資金繰りが苦しくなった会社、債務超過に陥った会社、あるいは既存借入の返済負担が重くのしかかってきた会社では、「借入金を資本に変える」「劣後ローンにする」「DDSやDESを使う」といった言葉を耳にすることがあります。
ただ、DDSやDESは、通常の銀行融資や借換とはまったく性質の異なるものです。
新たな資金を借り入れる手段ではありません。補助金のように、返済の要らない資金が入ってくるわけでもありません。通常のリスケのように、返済条件を一時的に緩めるだけの話でもないのです。
これらは、会社の貸借対照表、金融機関からの評価、株主構成、税務、会計、経営責任、そして関係者との調整にまで深く影響する、いわば「財務再構築」の手法だと考えていただくのがよいと思います。
DDS・DESを理解するうえで最も大切なのは、「債務をどう見せるか」ではありません。「過剰債務を抱えた会社が、どうすれば事業を続け、返済の見込みを取り戻せるのか」という視点です。
本稿では、DDS、DES、そして債務の資本化を、単なる用語解説としてではなく、債務超過・過剰債務・事業再生・金融機関対応・税務会計の判断軸として整理していきます。
DDS・DESは「通常の資金調達」ではなく「財務改善・再生局面の手段」である
銀行融資、制度融資、リース、私募債、資本性ローンなどは、基本的には「資金を調達する」ための手段です。
これに対してDDSやDESは、すでに存在している債務の性質そのものを変える手法だという点に、まず大きな違いがあります。
| 手法 | 何が変わるか | 新たな資金流入 | 主な目的 |
|---|---|---|---|
| 通常融資 | 借入金が増える | あり | 運転資金・設備資金の確保 |
| 借換 | 借入条件・返済期間が変わる | 場合による | 返済負担の平準化 |
| リスケ | 元金返済条件が変わる | なし | 資金繰り猶予 |
| 資本性ローン | 新たな借入だが資本類似性を持つ | あり | 財務体質補強・返済負担軽減 |
| DDS | 既存借入が劣後ローン・資本性借入金に変わる | 原則なし | 金融機関評価上の財務改善 |
| DES | 既存借入が株式・資本に変わる | 原則なし | 負債圧縮・純資産改善 |
DDSやDESは、「資金不足を埋めるための手段」というより、「過大になってしまった債務を、会社が立て直せる形に組み替えるための手段」だと言ったほうが実態に近いでしょう。
ですから、売上減少や赤字の原因を放置したまま使うものではありません。
DDSやDESを検討する段階に入ったなら、資金繰り表、実態貸借対照表、収益改善計画、金融機関別の借入一覧、担保・保証の状況、税務上の欠損金、そして株主構成まで、ひととおり整理しておく必要があります。
まず押さえるべき「債務超過」と「過剰債務」の違い
DDS・DESが議論される会社では、「債務超過」と「過剰債務」がしばしば混同されています。
債務超過とは、貸借対照表上、資産総額より負債総額が大きく、純資産がマイナスになっている状態を指します。言い換えれば、帳簿上の資産をすべて使っても、負債を返しきれない状態です。これは、金融機関からの追加融資、取引先の与信、事業承継、投資余力に大きく影響します。
一方の過剰債務は、少し見る角度が違います。会計上の純資産がプラスかマイナスかにかかわらず、現在および将来の収益力・キャッシュフローに照らして、借入金が重すぎる状態を指す言葉です。
| 区分 | 見る場所 | 判断の中心 | 典型的な問題 |
|---|---|---|---|
| 債務超過 | 貸借対照表 | 資産と負債の差額 | 純資産マイナス、信用力低下 |
| 過剰債務 | キャッシュフロー・返済能力 | 借入金を返せる収益力があるか | 返済負担過大、投資余力喪失 |
| 実質債務超過 | 時価ベースの実態B/S | 含み損益を反映した実態純資産 | 帳簿上は黒字でも実態は危険 |
| 実質資産超過 | 時価ベースの実態B/S | 含み益・実態価値を反映 | 帳簿上債務超過でも再生余地あり |
DDS・DESを検討するときは、まずこの切り分けが欠かせません。帳簿上の債務超過なのか。実態ベースで見ても債務超過なのか。あるいは債務超過ではないけれども、返済能力に対して借入が過大なのか。ここを分けて考えるところから始まります。
DDSとは何か
DDSとは、Debt Debt Swapの略で、既存の借入金を、通常の借入金よりも返済順位や返済条件が劣後する借入金へと変更する手法です。
日本語では「デット・デット・スワップ」「資本的劣後ローンへの転換」「借入金の劣後化」などと呼ばれます。
ここで押さえておきたいのは、DDSでは借入金そのものが消えるわけではない、という点です。
