グループ会社間で人材を動かすとき、月例給与の負担だけを決めて、それで終わりにしてはいないでしょうか。
出向・転籍の場面では、毎月の給与よりも、賞与と退職金のほうが後から問題になりやすいものです。賞与には支給対象期間と支給日があり、退職金には在職期間、退職給与規程、出向期間、転籍前後の勤続年数が関わってくるためです。
たとえば、賞与の対象期間が1月から6月、支給日が7月という会社で、4月に子会社へ出向した社員がいたとします。この場合、1月から3月までの勤務に対応する賞与を出向元が負担し、4月から6月までの勤務に対応する賞与を出向先が負担する、という整理が自然に見えます。
しかし、出向元と出向先で賞与水準が異なるとき、出向元が差額を補填するとき、出向先が経営不振で賞与を支給できないとき、あるいは未払賞与として期末に損金算入したいときには、判断はそれほど単純ではありません。
退職金も同じです。出向者は、通常、出向元との雇用関係を維持したまま出向先で勤務します。そのため、退職金は出向元が本人へ支給することが多い一方で、そのうち出向期間に対応する部分は、出向先が負担すべきものとして精算されることがあります。国税庁も、出向者の退職金のうち出向期間に対応する部分については、通常、出向先法人から出向元法人へ負担金が支出されるものとして整理しています。
出典:国税庁|No.5242 出向先法人が支出する退職金の負担金の取扱い
本記事では、出向・転籍時の賞与・退職金負担について、法人税務上どう考えるべきか、どの資料を整えておくべきか、判断を誤ると何がリスクになるのかを整理します。なお、ここで扱うのは退職所得そのものの詳細計算ではなく、法人間の負担関係、損金算入時期、寄附金課税、資料化を中心とした論点です。
最初に押さえておきたい結論
出向・転籍時の賞与・退職金負担は、次の3点をそれぞれ分けて考える必要があります。
| 論点 | 判断の中心 | 誤りやすい処理 |
|---|---|---|
| 賞与 | 支給対象期間、支給義務、誰の勤務に対応するか | 支給日に在籍する会社だけで全額処理する |
| 未払賞与 | 各人別通知、1か月以内支払、損金経理 | 期末に概算額を未払計上する |
| 退職金 | 出向期間・転籍前後の在職期間・負担区分 | 実際に支払った会社だけで全額処理する |
| 法人間精算 | 合理的な負担割合、契約書、精算書 | 決算利益に応じて後から精算額を決める |
| 寄附金課税 | 相手法人が本来負担すべき金額を肩代わりしていないか | グループ会社だから柔軟に負担してよいと考える |
| 源泉所得税 | 本人へ支払う者、退職所得申告書、支払時期 | 法人間精算と本人への支払を混同する |
出向・転籍の賞与・退職金は、「誰が支払ったか」だけで判断してはいけません。税務上は、誰の勤務期間に対応するのか、どの法人が負担すべきなのか、支給義務がいつ確定したのか、負担金額が合理的に計算されているのか。こうした点こそが問われます。
出向と転籍では、賞与・退職金の考え方が変わる
まず、出向と転籍を区別しておく必要があります。
出向は、出向元との雇用関係を維持したまま、出向先の業務に従事する形です。そのため、給与や退職金の支給規程は、出向元の制度を基礎とすることが多くなります。一方で、出向先で勤務している期間については、出向先が労務提供の利益を受けています。したがって、出向先が一定の負担をすることにも合理性があります。
転籍は、転籍前法人との雇用関係を終了し、転籍後法人との雇用関係に移る形です。ここでは、転籍前法人での勤務に対応する賞与や退職金をどう精算するか、転籍後法人が勤続年数を通算するか、転籍前法人が後日負担するか、といった点が問題になります。
| 区分 | 出向 | 転籍 |
|---|---|---|
| 雇用関係 | 出向元との関係が継続 | 転籍前法人との関係は原則終了 |
| 賞与 | 支給対象期間を出向元・出向先で分けて考える | 転籍前後の勤務期間で分けて考える |
| 退職金 | 出向元が支給し、出向期間対応分を出向先が負担することが多い | 転籍前法人で打切支給するか、転籍後法人が勤続通算するかを決める |
| 主な資料 | 出向契約、出向命令、給与負担合意、退職金負担合意 | 転籍合意書、退職・再雇用書類、退職金通算合意 |
| 税務リスク | 出向先負担不足・過大負担、給与較差補填、寄附金 | 転籍前後の負担誤り、相手法人への寄附金 |
実務では、出向・転籍がともに「人材移動」として一括りにされがちです。しかし、賞与・退職金においては、雇用関係が継続しているのか、いったん終了しているのかが、結論を大きく左右します。出向・転籍の場面では、賞与、退職給与、源泉、契約整備を、それぞれ個別の論点として分解して考えることが重要です。
