出向・転籍・給与負担金の法人税調査|寄附金・役員給与・源泉所得税までどう整理するか

出向者の給与は、出向元と出向先のどちらが負担すべきか。出向元が賞与を支給した場合、それは損金になるのか。出向先が給与負担金を払い過ぎていないか。出向先で役員になった人の給与負担金は、役員給与として問題にならないか。転籍者の退職金は、どちらの会社が負担すべきか。

こうした論点は、グループ会社間で人材を動かしている会社では、日常的に起こります。ところが税務調査になると、「グループ内のことだから」「親会社の方針だから」「以前からこうしているから」という説明では通りません。

調査で問われるのは、出向・転籍という人事上の形式だけではないからです。実際の勤務先、指揮命令関係、雇用関係、給与の支払者、負担金の計算根拠、役員就任の有無、賞与・退職給与の負担区分、源泉徴収、消費税処理まで含めた、全体の整合性が見られます。

とりわけ法人税調査では、出向元・出向先のどちらの費用なのか、給与負担金の名目で関係会社に利益を移していないか、本来負担すべきでない給与・賞与・退職金を負担していないか、寄附金として損金不算入にすべき部分がないか、といった点が確認されます。

本稿では、出向・転籍・給与負担金が法人税調査でどのように見られるのか、そしてどの資料を整え、どの判断軸で説明すればよいのかを、実務の視点から整理します。

目次

出向・転籍の税務調査は「人事異動」ではなく「費用負担の合理性」が見られる

出向・転籍という言葉は、人事・労務の用語として使われることが多いものです。しかし税務調査で見られるのは、人事上の名称ではなく、税務上の費用負担として合理的かどうかという一点です。

その前提として、まず出向と転籍は、税務判断上はっきりと分けて考える必要があります。

区分基本的な法律関係税務調査で見られること
出向出向元との雇用関係を維持しつつ、出向先で勤務する形態出向元・出向先のどちらが給与を支給し、どちらが最終負担すべきか
転籍転籍前法人との雇用関係を終了し、転籍後法人との雇用関係に移る形態転籍後の給与・賞与・退職給与をどちらが負担すべきか
人材派遣・業務委託雇用関係ではなく、派遣契約・業務委託契約に基づく役務提供給与ではなく外注費・派遣料・課税仕入れとして処理すべきか

出向では、出向元との雇用関係が残っています。そのため、出向元が給与を支給し、出向先が給与負担金を支払うという形がよく見られます。この形そのものは、決して不自然なものではありません。

ただし、その負担が出向先の受けている労務提供に見合っているか、出向元が出向者を出す合理的な理由があるか、出向元が負担し続ける給与に事業上の理由があるか。これらを説明できなければ、寄附金、役員給与、認定賞与、源泉徴収漏れ、消費税処理誤りといった問題へ波及していきます。

税務調査で最初に確認される資料

出向・転籍の調査では、給与明細や仕訳だけを見て結論が出るわけではありません。調査官は、契約、決議、給与台帳、勤務実態、資金移動を横断して確認していきます。

資料確認されるポイント
出向契約書・転籍契約書出向期間、職務内容、勤務場所、給与負担、賞与・退職金負担、復帰条件
人事発令書出向開始日、転籍日、役職、所属、指揮命令関係
給与台帳・賃金台帳誰が給与を支給し、どの会社で損金処理しているか
請求書・負担金明細給与負担金の計算根拠、消費税処理、名目と実態
出向者の勤務実績出向先で実際に勤務しているか、出向元業務を兼務していないか
組織図・職務分掌出向先での役割、役員就任の有無、指揮命令系統
株主総会・取締役会議事録出向先役員給与、賞与、退職給与に関する決議
源泉徴収簿・扶養控除等申告書給与支払者、甲欄・乙欄、年末調整の整合性
社会保険・労働保険関係資料雇用関係、給与支払者、出向実態の補助資料
関係会社間の精算資料実際の支払時期、未払・仮払・相殺の状況

出向契約書がない場合や、契約書に給与負担の定めがない場合でも、それだけで直ちに否認されるとは限りません。ただ、後から説明する難易度が上がることは避けられません。

特に注意したいのは、関係会社間で毎月一定額を「経営指導料」「業務支援料」「人件費精算」といった名目で支払っているケースです。その実態が給与負担金なのか、役務提供の対価なのか、それとも寄附金なのか。区分して整理しておく必要があります。