会計上は、原則として借入金のまま残ります。ただし、金融機関の債務者評価のうえでは、一定の条件を満たす場合に、自己資本に準じた性質を持つ借入金として評価されることがあります。
金融庁の中小・地域金融機関向け監督指針では、「資本性借入金」について、貸出条件が資本に準じた十分な資本的性質を備えた借入金として、債務者評価の場面で資本とみなして取り扱える、としています。その資本類似性は、償還条件、金利設定、劣後性といった観点から判断されます。
具体的には、償還条件については、契約時の償還期間が5年を超え、期限一括償還または同等に評価できる長期据置があること。金利設定については、業績連動型など、厳しい状況では金利負担が抑えられる仕組みがあること。劣後性については、法的破綻時の劣後性等が確保されていること。こうした点が示されています。
出典:金融庁|中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針(令和8年6月)
つまりDDSは、既存の借入を一定の要件を満たす劣後ローンに振り替えることで、金融機関から見た債務超過額や債務者区分の改善を図る手法だといえます。とはいえ、債務そのものが免除されるわけではありませんから、最終的には期日に一括弁済できるだけの財政状態へ立て直していくことが前提になります。
DDSの効果
DDSの主な効果は、次のとおりです。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 当面の返済負担を軽減できる | 元金返済を長期据置または期限一括にすることで、資金繰りに余裕を持たせる |
| 金融機関評価上の財務体質が改善し得る | 資本性が認められれば、債務者評価上は自己資本に近い扱いを受けることがある |
| 債務免除益が原則発生しにくい | 借入条件の変更であり、債務を免除するものではないため |
| 追加支援の前提になり得る | 金融機関の債務者区分が改善すれば、新規融資・協調支援の余地が生じる場合がある |
| 株主構成に影響しない | DESと異なり、株式発行を伴わない |
DDSの限界
一方で、DDSには明確な限界もあります。
まず、債務は消えません。会計上の純資産が、それで直接増えるわけでもありません。得意先や信用調査会社の目から見れば、劣後借入金であっても「借入金」と映る可能性は残ります。そして、最終返済の時点までに会社の収益力と資金繰りを回復できなければ、問題はふたたび表面化してきます。
DDSは、抜本的な再生の前段階として有効な場合がある手法です。ただ、使い方を誤れば「リスケの延長」「問題の先送り」に終わってしまいます。実行後に営業利益、EBITDA、資金繰り、債務償還年数といった数字が改善しなければ、最終的に債権放棄や法的整理へ移らざるを得ないこともあるのです。
DESとは何か
DESとは、Debt Equity Swapの略で、既存の借入金を株式に転換する手法です。
日本語では「デット・エクイティ・スワップ」「債務の株式化」「債務の資本化」と呼ばれます。
DESでは、債権者が会社に対して持っている貸付債権を現物出資し、その対価として会社が株式を発行します。その結果、会社側では借入金が減少し、資本金または資本剰余金などの純資産が増えることになります。
債務者にとっては、債務の減少と純資産の増加によって債務超過を解消させる効果があり、債務元本の返済というキャッシュフロー負担を和らげ得る手法です。債権者の側では、その地位が貸し手から株主へと変わり、取得した株式の価値回復や将来の売却を通じて回収を図っていく形になります。
DESの基本イメージ
たとえば、次のような会社を想定してみましょう。
| 区分 | DES前 |
|---|---|
| 資産 | 100 |
| 借入金 | 140 |
| 純資産 | △40 |
このうち40の借入金をDESで株式化すると、単純化すれば次のようになります。
| 区分 | DES後 |
|---|---|
| 資産 | 100 |
| 借入金 | 100 |
| 純資産 | 0 |
このように、DESは負債を純資産へ振り替えることで、帳簿上の債務超過を解消、あるいは軽減する効果を持ちます。
ただし、実務はここまで単純ではありません。債権の時価評価、株式の発行価額、債務消滅益、既存株主の希薄化、債権者が株式を保有することのリスク、税務上の欠損金の利用、会社法上の手続など、検討すべき論点は数多くあります。
DDSとDESの違い
DDSとDESは、どちらも既存債務の性質を変える手法ですが、その効果は大きく異なります。
| 項目 | DDS | DES |
|---|---|---|