賞与負担は「支給日」ではなく「支給対象期間」で考える
賞与についてまず確認すべきなのは、支給日ではなく支給対象期間です。
たとえば、1月から6月までの勤務実績を対象として、7月に賞与を支給する場合を考えます。5月1日に出向した社員であれば、1月から4月までは出向元で勤務し、5月から6月までは出向先で勤務していることになります。この場合、賞与の全額を7月時点の所属会社だけで負担するのではなく、勤務期間に応じて負担するのが自然です。
| 期間 | 勤務先 | 賞与負担の基本的な考え方 |
|---|---|---|
| 1月〜4月 | 出向元 | 出向元勤務に対応する賞与として出向元が負担 |
| 5月〜6月 | 出向先 | 出向先勤務に対応する賞与として出向先が負担 |
| 7月支給日 | 支給手続上の会社 | 支給日だけで全額負担者を決めない |
この考え方は、転籍でも基本的に同じです。転籍前の勤務期間に対応する賞与は転籍前法人、転籍後の勤務期間に対応する賞与は転籍後法人が負担する。ここが出発点になります。
ただし、支給対象期間の按分だけで完結しない場合もあります。出向元と出向先で賞与水準が違うとき、出向元が処遇維持のために差額を支給するとき、出向先が経営不振で賞与を支給できないときなどです。
賞与水準の差額は、給与較差補填として説明できるか
出向元では月給3か月分の賞与を支給する一方、出向先では月給2か月分の賞与しか支給しない。こうしたケースは珍しくありません。この場合、出向者の処遇を維持するために、出向元が1か月分相当を負担することがあります。
国税庁は、出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補填するために出向者へ支給した給与について、出向元法人の損金の額に算入するものとしています。また、出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給できないため出向元法人が賞与を支給する場合も、給与較差補填として取り扱われます。
出典:国税庁|第9款 転籍、出向者に対する給与等
タックスアンサーでも、出向元法人が給与条件の較差を補填するために出向者へ支給した給与は、出向者と出向元法人との雇用契約が維持されていることから、出向元法人の損金の額に算入されると整理されています。
出典:国税庁|No.5241 出向者に対する給与の較差補てん金の取扱い
ここで注意しておきたいのは、「賞与差額」という名目を付ければ常に損金算入できるわけではない、という点です。給与較差補填として説明するには、少なくとも次の確認が欠かせません。
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 出向元の給与・賞与水準 | 出向前の給与規程、過去の支給実績 |
| 出向先の給与・賞与水準 | 出向先の同等職位の給与規程、支給実績 |
| 差額の計算根拠 | 何か月分、どの給与額を基礎に計算したか |
| 出向契約の定め | 較差補填の有無、負担者、支給方法 |
| 出向の目的 | 人材育成、グループ管理、処遇維持など |
| 出向先の負担能力 | 経営不振等により支給できない事情があるか |
| 期間対応 | 支給対象期間のうち、どの期間に対応するか |
特に、出向先法人に十分な負担能力があるにもかかわらず、出向者の賞与を出向元法人が全額負担しているような場合には、給与較差補填として説明できるかどうか、慎重に検討する必要があります。実務でも、出向先が本来負担すべき賞与まで出向元が負担しているときは、出向元から出向先への利益供与、すなわち寄附金と見られる余地が残ります。
出向元が賞与を全額負担してよい場合・危険な場合
出向元が賞与を全額負担するケースは、必ずしもすべてが否認されるわけではありません。出向先が設立直後で賞与制度が整っていない、経営不振で賞与を支給できない、出向元が処遇維持を約束している。こうした事情がある場合には、給与較差補填や合理的なグループ人事政策として説明できることもあります。
しかし、次のような場合には注意が必要です。
| ケース | 税務上の見方 |
|---|---|
| 出向先が黒字で賞与制度もあるのに、出向元が全額負担 | 出向先が本来負担すべき費用の肩代わりと見られる可能性 |
| 出向者の業績が出向先の利益に貢献している | 出向先の事業に対応する賞与と整理されやすい |
| 出向元が決算利益に応じて負担額を調整 | 利益調整目的と見られる可能性 |
| 出向契約に賞与負担の定めがない | 後付け精算と見られる可能性 |
| 出向者だけ他の出向者と異なる負担方法 | 個別利益供与・恣意的処理と見られる可能性 |
