会社が赤字になったとき、法人税務ではまず「欠損金を翌期以降に繰り越せるか」に意識が向きます。
しかし、赤字年度の税務判断は、それだけにとどまりません。
一定の要件を満たす場合には、当期に生じた欠損金を前期以前の所得に繰り戻し、過去に納付した法人税の還付を受けられることがあります。これが「欠損金の繰戻しによる還付」です。
繰越控除は、将来の黒字と赤字を相殺する制度です。これに対して繰戻還付は、現在の赤字を理由に、過去に納めた法人税を取り戻す制度です。
一見似ているようでいて、この違いは資金繰りに直結します。
赤字年度には、売上減少、粗利率の低下、貸倒損失、在庫評価、固定資産の処分、役員退職金、事業撤退、災害損失といった要因が重なり、会計上の損失だけでなく、現預金の減少が同時に進んでいることも少なくありません。そうした局面で法人税の還付を受けられるかどうかは、単なる税務処理の問題ではなく、会社の手元資金、金融機関への対応、事業継続の判断にまで影響します。
もっとも、繰戻還付は自動的に適用される制度ではありません。
対象法人に該当するか、青色申告か、申告期限を守れているか、還付請求書を提出しているか、還付の対象となる年度はどこか、繰り戻す欠損金額はいくらか、将来の繰越欠損金との関係はどうか——確認すべき事項は一つではありません。
本稿では、法人税の欠損金の繰戻還付について、制度の基本、実務上の判断軸、資金繰りへの影響、そして申告前に確認しておきたい事項を整理します。
なお、制度の内容は税制改正によって変わる可能性があります。国税庁のタックスアンサーは令和7年4月1日現在の法令等に基づく情報として公表されていますが、令和8年度税制改正法は令和8年3月31日に成立・公布され、令和8年4月1日から施行されています。また、財務省の法律案要綱では、中小企業者等以外の欠損金の繰戻還付制度の不適用措置について、適用期限を2年延長する項目が示されています。実際の申告にあたっては、対象事業年度の改正法令、申告書様式、国税庁の公表情報を必ず確認してください。
出典:国税庁|No.5763 欠損金の繰戻しによる還付
出典:財務省|第221回国会における財務省関連法律
出典:財務省|所得税法等の一部を改正する法律案要綱
欠損金の繰戻還付とは何か
欠損金の繰戻還付とは、青色申告書を提出する法人にある事業年度で欠損金が生じた場合に、その欠損金を前の事業年度の所得に繰り戻し、前期に納付した法人税の還付を請求できる制度です。
国税庁も、青色申告書である確定申告書を提出する法人について、欠損金額が生じた事業年度があるときは、その事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度に欠損金額を繰り戻し、法人税額の還付を請求できると示しています
出典:国税庁|No.5763 欠損金の繰戻しによる還付
かみ砕いていえば、前期が黒字で法人税を納め、当期が赤字になった場合に、当期の赤字を前期の黒字にぶつけることで、前期に納めた法人税の一部または全部を還付してもらう仕組みです。
ここで押さえておきたいのは、繰戻還付が「赤字だから税金が戻る」という単純な制度ではない、という点です。
前期に法人税を納付していなければ、還付される法人税は基本的にありません。また、当期に会計上の赤字が出ていても、税務調整後に法人税法上の欠損金が生じていなければ、繰戻還付の前提を満たしません。
したがって、検討の出発点は損益計算書の赤字ではなく、法人税申告書上の欠損金額に置くことになります。
繰越控除と繰戻還付の違い
欠損金が生じたときの代表的な制度として、繰越控除と繰戻還付があります。
どちらも赤字を税務上活用する制度ですが、会社の資金繰りに与える影響は大きく異なります。
| 項目 | 欠損金の繰越控除 | 欠損金の繰戻還付 |
|---|---|---|
| 基本的な考え方 | 赤字を将来の黒字と相殺する | 赤字を過去の黒字に繰り戻す |
| 資金繰りへの影響 | 将来の納税額を減らす | 過去に納付した法人税の還付を受ける |