出向先が給与負担金を支払う場合の基本

法人の使用人が他の法人へ出向し、出向元法人がその出向者に給与を支給しているとします。このとき出向先法人が、自己の負担すべき給与相当額を出向元法人に支出すれば、その給与負担金は、出向先法人におけるその出向者に対する給与として取り扱われます。出向先法人が、実質的に給与負担金の性質を持つ金額を経営指導料等の名義で支出した場合にも、同じ取扱いが適用されます。
出典:国税庁|法人税基本通達 第9款 転籍、出向者に対する給与等

つまり、出向先が実際に出向者の労務提供を受け、その給与相当額を負担しているのであれば、出向先の給与として損金処理するのが基本となります。

ここで重要になるのが、「自己の負担すべき給与に相当する金額」という部分です。

出向先が支払った金額が、出向元から出向者に支給されている給与額を超えている場合、その超える部分は給与負担金としての性格を持ちません。合理的な理由がなく、適正額の範囲内ともいえないときは、出向元法人に対する寄附金として取り扱われることがあります。
出典:国税庁|No.5245 出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与の取扱い

税務調査では、給与負担金の金額について、次のような点が確認されます。

確認項目説明すべき内容
出向元の給与水準出向者に実際に支給している給与・賞与
出向先の給与水準同種職務・同等役職の給与水準
出向先の負担割合全額負担、一部負担、固定額負担、実費精算
計算根拠基本給、賞与、社会保険料、手当、退職給付費用の範囲
超過負担の有無出向先が実際の給与以上を負担していないか
合理的理由負担額が給与相当額と異なる理由があるか

「毎月50万円を支払っている」という事実だけでは、説明として足りません。出向元が出向者にいくら支給しているのか、そのうち出向先がどの部分を負担すべきなのか。明細でたどれる形にしておくことが求められます。

出向者が出向先で「使用人」か「役員」かで判断が変わる

出向者が出向先で使用人として勤務している場合、給与負担金は、原則として出向先法人の使用人給与として損金算入されます。

これに対して、出向者が出向先で役員になっている場合は、単なる使用人給与とは扱いが変わってきます。

出向者が出向先法人で役員となっている場合、出向先法人が支出する役員に係る給与負担金については、出向先法人の株主総会等でその役員に対する給与として決議されていること、出向契約等で出向期間および給与負担金額があらかじめ定められていること、このいずれにも該当するときに、出向先法人における役員給与として法人税法34条の規定が適用されます。事前確定届出給与に該当する場合の届出も、出向先法人が行うこととされています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第9款 転籍、出向者に対する給与等

ここで誤りやすいのが、「給与は出向元から支払っているのだから、出向先では役員給与の問題にならない」と考えてしまうことです。

出向先で役員として職務を行い、出向先が給与負担金を支出しているのであれば、出向先における役員給与としての整理が必要になります。

出向先での地位法人税上の主な論点
使用人出向先の使用人給与として損金算入できるか
使用人兼務役員使用人分と役員分の区分、職務実態、役員給与規制
役員株主総会等の決議、出向契約、定期同額給与、事前確定届出給与
非常勤役員勤務実態、報酬額の相当性、支給根拠
執行役員等法人税上の役員該当性、委任契約か雇用契約か、実態判断

特に注意したいのは、子会社へ出向した親会社社員が、子会社の取締役に就任するケースです。出向契約、人事発令、取締役就任承諾書、株主総会議事録、役員報酬決議、給与負担金明細。これらが一致していないと、調査の場で説明が弱くなります。

給与負担金が寄附金とされる場面

出向・転籍の法人税調査で、最も注意すべき論点の一つが寄附金認定です。

法人税法上の寄附金とは、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義かを問わず、法人が行った金銭その他の資産または経済的利益の贈与・無償供与をいいます。低額譲渡等のように、その差額が実質的な贈与等と認められる場合には、その差額をもって寄附金の額を計算することとされています。
出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

出向・転籍で寄附金とされやすいのは、次のような場面です。

場面問題点
出向先が実際の給与額を超えて負担している超過部分が給与負担金ではなく出向元への利益供与と見られる
出向元が出向先勤務者の給与を全額負担している出向先が受ける労務提供に対して出向元が無償支援している可能性
給与負担金の計算根拠がない実費精算ではなく利益移転と見られやすい
赤字子会社の人件費を親会社が負担している経済合理性がなければ子会社支援・寄附金とされる可能性
出向先役員の報酬を親会社が負担している親会社の費用か、子会社への支援か、役員給与かが問題になる
転籍後の給与を転籍前法人が負担している雇用関係終了後の人件費負担として寄附金性が問われる
賞与・退職金の負担割合が在職期間等と無関係本来負担すべき法人以外が負担していると見られる