賞与は、本人の勤務実績や会社業績に応じて支給される性格を持ちます。出向先で勤務した期間の業績評価に基づく賞与を、なぜ出向元が負担するのか。この点をきちんと説明できなければ、法人税務上のリスクが残り続けます。
未払賞与として損金算入する場合の要件
決算期末に賞与を未払計上して損金算入したい、というご相談は多く寄せられます。出向者や転籍者がいる場合も、未払賞与の要件は、通常の使用人賞与と同じように確認しておく必要があります。
国税庁は、使用人賞与の損金算入時期について、一定の賞与は使用人に支給額を通知した日の属する事業年度に損金算入できるものとしています。その要件は、各人別・同時期支給を受けるすべての使用人への通知、通知日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内の支払、そしてその事業年度における損金経理です。
出典:国税庁|No.5350 使用人賞与の損金算入時期
整理すると、未払賞与の期末損金算入には、少なくとも次の要件確認が必要になります。
| 要件 | 実務上の確認 |
|---|---|
| 各人別通知 | 出向者・転籍者を含め、個人別支給額を通知しているか |
| 同時期支給対象者への通知 | 同じ支給日に支給を受ける対象者全員に通知しているか |
| 1か月以内支払 | 期末翌日から1か月以内に通知額を支払っているか |
| 損金経理 | 決算で未払金等として損金経理しているか |
| 支給日に在籍する者限定でないか | 「支給日に在籍する者のみ支給」条件がある場合、通知要件を満たしにくい |
| 支給条件付きでないか | 将来の業績達成など未確定条件が残っていないか |
国税庁の文書回答事例では、未払賞与について、実際に支払が行われたものと同視し得る状態にあるものに限って例外的に損金算入を認める趣旨であると整理されています。そのうえで、将来一定の条件を満たした場合に支給する賞与について支給予定額を通知しても、法人税法施行令72条の3第2号イの要件は満たさないとされています。
出典:国税庁 金沢国税局|決算賞与金の税務上の取扱いについて
出向者・転籍者の場合、通知日や支給日の時点で所属会社が変わっていることがあります。そのため、「誰に通知したか」「誰が本人へ支払ったか」「どの法人がどの期間分を負担するか」を、それぞれ分けて記録しておく必要があります。
出向者だけ通知日が違う場合の考え方
出向者については、出向命令や出向契約のタイミングに合わせて、他の従業員より早く賞与額を通知することがあります。この場合、他の使用人と通知日が違うというだけで、ただちに未払賞与の損金算入が否定されるとは限りません。
ここで重要になるのは、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して、各人別に確定額を通知しているかどうかです。実務では、出向者、一般使用人、パートタイマー等の区分ごとに、支給対象者、通知日、支給日、支給額、支払実績を一覧化しておくと、説明がしやすくなります。出向者と他の使用人について、区分ごとに支給額通知の有無を確認するという考え方は、出向・転籍実務でも重視されるところです。
| 管理項目 | 出向者で確認すべき点 |
|---|---|
| 支給対象期間 | 出向前・出向後の勤務期間を分けているか |
| 通知日 | 出向者への通知日が記録されているか |
| 通知額 | 概算ではなく確定額か |
| 支給日 | 期末翌日から1か月以内か |
| 支払法人 | 出向元が支払うのか、出向先が支払うのか |
| 負担法人 | 実際の負担割合はどうなっているか |
| 精算書 | 法人間精算額と本人支給額が対応しているか |
期末に未払賞与を計上する場合、単なる会計上の見積りだけでは足りません。税務上は、本人への通知、支払、損金経理が、きちんと結びついている必要があります。
退職金負担は「出向期間に対応する部分」を合理的に計算する
出向者の退職金は、出向元法人が本人へ支払うのが一般的です。しかし、出向期間中の労務提供の利益を受けたのは、出向先法人です。そのため、出向期間に対応する退職金については、出向先法人が出向元法人へ負担金を支払うことがあります。
国税庁は、出向先法人が出向元法人へ支出する退職金負担金について、出向先法人から出向元法人へ復帰した時、出向元法人を退職した時、出向期間中、という3つの支出時期を示しています。復帰時または出向元退職時に支出する場合は、原則として支出した事業年度の損金算入となります。
出典:国税庁|No.5242 出向先法人が支出する退職金の負担金の取扱い
また、出向期間中に退職金負担金を支出する場合には、あらかじめ定めた負担区分に基づいて定期的に支出していること、そして出向期間に対応する退職金の負担額として合理的に計算された金額であることが必要です。
出典:国税庁|No.5242 出向先法人が支出する退職金の負担金の取扱い
