スタートアップの資金調達は借入と出資をどう使い分けるか|デット・エクイティ・資本政策の判断軸

スタートアップの資金調達というと、多くの方が「借入と出資、どちらがよいのか」という問いから入ろうとします。けれども、最初に整理すべきはそこではありません。

順序として、まず立ち止まって考えていただきたいのは、次のような問いです。

最初に整理すべき問い確認すべき内容
何のための資金か開発、人材採用、広告、在庫、設備、運転資金、海外展開など
いつまでに必要か今すぐ必要か、数か月後か、次の資金調達ラウンドまでか
どの程度の不確実性があるか売上見込み、PMF、技術開発、規制、競合、顧客獲得の確度
返済原資があるか営業キャッシュフロー、売掛金回収、契約済売上、補助金入金など
どれくらい成長速度を求めるか着実な成長か、赤字先行で市場獲得を狙うか
将来の出口をどう考えるかIPO、M&A、長期独立経営、事業会社との提携など
創業者の支配権をどう守るか持株比率、希薄化、種類株式、投資家権利、ストックオプション

借入と出資は、どちらが優れているかという話ではありません。そもそも資金の性質が異なるものだと考えています。

借入は、返済期限と利息のある資金です。返済原資が見えている資金需要に向いています。

出資は、原則として返済期限のない資金です。不確実性が高く、将来の大きな成長を狙う資金需要に向いています。

ただし、出資は「返さなくてよい資金」で話が終わるわけではありません。株主が増え、持株比率が薄まり、投資家への説明責任、出口戦略、投資契約、ガバナンスといった課題が新たに生まれます。

逆に借入は「株を渡さずに済む資金」ではありますが、返済負担や経営者保証、資金繰りの制約が、将来の成長投資を圧迫してしまうことがあります。

結局のところスタートアップの資金調達では、デットとエクイティを、資金使途・リスク・時間軸・返済原資・資本政策という複数の軸で使い分けていくことが肝心になります。

目次

スタートアップは、一般的な中小企業と資金調達の前提が違う

最初に、「スタートアップ」と「一般的な創業・中小企業」は分けて考える必要があります。

一般的な創業・中小企業の場合、店舗や設備、人件費、仕入、広告費などにお金を使い、比較的早い段階で売上と利益を作っていきます。そして、その営業キャッシュフローで借入を返済していく。これが中心的なモデルです。

これに対してスタートアップは、次のような特徴を持つことが多いといえます。

スタートアップの特徴資金調達への影響
新しい技術・事業モデルを前提にする事業リスクが高く、既存実績だけでは評価しにくい
赤字先行になりやすい借入返済原資が初期段階では弱い
研究開発・プロダクト開発が先行する売上化まで時間がかかる
人材採用・広告投資を先行させる固定費とバーンレートが高まりやすい
市場獲得を急ぐ成長資金が大きくなりやすい
IPO・M&Aなど出口戦略を意識する出資者のリターン設計が必要になる
事業計画の不確実性が高い計画と実績の差異管理が重要になる

スタートアップは、成長のスピードが速く、新しい技術やイノベーションを重視し、IPOやバイアウトといった出口戦略を意識する企業として整理されることがあります。

加えて、創業間もないベンチャー企業は担保や信用が不足しがちで、事業リスクも高いため、銀行融資だけでは十分な資金をまかなえない場面が出てきます。そうした局面では、ベンチャーキャピタルなどからの資本導入が、重要な選択肢として浮かび上がってきます。

この違いを無視して、すべての資金需要を銀行融資でまかなおうとすると、どうなるか。返済負担が先に来てしまい、肝心の成長投資が止まります。かといって、すべてを出資でまかなおうとすれば、創業者の持株比率が早い段階で下がり、将来の資本政策が苦しくなります。

