控除対象外消費税・課税売上割合・個別対応方式|不動産取得・非課税売上がある場合の税務調査対応

消費税の税務調査では、仕入税額控除が論点になる場面が少なくありません。請求書やインボイスがきちんと保存されているか、課税仕入れに該当するか、登録番号や税率区分に不備がないか——こうした点はもちろん重要です。

ただ、消費税の調査には、もう一段深い論点があります。それが、課税売上割合、個別対応方式、一括比例配分方式、控除対象外消費税額等をめぐる問題です。

特に、不動産業、医療・介護、金融・保険、住宅賃貸、学校法人、社会福祉法人、持株会社、M&A直後の会社、設備投資が大きい会社などでは、仕入税額控除は「支払った消費税を全額控除できるか」という単純な話では終わりません。

課税売上と非課税売上が混在している場合、課税仕入れに係る消費税額のうち、控除の対象になるのは課税売上に対応する部分だけです。その結果、控除しきれない仮払消費税等、つまり控除対象外消費税額等が生じます。

この論点は、単なる消費税申告の計算問題にとどまりません。税務調査では、次のような点について説明を求められます。

  • なぜその売上を課税・非課税・不課税・免税に区分したのか
  • なぜその仕入れを課税売上対応・非課税売上対応・共通対応に区分したのか
  • なぜ個別対応方式を選択したのか、あるいは一括比例配分方式を選択したのか
  • 控除できなかった消費税を、法人税・所得税の上でどのように処理したのか
  • 固定資産の取得後に、課税売上割合が変動していないか
  • 不動産の取得や住宅賃貸建物について、特別な制限を見落としていないか

本稿では、控除対象外消費税・課税売上割合・個別対応方式という論点を、税務調査対応の視点から整理してみたいと思います。

目次

仕入税額控除は「支払った消費税をすべて控除する制度」ではない

消費税の納付税額は、売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を差し引いて計算します。この仕組みが、いわゆる仕入税額控除です。

もっとも、仕入税額控除は、課税仕入れ等に係る消費税額を常に全額控除できる制度ではありません。

課税期間中の課税売上高が5億円以下で、かつ課税売上割合が95%以上であれば、原則として課税仕入れ等に係る消費税額を全額控除できます。一方、課税売上高が5億円を超える場合や、課税売上割合が95%未満となる場合には、個別対応方式または一括比例配分方式によって、課税売上に対応する部分だけを控除することになります。
出典:国税庁|No.6401 仕入控除税額の計算方法

この区分が重要になるのは、非課税売上がある事業者では、課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除できなくなるためです。

たとえば、次のような売上がある場合が典型です。

  • 土地の譲渡
  • 住宅の貸付け
  • 社会保険診療報酬
  • 介護保険サービスのうち非課税となるもの
  • 有価証券の譲渡
  • 貸付金利息
  • 保険料収入
  • 一定の学校教育に関する収入

これらの非課税売上は、消費税が課されないという意味では、一見すると有利に見えるかもしれません。しかし、仕入税額控除の場面では、非課税売上に対応する仕入れに係る消費税額を控除できない、あるいは一部しか控除できないという影響をもたらします。

つまり非課税売上は、「売上に消費税がかからない」というだけでなく、「仕入側の消費税控除を制限する」という性質をあわせ持っているわけです。

課税売上割合とは何か

課税売上割合は、仕入税額控除の範囲を決めるうえで欠かせない割合です。大まかには、次のように捉えていただければよいでしょう。

課税売上割合 = 課税売上高 ÷ 総売上高

ここでいう課税売上高には、国内における課税資産の譲渡等の対価の額に加えて、輸出免税売上も含まれます。総売上高は、課税売上高と非課税売上高の合計です。不課税取引は、原則として課税売上割合の計算対象には含めません。
出典:国税庁|No.6921 控除できなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)の処理

実務上、課税売上割合の計算で誤りが生じやすいのは、次のような場面です。

ひとつは、非課税売上と不課税売上を混同する場面です。土地の譲渡や住宅の貸付けは非課税売上ですから、課税売上割合の分母に影響します。一方で、国外取引や損害賠償金など、そもそも消費税の課税対象外となるものは、原則として分母には入れない整理になります。