法人税基本通達でも、出向先法人が、あらかじめ定めた負担区分に基づき、出向期間に対応する退職給与の額として合理的に計算された金額を定期的に出向元法人へ支出している場合には、その金額は、出向者が出向先法人で役員となっている場合であっても、支出日の属する事業年度の損金に算入するとされています。
出典:国税庁|第9款 転籍、出向者に対する給与等
退職金負担金の3つの精算タイミング
出向者の退職金負担金には、主に次の3つの精算タイミングがあります。
| 精算タイミング | 内容 | 税務上のポイント |
|---|---|---|
| 出向期間中に定期的に支払う | 毎期、退職金負担相当額を出向先から出向元へ支払う | 負担区分の事前合意、定期支出、合理的計算が必要 |
| 出向元へ復帰した時に支払う | 出向終了時に、出向期間対応分を精算する | 復帰時点で出向先の負担額を合理的に算定 |
| 出向元を退職した時に支払う | 本人が出向元を退職した際、出向期間対応分を出向先が負担 | 出向元が支給する退職金のうち出向期間対応分を区分 |
このうち、もっとも説明しやすいのは、出向契約であらかじめ負担方法を定め、定期的に精算する方法です。一方、出向終了時や退職時にまとめて精算する方法では、過去の出向期間、給与水準、退職金規程、要支給額の増加額を後から計算しなければなりません。そのため、資料が不足していると、説明が難しくなります。
合理的な退職金負担額の計算方法
退職金の負担額は、単純に「出向期間 ÷ 全勤続期間」で按分すればよい、とは限りません。退職金制度は、勤続年数が長くなるほど支給率が上がる設計になっていることが多く、単純按分では実態とズレてしまう場合があるためです。
実務上は、次のような計算方法が考えられます。
| 方法 | 内容 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 在職期間按分法 | 退職金総額を出向元・出向先の勤務期間で按分 | シンプルな制度、説明を簡素にしたい場合 | 勤続年数に応じた支給率上昇を反映しにくい |
| 要支給額増加法 | 出向開始時と出向終了時の退職金要支給額の差額を出向先負担とする | 出向期間中に退職給付債務が増加する考え方を重視する場合 | 退職金規程・計算資料が必要 |
| 転籍時要支給額法 | 転籍時点の要支給額を転籍前法人が負担 | 転籍時に退職金を打切支給しない場合 | 転籍後の利息相当や通算勤続の扱いを決める必要 |
| 契約別定額法 | 出向契約で定めた計算式に基づき毎期負担 | 出向契約を事前整備できる場合 | 計算式の合理性が必要 |
| 退職金規程別計算法 | 出向元または出向先の退職金規程に基づき負担額を算定 | 出向契約で適用規程を定めている場合 | どちらの規程を用いるかの根拠が必要 |
重要なのは、どの方法を採用するかそのものではありません。その方法が、出向契約・退職金規程・勤務実態に照らして合理的であり、継続して説明できるかどうかです。
特にグループ会社間では、出向者ごと、出向先ごとに精算方法が違っていても、合理的な理由があれば、それだけでただちに問題になるわけではありません。ただし、利益調整に利用していると見られないためには、出向契約等で負担方法を明確にし、なぜその方法を採用したのかを記録しておく必要があります。
出向先が退職金負担金を支払わない場合
出向期間に対応する退職金を出向先が負担しない場合でも、そのことに相当な理由があるときは、認められるとされています。法人税基本通達9-2-50は、出向先法人が、出向元法人の支給すべき退職給与のうち出向期間に係る部分の全部または一部を負担しない場合であっても、負担しないことにつき相当な理由があるときはこれを認める、としています。
出典:国税庁|第9款 転籍、出向者に対する給与等
ただし、「相当な理由」は、安易に使える言葉ではありません。
| 出向先が負担しない理由 | 説明可能性 |
|---|---|
| 出向元の人材育成目的であり、出向先は受入れに協力したにすぎない | 出向目的・契約内容次第で説明余地あり |
| 出向先が再建途上で負担能力がない | 再建計画・財務資料が必要 |
| 出向期間が短く退職給付増加額が僅少 | 計算資料が必要 |
| グループ方針で親会社が全額負担 | それだけでは弱い |
| 出向先の利益を出すために負担させない | 寄附金・利益移転リスクが高い |
出向先が負担しない場合には、負担しない理由そのものを資料化しておく必要があります。単に精算していない、契約書に書いていない、過去からそうしている。こうした説明では不十分です。
転籍時の退職金は「打切支給」か「勤続通算」かを決める
転籍では、退職金処理の選択肢が大きく分かれます。
