中小企業の資金調達では、会社の決算書だけを眺めていても、実態がなかなかつかめないことがあります。
たとえば、銀行借入には経営者保証が付いている。資金繰りが厳しくなるたびに、社長個人が会社へお金を貸し付けている。その一方で、会社から社長や親族への貸付金、仮払金、未収入金が残ったままになっている。会社名義の資産と個人名義の資産が、事業のうえではほとんど一体で使われている。株主は親族で構成されているものの、誰がどの資金を負担しているのかは整理されていない――。
こうした状態は、日々の経営のなかでは「中小企業ではよくあること」として見過ごされがちです。
ところが、資金調達やリスケ、事業再生、事業承継、M&A、そして廃業の判断といった場面に立つと、会社と経営者個人の資金関係そのものが、大きな論点として浮かび上がってきます。
とりわけ、過剰債務や債務超過の兆しが見え始めた会社では、銀行借入の返済可能性を見るだけでは足りません。経営者保証、役員借入金、役員貸付金、同族株主間の利害、さらには債権放棄やDESの税務影響まで整理しておかなければ、実行できる改善策を描くことはできないのです。
本記事では、経営者保証・役員借入金・役員貸付金、そして同族会社に特有の財務論点を取り上げます。単なる税務処理や銀行交渉の話としてではなく、「会社の財務基盤をどう整えていくか」という視点から整理していきます。
中小企業では「会社」と「経営者個人」が一体になりやすい
大企業であれば、株主、経営者、金融機関、従業員、取引先といった役割は比較的はっきりと分かれています。
ところが中小企業では、社長が株主であり、経営者であり、金融機関借入の連帯保証人でもあります。場合によっては、会社への貸付人を兼ねていることさえあります。
ですから、中小企業の財務を見るときには、会社単体の貸借対照表だけでは十分とはいえません。
会社の借入金。社長個人の保証債務。社長から会社への貸付金。会社から社長への貸付金。親族株主の持分。担保提供している個人不動産。そして、後継者がいずれ引き継ぐことになる保証や借入関係。
これらを一体のものとして見て初めて、実態としてどの程度の財務リスクを負っているのかが判断できます。中小企業では社長が株主であり、銀行借入の連帯保証人を兼ねることも多く、会社経営が経営者個人の生活や資産にまで及ぶ構造になりやすい――この点は、実務で繰り返し確認される事実です。
もっとも、この構造そのものが悪いわけではありません。創業期や成長の初期には、経営者個人の信用や資金、担保が会社を支える局面が確かにあります。
問題は、その状態が整理されないまま長く続いてしまうことにあります。
まず押さえておきたい4つの財務論点
経営者保証、役員借入金、役員貸付金、同族会社の資金関係――これらは、一見すると別々の論点のように見えます。
しかし金融機関や再生の実務では、いずれも「会社と経営者個人が、どこまで分離されているか」を見るための材料として扱われます。
| 論点 | 決算書・契約上の見え方 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 経営者保証 | 経営者個人が会社借入の連帯保証人になる | 会社の返済不能が個人資産に及ぶ |
| 役員借入金 | 会社が役員から借りている負債 | 資金繰り支援である一方、相続・承継・再生時の債務になる |
| 役員貸付金 | 会社が役員へ貸している資産 | 法人個人の分離が弱く、金融機関から問題視されやすい |
| 同族関係 | 親族株主、親族間貸借、個人資産提供 | 債権放棄、株価、贈与、承継に影響する |
なかでも注意していただきたいのは、役員借入金と役員貸付金です。名称は似ていても、金融機関からの見え方はまったく違います。
役員借入金は、社長が会社を支えようとして資金を入れた結果として生じます。会社にとっては当然、返済すべき負債です。とはいえ資金繰りが悪化した局面では、社長が私財を投じて会社を支えているもの、と前向きに受け止められることもあります。
これに対して役員貸付金は、会社の資金が社長や親族へ流出している状態を意味します。回収できる見込みが乏しければ、実態として会社の資産とは言いづらく、金融機関からは「会社と個人の資金が分離されていない」「会社の資金が本業以外に使われている」と見られやすくなります。
同族法人で役員貸付金を解消する方法としては、役員給与の増額相当分で精算する、役員退職金と相殺するといった手段が実務で検討されます。ただし、会社が安易に債権放棄で済ませようとすると、税務上の問題がかえって大きくなる点には注意が必要です。
経営者保証とは何か
