売掛金や貸付金が回収できなくなったとき、会計上は「もう回収は難しい」と判断し、貸倒損失を計上したくなる場面があります。関係会社の資金繰りが悪化したときには、親会社が債権放棄や無利息貸付けに踏み切り、グループ全体を守ろうとすることもあるでしょう。
しかし、税務調査の現場では、「回収できないと思った」「取引先を支援する必要があった」という説明だけでは、なかなか通りません。
貸倒損失は、単なる会計上の見積りや経営判断にとどまりません。税務上は、どの時点で、どの債権について、どの事実に基づき、どの金額を損金に算入できるのか、その一つひとつが確認されます。
関係会社への債権放棄や損失負担についても、会社にとって合理的な支出であると説明できれば認められる余地はあります。ただし、その合理性が弱いと、寄附金、役員・株主への利益供与、国外関連者寄附金、場合によっては重加算税といった論点へと発展しかねません。
本稿では、法人税調査で問題になりやすい貸倒損失、債権債務、関係会社取引について、回収不能性、債権管理資料、回収努力、債権放棄、保証、関係会社支援、そして寄附金との境界という観点から整理していきます。
貸倒損失は「損失を出したい年度」に計上できるものではない
貸倒損失でまず押さえておきたいのは、税務上の損金算入時期です。
利益が出た年度に、過去から滞留していた売掛金をまとめて貸倒処理したい。資金繰りが苦しいので、古い貸付金を損失に落としたい。実務では、こうした相談が少なくありません。
しかし、貸倒損失は、会社が任意に選んだ年度へ自由に計上できるものではありません。
法人税では、所得金額を益金の額から損金の額を控除して計算します。損金には、その事業年度の販売費・一般管理費その他の費用や、資本等取引以外の取引に係る損失などが含まれます。貸倒損失についても、どの事業年度の損失として認められるのかが、つねに問われます。
出典:e-Gov法令検索|法人税法
税務上の貸倒損失は、大きく分けると、金銭債権が切り捨てられた場合、金銭債権の全額が回収不能となった場合、一定期間取引停止後に弁済がない場合等に整理できます。国税庁のタックスアンサーでも、貸倒損失の計上が認められる事実、その対象金額、損金算入時期が、それぞれ区分して示されています。
出典:国税庁|No.5320 貸倒損失として処理できる場合
したがって、税務調査で問われるのは「その債権が古いかどうか」ではありません。「貸倒れとして損金算入できる事実が、その事業年度に発生していたかどうか」なのです。
税務調査で確認される債権の種類
貸倒損失を検討するときは、まず債権を種類別に分けて考える必要があります。債権の性質によって、確認資料も、貸倒処理の可否も変わってくるからです。
| 債権の種類 | 調査で確認される主な事項 | 注意点 |
|---|---|---|
| 売掛金・未収請負金 | 取引実在性、売上計上、請求、入金状況、取引停止時期 | 形式上の貸倒れの対象になり得るが、貸付金とは扱いが違う |
| 貸付金 | 契約、利率、返済条件、担保、保証、資金使途 | 形式上の貸倒れの対象には含まれない |
| 立替金・仮払金 | 誰のための支出か、精算予定、実質受領者 | 役員貸付金、寄附金、給与認定に発展することがある |
| 関係会社債権 | 取引条件、支援目的、回収可能性、グループ方針 | 債権放棄が寄附金とされるかが問題になりやすい |
| 役員・株主への貸付金 | 返済能力、返済実績、利息、個人的支出の有無 | 認定賞与、役員給与、利益供与の論点になりやすい |
| 保証債務に係る求償権 | 保証履行の事実、主債務者・保証人からの回収可能性 | 現実に保証債務を履行した後でなければ貸倒れの対象にならない |
調査対応では、いきなり「貸倒処理が認められるか」を議論するのではなく、まず足元を固めます。対象債権がどの種類に該当するか、誰に対する債権か、どの取引から生じたものか、会計処理と契約関係が整合しているか。ここを丁寧に確認することから始めます。
貸倒損失の三つの入口
税務調査で貸倒損失を説明する際は、次の三つのどれに該当するのかを、はっきりさせておく必要があります。
| 区分 | 内容 | 損金算入の考え方 |
|---|---|---|
| 法律上・手続上の貸倒れ | 更生計画、再生計画、特別清算、合理的な債権者協議、書面による債務免除などで債権が切り捨てられる場合 | 切捨て等の事実が発生した事業年度に損金算入 |