| 正式な意味 | Debt Debt Swap | Debt Equity Swap |
| 変更後の性質 | 劣後ローン・資本性借入金 | 株式・資本 |
| 会計上の借入金 | 原則残る | 減少・消滅する |
| 会計上の純資産 | 原則直接は増えない | 増加する |
| 金融機関評価 | 資本性が認められれば改善し得る | 負債圧縮により改善し得る |
| 元金返済 | 期限一括返済等に変更 | 株式化部分は返済不要 |
| 利息負担 | 条件変更後も利息あり | 株式化部分の利息は消える |
| 配当負担 | なし | 利益が出れば配当論点あり |
| 株主構成 | 変わらない | 変わる |
| 経営支配 | 原則変わらない | 債権者が株主となるため影響あり |
| 税務論点 | 通常は大きくないが条件次第 | 債務消滅益・欠損金・株価評価等が重要 |
| 向く局面 | 財務評価改善・返済負担軽減 | 債務圧縮・債務超過解消 |
| 主なリスク | 返済先送りに終わる | 税務・株主構成・債権者調整が重い |
ひとことで言えば、DDSは「借入金を資本のように見てもらう」手法であり、DESは「借入金を実際に資本へ変える」手法です。
この違いを曖昧にしたまま検討を進めると、金融機関への説明、税務処理、株主対応のいずれの場面でも、大きな誤解が生じかねません。
DDSが向く会社
DDSが検討されやすいのは、たとえば次のような会社です。
| 状況 | DDSが検討される理由 |
|---|---|
| 事業自体は継続可能だが返済負担が重い | 元金返済を長期据置化することで改善期間を確保できる |
| 一時的な環境悪化で過剰債務になった | 債権放棄よりも金融機関が受け入れやすい場合がある |
| 債務超過だが収益改善の見込みがある | 資本性評価により金融機関評価を改善できる可能性がある |
| 債務免除益課税への対応が難しい | 債務免除ではないため、DESや債権放棄より税務負担が出にくい |
| 株主構成を変えたくない | 株式発行を伴わない |
もっとも、DDSは債務免除ではありませんから、会社は将来、劣後ローンを返済しなければなりません。だからこそ、資金繰りに余裕ができた期間に、営業利益、粗利率、固定費、在庫、売掛金、設備投資、採算の悪い事業といったものを、どこまで見直せるかが問われます。
DDS後も赤字が続くようであれば、結局は返済を先送りしただけ、ということになってしまいます。
DESが向く会社
DESが検討されるのは、もう一歩踏み込んだ財務再構築が必要な場面です。
| 状況 | DESが検討される理由 |
|---|---|
| 債務超過が大きく、通常の収益改善だけでは解消に時間がかかる | 負債を純資産に振り替えることで債務超過を改善できる |
| 借入金の元本返済が事業継続を圧迫している | 株式化部分について元本返済義務がなくなる |
| 債権者が再生後の株式価値回復を見込める | 債権者が株主として将来回収を図る余地がある |
| スポンサーや親会社が再生に関与する | 債務の株式化と資本再構築を組み合わせやすい |
| 役員借入金・同族関係者借入金の整理が必要 | 債務免除、DES、疑似DES等の比較対象になる |
ただ実際には、中小企業ではDESが使いにくいことも多い、というのが正直なところです。
中小企業の株式には、通常、自由に売却できる市場がありません。金融機関がDESによって株式を取得したとしても、それを将来どう回収するのかが問題として残ります。債権者が株主になることで、経営への関与、議決権、株主間の関係、そして出口戦略をどう描くかも、避けて通れない論点になります。実際の再生実務に照らしても、DESは有利子負債を圧縮できる一方で、中小企業では株式の売却が難しく、取り組みにくい手法だといえます。
「債務の資本化」は何を意味するのか
「債務の資本化」という言葉は、実務上、かなり広い意味で使われています。
| 用語 | 実務上の意味 | 会計・金融上の注意点 |
|---|---|---|
| DES | 借入金を株式に変える | 会計上も負債が減り、純資産が増える |
| DDS | 借入金を資本性劣後ローンに変える | 会計上は借入金だが、金融機関評価上資本類似性を持ち得る |
| 資本性ローン | 新たに資本性のある借入を受ける | 借入金だが、条件により自己資本に準じて評価され得る |
| 役員借入金の資本組入れ | 経営者からの貸付を出資に変える | 相続税・贈与税・株価評価・会社法手続が重要 |
| 疑似DES | 金銭出資と借入返済を組み合わせる | 現物出資DESとは税務・会社法上の論点が異なる |
経営者として大切なのは、「資本化」という言葉だけで判断しないことです。
