非居住者・海外勤務者・出向者への支払い|源泉徴収・国内源泉所得・租税条約の調査対応

海外勤務者や出向者への支払いは、現場では「海外にいるのだから日本の源泉徴収は要らないだろう」「海外口座に払っているので日本では関係ない」「現地法人が負担しているのだから日本側で問われることはない」と判断されがちです。

ところが税務調査では、こうした大づかみの説明では足りません。確認されるのは、もっと具体的な事実です。誰に支払ったのか、その人は居住者か非居住者か、どこで勤務・役務提供をしたのか、支払者は誰か、国内法人の役員報酬に当たらないか、給与較差補填金や出向負担金の実態は何か、租税条約の届出書は出ているか。調査官はこうした一つひとつを確かめていきます。

とりわけ源泉所得税は、支払者側に徴収・納付の義務があります。そのため、支払先本人が海外で申告している、現地で課税されている、出向契約上は現地法人負担になっている、といった事情を並べただけでは、日本側の源泉徴収義務があるのかどうかを説明しきれない場面が出てきます。

本稿では、源泉所得税を中心に、居住性、国内源泉所得、海外支払、出向者給与、グロスアップ、租税条約について、押さえておきたい注意点を整理します。移転価格税制、海外子会社寄附金、PEリスクの詳細は別稿で扱うこととし、ここでは支払者側が税務調査で説明すべき源泉徴収実務に絞ってお話しします。

目次

まず「海外関連の支払い」を4つに分けて考える

非居住者・海外勤務者・出向者への支払いで最初に意識していただきたいのは、支払いの種類を一つにまとめてしまわないことです。

同じ「海外勤務者への支払い」であっても、次の4つの軸によって結論は変わってきます。

確認軸確認する内容実務上の意味
1. 受給者の居住性居住者か、非居住者か日本で課税される所得の範囲が変わる
2. 所得の源泉地国内勤務・国内役務に基因するか、国外勤務に基因するか国内源泉所得かどうかを判断する
3. 支払者・支払地国内法人が払うのか海外法人が払うのか、国内払いか国外払いか源泉徴収義務の有無に影響する
4. 租税条約・届出租税条約による免除・軽減を受けるか、届出書を出しているか国内法どおりの源泉徴収でよいかが変わる

この4つを分けないまま、「海外出向者だから源泉は不要」「非居住者だから一律20.42%」と処理してしまうと、調査の場で説明が崩れやすくなります。

海外出向・転籍の実務では、出向者給与の支給形態、給与負担金、給与較差補填金、ホーム・リーブ、一時帰国、海外からの派遣者への源泉徴収などが、それぞれ個別の論点として立ち上がってきます。出向・転籍は単なる人事異動ではなく、法人税・源泉所得税・国際税務が幾重にも重なる領域だと考えていただくとよいと思います。

居住者か非居住者かを、住民票だけで判断しない

所得税法上、個人は大きく「居住者」と「非居住者」に分けられます。

居住者とは、国内に住所を有するか、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいい、それ以外の個人が非居住者とされています。ここでいう住所は、生活の本拠を指し、住民票の記載ではなく客観的な事実によって判定されます。

出典:国税庁|No.2875 居住者と非居住者の区分

ですから、税務調査で問題になるのは、住民票を抜いたかどうかだけではありません。たとえば、次のような事実が一つひとつ確認されます。

確認事項調査で見られる理由
海外勤務予定期間1年以上の予定か、1年未満の予定か
実際の出国日・帰国日居住者・非居住者の切替時期を確認する
家族の居住地生活の本拠の判断材料になる
住居の維持状況国内に生活拠点が残っているか
国内役職・職務国内法人の役員としての職務が残っていないか
給与支払契約国内勤務分・国外勤務分・手取保証の有無
一時帰国中の業務国内勤務日数・国内役務提供があるか
現地での勤務実態現地法人での指揮命令・勤務場所・職務内容

1年以上の予定で海外支店などに転勤した場合には、一般的には非居住者となります。もっとも、業務上の都合で予定が変わったときは、事情が変わった時点で改めて判定するのであって、過去にさかのぼって区分を変えるわけではないとされています。

出典:国税庁|業務の都合により1年未満で帰国したり、海外勤務が1年以上となった場合の居住者・非居住者の判定

したがって調査対応では、当初の赴任命令書だけで足りるとは限りません。赴任期間が変更された場合の稟議、辞令、メール、人事記録までさかのぼって残しておくことが大切になります。