借入と出資の本質的な違い

借入と出資の違いは、「返済があるかないか」だけではありません。

資金提供者が何を見ているか、会社に何が残るのか、経営者がどんな責任を背負うのか。これらがそれぞれ異なります。

比較項目借入・デット出資・エクイティ
資金の性質返済義務のある資金原則として返済義務のない資金
資金提供者銀行、公庫、信用金庫、保証協会付き融資などVC、CVC、エンジェル、事業会社、ファンドなど
重視される論点返済原資、資金使途、財務状況、担保・保証、既存借入成長可能性、市場規模、競争優位、チーム、出口戦略
コスト利息、保証料、担保・保証、財務制約持株比率の希薄化、投資家権利、ガバナンス、出口圧力
向く資金使途返済原資が比較的見える運転資金・設備資金不確実性が高い開発資金・成長資金
失敗時の影響返済負担が残る。保証があれば個人リスクもある株式価値が下がる。投資家との関係悪化や資本政策の制約が残る
成長時の影響株式を渡さず利益を享受できる企業価値上昇を投資家と分け合う
説明資料資金繰り表、試算表、返済計画、借入一覧事業計画、資本政策表、KPI、投資家向け資料、投資契約

銀行融資の審査では、債務者の評価、融資案件の事情、資金使途や融資形態、返済原資、保全、他行の状況、資金調達の余力などが確認されます。つまり借入では、「この会社は、借りた資金を事業に使い、約定どおりに返せるのか」が中心の論点になるわけです。

一方、ベンチャー投資の場合、投資家は株式の売却によってリターンを得ることを想定しています。投資先が上場やM&A、あるいは他の投資家への売却によって資金を回収できるか。言い換えれば、出口戦略が重要になります。

このように、借入と出資では、説明すべき相手も、説明すべき数字も違ってきます。

借入が向くスタートアップ資金とは

スタートアップであっても、借入を使うべき場面はあります。

ただ、借入が向くのは、基本的に返済原資がある程度見えている資金需要だと考えています。

借入が向きやすい資金需要理由
受注済・契約済案件に対応する運転資金入金予定が返済原資になりやすい
売掛金回収までのつなぎ資金回収時期と返済時期を合わせやすい
補助金・助成金入金までの立替資金採択・交付決定・実績報告後の入金が見込める場合がある
設備・什器・車両など資産性のある投資投資対象と返済期間を対応させやすい
既存事業で黒字化している会社の追加運転資金営業キャッシュフローを返済原資にしやすい
ARRや継続課金が積み上がっている事業の成長資金収益の継続性を説明しやすい
出資後の資本増強を前提とした成長資金自己資本が厚くなり、借入余力が改善する場合がある

たとえば、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新たに事業を始める方や、事業開始後おおむね7年以内の方を対象としています。事業開始後に必要となる設備資金・運転資金も対象とされています。利用の可否や条件は個別の審査によりますが、創業・スタートアップの段階でも、公的金融を検討できる場面はあるということです。

出典:日本政策金融公庫|新規開業・スタートアップ支援資金

また、一定のVC出資などを受けている、あるいはJ-Startupプログラムなどに選定されたスタートアップを対象とする「スタートアップ支援資金」も、日本政策金融公庫に設けられています。これはエクイティ調達と公的金融を組み合わせる設計として理解できるものです。

出典:日本政策金融公庫|スタートアップ支援資金

信用保証協会でも、創業関連保証やスタートアップ創出促進保証制度など、創業期・創業後間もない方に向けた保証制度が案内されています。なかでもスタートアップ創出促進保証制度は、一定の保証料率の上乗せによって、経営者が会社の連帯保証人になる必要のない制度として紹介されています。

出典:一般社団法人全国信用保証協会連合会|創業をお考えの方

ただ、制度があることと、自社が借入で調達すべきかどうかは別の話です。

借入を検討する際には、次の問いに一つずつ答えていく必要があります。

借入前の確認事項確認すべき内容
返済原資は何か売上入金、粗利、営業キャッシュフロー、補助金入金など
返済開始時期は妥当か据置期間終了後に資金繰りが回るか
借入期間は使途と合うか短期資金か長期資金か、設備投資か運転資金か
既存借入との関係はどうか毎月返済額、借入残高、保証枠、担保余力
成長投資を妨げないか返済負担が採用・開発・広告を圧迫しないか
保証リスクはどこまであるか経営者保証、担保、連帯保証の有無
追加調達に影響しないか次回出資・次回融資の審査で不利にならないか