経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人となることをいいます。会社が返済できなくなったときには、経営者個人が会社に代わって返済を求められることになります。
経営者保証には、会社経営への規律付けや信用補完として、資金調達を円滑にする側面があります。その一方で、思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因になりうることも、かねて指摘されてきました。
ここで押さえておきたいのは、経営者保証は「当然に必要なもの」ではない、ということです。
かつては、中小企業の銀行融資において、代表者保証が当たり前のように扱われることもありました。しかし現在は、経営者保証に依存しない融資慣行を広げていく方向で、制度の整備が進んでいます。
経営者保証を外すための基本は「法人個人の分離・財務基盤・情報開示」
経営者保証に関するガイドラインでは、保証なしで融資を受ける、あるいは既存の保証を見直すうえで、主に次の3点が重要になるとされています。
| 要件 | 経営上の意味 |
|---|---|
| 法人と経営者個人の明確な分離 | 会社資金と個人資金を混同しない |
| 財務基盤の強化 | 法人の資産・収益力だけで返済可能性を示す |
| 適時適切な情報開示 | 決算書、試算表、資金繰り表等を金融機関に継続開示する |
中小企業庁は、経営者保証ガイドラインの3要件として、資産の所有やお金のやりとりについて法人と経営者が明確に区分・分離されていること、財務基盤が強化され法人のみの資産や収益力で返済が可能であること、そして金融機関へ財務情報が適時適切に開示されていることを挙げています。
金融庁の監督指針でも、金融機関に対して同様の姿勢が求められています。経営者保証を求める場合や既存の保証契約がある場合に、どの部分が不十分で保証が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるのかを、客観的かつ合理的な理由とともに説明し、その結果等を記録する態勢を整えること――そうした体制整備が要請されています。
つまり、経営者保証を外すために必要なのは、単なる交渉ではありません。「社長個人に頼らなくても、この会社は返済していける」と、数字で示すことなのです。
経営者保証なし融資の流れは進んでいる。ただし、誰でも外せるわけではない
2024年3月15日からは、一定の要件を満たす法人の中小企業者について、保証料率の上乗せを条件として、保証人による保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等が始まっています。
その要件には、決算書等の提出、直近決算で代表者への貸付金等がないこと、役員報酬・賞与・配当等が社会通念上相当な額を超えていないこと、債務超過でないこと、または減価償却前経常利益が連続して赤字でないこと、といった項目が含まれます。
出典:中小企業庁|保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等を開始します
ここで注目したいのは、代表者への貸付金等が要件に含まれている点です。
これはつまり、役員貸付金や仮払金が残っている会社では、「法人と個人の分離」が不十分と見られやすい、ということを意味します。単に黒字である、担保がある、長年取引している――それだけでは足りません。会社と経営者個人の資金関係が整理されているかどうかが、問われる時代になっているのです。
ですから、経営者保証を外したい会社が最初に確認すべきなのは、金利交渉でも、金融機関選びでもありません。決算書に、役員貸付金、仮払金、未収入金、過大な役員報酬、説明しにくい関連当事者取引が残っていないか。まずは、ここを確かめることです。
役員借入金は「社長が会社を支えた証」であり、同時に「将来の債務」でもある
役員借入金とは、会社が役員から借りているお金のことです。資金繰りが厳しいときに、社長が個人資金を会社へ入れた場合に生じるのが典型です。
創業期や一時的な資金不足のときには、この役員借入金が会社を支えてくれることがあります。銀行融資が間に合わない。売掛金の入金が遅れている。納税や賞与の支払が重なる。設備投資の自己資金部分を用意しなければならない。こうした場面で、経営者が個人資金を入れること自体は、決して珍しいことではありません。
しかし、役員借入金が長期にわたって残り続けると、次のような問題が生じてきます。
| 問題 | 内容 |
|---|---|
| 返済原資の問題 | 会社がいつ、どの資金で返済するのかが不明確になる |