| 事実上の貸倒れ | 債務者の資産状況、支払能力等から全額回収不能が明らかになった場合 | その明らかになった事業年度に損金経理が必要 |
| 形式上の貸倒れ | 継続取引停止後1年以上経過など、一定の形式要件を満たす売掛債権 | 備忘価額を控除した残額を損金経理できる |
法人税基本通達9-6-1から9-6-3では、金銭債権の切捨て、全額回収不能、一定期間取引停止後に弁済がない場合等について、それぞれ貸倒れとして損金に算入できる取扱いが定められています。
出典:国税庁|第1款 金銭債権の貸倒れ
この三つを混同すると、説明はとたんに弱くなります。たとえば貸付金について「取引停止から1年経過した」と説明しても、形式上の貸倒れはあくまで売掛債権を対象とする取扱いであり、貸付金等は含まれません。
出典:国税庁|第1款 金銭債権の貸倒れ
金銭債権が切り捨てられた場合
金銭債権が法的整理や一定の私的整理によって切り捨てられる場合、その切り捨てられる金額について貸倒損失が認められることがあります。
典型的には、会社更生、民事再生、特別清算、合理的な基準による債権者集会の協議決定、行政機関・金融機関等のあっせんによる協議などです。さらに、債務者の債務超過状態が相当期間継続し、弁済を受けられないと認められる場合に、書面で明らかにした債務免除額も対象になります。
出典:国税庁|No.5320 貸倒損失として処理できる場合
ここで重要なのは、単に「債権放棄した」という事実だけではありません。その債権放棄が、どの根拠に基づくものなのかが問われます。
特に私的整理や特定調停による債権放棄では、債務超過の状態が相当期間継続していること、そのため金銭債権の弁済を受けられないと認められること、債務者に対して書面で明らかにした債権放棄であることが確認されます。
また、債務超過かどうかは、実質的な財産状態を検討して判断するものであり、時価ベースで判定するとされています。
出典:国税庁|法人税基本通達9-6-1(4)に該当する貸倒損失(特定調停)
調査対応では、次の資料をそろえておく必要があります。
| 確認資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 再生計画、弁済計画、特別清算協定 | 債権がどの手続でどの金額切り捨てられたか |
| 債権者集会資料、合意書、調停調書 | 合理的な基準、債権者間の公平性 |
| 債務免除通知書、債権放棄通知書 | 書面で債務免除が明らかにされているか |
| 債務者の決算書、試算表、資産明細 | 債務超過、支払不能、実質財産状態 |
| 担保評価資料 | 担保回収見込を考慮しているか |
| 取締役会・稟議書 | 債権放棄を決定した経緯、会社としての判断 |
「債権放棄通知書を出したから貸倒損失になる」と単純に考えるのは危険です。債務者の実質的な財産状態、弁済不能性、債権放棄の必要性、そして書面化の内容を、一体のものとして説明できるかどうかが問われます。
全額回収不能の場合は、担保・保証人まで確認される
金銭債権の全額が回収不能となった場合には、債務者の資産状況や支払能力等からその全額が回収できないと明らかになった事業年度において、貸倒れとして損金経理することができます。ただし、担保物がある場合には、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。
出典:国税庁|第1款 金銭債権の貸倒れ
この類型で難しいのは、「全額回収不能が明らか」といえるかどうかの見極めです。
税務調査では、たとえば次のような点が確認されます。
- 債務者は事業を継続しているか
- 破産、民事再生、廃業、休眠、所在不明などの事実があるか
- 直近の決算書や試算表で債務超過か
- 預金、不動産、売掛金、在庫など回収可能な資産が残っていないか
- 担保物を処分したか
- 連帯保証人や保証会社から回収できないか
- 一部弁済や分割返済の可能性が残っていないか
- 回収交渉や督促を行った記録があるか
- 弁護士、裁判所、信用調査会社等の資料があるか
連帯保証人がいる場合には、その保証人についても回収不能かどうかの判断が欠かせません。国税庁のQ&Aでも、金銭債権に連帯保証人がいるときは、その連帯保証人等の資産状況や支払能力等を勘案して回収不能かどうかを判断するとされています。
出典:国税庁|No.5320 貸倒損失として処理できる場合(連帯保証人がいる場合の貸倒れの判断)
