報酬・料金の源泉徴収|税務調査で確認される支払先・請求書・納付実務

報酬・料金の源泉徴収は、給与の源泉徴収に比べると、どうしても見落とされやすい論点です。

給与であれば、給与計算ソフト、扶養控除等申告書、年末調整、源泉徴収票という一連の流れがあります。毎月のことですから、確認の仕組みも整いやすいといえます。

一方で、報酬・料金はそうはいきません。請求書を受け取るたびに、経理担当者や現場担当者が「外注費」「支払手数料」「広告宣伝費」「研修費」「雑費」といった勘定科目で処理しているケースが多く、源泉徴収が必要かどうかの確認が、日々の支払実務の中に埋もれてしまいがちです。

しかし税務調査では、請求書に「源泉税」と書かれているかどうかだけを見られるわけではありません。確認されるのは、もっと実態に踏み込んだ部分です。

誰に支払ったのか。その支払先は個人か、法人か、それとも非居住者か。支払った内容は、原稿料、講演料、士業報酬、デザイン料、翻訳料、通訳料、出演料、指導料などに該当しないか。消費税を含めて源泉徴収しているのか、それとも税抜金額だけを対象にしているのか。納期の特例の対象になる報酬なのか。支払調書の提出対象になっていないか。

こうした点を、契約書、請求書、支払明細、総勘定元帳、振込記録、納付書、法定調書と突き合わせながら確認していくことになります。

つまり報酬・料金の源泉徴収は、単なる請求書処理ではありません。支払者側が、支払いの性質を見極め、所得税および復興特別所得税を差し引き、期限までに納付する。そうした義務を負う実務領域です。

そして、この源泉徴収を怠ると、たとえ相手方から税額を差し引いていなかったとしても、支払者側が納税告知、不納付加算税、延滞税といった問題に向き合うことになります。

目次

報酬・料金の源泉徴収とは何か

所得税は、原則として所得者本人が申告して納付する税金です。ただし一定の所得については、支払者が支払時に所得税等を差し引き、本人に代わって国に納付する仕組みが採られています。これが源泉徴収制度です。

報酬・料金の源泉徴収とは、原稿料、講演料、弁護士・税理士等の報酬、司法書士等の報酬、芸能・モデル・スポーツ関係の報酬、外交員報酬、一定の賞金など、所得税法上定められた報酬・料金等を支払う際に、支払者が所得税および復興特別所得税を差し引いて納付する仕組みを指します。

その対象範囲は、支払いを受ける相手が「居住者」であるか「内国法人」であるかによって異なります。居住者に対する代表的な対象としては、原稿料・講演料等、弁護士・公認会計士・司法書士等の特定資格者への報酬、社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬などが挙げられます。
出典:国税庁|No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは

ここで押さえておきたいのは、「報酬」「料金」という言葉が請求書に書かれているかどうかではない、という点です。判断の軸は、あくまで所得税法上、源泉徴収の対象となる支払いに該当するかどうかにあります。

たとえば請求書の名目が「謝金」「取材費」「調査費」「車代」「顧問料」「業務委託料」であっても、その実態が原稿料、講演料、士業報酬などに当てはまるのであれば、源泉徴収の対象となり得ます。

税務調査では「勘定科目」ではなく「支払の実態」が確認される

報酬・料金の源泉徴収で最も危ういのは、勘定科目や請求書の名目だけで判断してしまうことです。

税務調査では、次のような勘定科目が確認の対象になりやすくなります。

勘定科目源泉徴収の確認が必要になりやすい支払い
支払手数料税理士、弁護士、司法書士、行政書士、コンサルタント等への支払い
外注費個人へのデザイン、翻訳、通訳、執筆、制作、講師、業務委託
広告宣伝費モデル、出演者、インフルエンサー、広告賞金、販促イベント謝礼
研修費外部講師、講演料、指導料、教材制作料
販売促進費キャンペーン賞金、紹介料、販売奨励金
交際費謝礼、車代、出演者・講師への実質的報酬
雑費少額の謝礼、単発の個人支払、名目が曖昧な支出
支払報酬士業報酬、専門家報酬、顧問料、相談料