非居住者は「国内源泉所得」のみが日本で課税対象になる

非居住者について、日本で課税の対象となるのは、原則として国内源泉所得です。

居住者であれば、国内外で稼いだ所得が原則として課税対象になります。これに対して、非居住者および外国法人については、日本国内で稼いだ国内源泉所得のみが課税対象とされています。

出典:国税庁|No.2878 国内源泉所得の範囲

給与・報酬に関しては、国内源泉所得に次のようなものが含まれる点がとりわけ重要です。

支払内容国内源泉所得になり得る例
給与・賞与国内で行った勤務に基因するもの
人的役務提供報酬国内で行った人的役務の提供に基因するもの
退職手当等居住者期間に行った勤務等に基因するもの
国内法人役員報酬海外勤務であっても内国法人の役員として受ける報酬は注意が必要
専門家・芸能人等の役務対価国内で行う人的役務提供事業の対価

国内源泉所得としては、給与・賞与・人的役務提供報酬のうち、国内において行う勤務や人的役務提供に基因するものが掲げられています。

出典:国税庁|No.2878 国内源泉所得の範囲

ここで見落としやすいのは、「どこから支払われたか」よりも「何に対する支払いか」が問われる、という点です。

海外口座に送金していても、国内で行った勤務・役務提供に対する支払いであれば、国内源泉所得となる可能性があります。反対に、日本法人が支払っていても、非居住者となった使用人の国外勤務に対する給与であれば、国内源泉所得に該当しない場面もあるわけです。

非居住者への国内源泉所得は、原則として源泉徴収が必要

非居住者に対して、源泉徴収の対象となる国内源泉所得を支払う場合、支払者には源泉徴収義務が生じます。

非居住者等に対して、日本国内で源泉徴収の対象となる国内源泉所得を支払う者は、原則として所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。さらに、国内源泉所得を国外で支払う場合であっても、支払者が国内に住所・居所・事務所等を有するときは、国内で支払ったものとみなして源泉徴収が必要とされています。

出典:国税庁|No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率

給与その他人的役務提供に対する報酬、退職手当等について、非居住者に対する国内源泉所得の源泉徴収税率は、原則として20.42%です。

出典:国税庁|No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率

こうした前提をふまえると、次のような処理は調査で確認されやすいといえます。

支払いの場面源泉徴収の検討
非居住者が日本でセミナー講師を務めた国内役務提供に基因する報酬として検討
海外在住の専門家が日本に来日して業務を行った国内での役務提供部分を確認
非居住者となった元社員に、日本勤務期間を含む賞与を支払った国内勤務対応部分を按分して検討
非居住者である国内法人役員に役員報酬を支払った内国法人役員報酬として検討
海外口座へ国内源泉所得を送金した国内支払とみなされるか確認
外貨で支払った円換算方法を確認

非居住者等に対する支払いが外貨建ての場合には、円に換算したうえで源泉徴収を行う必要があります。換算は、原則として支払期日における電信買相場によるとされています。

出典:国税庁|No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率

海外勤務者への給与は、出国前・出国後・帰国後で整理する

海外勤務者の給与は、出国前、出国後、帰国後で取扱いが変わります。

時期主な確認事項
出国前出国時年末調整、居住者期間の給与・控除
出国後非居住者該当性、国外勤務給与、国内勤務対応賞与
一時帰国中国内勤務・国内会議・役員会出席の有無
帰国後居住者への復帰、帰国後給与の年末調整、確定申告
賞与支給時計算期間内に国内勤務期間が含まれるか

役員や使用人が海外支店などに1年以上の予定で転勤した場合、一般的には非居住者となり、1年未満であれば居住者となります。そして、1年以上の予定で海外へ転勤する居住者については、出国の日までに年末調整を行う必要があるとされています。

出典:国税庁|No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収

出国後の扱いは、役員と使用人とで分かれます。

非居住者となった使用人の海外勤務に対する給与等は、国内源泉所得に該当しないため、源泉徴収は不要とされています。一方、同じ海外勤務に対する報酬であっても、内国法人の役員として受ける報酬は国内源泉所得に該当し、20.42%で源泉徴収が必要です。ただし、海外支店長など、使用人として常時海外勤務している役員については、源泉徴収が不要とされる場面があります。

出典:国税庁|No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収

この違いは、税務調査では非常に重みを持ちます。ひと口に「海外勤務者」といっても、国内法人の役員なのか、使用人なのか、あるいは役員でありながら使用人として常時海外勤務しているのか。その立場によって、源泉徴収の結論が変わってくるのです。