もうひとつは、輸出免税売上を非課税売上と同じように扱ってしまう場面です。輸出免税は「税率がゼロに近い扱い」と理解しておくと、実務上は分かりやすいかもしれません。課税売上割合の計算では課税売上側に含めます。したがって、非課税売上が増えると課税売上割合は下がりますが、輸出免税売上が増えても課税売上割合は下がりにくい、という違いが出てきます。

また、有価証券の譲渡については、譲渡対価の全額をそのまま分母に入れるのではなく、一定の取扱いがあります。非課税となる有価証券等の譲渡について、課税売上割合の分母に含める金額の考え方が整理されています。
出典:国税庁|非課税となる有価証券の範囲と課税売上割合の関係

税務調査では、課税売上割合の計算表だけでは十分とはいえません。課税売上・非課税売上・不課税売上・免税売上を、どのような取引事実に基づいて区分したのか。そこまで確認されます。

95%判定は四捨五入で救われない

課税売上割合が95%以上かどうかは、全額控除できるかどうかに直結します。

ここで注意していただきたいのが、課税売上割合の端数処理です。たとえば課税売上割合が94.856%で、小数点以下を四捨五入すれば95%になるとしても、それで95%以上として全額控除できるわけではありません。

個別対応方式または一括比例配分方式の計算で用いる課税売上割合については、端数処理は行わないこととされています。任意の位以下の端数を切り捨てた数値で計算することは差し支えありませんが、四捨五入は認められません。
出典:国税庁|課税売上割合の端数処理

これは、税務調査ではかなり実務的な指摘になり得るところです。「ほぼ95%だから全額控除でよいだろう」といった感覚的な判断は通用しません。95%以上かどうかは、計算根拠を明確にしたうえで確認する必要があります。

さらに、課税売上高が5億円を超える場合には、課税売上割合が95%以上であっても全額控除はできません。個別対応方式または一括比例配分方式によって、仕入控除税額を計算することになります。
出典:国税庁|課税売上高が5億円超の場合の仕入税額控除の計算

つまり、確認すべき判定は二つあります。

  • 課税売上割合が95%以上か
  • 課税売上高が5億円以下か

このどちらか一方でも要件を満たさなければ、全額控除ではなく、個別対応方式または一括比例配分方式の検討へと進むことになります。

個別対応方式とは何か

個別対応方式は、課税仕入れ等に係る消費税額を次の三つに区分して、仕入控除税額を計算する方法です。

区分内容控除の考え方
課税売上対応課税売上にのみ要する課税仕入れ等全額控除
非課税売上対応非課税売上にのみ要する課税仕入れ等控除不可
共通対応課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入れ等課税売上割合を乗じて控除

計算式で表すと、次のようになります。

仕入控除税額 = 課税売上対応の税額 + 共通対応の税額 × 課税売上割合

個別対応方式は、課税仕入れ等に係る消費税額を「課税売上げにのみ要するもの」「非課税売上げにのみ要するもの」「課税売上げと非課税売上げに共通して要するもの」に区分し、その区分がされている場合に限って採用できる方法です。
出典:国税庁|No.6401 仕入控除税額の計算方法

ここで大切なのは、単に会計ソフト上の税区分を設定すれば足りる、というものではない点です。その課税仕入れが、どの売上に対応しているのかを、取引の実態から説明できることが求められます。

たとえば、不動産会社が販売用建物のリフォーム費用を支払ったとします。その建物が、課税売上となる建物販売に対応するのか、非課税売上となる土地販売に対応するのか、あるいは土地建物一体の販売に共通するのか。こうした整理が必要になります。

医療機関であれば、保険診療、自由診療、物販、文書料、産業医報酬といった収入区分に応じて、仕入れや経費がどの収入に対応するのかが問題になります。

持株会社であれば、配当、株式譲渡、経営指導料、不動産賃貸、グループ会社への役務提供などが混在します。管理部門経費やアドバイザリー費用の用途区分が論点になることも珍しくありません。