調査官が見ているのは、「その勘定科目が正しいか」だけではありません。

支払先は個人か法人か。その支払先の職業や業務内容は何か。支払った内容は、源泉徴収対象の報酬・料金等に該当するのか。請求書の消費税欄はどう記載されているのか。支払時にきちんと源泉徴収していたか。どの納付書で、いつ納付したのか。そして、それを支払調書に反映しているか。

このように、会計処理、支払事実、税務判断、納付事務、法定調書が、一体のものとして確認されていきます。

まず確認すべき順番

報酬・料金の源泉徴収は、思いつきで「これは源泉あり」「これは源泉なし」と判断すると、誤りやすい領域です。実務では、次の順番で確認していくのが安全だと考えています。

確認順序確認する内容
1支払先が個人、法人、非居住者、外国法人のどれか
2支払者が法人か、個人か、個人の場合は給与支払者か
3支払内容が所得税法上の源泉徴収対象に該当するか
4給与等または退職手当等に該当しないか
5請求書で報酬額と消費税額が明確に区分されているか
6税率、控除額、二段階税率の有無を確認する
7納付書の種類と納付期限を確認する
8支払調書の提出対象か確認する
9調査で説明できる資料を保存する

この順番を踏むのには理由があります。源泉徴収の要否は、支払内容だけで決まるわけではないからです。

たとえば、同じ「税理士報酬」でも、個人の税理士に支払う場合と税理士法人に支払う場合とでは、源泉徴収の要否が変わってきます。同じ「講演料」でも、居住者への支払いか非居住者への支払いかによって、当てはめる判断の枠組みそのものが変わります。

支払先が個人か法人かを最初に確認する

報酬・料金の源泉徴収では、支払先がどのような相手なのか、その属性がとても重要になります。

居住者である個人に支払う場合には、所得税法204条に定める報酬・料金等に該当するかを確認します。一方、内国法人に支払う報酬・料金等については、原則として源泉徴収の対象とはなりません。

実際、税理士法人や弁護士法人に支払う報酬についても、源泉徴収の対象となるのは個人の税理士・弁護士に支払われるものに限られます。内国法人である税理士法人・弁護士法人への支払いは、源泉徴収を要しません。
出典:国税庁|No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金等

そのため税務調査では、支払先の名称だけでなく、実際の契約相手、請求書の発行者、振込先、法人番号の有無、インボイス登録番号、契約書上の名義といった点まで確認されることになります。

特に注意したいのが、屋号や事務所名です。

「〇〇デザイン事務所」「〇〇会計事務所」「〇〇コンサルティング」「〇〇行政書士事務所」「〇〇スタジオ」。

こうした名称であっても、実際には法人ではなく個人事業主、ということは珍しくありません。屋号があるから法人だ、請求書に事務所名があるから源泉徴収は不要だ、という判断はできないのです。

支払者が個人の場合は、源泉徴収義務者に該当するかを確認する

報酬・料金を支払う側が法人であれば、通常は源泉徴収義務者として検討が必要になります。少し注意がいるのは、支払者が個人事業主の場合です。

居住者に対して源泉徴収対象となる報酬・料金等を国内で支払う者は、原則として支払時に所得税および復興特別所得税を源泉徴収する必要があります。ただし、支払者が個人で、その個人が給与等の支払者でないとき、あるいは給与等の支払者であっても常時2人以下の家事使用人だけに給与を支払っているときは、一定の場合を除き、報酬・料金等について源泉徴収する必要はありません。
出典:国税庁|No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者

逆に、給与等の支払がある個人事業主の場合は、その給与等について納付すべき税額がないときであっても、源泉徴収対象となる報酬・料金等を支払う際には、源泉徴収義務が生じます。
出典:国税庁|No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者

つまり、個人事業主だから報酬・料金の源泉徴収は不要、とは言い切れないということです。

スタッフ、アルバイト、専従者への給与支払いがある個人事業主が、個人の講師、税理士、司法書士、デザイナー、翻訳者、通訳者などに報酬を支払う。こうした場面では、源泉徴収の要否を一度確認しておく必要があります。