| 効果が出る時期 | 将来黒字が発生した年度 | 還付請求後、税務署の確認を経て還付される時期 |
| 判断の中心 | 将来課税所得の見込み | 過去の納税額と当期欠損金 |
| 注意点 | 将来黒字化しなければ使い切れない | 請求期限・対象法人・還付対象年度の要件がある |
繰越控除は、将来の税負担を減らす制度です。将来利益が出る見込みのある会社にとっては、大きな意味を持ちます。
一方、繰戻還付は、過去に納めた税金を現在の資金として回収する制度です。そのため、赤字年度の資金繰りに直接効いてきます。
ただし、繰戻還付を受けた欠損金は、その分だけ将来に繰り越せる欠損金が減少します。
「今すぐ還付を受けるのか」「将来の黒字と相殺するのか」は、単年度の税金だけでは決められません。資金繰り、将来の利益、金融機関への説明、事業計画までを見据えて判断する必要があります。
繰戻還付が資金繰り上重要になる場面
欠損金の繰戻還付がとりわけ重要になるのは、赤字が会計上の損失にとどまらず、会社の手元資金に影響している場面です。
たとえば、次のような状況では、繰戻還付を検討する価値が高くなります。
- 前期は黒字で法人税を納付したが、当期は大幅な赤字になった
- 取引先の倒産により貸倒損失が発生した
- 不採算事業からの撤退により、在庫処分損や固定資産除却損が生じた
- 役員退職金やリストラクチャリング費用により、一時的な損失が出た
- 急激な売上減少により資金繰りが悪化している
- 解散・清算を検討しており、過去に納付した法人税を回収できるか確認したい
こうした局面では、欠損金を将来に繰り越しても、黒字化までに時間がかかることがあります。
そのような場合に、繰戻還付によって過去の法人税を回収できれば、短期的な資金繰りの改善に役立ちます。
もっとも、繰戻還付は資金繰り改善に資する制度である一方、請求すれば必ずすぐに還付されるわけではありません。還付請求書の提出後には、税務署による内容の確認が行われます。とりわけ多額の欠損金が発生している場合には、欠損金の発生原因、損金算入の時期、損金算入の要件、証憑の整備状況を、いつでも説明できるようにしておく必要があります。
対象法人|中小法人等かどうかが重要になる
繰戻還付を検討するうえで、まず確認すべきなのは、自社が対象法人に該当するかどうかです。
国税庁は、中小企業者等について、普通法人のうち各事業年度終了時における資本金の額または出資金の額が1億円以下であるもの、または資本もしくは出資を有しないものなどを掲げています。ただし、資本金5億円以上の法人等との完全支配関係がある普通法人や、大通算法人などは除かれます。
出典:国税庁|No.5763 欠損金の繰戻しによる還付
この判定で気をつけたいのは、資本金1億円以下であれば必ず対象になる、というわけではない点です。
とくに、次のような会社では確認が欠かせません。
- 大法人の100%子会社になっている会社
- 複数の大法人に完全支配されている会社
- グループ通算制度を適用している会社
- M&Aにより株主構成が変わった会社
- 資本金は小さいが、親会社・株主との関係で中小企業向け特例の対象外となる可能性がある会社
国税庁は、資本金の額または出資金の額が1億円以下の普通法人であっても、資本金5億円以上の大法人等による完全支配関係がある法人等については、中小企業向け特例措置の適用を受けられないとしています。そして、そうした法人については、一定の場合を除き、欠損金の繰戻しによる還付制度が不適用になるとされています。
出典:国税庁|No.5800 一定の大法人等の100%子法人等における中小企業向け特例措置の不適用について
このように、繰戻還付の検討では、税額計算に入る前の段階で、株主構成、資本関係、グループ通算制度の有無を確認しておくことが大切です。
中小企業者等以外の法人では不適用措置に注意する
欠損金の繰戻還付制度は、法人税法上は制度として存在します。しかし、中小企業者等以外の法人については、租税特別措置法により不適用措置が設けられています。