借入は、株式を渡さずに資金を確保できる、たいへん強力な手段です。

しかし、返済原資がない段階で借入を増やしてしまうと、将来の資金繰りをそのまま固定費として抱え込むことになります。ここは慎重に見ておきたいところです。

出資が向くスタートアップ資金とは

出資が向くのは、失敗の可能性は高いものの、成功したときの成長余地が大きい資金需要です。

とりわけ、次のような場面では、借入よりも出資が適していることがあります。

出資が向きやすい資金需要理由
研究開発・プロダクト開発売上化まで時間がかかり、返済原資がまだ弱い
PMF前の検証資金顧客反応や市場性を検証する段階では不確実性が高い
赤字先行の採用・組織拡大人件費が先行し、利益化まで時間がかかる
広告・マーケティング投資CAC、LTV、回収期間の検証が必要
海外展開・新規市場開拓市場不確実性が高く、初期損失が出やすい
ネットワーク効果を狙う事業先行投資で市場シェアを取りに行く必要がある
IPO・M&Aを想定する高成長事業投資家が出口でリターンを得る設計と相性がある

イノベーティブなことに挑むベンチャーの資金調達は、基本的に株式である、という考え方があります。その背景には、ベンチャーはリスクが高く、失敗したときに担保となる資産が残らないことも多いため、銀行借入だけを前提にしにくいという事情があります。

出資の強みは、なんといっても返済期限がないことです。赤字先行であっても、投資家が成長可能性を評価してくれれば、資金を受けられる可能性があります。

その一方で、出資には次のような制約がついて回ります。

出資で生じる制約内容
希薄化創業者の持株比率が下がる
支配権への影響議決権、拒否権、取締役派遣などが論点になる
投資家対応定期報告、KPI管理、予実説明が必要になる
出口圧力IPO・M&A・株式売却の可能性を求められる
投資契約優先株式、みなし清算条項、先買権、共同売却権などが論点になる
将来ラウンドへの影響早期に高い評価額で調達しすぎると次回調達が難しくなる
ストックオプション枠採用・インセンティブ設計にも影響する

ベンチャーでは、資本政策でつまずく例が少なくありません。資本政策をどう策定するかは、それだけ重要な論点です。また投資家は、株主として会社経営に関わる「仲間」になっていく存在ですが、投資を受ける過程ではどうしても利害が相反します。投資契約や交渉上の注意点は、あらかじめ理解しておきたいところです。

経済産業省も、スタートアップ投資契約ガイドラインのなかで、投資契約などの意義や、契約当事者が留意すべき事項を整理しています。投資契約の実務は、投資環境や個社の事情によって変わりますので、最新の実務と個別事情の確認が欠かせません。

出典:経済産業省|スタートアップ投資契約ガイドライン

借入と出資を「事業ステージ」で使い分ける

スタートアップの資金調達は、事業ステージによって考え方が変わってきます。

事業ステージ主な資金需要借入の位置づけ出資の位置づけ
アイデア・創業準備期法人設立、試作、調査、初期開発自己資金・創業融資を限定的に検討エンジェル、創業者出資、場合によりシード投資
MVP・検証期プロダクト開発、顧客検証、初期営業返済原資が弱ければ慎重シード投資が中心になりやすい
PMF探索期採用、開発、マーケティング受注・契約が見える部分は検討余地あり赤字先行なら出資が中心になりやすい
PMF後・成長初期営業拡大、採用、広告、組織整備継続売上や契約を前提に活用余地が広がるシリーズA以降で成長資金を調達
急成長期大規模採用、海外展開、M&A、開発加速出資後の財務基盤を前提に併用しやすい大型ラウンド、CVC、事業会社、ファンド
レイター・IPO準備期内部管理、監査、採用、成長投資キャッシュフローが見えれば借入・公的金融も活用IPO前ラウンド、上場時公募、既存株主売出し
IPO・M&A検討期公募増資、売出し、株主整理財務安定化や短期資金で活用投資家の出口、創業者利益、成長資金