原稿料・講演料は、名目ではなく実態で判断する

報酬・料金の中でも、原稿料や講演料は、税務調査で確認されやすい支払いです。

居住者である作家に原稿料を支払う場合、あるいは大学教授などに講演料を支払う場合には、報酬・料金等として所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。そして、謝金、取材費、調査費、車代といった名目で支払う場合であっても、その実態が原稿料や講演料と同じであれば、やはり源泉徴収の対象になります。
出典:国税庁|No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき

実務で問題になりやすいのは、次のような支払いです。

支払名目確認すべき実態
謝礼講演、執筆、監修、出演等の対価ではないか
車代実質的に講演料・出演料の一部ではないか
取材費原稿作成、記事監修、コンテンツ制作の対価ではないか
監修料原稿料、指導料、専門家報酬に該当しないか
セミナー講師料講演料、教授・指導料に該当しないか
イベント謝礼出演料、講演料、モデル報酬等に該当しないか

一方で、原稿料に似ているように見えても、試験問題の出題料や答案の採点料などは、原稿料には含まれないとされています。
出典:国税庁|No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき

ですから税務調査で説明する際には、「なぜ源泉徴収の対象と判断したのか」だけでなく、「なぜ対象外と判断したのか」についても、契約内容や支払目的から説明できるようにしておくことが大切になります。

弁護士・税理士等の士業報酬は、個人への支払いか法人への支払いかを分ける

弁護士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、弁理士などの士業報酬は、源泉徴収の対象として比較的認識されやすい支払いだといえます。

居住者である弁護士や税理士などに報酬・料金を支払うときは、所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。対象となる報酬・料金には、謝金、調査費、日当、旅費といった名目で支払われるものも含まれます。

ただし、支払者が直接、交通機関やホテル等に支払う交通費・宿泊費等で、その金額が通常必要な範囲内にとどまるものについては、源泉徴収の対象に含めなくても差し支えありません。
出典:国税庁|No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金

調査の場面で重要になるのは、次の切り分けです。

支払先源泉徴収の基本的な考え方
個人の税理士・弁護士等源泉徴収対象になり得る
税理士法人・弁護士法人等原則として源泉徴収不要
個人事務所名義の請求書個人への支払いとして確認が必要
事務所名のみで法人格不明契約相手・請求者・振込先の確認が必要

請求書に「〇〇税理士事務所」「〇〇法律事務所」と記載されているだけでは、法人か個人かは判断できません。契約書、請求書、振込先、登録番号、法人番号といった情報で確認していく必要があります。

司法書士・土地家屋調査士等は、控除額の扱いに注意する

司法書士、土地家屋調査士、海事代理士に支払う報酬・料金も、源泉徴収の対象になります。

司法書士等の業務に関する報酬・料金は源泉徴収の対象となり、謝金、調査費、日当、旅費等の名目で支払われるものも含まれます。一方で、登記や申請のために本来支払者が国等に納付すべき登録免許税や手数料等に充てるものとして支払われたことが明らかなものについては、源泉徴収する必要はありません。
出典:国税庁|No.2801 司法書士等に支払う報酬・料金

また、司法書士等への報酬については、同一人に対し1回に支払われる金額から1万円を差し引き、その残額に10.21%を乗じて源泉徴収税額を計算する取扱いがあります。
出典:国税庁|No.2801 司法書士等に支払う報酬・料金

税務調査では、請求書に「報酬」「登録免許税」「印紙代」「立替金」「日当」「旅費」などが混在している場合に、どこまでを源泉徴収の対象として処理したのかが確認されます。

特に登記関係の請求書では、次のような整理が必要になります。

請求書上の項目源泉徴収上の確認
司法書士報酬原則として源泉徴収対象
日当・調査費・旅費報酬に含まれるか確認
登録免許税明確な立替であれば対象外となり得る
実費・手数料国等に納付するものか、報酬の一部か確認
消費税請求書で明確区分されているか確認

経営コンサルタント・企業診断員・講師料にも注意する

報酬・料金の源泉徴収で見落とされやすいのが、経営コンサルタント、企業診断員、研修講師、技術指導者などへの支払いです。

「コンサルティング料」と書かれているから常に源泉徴収の対象、というわけではありません。ただし、所得税法上、企業診断員の業務に関する報酬・料金や、知識・技芸等の教授・指導料に該当する場合には、源泉徴収の対象となり得ます。実務上も、企業の求めに応じて状況を調査・診断し、経営改善の指導を行う方への報酬は、対象として整理されます。