もっとも、関係会社間の人件費負担が、すべて寄附金になるわけではありません。

たとえば出向元が給与条件の較差を補填する場合でも、出向者との雇用関係を維持していること、出向政策上の合理性があること、給与水準差の範囲内であること。これらを説明できれば、出向元の損金として整理できる場合があります。

大切なのは、「どちらの会社が得をしたか」ではなく、「どちらの会社が負担すべき費用か」を、契約・勤務実態・給与水準・計算根拠で説明できるかどうかです。

完全支配関係がある法人間ではグループ法人税制にも注意する

出向元・出向先がともに100%グループ内の内国法人である場合、寄附金認定は、通常の寄附金限度額の問題だけでは終わらないことがあります。

内国法人が各事業年度において、法人による完全支配関係がある他の内国法人に対して支出した寄附金のうち、受贈益に対応するものについては、その全額が損金の額に算入されません。
出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

また、完全支配関係がある法人間の受贈益については、受贈益の益金不算入が問題になります。このとき、相手法人側で寄附金として損金不算入となるものに対応しているかどうかを確認する必要があります。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3款 完全支配関係がある法人間の受贈益

このため、出向・転籍の人件費負担で寄附金部分が生じる場合には、次のような整理が欠かせません。

確認項目内容
完全支配関係の有無法人による完全支配関係か、個人株主による支配か
支出時点寄附金とされる金銭等の支出時点で判定する
支出法人側寄附金の損金不算入処理が必要か
受領法人側受贈益の益金不算入処理が必要か
会計処理給与負担金、雑収入、受贈益、寄附金の区分
別表調整別表四、別表五(一)等の申告調整

なお、個人株主一族がそれぞれの法人を100%支配しているような場合と、法人が他法人を完全支配している場合とでは、取扱いが異なります。税務調査では、資本関係図、株主名簿、グループ内取引一覧の提出を求められることがあります。

給与較差補填金は「差額の理由」を説明できるかが重要

出向者については、出向元の給与水準と出向先の給与水準に差が生じることがあります。

たとえば、親会社の給与水準が月額80万円、出向先子会社で同等役職の給与水準が月額60万円だとします。このとき出向者の処遇を維持するために、出向元が差額の20万円を給与較差補填金として支給することがあります。

出向元法人が、出向先法人との給与条件の較差を補填するために出向者へ支給した給与は、出向期間中であっても、出向者と出向元法人との雇用契約が維持されていることから、出向元法人の損金に算入されます。出向先法人が経営不振等で賞与を支給できないために出向元法人が賞与を支給する場合や、海外出向に伴う留守宅手当も、給与較差補填金として取り扱われる例に含まれます。
出典:国税庁|No.5241 出向者に対する給与の較差補てん金の取扱い

ただし、給与較差補填金という名称を付けさえすればよい、というわけではありません。

確認項目説明すべきこと
出向元給与水準出向前の給与、同職位の給与、給与規程
出向先給与水準出向先の同職務・同役職の給与水準
差額の計算基本給、賞与、手当、福利厚生のどこまで含むか
支給理由処遇維持、人事ローテーション、専門人材派遣等の合理性
支給方法出向元から直接支給、出向先経由で支給のいずれか
源泉徴収実際の給与支払者が誰か
過大部分給与条件差を超える部分がないか

給与較差補填金の説明が弱いと、出向元が出向先の負担すべき給与を肩代わりしている、あるいは出向先が出向元に過大な負担金を支払っているとして、寄附金認定が問題になります。

賞与の負担調整は、支給対象期間と通知・支払時期を見る

出向者の賞与は、税務調査で見落とされやすい論点です。

月例給与は毎月精算している一方で、賞与の処理は会社によって分かれます。出向元が支給する、出向先が支給する、出向元がいったん支給して出向先へ請求する、賞与相当額を給与較差補填として支給する。いずれの形をとっているのか、まず確認が必要です。