会計上の純資産が増えるのか。金融機関評価のうえでだけ資本性が認められるのか。返済義務が残るのか。株主構成は変わるのか。債務消滅益は出るのか。経営者保証や役員借入金には影響しないのか。
こうした違いをひとつずつ整理しておかなければなりません。
DESの会社法上の基本論点
DESは、実務上、債権を現物出資して株式を発行する形で行われることが多くなります。
会社法上、募集株式の発行等において金銭以外の財産を出資する場合には、現物出資財産に関する募集事項を定め、原則として検査役調査の要否を検討する必要があります。また、募集株式の引受人は、現物出資財産を給付する者に限り、それぞれの募集株式の払込金額の全額に相当する現物出資財産を給付しなければなりません。つまり、募集株式の払込債務と会社に対する債権とを、単純に相殺するということはできない仕組みになっています。
ですからDESは、「借入金と株式を相殺するだけ」といった簡単な処理ではありません。
実務上は、少なくとも次の論点を確認しておく必要があります。
| 論点 | 確認事項 |
|---|---|
| 募集株式発行手続 | 株主総会・取締役会決議、募集事項、払込期日、登記 |
| 現物出資財産 | 対象債権の内容、金額、時価、回収可能性 |
| 検査役調査 | 会社法上の検査役調査の要否と例外要件 |
| 既存株主 | 希薄化、議決権割合、同族株主間の利益移転 |
| 種類株式 | 普通株式か、優先株式か、議決権制限株式か |
| 債権者の出口 | 取得株式の将来売却、償還条項、スポンサーへの譲渡 |
| 登記・契約 | 増資登記、債権現物出資契約、株主間契約等 |
中小企業の場合は、株主総会の手続や登記だけにとどまりません。既存株主、親族、金融機関、保証人、後継者といった関係者の利害をどう調整するかが、しばしば重い課題になります。
DESの税務上の重要論点
DESで最も注意を要するのが、債務消滅益です。
税務上、DESが非適格現物出資に該当する場合には、会社側で、消滅する債務の額と現物出資された債権の税務上の時価との差額について、債務消滅益が生じる可能性があります。
国税庁は、企業再生税制の適用場面でDESが行われた場合の債権等の評価について、照会に係る事実関係を前提とする限り、照会者の見解のとおりで差し支えない旨を回答しています。ただし、その回答はあくまで一般的なものであり、個々の納税者の具体的な取引等に適用する場合には、異なる課税関係が生じることがある旨も、あわせて明記されています。
出典:国税庁|企業再生税制適用場面においてDESが行われた場合の債権等の評価に係る税務上の取扱いについて
また、法人税基本通達の趣旨説明では、平成18年度税制改正により、会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入制度の対象に、DESに伴う債務消滅益が追加されたことが示されています。
出典:国税庁|会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金
実務的には、次のような整理が必要になります。
| 税務論点 | 内容 |
|---|---|
| 債務消滅益 | 債務額と現物出資債権の時価との差額が益金となる可能性 |
| 期限切れ欠損金 | 一定の企業再生税制の要件を満たす場合、債務消滅益等との関係で利用できる余地 |
| 債権者側の損失 | 合理的な再建計画に基づくかどうかで寄附金・貸倒損失等の判断が変わる |
| 株式評価 | 取得株式の時価、既存株主への利益移転、同族会社株式評価 |
| みなし贈与 | オーナー貸付金や同族関係者間DESでは、既存株主への利益移転が問題になり得る |
| 外形標準課税・均等割等 | 資本金等の額が変動する場合、地方税への影響確認が必要 |
| 消費税 | 債権現物出資そのものの課税関係を個別確認 |
| 繰越欠損金 | 青色欠損金、期限切れ欠損金、当期損失の利用順序を確認 |
DESについては、債務消滅益が発生する一方で、一定の場合には期限切れ欠損金を利用できる余地があります。ただし、その前提は、制度の要件、再生計画の合理性、資産評定、関係者の合意などによって変わってきます。
「欠損金があるのだから、DESをしても税金は出ない」と安易に結論づけるのは危険です。欠損金の種類、使用制限、グループ法人税制、資本金等の額、過去の申告状況、同族関係、株主構成。これらをひととおり確認したうえで判断する必要があります。
DDSの税務上の注意点
DDSは、DESと違って、通常は借入条件の変更にとどまります。
そのため、借入金額そのものに変更がなければ、債務消滅益は通常発生しません。もっとも、条件変更の内容があまりに極端で、実質的に債務免除と評価されるような場合には、税務上の問題が生じる可能性があります。