そのため、役員登記、取締役会・株主総会議事録、出向辞令、職務分掌、現地での肩書、報酬決議資料といった資料を、あわせて確認しておく必要があります。

国内勤務期間を含む賞与・ボーナスは按分が問題になる

海外出向者に対する賞与・ボーナスは、給与本体よりも調査で問題化しやすい支払いです。

たとえば、4月から翌年3月までの業績評価期間に基づく賞与を6月に支給する場合を考えてみます。その評価期間のなかに、日本勤務の期間と海外勤務の期間が混在していることがあります。支給の時点では非居住者であっても、計算期間内に国内勤務期間が含まれていれば、その国内勤務に対応する部分について源泉徴収が必要になることがあるのです。

海外で勤務している使用人や、使用人として常時海外勤務している役員に対して、国内で賞与・ボーナス等が支払われ、その計算期間内に日本で勤務した期間が含まれている場合には、日本勤務期間に対応する金額について20.42%で源泉徴収が必要とされています。

出典:国税庁|No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収

こうした場面では、税務調査で次のような資料が重要になります。

資料確認される内容
賞与計算期間どの期間の勤務・業績に対応するか
出国日・帰国日国内勤務期間と国外勤務期間の境目
評価資料国内勤務分・海外勤務分の業績対応
支給決議・給与規程賞与の性質と計算方法
勤怠・出張記録国内勤務日数の確認
源泉徴収計算資料按分計算の根拠

給与・賞与の計算期間の途中で非居住者となった場合には、非居住者となった日以後に支払われる給与・賞与について、原則として按分計算により国内源泉所得部分を算出する、という考え方が示されています。

出典:国税庁|給与の計算期間の中途で非居住者となった者に支給する超過勤務手当(基本給との計算期間が異なる場合)

海外出向者への給与較差補填金は、源泉と法人税を分けて考える

海外出向者には、現地給与の水準との差を埋めるため、国内親会社から給与較差補填金、留守宅手当、在外手当、住宅手当、教育費補助、一時帰国旅費などが支給されることがあります。

このとき大切なのは、次の2つをきちんと分けて考えることです。

論点見るべき内容
源泉所得税誰に対する支払いか、勤務地はどこか、国内源泉所得か
法人税・国際税務出向元・出向先のどちらが負担すべき費用か、寄附金・移転価格の問題がないか

給与較差補填金については、海外出向先法人と国内出向元法人との給与水準の差により出向者へ支出されるものとして、法人税上の給与処理や、出向先法人への負担金処理が検討されます。

一方、源泉所得税の判断では、出向者本人が居住者か非居住者か、その支払いが国内勤務に基因するか国外勤務に基因するか、内国法人役員報酬に該当するか、という点を確認していきます。

支払パターン源泉所得税上の確認
国内出向元が非居住者となった使用人へ直接支給国外勤務に基因する給与か、国内勤務分が含まれるか
国内出向元が内国法人役員へ支給役員報酬として国内源泉所得となるか
海外出向先が全額支給し、国内出向元が負担金を支払う個人への給与支払者、法人間負担の実態を確認
国内出向元と海外出向先がそれぞれ支給それぞれの支払いの性質、国内源泉部分、現地課税を確認
手取保証で支給グロスアップ計算の要否を確認

出向・転籍の実務では、海外法人との出向に係る源泉徴収、海外支店勤務の国内法人役員への給与、所得税負担の態様、グロスアップ計算といった論点を個別に整理していくほどに、給与の支払者・負担者・税額負担者の関係を見極めることが重要になってきます。

グロスアップは「税額を誰が負担するか」の問題である

海外勤務者・外国人出向者・非居住者役員への支払いでは、「手取額保証」で契約が結ばれることがあります。

たとえば、「手取100万円を保証する」「日本側の源泉税は会社負担とする」といった契約です。この場合、単純に100万円へ20.42%を乗じて納付すれば足りるとは限りません。税額を支払者が負担する契約であれば、税引後の手取額から支払総額を逆算する、グロスアップ計算が必要になります。

所得税基本通達221-1では、源泉徴収すべき税額を徴収していなかった理由が、その税額を支払者が負担する契約となっていたことによる場合には、税引手取額により支払金額が定められていたものとして計算する旨が示されています。