税務調査で実際に見られるのは、次のような点です。

  • 請求書の内容
  • 契約書の目的
  • 支払稟議
  • 物件の利用状況
  • 部門別損益
  • 床面積・人員・利用時間などの配賦基準
  • 売上区分と仕入区分の対応関係
  • 会計ソフトの税区分設定
  • 決算時のチェック資料

個別対応方式は、理論上は実態に近い計算方法といえます。しかし、資料が不十分なまま「課税売上対応」として全額控除している場合には、調査で否認されるリスクが高まります。

用途区分は「後から都合よく決めるもの」ではない

個別対応方式の実務で、最も争点になりやすいのが用途区分です。

用途区分とは、その課税仕入れ等が、課税売上にのみ対応するのか、非課税売上にのみ対応するのか、それとも共通対応なのかを区分することをいいます。

この区分は、「消費税額を多く控除したいから課税売上対応にする」というものではありません。その支出が、取引の実態として何のために行われたのかによって判断します。

具体的には、たとえば次のように整理します。

支出例考えられる用途区分注意点
課税商品を販売するための仕入れ課税売上対応商品の販売形態・売上区分と整合させる
販売用土地の造成費非課税売上対応となり得る土地譲渡は非課税売上のため、個別対応方式では控除不可となり得る
本社家賃・会計顧問料・共通システム費共通対応となり得る課税・非課税双方の事業に関わるか確認する
住宅賃貸用建物の取得費原則として仕入税額控除制限に注意居住用賃貸建物の特別ルールを確認する
課税賃貸用店舗の改装費課税売上対応となり得る実際の賃貸用途・契約内容を確認する
社会保険診療と自由診療がある医療機関の共通経費共通対応となり得る保険診療部分は非課税売上である点に注意する

実務上、販売用土地の造成費や住宅賃貸建物に係る支出は、控除対象外消費税が大きくなりやすく、調査でも重点的に確認されるところです。

販売用土地の造成費は、非課税売上対応の課税仕入れに該当し得るため、個別対応方式では控除できません。一方、一括比例配分方式であれば、課税売上割合分だけ控除できる可能性があります。

ただ、税額だけを見て方式を選ぶのは危険です。一括比例配分方式には継続適用の制限がありますので、当期だけでなく、翌期以降を含めた影響まで見ておく必要があります。

一括比例配分方式とは何か

一括比例配分方式は、課税仕入れ等に係る消費税額の合計額に課税売上割合を乗じて、仕入控除税額を計算する方法です。

計算式はシンプルです。

仕入控除税額 = 課税仕入れ等に係る消費税額 × 課税売上割合

この方式は、個別対応方式のように課税売上対応・非課税売上対応・共通対応へ区分する必要がないため、事務負担は軽くなります。

その一方で、課税売上対応の仕入れが多い事業者にとっては、個別対応方式より不利になることがあります。課税売上対応の仕入れであっても、課税売上割合分しか控除できないためです。

反対に、非課税売上対応の課税仕入れが多額にある場合には、一括比例配分方式のほうが有利になる可能性があります。個別対応方式では非課税売上対応の仕入税額を控除できませんが、一括比例配分方式であれば課税売上割合分だけは控除されるからです。

一括比例配分方式は、課税仕入れ等に係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算する方式です。個別対応方式で計算できる事業者も、選択により一括比例配分方式を採用できます。ただし、いったん一括比例配分方式を選択した場合は、2年間以上継続して適用した後でなければ、個別対応方式へ変更することはできません。
出典:国税庁|一括比例配分方式とは

実務上も、一括比例配分方式は事務負担こそ軽いものの、この2年間の継続適用要件が効いてきます。非経常的な設備投資や不動産取得がある年度だけを見て選択してしまうと、翌期以降に不利な影響が残ることがあるのです。

税務調査では、方式選択そのものよりも、次の点が確認されます。

  • 一括比例配分方式を選択した年度
  • 2年間の継続適用要件を守っているか
  • 翌期に個別対応方式へ戻していないか
  • 課税売上割合の計算が正しいか
  • 非課税売上を除外していないか
  • 方式選択に関する社内メモや申告書付表との整合性