ここで重要になるのは、肩書きではなく、実際の業務内容です。

支払内容確認すべき観点
経営診断・改善指導企業診断員等の報酬に該当しないか
研修講師料講演料・教授指導料に該当しないか
技術指導料知識・技芸等の教授指導料に該当しないか
セミナー登壇料講演料に該当しないか
アドバイザー報酬士業報酬、診断報酬、顧問料の性質を確認

一方で、法人に対するコンサルティング料であれば、原則として報酬・料金の源泉徴収の対象にはなりません。支払先が個人か法人か、そして業務内容が何かを切り分けることが必要です。

翻訳料・通訳料・デザイン料・出演料は、現場主導の支払いほど漏れやすい

報酬・料金の源泉徴収は、管理部門が契約から支払まで一元的に管理している場合よりも、現場部門が単発で依頼する支払いのほうが漏れやすくなります。

たとえば、次のような支払いです。

支払い確認すべき源泉論点
翻訳料翻訳の報酬・料金に該当しないか
通訳料通訳の報酬・料金に該当しないか
デザイン料デザイン・図案・制作物の報酬に該当しないか
写真撮影料写真報酬・著作物関連の報酬に該当しないか
イラスト料原稿料・デザイン料等として整理が必要
モデル出演料モデル・芸能出演等の報酬に該当しないか
イベント出演料芸能・講演・出演報酬に該当しないか
スポーツ指導料技芸・スポーツ・知識等の教授指導料に該当しないか

これらの支払いは、広告宣伝費、販売促進費、制作費、イベント費、研修費、外注費など、さまざまな科目に分散しがちです。

税務調査では、総勘定元帳から個人名、屋号、現金支払、少額の謝礼、単発イベント関連支出などを抽出し、源泉徴収漏れがないかを確認されることがあります。

消費税を含めて源泉徴収するか、税抜きでよいか

報酬・料金の源泉徴収では、消費税の扱いがよく問題になります。

弁護士や税理士などに報酬を支払った場合、源泉徴収の対象となる金額は、原則として消費税および地方消費税を含めた金額です。ただし、請求書等に報酬・料金等の金額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、消費税等を除いた報酬・料金等の金額のみを源泉徴収の対象としても差し支えありません。
出典:国税庁|No.6929 消費税等と源泉所得税及び復興特別所得税

この取扱いは、インボイス制度が始まったあとも変わっていません。
出典:国税庁|No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは

実務上の整理は、次のとおりです。

請求書の記載源泉徴収対象額の考え方
報酬額と消費税額が明確に区分されている税抜報酬額を対象として差し支えない
消費税込み総額のみ記載原則として税込総額が対象
「消費税相当額」等の記載が曖昧明確区分といえるか確認が必要
免税事業者・インボイス未登録者の請求書明確区分されていれば税抜相当額を対象として差し支えない
立替実費と報酬が混在報酬部分と実費部分の性質を分けて確認

税務調査では、請求書の表示、会計仕訳、実際の支払額、源泉徴収額が整合しているかを見られます。「請求書に源泉税の記載がなかった」「相手が消費税を請求しているから源泉徴収は不要だと思った」といった説明では、十分とはいえません。

源泉徴収税率は、10.21%だけではない

報酬・料金の源泉徴収税額は、支払内容によって異なります。

多くの報酬・料金では、100万円以下の部分は10.21%、100万円を超える部分は20.42%という二段階税率が用いられます。これは復興特別所得税を含めた税率です。

復興特別所得税については、平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に生ずる所得に対して、源泉所得税を徴収する際に併せて徴収し、源泉所得税の法定納期限までにその合計額を納付することとされています。合計税率は、所得税率に102.1%を乗じて計算します。
出典:国税庁|No.2507 復興特別所得税の源泉徴収