| 財務構造の問題 | 実態として資本に近いのか、短期で返すべき借入なのかが曖昧になる |
| 金融機関対応 | 社長への返済を優先すると、金融機関返済との公平性が問題になる |
| 相続・承継 | 社長個人の会社に対する貸付債権が、相続財産になる |
| 事業再生 | 債権放棄、DDS、DES、第二会社方式などの検討対象になる |
| 税務 | 債務免除益、株価上昇、みなし贈与等が問題になりうる |
役員借入金は、外部の金融機関から見れば「社長が会社を支えている」とも映ります。けれども法的にも会計的にも、これは会社の負債です。「社長からの借入だから、返さなくてもよい」と曖昧なまま放っておくわけにはいきません。
役員借入金を「資本金の代わり」と考えることの危うさ
社長からの借入金は、実態として長期間にわたり返済されないことがあります。そのため、経営者自身が「これは資本金のようなものだ」と受け止めているケースも少なくありません。
しかし、資本金と役員借入金は、まったく別のものです。
| 項目 | 資本金 | 役員借入金 |
|---|---|---|
| 法的性質 | 株主からの出資 | 会社の借入債務 |
| 返済義務 | 原則として返済義務なし | 返済義務あり |
| 決算書上の表示 | 純資産 | 負債 |
| 金融機関の見方 | 自己資本として財務基盤を支える | 返済条件が不明だと財務リスクになる |
| 承継時の扱い | 株式として承継対象 | 貸付債権として相続・承継の対象 |
| 整理方法 | 増減資、株式譲渡等 | 返済、債権放棄、DES等 |
役員借入金を資本金のように扱いたいのであれば、会計・税務・会社法の観点からきちんと整理しておく必要があります。「返すつもりはないから、実質は資本だ」と説明したところで、金融機関や税務上、ただちに資本として扱われるわけではありません。
事業再生や財務改善の場面では、役員借入金について、債権放棄、DES、擬似DES、役員給与の減額分での精算、役員退職金との相殺、第二会社方式などが検討されます。いずれも会計・税務・株主関係に影響が及ぶものですから、単純な「消去処理」として片づけてよいものではありません。
役員借入金を返済する前に確認しておきたいこと
資金繰りに余裕が出てくると、社長は、自分が会社に貸したお金を回収したくなるものです。これはごく自然な感情だと思います。
ただ、役員借入金の返済は、金融機関借入や税金、社会保険料、仕入債務、設備更新資金とのバランスのなかで判断しなければなりません。
とくに資金繰りが悪化している局面で役員借入金を優先して返済すると、金融機関からは次のように見られかねません。
- 会社の資金を、外部債権者ではなく経営者個人へ流出させている
- 金融機関にリスケを求めながら、社長への返済を優先している
- 資金繰りの改善ではなく、法人個人間の資金移動をしている
- 事業再生計画の公平性に問題がある
役員借入金を返済する際には、少なくとも次の点を整理しておきたいところです。
| 確認項目 | 判断の視点 |
|---|---|
| 返済原資 | 本業のキャッシュフローから返済できるか |
| 金融機関借入 | 銀行返済やリスケ条件と矛盾しないか |
| 税金・社会保険 | 滞納や分納がないか |
| 手元資金 | 返済後も必要な運転資金が残るか |
| 返済順位 | 他の債権者との公平性に問題がないか |
| 契約書 | 金銭消費貸借契約、利息、返済条件が整理されているか |
| 承継 | 後継者・相続人がその債権をどう扱うか |
社長への返済は、「会社が儲かったから返す」ではなく、「返しても、会社の資金繰りと外部への説明に支障が出ないか」という基準で判断する必要があります。
役員借入金の債権放棄は、税務と株主関係を確かめてから
資金繰りや債務超過を改善するために、社長が役員借入金を放棄することがあります。会社側では負債が減りますから、貸借対照表は確かに改善します。
けれども、債権放棄には税務上の注意点があります。
法人である債務者が債権放棄を受けた場合、その放棄を受けた金額は、法人税の所得金額の計算上、原則として益金の額に算入されます。
出典:国税庁|特定調停により債権放棄を受けた場合の一般的な取扱い
加えて、同族会社の株式または出資の価額が、対価を伴わない会社債務の免除等によって増加した場合には、その増加部分に相当する金額を、株主または社員が債務免除等をした者から贈与により取得したものとして取り扱う旨が、相続税法基本通達9-2に示されています。