国税庁のタックスアンサーでは、解散等の場合や災害損失欠損金額がある場合などを除き、平成4年4月1日から令和8年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額について、中小企業者等以外の法人には繰戻還付制度の適用が停止されている、と説明されています。
出典:国税庁|No.5763 欠損金の繰戻しによる還付
ただし、令和8年度税制改正法は令和8年3月31日に成立・公布されており、財務省の法律案要綱では「中小企業者の欠損金等以外の欠損金の繰戻しによる還付制度の不適用」について、適用期限を2年延長する項目が示されています。実務では、対象事業年度について、改正後の適用期限を確認しておく必要があります。
出典:財務省|第221回国会における財務省関連法律
出典:財務省|所得税法等の一部を改正する法律案要綱
この点は、資本金規模の大きい会社だけの話ではありません。大法人グループに属する中小規模の子会社でも問題になり得ます。
「前期に法人税を納付している」「当期に赤字が出ている」というだけで判断するのではなく、そもそも自社が繰戻還付を使える法人かどうかを、最初に見極めておくことが求められます。
通常の繰戻還付の申告要件
通常の欠損金の繰戻還付を受けるうえでは、申告要件が重要になります。
国税庁は、青色申告書を提出する法人の欠損金の繰戻還付について、次の要件を示しています。
1つ目は、還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度まで、連続して青色申告書である確定申告書を提出していること。
2つ目は、欠損事業年度の青色申告書である確定申告書を、期限内に提出していること。
3つ目は、その確定申告書の提出と同時に、欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出していること。
出典:国税庁|No.5763 欠損金の繰戻しによる還付
とりわけ注意したいのは、「確定申告書の提出と同時に」還付請求書を提出しなければならない、という点です。
繰戻還付は、あとから思い出して、通常の更正の請求のように検討すればよい制度ではありません。
赤字年度の決算・申告作業のなかで、繰戻還付を請求するかどうかを判断し、申告期限までに還付請求書まで作成・提出しておく必要があります。
つまり繰戻還付の検討漏れは、単なる税額計算の問題ではなく、申告工程の管理の問題でもあるのです。
還付請求書の提出時期と提出方法
還付請求書の提出時期は、どの類型で請求するかによって変わります。
通常の欠損金の繰戻還付であれば、欠損事業年度の確定申告書を提出する時に提出します。解散等の事実が生じた場合には、その事実が生じた日以後1年以内に提出します。災害損失欠損金額がある場合には、確定申告書または仮決算による中間申告書の提出時に提出します。
出典:国税庁|C1-52 欠損金の繰戻しによる還付の請求
また国税庁は、還付請求書について、e-Taxソフトで作成・提出できるほか、書面で提出する場合は原則として1通、調査課所管法人は2通を、納税地の所轄税務署長へ提出する手続を案内しています。
出典:国税庁|C1-52 欠損金の繰戻しによる還付の請求
申告実務の現場では、法人税申告書の作成が終わってから「還付請求をするか」を考えるのでは、間に合わないこともあります。
決算整理の段階で、前期の所得金額と法人税額、当期の欠損金額、対象法人への該当性、資金繰りの見通しを確認し、申告書の作成と並行して還付請求書の準備を進めておくのが望ましいでしょう。
還付金額の考え方
欠損金の繰戻還付で還付される金額は、前期に納付した法人税額を上限に、繰り戻す欠損金額と前期の所得金額との関係によって計算されます。
基本的な考え方は、次のとおりです。
還付金額 = 還付所得事業年度の法人税額 × 繰り戻す欠損金額 ÷ 還付所得事業年度の所得金額