調査では、次のような点が見られます。

論点確認されること
賞与の算定期間出向前、出向中、転籍後のどの期間に対応する賞与か
支給決定者出向元か、出向先か、グループ本部か
支給対象者出向者だけ特別扱いされていないか
支給規程出向者に関する賞与規程・出向規程があるか
負担法人どちらの労務提供に対応する賞与か
未払計上法令上の未払賞与の要件を満たすか
役員該当性出向先で役員の場合、事前確定届出給与に該当しないか

特に、出向先で役員となっている出向者への賞与は、出向先の役員給与規制と無関係ではありません。たとえ出向元から支払われているように見えても、実質的に出向先役員としての職務対価であれば、出向先での決議・契約・届出の整備が問われます。

また、賞与の一部が本来相手方法人の負担すべき金額である場合には、論点を分けて確認する必要があります。未払賞与として処理できるのか、寄附金として支出を認識すべきなのか、支払時点でどのような申告調整が必要なのか、という三点です。

法人税法上、寄附金については、経理処理にかかわらず、現実に金銭等による支払が行われたときに支出があったものと認識されます。未払寄附金や、未決済の手形払いによる寄附金は、寄附金には含まれないとされています。
出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

出向者の退職給与負担金は「いつ・どの期間分を・どう計算したか」を見る

出向者の退職給与は、出向・転籍の中でも金額が大きくなりやすく、調査で争点になりやすい論点です。

出向者の退職金は、通常、出向元法人が出向者へ支払います。そのうち出向期間に対応する退職金については、出向先法人が負担すべきものとして、出向先法人から出向元法人へ負担金が支出されることがあります。
出典:国税庁|No.5242 出向先法人が支出する退職金の負担金の取扱い

退職給与負担金の支出時期には、主に次の三つがあります。

支出時期法人税上の基本的な見方
出向先から出向元へ復帰した時原則として支出事業年度の損金算入
出向元法人を退職した時原則として支出事業年度の損金算入
出向期間中に定期的に支出する時あらかじめ定めた負担区分と合理的計算が必要

出向期間中に退職給与負担金を支出する場合は、あらかじめ定めた負担区分に基づいて定期的に支出していること、その金額が出向期間に対応する退職金負担額として合理的に計算された金額であること、このいずれにも該当するときに、出向先法人の支出事業年度の損金に算入されます。この取扱いは、出向者が出向先法人で役員になっている場合でも認められます。
出典:国税庁|No.5242 出向先法人が支出する退職金の負担金の取扱い

税務調査では、次のような説明が必要になります。

確認項目説明すべき内容
退職給与規程出向元・出向先の退職金規程、勤続年数通算の有無
出向期間退職給与負担金の対象となる期間
負担区分在職期間按分、要支給額基準、規程上の増加額等
計算根拠出向期間に対応する退職金相当額の算定方法
支出時期復帰時、退職時、毎期定期支出のどれか
契約上の定め出向契約で退職給与負担を定めているか
役員該当性出向先で役員となっている場合の取扱い
過大負担本来相手方が負担すべき金額を負担していないか

退職給与負担金は、「将来の退職金に備えて積み立てた」という説明だけでは足りません。出向期間に対応する負担であり、負担区分と計算方法が合理的であること。これを資料で示すことが求められます。

転籍者の退職給与は、在職期間と負担区分が重要になる

転籍の場合は、出向と異なり、転籍前法人との雇用関係が終了し、転籍後法人との雇用関係に移ります。

そのため、転籍後の給与は原則として転籍後法人の費用です。転籍前法人が転籍後の給与や賞与を負担するのであれば、なぜ転籍前法人が負担するのかを説明できなければ、寄附金性が問題になります。

退職給与については、転籍前法人での在職年数を通算して、転籍後法人が退職金を支給する設計が行われることがあります。

法人税基本通達では、転籍者に係る退職給与について、転籍前法人における在職年数を通算して支給することとしている場合、転籍前法人および転籍後法人が転籍者に支給した退職給与の額は、それぞれの法人における退職給与とされます。ただし、他の使用人に対する退職給与の支給状況や、それぞれの法人における在職期間等からみて、明らかに相手方法人が支給すべき退職給与の全部または一部を負担したと認められる部分は、相手方法人に贈与したものとされます。
出典:国税庁|法人税基本通達 第9款 転籍、出向者に対する給与等