DDSでは、次の点を確認しておきます。
| 税務・会計論点 | 確認事項 |
|---|---|
| 債務免除益 | 原則発生しないが、実質免除と評価される条件かどうか |
| 支払利息 | 金利条件変更後の損金性、未払利息の取扱い |
| 劣後ローン表示 | 会計上の借入金表示、注記、金融機関説明 |
| 資本性評価 | 金融機関評価上の資本性と会計上の負債表示の違い |
| 満期一括返済 | 将来返済原資の確保 |
| 関係者説明 | 他の金融機関、保証協会、取引先への見え方 |
DDSは税務負担を抑えやすい反面、債務そのものは残ります。ですから、税務上の扱い以上に問われるのは、「返済を猶予された期間に、会社がどこまで収益力を取り戻せるか」という、より本質的な問いだといえます。
役員借入金・同族会社でのDESは特に慎重に考える
中小企業では、金融機関からの借入だけでなく、役員借入金が多額に残っているケースが少なくありません。
経営者が会社へ資金を入れ続けてきた結果、貸借対照表に「役員借入金」が積み上がっていく。これは、会社から見れば負債ですが、経営者個人から見れば貸付金にあたります。
役員借入金の整理手法としては、次のようなものがあります。
| 手法 | 内容 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 通常返済 | 会社が経営者へ返済 | 資金繰り負担が大きい |
| 債権放棄 | 経営者が会社への貸付金を放棄 | 会社側の債務免除益、株価上昇、みなし贈与 |
| DES | 役員借入金を株式化 | 株価評価、既存株主への利益移転、相続税・贈与税 |
| 疑似DES | 金銭出資と返済を組み合わせる | 見せ金、資金移動の実態、税務上の経済合理性 |
| 役員報酬減額による返済 | 報酬を下げて返済原資を作る | 時間がかかる |
| 退職金との相殺 | 退職時に役員借入金と精算 | 退職金の適正額、資金繰り、税務 |
同族会社では、債務免除やDESによって会社の株式価値が上がり、既存株主へ経済的利益が移転することがあります。その場合には、みなし贈与課税が問題になり得ます。オーナー貸付金の整理にあたっては、DES、疑似DES、債権放棄、徐々に精算していく方法などが検討の対象になりますが、税務上の留意点は非常に多く、個別の判断が欠かせません。
特に、次のような会社では慎重な設計が求められます。
| 状況 | 注意点 |
|---|---|
| 複数の親族株主がいる | 一部株主への利益移転、贈与税リスク |
| 後継者が決まっていない | 株主構成の変更が承継トラブルにつながる |
| 債務超過だが将来黒字化見込みがある | DES実行時期と株価評価が重要 |
| 相続が近い | 貸付金評価、株式評価、相続税への影響 |
| 金融機関借入と役員借入が混在 | 金融機関から見た経営者責任・劣後性 |
| 経営者保証がある | 会社債務と個人リスクを一体で整理する必要 |
役員借入金のDESは、財務改善という一面だけを見れば有効に映ります。しかし実際には、税務・相続・会社法・親族関係を同時に見渡しながら設計しなければならない、奥行きのあるテーマです。
DDS・DESを検討する前に必要な財務DD
DDSやDESは、関係者が「この会社は再生可能か」「どの程度の金融支援が合理的か」を判断するための手法です。だからこそ、実行前の財務DD・事業DDが重要になります。
財務DDでは、会社の財政状態、経営成績、資金繰りを調査し、正常収益力、実態純資産、窮境原因を把握していきます。具体的には、PL・BS・キャッシュフローの過去推移、債務償還年数、借入金、不動産、税務状況などを確認します。
実行前に確認すべき資料
| 資料 | 確認すること |
|---|---|
| 直近3期分の決算書 | 売上、粗利、営業利益、借入残高、純資産 |
| 直近試算表 | 足元の業績、赤字拡大の有無 |
| 月次推移表 | 売上・利益・固定費の変化 |
| 資金繰り表 | 資金不足の時期、金額、原因 |
| 借入金一覧 | 金融機関別残高、返済額、金利、担保保証 |
| 担保一覧 | 不動産、預金、売掛債権、在庫、保証協会 |
| 保証一覧 | 経営者保証、第三者保証、保証協会 |
| 実態B/S | 含み損益、不良在庫、不良債権、遊休資産 |
| 事業計画 | 売上回復、粗利改善、固定費削減、投資計画 |
| 税務資料 | 繰越欠損金、期限切れ欠損金、別表五(一)、役員借入金 |
| 株主名簿 | 希薄化、議決権、同族関係、相続承継 |
| 事業別損益 | 不採算事業、撤退対象、成長領域 |