出典:国税庁|法第221条《源泉徴収に係る所得税の徴収》関係

たとえば、国内源泉所得として20.42%の源泉徴収が必要な支払いについて、手取100万円を保証している場合、概算では次のように考えます。

項目考え方
手取額1,000,000円
源泉税率20.42%
支払総額1,000,000円 ÷(1-20.42%)
源泉税額支払総額 × 20.42%

実際の計算にあたっては、所得の種類、租税条約、端数処理、外貨換算、支払日、税率を確認する必要があります。税務調査では、契約書上の「net」「gross」「tax equalization」「tax borne by company」といった記載まで確認されます。ですから、給与計算の担当者だけでなく、人事や海外事業の部門も契約内容を把握しておくことが望まれます。

租税条約は「自動適用」ではない

非居住者への支払いでは、租税条約によって日本での課税が軽減・免除される場合があります。

ただし、租税条約がある国の居住者だからといって、自動的に源泉徴収をしなくてよい、というわけではありません。

租税条約に基づいて源泉所得税等の軽減または免除を受けようとする場合には、「租税条約に関する届出書」を提出する必要があります。

出典:国税庁|No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)

また、租税条約による免除・軽減を受ける場合には、支払日の前日までに、租税条約に関する届出書等を、国内源泉所得の支払者を経由して、支払者の納税地の所轄税務署長へ提出することとされています。

出典:国税庁|No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率

実務で気をつけたい点は、次のとおりです。

注意点実務上の意味
条約の有無だけでは足りない相手国・所得区分・受給者要件を確認する
届出書の提出時期が重要原則として支払日の前日まで
支払内容により様式が異なる給与、使用料、配当、利子などで確認が必要
居住者証明書等が必要になることがある受給者側の協力が必要
未提出なら国内法税率で源泉徴収後日、還付請求を検討することになる
現地課税と日本課税は別問題二重課税調整は条約・外国税額控除等で整理

なお、租税条約の届出書等については、令和3年4月1日以後、一定の電磁的方法による提供も認められています。

出典:国税庁|租税条約に関する届出書等に記載すべき事項等の電磁的提供等について

海外から日本への出向者・派遣者で確認すべきこと

海外親会社や海外グループ会社から、日本法人へ人材が派遣される場合も、源泉所得税の調査対象になりやすい領域です。

日本に来て業務を行う以上、本人が非居住者であっても、その国内勤務に基づく給与・報酬は国内源泉所得となり得ます。

確認事項調査での意味
日本滞在期間居住者・非居住者の区分、租税条約の短期滞在者免税
日本での勤務日数国内源泉所得の範囲
雇用契約の相手方海外法人か、日本法人か
指揮命令者日本法人が実質的雇用者と見られないか
給与支払者海外法人支払か、日本法人支払か
給与負担者日本法人がチャージバックを受けていないか
手取保証グロスアップ計算が必要か
租税条約届出書免除・軽減を適用する根拠があるか
現地・日本の納税資料二重課税調整や説明資料になる

特に注意したいのは、海外法人が給与を支払っていても、日本法人がその給与相当額を負担しているケースです。この場合、契約上の支払者と、経済的な負担者とが食い違っています。税務調査では、出向契約書、サービス契約書、給与負担金請求書、出向者の業務内容、日本法人の組織図、現地法人との費用精算資料などが確認されます。

ここで不用意に「海外法人が払っているので日本では関係ありません」と説明してしまうと、後からチャージバックや給与負担金の資料が出てきたときに、説明の信用性が下がってしまいます。

海外勤務者の一時帰国・ホームリーブも確認される

海外勤務者が日本へ一時帰国する場合には、その期間が単なる休暇なのか、それとも日本で業務を行っているのかを、きちんと分けておく必要があります。

たとえば、次のような行動がある場合には、国内勤務・国内役務提供に基因する支払いがないかを確認します。

一時帰国中の行動確認すべき点
休暇・家族滞在のみ原則として勤務実態はないか
日本本社で会議に参加業務としての国内勤務日数があるか
取締役会・経営会議に出席役員としての職務執行か
顧客訪問・営業同行国内役務提供に該当するか
研修・報告会業務命令による勤務か
帰国旅費の会社負担給与課税・福利厚生・出向契約上の位置づけ

出向・転籍の実務では、ホーム・リーブ期間の国内源泉所得の計算や、税務調査の指摘事項から見たホーム・リーブの取扱いが、論点として整理されています。

一時帰国時の会議出席や役員業務は、どうしても記録が曖昧になりやすい領域です。単なる休暇であればその事実を説明できるようにしておき、業務があった場合には、勤務日数、業務内容、給与対応額を整理しておくことが大切になります。

