税務調査が始まると、会社は調査担当者からさまざまな質問を受けます。帳簿書類や契約書、請求書、議事録、電子データなどについて、その提示や提出を求められることも少なくありません。
こうした場面でまず大切なのは、調査に非協力的な姿勢を取らないことです。
一方で、「聞かれたことには何でもその場で答える」「求められた資料をすべて無整理に渡す」「質問応答記録書に深く確認しないまま署名する」といった対応も、決して会社を守る対応とはいえません。
税務調査中に問われているのは、調査担当者と対立するかどうかではありません。事実を正確に確認し、資料に基づいて説明し、不要な誤解を残さないことです。
法人税務では、売上計上時期、役員給与、交際費、寄附金、貸倒損失、固定資産、関係会社取引、組織再編、海外取引など、処理の背景にある事実関係が結論を左右します。調査中のひとことや、提出した資料の範囲、質問応答記録書の文言が、後の修正申告、更正、加算税、重加算税、不服対応にまで影響することもあります。
本稿では、税務調査中の質問検査権、資料の提示・提出、電子データ、留置き、そして質問応答記録書への対応を、会社の実務判断という視点から整理していきます。
税務調査中の対応は「その場の受け答え」ではなく「事実認定への対応」である
税務調査は、申告内容について、課税標準や税額を確認するための手続です。国税庁の説明でも、調査とは特定の納税者の課税標準等または税額等を認定する目的で、質問検査等を行い申告内容を確認するものと位置づけられています。
これに対して行政指導は、提出済みの申告書に計算誤り、転記誤り、記載漏れ、法令適用誤りなどがあるのではないかと思われる場合に、自発的な見直しを要請するものとして区別されています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
この違いを実務に引き寄せて考えると、税務調査中の質問は、単なる事情聴取ではないことがわかります。
調査担当者は、帳簿、証憑、契約書、電子データ、社内資料、そして担当者の回答を組み合わせて、申告内容が税法上の要件を満たしているかを確認していきます。つまり会社側の回答は、その場限りの会話ではなく、事実認定の材料になるのです。
したがって調査中の対応では、次の三つを分けて考える必要があります。
| 区分 | 会社が意識すべきこと |
|---|---|
| 事実 | いつ、誰が、何を、どの契約・資料に基づいて行ったか |
| 会計処理 | その事実をどの勘定科目・どの時期に処理したか |
| 税務判断 | その処理を法人税、消費税、源泉所得税等でどう扱ったか |
たとえば外注費について質問されたとき、「外注費です」と答えるだけでは十分ではありません。
実際には、誰に依頼したのか、契約書はあるのか、成果物は何か、指揮命令関係はあったのか、請求書と支払の流れはどうなっているのか、源泉徴収や消費税の処理はどうしているのか。こうした事実確認が求められます。
調査中に避けたいのは、事実、会計処理、税務判断を混同したまま答えてしまうことです。事実が未確認なのに税務判断を断定してしまう。税務判断を説明すべき場面で、経理処理だけを答えてしまう。担当者の記憶を、会社の正式な説明であるかのように話してしまう。いずれも、後の誤解につながりやすい対応です。
質問検査権とは何か
税務調査で調査担当者が質問をしたり、帳簿書類等の検査、提示、提出を求めたりする。その根拠となるのが質問検査権です。
国税通則法では、所得税、法人税、地方法人税、消費税などに関する調査について必要があるとき、当該職員は一定の者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、またはその提示・提出を求めることができるとされています。
出典:e-Gov法令検索|国税通則法
国税庁の法令解釈通達によれば、質問検査等を行うことができる「当該職員」とは、国税庁、国税局、税務署または税関の職員のうち、その調査を行う国税に関する事務に従事している者を指します。さらに質問検査権は、各条に規定する者だけでなく、調査のために必要がある場合には、これらの者の代理人、使用人その他の従業者にも及ぶとされています。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第1章
法人調査では、代表者だけでなく、経理担当者、営業担当者、購買担当者、工場責任者、店舗責任者などが質問の相手になることがあります。現場の担当者にしかわからない事実があるためです。
ただし会社としては、誰がどの範囲で答えるのかを、あらかじめ決めておく必要があります。
営業担当者は取引の実態を知っていても、税務処理の判断までは知らないことがあります。経理担当者は仕訳を知っていても、契約交渉の経緯までは把握していないことがあります。代表者は意思決定の背景を知っていても、細かな証憑の所在までは追えていないことがあります。
そのため、質問検査権への対応では、次のような姿勢が大切になります。
| 場面 | 望ましい対応 |
|---|---|
| 事実を知っている | 資料と記憶を分けて、事実として説明する |
| 記憶が曖昧 | その場で推測せず、資料確認後に回答する |
| 税務判断を問われた | 税務代理人と確認して回答する |
| 他部署の事実を問われた | 担当部署に確認する旨を伝える |
| 高リスク論点を問われた | 回答前に専門家と認識を合わせる |
調査に協力することと、未確認の事項を即答することは、同じではありません。調査対応で最も避けたいのは、正直に答えたつもりが、結果として不正確な説明を残してしまうことです。
「帳簿書類その他の物件」の範囲は広い