実務上は、次のような計算方法が検討されます。

負担方法判断上のポイント
在職期間按分転籍前・転籍後の在職期間比で負担するため説明しやすい
転籍時要支給額方式転籍時点で転籍前法人の要支給額を固定して負担する
転籍時要支給額+金利相当転籍時要支給額に転籍後在職期間に見合う通常の金利相当額を加算
任意の固定額負担規程・在職期間と無関係なら寄附金リスクが高い
転籍後期間分まで転籍前法人が負担相手方法人の負担を肩代わりしたと見られやすい

転籍にあたっては、労務上の同意、退職金規程、勤続年数通算、転籍条件通知、給与条件、退職金負担契約を、一体で整える必要があります。税務調査では、転籍者本人との関係だけでなく、転籍前法人・転籍後法人の間で、誰がどの期間の費用を負担すべきかが確認されます。

経営指導料・業務支援料・出向負担金の名目に注意する

グループ会社間では、給与負担金を「経営指導料」「業務支援料」「管理手数料」「本部費配賦」といった名目で処理していることがあります。

この場合、税務調査で見られるのは名目ではなく、その実態です。

名目実態が給与負担金なら実態が役務提供対価なら
経営指導料出向者給与負担金として法人税上整理役務内容、対価性、消費税、移転価格的合理性を確認
業務支援料出向者の人件費相当なら給与負担金業務委託契約、成果物、作業記録を確認
本部費配賦出向者個人に紐づくなら給与負担金共通費配賦基準、役務提供内容を確認
人件費精算給与台帳との一致を確認誰の労務提供か、雇用関係を確認

法人税基本通達上も、実質的に給与負担金の性質を持つ金額を経営指導料等の名義で支出した場合には、出向先法人における出向者給与として取り扱われます。
出典:国税庁|法人税基本通達 第9款 転籍、出向者に対する給与等

名目を変えれば、役員給与規制や寄附金認定を避けられるわけではありません。むしろ名目と実態がずれていると、調査官から「なぜ給与負担金として処理しなかったのか」を確認されやすくなります。

消費税では、出向と人材派遣を混同しない

出向・転籍の給与負担金は、法人税だけでなく消費税にも影響します。

出向は、出向者が出向元事業者との雇用関係を維持しながら、出向先事業者との間でも雇用関係に基づいて勤務する形態とされます。雇用契約に基づく役務提供であり、その対価が給与所得となる場合には課税仕入れに該当しません。出向者に対する給与負担の方法がどのような形であっても、給与負担金について消費税の課税関係は生じないとされています。
出典:国税庁|No.6475 使用人の出向・人材派遣など

一方、人材派遣の場合は、派遣された使用人の雇用関係が人材派遣会社との間にしかありません。派遣会社から派遣先事業者への役務提供となるため、人材派遣の対価は課税売上げとなり、支払側では課税仕入れとなります。
出典:国税庁|No.6475 使用人の出向・人材派遣など

この違いは、実務上とても重要です。

区分消費税上の取扱い
出向給与負担金原則として消費税の課税関係なし
給与等の支払課税仕入れに該当しない
人材派遣料課税仕入れに該当する
業務委託料役務提供対価として課税仕入れに該当し得る
寄附金対価性がなければ課税仕入れに該当しない

給与等の支払は課税仕入れに含まれません。これに対して、加工賃や人材派遣料のように、事業者が行う労働・サービス提供の対価は課税仕入れとなります。
出典:国税庁|No.6451 仕入税額控除の対象となるもの

また、寄附金の支出は、対価を得て行われる取引ではないため、課税仕入れにはなりません。ただし、名目は寄附であっても対価性が認められる場合には、課税仕入れとなることがあります。
出典:国税庁|No.6463 寄附金や交際費の取扱い

出向給与負担金に消費税を上乗せした請求書を発行し、支払側が仕入税額控除をしている場合には、法人税だけでなく消費税の調査でも問題になります。特にインボイス制度のもとでは、請求書の形式が整っていても、そもそも課税取引でなければ、仕入税額控除の対象にはなりません。

源泉所得税は「誰が給与を実際に支払っているか」を確認する

出向・転籍では、源泉所得税の処理も確認されます。

会社や個人が給与を支払う場合には、その支払の都度、所得税および復興特別所得税を差し引き、原則として実際に支払った月の翌月10日までに国に納める必要があります。源泉徴収義務者とは、この所得税および復興特別所得税を差し引いて国に納める義務のある者をいいます。
出典:国税庁|No.2502 源泉徴収義務者とは