「今年は一括比例配分方式が有利だから一括比例、翌年は個別対応方式が有利だから個別対応」といった自由な使い分けはできない、という点を押さえておく必要があります。

個別対応方式と一括比例配分方式の比較

両方式の違いを整理すると、次のようになります。

項目個別対応方式一括比例配分方式
基本構造課税仕入れを3区分して計算課税仕入れ全体に課税売上割合を乗じて計算
事務負担重い軽い
課税売上対応仕入れ全額控除課税売上割合分のみ控除
非課税売上対応仕入れ控除不可課税売上割合分を控除
共通対応仕入れ課税売上割合分を控除課税売上割合分を控除
課税売上割合に準ずる割合適用可能適用不可
継続適用制限なし原則2年間の継続適用
調査上の争点用途区分の根拠継続適用・課税売上割合の正確性

個別対応方式は、きちんと用途区分ができる事業者にとっては合理的な方法です。反面、その区分を説明できなければ、調査で争点になりやすいともいえます。

一括比例配分方式は、用途区分の手間は減りますが、2年間の継続適用と税額への影響を見落とすと、翌期以降に不利な結果を招くことがあります。

方式の選択にあたっては、少なくとも次の視点が必要でしょう。

  • 当期の税額だけでなく、翌期以降の課税売上割合を見込む
  • 不動産取得、設備投資、土地売却、有価証券売却などの非経常取引を把握する
  • 用途区分に耐えられる資料があるかを確認する
  • 一括比例配分方式の2年継続を前提に比較する
  • 課税売上割合に準ずる割合の承認申請の余地を検討する
  • 法人税・所得税上の控除対象外消費税額等の処理まで確認する

課税売上割合に準ずる割合を使える場合

課税売上割合は、事業全体の売上構成を基準として、仕入税額控除を按分する割合です。

しかし、事業内容によっては、事業全体の課税売上割合を共通対応仕入れにそのまま当てはめると、かえって実態を反映しないことがあります。

たとえば、たまたま土地を売却したことで課税売上割合が大きく下がった、というケースです。このとき、本来の事業活動に係る共通経費についてまで控除額が大きく減ってしまうことがあります。こうした場合には、一定の要件のもとで、課税売上割合に準ずる割合の承認を受けることを検討します。

課税売上割合により計算した仕入控除税額が事業の実態を反映していないなど、課税売上割合に準ずる割合によって計算するほうが合理的である場合には、課税売上割合に代えて準ずる割合を用いることができます。具体的な基準としては、使用人の数、従事日数、資産の価額、使用数量、使用面積の割合などが挙げられています。
出典:国税庁|No.6417 課税売上割合に準ずる割合

ただし、課税売上割合に準ずる割合は、個別対応方式で共通対応仕入れを按分する場合に用いるものです。一括比例配分方式では適用できません。準ずる割合はあくまで個別対応方式に限られ、一括比例配分方式では使えない、と整理しておくのがよいでしょう。

承認手続にも注意が必要です。課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請は、承認を受けた日の属する課税期間から適用できるものとされています。もっとも、一定の場合には、適用を受けようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、その翌日から1か月を経過する日までの間に承認を受けたときは、その課税期間の末日に承認があったものとみなされます。
出典:国税庁|D1-27 消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請手続

税務調査では、課税売上割合に準ずる割合について、次の点が確認されます。

  • 税務署長の承認を受けているか
  • 承認を受けた割合と、申告で使った割合が一致しているか
  • その割合が事業実態を反映しているか
  • 従業員数、床面積、使用時間、資産価額などの基礎資料が保存されているか
  • たまたまの土地譲渡などを理由とする場合、その取引が本当に一時的なものか
  • 事業部門ごとの割合を使う場合、部門区分が恣意的でないか

「課税売上割合が低くなると不利だから、別の割合を使う」という発想だけでは足りません。合理的な配賦基準と、適正な承認手続があってはじめて認められるものだとお考えください。

控除対象外消費税額等とは何か

控除対象外消費税額等とは、税抜経理方式を採用している場合に、仮払消費税等として処理したものの、仕入税額控除できなかった金額をいいます。

税抜経理方式を採用していて、課税売上高が5億円超または課税売上割合が95%未満であるときは、仕入控除税額が課税仕入れ等に対する消費税額等の全額ではなく、課税売上げに対応する部分の金額にとどまります。その差額として、控除対象外消費税額等が生じることになります。
出典:国税庁|No.6921 控除できなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)の処理