税務調査で提示・提出を求められるものは、総勘定元帳や請求書だけにとどまりません。
国税庁の通達では、「帳簿書類その他の物件」には、国税に関する法令で備付け、記帳または保存が義務づけられている帳簿書類のほか、調査目的を達成するために必要と認められる帳簿書類その他の物件も含まれるとされています。国外に保存されているものも、その対象に含まれます。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第1章
実務上、法人税調査で対象になり得る資料は、次のように広がります。
| 分野 | 確認され得る資料 |
|---|---|
| 売上 | 契約書、注文書、納品書、検収書、請求書、入金記録、売上管理表 |
| 仕入・外注 | 契約書、発注書、納品書、成果物、作業報告書、請求書、支払記録 |
| 人件費 | 給与台帳、雇用契約書、業務委託契約書、出勤記録、源泉徴収資料 |
| 役員給与 | 株主総会議事録、取締役会議事録、報酬改定資料、届出書控え |
| 交際費 | 領収書、参加者記録、相手先、目的、稟議書、社内規程 |
| 棚卸資産 | 棚卸表、在庫リスト、廃棄記録、評価資料、写真 |
| 固定資産 | 固定資産台帳、請求書、契約書、事業供用日資料、修繕工事明細 |
| 貸倒損失 | 督促記録、債権管理表、相手先資料、債権放棄通知、議事録 |
| 関係会社取引 | 契約書、価格設定資料、精算書、役務提供記録、出向契約 |
| 国際取引 | 海外契約書、送金記録、源泉税資料、租税条約届出、移転価格資料 |
ここで気をつけたいのは、「帳簿に載っているかどうか」だけで資料の範囲が決まるわけではない、という点です。
たとえば法人税調査では、代表者個人名義の預金通帳の提示を求められることがあります。国税庁も、法人税調査において、法人代表者名義の個人預金について事業関連性が疑われる場合には、その通帳の提示・提出を求めることは質問検査等の範囲に含まれる、と説明しています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
したがって会社側としては、「会社名義ではないから一切関係ない」と即断するのではなく、事業関連性が疑われる理由、対象期間、対象取引、提示・提出を求める趣旨を確認しておく必要があります。
もっとも、調査対象と無関係な私的情報まで、無制限に開示しなければならないわけではありません。資料の提示・提出は、調査の必要性と関係する範囲に整理したうえで対応するのが基本です。
「提示」と「提出」は違う
税務調査では、「見せてください」と「出してください」が、同じ意味で使われているように感じられることがあります。しかし手続上は、提示と提出は区別して考えるべきものです。
国税庁の通達では、「物件の提示」とは、当該職員の求めに応じて、遅滞なくその物件の内容を確認し得る状態にして示すことをいいます。一方「物件の提出」とは、当該職員の求めに応じて、遅滞なくその物件の占有を当該職員に移転することをいいます。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第1章
この違いは、実務上たいへん重要です。
| 区分 | 意味 | 実務上の例 |
|---|---|---|
| 提示 | 内容を確認できる状態にして示す | 画面表示、原本閲覧、帳簿閲覧 |
| 提出 | 調査担当者に物件の占有を移す | コピー提出、データ提出、原本預け |
調査中はまず、提示で足りるのか、写しの提出で足りるのか、それとも原本の留置きが必要なのかを確認します。
とくに契約書の原本、株主総会議事録、取締役会議事録、通帳、固定資産関係資料、海外契約書などは、会社の業務上も欠かせない資料です。原本をそのまま提出する場合には、何を、何ページ、いつ、誰が、どの目的で預けたのかを、必ず記録しておく必要があります。
資料対応では、次のような「提出管理表」を用意しておくと、後の混乱を防ぐことができます。
| 管理項目 | 記録内容 |
|---|---|
| 依頼日 | 調査担当者から資料を求められた日 |
| 依頼者 | 税務署・部門・担当者名 |
| 対象税目・期間 | 法人税、消費税、源泉所得税など |
| 依頼資料 | 契約書、請求書、元帳、CSVデータなど |
| 形式 | 原本、写し、PDF、CSV、画面提示 |
| 提出日 | 実際に提出した日 |
| 提出方法 | 手交、郵送、e-Tax、オンラインストレージ等 |
| 控え | 会社控えの有無、保存場所 |
| 返還要否 | 原本・留置き資料かどうか |
| 備考 | 説明した内容、未提出理由、追加確認事項 |
税務調査で大切なのは、資料を提出すること自体よりも、提出した資料と説明した内容を、後から追跡できるようにしておくことです。
正当な理由なく提示・提出に応じない場合のリスク
帳簿書類等の提示・提出について、正当な理由なく拒否したり、虚偽記載のある帳簿書類等を提示・提出したりした場合には、罰則の対象となることがあります。国税庁も、正当な理由がないのに提示・提出を拒んだ場合や、虚偽の記載をした帳簿書類等を提示・提出した場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることがある、と説明しています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
もっとも、国税庁は、こうした罰則があることをもって強権的に権限を行使することは考えておらず、帳簿書類等の提示・提出が必要とされる趣旨を説明し、納税者の理解と協力のもと、その承諾を得て行うものとしています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