出向給与負担金を出向先から出向元へ支払う場合、その法人間の負担金支払そのものについて給与の源泉徴収をするわけではありません。源泉徴収の対象になるのは、あくまで出向者本人に対する給与の支払です。

実務上は、次のように整理します。

支給形態源泉徴収の確認ポイント
出向元が全額支給し、出向先が出向元へ負担金を支払う出向元が給与支払者として源泉徴収しているか
出向先が全額支給し、出向元が一部負担する出向先が給与支払者として源泉徴収しているか
出向元・出向先がそれぞれ支給する2か所給与として甲欄・乙欄、扶養控除等申告書の提出先を確認
給与較差補填金を出向元が直接支給出向元で源泉徴収が必要
出向先で役員報酬を支給役員給与として源泉徴収・法定調書・年末調整等を確認
転籍後法人が給与支給転籍後法人が給与支払者として源泉徴収

2か所以上から給与を受ける場合には、給与所得者の扶養控除等申告書を提出している給与が主たる給与となり、甲欄で源泉徴収します。それ以外の給与は従たる給与として、乙欄で源泉徴収することになります。
出典:国税庁|No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収

調査では、法人税上の給与負担関係と、源泉所得税上の給与支払者が混同されていないかが確認されます。法人間の費用負担と、個人への給与支払。似ていますが、これらは別の論点です。

調査で否認されやすい典型パターン

出向・転籍・給与負担金で調査指摘を受けやすいのは、次のようなケースです。

パターン主なリスク
出向契約書がない出向期間、給与負担、退職金負担を説明できない
給与負担金が固定額で、給与台帳と連動していない実費精算ではなく利益移転と見られやすい
出向先で役員なのに役員報酬決議がない役員給与として損金不算入のリスク
出向先役員の賞与に事前確定届出がない事前確定届出給与として認められない可能性
経営指導料名義で給与負担金を処理している名目と実態の不一致、消費税処理誤り
赤字子会社の人件費を親会社が負担している子会社支援・寄附金認定
転籍後の給与を転籍前法人が支払っている雇用関係終了後の費用負担として寄附金リスク
退職給与負担金の計算根拠がない過大負担・寄附金・役員退職給与リスク
出向元・出向先の源泉徴収が整理されていない源泉徴収漏れ、法定調書不備
給与負担金に消費税を上乗せしている消費税の課税仕入れ誤り
実態は人材派遣・業務委託なのに出向として処理消費税、源泉、外注費・給与区分の波及

これらは、単独で否認されるというよりも、複数の不整合が重なって問題化することがほとんどです。

たとえば、出向契約書がなく、給与負担金が毎月同額で、出向先で役員に就任しているにもかかわらず役員報酬決議がなく、請求書には消費税が記載されている。こうした状態では、法人税・源泉所得税・消費税という複数の税目で説明を求められることになります。

調査対応では、事実・契約・会計処理・税務判断を分けて整理する

税務調査で出向・転籍・給与負担金を指摘されたとき、まず行うべきは、反論ではなく整理です。

次の順番で確認していくと、論点が見えやすくなります。

1. 人の動きの事実を整理する

はじめに、出向者・転籍者ごとに、いつ、どの法人からどの法人へ移動したのかを整理します。出向なのか転籍なのか、復帰予定はあるのか、出向先で役員になったのか。ここを押さえます。

整理項目内容
対象者氏名、所属、役職、職務内容
移動形態出向、転籍、派遣、業務委託
期間開始日、終了予定日、復帰日、転籍日
勤務実態勤務場所、指揮命令者、業務内容
役員就任取締役、監査役、執行役員等への就任有無
給与支払者出向元、出向先、双方支給の別
社会保険資格関係、給与支払との整合性

2. 契約・決議を確認する

次に、出向契約書、転籍契約書、役員報酬決議、退職給与規程を確認します。

出向先で役員となっている場合は、出向契約だけでなく、出向先法人での株主総会等の決議が重要になります。出向元で給与を支給しているという事実だけでは、出向先の役員給与規制を回避することはできません。

3. 給与・賞与・退職金の負担計算を確認する

給与負担金の金額が、給与台帳、賞与明細、退職金計算書、負担割合と一致しているかを確認します。

特に、次の差額については説明が必要です。

差額確認すべきこと
出向元支給額と出向先負担額の差額給与較差補填か、過大負担か
出向先給与水準との差額出向元が処遇維持のため負担すべきものか
賞与負担の差額算定期間と支給対象期間に対応しているか
退職金負担の差額出向期間・転籍前後期間に対応しているか
固定額負担と実費との差額合理的な定額精算か、利益移転か