ただし実際には、請求書に記載した金額、還付所得事業年度の所得金額、法人税額、通算法人の特別な計算などを確認する必要があります。国税庁も、還付金額の計算について、請求書に記載された金額を限度とする旨や、通算法人については異なる計算による旨を示しています。
出典:国税庁|No.5763 欠損金の繰戻しによる還付
この計算で押さえておきたいのは、当期の欠損金が大きくても、前期の所得金額や法人税額を超えて還付を受けることはできない、という点です。
また、前期に税額控除、所得拡大促進税制・賃上げ促進税制、外国税額控除などを適用して法人税額が小さくなっている場合には、還付できる金額もその影響を受けます。
そのため繰戻還付の検討では、当期の赤字額だけでなく、前期の申告書を必ず確認しておく必要があります。
地方法人税はどう扱われるか
法人税の繰戻還付を受ける場合には、地方法人税の取扱いもあわせて確認します。
国税庁は、法人税について欠損金の繰戻しによる還付が行われた場合、地方法人税についても、還付法人税額を課税標準法人税額とみなして計算した地方法人税額が還付されるとし、令和元年10月1日以後に開始する事業年度については10.3%、一定のそれ以前の事業年度については4.4%と説明しています。また、地方法人税については別途の手続は不要とされています。
出典:国税庁|C1-52 欠損金の繰戻しによる還付の請求
一方で、住民税や事業税については、法人税の繰戻還付と同じ形でそのまま還付されるわけではありません。M&A・組織再編の実務でも、繰戻還付制度は法人税に認められている一方、住民税および事業税には認められていない点に留意が必要と整理されています。
本稿では地方税の詳細までは立ち入りませんが、資金繰り表を作成する際には、法人税・地方法人税の還付見込額と、住民税・事業税の取扱いとを、分けて把握しておくことが大切です。
繰戻還付を使うか、繰越控除として残すか
繰戻還付を検討するときの実務上の核心は、「還付を受けられるか」だけではありません。
本当に問われるのは、「当期の欠損金を過去に繰り戻すべきか、それとも将来に繰り越すべきか」という判断です。
繰戻還付を受ければ、資金は早期に回収できます。その一方で、繰り戻した欠損金は、将来の繰越控除には使えなくなります。
そこで、次のような観点から比較していきます。
1. 現在の資金繰りがどの程度逼迫しているか
当面の運転資金、借入返済、仕入代金、人件費、納税資金に不安がある場合、繰戻還付による資金回収は重要な選択肢になります。
とくに、赤字が一時的なものではなく、収益の回復までにしばらく時間がかかると見込まれる場合には、将来の繰越控除よりも、現在の還付のほうが実務上の価値が高いことがあります。
2. 将来の黒字化見込みがあるか
近い将来に課税所得が見込まれるのであれば、欠損金を繰越控除として残しておくことにも意味があります。
反対に、将来の黒字化の時期が不透明な場合には、欠損金を繰り越しても使い切れない可能性があります。繰越期間には限りがある以上、将来の利益見込みとあわせて判断することが欠かせません。
3. 前期にどれだけ法人税を納付しているか
前期の法人税額が小さい場合には、繰戻還付で戻ってくる金額も限られます。
そのような場合には、還付請求にかかる事務負担や説明資料の整備も踏まえて、あえて繰越控除として残すという判断もあり得ます。
4. 金融機関への説明をどう整理するか
繰戻還付は、赤字年度の資金繰りを補う手段です。もっとも、金融機関の視点からすれば、赤字の発生原因や今後の改善計画のほうが重要です。
還付見込額を資金繰り表に反映するだけでなく、赤字の原因、再発の可能性、固定費の削減、売上の回復策、投資計画の見直しまでを、きちんと説明できるようにしておく必要があります。
5. 税効果会計・事業計画への影響
税効果会計を適用している会社では、欠損金を繰戻還付に使うか、将来の繰越欠損金として残すかによって、繰延税金資産の検討にも影響が及びます。