この点を踏まえると、会社側の基本姿勢は、次のように整理できます。
| 誤った対応 | 望ましい対応 |
|---|---|
| 理由なく拒否する | 求められた趣旨、対象税目、対象期間を確認する |
| 無条件に全資料を渡す | 調査目的との関係を整理して提出する |
| 不明な資料を「ない」と即答する | 所在を確認し、後日回答する |
| 虚偽資料・後付け資料を作る | 資料不足の事実を前提に、残存資料で説明する |
| 原本を控えなく預ける | 提出管理表と控えを残す |
「資料提出に応じるか、拒否するか」という二択で考えてしまうと、対応を誤ります。
実務上大切なのは、調査目的との関係を確認し、必要な範囲を整理し、提出形式を調整し、そして提出した事実を記録しておくことです。
電子データを求められた場合の対応
近年の税務調査では、紙の帳簿書類だけでなく、会計ソフト、販売管理システム、請求書発行システム、勤怠システム、在庫管理システム、クラウドストレージ、メール、電子契約、電子取引データなども確認の対象になります。
国税庁の説明では、帳簿書類等が電磁的記録である場合、提示については、ディスプレイの画面上で調査担当者が確認し得る状態にして示すこととされています。提出については、プリントアウト、調査担当者が持参した電磁的記録媒体への保存、e-Taxやオンラインストレージサービスを利用した提出などが挙げられています。提出された電磁的記録は、調査終了後に確実に廃棄・消去することとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
また、税務調査、滞納整理、行政指導の際に担当職員から求められた資料については、e-Taxによる提出も整備されています。国税庁の令和6年3月の案内では、請求書・納品書の写しや帳簿データなどをPDF形式またはCSV形式で提出できること、税理士による代理送信や電子委任状を利用した法人代表者以外からの送信も可能であることが示されています。
出典:国税庁|税務調査等で提出を求められた資料(調査関係書類)のe-Taxによる提出
出典:e-Tax|税務調査等で提出を求められた資料(調査関係書類)のe-Taxによる提出の『対象書類拡大』について
電子データへの対応は、紙資料以上に注意が必要です。
というのも、電子データは範囲が広く、抽出条件によって内容そのものが変わってくるからです。たとえば売上データを提出する場合でも、受注日ベース、出荷日ベース、納品日ベース、検収日ベース、請求日ベース、入金日ベースでは、それぞれ意味が異なります。会計データも、確定後のデータなのか、月次締め前のデータなのか、修正履歴を含むのかによって、説明が変わってきます。
電子データを求められたときは、次の事項を確認します。
| 確認事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 対象税目・対象期間 | どの申告内容を確認するためのデータか |
| 対象システム | 会計、販売、在庫、給与、勤怠、請求など |
| 抽出条件 | 期間、取引先、部門、勘定科目、税区分 |
| データ形式 | CSV、PDF、Excel、画面提示、印刷物 |
| データ項目 | 日付、金額、取引先、伝票番号、税区分など |
| 更新履歴 | 修正前後、承認履歴、削除履歴の有無 |
| 個人情報 | マスキング、削除、対象外情報の有無 |
| 控え | 提出データと同一の控え保存 |
| 説明資料 | データ定義、抽出条件、集計方法のメモ |
とくに避けたいのは、担当者がその場でシステムから抽出したデータを、抽出条件を記録しないまま提出してしまうことです。
後日、調査担当者がそのデータをもとに差異を指摘したとき、会社側が「どの条件で抽出したデータなのか」を説明できなければ、不要な混乱を招きます。
電子データは、提出する前に、抽出条件、対象範囲、提出目的、控えの保存を、必ず確認しておくべきです。
電子データの改変・削除は重大なリスクになる
電子データ対応で最も危険なのは、調査対応のためにデータを整えるつもりで、元データを改変・削除・上書きしてしまうことです。
調査対象となり得る電子取引データ、スキャナ保存データ、適格請求書等の電磁的記録について、隠蔽・仮装に該当する改変や削除があった場合には、重加算税の加重措置に関係することがあります。電子取引の記録の改変等が重加算税の加重に結び付く場合がある点は、実務上とくに注意しておきたい論点です。
調査の前後を問わず、次のような行為は避けるべきです。
- 過去の請求書データを上書きする
- 取引先別売上データの一部を削除する
- 承認履歴や変更履歴を消す
- メールやチャットの履歴を削除する
- 元データを残さず、加工後のデータだけを提出する
- 電子契約の締結日やファイル名を事後的に変更する
- 会計データの修正履歴を説明できない状態にする
資料を整理することと、資料を改変することは、まったく別のものです。
調査対応で求められているのは、元データを保全したうえで、調査対象の範囲に応じた抽出データや説明資料を作ることです。元データそのものを消す、変える、上書きする。こうした対応は、会社を守るどころか、重加算税や不信感につながる重大なリスクになります。
資料の留置きにどう対応するか
調査担当者から、帳簿書類等を税務署等に持ち帰って確認したい、と言われることがあります。これが、提出物件の留置きです。
