借りられるのではないですか」
どれも、融資を考えるうえで欠かせない論点です。ただ、担保や保証を「融資を通すための条件」としてだけ捉えてしまうと、判断を誤りやすくなります。
担保や保証は、たしかに融資実行の場面では資金調達を後押しする要素になります。しかし同時に、将来の追加融資、事業承継、会社売却、事業再生、廃業、そして経営者個人の生活再建にまで影響する、重い契約でもあります。
とりわけ中小企業では、会社の借入に経営者個人が連帯保証しているケースが珍しくありません。会社の財務判断が、そのまま経営者個人の資産・生活・家族・承継の判断にまで及ぶことがあるのです。
この記事では、担保・保証・経営者保証を単なる契約用語として説明するのではなく、資金使途、返済原資、保全、金融機関との関係、経営者個人のリスクを整理するための実務論点として、私なりに整理してお話しします。
この記事の結論:担保・保証は「返済原資の代わり」ではない
まず、いちばん大切な点から確認させてください。
融資の本来の返済原資は、事業から生まれるキャッシュ・フローです。担保・保証は、返済不能時に備える保全手段であり、返済原資そのものではありません。
銀行融資の審査では、会社の事業内容、業績、今後の見通し、資金使途、融資形態、返済原資、保全面、他行の状況などが総合的に見られます。担保の有無だけで融資判断が始まるわけではありません。まず確認されるのは、「貸せる先かどうか」「何に使う資金か」「どう返すのか」です。
担保や保証は、金融機関から見れば「返済できなくなった場合の回収手段」です。融資審査のうえでは重要ですが、会社側から見ると、「事業が予定どおり進まなかったときに、何を差し出すことになるのか」という将来の制約でもあります。
ですから、担保・保証を整理するときは、次の順番で考える必要があります。
| 順番 | 確認すべき論点 |
|---|---|
| 1 | 資金使途は明確か |
| 2 | 返済原資は事業キャッシュ・フローで説明できるか |
| 3 | 返済期間・返済方法は資金使途と合っているか |
| 4 | 担保・保証を提供する必要性はどこにあるか |
| 5 | 提供した担保・保証が将来の追加融資、承継、再生にどう影響するか |
| 6 | 経営者保証を外す、または求められない会社に近づくために何を整えるか |
「担保を出すから貸してください」ではなく、「返済原資はこう説明できる。そのうえで、保全としてどこまで担保・保証が必要か」と考える。この順序が、後々の選択肢を守ることにつながります。
担保・保証・経営者保証の違いを整理する
はじめに、用語を分けて整理しておきましょう。
| 項目 | 内容 | 会社にとっての意味 |
|---|---|---|
| 担保 | 不動産、預金、売掛債権、在庫、機械設備などを融資の保全に差し出すこと | 会社または経営者等の資産に制約がかかる |
| 保証 | 第三者や信用保証協会などが債務の履行を補完すること | 信用力を補完するが、保証料や保証条件が発生する |
| 連帯保証 | 保証人が主債務者と連帯して返済責任を負うこと | 保証人個人の資産・生活に直接影響する |
| 経営者保証 | 経営者個人が会社借入の連帯保証人になること | 法人の資金調達が経営者個人リスクに結びつく |
| 根抵当 | 一定の極度額の範囲で継続的な取引債権を担保する不動産担保 | 将来借入や他行取引にも影響する可能性がある |
| 動産・債権担保 | 在庫、機械、売掛債権などを担保にする融資 | 資産構造を活かせるが、評価・管理・モニタリングが必要 |
ごく大づかみに言えば、担保は「モノ」による保全、保証は「ヒト」または保証機関による信用補完です。担保には物の価値で債権を保全する側面があり、保証には人の信用で回収可能性を補う側面がある、と整理できます。
この違いを理解しないまま契約してしまうと、後になって次のような問題が表面化します。
| よくある誤解 | 実際の問題 |
|---|---|
| 不動産を担保に入れれば融資は通る | 返済原資が弱ければ、担保があっても融資が難しいことがある |
| 根抵当権に空きがあれば追加借入できる | 既存プロパー融資や保証協会付き融資との優先関係で空きが使えないことがある |
| 経営者保証は形式的なもの | 返済不能時には経営者個人に保証債務の履行を求められる |
| 保証協会が保証してくれるから返さなくてよい | 代位弁済後も事業者の債務は残る |
| 無担保・無保証ならリスクがない | 返済義務は残り、資金使途や返済原資の説明責任は変わらない |