「主債務者が倒産したから貸倒れ」という説明だけでは、十分とはいえません。担保や保証人からの回収可能性を検討していない場合、貸倒損失の計上時期や金額が否認される可能性があります。
形式上の貸倒れは売掛債権に限られる
一定期間取引停止後に弁済がない場合等の貸倒れは、実務でよく使われる取扱いです。その一方で、適用範囲を誤りやすい論点でもあります。
法人税基本通達9-6-3では、継続的な取引を行っていた債務者について、その資産状況や支払能力等が悪化して取引を停止したケースを想定しています。取引停止時、最後の弁済期、最後の弁済時のうち最も遅い時から1年以上経過した場合などに、売掛債権から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理したときは、これを認めるとされています。
ただし、対象となるのは売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権であり、貸付金その他これに準ずる債権は含まれません。
出典:国税庁|第1款 金銭債権の貸倒れ
そのため、次のような誤りには注意が必要です。
| 誤りやすい処理 | 問題点 |
|---|---|
| 関係会社貸付金を「1年経過」で形式上貸倒れ処理する | 貸付金は形式上の貸倒れの対象外 |
| 一度だけ取引した相手への売掛金を形式上貸倒れ処理する | 継続取引を前提とする取扱いではない |
| 担保付き売掛金を取引停止後1年で貸倒処理する | 担保物がある場合は除外される |
| 備忘価額を残さず全額を処理する | 通達上は備忘価額を控除した残額 |
| 督促記録がないまま「取立費用倒れ」と説明する | 支払督促にもかかわらず弁済がないことの説明が弱い |
形式上の貸倒れは、一見すると便利な取扱いに思えます。しかし実際には、対象債権、取引継続性、取引停止時期、担保の有無、備忘価額、損金経理の有無を、一つひとつ丁寧に確認していく必要があります。
回収努力は「感情」ではなく「記録」で説明する
貸倒損失の税務調査で、しばしば弱点になるのが回収努力の記録です。
経営者や営業担当者は、「何度も電話した」「支払ってもらえないことは分かっていた」「相手先はもう倒産同然だった」と説明することがあります。ただ、税務調査では、こうした口頭説明だけでは足りません。
確認されやすいのは、次のような資料です。
| 資料 | 説明できること |
|---|---|
| 請求書、納品書、契約書 | 債権の発生原因、取引実在性 |
| 売掛金元帳、得意先元帳 | 債権残高、発生日、入金履歴 |
| 年齢表、滞留債権リスト | 滞留期間、回収状況 |
| 督促状、内容証明郵便 | 回収努力、請求事実 |
| メール、チャット、議事録 | 交渉経緯、支払猶予、分割合意 |
| 弁護士への依頼資料 | 法的回収手続の検討 |
| 信用調査報告書 | 債務者の資産状況、支払能力 |
| 登記事項証明書、不動産登記 | 資産、担保、差押え等 |
| 破産・再生・清算関係書類 | 法的整理、配当見込 |
| 担保評価・処分資料 | 担保からの回収可能額 |
| 稟議書、取締役会議事録 | 貸倒処理を決定した理由 |
ここで大切なのは、「いつ、誰が、何を確認し、どのような判断で回収不能と結論づけたか」という筋道です。
貸倒処理は、経理部門が会計処理をすれば済むという話ではありません。営業、経理、法務、経営者が把握していた情報が一致しているか、回収不能と判断するまでの経緯がきちんと資料化されているか。そこが問われます。
関係会社への債権放棄は、貸倒損失より先に寄附金リスクを見る
関係会社への債権放棄では、通常の取引先に対する貸倒損失とは、少し異なる視点が加わります。
親会社が子会社への貸付金を放棄した。グループ会社の債務を肩代わりした。関係会社に無利息で資金を貸した。こうした場合、税務調査では「回収できないから損失」とは見てもらえません。むしろ「本来回収できるはずの債権を、関係会社に無償で供与したのではないか」という目で見られます。
法人税基本通達9-4-1では、法人が子会社等の解散や経営権譲渡等に伴って債務引受け、損失負担、債権放棄等をした場合を扱っています。その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を被ることが社会通念上明らかで、やむを得ず行ったといった相当な理由があるときは、その経済的利益は寄附金に該当しないとされています。