国税庁の通達では、国税通則法74条の7に規定する「留置き」とは、当該職員が提出を受けた物件について、国税庁、国税局、税務署または税関の庁舎において占有する状態をいうとされています。ただし、調査の過程で提出するために納税義務者等が新たに作成した物件や写しを占有し続けることは、留置きには当たらないとされています。また、留め置いた物件は善良な管理者の注意をもって管理し、必要がなくなったときは遅滞なく返還しなければならないとされています。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第2章
さらに国税庁は、留置きは、帳簿書類等を留め置く必要性を説明したうえで、納税者の理解と協力のもと、その承諾を得て行うものであり、承諾なく強制的に留め置くことはない、と説明しています
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
留置きに応じる場合、会社側は次の点を確認します。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 留置きの必要性 | なぜ持ち帰る必要があるのか |
| 対象資料 | どの資料を、何冊・何枚・何ファイル預けるのか |
| 原本・写し | 原本なのか、コピーなのか |
| 業務への影響 | 会社業務で必要な資料ではないか |
| 返還見込み | いつ頃返還される予定か |
| 預り証 | 交付される書面の内容 |
| 控え | 会社側に写しを残しているか |
| 秘密情報 | 個人情報、取引先情報、機密情報の取扱い |
資料を預けること自体が問題なのではありません。問題になるのは、何を預けたか、なぜ預けたか、いつ返してもらうか、会社側に控えがあるか、こうした点が不明になってしまうことです。
とくに議事録、契約書、通帳、株主名簿、固定資産関係資料、海外契約書、借入関係資料などは、金融機関対応、株主対応、取引先対応にも影響することがあります。業務上必要な資料であれば、写しを取る、閲覧で足りるか確認する、返還時期を確認するといった、実務上の調整が欠かせません。
なお国税庁は、留め置いた帳簿書類等について、業務で使用する必要があるなどの理由で返還を求めた場合には、特段の支障がない限り速やかに返還するとしています。返還を待つ必要がある場合には、その理由を説明するものとされ、納得できないときは一定の不服申立てが可能とされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
留置きへの対応は、感情的に拒否する場面ではありません。とはいえ、何を預けたのかわからない状態にしてしまうことも、避けなければなりません。
調査中の質問には、即答よりも正確性を優先する
税務調査では、調査担当者からその場で数多くの質問を受けます。
たとえば、次のような質問です。
- この売上はいつ納品しましたか
- この検収日はなぜ請求日と違うのですか
- この外注先は実際にどの業務をしましたか
- この飲食費の参加者は誰ですか
- この役員報酬の改定理由は何ですか
- この貸倒損失はいつ回収不能と判断しましたか
- この修繕工事は資産価値を高めるものではありませんか
- この関係会社への費用負担はなぜ貴社負担なのですか
- この海外送金は使用料ではありませんか
- この現金売上と入金額の差は何ですか
こうした場面で会社側が最も注意したいのが、「記憶で埋めてしまう」ことです。
調査担当者から尋ねられると、担当者はどうにかその場で答えようとします。しかし税務調査では、不確かな記憶に基づく回答が、後になって不利に働くことがあります。
調査中の回答ルールは、次のように整えておくとよいでしょう。
| 状況 | 回答方針 |
|---|---|
| 資料で確認できる | 資料を示して回答する |
| 記憶があるが資料未確認 | 記憶であることを明示し、資料確認後に確定回答する |
| 担当外の事項 | 担当部署に確認する |
| 退職者しか知らない事項 | 残存資料・メール・承認記録を確認する |
| 税務判断に関わる事項 | 税務代理人と確認して回答する |
| 重加算税に関わり得る事項 | その場で断定せず、事実と認識を慎重に整理する |
「後で確認して回答します」という対応は、調査拒否ではありません。むしろ、正確な事実確認のために必要な対応です。
ただし、何でも「後で回答します」とするのも適切ではありません。手元の資料で明らかな事実、担当者が直接行った業務、形式的な資料の所在などは、速やかに答えるべきです。
大切なのは、即答できる事実と、確認が必要な事実を分けることです。
社内で回答者を決めておく
調査中、調査担当者は代表者や経理担当者だけでなく、現場担当者に直接質問することがあります。
これは、質問検査権が代理人、使用人、従業者にも及び得るためです。国税庁の通達でも、質問検査権は調査のため必要がある場合には、代理人、使用人その他の従業者にも及ぶとされています。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第1章
そのため会社側は、調査開始前、あるいは調査初日に、社内の回答ルールを決めておくべきです。
| 担当 | 回答範囲 |
|---|---|
| 代表者 | 経営判断、重要取引、役員報酬、関係会社取引、資本政策 |
| 経理責任者 | 申告書、会計処理、元帳、税務調整、資料所在 |
| 営業責任者 | 売上計上、納品、検収、取引条件、返品・値引き |
| 購買責任者 | 仕入、外注、発注、成果物、支払条件 |
| 総務・人事 | 給与、賞与、出向、福利厚生、源泉所得税 |
| 現場責任者 | 棚卸、廃棄、修繕、固定資産の使用状況 |
| 税務代理人 | 税務判断、法令解釈、修正申告・更正対応 |