一つは、転籍時に転籍前法人が本人へ退職金を支給する方法です。もう一つは、転籍時には本人へ支給せず、転籍後法人が転籍前法人での勤続期間を通算して、将来の退職時に退職金を支給する方法です。
| 方法 | 内容 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 転籍時打切支給 | 転籍前法人での在職期間に対応する退職金を転籍時に支給 | 債務関係が明確になる | 資金流出、源泉、退職所得申告の処理が必要 |
| 勤続通算方式 | 転籍後法人が転籍前期間も含めて将来退職金を支給 | 本人の処遇継続に適する | 法人間で負担区分を明確にしないと寄附金リスク |
| 転籍前法人から転籍後法人へ退職金相当額を支払う | 本人には支給せず、転籍後法人へ精算 | 将来支給財源を移す考え方 | 本人への退職金ではなく法人間精算として整理が必要 |
| 将来退職時に転籍前法人が負担 | 転籍後法人退職時に、転籍前期間対応分を転籍前法人が負担 | 勤続通算を維持しやすい | 負担方法・計算式・支払時期の事前合意が必要 |
法人税基本通達9-2-52は、転籍した使用人に係る退職給与について、転籍前法人における在職年数を通算して支給することとしている場合には、転籍前法人および転籍後法人が支給した退職給与の額を、それぞれの法人における退職給与とするものとしています。ただし、他の使用人に対する退職給与の支給状況や、それぞれの法人における在職期間等からみて、明らかに相手方法人が支給すべき退職給与を負担したと認められる部分については、相手方法人に贈与したものとされます。
出典:国税庁|第9款 転籍、出向者に対する給与等
この「贈与したもの」という取扱いは、実務上は寄附金課税のリスクとして意識しておくべきものです。転籍前法人が負担すべき金額を転籍後法人が負担した、あるいはその逆がある場合には、法人間の利益供与と見られる可能性があります。
転籍前法人が転籍後法人へ退職金相当額を支払う場合
転籍時に本人へ退職金を支給せず、転籍前法人が転籍後法人へ退職金相当額を支払うことがあります。これは、転籍後法人が将来、転籍前期間を含めて退職金を支給するための、財源移転として設計されることがあります。
この処理では、次の点を明確にしておく必要があります。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 本人への退職金支給か | 転籍時に本人へ支給していないなら、本人の退職所得ではない |
| 法人間精算の性格 | 将来退職金負担の前払いか、単なる資金移転か |
| 転籍後法人の退職金規程 | 転籍前期間を通算する定めがあるか |
| 転籍前法人の負担額 | 転籍時点の要支給額、在職期間按分等の根拠 |
| 会計処理 | 支払側・受取側の勘定科目と税務調整 |
| 契約書 | 転籍合意書、退職金通算合意書、精算書 |
| 将来支給時の処理 | 転籍後法人が本人へ支給する際の源泉・損金算入 |
法人間で資金を動かすだけでは、税務上の説明にはなりません。転籍後法人が将来どのような退職金支給義務を負うのか、そしてその義務に対応して転籍前法人がいくらを負担するのか。ここを文書化しておく必要があります。
役員が絡む場合は役員退職給与規制にも注意する
本記事の中心は使用人の出向・転籍ですが、出向者や転籍者が役員になる場合、あるいは役員退職金を伴う場合には、役員給与・役員退職給与の規制が加わります。
役員退職金について、国税庁は、適正な額のものは損金算入され、その損金算入時期は、原則として株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度であるとしています。ただし、実際に支払った事業年度で損金経理した場合には、その支払った事業年度で損金算入することも認められます。
出典:国税庁|No.5208 役員の退職金の損金算入時期
役員退職給与では、退職の事実、金額の相当性、株主総会等の決議、支給時期が問題になります。実務でも、役員退職給与については、支給額の相当性と損金算入時期が主要な論点となり、役員退職給与規程、功績倍率法、会社法上の手続との整合性が重視されます。
出向・転籍の局面で役員が絡む場合には、少なくとも次の点を追加で確認しておくべきです。
| 確認項目 | 注意点 |
|---|---|
| 使用人か役員か | 法人税法上の役員給与規制の対象か |
| 使用人兼務役員か | 使用人分賞与と役員分賞与を区分できるか |
| 出向先で役員になっているか | 給与負担金に役員給与規制が及ぶか |
| 役員退職金か使用人退職金か | 損金算入要件・源泉処理が異なる |
| 退職事実があるか | 分掌変更だけで退職と同視できるか |