銀行が担保・保証を見る理由
金融機関は、融資を実行する際にまず「返済できるか」を見ます。ただ、将来は誰にも見通せません。売上の未達、回収の遅れ、在庫の滞留、設備投資の失敗、災害、取引先の倒産。こうした事情で、当初の計画どおりに返済できなくなることもあります。
そこで金融機関は、返済原資とは別に「保全」を確認します。保全とは、貸出先が返済できなくなったときに、別の手段で回収するための備えです。担保不動産、預金担保、有価証券担保、商業手形担保、抵当権、根抵当権、信用保証協会の保証などを含めて、金融機関は保全の状況を見ています。
ただ、ここで順番を取り違えてはいけません。
返済原資の確認 → 資金使途・返済期間・返済方法の確認 → 保全としての担保・保証の確認
担保・保証は、あくまで最後の備えです。事業から返済できる見通しが弱いのに、担保・保証だけを頼りに資金調達を進めてしまうと、会社の財務悪化が、そのまま経営者個人の資産リスクへと波及していきます。
不動産担保をどう考えるか
中小企業の銀行融資で最も典型的な担保は、不動産担保です。会社所有の土地・建物、経営者個人所有の不動産、親族所有の不動産などが対象になることがあります。
不動産担保では、主に抵当権または根抵当権が設定されます。
| 種類 | 内容 | 実務上の特徴 |
|---|---|---|
| 抵当権 | 特定の債権を担保する | その借入に対応して設定される |
| 根抵当権 | 一定の極度額の範囲内で継続的な取引債権を担保する | 銀行との継続取引で使われやすい |
企業と銀行の取引は一回限りではありません。借入、返済、借換、追加融資と続いていきます。そのため、実務では根抵当権が使われることが多くあります。根抵当では、あらかじめ極度額を設定し、その範囲内で銀行と会社の継続的な与信取引を担保します。借入や返済のたびに抵当権を設定したり抹消したりする手間がかからない、という利点があるためです。
根抵当権で注意すべき「空き枠」の誤解
根抵当権でとくに気をつけたいのが、「返済が進んだのだから空き枠があるはずだ」という誤解です。
たとえば、A銀行を権利者とする極度額5,000万円の根抵当権を設定し、当初は保証協会付き融資5,000万円を借りたとします。その後、返済が進んで残高が2,000万円になったため、経営者は「3,000万円の空きがある」と考えました。
ところが、同じA銀行からプロパー融資3,000万円を受けている場合はどうでしょうか。その根抵当権がプロパー融資にも共通担保として使われていれば、実質的な空き枠は残っていないことがあります。根抵当権が保証協会付き融資とプロパー融資をそれぞれどのように担保しているかは、銀行と保証協会との保証条件にも左右され、不動産登記簿を見るだけでは把握しづらいのです。
こうしたトラブルを避けるには、金融機関に次の点を確認しておく必要があります。
| 確認項目 | 見るべき内容 |
|---|---|
| 根抵当権の極度額 | 最大いくらまで担保されるか |
| 被担保債権の範囲 | どの借入・取引が担保対象か |
| 担保順位 | 他行や既存担保との優先順位 |
| 保証協会付き融資との関係 | 有担保保証枠か、プロパーとの共通担保か |
| 担保余力 | 金融機関評価ベースで余力があるか |
| 元本確定の必要性 | 根抵当の整理・解除を検討すべき局面か |
不動産担保は、「担保価値があるかどうか」だけでは足りません。「誰の資産か」「どの債務を担保しているか」「将来の借入余力をどの程度拘束しているか」まで把握しておく必要があります。
経営者個人の不動産を担保に入れる前に考えること
経営者個人の自宅や親族所有の不動産を担保に入れる場合は、とりわけ慎重な判断が求められます。
会社所有の不動産を担保にする場合でも慎重であるべきですが、個人資産を担保にすると、会社の事業リスクが経営者個人・家族・相続・事業承継にまで直接波及してしまいます。
| 観点 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 生活リスク | 自宅を失う可能性があるか |
| 家族合意 | 配偶者・親族所有不動産の場合、実質的な理解があるか |
| 事業承継 | 後継者が同じ担保・保証を引き継げるか |
| 再生局面 | リスケ・再生時に担保処分が必要になる可能性があるか |
| 相続 | 相続人に担保付き不動産が残る可能性があるか |
| 追加融資 | 担保余力を使い切ることで将来調達が難しくならないか |