ここで気をつけたいのは、控除対象外消費税額等の処理は、消費税だけでは完結しないという点です。

税抜経理方式では、控除できない仮払消費税等を、法人税・所得税の上でどのように処理するかを確認しなければなりません。なお、税込経理方式を採用している場合には、消費税等は資産の取得価額または経費の額に含まれますので、原則として特別な処理は必要ありません。
出典:国税庁|No.6921 控除できなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)の処理

税務調査では、おおむね次のような確認がされます。

  • 税抜経理方式か、税込経理方式か
  • 控除対象外消費税額等を、雑損失・租税公課・固定資産・繰延消費税額等のどこで処理しているか
  • 資産に係るものと経費に係るものを区分しているか
  • 固定資産台帳と控除対象外消費税額等の処理が一致しているか
  • 交際費等に係る控除対象外消費税額等を、交際費等の額に加算しているか
  • 所得税の必要経費処理、法人税の損金経理要件を満たしているか

控除対象外消費税は、消費税申告書上の計算誤りだけでなく、法人税申告書や決算書の誤りにもつながり得ます。

資産に係る控除対象外消費税額等の処理

控除対象外消費税額等が資産に係るものである場合、その処理にはいくつかの選択肢があります。考え方を整理すると、次のとおりです。

まず、その資産の取得価額に算入し、その後の減価償却費等として、損金または必要経費に算入していく方法があります。

次に、課税売上割合が80%以上である場合、棚卸資産に係る控除対象外消費税額等である場合、または一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満である場合には、扱いが変わります。法人税では損金経理を要件としてその事業年度の損金に算入でき、所得税では全額をその年分の必要経費に算入することができます。

これらに該当しない場合には、繰延消費税額等として資産計上し、法人税では原則として60か月で損金算入していきます。なお、取得した事業年度については、その計算額の2分の1相当額が限度となります。
出典:国税庁|No.6921 控除できなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)の処理

この処理は、実務上、かなり見落とされやすいところです。

たとえば、課税売上割合が低い不動産会社が建物を取得した場合、仕入税額控除できない消費税額が多額になることがあります。この金額を、単純に当期の損金にしてよいとは限りません。資産に係る控除対象外消費税額等として取得価額に算入するのか、繰延消費税額等として処理するのか、それとも損金経理によって当期に損金算入できるのか。ここを確認する必要があります。

税務調査では、固定資産台帳、減価償却明細、消費税申告書、法人税申告書別表、決算仕訳が、横断的に確認されます。

経費に係る控除対象外消費税額等の処理

控除対象外消費税額等が、資産に係るものではなく経費に係るものである場合には、原則として、法人税ではその事業年度の損金に、所得税ではその年分の必要経費に算入されます。

ただし、交際費等に係る控除対象外消費税額等については注意が必要です。資産に係るもの以外の控除対象外消費税額等は、法人税では全額をその事業年度の損金に算入します。しかし、そのうち交際費等に係る控除対象外消費税額等に相当する金額は、交際費等の額に加算したうえで、交際費等の損金不算入額を計算することになります。
出典:国税庁|No.6921 控除できなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)の処理

この点は、まさに消費税と法人税の接点といえます。

消費税申告で控除対象外となった金額を、法人税側でどの費用に紐づけるか。その判断によって、交際費等の損金不算入額、固定資産の取得価額、少額減価償却資産の判定、税務調整といった部分に影響が及ぶことがあります。

税務調査でも、消費税の論点として始まった指摘が、法人税の損金処理、減価償却、交際費等の損金不算入へと波及していく、ということが起こり得ます。

居住用賃貸建物の仕入税額控除制限に注意する

不動産取得がある場合には、居住用賃貸建物の仕入税額控除制限にも目を配っておく必要があります。

事業者が国内で行う居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額については、仕入税額控除の対象となりません。ただし、その後一定期間内に課税賃貸用に供した場合や、譲渡した場合には、仕入れに係る消費税額を調整する制度が設けられています。
出典:国税庁|居住用賃貸建物に係る控除対象外消費税額等について