ベンチャー企業の発展段階は、シード期、スタートアップ期、アーリー、ミドル、レイターといった区分で整理されます。事業の不確実性、売上の安定性、成長のスピードによって、適した資金は変わっていきます。

ここで大切なのは、創業初期から「いま調達できる資金」だけに目を向けるのではなく、次の調達、次の事業ステージ、そして将来の出口までを見据えておくことです。

借入が危険になるスタートアップの典型例

借入は有効な資金調達手段ですが、スタートアップにとって危険な手になってしまう場面もあります。

危険な借入の使い方問題点
PMF前の赤字補填を借入で続ける返済原資がないまま債務だけが増える
研究開発費を短期借入で賄う回収期間と返済期間が合わない
広告費を効果検証なしに借入で増やすCACが合わなければ資金流出だけが残る
採用費・人件費を借入で固定化する売上貢献前に返済と固定費が重なる
補助金前提で過大投資する後払い・対象外経費・実績報告リスクを見落とす
経営者保証付きで過大借入する失敗時に創業者個人のリスクが大きくなる
次回出資を期待して借入返済を後回しにする出資が不調なら資金繰りが急速に悪化する
借入残高を気にせず複数行から調達する後の融資・出資審査で財務制約が強くなる

とりわけ注意していただきたいのが、「成長すれば返せる」という説明です。

金融機関が求めているのは、成長可能性そのものではなく、返済原資の蓋然性です。事業の内容や将来性を語ることはもちろん大切ですが、銀行融資では最終的に、資金使途と返済原資の対応関係が問われます。

たとえば、月額課金のSaaSでARRが積み上がっている会社と、まだユーザー数だけを追っている会社とでは、借入の見え方がまるで違います。前者であれば、解約率、粗利、回収期間、営業キャッシュフローを説明できる可能性があります。後者の場合は、将来の収益化がまだ不確実ですから、借入よりも出資や自己資金でリスクを取るべき局面かもしれません。

出資が危険になるスタートアップの典型例

出資にも、もちろん危険があります。

返済義務がないぶん、一見すると借入より安全に映ります。しかし出資は、一度受けてしまうと、株主構成、支配権、投資家権利、そして将来のラウンドにまで、長く影響を及ぼします。

危険な出資の受け方問題点
早期に持株比率を大きく渡しすぎる創業者のインセンティブと支配権が弱くなる
高すぎる評価額で調達する次回ラウンドでダウンラウンドになりやすい
投資契約を十分に理解しない拒否権、買戻し、優先分配、情報提供義務が重くなる
投資家の出口期待を確認しない長期独立経営とのミスマッチが起きる
事業会社から戦略出資を受ける競合関係、独占交渉、事業提携制約が生じる場合がある
ストックオプション枠を考えない採用インセンティブ設計が難しくなる
資本政策表を作らない次回調達後の創業者比率が読めない
投資家との相性を見ない経営判断やガバナンスで摩擦が起きる

投資家は、投資した株式を売却して利益を得ることを基本的な目的としています。ですから投資契約には、投資回収を確実にするための条項が盛り込まれることがあります。会社が潰れていないにもかかわらず、投資家がEXITできない状態というのは、投資家側から見れば問題になるわけです。

出資は、会社の成長を加速させる強力な手段です。

ただし出資者は、単なる資金提供者ではなく、将来の株主でもあります。

誰から、どの条件で、どのタイミングで資金を受けるか。これは資金繰りの問題であると同時に、会社の将来の意思決定構造そのものを決める問題でもあるのです。

「赤字先行だから出資」と単純化しない

スタートアップでは、「赤字先行なら出資」とよくいわれます。方向性として正しい場面もありますが、これだけで判断してしまうと危険です。

ひとくちに赤字先行といっても、その中身は様々です。

赤字の種類資金調達の見方
PMF前の検証赤字小さく検証し、出資・自己資金でリスクを取る
技術開発による先行赤字研究開発期間、知財、マイルストーンを整理する
顧客獲得のための広告赤字CAC、LTV、回収期間、解約率を検証する
採用による組織拡大赤字売上貢献時期と固定費耐性を確認する
価格設定ミスによる構造赤字調達以前に収益モデルの見直しが必要
成長戦略不在の赤字出資でも借入でもなく、事業計画の再設計が必要