個人資産を担保に入れるかどうかは、「今回の融資を受けられるか」だけで決められるものではありません。少なくとも、資金使途、返済原資、返済期間、投資効果、そして失敗したときの耐久力まで見極めたうえで判断したいところです。
動産・債権担保をどう考えるか
不動産担保を持たない会社でも、売掛債権、在庫、機械設備などを担保にできる場合があります。いわゆるABL、動産・債権担保融資です。
| 担保対象 | 例 | 向いている会社 |
|---|---|---|
| 売掛債権 | 売掛金、受取手形、診療報酬債権など | 回収先が明確で債権管理ができている会社 |
| 在庫 | 商品、原材料、製品、仕掛品など | 在庫回転が把握でき、滞留在庫が少ない会社 |
| 機械設備 | 工作機械、車両、製造設備など | 設備の評価・管理が可能な会社 |
| その他動産 | 農産物、畜産物、ブランド品など | 資産価値の評価が可能な事業 |
動産・債権担保融資では、融資申込時に会社概要、財務諸表、資産の状況説明書を提出します。そのうえで金融機関が売掛先や在庫の状況を確認し、担保資産の評価を行う、という流れになります。
この手法は、不動産担保に乏しい会社でも資産構造を活かせる点で有効です。一方で、次のような管理体制が求められます。
| 論点 | 実務上の注意点 |
|---|---|
| 売掛債権 | 回収サイト、滞留債権、主要取引先、二重譲渡リスクを管理する |
| 在庫 | 在庫数量、評価額、保管場所、滞留・陳腐化を管理する |
| 動産 | 所在、稼働状況、評価、処分可能性を把握する |
| 対抗要件 | 債権譲渡登記、動産譲渡登記、通知・承諾などの実務確認が必要 |
| モニタリング | 担保資産の変動を継続的に報告できる体制が必要 |
| 取引先関係 | 債権譲渡通知等が取引先に与える影響を確認する |
ABLは、「担保があるから借りやすい」という単純な話ではありません。金融機関は、担保資産の価値そのものだけでなく、その資産を会社が正確に管理できているかどうかを見ています。売掛金台帳、在庫管理、月次決算、資金繰り表が整っていない会社では、かえって説明が難しくなることもあるのです。
信用保証協会の保証と経営者保証を混同しない
「保証」という言葉には、複数の意味が含まれています。
中小企業融資でよく使われる「保証協会付き融資」は、信用保証協会が金融機関に対して保証を行う仕組みです。これに対して「経営者保証」は、経営者個人が会社の債務を保証するものです。同じ「保証」でも、意味合いは大きく異なります。
| 種類 | 誰が保証するか | 注意点 |
|---|---|---|
| 信用保証協会の保証 | 信用保証協会 | 保証料が発生し、保証審査がある |
| 経営者保証 | 経営者個人 | 経営者個人の資産・生活に影響する |
| 第三者保証 | 親族、役員、関係者など | 原則として慎重に扱うべき |
| 物的担保 | 不動産、預金、売掛債権など | 保証ではなく資産による保全 |
保証協会付き融資では、銀行と保証協会の双方の審査を受けます。信用保証協会が保証することで、プロパー融資が難しい会社でも資金調達しやすくなる一方、代位弁済が行われた後も会社の債務が消えるわけではありません。
また、保証協会付き融資で調達した資金を既存プロパー融資の返済に充てるような「旧債振替」は、資金使途違反として問題になります。保証付きの資金は、保証制度の目的に合った使い方をする必要があるのです。
連帯保証は「形式的な署名」ではない
経営者保証の多くは、連帯保証です。
連帯保証では、保証人は主債務者である会社と連帯して責任を負います。会社が返済できなくなったとき、金融機関は保証人に対して保証債務の履行を求めることができます。
保証契約については、民法上、書面等によることが必要とされています。さらに個人根保証契約については、極度額を定めなければ効力を生じないとされています。契約書に署名・押印する前に、保証範囲、極度額、対象債務、期限、解除条件、情報提供義務などを必ず確認しておきたいところです。
実務のうえでも、保証は書面が要件であり、個人根保証では極度額の定めが重要になります。この点は、改めて意識しておく必要があります。
経営者の方に確認していただきたい項目は、少なくとも次のとおりです。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 保証する債務 | 特定の借入か、継続的な取引債務か |