たとえば、社長が会社への貸付金を放棄したことで会社の純資産が改善し、親族株主の保有する株式価値が上がる、というケースが考えられます。その場合、株主構成や資力喪失の状況によっては、みなし贈与の論点が生じることがあります。
つまり、役員借入金の債権放棄は、単に「会社の負債を消す処理」ではないのです。
会社側の債務免除益。繰越欠損金の有無。株主の株式価値への影響。同族株主間のみなし贈与。再生計画としての合理性。金融機関への説明。これらを確かめたうえで判断する必要があります。
DESは役員借入金を資本に変える手法。ただし、安易に使うものではない
DESとは、Debt Equity Swapの略で、債務を株式化する手法を指します。役員借入金についていえば、会社が社長に対して負っている借入債務を、現物出資などによって資本へ振り替えるイメージです。
DESを行えば会社の負債が減り、純資産が増えますから、債務超過の解消や財務基盤の強化に役立つことがあります。
とはいえ、DESにも慎重な検討が欠かせません。
| 論点 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 株式価値 | 債権の評価額、株式の発行価額は妥当か |
| 株主構成 | 社長・親族・後継者の持株比率がどう変わるか |
| 税務 | 債務消滅益、現物出資、資本金等の額への影響 |
| 会社法 | 募集株式発行、現物出資規制、手続の適法性 |
| 金融機関 | 実質的な財務改善として説明できるか |
| 承継 | 後継者の支配権、相続税評価への影響 |
国税庁は、子会社等に対する債権を合理的な再建計画等に基づいて現物出資し、株式を取得する、いわゆるデット・エクイティ・スワップについて、適格現物出資となる場合を除き、取得した株式の取得価額は取得時の価額となることを明らかにしています。
DESは、財務改善の有力な選択肢になりえます。しかし、債務超過だからDES、役員借入金が多いからDES、といった単純な判断は危険です。
事業再生や事業承継の全体設計のなかで、増資、債権放棄、役員借入金の段階的な返済、第二会社方式などと比較しながら検討していくことが大切です。
役員貸付金は、金融機関からとりわけ厳しく見られやすい
役員借入金よりも、資金調達のうえで問題になりやすいのが役員貸付金です。
役員貸付金は、会社が役員に貸しているお金のことです。帳簿上は資産に見えますが、実態として回収できない場合には、資金調達や再生判断の場面でその資産性を疑われることになります。
金融機関が役員貸付金を厳しく見る理由は、主に次のとおりです。
| 金融機関の見方 | 経営上の問題 |
|---|---|
| 会社資金が個人へ流出している | 本業の資金として使われていない |
| 回収可能性が不明 | 実態B/Sでは資産評価を下げられる可能性がある |
| 法人個人の分離が弱い | 経営者保証解除の障害になる |
| 資金使途が曖昧 | 借入金が役員個人へ流れたように見える |
| 税務リスクがある | 認定利息、給与・賞与認定等の検討が必要になる |
| 再生計画の信頼性が落ちる | 経営者責任や資金流出について説明が必要になる |
とくに、経営者保証なしの信用保証制度でも、直近決算において代表者への貸付金等がないことが要件に含まれています。ここでいう貸付金等には、貸付金以外の金銭債権、たとえば仮払金や未収入金等も含まれるとされています。
出典:中小企業庁|保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等を開始します
これは実務上、たいへん重要な点です。
「役員貸付金」という勘定科目でなくても、仮払金、未収入金、立替金、未精算経費といった形で代表者への金銭債権が残っていれば、同じ問題として見られる可能性があるからです。
役員貸付金を解消する際の考え方
役員貸付金の解消では、「帳簿から消すこと」ではなく、「実際に回収すること」が原則になります。
代表的な解消方法は、次のとおりです。
| 解消方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 現金返済 | 役員個人が会社へ返済する | 最も明確だが、個人資金が必要 |
| 役員報酬の増額分で返済 | 報酬を増やし、手取りから返済する | 所得税・社会保険料の負担を考慮 |
| 役員賞与で返済 | 賞与支給後に返済する | 損金算入の可否や事前確定届出給与等に注意 |
| 役員退職金と相殺 | 退職時に退職金債務と貸付金を相殺する | 退職金の妥当性、資金繰り、税務確認が必要 |