税効果会計は、会計上の資産・負債と課税所得計算上の資産・負債の相違を調整し、法人税等と税引前利益とを合理的に対応させる、という考え方を基礎としています。
繰戻還付によって回収できる税金は、将来課税所得に依存する繰延税金資産とは、その性質が異なります。
これに対して、繰越欠損金として残す場合には、将来課税所得の見積り、事業計画の合理性、回収可能性を検討する必要があります。
赤字年度の申告品質が還付判断を左右する
繰戻還付では、当期に生じた欠損金が還付請求の基礎になります。
それだけに、赤字年度の申告内容が非常に重要な意味を持ちます。
赤字だからといって、申告作業を簡略化してよいわけではありません。
むしろ、繰戻還付を請求するのであれば、通常の黒字申告以上に、欠損金の発生原因をきちんと説明できる状態にしておく必要があります。
とくに確認しておきたい論点は、次のとおりです。
- 売上の計上漏れや計上時期の誤りがないか
- 売上値引き、返品、貸倒れの処理が妥当か
- 棚卸資産の評価損・廃棄損に根拠資料があるか
- 固定資産の除却損・売却損に実態があるか
- 貸倒損失の損金算入要件を満たしているか
- 役員退職金の退職事実・金額の相当性に問題がないか
- 関係会社支援損や債権放棄が、寄附金・債務免除益として整理されているか
- 保険解約損益、補助金、助成金、受取保険金の処理が適切か
- 過年度修正を、当期損失として安易に処理していないか
欠損金の発生原因が曖昧なまま還付請求を行うと、税務署からの照会や税務調査の場面で、説明に窮しかねません。
繰戻還付は、申告書上の計算さえ行えばよい制度ではなく、赤字の中身を説明できるかどうかが、実務上の重要なポイントになります。
還付請求の検討漏れは実務上のリスクになる
欠損金の繰戻還付は、申告時に検討すべき重要な論点です。
実際、税理士損害賠償の裁判例を扱う実務書では、法人が過去に法人税等を納付したのち、翌期に役員退職金を支給して欠損が生じたにもかかわらず、確定申告時に欠損金の繰戻しによる還付請求が行われなかった、という事案が紹介されています。そこでは、その還付請求をしなかったことが注意義務違反にあたるかどうかが、争点の一つとされています。
こうした事案が示しているのは、繰戻還付が単なる「使えたら使う制度」ではない、ということです。
赤字年度の申告では、次のような説明ができる状態が望まれます。
- 繰戻還付の対象法人に該当するか確認した
- 前期の法人税額と所得金額を確認した
- 当期の欠損金額を確認した
- 還付請求した場合の金額を試算した
- 繰越控除として残す場合との比較を行った
- 資金繰りへの影響を確認した
- 請求する、または請求しない理由を記録した
繰戻還付を請求しないという判断も、当然あり得ます。
ただし、同じ「請求しない」でも、検討したうえで請求しないのか、そもそも検討していなかったのかでは、税務判断の品質は大きく変わってきます。
解散時の繰戻還付
欠損金の繰戻還付では、通常の青色申告法人だけでなく、解散等の事実が生じた場合の取扱いも重要です。
国税庁は、解散、事業の全部譲渡、会社更生法等の更生手続開始など一定の事実が生じた場合に、その事実が生じた日前1年以内に終了した事業年度、またはその事実が生じた日の属する事業年度において欠損金額が生じているときは、欠損金の繰戻しによる還付を請求できると説明しています。ただし、解散については、適格合併による解散など一定の場合が除かれます。
出典:国税庁|No.5763 欠損金の繰戻しによる還付
また、M&A・組織再編の実務では、解散の場合の繰戻還付について、解散の日後1年以内に還付請求書を提出する必要があること、還付請求書には法人名、納税地、法人番号、代表者氏名、還付所得事業年度、解散等の事実の詳細などを記載する必要があることが整理されています。
解散・清算の局面では、事業を継続しないため、将来の繰越控除を使う余地が限られます。
だからこそ、過去に納付した法人税を繰戻還付によって回収できるかどうかは、残余財産、債務弁済、株主分配、清算スケジュールに影響してきます。