| 金額の相当性 | 在任期間、退職事情、同業類似法人の支給状況等を確認 |
| 決議・議事録 | 株主総会・取締役会等の記録があるか |
源泉所得税は「本人に支払う者」と「所得区分」で整理する
賞与・退職金では、法人税だけでなく、源泉所得税も重要な論点になります。
賞与は、給与所得として源泉徴収の対象になります。退職金は、退職により一時に受ける給与として退職所得に該当する場合、退職所得として源泉徴収を行います。国税庁は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与およびこれらの性質を有する給与に係る所得であり、退職しなかったならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われる給与をいう、と整理しています。
出典:国税庁|No.2725 退職所得となるもの
退職手当等を支払うときには、支払者が所得税および復興特別所得税を源泉徴収し、原則として翌月10日までに納付する必要があります。
出典:国税庁|No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
ここで混同しやすいのが、法人間精算と本人への支払です。
| 支払の種類 | 支払先 | 源泉所得税の考え方 |
|---|---|---|
| 賞与の本人支給 | 出向者・転籍者本人 | 給与所得として源泉徴収 |
| 退職金の本人支給 | 退職者本人 | 退職所得として源泉徴収 |
| 出向先から出向元への賞与負担金 | 法人 | 本人への給与支払ではなく法人間精算 |
| 出向先から出向元への退職金負担金 | 法人 | 本人への退職金支払ではなく法人間精算 |
| 転籍前法人から転籍後法人への退職金相当額 | 法人 | 本人支給ではないため、源泉処理とは別に法人税処理を確認 |
本人へ支給する会社と、最終的に費用を負担する会社が異なることは、珍しくありません。その場合、源泉所得税は本人への支払者を基準に整理し、法人税上の費用負担は法人間精算として別に整理します。
消費税区分にも注意する
出向・転籍に関する賞与負担金や退職金負担金は、法人間で請求書を発行して精算されることがあります。そのため、経理処理の段階で、誤って課税仕入れにしてしまうことがあります。
しかし、給与・賞与・退職金に対応する法人間精算は、通常の業務委託料や人材派遣料とは性格が異なります。出向者に対する給与を出向元が支払い、その負担分を出向先が精算する場合、実態は労務提供に関する給与負担の精算です。請求書の形式だけで消費税の課税仕入れと判断するのは、危険だといえます。
消費税区分を判断する際には、次の点を確認します。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 出向か派遣か | 労働者派遣契約・業務委託契約ではないか |
| 本人への支払内容 | 給与、賞与、退職金に対応するものか |
| 法人間精算の性格 | 実費精算か、役務提供対価か |
| 請求書の名目 | 経営指導料、業務委託料に混在していないか |
| 消費税コード | 不課税処理か、課税仕入れ処理か |
| インボイス | 請求書があることと課税仕入れ該当性を混同していないか |
消費税の誤区分は、税務調査で継続的に問題になりやすい領域です。賞与・退職金負担金については、法人税だけでなく、消費税コードもレビューの対象にすべきです。
会計処理と税務調整の見方
出向・転籍時の賞与・退職金負担では、会計処理と税務処理が一致しているかを確認します。ここでは、勘定科目名だけではなく、実質で判断する必要があります。
| 勘定科目例 | 税務上の確認 |
|---|---|
| 賞与 | 支給対象期間、本人通知、支払時期、源泉 |
| 未払賞与 | 法令72条の3の要件を満たすか |
| 賞与引当金 | 税務上損金算入できるか |
| 給与負担金 | 出向先給与として合理的か |
| 退職給付費用 | 実際の退職給与か、負担金か |
| 退職金負担金 | 出向期間対応分として合理的計算か |
| 雑収入 | 出向元側で受け取った負担金の益金処理 |
| 仮受金 | 退職事実がないことを理由に仮受処理していないか |
| 寄附金 | 本来相手法人が負担すべき部分を肩代わりしていないか |
出向先法人が退職給与負担金を出向元法人へ支払う場合、出向元法人側では、受け取った負担金をどのように処理するかも重要になります。退職金の本人支給前だからといって、何でも仮受金にできるわけではありません。出向元法人が出向先から退職給与負担金を受け入れる場合、実務では受入時の益金処理が問題になり、仮受金処理の可否は慎重に検討すべきです。
税務調査で確認されやすい資料
出向・転籍時の賞与・退職金負担は、税務調査で次の資料を確認されやすい論点です。