| 極度額 | 保証責任の上限はいくらか |
| 利息・損害金 | 元本以外にどこまで負担するか |
| 既存借入との関係 | 過去債務も保証対象になるか |
| 保証解除条件 | 返済進行、借換、財務改善時に解除交渉できるか |
| 事業承継時 | 後継者が保証を引き継ぐのか |
| 再生・廃業時 | 保証債務整理の選択肢があるか |
署名の場面では「今回だけ」「形式だけ」と感じるかもしれません。しかし、保証は将来の事業判断に、長く影響し続けます。
経営者保証とは何か
中小企業庁は、経営者保証について、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人となることだと説明しています。会社が返済できなくなった場合には、経営者個人が会社に代わって返済を求められることになります。
経営者保証には、金融機関の側から見て一定の意味があります。
| 金融機関側の目的 | 内容 |
|---|---|
| 規律付け | 経営者に責任を持って経営してもらう |
| 信用補完 | 会社単独では不足する信用力を補う |
| 不正防止 | 会社資産の不正流出や計画倒産を抑止する |
| 回収可能性 | 返済不能時の回収手段を増やす |
このように、経営者保証には経営者への規律付けや会社の信用力補完という目的がある一方で、事業承継、創業、事業再生、思い切った事業展開を阻害する弊害も指摘されています。
実務のうえでは、経営者保証は次のような場面で重くのしかかります。
| 場面 | 経営者保証の影響 |
|---|---|
| 事業承継 | 後継者が保証を引き継ぐことを嫌がる |
| 追加投資 | 経営者個人リスクを恐れて成長投資に踏み切れない |
| 再生局面 | 早期相談が遅れ、個人破産への不安が対応を遅らせる |
| 廃業判断 | 会社を畳む判断が遅れ、個人資産まで毀損する |
| M&A | 買い手・後継者との保証解除調整が必要になる |
| 家族関係 | 配偶者・親族の資産や生活設計に心理的影響を与える |
中小企業では、所有と経営が一致し、社長が株主であり、同時に銀行借入の連帯保証人にもなっている、というケースが多く見られます。そのため、会社経営が経営者個人の生活全体に影響しやすい構造になっているのです。
経営者保証ガイドラインの3要件
経営者保証を整理するうえで重要になるのが、「経営者保証に関するガイドライン」です。
中小企業庁は、このガイドラインについて、中小企業・経営者・金融機関に共通する自主的なルールであり、法的拘束力はないものの、関係者が自発的に尊重し遵守することが期待されるものだと説明しています。経営者保証を解除するかどうかの最終判断は、金融機関に委ねられます。
同じページでは、経営者保証ガイドラインの3要件として、次の事項が示されています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 法人と経営者の分離 | 資産の所有やお金のやりとりについて、法人と経営者が明確に区分・分離されている |
| 財務基盤の強化 | 法人のみの資産や収益力で返済が可能である |
| 経営の透明性 | 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている |
この3要件は、単なる形式要件ではありません。経営者保証を外すためのチェックリストであると同時に、金融機関から信頼される会社になるための、財務管理の方向性そのものでもあります。
経営者保証を外すために整えるべきこと
経営者保証を外したい場合、金融機関に「外してください」とお願いするだけでは足りません。会社の側で、保証に依存しなくても返済可能性を説明できる状態をつくっていく必要があります。
1. 法人と個人のお金を分ける
まず取り組みたいのが、法人と経営者個人の資金関係の整理です。
| 問題になりやすい項目 | 整理すべき内容 |
|---|---|
| 役員貸付金 | 社長への貸付金が残っていないか |
| 仮払金・未収入金 | 実質的な社長流出になっていないか |
| 役員借入金 | 会社が社長から借りている資金の返済方針はあるか |
| 個人資産の会社利用 | 会社資産と個人資産が混在していないか |
| 役員報酬・賞与 | 会社の収益力に対して過大でないか |
| 個人支出の会社負担 | 交際費、車両、保険、不動産費用が混在していないか |
なかでも役員貸付金は、金融機関から見て強いマイナス要素になりやすい項目です。会社が金融機関から借りた資金が、経営者個人へ流れているように見えてしまうためです。