現場担当者が事実を説明すること自体は、問題ありません。しかし、現場担当者が税務判断や会社方針にまで踏み込んで答えてしまうと、説明が食い違うおそれがあります。
たとえば、営業担当者が「この売上は先方がまだ確認していなかったと思います」と言い、経理担当者が「検収済みとして売上計上しました」と説明すれば、期ずれの疑いが強まってしまいます。実際には、契約上の検収条件、納品記録、請求処理、会計基準を整理すれば説明できる処理であっても、初期回答の食い違いが、不要な争点を生むことがあるのです。
調査中は、社内の回答を一元的に管理し、質問内容、回答者、回答内容、後日提出する資料を記録しておくことが重要です。
質問応答記録書とは何か
調査中、調査担当者から「質問応答記録書を作成したい」「内容を確認して署名してください」と言われることがあります。
質問応答記録書は、質問と回答の要旨を記録する行政文書です。実務上は、課税要件の充足性を確認するうえで重要な事項について、事実関係の正確性を期するために作成されるものと整理されています。この記録書は、課税処分や不服申立て等で証拠資料として用いられることがあるため、第三者が読んでもわかるように記載される点が意識されています。
ここで押さえておきたいのは、質問応答記録書は単なる議事メモではない、ということです。
会社側から見れば、「調査担当者とのやり取りの記録」に映るかもしれません。しかし課税庁側から見れば、回答者がどのような事実を認めたのか、どのような認識を持っていたのかを証拠化する文書として機能します。
とくに、次のような論点では、質問応答記録書の文言が大きな意味を持つことがあります。
- 売上除外
- 現金売上の計上漏れ
- 架空外注費
- 架空人件費
- 仕入・経費の水増し
- 棚卸除外
- 役員・親族への経済的利益
- 関係会社との不自然な取引
- 電子データの削除・改変
- 仮装経理・粉飾決算
- 重加算税の隠蔽・仮装認定
質問応答記録書の作成は、多くの場合、重加算税が問題になり得るような場面で行われやすいと整理されています。
だからこそ、質問応答記録書への対応は、通常の資料提出以上に慎重であるべきなのです。
質問応答記録書への署名は任意と考えるべきである
通常の税務調査において、質問応答記録書の作成や、納税者等による署名について、国税通則法上、犯則事件調査の調書作成と同じような法的義務が置かれているわけではありません。そのため、質問応答記録書の作成協力や署名は法的義務ではないと整理されています。
また、裁判例や裁決例においても、質問応答記録書への署名が法的義務であることまでは示されておらず、署名は任意であると整理されています。
この点は、会社側が必ず理解しておくべきところです。
ただし、「署名は任意だから、常に拒否すればよい」と単純に考えるべきではありません。大切なのは、内容を確認し、事実と異なる記載、不明確な記載、評価的な表現、重加算税につながりかねない表現がないかを検討したうえで、署名するかどうかを判断することです。
署名対応の基本は、次のとおりです。
| 確認事項 | 判断ポイント |
|---|---|
| 回答者 | 誰の回答として記録されているか |
| 対象事実 | どの税目・期間・取引に関するものか |
| 文言 | 「漏れ」「除外」「仮装」「架空」「意図的」などの表現がないか |
| 認識 | 当時知っていた事実と、調査後に分かった事実が混同されていないか |
| 根拠 | 資料で確認できる事実か、記憶か、推測か |
| 修正 | 追加・訂正を申し出られるか |
| 専門家確認 | 税務代理人が内容を確認したか |
| 将来影響 | 重加算税、不服申立て、訴訟、社内責任に影響し得るか |
質問応答記録書で最も危険なのは、回答者が「調査担当者が作った文章だから大丈夫だろう」と考えて、そのまま署名してしまうことです。
たとえば、回答者は「売上計上を忘れていた」という意味で話したつもりでも、記録書では「売上を除外していた」「計上しないことを認識していた」といった表現になっていることがあります。こうした文言の違いは、単なる表現の問題ではありません。重加算税の隠蔽・仮装の判断に影響し得るのです。
質問応答記録書に署名を求められたときの対応手順
質問応答記録書に署名を求められた場合、会社側は次の順序で対応するとよいでしょう。
1. その場で急いで署名しない
署名を求められたからといって、その場ですぐに署名する必要はありません。
まずは全文を読みます。読み上げを受けるだけでなく、自分の目で確認します。長文であれば、時間を取って確認します。途中で理解できない表現があれば、その意味を確認します。
2. 事実と評価を分けて読む
質問応答記録書には、事実のように見えて、実は評価が混ざっていることがあります。
たとえば、次のような表現です。
| 記載例 | 注意点 |
|---|---|
| 売上を除外した | 単なる期ずれや計上漏れではなく、意図的除外を連想させる |
| 架空外注費を計上した | 外注実態の不存在を認める表現になり得る |
| 資料を破棄した | 通常の保存期間経過や紛失と異なる意味を持ち得る |
| 税金を減らすためだった | 節税判断と隠蔽目的が混同され得る |
| 知っていた | 当時の認識を認める表現になる |
| 指摘されるまで隠していた | 隠蔽の認定に直結し得る |
回答者が実際にそのような認識を持っていたのか、資料上そう確認できるのか、単なる調査担当者の評価が混ざっていないか。これらを確認する必要があります。
3. 誤り・不足・曖昧な表現は訂正を求める
内容に誤りがある場合は、署名の前に訂正を求めます。