ただし解散時には、期限切れ欠損金、債務免除益、残余財産確定、みなし事業年度、株主課税といった論点も絡み合います。繰戻還付だけを切り出して判断するのではなく、会社の出口税務全体のなかで検討することが必要です。
グループ通算制度を適用している場合の注意点
グループ通算制度を適用している法人では、欠損金の取扱いが単体納税よりも複雑になります。
グループ通算制度では、法人税について損益通算や欠損金の通算が行われますが、地方税はグループ通算制度の対象外です。また、法人税、住民税、事業税で欠損金の金額が異なり得るため、法人税の繰越欠損金、住民税特有の欠損金、事業税の繰越欠損金を、それぞれ区分して集計する必要があります。
さらに、グループ通算制度では、特定繰越欠損金と非特定繰越欠損金の区分、損益通算、欠損金の通算、通算税効果額の授受、繰延税金資産の回収可能性が問題になります。
そのため、通算法人で繰戻還付を検討する場合に、単体法人と同じ感覚で判断するのは危険です。
少なくとも、次の事項は確認しておきたいところです。
- 通算前所得・通算前欠損金の状況
- 特定欠損金と非特定欠損金の区分
- 通算グループ内の損益通算の影響
- 法人税・住民税・事業税の欠損金管理の違い
- 通算税効果額の授受の有無
- グループ内の資金移動と会計処理
- 親法人・子法人間の申告スケジュール
中小・中堅企業でも、持株会社化、M&A、子会社管理の高度化により、グループ通算制度やグループ会社税務が関係する場面は増えています。繰戻還付を検討する際には、単体申告なのか、グループ通算制度の適用法人なのかを、早い段階で確認しておくことが大切です。
繰戻還付を検討する実務手順
赤字年度に繰戻還付を検討するときは、次の順番で整理していくと判断しやすくなります。
1. 当期の欠損金額を確認する
まず、会計上の赤字ではなく、法人税申告書上の欠損金額を確認します。
別表四で税務調整後の所得金額または欠損金額を確認し、別表七(一)で欠損金の発生・控除・繰越の状況を確認します。
2. 前期の所得金額と法人税額を確認する
次に、還付所得事業年度となる前期の申告書を確認します。
前期に所得があっても、税額控除などにより法人税額が少なければ、還付できる金額も限られます。
3. 対象法人に該当するか確認する
資本金、株主構成、大法人との完全支配関係、グループ通算制度の有無を確認します。
この段階で対象外となる場合には、通常の繰戻還付ではなく、解散等の特例や災害損失欠損金に該当するかを、別途確認します。
4. 申告期限と提出要件を確認する
通常の繰戻還付では、欠損事業年度の確定申告書を期限内に提出し、同時に還付請求書を提出する必要があります。
申告期限の間際になってから検討し始めると、還付請求書の作成、資料の整理、社内承認が間に合わなくなるおそれがあります。
5. 還付額を試算する
当期の欠損金額、前期の所得金額、前期の法人税額から、還付見込額を試算します。
そのうえで、繰戻還付に使う欠損金額と、将来に繰り越す欠損金額を整理していきます。
6. 資金繰り表に反映する
還付見込額を資金繰り表に反映します。
ただし、還付の時期は確定しているわけではありません。資金繰り表では、還付予定額を過度に早い時期に見込まず、保守的に管理することが重要です。
7. 請求する理由・請求しない理由を記録する
還付請求をする場合には、欠損金の発生原因、還付額、資金繰りへの影響を記録します。
請求しない場合であっても、将来の繰越控除として残す理由、前期法人税額が少ないこと、資金繰り上の必要性が低いことなど、判断の過程を残しておくべきです。
申告前に準備しておくべき資料
繰戻還付を検討する際には、次の資料をあらかじめ整理しておくと、実務判断が進めやすくなります。
- 当期の決算書
- 当期の法人税申告書案
- 別表四
- 別表七(一)
- 前期の法人税申告書一式
- 前期の別表一、別表四、別表七(一)
- 前期の法人税納付額が分かる資料
- 青色申告の承認状況が分かる資料