| 資料 | 確認される内容 |
|---|---|
| 出向契約書・転籍合意書 | 出向・転籍の事実、期間、職務、負担区分 |
| 出向命令書・辞令 | 出向開始日、転籍日、所属変更日 |
| 給与規程・賞与規程 | 支給対象期間、支給条件、支給水準 |
| 退職金規程 | 勤続通算、要支給額、支給率 |
| 賞与通知書 | 各人別通知、通知日、通知額 |
| 支給一覧表 | 本人への支給額、支給日、源泉税 |
| 法人間精算書 | 出向元・出向先、転籍前・転籍後の負担額 |
| 計算明細 | 期間按分、要支給額増加額、較差補填額 |
| 取締役会・稟議書 | 負担方法の決定過程 |
| 源泉徴収簿・納付書 | 賞与・退職金の源泉処理 |
| 退職所得申告書 | 退職金支給時の源泉計算 |
| 消費税区分資料 | 課税仕入れ処理していないか |
| グループ資本関係図 | 寄附金・グループ法人税制への影響 |
資料が不足していると、税務調査の場面で「なぜこの法人が負担したのか」「なぜこの金額なのか」「なぜこの時期に損金算入したのか」を説明できません。出向・転籍の時点で処理の考え方を固め、賞与・退職金の処理を決算時まで先送りしないことが重要です。
判断を誤った場合の経営上のリスク
賞与・退職金負担の処理を誤ると、法人税の追徴だけでなく、次のような経営上のリスクにつながります。
| 誤り | 起こり得るリスク |
|---|---|
| 賞与を支給日に在籍する法人だけで処理 | 勤務期間対応が説明できず、負担関係を否認される |
| 未払賞与の要件を満たさない | 期末損金算入が否認される |
| 出向元が賞与を全額負担 | 出向先への寄附金と見られる |
| 退職金負担区分がない | 出向先負担金の損金算入時期・金額を説明できない |
| 退職金相当額を概算で精算 | 合理的計算と認められない |
| 転籍前後の勤続通算を契約化していない | 将来退職時に法人間精算が混乱する |
| 源泉処理を誤る | 不納付加算税・延滞税のリスク |
| 消費税区分を誤る | 仕入税額控除否認のリスク |
| グループ内で恣意的に負担変更 | 寄附金・利益移転・調査指摘のリスク |
| 資料がない | M&A・金融機関説明・税務調査で過去リスク化する |
出向・転籍は、人事上の必要性から急に決まることがあります。しかし、賞与・退職金は、将来の資金流出と税務処理に直結する論点です。特にM&Aや組織再編、事業承継を予定している会社では、過去の出向・転籍処理が税務デューデリジェンスで確認されることもあります。
実務上の判断フロー
出向・転籍時の賞与・退職金負担は、次の流れで整理すると、判断がしやすくなります。
1. 人材移動の形態を確認する
出向か転籍かを確認します。出向であれば雇用関係が出向元に残るのか、転籍であれば転籍前法人との雇用関係が終了しているのかを確認します。
2. 賞与の支給対象期間を確認する
賞与の対象期間、支給日、支給条件、通知日を確認します。出向・転籍日を対象期間の中に落とし込み、どの期間がどの法人の勤務に対応するかを整理します。
3. 賞与水準差・較差補填を確認する
出向元と出向先で賞与水準が異なる場合、差額を誰が負担するかを確認します。給与較差補填として説明できるよう、給与規程、賞与規程、出向契約、計算明細を整えます。
4. 未払賞与の要件を確認する
期末に未払計上する場合、各人別通知、同時期支給対象者への通知、1か月以内支払、損金経理、在籍条件の有無を確認します。
5. 退職金規程と勤続期間を確認する
出向元・出向先、転籍前・転籍後の退職金規程を確認します。勤続通算の有無、出向期間対応分、転籍前期間対応分を整理します。
6. 退職金負担金の精算時期を決める
出向期間中に定期精算するのか、出向終了時に精算するのか、退職時に精算するのかを決めます。あわせて、契約書に負担区分・計算方法を明記します。
7. 法人間精算書を作成する
賞与負担金、退職金負担金について、対象者、対象期間、計算方法、負担額、支払日を一覧化します。
8. 源泉所得税・消費税区分を確認する
本人への支払者を確認し、賞与・退職金の源泉処理を行います。法人間精算については、消費税区分を誤らないようにします。
専門家へ相談する前に整理しておきたい資料
賞与・退職金負担について専門家へ相談する場合、次の資料を準備しておくと、論点整理が進みやすくなります。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 出向契約書・転籍合意書 | 人材移動の法的・実務的前提を確認 |
| 出向命令書・辞令 | 出向日・転籍日・所属変更日を確認 |
| 給与規程・賞与規程 | 賞与水準、支給対象期間、支給条件を確認 |