信用保証制度でも、経営者保証を提供しないことを選択できる制度の要件として、直近決算において代表者への貸付金等がないこと、役員報酬・賞与・配当等が社会通念上相当と認められる額を超えていないことなどが掲げられています。
出典:中小企業庁|保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等を開始します
2. 会社単独で返済できる財務基盤をつくる
経営者保証を外すには、会社単独で返済できることを説明できなければなりません。
| 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 営業利益 | 本業で利益が出ているか |
| 営業キャッシュ・フロー | 利益が資金として残っているか |
| 債務償還能力 | 借入金を何年で返済できるか |
| 自己資本 | 債務超過や過小資本になっていないか |
| 手元資金 | 月商何か月分の資金余力があるか |
| 返済額 | 既存借入の年間返済額が過大でないか |
| 税金・社会保険 | 滞納がないか |
直近決算で債務超過ではないこと、または一定の収益性を満たしていることも、経営者保証なしの信用保証制度の要件に含まれています。
出典:中小企業庁|保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等を開始します
ここで大切なのは、単年度の黒字だけではないという点です。毎月の業績、資金繰り、返済負担、今後の見通しを、継続的に説明できるかどうかが問われます。
3. 財務情報を適時に開示する
金融機関から見ると、情報の少ない会社ほど不確実性が高く映ります。そして不確実性が高ければ高いほど、金融機関は担保・保証に依存したくなるものです。
反対に、月次決算、資金繰り表、事業計画、予実管理資料を継続的に提出できる会社は、金融機関との情報の非対称性を小さくしていけます。
月次決算は、経営者が数字から現状を把握するための道具であると同時に、融資申込時に金融機関へ直近業績を説明する資料にもなります。直近の月次決算書を提出できることは、銀行交渉のうえでの信頼形成にもつながっていきます。
経営者保証の解除を検討する会社は、次の資料を整えておきたいところです。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 決算書3期分 | 過去の収益力・財務体質を示す |
| 直近試算表 | 足元業績を示す |
| 月次資金繰り表 | 資金不足の時期・原因・対策を示す |
| 借入金一覧 | 既存借入、担保、保証、返済額を整理する |
| 担保一覧 | 不動産、預金、債権、動産の担保状況を整理する |
| 保証契約一覧 | 誰が、どの借入を、いくら保証しているかを整理する |
| 事業計画 | 今後の収益改善・返済原資を示す |
| 予実管理資料 | 計画と実績の差異、対策を説明する |
経営者保証なし融資は「お願い」ではなく「体制整備」の結果
近年は、経営者保証に依存しない融資慣行を広げる動きが進んでいます。
中小企業庁は、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速するため、経営者保証改革プログラムを策定しました。信用保証付融資においても、一定の要件のもと保証料率の上乗せを条件として、経営者保証を提供しないことを選択できる制度が始まっています。
出典:中小企業庁|経営者保証
出典:中小企業庁|保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等を開始します
ただし、これは「誰でも簡単に経営者保証を外せる」という意味ではありません。
金融機関は、次のような観点を見ています。
| 観点 | 見られる内容 |
|---|---|
| 法人個人の分離 | 役員貸付金、個人資産混同、私的流用がないか |
| 収益力 | 会社単独で返済できる利益・CFがあるか |
| 財務安全性 | 債務超過でないか、自己資本があるか |
| 情報開示 | 試算表、資金繰り表、計画資料を出せるか |
| 内部管理 | 経理、予算、資金管理、承認ルールが整っているか |
| 取引実績 | 返済遅延、税金滞納、説明不足がないか |
| 資金使途 | 借入資金が目的どおり使われているか |
経営者保証を外すことの本質は、保証人の信用ではなく、会社そのものの信用力を高めることにあります。