出資が向くのは、赤字であっても、将来の企業価値向上につながる仮説と検証計画がある場合です。

逆に、赤字の原因が価格設定の誤りや粗利不足、継続率の低さ、広告効率の悪さ、固定費の過大にあるとすれば、資金調達は問題の先送りにしかならないことがあります。

事業計画とは、事業を通じて達成したい定性的・定量的な目標に対して、どのような経営資源や施策が必要かという仮説を立て、その検証方法・手順・指標を定めたものです。資金調達のためだけでなく、仮説検証のための管理資料として使ってこそ意味があります。

「株を渡したくないから借入」も危険

反対に、「株を渡したくないから借入で済ませたい」という判断も、それはそれで危険をはらんでいます。

創業者が持株比率を守りたいと考えるのは、ごく自然なことです。ただ、不確実性の高い成長投資を借入でまかないすぎてしまうと、会社が失敗したときの負担が一気に重くなります。

とりわけ、次のような資金需要を借入でまかなう場合は、慎重に検討すべきです。

借入だけで賄うと危険な資金需要理由
PMF前の開発費収益化時期が不明確
市場獲得のための大型広告費投資回収が不確実
海外展開規制・市場・採用・販売チャネルの不確実性が高い
採用の先行投資人件費が固定費化する
M&A・事業買収統合リスクと投資回収リスクがある
競合対抗のための資金競争環境によって回収不能になる可能性がある

株式で資金調達すれば、持株は希薄化します。

借入で資金調達すれば、返済負担が残ります。

どちらにも痛みがあります。大切なのは、リスクを誰がどのように負担する設計にするかという一点に尽きます。

銀行に説明する事業計画と、投資家に説明する事業計画は違う

同じ事業計画であっても、金融機関向けと投資家向けとでは、力点の置きどころが異なります。

説明相手主な関心説明すべき内容
金融機関返済可能性資金使途、返済原資、資金繰り、直近業績、既存借入、保全
VC・投資家成長可能性市場規模、競争優位、チーム、KPI、資本政策、出口戦略
公的金融政策目的との整合性と返済可能性事業計画、資金使途、設備・運転資金、雇用・地域・成長性
CVC・事業会社事業シナジー技術、顧客基盤、提携可能性、知財、独占性、将来のM&A可能性
エンジェルチーム・事業仮説・信頼性創業者、初期実績、資本政策、投資条件、エンジェル税制の可否

投資家向けの資料で、売上が急拡大していく計画を示すことはあります。

しかし、同じ資料をそのまま金融機関に持っていっても、返済原資の説明としては足りないことがあります。

金融機関に対しては、保守的な資金繰り表、返済開始後の現預金残高、既存借入の返済額、そして売上が未達だった場合の対応策が必要です。

一方の投資家に対しては、なぜこの市場で勝てるのか、どのKPIが伸びているのか、今回の資金でどのマイルストーンに到達するのかを、しっかりと示す必要があります。

月次決算は、毎月の営業成績や財政状態を明らかにする仕組みです。経営者が数字から会社の現状を把握できるだけでなく、金融機関対応にも活用できる、いわば基礎資料にあたります。

また、利益計画だけでは、資金繰りの問題はつかめません。売上の計上と入金のタイミングがずれることで、利益が出ているのに資金が足りない、という事態が起こりうるからです。利益計画と資金計画は、あわせて作っておくことが重要です。

資本政策を作らずに出資を受けてはいけない

スタートアップが出資を受ける前に、必ず作っておくべき資料があります。資本政策表です。

資本政策表とは、今後の資金調達、株式発行、ストックオプション、創業者の持株比率、投資家の比率、そしてIPO・M&A時の株主構成を、時系列で整理した資料を指します。