ここでいう居住用賃貸建物とは、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物で、高額特定資産または調整対象自己建設高額資産に該当するものをいいます。建物の構造や設備からみて、住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなもの、たとえばすべてが店舗である建物などは、別の判断になります。
出典:国税庁|居住用賃貸建物に係る控除対象外消費税額等について

税務調査では、不動産取得時の用途、賃貸借契約、入居募集資料、建物構造、フロアごとの利用状況、取得後の用途変更、売却の有無などが確認されます。

「将来は店舗や民泊にする予定だった」「一部を事務所として使うつもりだった」——こうした説明だけでは、残念ながら十分とはいえません。契約、使用実態、収入区分、建物の客観的な状況を、資料で説明できる状態にしておくことが求められます。

調整対象固定資産と課税売上割合の変動

固定資産については、取得した年度だけで判断が終わらない場合があります。

課税事業者が、調整対象固定資産の課税仕入れ等に係る消費税額を比例配分法により計算した場合で、その後の課税売上割合が著しく増加または減少したときは、第3年度の課税期間において、仕入控除税額の調整を行うことがあります。

ここでいう調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、建物・附属設備・構築物・機械装置・車両運搬具・工具器具備品などのうち、一の取引単位の税抜価額が100万円以上のものをいいます。
出典:国税庁|No.6421 課税売上割合が著しく変動したときの調整

この調整は、とりわけ次のような場面で問題になります。

  • 初年度に大型の設備投資をした
  • 建物を取得した
  • 当初は課税売上割合が高かった
  • その後、住宅賃貸や土地譲渡などの非課税売上が増えた
  • 逆に、当初は課税売上割合が低かったが、その後課税売上が増えた
  • 取得後3年以内に用途が変わった
  • 簡易課税や免税事業者への移行を挟んだ

実務上も、調整対象固定資産について比例配分法で計算した場合に、課税売上割合が著しく減少したときには、第3年度の課税期間で仕入控除税額から控除する調整が行われる、と整理しておくのがよいでしょう。

税務調査では、固定資産台帳だけでなく、取得年度から第3年度までの課税売上割合、資産の保有状況、用途変更、除却・売却の有無まで確認されます。

固定資産を取得した年度の消費税申告だけを見ていると、翌期以降の調整を見落としてしまう。そういうことが起こり得る論点です。

税務調査で確認される主な資料

控除対象外消費税・課税売上割合・個別対応方式に関する調査では、次のような資料を準備しておく必要があります。

資料確認される内容
消費税申告書・付表課税売上割合、仕入控除税額、方式選択
課税売上割合計算表課税・非課税・不課税・免税の区分
総勘定元帳売上区分、仕入区分、仮払消費税等
売上台帳課税売上・非課税売上の発生根拠
契約書取引内容、用途、賃貸条件、譲渡対象
請求書・インボイス課税仕入れの内容、税率、相手方
物件資料土地・建物の利用状況、賃貸区分
固定資産台帳調整対象固定資産、取得価額、用途
部門別損益用途区分、共通費配賦の根拠
床面積・人員・使用時間資料課税売上割合に準ずる割合や配賦基準
税務署長の承認通知課税売上割合に準ずる割合の適用根拠
決算整理仕訳控除対象外消費税額等の法人税・所得税処理
稟議書・経営会議資料不動産取得、設備投資、用途変更の意思決定

仕入税額控除の適用を受けるには、法定事項が記載された帳簿および請求書等の保存が要件とされています。インボイス制度のもとでは、適格請求書等の保存に加えて、税率ごとの区分経理も重要になります。
出典:国税庁|No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項

もっとも、本稿の論点では、請求書を保存しているだけでは足りません。税務調査で問われるのは、その保存された請求書が「どの売上に対応する支出なのか」という点だからです。