代表的な整理は次のとおりです。

支払内容基本的な源泉徴収の考え方
原稿料・講演料100万円以下10.21%、100万円超部分20.42%
弁護士・税理士等の報酬100万円以下10.21%、100万円超部分20.42%
司法書士等の報酬1回の支払金額から1万円控除後、10.21%
診療報酬等一定の控除額・計算方法に注意
外交員・ホステス等支払類型ごとの控除額・計算方法に注意
賞金・契約金等支払類型ごとの税率・控除額を確認

「報酬・料金はすべて10.21%」と覚えてしまうのは危険です。支払類型によって控除額や二段階税率の有無が異なりますので、個別の支払内容ごとに確認する必要があります。

手取契約の場合は、逆算が必要になる

実務では、「手取りで10万円を支払う」「講師には手取り額で約束している」といった契約が交わされることがあります。この場合、支払者が源泉徴収税額を別途負担する形になりますので、手取額から支払金額を逆算する必要があります。

税率が10.21%の場合、手取額を0.8979で割って支払金額を計算する方法が示されています。たとえば手取額10万円であれば、支払金額は111,370円、源泉徴収税額は11,370円となります。
出典:国税庁|No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは

手取契約は、税額計算だけでなく、契約書、請求書、会計処理、支払調書にも影響します。支払者が源泉税を負担しているにもかかわらず、支払金額や源泉徴収税額を正しく記録していないと、調査の際に説明が難しくなります。

納付期限と納付書を間違えない

報酬・料金から源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として、支払った月の翌月10日までに納付します。

ただし、納期の特例の対象になる報酬と、対象にならない報酬があります。ここを取り違えると、源泉徴収自体はしていても納付が遅れてしまい、不納付加算税や延滞税が問題になりかねません。

納期の特例の対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収した所得税等と、税理士、弁護士、司法書士など一定の報酬から源泉徴収した所得税等に限られます。
出典:国税庁|No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例

一方、原稿料や講演料などから源泉徴収した所得税等は、報酬・料金等の所得税徴収高計算書で、支払った月の翌月10日までに納付します。こちらは納期の特例の対象にはなりません。
出典:国税庁|No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき

実務上の整理は次のとおりです。

支払内容納付書・納期の整理
弁護士・税理士等への一定の士業報酬給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書で納付。納期の特例対象になり得る
司法書士等への報酬給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書で納付。納期の特例対象になり得る
原稿料・講演料報酬・料金等の所得税徴収高計算書で納付。納期の特例対象外
翻訳料・通訳料・出演料等原則として報酬・料金等の所得税徴収高計算書で翌月10日納付
給与・賞与給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書で納付

この納付書の区分は、税務調査でも確認されます。特に、納期の特例を受けている会社が、講演料や原稿料まで半年納付にしてしまうという誤りには、注意が必要です。

報酬・料金に係る源泉所得税には、給与等と併せて納付できるものと、報酬・料金の納付書で別に納付すべきものがあり、納期の特例が適用される範囲も分かれています。

支払調書は、源泉徴収した場合だけの書類ではない

報酬・料金を支払った場合には、源泉徴収税額の納付だけでなく、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出対象になるかどうかも確認が必要です。

外交員報酬、税理士報酬など、所得税法204条1項各号等に規定される報酬・料金等を支払う者は、一定の場合に支払調書を提出しなければなりません。弁護士・税理士等への報酬、原稿料・画料・講演料等については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が5万円を超えるものが提出範囲とされています。提出期限は、支払の確定した日の属する年の翌年1月31日です。
出典:国税庁|No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等

また、提出範囲の金額については、原則として消費税等を含めて判断しますが、消費税等の額が明確に区分されている場合には、その額を含めないで判断しても差し支えありません。
出典:国税庁|No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等

ここで注意したいのは、支払調書は「源泉徴収したものだけ」を記載する書類ではない、という点です。法人に支払われる報酬・料金等で源泉徴収の対象とならないものや、支払金額が源泉徴収の限度額以下であるため源泉徴収していない報酬・料金等についても、提出範囲に該当すれば支払調書を提出する必要があります。
出典:国税庁|No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等

税務調査では、支払調書と総勘定元帳、支払先一覧、源泉所得税納付書の整合性が確認されます。支払調書に載っているのに源泉徴収がない、源泉徴収しているのに支払調書に載っていない、支払金額と源泉徴収税額が一致しない。こうした不整合は、追加確認のきっかけになります。