| 配当後に返済 | 株主への配当原資で返済する | 分配可能額、株主構成、課税に注意 |
| 個人資産の売却資金で返済 | 不動産・有価証券等を売却して返済する | 個人側の譲渡所得税等に注意 |
| 会社による債権放棄 | 会社が回収をあきらめる | 税務上、役員給与・賞与等と見られるリスクが高い |
役員貸付金の問題は、早く手を付けるほど、選べる方法が多くなります。長く放置して金額が膨らみ、役員個人に返済能力がなくなってしまってからでは、会計上も税務上も、金融機関対応のうえでも難しくなります。
とりわけ、資金繰りが悪化している会社が、役員貸付金を残したまま金融機関へ追加融資やリスケを依頼すると、「会社の資金が経営者個人へ流出しているのに、金融機関には支援を求めている」と受け止められかねません。
同族会社では「誰が得をするか」まで見ておく
同族会社では、資金の移動が会社と社長の間だけで完結しないことがあります。
株主が配偶者、子、兄弟姉妹、親族会社へ分散している場合、社長が会社に対して債権放棄やDESを行うと、他の株主の株式価値が上がることがあります。逆に、会社が役員貸付金を放棄すれば、特定の役員や親族だけが利益を受けることになります。
そのため、同族会社の財務改善では、次の視点が欠かせません。
| 視点 | 確認内容 |
|---|---|
| 株主構成 | 誰が何%の株式を保有しているか |
| 貸付人 | 誰が会社に資金を貸しているか |
| 借入人 | 誰が会社から借りているか |
| 保証人 | 誰が会社借入の保証人になっているか |
| 担保提供者 | 誰の不動産が担保に入っているか |
| 後継者 | 誰が会社・保証・債権債務を引き継ぐか |
| 税務影響 | 債務免除益、みなし贈与、株価上昇、相続税 |
| 利害調整 | 親族間で不公平感が生じないか |
同族会社の財務整理では、「会社の決算書が改善するか」だけでなく、「その処理によって、誰の財産が増え、誰の負担が減り、誰に税務リスクが生じるのか」まで確認しておく必要があります。
事業承継では、経営者保証と役員借入金が大きな障害になる
事業承継の場面では、後継者は株式や経営権だけを引き継ぐわけではありません。
金融機関の側から見ると、次のような点が問題になってきます。
- 現経営者の保証をどうするか
- 後継者に新たな保証を求めるのか
- 旧経営者の役員借入金をどう返済するか
- 旧経営者の個人不動産担保をどう解除するか
- 親族株主間の貸付金や未払金をどう整理するか
- 後継者が返済していける財務構造になっているか
後継者にとって最も負担が重いのは、会社の将来だけでなく、過去から積み上がってきた保証や役員借入金まで引き継ぐことです。
事業そのものに魅力があっても、過大な借入、経営者保証、社長への未返済借入金、個人担保が重くのしかかっていると、後継者が承継をためらってしまうことがあります。
事業承継を考えるのであれば、株価対策や相続税対策だけでなく、次の整理が必要になります。
| 承継前に整理すべき項目 | 実務上の確認 |
|---|---|
| 経営者保証 | 旧経営者保証の解除可能性、後継者保証の必要性 |
| 役員借入金 | 返済、放棄、DES、相続財産としての扱い |
| 役員貸付金 | 承継前に回収・相殺・精算できるか |
| 個人担保 | 担保解除、代替担保、借換の可能性 |
| 親族株主 | 株式・貸付金・保証負担の公平性 |
| 月次管理 | 後継者が金融機関へ説明できる管理体制 |
承継は、株式を移すだけでは完了しません。保証と貸借関係を整理しておかなければ、後継者は「経営」ではなく「過去の債務整理」からスタートすることになってしまいます。
資金繰り悪化の局面では、会社と個人の資金関係を一覧化する
資金繰りが悪化したとき、まず作るべき資料は、資金繰り表だけではありません。
経営者保証、役員借入金、役員貸付金、担保、同族株主関係を一覧にしておく必要があります。
| 作成すべき資料 | 目的 |
|---|---|
| 借入金明細 | 金融機関別の残高、返済額、金利、担保、保証を把握する |
| 経営者保証一覧 | 誰が、どの借入に、いくら保証しているかを把握する |
| 担保一覧 | 会社・個人のどの資産が担保提供されているかを把握する |
| 役員借入金明細 | 誰から、いつ、いくら借り、返済条件は何かを把握する |
| 役員貸付金明細 | 誰に、いつ、いくら貸し、回収可能性はどうかを把握する |
| 同族株主一覧 | 株主構成、議決権、親族関係を把握する |
| 実態貸借対照表 | 回収不能資産や含み損益を反映した実態純資産を見る |