よくある指摘事項

控除対象外消費税・課税売上割合・個別対応方式の論点では、次のような指摘が起こりやすいといえます。

非課税売上を分母に入れていない

土地売却、住宅賃貸、有価証券譲渡、貸付金利息などを、課税売上割合の分母に入れ忘れているケースです。

特に、会計上は営業外収益や特別利益に計上されている収入が、消費税計算上は非課税売上として課税売上割合に影響することがあります。

不課税売上と非課税売上を混同している

補助金、損害賠償金、国外取引、出資金払込などは、取引内容によって不課税となる場合があります。一方、土地の譲渡や住宅の貸付けは非課税売上です。

この違いを誤ると、課税売上割合そのものが誤ってしまいます。

共通対応仕入れをすべて課税売上対応にしている

本社経費、広告宣伝費、会計顧問料、システム利用料、管理部門人件費に関連する外注費などを、すべて課税売上対応として処理しているケースです。

課税売上と非課税売上の双方に関係する支出であれば、共通対応として整理すべき場合があります。

非課税売上対応仕入れを共通対応にしている

販売用土地の造成費や、住宅賃貸用建物に関連する費用など、非課税売上に直接対応する支出を共通対応として、一部控除しているケースです。

この論点は、不動産取得や不動産開発の場面で、特に問題になります。

一括比例配分方式の2年継続を失念している

一括比例配分方式を選択した翌期に、個別対応方式へ戻してしまっているケースです。

申告書の作成時には気づきにくく、税務調査や税務デューデリジェンスではじめて発覚することがあります。

控除対象外消費税額等の法人税処理が誤っている

資産に係る控除対象外消費税額等を全額当期費用にしている、繰延消費税額等の償却期間を誤っている、交際費等に係る控除対象外消費税額等を交際費等に加算していない、といった誤りです。

調査官への説明では「計算表」だけでなく「判断過程」を示す

この論点の調査対応で大切なのは、申告書の数字だけを説明しようとしないことです。

課税売上割合や個別対応方式について説明する際は、次の順序で整理しておくと、調査官との認識のズレを小さくできます。

まず、売上を区分します。課税売上、非課税売上、不課税売上、免税売上を一覧にして、それぞれの根拠となる契約書、請求書、取引内容を対応させておきます。

次に、仕入れを区分します。大口仕入れ、固定資産取得、共通費、不動産関連費用、専門家報酬、広告費、システム費用などについて、課税売上対応・非課税売上対応・共通対応の区分を示します。

そのうえで、課税売上割合を計算します。分母・分子に含めたもの、除外したもの、特殊な取引の処理を、明確にしておきます。

最後に、控除対象外消費税額等の処理を示します。消費税申告書、法人税申告書、固定資産台帳、決算書の整合性を確認します。

この整理ができていないと、調査官からの質問に対して場当たり的な回答になりがちで、後から説明を修正することになります。説明の修正が重なると、たとえ単なる計算ミスであっても、管理体制や資料の信頼性そのものに疑問を持たれてしまうことがあります。

修正申告を検討する場合の判断

税務調査で誤りが見つかったとしても、ただちに修正申告に応じるべきだとは限りません。

まずは、指摘の内容を分けて整理します。

  • 課税売上割合の計算誤りか
  • 売上区分の誤りか
  • 仕入れの用途区分の誤りか
  • 方式選択の誤りか
  • 一括比例配分方式の継続適用漏れか
  • 控除対象外消費税額等の法人税処理の誤りか
  • 固定資産取得後の調整漏れか
  • 居住用賃貸建物の仕入税額控除制限の見落としか

次に、根拠資料を確認します。

  • 調査官の指摘が、事実関係に基づいているのか
  • 契約書や請求書から、別の説明が可能か
  • 用途区分について、合理的な資料があるか
  • 課税売上割合に準ずる割合の承認や、配賦基準が存在するか
  • 処理誤りが単年度で完結するのか、それとも翌期以降にも波及するのか

消費税の誤りは、法人税・所得税にも影響することがあります。控除対象外消費税額等の処理を修正する場合には、減価償却費、繰延消費税額等、交際費等、棚卸資産、固定資産台帳まで確認しておく必要があります。