あわせて9-4-2では、業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われ、合理的な再建計画に基づく無利息貸付け等について、相当な理由があるときは寄附金に該当しないとされています。
出典:国税庁|第1款 寄附金の範囲等
ここでいう「子会社等」は、資本関係を有する者だけにとどまりません。取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者も含まれます。
出典:国税庁|第1款 寄附金の範囲等
つまり関係会社支援では、単に「資本関係があるか」だけで判断するわけにはいきません。事業関連性、支援しなければ生じる損失、再建計画、支援額の合理性、支援者の範囲、負担割合、再建管理の有無まで、あわせて説明する必要があります。
関係会社支援で確認すべき判断要素
関係会社支援を、寄附金ではなく、事業上合理的な損失負担または貸倒処理として説明できるかどうか。これは、次のような要素によって左右されます。
| 判断要素 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 支援の目的 | 子会社等の整理か、再建か、単なる資金繰り支援か |
| 支援しない場合の損失 | 取引停止、保証履行、信用低下、連鎖倒産、販売網喪失など |
| 支援額の合理性 | 過剰支援になっていないか、必要最小限か |
| 再建計画 | 売上計画、資金繰り、返済計画、人員整理、資産売却等が具体的か |
| 支援者の範囲 | 親会社だけが負担していないか、金融機関や他株主との関係 |
| 負担割合 | 出資割合、債権額、支援利益に応じた合理的配分か |
| 再建管理 | 支援後のモニタリング、条件遵守、経営改善確認があるか |
| 社内意思決定 | 稟議書、取締役会議事録、試算、法務・税務検討資料があるか |
| 第三者性 | 通常の第三者なら同様の支援を行うか |
| 税務処理 | 損金算入、寄附金処理、申告加算、別表処理の整合性 |
なかでも、支援額の合理性と再建計画は要となる部分です。国税庁の通達でも、合理的な再建計画かどうかは、支援額の合理性、支援者による再建管理、支援者の範囲の相当性、支援割合の合理性等を、個々の事例に応じて総合的に判断するとされています。
出典:国税庁|第1款 寄附金の範囲等
「子会社だから助けた」という説明だけでは、税務上の経済合理性としては不十分です。会社として支援せざるを得なかった理由、支援することで回避できる損失、支援額の相当性を、数字と資料で示すことが求められます。
無利息貸付け・低利貸付けも支援取引として見られる
関係会社取引で問題になるのは、債権放棄だけではありません。
無利息貸付け、低利貸付け、返済期限のない貸付け、長期間回収されない立替金、利息未収のまま放置されている貸付金。これらも、税務調査で確認されやすい項目です。
調査官は、たとえば次のような点を見ます。
- 金銭消費貸借契約書があるか
- 貸付利率は通常の条件と比較して合理的か
- 返済期限が定められているか
- 返済実績があるか
- 利息を計上しているか
- 利息を収受しているか
- 担保や保証を取っているか
- 貸付先の資金使途は何か
- 追加融資を繰り返していないか
- 貸付金が実質的に資本拠出または寄附になっていないか
- 貸付先の事業計画や返済計画を管理しているか
無利息または低利であること自体が、ただちに否認を意味するわけではありません。しかし、合理的な再建計画や事業上の必要性がないまま、関係会社へ経済的利益を供与しているだけであれば、寄附金認定のリスクが残ります。
保証・債務引受け・損失負担は「求償権」まで見る
関係会社や取引先のために保証債務を履行した場合、会社には通常、主債務者に対する求償権が発生します。
税務調査では、保証履行額をそのまま損失計上していないかが確認されます。保証債務は、現実に履行した後でなければ貸倒れの対象にできない点が通達上示されていますが、履行後もそれで終わりではありません。求償権について、回収可能性をあらためて検討する必要があります。
出典:国税庁|第1款 金銭債権の貸倒れ
確認すべき資料は、次のとおりです。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 保証契約書 | 保証範囲、保証期間、保証債務の内容 |
| 金融機関からの請求書 | 保証履行を求められた事実 |