- 株主構成・資本関係図
- グループ通算制度の適用状況が分かる資料
- 当期欠損金の発生原因を説明する資料
- 貸倒、評価損、除却損、役員退職金、債務免除等に関する資料
- 資金繰り表
- 金融機関提出用の事業計画
- 解散等を検討している場合の株主総会議事録、清算スケジュール、債権債務明細
繰戻還付は、申告書だけで完結する判断ではありません。
赤字の中身、資金繰り、将来の利益計画、そして会社の方向性を踏まえて検討する必要があります。
繰戻還付を検討すべきタイミング
繰戻還付の検討は、申告書作成の最終段階ではなく、決算の着地見込みが見えた時点で始めるのが望ましいといえます。
具体的には、次のようなタイミングで確認しておくと、実務上有効です。
- 決算2〜3か月前に、赤字見込みが明らかになった時点
- 多額の損失処理を検討している時点
- 役員退職金や事業撤退費用を計上する前
- 金融機関向けの資金繰り表を作成する時点
- 前期の納税額を確認した時点
- 解散・清算を検討し始めた時点
- M&Aや組織再編の前に、欠損金の利用可能性を確認する時点
繰戻還付は、申告期限内に請求書を提出しなければならない制度です。
だからこそ、決算確定後に慌てて検討するのではなく、月次決算や決算予測の段階から「当期に欠損が出るなら、繰戻還付を検討すべきか」を論点として意識しておくことが大切です。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
欠損金の繰戻還付は、赤字年度の税務手続であると同時に、資金繰り、金融機関対応、事業計画、解散・清算、M&A・組織再編にも影響する判断領域です。
とくに、前期に法人税を納付している会社、当期に大きな損失が見込まれる会社、資金繰りの改善を検討している会社、解散・清算を予定している会社、グループ会社を有する会社では、申告期限の前に、繰戻還付の可否と影響を整理しておくことが重要になります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、単に還付金額を計算するだけでなく、欠損金の発生原因、税務調整、申告要件、資料整備、資金繰り表、そして将来の繰越控除との比較まで含めて、会社としてどのように判断すべきかを整理いたします。
赤字年度の申告で繰戻還付を検討したい、過去に納付した法人税の還付可能性を確認したい、繰越控除との使い分けを資金繰りとあわせて判断したい——そのようなときは、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 項目 | 実務上のポイント |
|---|---|
| 制度の性格 | 当期の欠損金を前期以前の所得に繰り戻し、過去に納付した法人税の還付を請求する制度 |
| 繰越控除との違い | 繰越控除は将来の納税減少、繰戻還付は現在の資金回収につながる |
| 対象法人 | 中小企業者等かどうか、大法人との完全支配関係や大通算法人該当性を確認する |
| 非中小法人の注意点 | 中小企業者等以外は不適用措置があり、令和8年度税制改正による期限延長にも注意する |
| 通常の申告要件 | 青色申告、連続申告、欠損事業年度の期限内申告、確定申告書と同時の還付請求書提出が重要 |
| 還付額 | 前期法人税額、前期所得金額、繰り戻す欠損金額をもとに計算する |
| 地方法人税 | 法人税の還付に連動して地方法人税も還付されるが、住民税・事業税は別途確認が必要 |
| 判断軸 | 現在の資金繰り、将来利益、前期納税額、金融機関説明、税効果会計への影響を比較する |
| 解散時 | 解散等の場合は特例的な繰戻還付があり、請求期限や記載事項に注意する |
| グループ通算 | 単体法人と異なり、特定・非特定欠損金、通算税効果額、税目別欠損金管理が必要 |
| 資料整備 | 欠損金の発生原因、損金算入要件、証憑、資金繰り表を整理する |
| 相談タイミング | 決算確定後ではなく、赤字見込みが見えた段階で検討を始める |