4. 会計処理と申告調整を確認する

同じ支出でも、会計処理と税務調整が異なる場合があります。

処理確認すること
給与負担金給与、福利厚生費、経営指導料などの科目名と実態
雑収入出向元側で受け取った負担金の処理
寄附金過大負担・無償負担部分の有無
受贈益受領法人側の処理、グループ法人税制
役員給与定期同額給与、事前確定届出給与、不相当に高額部分
消費税課税・不課税、仕入税額控除の可否
源泉所得税給与支払者、甲欄・乙欄、法定調書

5. 調査官への説明資料を作る

口頭で「グループ内の出向です」と説明するだけでは、十分とはいえません。

出向者ごとに、次のような1枚資料を作っておくと、論点が整理しやすくなります。

項目記載内容
出向者・転籍者氏名、役職、出向元・出向先
期間出向開始日、終了予定日、転籍日
職務内容出向先での業務、役員就任の有無
給与支払支払者、支給額、源泉徴収
負担金負担者、金額、計算根拠
賞与算定期間、支給者、負担者
退職金負担区分、計算方法、支出時期
消費税課税・不課税の整理
根拠資料契約書、議事録、給与台帳、明細書

説明資料の目的は、調査官を説得することではありません。事実関係を誤解されないようにすることです。資料の出し方を誤ると、本来争点ではなかった部分まで確認が広がってしまうことがあります。

修正申告に応じる前に確認すべきこと

出向・転籍・給与負担金について調査官から指摘を受けた場合、すぐに修正申告へ応じるのではなく、指摘内容を分解して確認することが大切です。

確認事項検討内容
指摘対象月例給与、賞与、退職金、経営指導料、消費税のどれか
対象法人出向元、出向先、グループ親会社、転籍前後法人のどこか
否認理由寄附金、役員給与、源泉漏れ、消費税誤りのどれか
事実認定出向か転籍か、使用人か役員か、実際の勤務先はどこか
金額計算過大負担部分、給与較差部分、退職金負担部分の計算
証拠資料契約書、決議、給与台帳、勤務実績、支払記録
他税目への波及源泉所得税、消費税、地方税、外形標準課税等
翌期以降同じ処理を続けてよいか、契約・規程を見直すべきか

調査官の指摘が一部正しい場合でも、全額が否認対象になるとは限りません。給与負担金のうち適正な部分、給与較差補填として説明できる部分、寄附金とされる可能性がある部分、消費税処理を修正すべき部分。これらを分けて検討することが重要です。

重加算税リスクが問題になる場面

出向・転籍・給与負担金の処理に誤りがあったとしても、それが直ちに重加算税につながるわけではありません。

出向と転籍の区分、給与負担金の適正額、退職給与負担金の計算方法。これらは、事実関係と契約内容によって判断が分かれることがあります。単なる判断誤りや、契約書の整備不足というだけで、直ちに隠蔽・仮装があったとはいえません。

ただし、次のような事情がある場合には、重加算税リスクも含めて慎重に整理する必要があります。

リスクの高い事情問題点
実際は役員報酬なのに経営指導料として処理した役員給与規制を避ける意図を疑われやすい
実態は給与負担金なのに消費税課税取引として請求書を作成した消費税の仕入税額控除を受けるための仮装と見られる可能性
出向契約書を調査後に遡及作成した後付け資料として信用性が問題になる
実際に勤務していない者の給与負担金を計上した架空人件費・関係会社支援の疑い
出向先役員の賞与を別名目で支給した事前確定届出給与・役員給与規制の回避と見られる可能性
転籍後の給与を旧法人費用として処理し続けた実態と会計処理の乖離
調査時に虚偽説明をした質問応答記録書等で不利な証拠化の可能性

不利な事情があるときほど、資料を隠すのではなく、事実関係を時系列で確認することが大切です。誤りは誤りとして認め、判断根拠がある部分は根拠を示す。こうして整理していく姿勢が求められます。