旅費・交通費・宿泊費は、誰が支払ったかで扱いが変わる

報酬・料金の源泉徴収では、旅費や交通費の扱いもよく問題になります。

原稿料や講演料等については、旅費や宿泊費などの支払いも原則として報酬・料金等に含まれます。ただし、通常必要な範囲の金額で、支払者が直接ホテルや旅行会社等に支払った場合には、報酬・料金等に含めなくても差し支えありません。
出典:国税庁|No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき

弁護士や税理士等への支払いについても同様で、支払者が直接、交通機関やホテル等に支払う交通費・宿泊費等で、通常必要な範囲内のものは、源泉徴収の対象に含めなくてもよい取扱いとなっています。
出典:国税庁|No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金

実務上は、次のように整理します。

支払方法源泉徴収上の注意点
報酬と一緒に本人へ旅費相当額を支払う原則として報酬・料金等に含まれる可能性が高い
支払者がホテル・交通機関へ直接支払う通常必要な範囲であれば対象外とできる場合がある
実費精算といいながら領収書がない実質的に報酬の一部と見られる可能性
一律の車代・日当報酬・料金等に含まれる可能性
立替金と報酬が請求書で混在明細と支払実態の確認が必要

「交通費だから源泉徴収は不要」と単純に処理してしまうのではなく、誰が、誰に、何の名目で、どのように支払ったのかを確認することが大切です。

外注費・業務委託費との違い

報酬・料金の源泉徴収は、外注費や業務委託費と重なる場面が多くあります。

ただし、「外注費」として処理している支払いが、すべて報酬・料金の源泉徴収の対象になるわけではありません。逆に、「外注費だから源泉徴収は不要」ともいえません。

判断の軸は、次の二つです。

一つ目は、その支払いが給与に該当しないかどうかです。指揮監督の有無、勤務時間・場所の拘束、代替性、報酬の計算方法、道具・材料の負担、損益の負担などを踏まえ、実態として雇用に近いと判断される場合には、給与としての源泉徴収が問題になります。

二つ目は、給与ではないとしても、所得税法204条に定める報酬・料金等に該当しないかどうかです。個人への翻訳、通訳、講演、執筆、デザイン、出演、指導、士業業務などは、外注費として処理していても、報酬・料金の源泉徴収が必要となる場合があります。

このため外注費の調査対応では、法人税・消費税・源泉所得税を一体で見ていく必要があります。

観点税務上の影響
給与に該当する源泉所得税、年末調整、社会保険、消費税仕入税額控除に影響
報酬・料金等に該当する源泉所得税、支払調書に影響
外注費として妥当消費税の課税仕入れ、インボイス保存に影響
架空外注費・水増し法人税、消費税、重加算税、反面調査に影響

本記事では給与該当性の詳細までは立ち入りませんが、報酬・料金の源泉徴収は、外注費管理の一部として確認しておくべき論点だといえます。

源泉徴収漏れが見つかった場合に起きること

報酬・料金の源泉徴収漏れがあった場合、支払者には納税告知が行われることがあります。

源泉所得税は、その所得の支払時に納税義務が成立し、同時に税額が確定する性質を持っています。そのため、申告納税方式である法人税や所得税とは異なり、税務署は納付を請求するために納税の告知を行います。納税の告知では、源泉徴収義務者に対して、納付すべき税額、納期限、納付場所等が示されます。

また、源泉所得税を法定納期限までに納付しなかった場合には、不納付加算税が問題になります。事務運営指針では、税法の不知、誤解、事実誤認は、法定納期限までに納付しなかったことについての正当な理由には当たらないとされています。
出典:国税庁|源泉所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)

源泉徴収漏れが見つかった場合には、次の順序で整理していくことになります。

整理順序確認内容
1どの支払先・どの支払いについて漏れがあるか
2支払先が個人、法人、非居住者のどれか
3支払内容がどの報酬・料金等に該当するか
4請求書上の消費税区分を確認する
5正しい源泉徴収税額を計算する
6納付書区分と法定納期限を確認する
7不納付加算税・延滞税の可能性を確認する
8支払先への説明や求償の可否を検討する
9支払調書の訂正・追加提出の要否を確認する
10今後の支払承認フローを見直す