これらが整理されていない状態でDDS・DESを検討しても、金融機関や専門家との議論はなかなか前に進みません。
金融機関はDDS・DESの何を見ているか
金融機関にとって、DDSやDESは、通常の融資判断よりもずっと重い判断です。
金融機関は、単に「債務超過が消えるかどうか」を見ているわけではありません。金融支援に応じる合理性を説明できるか。他の金融機関との公平性が保たれているか。経営者責任が整理されているか。そして、再生計画に実現可能性があるか。こうした点を、丁寧に見ています。
| 金融機関の視点 | 確認されること |
|---|---|
| 再生可能性 | 本業の利益が回復する見込みがあるか |
| 窮境原因 | なぜ資金繰りが悪化したのか |
| 改善策 | 原価、固定費、在庫、売掛金、不採算事業に手を打つか |
| 経済合理性 | 清算より再生の方が回収額が大きいか |
| 公平性 | 他行・保証協会・経営者・株主との負担が公平か |
| 経営者責任 | 役員報酬、退任、私財提供、役員借入金の扱い |
| 株主責任 | 既存株主が責任を負う設計になっているか |
| 税務実行可能性 | 債務消滅益課税に耐えられるか |
| モニタリング | 実行後に月次報告・計画修正ができるか |
事業再生の局面では、金融支援の手法そのもの以上に、関係者が納得できる計画であるかどうかが問われます。私的整理で債権放棄を要請する場合には手続の透明性が欠かせず、中小企業活性化協議会や「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」でも、その透明性が重視されています。
なお金融庁は、2026年3月16日に「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」及びQ&Aの一部改定を公表しました。そこでは、早期事業再生、事業承継・M&Aの重要性、平時からの中小企業者・金融機関間のコミュニケーションの重要性、実務上の取扱いの明確化などが示されています。
出典:金融庁|『中小企業の事業再生等に関するガイドライン』及びQ&Aの一部改定について
DDS・DESと中小企業の事業再生等に関するガイドライン
中小企業の事業再生は、単独の金融機関との交渉だけで片づくことは、むしろ少ないものです。
複数の金融機関、信用保証協会、政府系金融機関、リース会社、取引先、経営者保証人、株主——これだけ多くの関係者が絡んでくるためです。
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は、2022年に公表され、同年4月15日に適用が開始された、中小企業向けの事業再生・廃業に関するガイドラインです。第一部で目的を、第二部で基本的な考え方を、第三部で私的整理手続を示しており、再生型手続と廃業型手続の双方が定められています。
金融庁の公表ページには、2024年1月17日の改定、2026年3月16日の一部改定、そして活用実績などが掲載されています。
出典:金融庁|『中小企業の事業再生等に関するガイドライン』について
DDSやDESを検討する場面でも、こうした準則型私的整理手続や中小企業活性化協議会の関与を含めて、透明性、公平性、関係者の合意を確保していくことが大切になります。
DDS・DESを「使うべきか」を判断する8つの軸
DDS・DESは高度な手法ですが、判断軸まで複雑にする必要はありません。経営者としては、次の8つを順番に確認していけば十分です。
1. 資金不足の原因は何か
赤字なのか。売掛金の回収が遅いのか。在庫が重いのか。設備投資が過大だったのか。借入返済が重いのか。役員貸付金や不明勘定があるのか。
原因がわからないままDDS・DESを使っても、問題は再発します。
2. 本業は再生可能か
金融機関は、財務手法そのものではなく、事業の再生可能性を見ています。
- 粗利率は改善できるか
- 固定費は削減できるか
- 不採算取引は整理できるか
- 値上げは可能か
- 撤退すべき事業はあるか
- 設備や人材への追加投資は必要か
- 営業キャッシュフローは黒字化するか
本業が改善しない会社にDDSやDESを入れても、財務改善は一時的なものにとどまります。
3. 債務超過額と過剰債務額はいくらか
帳簿上の債務超過額だけでなく、実態B/Sで見た債務超過額を計算します。
不良在庫、不良債権、遊休資産、土地の含み損益、投資有価証券、役員貸付金、未払税金、社会保険料の滞納、保証債務。こうしたものを反映させていきます。
DDSやDESの対象金額は、感覚で決められるものではありません。
4. DDSで足りるのか、DESまで必要か
DDSは債務を残します。DESは債務を資本に変えます。