| 支払記録 | 実際に保証債務を履行した時期と金額 |
| 求償権管理資料 | 主債務者への請求、回収可能性 |
| 主債務者の財務資料 | 資産状況、支払能力 |
| 担保・保証資料 | 回収可能額 |
| 稟議書・議事録 | 保証した理由、履行した理由 |
| 関係会社支援資料 | 寄附金に該当しない相当な理由 |
保証履行をした会社にとっては、現に資金が流出しているため、損失と感じやすいところでしょう。しかし税務上は、保証履行額そのものではなく、求償権の回収不能性や、関係会社支援としての合理性を確認することになります。
債権債務の残高不一致は、貸倒以前の問題になる
貸倒損失を語る前提として、そもそも債権債務の残高が正しいか、という問題があります。
税務調査では、売掛金、買掛金、未収入金、未払金、立替金、仮払金、貸付金、借入金について、取引先別残高、年齢表、入出金、請求書、契約書との整合性が確認されます。
特に、次のような状態は調査で問題になりやすいところです。
- 長期間動いていない売掛金がある
- 関係会社への貸付金が毎期増加している
- 役員貸付金が返済されていない
- 仮払金、立替金の精算が長期化している
- 買掛金や未払金が実在しないのに残っている
- 相殺処理の根拠資料がない
- 債権者と債務者で残高が一致しない
- 反面調査で相手先の残高と異なる回答が出る
- 債権債務を相殺したと説明しているが、合意書や通知がない
- 実質的には資金援助なのに貸付金として処理している
残高不一致は、単なる経理ミスでは済まないことがあります。売上除外、架空仕入、架空外注費、簿外資金、役員貸付金、寄附金、債務免除益といった論点へ広がっていくこともあるからです。
貸倒損失を説明する前に、債権の発生原因、残高、相手先確認、入金状況、相殺・免除の有無を整えておくことが欠かせません。
税務調査で危険な説明
貸倒損失や関係会社支援をめぐっては、次のような説明はとりわけ危険です。
| 説明 | なぜ危険か |
|---|---|
| 「昔から回収できないと思っていた」 | いつ回収不能が明らかになったかが不明 |
| 「社長がもう無理だと判断した」 | 客観資料がない |
| 「相手がかわいそうなので放棄した」 | 寄附金・利益供与と見られやすい |
| 「子会社なので当然支援した」 | 支援額や再建計画の合理性が説明されていない |
| 「銀行から言われたので支援した」 | 自社にとっての経済合理性が不明 |
| 「担保はあるが価値がないと思う」 | 担保評価・処分資料が必要 |
| 「保証人からも取れないはず」 | 保証人の資産状況確認が必要 |
| 「利益が出たので古い債権を整理した」 | 損金算入時期を任意選択したように見える |
| 「再建計画は口頭で共有していた」 | 合理的な再建計画の説明が弱い |
税務調査で物をいうのは、説明の言葉そのものよりも、それを裏づける資料です。特に回収不能性や関係会社支援の合理性は、後から作った資料だけでは、どうしても説得力が弱くなります。貸倒処理や債権放棄をする、まさにその時点で判断資料を整えておくこと。これが何より重要です。
修正申告に応じる前に確認すべきこと
貸倒損失や関係会社支援について調査官から指摘を受けた場合、すぐに修正申告へ応じるのではなく、まず指摘内容を分解してみることをお勧めします。
確認すべき点は、次のとおりです。
- 否認対象は売掛金か、貸付金か、立替金か、保証債務か
- 調査官は、貸倒事実そのものを否定しているのか
- 損金算入時期が違うと指摘しているのか
- 全額回収不能ではなく一部回収可能と見ているのか
- 担保や保証人からの回収可能性を問題にしているのか
- 関係会社への寄附金と見ているのか
- 役員、株主、親族への利益供与と見ているのか
- 消費税や源泉所得税への波及があるのか
- 重加算税を示唆されているのか
- 追加提出できる資料があるのか
- 不服申立てを検討する余地があるのか
同じ「貸倒損失否認」であっても、争点が違えば対応も変わります。回収不能性の証拠が不足しているだけなのか、そもそも債権放棄が寄附金に該当すると見られているのか、それとも損金算入時期が違うだけなのか。ここを切り分けることが、対応の出発点になります。
再発防止は、債権管理と関係会社支援ルールから始める
貸倒損失や関係会社取引の問題は、税務調査のときだけ場当たり的に対応していても、また繰り返してしまいます。
再発を防ぐためには、次のような仕組みを整えておく必要があります。