「おおむね合っているから署名する」のではなく、事実認定に影響する部分は、正確に修正すべきです。
たとえば、次のような修正が考えられます。
| 元の表現 | 修正すべき方向 |
|---|---|
| 売上を除外した | 検収日を誤認し、当期売上として計上していなかった |
| 架空の外注費 | 成果物の確認資料が不足している外注費 |
| 税金を減らす目的 | 資金繰りを踏まえた支払時期の調整 |
| 代表者が指示した | 代表者は支払承認をしたが、税務処理の詳細は経理担当が処理した |
| 資料は存在しない | 現時点で所在を確認できていない |
もちろん、実際に隠蔽・仮装に該当する事実がある場合に、その事実を曲げることはできません。しかし同時に、事実以上に不利な表現で記録されてしまうことも、避ける必要があります。
4. 納得できない場合は署名しない
内容に納得できない場合、訂正が反映されない場合、税務代理人と確認できない場合、あるいは重加算税に関係し得る表現が含まれている場合には、署名しないという判断も必要です。
質問応答記録書の作成に協力すべきでない場面としては、調査担当職員と納税者との間で、重加算税の隠蔽・仮装該当性についての認識が食い違っている場合が挙げられます。また、内容に疑義があれば説明や修正を求め、納得できない場合には署名する必要はなく、質問応答記録書が後の争訟等で証拠資料として用いられる可能性を納税者に知らせておくべきとされています。
署名しないことは、虚偽回答や調査拒否とは違います。
ただし、署名しない場合であっても、調査担当者とのやり取り、署名しない理由、訂正を求めた内容、会社側の認識は、社内メモとして残しておくべきです。
5. 会社側の記録を必ず残す
質問応答記録書は、調査時に写しの交付を受けられない運用が示されています。作成途中のものも含めて、写しの交付や撮影は認められないと整理されています。なお、個人情報保護法に基づく開示請求は、別の手続として整理されています。
そのため会社側では、調査が終わったらすぐに、次の事項をメモに残します。
- 質問応答記録書の作成を求められた日時
- 回答者
- 質問された主な事項
- 記載されていた主な表現
- 訂正を求めた箇所
- 訂正が反映されたかどうか
- 署名したか、署名しなかったか
- 税務代理人が確認したか
- 会社側の事実認識
- 関係する資料
質問応答記録書への対応は、後から記憶をたどるのが難しいものです。だからこそ、その場で、その時点の記録を残しておくことが重要になります。
調査中に避けるべき回答
税務調査中には、次のような回答は避けるべきです。
| 避けるべき回答 | 問題点 |
|---|---|
| 「たぶんそうです」 | 推測が事実として記録されるおそれがある |
| 「前任者がそうしていました」 | 会社として判断していない印象を与える |
| 「税金を減らすためです」 | 節税と隠蔽・仮装が混同されるおそれがある |
| 「資料はありません」 | 後で出てきた場合に不信感を生む |
| 「社長の個人的な判断です」 | 法人取引と個人取引の混同を招く |
| 「グループ会社なので当然です」 | 寄附金・移転価格・経済合理性の問題を招く |
| 「みんなやっています」 | 自社処理の根拠にならない |
| 「顧問税理士に任せていました」 | 会社の事実認識の説明にならない |
これに対して、望ましい回答は、次のようなものです。
| 望ましい回答 | 意味 |
|---|---|
| 「資料を確認した上で回答します」 | 不確かな即答を避ける |
| 「当時の担当者に確認します」 | 事実確認の手順を示す |
| 「契約書上はこの条項に基づいています」 | 根拠資料を示す |
| 「会計処理はこのように行い、税務上は別表で調整しています」 | 会計と税務を分ける |
| 「この点は税務判断を伴うため、税務代理人と確認して回答します」 | 専門判断の必要性を示す |
| 「現時点で確認できている資料はこれです」 | 資料状況を正確に伝える |
調査対応は、言い逃れの場ではありません。しかし同時に、会社に不利な推測を、事実として残してしまう場でもないのです。
資料提示・質問対応で重点的に確認されやすい法人税論点
法人税調査では、会社の規模や業種によって重点は異なりますが、次の論点は、調査中の質問や資料提示につながりやすい領域です。
売上計上時期
期末前後の売上については、出荷日、納品日、検収日、請求日、入金日が確認されます。
調査中に「いつ売上が成立したのか」と聞かれた場合、単に請求書の日付で答えるのではなく、契約上の引渡し・検収条件、実際の納品記録、請求処理、会計処理を整理して説明します。
外注費・業務委託費
外注費は、法人税、消費税、源泉所得税に同時に影響することがあります。
契約の形式だけでなく、成果物、作業の実態、指揮命令関係、請求の根拠、支払記録が重要になります。質問に対して「外注先です」とだけ答えるのではなく、業務の具体的な内容と成果物を説明できる資料を用意しておきます。
役員給与・役員退職給与
役員給与では、定期同額給与、事前確定届出給与、改定時期、議事録、届出書が確認されます。役員退職給与では、退職の事実、分掌変更、支給決議、金額の相当性、支給時期が確認されます。
代表者がその場で「長年の功労に報いるため」とだけ答えると、金額の相当性や退職事実の説明としては不足してしまいます。
交際費・会議費・福利厚生費
飲食費や贈答費では、参加者、相手先、目的、会議の実態、社内飲食か社外飲食かが確認されます。
領収書だけではなく、参加者記録、議事メモ、稟議書、社内規程を合わせて説明します。
貸倒損失
貸倒損失では、いつ回収不能と判断したか、回収の努力をしたか、相手先の状況を把握していたかが問われます。