| 資金繰り表 | 今後の入出金、返済、税金、手元資金を確認する |
事業再生の実務では、金融機関ごとの借入状況をまとめた借入金明細を作成し、金融支援を依頼する金融機関の選択や、支援手法の検討に役立てていきます。借入金の長短分類、月々の返済額、金利、保証等を一覧で把握しておくことで、新規借入、借換、リスケといった選択肢を検討できるようになります。
資金繰りが苦しいときほど、頭の中で考えるのではなく、一覧表に落とし込んでいくことが大切です。
経営者保証を外すために、日常から整えておきたいこと
経営者保証を外したい、あるいは将来の新規融資で保証なしを目指したい場合には、日常の管理として次の項目を整えておく必要があります。
| 項目 | 実務対応 |
|---|---|
| 役員貸付金を作らない | 経費精算、仮払金、個人使用を月次で精算する |
| 役員借入金を契約化する | 借入日、金額、利息、返済条件を明確にする |
| 役員報酬を適正化する | 会社収益と資金繰りに見合う水準にする |
| 個人支出を会社経費にしない | 交際費、車両、保険、旅費等を区分する |
| 月次決算を行う | 試算表、資金繰り表、借入一覧を毎月確認する |
| 金融機関に定期報告する | 決算後だけでなく、月次・四半期でも情報を共有する |
| 資金使途を記録する | 借入金が何に使われたかを説明できるようにする |
| 税金・社会保険を滞納しない | 資金繰り管理上、優先度の高い支払として扱う |
| 親族取引を契約化する | 賃貸借、貸付、保証、役員報酬等を文書化する |
月次決算は、経営者が数字から会社の現状をつかみ、次に打つべき手を考えるための仕組みです。金融機関への融資申込時には、過去の決算書とあわせて直近の月次決算書を求められることがあり、これを提出できないと信用の低下につながることもあります。
経営者保証を外すことの本質は、金融機関へのお願いにあるのではありません。会社が経営者個人に依存しない財務管理体制を備えること――そこにあります。
役員借入金・役員貸付金を整理する順番
実務では、役員借入金や役員貸付金を一度に解消できないこともあります。その場合は、優先順位を決めて進めていきます。
1. まず、役員貸付金・仮払金を止める
新たな役員貸付金や仮払金が増え続けている状態では、金融機関への説明力が弱くなってしまいます。まずは、新規の発生を止めることです。
経費精算のルールを整える。個人支出を会社カードで支払わない。仮払金は月末までに精算する。役員報酬と個人の生活費を分ける。未収入金や立替金を毎月確認する。
こうした手当てをしないまま、決算書上の役員貸付金だけを減らそうとしても、根本的な改善にはなりません。
2. 次に、既存の役員貸付金を回収計画に落とし込む
役員貸付金がすでにある場合は、回収計画を作ります。
毎月いくら返済するのか。役員報酬から返済できるのか。役員退職金と相殺する予定があるのか。個人資産の売却で返済できるのか。回収できない部分があるなら、どのような税務処理になるのか。
金融機関に対しては、「役員貸付金があります」で終わらせるのではなく、「発生原因、残高、回収方法、回収の予定時期」まで説明できる状態にしておきたいところです。
3. 役員借入金は、返済・維持・資本化に分けて考える
役員借入金については、次の3つに分けて考えます。
| 分類 | 対応 |
|---|---|
| 短期的に返済する部分 | 資金繰りに無理のない範囲で返済する |
| 当面は維持する部分 | 返済を急がず、契約内容を明確にする |
| 財務改善に使う部分 | 債権放棄、DES、劣後化等を検討する |
すべてを返済しなければならないわけではありません。かといって、すべて放棄すればよいというものでもありません。
会社の返済能力、金融機関の支援、税務、承継、株主構成を踏まえて、丁寧に分けていくことが大切です。
4. 経営者保証は「解除できる会社の状態」を作る
保証解除は、申請書を出せば自動的に認められるものではありません。
法人個人の分離。財務基盤。情報開示。資金使途の明確性。月次管理。役員貸付金の解消。保証に代替する保全や契約条件。
これらを整えたうえで、金融機関と対話していくことになります。
事業再生の局面では、経営者保証と役員借入金を切り離さない
事業再生では、会社の借入金だけを減らせばよい、というわけにはいきません。経営者保証、役員借入金、役員貸付金、個人担保まで含めて整理しなければ、再生計画そのものが実行できないことがあります。