| 管理領域 | 整えるべき事項 |
|---|---|
| 与信管理 | 新規取引時の信用調査、与信限度額、定期見直し |
| 債権管理 | 年齢表、滞留債権リスト、回収状況の月次確認 |
| 督促管理 | 督促状、メール、交渉記録、法的手続検討 |
| 貸倒判断 | 貸倒処理の承認基準、必要資料、決裁者 |
| 担保・保証 | 担保評価、保証人確認、処分記録 |
| 関係会社貸付 | 契約書、利率、返済期限、返済実績 |
| 関係会社支援 | 支援目的、再建計画、支援額、取締役会承認 |
| 債権放棄 | 書面通知、債務者財務資料、税務検討メモ |
| 残高確認 | 取引先別残高確認、相殺合意、差異分析 |
| 税務申告 | 損金算入、寄附金処理、申告加算、別表管理 |
なかでも関係会社への貸付金は、月次で増減を見ていないと、気づかないうちに巨額化していきます。資金繰り支援のつもりで貸し続けた結果、いつしか返済可能性がなくなり、最後に債権放棄をして寄附金リスクが表面化する。こうした流れは、決して珍しいものではありません。
「グループ内だから後で整理できる」という感覚は、税務調査ではなかなか通用しにくい。そう考えておくほうが安全です。
貸倒損失・関係会社支援に不安がある場合は、早めに整理を
貸倒損失や関係会社支援は、税額への影響が大きく、しかも資料不足が問題になりやすい論点です。
特に、次のような状況に心当たりがある場合には、税務調査の前、あるいは指摘を受けた直後に、専門家とともに整理しておくことをお勧めします。
- 長期滞留している売掛金がある
- 貸付金、立替金、仮払金が長期間精算されていない
- 関係会社への貸付金が増え続けている
- 関係会社の債権放棄を検討している
- 無利息貸付け、低利貸付けを行っている
- 子会社の資金繰り支援を親会社が続けている
- 保証債務を履行したが、求償権の処理が未整理である
- 担保や保証人の回収可能性を確認していない
- 過去の貸倒損失について税務調査で否認された
- 寄附金、役員貸付金、認定賞与を示唆されている
- M&Aや事業承継前に滞留債権を整理したい
犬飼公認会計士・税理士事務所では、貸倒損失、債権債務、関係会社取引について、回収不能性、債権放棄、保証、関係会社支援、寄附金認定リスク、修正申告の要否、そして調査官への説明資料まで、一体で整理します。
「回収できないから落とす」「子会社だから支援する」という判断を、後から説明できる形に整えておくこと。これが何より大切です。貸倒損失や関係会社支援の処理に不安がある場合は、お問い合わせページからご相談ください。
振り返り|貸倒損失・債権債務・関係会社取引の調査ポイント
| 論点 | 調査で確認されること | 実務上の対応 |
|---|---|---|
| 貸倒損失の時期 | 貸倒事実がどの事業年度に発生したか | 利益が出た年度に任意処理しない |
| 債権の種類 | 売掛金、貸付金、立替金、保証債務など | 債権別に適用要件を分ける |
| 法律上・手続上の貸倒れ | 再生計画、特別清算、債権者協議、書面免除 | 手続資料、債権放棄書面を保存する |
| 事実上の貸倒れ | 全額回収不能が明らかか | 債務者の資産状況、担保、保証人を確認する |
| 形式上の貸倒れ | 取引停止後1年以上、取立費用倒れ等 | 売掛債権限定である点に注意する |
| 担保 | 担保物を処分したか | 担保評価・処分資料を残す |
| 保証人 | 保証人から回収できないか | 保証人の資産状況も確認する |
| 保証債務 | 現実に保証履行したか | 履行後の求償権を管理する |
| 回収努力 | 督促、交渉、法的手続の有無 | メール、内容証明、弁護士資料を保存する |
| 関係会社貸付 | 利率、返済期限、返済実績 | 契約書と月次管理を整える |
| 債権放棄 | 貸倒損失か寄附金か | 債務超過、弁済不能、書面化を確認する |
| 関係会社支援 | 支援目的、再建計画、支援額 | 経済合理性を稟議・議事録で説明する |
| 無利息・低利貸付 | 経済的利益の供与か | 合理的な再建計画と相当な理由を整理する |
| 残高不一致 | 相手先残高、反面調査との差異 | 残高確認、相殺合意、差異分析を行う |
| 修正申告判断 | 否認理由、税目、加算税リスク | 指摘内容を論点別に分解する |
| 再発防止 | 滞留債権や支援取引の管理体制 | 与信管理、債権管理、支援ルールを整備する |