調査中に「もう回収できないと思いました」と答えるだけでは十分ではありません。債権発生から回収不能の判断に至るまでの資料を、時系列で整理します。
固定資産・修繕費
修繕費については、維持回復なのか、それとも価値の増加や耐用年数の延長にあたるのかが確認されます。
工事名や金額だけで判断するのではなく、見積書、工事明細、写真、稟議書、施工前後の状態を確認します。
関係会社間取引
関係会社への費用負担、支援金、貸付、保証、出向者給与、ロイヤリティ、経営指導料などは、寄附金、受贈益、役員給与、移転価格、同族会社の行為計算否認に波及し得ます。
「グループ全体で見れば同じ」という説明は、税務上の根拠にはなりません。法人ごとの負担理由、契約、役務提供、価格設定の根拠を示す必要があります。
反面調査・取引先照会を意識した資料対応
調査中、会社側の説明や資料だけでは確認が不十分な場合、取引先等への反面調査が行われることがあります。
反面調査そのものは、調査対象会社の外部にある事実を確認するための手段です。会社側としては、反面調査を恐れるというよりも、自社の説明と取引先の資料が整合するかどうかを、事前に確認しておくことが大切です。
とくに、次のような場合には、取引先資料との整合性が問題になります。
- 売上計上日と取引先の仕入計上日が大きく異なる
- 請求書と契約書の金額・内容が一致しない
- 外注費の成果物が確認できない
- 関係会社間の精算内容が、相手方で異なる処理になっている
- 海外送金について、契約書と実際の役務内容が一致しない
- 期末前後の返品、値引き、割戻しが、相手方資料と一致しない
調査中に取引先との整合性を問われた場合は、自社資料だけで説明できるのか、それとも取引先への確認が必要なのかを整理します。
取引先に不用意に連絡し、口裏合わせと見られかねない対応は避けるべきです。必要な場合には、税務代理人と相談し、事実確認として適切な方法を取ります。
調査中のメモは会社を守る
税務調査中は、会社側も必ず調査の経過を記録します。
調査担当者がメモを取るのと同じように、会社側も、質問内容、回答内容、提出資料、追加依頼、保留事項を記録しておくべきです。
調査中メモには、次の項目を記載します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 日時 | 調査日、開始・終了時刻 |
| 調査担当者 | 氏名、所属、人数 |
| 会社側出席者 | 代表者、経理、現場担当、税務代理人 |
| 質問内容 | どの論点について聞かれたか |
| 回答内容 | 誰が何と答えたか |
| 提出資料 | 何を提示・提出したか |
| 保留事項 | 後日回答にした事項 |
| 追加依頼 | 追加提出を求められた資料 |
| 留置き | 預けた資料、預り証、返還予定 |
| 質問応答記録書 | 作成有無、署名有無、訂正要望 |
| 次回対応 | 次回日程、準備事項 |
このメモは、調査終了後の修正申告、更正、不服申立て、社内報告、そして再発防止に役立ちます。
また、金融機関、親会社、株主、後継者、M&Aの相手方に対して、税務調査の経緯を説明する必要が生じた場合にも、調査中メモは重要な資料になります。
税務代理人との役割分担
調査中に税務代理人が立ち会う場合でも、すべてを税務代理人任せにするべきではありません。
税務代理人は、税務判断、法令解釈、調査手続、修正申告・更正対応について助言できます。しかし、取引の事実、社内の意思決定、資料の所在、現場の実態は、会社側でなければ説明できないことが多いのです。
役割分担は、次のように整理できます。
| 役割 | 主な対応 |
|---|---|
| 会社 | 事実確認、資料準備、取引背景、社内意思決定の説明 |
| 経理担当 | 会計処理、元帳、申告書、税務調整、資料所在の説明 |
| 税務代理人 | 税務判断、調査手続、法令解釈、回答方針の整理 |
| 代表者 | 重要取引、役員報酬、関係会社取引、経営判断の説明 |
| 現場担当 | 実際の納品、作業、在庫、設備使用状況の説明 |
調査中に高リスクの論点が出てきた場合、会社側はその場で結論を急がず、税務代理人と確認したうえで回答することが重要です。
たとえば、次のような質問は、即答を避けるべき場面があります。
- これは売上除外ではありませんか
- この外注費は架空ではありませんか
- この処理は税金を減らすためではありませんか
- この資料は後から作ったものではありませんか
- この取引は経済合理性がないのではありませんか
- この役員退職金は実質的に賞与ではありませんか
- この貸倒損失は損金算入できないのではありませんか
こうした問いに対しては、事実、資料、会計処理、税務判断を整理し、必要に応じて後日回答とします。
調査対応を経営判断として捉える
税務調査中の対応は、税務署とのやり取りだけにとどまりません。
調査で指摘を受けた事項は、追加納税だけでなく、次のような経営上の影響を持つことがあります。
| 影響領域 | 具体的影響 |
|---|---|
| 資金繰り | 本税、延滞税、加算税、重加算税による資金流出 |
| 金融機関対応 | 決算数値、納税状況、管理体制への評価 |
| 株主対応 | 役員責任、配当可能利益、内部統制への不信 |
| 事業承継 | 自社株評価、役員退職金、オーナー貸付金への影響 |
| M&A | 税務DDでの指摘、表明保証、補償条項への影響 |
| グループ経営 | 関係会社間取引、出向者給与、費用負担ルールの見直し |
| 国際取引 | 源泉税、移転価格、海外子会社管理の見直し |
| 社内管理 | 決裁、資料保存、月次レビュー体制の改善 |