たとえば、金融機関借入のリスケを受けながら役員借入金の返済を優先していると、金融機関からの理解は得にくくなります。逆に、社長が多額の役員借入金を放棄する場合には、会社側の債務免除益、同族株主へのみなし贈与、社長個人の相続財産への影響などを検討しておく必要があります。
中小企業の事業再生等に関するガイドラインでは、収益力の低下、過剰債務、資金繰りの悪化等によって経営が困難となり、自助努力のみでは事業再生が難しい中小企業者が、再生型私的整理手続の対象になりうることが示されています。あわせて保証人についても、誠実な資産開示等、経営者保証に関するガイドラインの要件を満たすことが求められます。
出典:国税庁|中小企業の事業再生等に関するガイドライン(再生型私的整理手続)に基づき策定された事業再生計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて
再生の局面では、「会社だけ」「社長個人だけ」と分けて処理しようとすると、実態に合わなくなることがあります。会社の再生可能性と、経営者個人の保証債務の整理を、同時に考えていく必要があるのです。
廃業のときにも、経営者保証の整理は重要になる
経営者保証が問題になるのは、事業再生の場面だけではありません。廃業を判断するときにも、大きな意味を持ちます。
会社をたたむ場合でも、経営者保証が残っていれば、経営者個人の生活再建や再チャレンジに影響が及んでしまいます。
2022年3月4日には、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」が取りまとめられました。これは、中小企業の廃業時に焦点を当て、経営の規律に配慮しながら、経営者保証ガイドラインの趣旨を明確にしたものとされています。
出典:全国銀行協会|廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方について
廃業を考えるときには、事業を続けられるかどうかだけでなく、次の点もあわせて確認しておきたいところです。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社債務 | 金融機関、仕入先、税金、社会保険、リース |
| 経営者保証 | 保証対象の債務、保証金額、保証人の範囲 |
| 個人資産 | 自宅、不動産、預金、保険、退職金 |
| 個人債務 | 住宅ローン、カードローン、親族借入 |
| 役員借入金 | 会社から返済される見込みがあるか |
| 役員貸付金 | 会社に返済すべき債務があるか |
| 生活再建 | 廃業後の収入、住居、家族への影響 |
| 税務 | 債務免除益、譲渡所得、贈与、相続 |
資金が尽きてからでは、選べる道は限られてしまいます。廃業の判断もまた、資金繰り表と実態貸借対照表をもとに、早い段階で検討しておくべきものです。
経営者保証・役員借入金・役員貸付金を整理するための実務チェックリスト
次のチェックリストに一つでも当てはまる場合は、資金調達や再生の判断に入る前に、整理が必要だと考えてください。
| チェック項目 | 該当する場合のリスク |
|---|---|
| 役員貸付金が決算書に残っている | 法人個人の分離が弱く、金融機関評価に影響 |
| 仮払金・未収入金が長期滞留している | 実質的な役員貸付金と見られる可能性 |
| 役員借入金の契約書がない | 返済条件や利息の説明が難しい |
| 役員借入金が毎期増えている | 本業のCFで資金が回っていない可能性 |
| 社長への返済を優先している | 金融機関・税金・仕入先との公平性に問題 |
| 社長個人の不動産が担保に入っている | 承継・廃業・再生時に個人資産へ影響 |
| 後継者が保証の内容を知らない | 事業承継時に金融機関調整が難航 |
| 親族株主が複数いる | 債権放棄やDESでみなし贈与・利害調整が発生 |
| 月次決算が遅れている | 保証解除や金融機関説明の前提が整わない |
| 資金繰り表がない | 役員借入金返済や保証整理の判断ができない |
これらは、単なる会計処理の問題ではありません。会社の信用力、資金調達力、事業承継の可能性、そして経営者個人の生活再建にまで、直結する論点です。
金融機関に説明できる状態を、どう作るか
金融機関への対応で大切なのは、「保証を外してください」「社長借入を資本と見てください」とお願いすることではありません。
説明すべきなのは、次のような内容です。
| 説明項目 | 具体的内容 |
|---|---|
| 会社の事業内容 | 収益構造、主要取引先、粗利構造、資金化の流れ |
| 財務状況 | 月次試算表、実態貸借対照表、借入一覧 |
| 返済能力 | 営業CF、債務償還年数、資金繰り表 |