| 退職金規程 | 勤続通算、要支給額、支給率を確認 |
| 賞与支給一覧 | 対象者、支給額、支給日、源泉税を確認 |
| 賞与通知書 | 未払賞与の通知要件を確認 |
| 退職金計算明細 | 出向期間・転籍前期間対応分を確認 |
| 法人間精算書 | 負担額と支払実績を確認 |
| 会計仕訳・総勘定元帳 | 勘定科目、損金経理、消費税区分を確認 |
| 源泉徴収簿・納付書 | 賞与・退職金の源泉処理を確認 |
| 退職所得申告書 | 退職金源泉計算の前提を確認 |
| グループ組織図 | 関係会社間取引・寄附金リスクを確認 |
| 稟議書・議事録 | 負担方法の意思決定過程を確認 |
相談の際には、「この処理でよいか」だけでなく、次のように論点を整理しておくと有効です。
| 相談前に整理する問い | 具体例 |
|---|---|
| 誰が本人へ支払ったか | 賞与は出向元、退職金は転籍後法人が支払った |
| 誰が最終負担したか | 出向期間分は出向先が精算した |
| どの期間に対応するか | 1月〜3月は出向元、4月〜6月は出向先 |
| 金額の根拠は何か | 在職期間按分、要支給額増加額、賞与水準差 |
| 契約書に定めがあるか | 出向契約第○条、転籍合意書第○条 |
| 決算でどう処理したか | 未払賞与、退職金負担金、雑収入 |
| 税務調整はあるか | 未払賞与否認、寄附金調整、消費税区分修正 |
| 将来への影響はあるか | 退職金通算、次回精算、M&A時の過去リスク |
出向・転籍時の賞与・退職金は、決算処理ではなく事前設計で決まる
出向・転籍に伴う賞与・退職金負担は、決算時に帳尻を合わせる論点ではありません。
賞与については、支給対象期間、通知、支払、較差補填を、あらかじめ整理しておく必要があります。退職金については、出向期間・転籍前後の在職期間、退職金規程、負担区分、精算時期を、契約書に落とし込んでおく必要があります。
グループ会社間では、資金繰りや利益状況に応じて、「今回は親会社で負担する」「子会社に余裕があるから精算する」といった処理が行われがちです。しかし、法人税務では、負担関係の合理性、支給義務の確定、損金算入時期、寄附金該当性を、後からきちんと説明できなければなりません。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人税申告だけでなく、グループ会社間取引、出向・転籍、賞与・退職金負担、役員給与、寄附金課税、そして組織再編・M&Aを見据えた税務判断の整理を支援しています。出向者・転籍者の賞与や退職金について、負担割合、未払計上、精算書、契約書の整備に不安がある場合は、お問い合わせページよりご相談ください。
重要事項の振り返り
| 論点 | 重要な判断ポイント | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 出向と転籍の区別 | 雇用関係が継続するか終了するか | 賞与・退職金の負担関係が変わる |
| 賞与負担 | 支給対象期間に対応する勤務先 | 支給日だけで全額負担者を決めない |
| 給与較差補填 | 出向元・出向先の給与条件差 | 差額の計算根拠を残す |
| 出向元の賞与全額負担 | 出向先が負担できない合理的理由 | 単なる利益供与は寄附金リスク |
| 未払賞与 | 各人別通知、1か月以内支払、損金経理 | 概算・条件付き通知は危険 |
| 退職金負担金 | 出向期間対応分を合理的に計算 | 負担区分を出向契約に明記 |
| 定期的な退職金負担金 | あらかじめ定めた負担区分と合理計算 | 支出日の属する事業年度で損金算入 |
| 転籍時退職金 | 打切支給か勤続通算か | 転籍前後の負担区分を明確化 |
| 源泉所得税 | 本人への支払者と所得区分 | 法人間精算と混同しない |
| 消費税区分 | 給与・退職金負担金か役務提供対価か | 請求書があっても課税仕入れとは限らない |
| 資料整備 | 契約書、規程、通知書、精算書 | 税務調査・M&Aで説明できる状態にする |
主な出典
出典:国税庁|第9款 転籍、出向者に対する給与等
出典:国税庁|No.5241 出向者に対する給与の較差補てん金の取扱い
出典:国税庁|No.5242 出向先法人が支出する退職金の負担金の取扱い
出典:国税庁|No.5245 出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与の取扱い
出典:国税庁|No.5350 使用人賞与の損金算入時期
出典:国税庁 金沢国税局|決算賞与金の税務上の取扱いについて
出典:国税庁|No.5208 役員の退職金の損金算入時期
出典:国税庁|No.2725 退職所得となるもの
出典:国税庁|No.2732 退職手当等に対する源泉徴収