既存の経営者保証を見直すタイミング
経営者保証は、借入時に付けたまま放置されがちです。しかし、会社の財務状態や金融機関との取引関係が変われば、見直しを検討できる場合があります。
| タイミング | 見直しの観点 |
|---|---|
| 借換時 | 既存保証を外す、または保証範囲を限定できないか |
| 追加融資時 | 新規融資で保証を求めない扱いが可能か |
| 返済が進んだ時 | 保証額・担保範囲を縮小できないか |
| 業績改善時 | 会社単独の返済力を説明できるか |
| 債務超過解消時 | 財務基盤改善を根拠にできるか |
| 事業承継前 | 後継者保証への切替・解除をどう進めるか |
| 金融機関取引変更時 | メイン行・サブ行との担保保証バランスを整理する |
| 経営改善計画策定時 | 保証債務整理や再生支援と併せて検討する |
見直しにあたっては、保証契約ごとに「誰が」「どの借入を」「いくらまで」「いつまで」保証しているかを一覧化することが、最初の一歩になります。
経営者保証と事業承継
経営者保証は、事業承継の大きな障害になります。
後継者が事業を継ぎたいと考えていても、既存借入の連帯保証を求められると、承継をためらってしまうことがあります。とくに、先代経営者時代の借入や担保設定の内容が整理されていない場合、後継者は「自分がどこまで責任を負うのか」が見えません。
承継の前に整理しておきたい項目は、次のとおりです。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 借入金一覧 | 借入先、残高、返済額、金利、資金使途 |
| 担保一覧 | 担保提供者、対象資産、順位、極度額 |
| 保証一覧 | 現経営者、後継者、親族等の保証状況 |
| 役員借入金 | 先代から会社への貸付の処理方針 |
| 役員貸付金 | 会社から経営者への貸付の解消方針 |
| 個人資産の会社利用 | 土地・建物・車両・保険等の整理 |
| 事業計画 | 後継者体制での返済原資 |
承継の場面で慌てて保証を切り替えるのではなく、数年前から月次決算、資金繰り、財務改善、役員貸借の整理を進めておくことが大切です。
経営者保証と事業再生・廃業
資金繰りが悪化した局面では、経営者保証への不安から相談が遅れてしまうことがあります。
「会社が返せなくなれば、社長個人もすぐ破産するしかない」と思い込み、金融機関への説明や専門家への相談を先延ばしにしてしまう。こうしたケースは少なくありません。
しかし実際には、経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理や、個人破産以外の整理手法を検討できる場合があります。事業再生・廃業の局面では、経営者保証ガイドラインを優先的に検討することが一般的とされています。
保証債務整理では、主債務者である会社の再生・廃業の進め方、金融機関への一時停止要請、保証人の財産調査、残存資産の範囲、弁済計画、対象債権者の同意などを整理していく必要があります。
ここで何より重要なのは、資金が尽きる前に相談することです。会社に手元資金が残っている段階であれば、事業継続、私的整理、廃業、保証債務整理といった選択肢を比較できます。資金が完全に枯渇してからでは、選択肢は急速に狭まってしまいます。
担保・保証を整理するための実務資料
担保・保証・経営者保証を整理するには、まず一覧表を作るところから始めます。
借入金一覧
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 金融機関名 | 銀行、信金、公庫、保証協会付き等 |
| 借入残高 | 現在残高 |
| 当初借入額 | 実行時の金額 |
| 資金使途 | 運転資金、設備資金、借換等 |
| 返済方法 | 元金均等、期日一括、当座貸越等 |
| 毎月返済額 | 元金・利息 |
| 最終期日 | 完済予定日 |
| 金利 | 固定・変動 |
| 担保 | 不動産、預金、債権、動産等 |
| 保証 | 経営者保証、保証協会、第三者保証 |
| 備考 | 条件変更、据置、特約等 |
担保一覧
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 担保種類 | 不動産、預金、売掛債権、在庫、機械等 |
| 所有者 | 会社、経営者、親族、関係会社 |
| 担保権者 | 金融機関、保証協会等 |
| 極度額 | 根抵当権の場合 |