| 法人個人の分離 | 役員貸付金の有無、個人支出の処理、親族取引 |
| 役員借入金 | 発生原因、残高、返済方針、放棄・DES検討の有無 |
| 経営者保証 | 保証契約の内容、解除の希望、代替手法 |
| 改善計画 | 収益改善、資産売却、固定費削減、資金繰り改善 |
| モニタリング | 月次報告、予実差異、改善進捗の説明方法 |
銀行融資の審査は、担保の有無から始まるのではありません。まず「貸せる先なのか」という債務者評価から始まります。事業内容、業績、今後の見通し、資金使途、返済原資、保全面、他行の状況などを総合して判断していく――それが実務の流れです。
その意味で、経営者保証や役員借入金を整理することは、単にリスクを減らすためだけのものではありません。会社の財務説明力を高め、次の資金調達に備えるための基盤づくりでもあるのです。
まとめ:同族会社の財務整理は「消す」ことではなく「説明できる形に直す」こと
経営者保証、役員借入金、役員貸付金、同族会社の資金関係は、中小企業の実務では避けて通れない論点です。
これらを「よくあること」として放置してしまうと、追加融資、保証解除、リスケ、事業再生、事業承継、廃業判断といった場面で、大きな制約となってのしかかってきます。
大切なのは、帳簿上の残高を形式的に消すことではありません。
なぜ発生したのか。誰が債権者なのか。誰が債務者なのか。返済できるのか。放棄するなら、誰に税務影響が出るのか。株主価値はどう変わるのか。金融機関にどう説明するのか。後継者が引き継げる形になっているのか。
これらを一つひとつ整理し、会社と経営者個人の関係を、外部に説明できる形に直していく。そこが、財務改善の出発点になります。
資金調達に強い会社とは、金融機関にうまくお願いできる会社のことではありません。会社の資金、経営者個人の資金、保証、担保、株主関係、返済原資を整理し、必要なときに筋道立てて説明できる会社のことです。
経営者保証・役員借入金・役員貸付金の整理に不安をお持ちの方へ
経営者保証を外したい。役員借入金を、返済・放棄・資本化のどれで進めるべきか迷っている。役員貸付金や仮払金が決算書に残っていて、金融機関への説明に不安がある。事業承継の前に、保証・担保・親族間貸借を整理しておきたい。資金繰りの悪化やリスケを検討する前に、会社と経営者個人の財務関係を見える化したい。
こうした場面では、税務処理だけ、銀行交渉だけ、相続対策だけで判断してしまうと、かえって別の問題を生んでしまうことがあります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次決算、資金繰り表、借入金明細、経営者保証一覧、役員借入金・役員貸付金の明細、株主構成、実態貸借対照表をもとに、資金調達・事業再生・事業承継を見据えた財務論点の整理をご支援しています。
「会社と個人の資金関係を、どこから整理すればよいか分からない」「金融機関へ説明できる形にしたい」とお感じの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、お気軽にご相談ください。
振り返り:経営者保証・役員借入金・同族会社財務の重要ポイント
| 論点 | 重要ポイント |
|---|---|
| 経営者保証 | 会社が返済不能となった場合、経営者個人が返済を求められる |
| 保証解除の基本 | 法人個人の分離、財務基盤、適時適切な情報開示が重要 |
| 経営者保証なし融資 | 制度整備は進んでいるが、役員貸付金等があると障害になりやすい |
| 役員借入金 | 社長が会社を支えた資金だが、会社にとっては返済すべき負債 |
| 役員借入金の放置 | 相続、承継、再生、金融機関対応で問題になる |
| 債権放棄 | 会社側の債務免除益、株式価値の上昇、みなし贈与等を確認する |
| DES | 借入を資本に変える手法だが、株価・会社法・税務・株主構成に注意 |
| 役員貸付金 | 会社資金の個人流出と見られやすく、金融機関評価に影響する |
| 仮払金・未収入金 | 実質的な役員貸付金として見られることがある |
| 同族会社 | 債権放棄やDESで、親族株主間の利害・贈与税の論点が生じうる |
| 事業承継 | 株式だけでなく、保証、担保、役員借入金も整理する必要がある |
| 事業再生 | 会社債務と経営者保証を一体で整理する視点が必要 |
| 金融機関説明 | 月次決算、資金繰り表、借入一覧、保証一覧、役員貸借明細が基本 |
| 最初にやること | 会社と経営者個人の資金関係を一覧化し、発生原因と解消方針を明確にする |