資本政策で確認すべき項目内容
創業者持株比率各ラウンド後にどの程度残るか
調達額各ラウンドでいくら必要か
バリュエーションプレマネー・ポストマネー評価額
希薄化率新株発行により既存株主比率がどれだけ下がるか
ストックオプション採用・役員報酬・インセンティブ設計
種類株式優先分配、転換、拒否権等の条件
投資家構成VC、CVC、エンジェル、事業会社の比率
次回調達余地次の投資家が入りやすいか
上場・M&A時の構成流通株式、安定株主、創業者持分
ダウンラウンド時の影響既存投資家・創業者・SO保有者への影響

会社法上、株式会社が株式を発行する際には、募集株式の数、払込金額、払込期日、増加する資本金・資本準備金といった募集事項を定める必要があります。新株予約権の発行についても、募集事項の決定が求められます。具体的な手続や決議要件、有利発行に該当するかどうかは、会社の機関設計や定款、発行条件によって変わってきますので、個別の確認が必要です。

出典:e-Gov法令検索|会社法

出資は、契約と会社法上の手続を伴うものです。

資本政策を作らないまま、その場その場で出資を受けてしまうと、後から修正のききにくい問題が残ってしまいます。

借入と出資を組み合わせる設計

現実の場面では、借入か出資かという二択ではなく、両者を組み合わせて使うことのほうが多くなります。

組み合わせ方使い方
自己資金+創業融資初期の小規模な開発・運転資金に使う
エンジェル出資+公庫融資自己資本を厚くしつつ、返済可能な範囲で借入を使う
VC出資+スタートアップ支援資金資本増強後に、公的金融で長期資金を補完する
補助金+つなぎ融資補助金の後払いに備えて資金繰りを設計する
出資+リース設備やシステム投資を初期キャッシュアウト抑制で進める
黒字事業の借入+新規事業の出資既存事業と高リスク成長投資を分ける
CVC出資+事業提携資金だけでなく販路・技術・顧客基盤も得る

政府も、スタートアップ育成5か年計画のなかで、人材・ネットワークの構築、資金供給の強化と出口戦略の多様化、オープンイノベーションの推進を柱として掲げています。スタートアップの資金調達は、単に資金を入れて終わりではなく、人材、事業会社との連携、出口、そしてエコシステムと結びついているのです。

出典:経済産業省|スタートアップ・新規事業

また、個人投資家からの出資では、エンジェル税制の対象となる可能性もあります。エンジェル税制は、スタートアップへ投資を行った個人投資家に対する税制上の優遇措置です。令和5年度の改正により、一定の設立間もないスタートアップへの投資や、自己資金による起業についても、非課税措置の対象とされています。ただし、適用要件、申請手続、投資方法、確認書類などは、最新の制度と個別事情の確認が必要です。

出典:経済産業省|エンジェル税制

組み合わせる際に大切なのは、資金ごとの役割をきちんと分けることです。

資金の種類主な役割
自己資金創業者のコミットメント、初期検証
借入返済原資が見える資金需要の補完
出資高リスク・高成長の資金需要
補助金投資負担の一部軽減。ただし後払い前提
リース設備投資の初期資金抑制
CVC・事業会社資金資金に加えて事業シナジーを得る
公的金融民間金融・資本性資金を補完する

「調達できる資金を順番に集めていく」のではなく、「事業計画上、どの資金を、どの順番で、どの程度使うべきか」を設計していく。この発想が必要になります。

IPOやM&Aを見据える場合の注意点

出資を受けるスタートアップにとっては、出口戦略が重要になってきます。

投資家は、配当ではなく、将来の株式売却益を主なリターンとして想定することが多いためです。出口が見えない会社に対しては、投資家もどうしても出資しにくくなります。

出口戦略説明すべきこと
IPO成長可能性、管理体制、監査、資本政策、流通株式、ガバナンス
M&A買い手候補、シナジー、技術・顧客・人材価値、契約制約
セカンダリー売却既存株主の売却可能性、投資契約上の制約
長期独立経営配当方針、株主還元、投資家の回収可能性
CVCとの提携・買収事業会社との関係、独占性、競合制約