ここで避けたいのは、指摘された支払いだけを場当たり的に納付して終わらせてしまうことです。

同じ支払先、同じ勘定科目、同じイベント、同じ外注類型について、過年度から継続的に同じ処理を続けている可能性があります。調査対応では、単発の税額だけでなく、処理のパターンとして再確認する必要があります。

税務調査前に確認すべき資料

報酬・料金の源泉徴収について税務調査に備える場合、資料は「支払先別」「支払類型別」に整理しておくことが重要です。

資料確認する内容
総勘定元帳支払手数料、外注費、広告宣伝費、研修費、雑費等の支払先
請求書支払先、個人・法人区分、報酬内容、消費税区分、源泉税記載
契約書・発注書業務内容、成果物、支払条件、手取契約の有無
振込データ・通帳実際の支払日、支払額、振込先名義
支払先一覧個人、法人、非居住者、外国法人の区分
納付書控え納付書区分、納付期限、納付額
支払調書支払金額、源泉徴収税額、提出対象の判定
インボイス・登録番号消費税区分、課税仕入れとの整合性
立替精算資料旅費・宿泊費・登録免許税等の実費性
説明メモなぜ源泉徴収対象・対象外と判断したか

税務調査では、支払先名が個人名かどうかだけでなく、屋号、法人格、振込先、請求書の内容、そして支払調書との一致まで確認されることがあります。

特に、次のような支払いは、調査前に一覧化しておくと安心です。

重点確認すべき支払い理由
個人への外注費給与・報酬・外注の区分が問題になりやすい
講師・登壇者への謝礼講演料・教授指導料の可能性
制作・デザイン・翻訳・通訳報酬・料金等に該当する可能性
税理士・弁護士・司法書士等個人か法人か、控除額・納付書区分の確認が必要
イベント出演者・モデル芸能・出演・モデル報酬の可能性
少額・単発謝礼源泉徴収や支払調書の確認漏れが起きやすい
手取契約源泉税の逆算と会計処理が必要
旅費込みの請求源泉対象額の判断が必要

請求書に源泉税の記載がなくても、支払者の義務は消えない

実務でよくある誤解に、「請求書に源泉税が書かれていなければ、源泉徴収しなくてよい」というものがあります。

これは正しくありません。

源泉徴収義務は、あくまで支払者に課される義務です。請求書に源泉税の記載があるかどうか、支払先が源泉徴収を希望しているかどうか、支払先が確定申告をしているかどうか。そうした事情だけで、支払者側の義務が決まるわけではないのです。

特に、個人事業主やフリーランスの請求書では、源泉徴収税額の記載があるものもあれば、ないものもあります。支払者側は、請求書を受け取った時点で、支払先と支払内容を確認し、必要に応じて源泉徴収額を計算して支払額を調整しておく必要があります。

相手方が請求書を訂正してくれるかどうかは実務上の問題ですが、税務調査の場面では、「請求書に記載がなかった」というだけでは十分な説明にはなりません。

支払フローに源泉徴収の確認を組み込む

報酬・料金の源泉徴収漏れを防ぐには、決算時にまとめて確認するのでは遅い場合があります。源泉徴収は、原則として支払時に行うものだからです。

実務上は、次の各段階で確認する仕組みを持っておくことが必要になります。

段階確認すべきこと
支払先登録時個人・法人・非居住者区分、法人番号、インボイス登録番号
契約時業務内容、源泉徴収対象性、手取契約の有無
請求書受領時報酬内容、消費税区分、立替金、源泉税記載
支払承認時源泉徴収額、支払額、納付書区分
月次締め時納付漏れ、納期の特例対象外支払いの確認
年末・法定調書時支払調書提出対象、マイナンバー・法人番号、年間支払額
調査前整理支払先別・支払類型別の説明資料作成

この仕組みがない会社では、源泉徴収の判断が担当者の経験に頼りきりになってしまいます。その担当者が異動・退職した場合、なぜその処理をしたのかを説明できなくなる、ということも起こり得ます。