| 判断 | 適した方向性 |
|---|---|
| 一時的な返済猶予で回復可能 | リスケ・借換・DDS |
| 財務評価を補強すれば追加融資が見込める | DDS・資本性ローン |
| 債務超過が大きく、返済能力を超えている | DES・債権放棄・第二会社方式 |
| 株主責任を明確化する必要がある | DES・減資・スポンサー支援 |
| 事業価値より債務が大きい | 債権放棄・私的整理・法的整理の検討 |
5. 税務上の負担に耐えられるか
DESや債権放棄では、債務消滅益・債務免除益が発生する可能性があります。
繰越欠損金や期限切れ欠損金で吸収できるのか。企業再生税制の要件を満たすのか。法人税・地方税・消費税・外形標準課税・株主課税に影響しないのか。役員借入金であれば、贈与税・相続税の論点はないのか。
税務対応を誤れば、財務改善のための手法が、かえって新たな税負担を生んでしまいます。
6. 株主構成・経営権への影響を許容できるか
DESでは、債権者が株主になります。その結果、既存株主の持株比率は低下します。
債権者が議決権を持てば、経営方針、配当、役員の選任、M&A、事業承継にまで影響が及びます。必要に応じて、種類株式、議決権制限株式、取得条項付株式、株主間契約などの検討が求められます。
7. 金融機関が説明できる計画になっているか
金融機関の側も、DDSやDESに応じるには、組織内部での説明が必要です。
「この会社を支援する合理性がある」「清算よりも回収額が大きい」「経営者責任・株主責任が整理されている」「再生計画に実現可能性がある」「実行後もモニタリングできる」——こうした説明が成り立たなければ、金融機関は踏み込んだ支援に応じにくくなります。
8. 実行後の管理体制があるか
DDS・DESは、実行して終わり、というものではありません。
実行後に必要になるのは、月次決算、資金繰り表、予実管理、金融機関への報告、KPI管理です。特に、DDSでは将来の一括返済が、DESでは株主となった債権者への説明が、それぞれ残ります。実行後の管理体制がない会社では、せっかくの財務再構築の効果を維持できません。
DDS・DESでよくある誤解
誤解1:DDSをすれば債務超過が解消する
DDSは、会計上の借入金を原則として消すものではありません。あくまで、金融機関評価のうえで資本性が認められる可能性がある、という話です。
帳簿上の純資産そのものを改善したいのであれば、DES、増資、債権放棄、利益の蓄積といった別の手段を検討する必要があります。
誤解2:DESをすれば税金なしで債務が消える
DESでは、債務消滅益が発生する可能性があります。期限切れ欠損金を利用できる余地がある場合でも、制度の要件や再生計画の内容によって扱いは変わります。
税務確認を経ないDESは危険です。
誤解3:DESは債権放棄より金融機関が受け入れやすい
必ずしも、そうとは言えません。
金融機関が株式を持っても、非上場中小企業の株式は売却しにくく、回収手段は限られます。債権者が株主になれば、管理上の負担も増えていきます。
誤解4:役員借入金をDESすれば相続対策になる
役員借入金のDESには、相続税・贈与税・株価評価・親族間の利益移転といった論点がついて回ります。相続対策だけを目的に財務処理を行うと、税務リスクや親族間の紛争を招く可能性があります。
誤解5:金融機関に頼めばDDS・DESを提案してくれる
DDS・DESは、金融機関の側にとっても高度な判断です。会社側が、実態財務、改善計画、資金繰り、関係者調整、税務対応を整理して説明できなければ、具体的な検討にはなかなか進みません。
DDS・DESを検討する前のチェックリスト
| チェック項目 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 資金不足の原因 | 赤字、運転資本、設備投資、返済負担、資産固定化を分類したか |
| 実態B/S | 含み損益、不良資産、役員貸付金、未払税金を反映したか |
| 債務超過額 | 帳簿上と実態上の両方を把握したか |
| 過剰債務額 | 営業CFで返済可能な借入水準を試算したか |
| 金融機関別残高 | メイン行、サブ行、公庫、保証協会付き融資を整理したか |
| 担保・保証 | 不動産担保、保証協会、経営者保証、第三者保証を整理したか |
| 税務上の欠損金 | 青色欠損金、期限切れ欠損金、当期損失の利用可能性を確認したか |
| 株主構成 | DES後の持株比率、議決権、同族関係を確認したか |
| 経営者責任 | 役員報酬、私財提供、役員借入金、退任・続投の整理をしたか |
| 事業計画 | 売上、粗利、固定費、営業CF、設備投資、返済計画を作成したか |