調査対応では、追徴税額だけで判断するのではなく、証拠関係、将来年度への影響、修正申告書の内容、加算税、延滞税、不服申立ての余地まで含めて検討することが重要です。

専門家なしで対応するリスク

控除対象外消費税や課税売上割合の論点は、計算式だけを眺めていると、機械的に処理できそうに見えます。

しかし実務上は、次のような判断が求められます。

  • その売上は非課税か、不課税か
  • その輸出取引は、免税売上として書類が整っているか
  • その仕入れは、課税売上対応か、非課税売上対応か、共通対応か
  • 共通対応に課税売上割合を使うと実態を反映しない場合、準ずる割合を検討すべきか
  • 一括比例配分方式を選ぶ場合、2年間の影響を織り込んでいるか
  • 不動産取得時に、居住用賃貸建物の制限を確認したか
  • 控除対象外消費税額等を、法人税上どのように処理すべきか
  • 調整対象固定資産の3年調整を確認したか

これらは、単なる入力チェックではありません。取引実態、会計処理、消費税法、法人税法、資料保存、そして調査官への説明までをつなげていく判断です。

専門家が関与する意味は、税務署とのやり取りを代行することだけにあるのではありません。むしろ、調査官から質問される前に、売上区分、仕入用途区分、控除対象外消費税、固定資産、法人税処理を整理し、説明可能な形にしておくこと。そこに大きな意味があります。

控除対象外消費税・課税売上割合に不安がある場合の相談について

控除対象外消費税や課税売上割合の誤りは、税務調査ではじめて表面化することがあります。

特に、次のような状況では、早めの確認をおすすめします。

  • 不動産を取得・売却した
  • 土地売却があった
  • 住宅賃貸収入がある
  • 社会保険診療や介護報酬など、非課税売上がある
  • 有価証券の譲渡や、配当・利息収入がある
  • 課税売上割合が95%前後で推移している
  • 課税売上高が5億円を超える年度がある
  • 個別対応方式と一括比例配分方式の選択に迷っている
  • 控除対象外消費税額等をどのように処理したか分からない
  • 固定資産取得後に、事業内容や売上構成が変わった
  • 税務調査で、消費税の仕入税額控除を確認されている

犬飼公認会計士・税理士事務所では、消費税申告書、課税売上割合計算表、売上区分、仕入用途区分、固定資産台帳、控除対象外消費税額等の法人税処理までを確認します。そのうえで、税務調査前の論点整理、調査中の説明方針、修正申告の要否、再発防止のための経理体制整備までを、一体で検討します。

消費税は、資料が残っていれば後から整理できる場面もあります。しかし、資料が不足していると、説明の選択肢そのものが狭まってしまいます。税務調査の通知を受けた段階、あるいは不動産の取得・売却や大きな設備投資を行う前の段階で、早めに確認しておくことをおすすめします。

重要事項の振り返り

論点実務上のポイント税務調査で確認されること
課税売上割合課税売上高 ÷ 総売上高で計算する非課税売上、不課税売上、免税売上の区分
95%ルール課税売上割合95%以上かつ課税売上高5億円以下で全額控除四捨五入で95%にする処理は不可
課税売上高5億円超課税売上割合が95%以上でも全額控除不可個別対応方式または一括比例配分方式の適用
個別対応方式課税売上対応、非課税売上対応、共通対応に区分用途区分の根拠資料
課税売上対応課税売上にのみ要する課税仕入れ売上との対応関係
非課税売上対応非課税売上にのみ要する課税仕入れ土地、住宅賃貸、金融取引等との関係
共通対応課税・非課税双方に共通する課税仕入れ本社経費、共通システム、管理部門費用等
一括比例配分方式課税仕入れ等の税額全体に課税売上割合を乗じる2年間の継続適用
課税売上割合に準ずる割合事業実態を反映する合理的な割合を承認により使用承認申請、配賦基準、基礎資料
控除対象外消費税額等税抜経理で控除できない仮払消費税等法人税・所得税上の処理
資産に係る控除対象外消費税額等取得価額算入、当期損金、繰延消費税額等を判定固定資産台帳、減価償却、損金経理
経費に係る控除対象外消費税額等原則として損金・必要経費交際費等への加算漏れ
居住用賃貸建物仕入税額控除制限に注意建物の用途、賃貸契約、用途変更
調整対象固定資産取得後の課税売上割合変動で調整が生じ得る第3年度までの課税売上割合、保有状況
調査対応計算表だけでなく判断過程を整理する売上区分、仕入区分、証憑、契約書、社内資料
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