報酬・料金の源泉徴収を専門家と整理すべき場面

報酬・料金の源泉徴収は、単純な税率計算で済む場面もあります。ただ、次のような場合には、税務調査の前に専門家と整理しておくことをおすすめします。

状況専門家と整理すべき理由
個人外注先が多い給与・外注・報酬料金の区分が混在しやすい
講師・出演者・クリエイターへの支払いが多い支払類型ごとの判断が必要
士業・司法書士・登記関係の支払いが多い控除額、立替金、納付書区分に注意が必要
納期の特例を受けている対象外報酬まで半年納付にしていないか確認が必要
請求書に源泉税の記載がない支払者側で判断・計算する必要がある
手取契約があるグロスアップ計算と支払調書への反映が必要
税務調査で支払手数料・外注費を見られている過年度の同種支払いまで波及する可能性
源泉徴収漏れに気づいた自主納付、納税告知、不納付加算税、支払先対応を整理する必要

専門家の関与が必要なのは、単に税率を知るためではありません。支払内容を法令上の区分に当てはめ、消費税、支払調書、納付書、加算税、さらには支払先との関係まで含めて整理していく必要があるからです。

まとめ|報酬・料金の源泉徴収は「請求書処理」ではなく「支払判断」である

報酬・料金の源泉徴収で大切なのは、請求書に書かれた金額をそのまま支払うことではありません。

支払先は個人か法人か。支払者に源泉徴収義務があるか。支払内容は源泉徴収の対象となる報酬・料金等か。給与や退職手当等として扱うべきものではないか。消費税を含めるのか、それとも税抜きでよいのか。税率や控除額は正しいか。納付書と納付期限は正しいか。支払調書の提出対象か。そして、調査の際に資料できちんと説明できるか。

こうした点を、支払いの時点で判断できる状態にしておくことが必要です。

報酬・料金の源泉徴収は、少額・単発の支払いから漏れが生じやすく、その漏れが続くと、過年度にわたって納税告知、不納付加算税、延滞税の問題へとつながっていきます。相手方が確定申告をしているかどうかとは別に、支払者側の義務が問われる。この点を軽く見てはいけません。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査対応を単なる税務署とのやり取りとは捉えていません。支払先の整理、請求書の確認、源泉徴収の要否判断、納付書区分、支払調書、外注費・給与区分、さらには今後の支払管理体制まで含めて整理していくことを大切にしています。

報酬・料金の源泉徴収漏れが不安な場合、税務調査で外注費・支払手数料・広告宣伝費を確認されている場合、あるいは支払フローを見直したいとお考えの場合は、お問い合わせページから、現在の状況をお聞かせください。

重要ポイントの振り返り

論点押さえるべきポイント
報酬・料金の源泉徴収支払者が、一定の報酬・料金等を支払う際に所得税等を差し引き納付する制度
判断の起点支払先が個人か法人か、居住者か非居住者かを確認する
個人事業主の支払者給与支払者である個人事業主は、報酬・料金について源泉徴収義務を負う場合がある
法人への支払い内国法人への報酬・料金等は、原則として源泉徴収対象外。ただし支払調書は別途確認
原稿料・講演料謝金、取材費、車代などの名目でも、実態が同じなら対象になり得る
士業報酬個人の弁護士・税理士等への支払いは対象。法人への支払いとは分けて判断する
司法書士等登録免許税等の立替と報酬を区分し、1万円控除の計算にも注意する
消費税原則は税込金額が対象。請求書で明確区分されていれば税抜報酬額のみで差し支えない
復興特別所得税報酬・料金等も対象となり、10.21%・20.42%等の税率に反映される
納付期限原則として支払月の翌月10日
納期の特例対象となる報酬は限定され、原稿料・講演料等は対象外
支払調書源泉徴収した場合だけでなく、提出範囲に該当すれば提出が必要
旅費・交通費本人へ支払う場合と、支払者が交通機関等へ直接支払う場合で扱いが変わる
源泉徴収漏れ納税告知、不納付加算税、延滞税、支払先対応、支払調書訂正の検討が必要
調査対応支払先別・支払類型別に、なぜ源泉徴収したか、またはしなかったかを説明できる状態にする
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