東京証券取引所は、上場を検討する企業に向けて、上場審査基準、新規上場ガイドブック、上場スケジュール、IPOセンターなどの情報を提供しています。上場は資金調達手段の多様化につながる一方で、投資者からの信頼を確保できる体制が求められます。

出典:日本取引所グループ|上場をご検討中の方
出典:日本取引所グループ|新規上場会社の適格性の維持

IPOを視野に入れる場合、資本政策、内部管理体制、月次決算、監査対応、株主構成、ストックオプション、関連当事者取引といった論点は、後から一気に整えることが難しいものばかりです。

ですから資金調達の時点から、将来の上場・M&Aに耐えられる管理体制を意識しておく必要があります。

実務上の判断軸:借入か、出資か

スタートアップが借入と出資を使い分ける際は、次の表で整理すると判断しやすくなります。

判断軸借入が合いやすい出資が合いやすい
返済原資すでに見えているまだ見えていない
事業リスク比較的低い高い
売上状況既存売上・契約がある将来売上が中心
資金使途設備、受注対応、売掛回収までのつなぎ開発、採用、広告、市場獲得
回収期間短期〜中期中長期
失敗時の残存価値設備・売掛金などが残る残らない可能性がある
成長速度着実な成長急成長を狙う
経営者保証発生する場合がある通常は返済保証ではない
支配権株式は希薄化しない希薄化・投資家権利が生じる
投資家対応金融機関への返済説明株主・投資家への成長説明
次回調達返済実績がプラスに働くことがあるラウンド設計が重要
不調時返済負担が重くなるダウンラウンド・投資家関係が問題になる

この表で見落としてはならないのは、会社全体をひとくくりに「借入向き」「出資向き」と決めつけないことです。

同じ会社であっても、資金使途ごとに判断は変わってきます。

たとえばSaaS会社であっても、PMF前の開発費は出資が向きやすい一方で、契約済の顧客に対応する一時的な導入費用なら、借入で検討できる場合があります。

製造系のスタートアップでも同様です。研究開発は出資が向きやすいけれども、量産設備の一部については、設備資金として借入を検討できる場合があります。

スタートアップが整えるべき資料

借入と出資を上手に使い分けていくためには、次の資料を整えておく必要があります。

資料主な用途
事業計画書事業仮説、成長戦略、資金使途を整理する
月次損益計画売上、粗利、固定費、赤字期間を把握する
資金繰り表バーンレート、ランウェイ、資金不足時期を把握する
KPI表ユーザー数、契約数、ARR、解約率、CAC、LTVなどを管理する
資本政策表希薄化、持株比率、SO、次回調達を確認する
借入一覧表既存借入、返済額、保証、担保を整理する
投資計画採用、広告、開発、設備、海外展開の金額と効果を整理する
シナリオ別資金繰りベース、保守、成長シナリオを比較する
投資家向け資料市場、競争優位、チーム、出口戦略を説明する
金融機関向け資料資金使途、返済原資、資金繰り、試算表を説明する

数字の根拠が弱い事業計画は、社内では夢を語るだけの資料になり、金融機関や投資家にとっては判断のしにくい資料になってしまいます。社長おひとりで高すぎる数値目標を作ってしまうと、現実との乖離も起きやすくなります。

資金調達とは、資料を作ることそのものではありません。会社の成長仮説を数字に落とし込み、必要な資金とリスクを説明できる状態にすること。これが本質です。

相談すべきタイミング

スタートアップの資金調達は、資金が足りなくなってから動き出したのでは、遅いことがあります。

次のようなタイミングでは、早めに専門家へ相談する価値があります。

相談すべきタイミング理由
初回出資を受ける前資本政策、株価、投資契約を整理する必要がある
創業融資を申し込む前返済原資、資金繰り、自己資金を確認する必要がある
VC面談前事業計画、KPI、資本政策、出口戦略を整える必要がある
人材採用を加速する前バーンレートとランウェイを確認する必要がある
補助金・融資・出資を併用する前入金時期、使途、会計・税務処理を整理する必要がある
CVCや事業会社から出資提案を受けたとき事業シナジーと制約条件を確認する必要がある
次回ラウンドの6〜12か月前資金繰りとマイルストーンを逆算する必要がある
借入返済が重くなってきたとき成長投資と財務安全性のバランスを見直す必要がある
IPO・M&Aを意識し始めたとき資本政策、内部管理、会計、税務、法務を整える必要がある