| 担保順位 | 第1順位、第2順位等 |
| 対象債務 | どの借入を担保しているか |
| 評価額 | 金融機関評価、固定資産税評価等 |
| 担保余力 | 追加担保として使える余地 |
| 解除条件 | 返済進行後に解除可能か |
保証一覧
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保証人 | 代表者、前代表者、後継者、親族等 |
| 保証対象 | 特定借入か、根保証か |
| 極度額 | 保証上限 |
| 契約日 | 保証契約締結日 |
| 対象金融機関 | どの金融機関か |
| 解除交渉状況 | 解除可能性、条件 |
| 承継時の扱い | 後継者保証が求められるか |
| 再生時の扱い | 保証債務整理の対象か |
この3つの一覧がないまま金融機関と交渉してしまうと、担保余力、保証範囲、借入余力を正しく判断できません。
担保・保証をめぐる典型的な失敗
1. 担保があれば融資を受けられると考える
担保価値が十分であっても、資金使途が曖昧で返済原資が弱ければ、金融機関は融資に慎重になります。担保はあくまで返済不能時の備えであって、返済原資の説明を代替するものではありません。
2. 根抵当権の空き枠を誤解する
登記簿上の極度額と借入残高だけを見て「空きがある」と判断すると、実際には他のプロパー融資や保証協会付き融資との関係で使えないことがあります。根抵当権がどの債務を担保しているかは、金融機関に確認しておく必要があります。
3. 経営者保証を当然のものとして放置する
保証を付けたまま、財務改善や情報開示に手をつけなければ、事業承継や追加投資の局面で大きな制約になります。経営者保証は、借入時だけでなく、継続的に見直すべき論点です。
4. 会社と個人のお金が混在している
役員貸付金、仮払金、個人支出の会社負担などがあると、経営者保証を外す前提が整いません。金融機関から見れば、法人と個人が分離されていない会社に映ってしまいます。
5. 担保・保証の一覧がない
借入金一覧、担保一覧、保証一覧がない会社では、金融機関交渉の前提が整いません。とくに複数行と取引している会社では、どの金融機関にどの担保・保証を提供しているかを把握しておくことが重要です。
企業価値担保権の導入で何が変わるか
2026年5月25日から、企業価値担保権が新しい資金調達の選択肢としてスタートしています。金融庁は、企業価値担保権について、不動産担保や経営者保証等に過度に依存せず、事業の将来性に着目した融資を後押しする制度だと説明しています。
また金融庁は、2026年5月25日に事業性融資の推進等に関する法律が施行され、事業の将来性に基づく融資を進める有用な選択肢として企業価値担保権が導入されると説明しています。
出典:金融庁|「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」等(案)の公表について
ただし、企業価値担保権ができたからといって、担保・保証の実務が一気に不要になるわけではありません。
むしろ、事業の将来性に基づく融資では、これまで以上に次の資料が重要になります。
| 必要な資料 | 理由 |
|---|---|
| 月次決算 | 足元業績を継続的に示すため |
| 資金繰り表 | 資金不足時期と返済可能性を示すため |
| 事業計画 | 将来キャッシュ・フローを説明するため |
| 予実管理資料 | 計画と実績の差異を説明するため |
| 事業モデル資料 | 収益構造・顧客基盤・競争優位を説明するため |
| 担保・保証一覧 | 既存の保全状況を整理するため |
不動産や経営者保証に過度に依存しない融資を受けるには、会社の事業価値、収益力、管理体制、情報開示力を説明できることが前提になります。
担保・保証・経営者保証を整理するチェックリスト
担保・保証を見直す際は、次の項目を確認してみてください。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 資金使途 | 借入ごとに運転資金、設備資金、借換等を説明できるか |
| 返済原資 | 営業CF、売掛金回収、投資効果などを説明できるか |
| 担保一覧 | 不動産、預金、債権、動産の担保状況を一覧化しているか |
| 根抵当権 | 極度額、被担保債権、空き枠、共通担保を確認しているか |
| 保証一覧 | 誰がどの債務を保証しているか把握しているか |
| 経営者保証 | 保証解除の可能性を検討しているか |
| 法人個人分離 | 役員貸付金や個人支出混在がないか |