税務調査で確認される資料

非居住者・海外勤務者・出向者への支払いについて、調査官は給与台帳だけを見て判断するわけではありません。人事、契約、出入国、現地税務、法人間精算と、複数の資料を横断しながら確認していきます。

資料確認されるポイント
赴任辞令・出向辞令出国日、予定期間、職務内容
出向契約書給与支払者、費用負担者、指揮命令関係
雇用契約書所属、役職、報酬条件、手取保証
役員就任・退任資料内国法人役員報酬の有無
株主総会・取締役会議事録報酬決議、職務分掌、役員賞与
給与台帳支払日、支払額、控除税額、外貨換算
賞与計算資料計算期間、国内勤務期間の有無
勤怠・出張記録国内勤務日数、海外勤務日数
パスポート・出入国記録滞在日数の裏付け
現地給与明細現地支給額、現地源泉税
現地申告書・納税証明現地課税との整合性
給与負担金請求書法人間精算の内容
グロスアップ計算表税額負担契約と計算根拠
租税条約届出書免除・軽減適用の根拠
居住者証明書条約適用の前提
銀行送金記録支払者・支払地・外貨換算
稟議書海外赴任・出向負担の意思決定経緯
組織図・職務記述書実際の指揮命令と役割

税務調査では、支払者側が「なぜ源泉徴収したのか」「なぜ源泉徴収しなかったのか」を説明する必要があります。結論だけでなく、そこに至った判断の過程を残しておくことが何より重要です。

調査で問題になりやすい処理

非居住者・海外勤務者・出向者への支払いのなかでも、特に問題になりやすい処理を整理すると、次のようになります。

問題になりやすい処理調査上のリスク
住民票を抜いたことだけで非居住者と判断生活の本拠・勤務予定期間の説明が不足する
海外勤務者への給与を一律非課税としている国内法人役員報酬や国内勤務対応賞与を見落とす
賞与の計算期間を確認していない国内勤務期間対応分の源泉漏れ
海外口座への支払いを源泉対象外としている国内支払みなしを見落とす
現地法人支払として処理しているが国内法人が全額負担経済的負担者・源泉義務・法人税処理が問われる
手取保証なのにグロスアップしていない源泉税額不足
租税条約届出書を支払後に提出している国内法税率での源泉徴収が必要になる
役員か使用人かが曖昧内国法人役員報酬の源泉漏れ
一時帰国中の業務記録がない国内勤務対応額の説明が困難
現地課税資料がない二重課税・所得帰属の説明が弱くなる

なかでも、海外出向者について「現地で課税されているので日本では問題ない」という説明は危険です。日本側の源泉徴収義務と、現地側の課税関係とは、別の問題だからです。二重課税をどう調整するかは租税条約や外国税額控除等で検討しますが、それは、日本で源泉徴収すべき支払いを源泉徴収しなくてよい理由にはなりません。

源泉徴収漏れが判明した場合の整理

源泉徴収漏れが判明した場合には、いきなり修正申告へ進むというよりも、まずは次の順序で状況を整理します。

整理項目確認内容
対象者誰への支払いか、居住性はどうか
対象期間いつからいつまでの支払いか
所得区分給与、報酬、退職手当、法人間負担金のどれか
国内源泉性国内勤務・国内役務・役員報酬に該当するか
支払者国内法人、海外法人、両方か
支払地国内支払、国外支払、国内支払みなしの有無
税率国内法税率、租税条約税率、免除の有無
届出書租税条約届出書の提出時期・控え
グロスアップ税額を誰が負担する契約か
附帯税不納付加算税、延滞税の可能性
将来処理給与計算・出向契約・届出管理の改善

源泉所得税については、納期限までに納付しなかった場合、税務署から納税告知が行われることがあります。源泉所得税は、支払いの時点で納税義務が成立し、同時に確定する性質を持つため、申告納税方式の税目とは異なる整理が必要になります。

不納付加算税について、事務運営指針では、税法の不知・誤解または事実誤認に基づくものは、法定納期限までに納付しなかったことについての正当な理由には当たらない旨が示されています。

出典:国税庁|源泉所得税及び復興特別所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)

「海外人事の処理なので税務部門が把握していなかった」「現地法人任せにしていた」「条約届出書が必要とは知らなかった」。こうした説明だけでは、十分な防御にはならない可能性があります。