資金調達は、最後の資金繰り対策ではなく、事業成長の前提となる設計だととらえています。

出資であれば、投資契約や資本政策を誤ると、後戻りが難しくなります。

借入であれば、返済負担を見誤ると、将来の成長投資が制限されてしまいます。

ですから早い段階で、借入・出資・補助金・自己資金・公的金融を一体で整理しておくことが大切になります。

スタートアップの資金調達で最も大切なこと

スタートアップの資金調達でいちばん大切なのは、「どちらで調達するか」ではありません。

会社のリスクを、どの資金で、誰が、どの時間軸で負担するのかを設計することです。

借入は、返済できる見込みのある資金需要に使う。

出資は、不確実性は高くとも企業価値の向上につながる資金需要に使う。

補助金は、後払いであることを前提に、自己資金や融資と組み合わせる。

自己資金は、創業者のコミットメントと初期検証に使う。

公的金融は、民間資金や資本性資金を補完する役割で使う。

この整理ができていないと、資金調達はただの延命策に終わってしまいます。

逆に、資金使途、返済原資、成長仮説、資本政策、出口戦略を一体で整理できれば、資金調達は会社の成長判断を強くしてくれる、頼れる道具になります。

ご相談について

スタートアップの資金調達では、借入と出資を単純に比べるだけでは、十分とはいえません。

返済原資はあるのか。

赤字先行は成長投資なのか、それとも構造赤字なのか。

出資を受けた後、持株比率はどうなるのか。

次回ラウンドで必要となる評価額とKPIは、整合しているのか。

公庫融資、信用保証、VC出資、エンジェル、CVC、補助金を、どの順番で使うべきか。

創業者保証、投資契約、種類株式、ストックオプション、そしてIPO・M&Aの出口まで見据えられているのか。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、スタートアップの資金調達について、単なる融資申込や出資資料の作成にとどまらず、月次損益、資金繰り表、バーンレート、ランウェイ、資本政策、投資計画、返済可能性を一体で整理し、金融機関や投資家にきちんと説明できる状態を整えるご支援を行っています。

借入で進めるべきか、出資を受けるべきか。

どの程度の資金を、どのタイミングで、どの条件で調達すべきか。

創業者の持株比率と成長資金を、どう両立させるか。

金融機関向けの資料と投資家向けの資料を、どう分けるか。

こうした論点を、会社の成長段階と財務安全性の両面から整理したいとお考えの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、お気軽にご相談ください。

重要事項の振り返り

論点重要な考え方
借入と出資の違い借入は返済原資、出資は成長可能性と出口戦略が中心論点
スタートアップの特徴赤字先行、不確実性、高成長、出口戦略を前提に資金設計する
借入が向く場面受注済案件、売掛回収までのつなぎ、設備資金、継続売上がある場合
出資が向く場面PMF前、研究開発、採用、広告、市場獲得など不確実性が高い投資
借入のリスク返済負担、経営者保証、資金繰り制約、成長投資の圧迫
出資のリスク希薄化、支配権低下、投資契約、出口圧力、投資家対応
資本政策出資前に、持株比率、SO、次回調達、IPO・M&A時の構成を確認する
金融機関向け説明資金使途、返済原資、資金繰り、試算表、既存借入を整理する
投資家向け説明市場規模、競争優位、KPI、チーム、出口戦略を整理する
公的金融公庫融資や保証制度は有効だが、制度該当性と調達妥当性は別問題
エンジェル・VC資金だけでなく、信用、ネットワーク、ガバナンス、出口を伴う
組み合わせ自己資金、借入、出資、補助金、公的金融を役割別に設計する
相談タイミング初回出資・融資申込前、次回ラウンド前、採用加速前に整理する
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