| 財務基盤 | 債務超過、過大借入、返済負担を改善しているか |
| 情報開示 | 月次決算、試算表、資金繰り表を提出できるか |
| 承継影響 | 後継者が担保・保証を引き継げる状態か |
| 再生時対応 | 経営者保証ガイドラインの活用可能性を理解しているか |
| 専門家確認 | 契約書、担保登記、保証範囲を必要に応じて専門家に確認しているか |
このチェックリストは、融資申込時だけでなく、既存借入の見直し、事業承継、追加投資、金融機関の変更、経営改善計画の策定時にも活用できます。
まとめ:担保・保証は「融資を受けるため」だけでなく「会社の将来制約」として見る
担保・保証・経営者保証は、資金調達を可能にしてくれる一方で、将来の経営判断を制約します。
不動産担保は、将来の追加融資や資産処分に影響します。根抵当権は、空き枠や共通担保の扱いを誤解すると、資金調達計画そのものが崩れかねません。動産・債権担保は、売掛金や在庫管理の精度が問われます。連帯保証は、経営者個人の資産と生活に影響します。そして経営者保証は、事業承継、再生、廃業、成長投資の意思決定にまで影響していきます。
ですから、担保・保証を整理する出発点は、「どこまで差し出せるか」ではありません。問うべきは、次のことです。
何のために借りるのか。どう回収するのか。どう返済するのか。会社単独で返済できる財務基盤をどうつくるのか。経営者個人のリスクを、どこまで合理的に限定できるのか。
この問いに数字で答えられる会社ほど、担保・保証に過度に依存しない資金調達へと近づいていきます。
担保・保証・経営者保証の整理に不安がある場合のご相談について
担保・保証・経営者保証は、融資条件の一部であると同時に、会社と経営者個人の将来に関わる重要な財務論点です。
とくに、次のような状況では、早めに整理しておくことをおすすめします。
- 「どの借入に、どの担保・保証が付いているか分からない」
- 「根抵当権の空き枠を使えると思っているが、確信がない」
- 「経営者保証を外したいが、何を整えればよいか分からない」
- 「事業承継の前に、先代の保証や担保を整理したい」
- 「役員貸付金・役員借入金があり、金融機関からどう見られるか不安がある」
- 「設備投資や成長投資のために、個人資産を担保に入れるべきか迷っている」
- 「資金繰りが悪化し、保証債務の影響も含めて早めに相談したい」
犬飼公認会計士・税理士事務所では、担保・保証・経営者保証を、契約条件だけでなく、月次決算、資金繰り表、借入一覧、事業計画、返済原資、事業承継、経営改善といった観点から整理する支援を行っています。
担保や保証を提供する前に、また既存の担保・保証を見直したいときは、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り:担保・保証・経営者保証の重要ポイント
| 論点 | 重要ポイント |
|---|---|
| 担保・保証の本質 | 返済不能時の保全手段であり、返済原資そのものではない |
| 融資審査の順番 | 事業内容、資金使途、返済原資が先で、担保・保証はその後に検討される |
| 不動産担保 | 担保評価、順位、所有者、将来の追加融資への影響を確認する |
| 根抵当権 | 極度額、被担保債権、空き枠、共通担保の扱いを確認する |
| 動産・債権担保 | 売掛金、在庫、機械設備を担保にできるが、評価・管理・モニタリングが必要 |
| 信用保証協会の保証 | 金融機関の信用リスクを補完するが、代位弁済後も債務は残る |
| 連帯保証 | 保証人個人に重い責任が生じるため、保証範囲・極度額・解除条件を確認する |
| 経営者保証 | 会社借入が経営者個人リスクに結びつくため、承継・再生・廃業にも影響する |
| 経営者保証ガイドライン | 法人個人分離、財務基盤強化、適時適切な情報開示が重要 |
| 保証解除の前提 | 役員貸付金の解消、収益力改善、月次資料の整備、金融機関への継続開示 |
| 事業承継 | 後継者保証、先代保証、担保提供資産を早期に整理する |
| 再生・廃業 | 経営者保証ガイドラインに基づく保証債務整理を早期に検討する |
| 企業価値担保権 | 2026年5月25日開始。不動産担保や経営者保証に過度に依存しない融資を後押しする制度 |
| 実務資料 | 借入金一覧、担保一覧、保証一覧、資金繰り表、事業計画を整える |
| 経営判断 | 担保・保証は「借りるため」だけでなく、会社と経営者個人の将来制約として判断する |