調査前に作っておくべき「人別の整理表」

海外勤務者・出向者が複数いる会社では、支払いごとの資料を後から探し回るのではなく、あらかじめ人別に整理しておくことが有効です。

項目記載内容
氏名対象者名
国籍・居住地国租税条約確認の入口
赴任先国、法人名、拠点
赴任予定期間1年以上か1年未満か
実際の出国日・帰国日居住性判定の基礎
役職使用人か役員か
国内法人役員該当性役員報酬の源泉判断
給与支払者日本法人、海外法人、双方
給与負担者最終負担者、負担金精算
手取保証グロスアップの有無
支給項目基本給、賞与、手当、住宅、教育費、旅費
国内勤務日数賞与按分、一時帰国対応
源泉徴収処理税率、納付書、納付日
租税条約届出様式、提出日、控え
現地課税資料現地源泉票、申告書、納税証明
判断メモなぜその処理をしたか

この整理表は、税務調査のためだけでなく、海外人事、給与計算、経理、税務、そして現地法人との情報共有にも役立ちます。

専門家に相談すべき場面

非居住者・海外勤務者・出向者への支払いは、源泉所得税だけで完結するものではありません。法人税、移転価格、寄附金、消費税、社会保険、労務、ビザ、現地税務と、さまざまな論点が絡み合ってきます。

次のような場面では、税務調査の前、あるいは調査の最中に、専門家へ相談されることをおすすめします。

状況相談すべき理由
海外出向者が複数いる人別・支払別に源泉判断が必要
国内法人役員が海外勤務している役員報酬の国内源泉所得性が問題になる
賞与計算期間に国内勤務と海外勤務が混在按分計算が必要になる
手取保証・会社税負担があるグロスアップ計算が必要
租税条約届出書を提出していない国内法税率での源泉徴収・還付請求を検討
現地法人との給与負担金がある法人税・源泉・移転価格の整理が必要
一時帰国中に業務をしている国内勤務対応額の確認が必要
海外から日本への出向者がいる国内勤務給与・短期滞在者免税の検討が必要
税務調査で海外人件費を見られている源泉漏れ・法人税処理へ波及する可能性がある

犬飼公認会計士・税理士事務所では、非居住者・海外勤務者・出向者への支払いについて、居住性の判定、国内源泉所得の整理、源泉徴収の要否、租税条約届出書、グロスアップ計算、出向契約・給与負担金の資料整理、そして税務調査での説明方針まで、一体として検討します。

海外勤務者への給与、非居住者への報酬、海外出向者の給与較差補填金、外国人派遣者への支払いについて、過去の処理に不安がある場合や、すでに税務調査で確認を受けている場合は、お問い合わせページから現在の状況をお聞かせください。支払先別・年度別に、どこから整理していくべきかを、ご一緒に確認してまいります。

重要ポイントの振り返り

論点実務で押さえるべきポイント
居住性居住者・非居住者は、住所・居所・勤務予定期間・生活の本拠で判断する
1年以上の海外勤務一般的には非居住者となるが、予定変更時はその時点で再判定する
国内源泉所得非居住者は国内源泉所得のみが日本で課税対象になる
国内勤務給与国内で行った勤務に基因する給与・賞与は国内源泉所得になり得る
国外勤務給与非居住者となった使用人の国外勤務給与は、原則として日本の源泉徴収対象外
内国法人役員報酬海外勤務であっても、内国法人役員としての報酬は源泉徴収が必要になり得る
使用人として常時海外勤務する役員一定の場合には源泉徴収不要とされる場面がある
賞与・ボーナス計算期間内に国内勤務期間が含まれる場合、国内勤務対応部分を按分する
海外支払国内源泉所得を国外で支払っても、国内事務所等がある支払者は源泉徴収が必要になり得る
外貨支払円換算して源泉徴収税額を計算する
租税条約条約による免除・軽減は自動適用ではなく、原則として届出書が必要
届出書の提出時期支払日の前日までの提出が重要
グロスアップ手取保証・会社税負担がある場合、税引手取額から支払総額を逆算する
出向負担金個人への給与支払と法人間負担金を分けて整理する
給与較差補填金源泉所得税と法人税・移転価格・寄附金の論点を切り分ける
一時帰国休暇か国内勤務か、役員業務かを記録で説明できるようにする
税務調査対応人別整理表、出向契約、給与台帳、源泉計算、条約届出、現地税務資料を整える
源泉漏れ納税告知、不納付加算税、延滞税、将来処理への影響を含めて判断する
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