調査後に整えるべき社内ルール

出向・転籍の処理は、税務調査のたびに個別判断していると、同じ問題を何度も繰り返すことになります。

調査後は、次のような社内ルールを整備しておくことが重要です。

ルール整備内容
出向契約書の標準化出向期間、職務内容、給与負担、賞与、退職金、復帰条件
転籍契約書の標準化転籍日、雇用関係終了、給与条件、退職金通算、負担区分
給与負担金明細個人別、月別、給与項目別の負担計算
役員就任時チェック株主総会決議、役員報酬決議、事前確定届出給与
賞与負担ルール算定期間、負担法人、未払計上、給与較差補填
退職金負担ルール在職期間按分、要支給額方式、支出時期
消費税チェック出向給与負担金と人材派遣料の区分
源泉所得税チェック給与支払者、扶養控除等申告書、甲欄・乙欄
グループ法人税制チェック完全支配関係、寄附金、受贈益
決算前レビュー出向者一覧、関係会社間精算、未払・仮払整理

出向・転籍は、人事部門、経理部門、税務担当、労務担当が、それぞれ別々に管理していることが多い論点です。税務調査で問題になる会社ほど、人事発令と会計処理がつながっていません。

「人事では出向」「経理では経営指導料」「税務では給与負担金」「消費税では課税仕入れ」。このように、部門ごとに異なる理解で処理している場合は、早急な整理が必要です。

出向・転籍・給与負担金に不安がある場合は早めに整理を

出向・転籍・給与負担金は、単なる人件費の精算ではありません。

出向契約、勤務実態、給与支払、費用負担、役員給与、賞与、退職金、寄附金、源泉所得税、消費税。これらが一つにつながっています。税務調査では、そのつながりを後から説明できるかどうかが問われます。

特に、次のような状況がある場合には、早めの整理をおすすめします。

  • 出向契約書や転籍契約書がない
  • 出向者の給与負担金を固定額で処理している
  • 出向先で役員になっている者の給与負担金がある
  • 経営指導料や業務支援料の中に人件費相当額が含まれている
  • 親会社が子会社の人件費を負担している
  • 給与較差補填金の計算根拠が曖昧である
  • 出向者の賞与・退職金負担が未整理である
  • 転籍者の退職金について勤続年数通算がある
  • 給与負担金に消費税を付けて請求している
  • 源泉徴収の支払者整理に不安がある
  • 税務調査で寄附金または役員給与を指摘された

犬飼公認会計士・税理士事務所では、出向・転籍・給与負担金について、契約書、給与台帳、役員報酬決議、関係会社間精算、寄附金リスク、源泉所得税、消費税まで、一体で整理します。

「グループ内だから問題ない」ではなく、「どの法人が、どの期間の、どの人件費を、なぜ負担すべきか」を説明できる状態にしておく。これが何より重要です。出向・転籍・給与負担金の処理に不安がある場合は、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り|出向・転籍・給与負担金の調査ポイント

論点調査で確認されること実務上の対応
出向と転籍の区分雇用関係が維持されているか、終了しているか人事発令、出向契約、転籍契約を確認する
出向契約出向期間、職務、給与負担、退職金負担が定められているか標準契約書を整備する
給与負担金出向先が自己の負担すべき給与相当額を負担しているか給与台帳と負担金明細を紐づける
使用人出向出向先の使用人給与として損金算入できるか勤務実態、職務内容、負担額を整理する
役員出向出向先の役員給与規制が適用されるか株主総会決議、出向契約、届出を確認する
経営指導料名義実態が給与負担金か役務提供対価か名目ではなく実態で区分する
給与較差補填金出向元が負担すべき給与条件差か出向元・出向先の給与水準を比較する
賞与算定期間、支給者、負担者が一致しているか賞与規程、通知、支払時期を確認する
退職給与負担金出向期間に対応する金額として合理的か負担区分、計算根拠、支出時期を整理する
転籍者退職金転籍前後の在職期間と負担区分が合理的か在職期間按分、要支給額方式等を検討する
寄附金本来相手方法人が負担すべき費用を負担していないか過大負担・無償負担部分を切り分ける
グループ法人税制法人による完全支配関係があるか寄附金・受贈益の申告調整を確認する
消費税出向給与負担金を課税仕入れにしていないか出向、人材派遣、業務委託を区分する
源泉所得税誰が給与を実際に支払っているか給与支払者、甲欄・乙欄、法定調書を確認する
重加算税リスク後付け契約、虚偽名目、架空人件費がないか事実確認と説明資料を早期に整える
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