| 税務・会計処理 | 債務消滅益、現物出資、資本金等の額、注記を確認したか |
| 会社法手続 | 募集株式発行、現物出資、検査役、登記を確認したか |
| 関係者調整 | 金融機関、保証協会、株主、保証人、専門家の役割を整理したか |
| モニタリング | 実行後の月次報告、差異分析、改善策を運用できるか |
この表の空欄が多い会社は、DDS・DESの検討に入る前に、まず財務と事業の現状整理を優先すべきだといえます。
DDS・DESは「財務テクニック」ではなく「再生計画の一部」である
DDSやDESは、貸借対照表の見た目を整えるためのテクニックではありません。
その本質は、事業を続けられる会社へと戻すことにあります。
過剰債務のために、設備投資ができない。人材を採用できない。賃上げに踏み切れない。金融機関から新規融資を受けられない。資金繰りに追われて、肝心の経営改善に集中できない。
こうした状態から抜け出すために、既存債務の性質を変え、時間を確保し、財務基盤を立て直す。それがDDS・DESの役割です。
ただし、財務手法だけで会社が再生することはありません。営業利益が改善しなければ、DDSは返済猶予の延長に終わってしまいます。事業価値が回復しなければ、DESで株式化しても、債権者の回収可能性が高まることはありません。
DDS・DESを検討するのであれば、少なくとも次の問いに答えられる必要があります。
- なぜ過剰債務になったのか
- どの事業を残し、どの事業を縮小・撤退するのか
- どの金融機関に、どの程度の金融支援を求めるのか
- DDSで足りるのか、DESや債権放棄まで必要なのか
- 税務上の債務消滅益・債務免除益に対応できるのか
- 経営者責任、株主責任、保証責任をどう整理するのか
- 実行後、月次で計画を管理できるのか
これらを整理して初めて、DDS・DESは財務改善の有効な選択肢になります。
DDS・DES・債務の資本化を検討している方へ
DDS・DESは、一般的な資金調達手段ではなく、債務超過・過剰債務・事業再生の局面で検討される、高度な財務再構築手法です。
制度や用語を知っているだけでは、十分とはいえません。実態貸借対照表、資金繰り表、借入金一覧、税務上の欠損金、株主構成、経営者保証、再生計画、そして金融機関の見方。これらをひとつにつなげて判断していく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次試算表、資金繰り表、借入金一覧、実態B/S、事業計画をもとに、DDS・DES・資本性ローン・債権放棄・リスケ・借換などを比較し、自社にとって現実的な財務改善の方向性を整理します。
「債務超過をどう改善すべきか分からない」「DDSやDESを金融機関から提案されたが、その意味を理解したい」「役員借入金の整理を検討している」「再生計画や金融機関への説明資料を整えたい」——こうしたお悩みがありましたら、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
重要事項の振り返り
| 論点 | 要点 | 注意点 |
|---|---|---|
| DDS | 既存借入を劣後ローン・資本性借入金に変更する手法 | 借入金は消えず、会計上の純資産が直接増えるわけではない |
| DES | 既存借入を株式化する手法 | 負債が減り純資産が増えるが、株主構成・税務・会社法手続が重い |
| 債務超過 | 資産総額より負債総額が大きい状態 | 帳簿上だけでなく実態B/Sで確認する |
| 過剰債務 | 収益力・営業CFに対して借入が重すぎる状態 | 債務超過でなくても過剰債務は起こる |
| DDSの効果 | 返済負担軽減、金融機関評価改善、債務者区分改善の可能性 | 問題の先送りに終わるリスクがある |
| DESの効果 | 債務圧縮、純資産改善、返済負担軽減 | 債務消滅益、株主希薄化、債権者の出口が問題 |
| 税務 | DESでは債務消滅益、債権放棄では債務免除益が問題になる | 欠損金があっても要件確認が必要 |
| 会社法 | DESは現物出資・募集株式発行の手続が関係する | 単純な相殺処理ではない |
| 役員借入金 | DES・債権放棄・疑似DES等が検討対象 | 贈与税・相続税・同族株主間の利益移転に注意 |
| 金融機関対応 | 経済合理性、公平性、透明性、再生可能性が見られる | 手法だけでなく計画の実現可能性が重要 |
| 事業再生ガイドライン | 中小企業向けの私的整理手続・基本的考え方を示す | 第三者支援専門家、関係者合意、モニタリングが重要 |
| 判断の核心 | DDS・DESは財務テクニックではなく再生計画の一部 | 本業改善と資金繰り管理がなければ効果は続かない |