したがって調査中の対応では、「早く終わらせること」だけを目的にしてはいけません。
もちろん、調査の長期化を避けることは大切です。しかし、事実確認が不十分なまま修正申告に応じたり、質問応答記録書に安易に署名したり、資料の不足を放置したりすると、将来の説明責任に耐えられない状態が残ってしまいます。
税務調査への対応は、過去の申告を確認する手続であると同時に、会社の税務判断と資料管理の弱点を明らかにする機会でもあるのです。
調査中に専門家へ相談すべき場面
次のような場面では、調査中であっても、早めに専門家と対応方針を整理する必要があります。
- 質問応答記録書への署名を求められた
- 重加算税を示唆された
- 売上除外、架空経費、仮装経理を疑われている
- 代表者個人名義の口座や資金移動を問われている
- 関係会社取引の経済合理性を問われている
- 外注費が給与ではないかと指摘されている
- 貸倒損失や評価損の根拠が不足している
- 役員退職金の退職事実や金額の相当性を問われている
- 電子データの削除・修正履歴を問われている
- 海外送金、ロイヤリティ、源泉税、移転価格が問題になっている
- 調査担当者の指摘に納得できないが、どう反論すべきか分からない
- 修正申告を勧奨されているが、更正を受けるべきか迷っている
調査中の相談では、「何を言えばよいか」だけでなく、「どの事実を、どの資料で、どの順序で説明するか」を整理することが重要です。
専門家に相談する際は、次の資料を準備します。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 事前通知メモ | 調査対象税目・期間・担当者を確認する |
| 調査中メモ | 質問内容、回答内容、指摘事項を把握する |
| 提出資料一覧 | 何を提出済みか確認する |
| 申告書・別表 | 税務処理と調整内容を確認する |
| 決算書・元帳 | 会計処理の流れを確認する |
| 契約書・請求書 | 取引実態と金額を確認する |
| 議事録・稟議書 | 意思決定過程を確認する |
| 電子データ抽出条件 | データの前提を確認する |
| 質問応答記録書関連メモ | 署名判断・訂正要望を検討する |
税務調査中の専門家相談は、調査担当者との交渉技術だけの問題ではありません。会社が後から説明できる事実関係を組み立てるための作業です。
まとめ
質問検査権への対応では、調査に協力する姿勢が必要です。
しかし協力とは、未確認の事項を即答することでも、求められた資料を無整理に提出することでも、質問応答記録書に深く確認しないまま署名することでもありません。
会社が守るべき基本は、次の三つです。
第一に、事実と判断を分けることです。誰が、いつ、何を、どの資料に基づいて行ったのかを確認し、そのうえで会計処理と税務判断を説明します。
第二に、資料の提示・提出を管理することです。帳簿書類、契約書、電子データ、原本、写し、留置き資料を区別し、提出管理表と控えを残します。
第三に、質問応答記録書を慎重に扱うことです。署名は任意と考え、内容、文言、対象事実、重加算税への影響を確認し、納得できない場合には署名しないという判断も必要です。
税務調査中の対応は、調査当日の受け答えだけで完結するものではありません。申告前の処理、資料の保存、意思決定の記録、月次管理、そして専門家との連携が、調査時の説明力につながっていきます。
税務調査中に、資料の提示、電子データの提出、留置き、質問応答記録書への対応で判断に迷う場合、あるいは調査担当者の指摘が将来の資金繰り、金融機関対応、M&A、事業承継に影響し得る場合には、早い段階で専門家とともに、事実関係と対応方針を整理しておくことが重要です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査中の質問対応、資料の提示・提出管理、電子データ提出、質問応答記録書への対応、調査指摘事項の税務判断、そして修正申告・更正対応まで、会計と税務の両面から整理を支援しています。調査中の説明に不安がある場合や、会社としてどのように回答・資料化すべきか確認したい場合は、お問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 論点 | 重要ポイント |
|---|---|
| 質問検査権 | 質問、検査、帳簿書類等の提示・提出要求を含む調査権限 |
| 調査対応の基本 | 事実、会計処理、税務判断を分けて説明する |
| 回答姿勢 | 不明事項は推測で答えず、資料確認後に回答する |
| 社内回答者 | 代表者、経理、現場担当、税務代理人の役割を分ける |
| 資料提示 | 内容を確認できる状態で示すこと |
| 資料提出 | 調査担当者に物件や写し、データを渡すこと |
| 電子データ | 抽出条件、対象範囲、形式、控えを必ず記録する |
| e-Tax提出 | 調査関係書類はPDF形式・CSV形式等で提出できる場面がある |
| 留置き | 必要性の説明、承諾、預り証、返還管理が重要 |
| 個人名義資料 | 法人取引との事業関連性が疑われる場合、確認対象になり得る |
| 質問応答記録書 | 質問回答を証拠化する行政文書として機能し得る |
| 署名対応 | 署名は任意と考え、内容・文言・重加算税への影響を確認する |
| 危険な表現 | 「除外」「架空」「仮装」「意図的」「知っていた」などに注意する |
| 調査中メモ | 質問、回答、提出資料、保留事項、署名対応を記録する |
| 専門家相談 | 重加算税、質問応答記録書、高リスク取引が出た時点で早期相談する |
| 経営影響 | 追加納税だけでなく、金融機関、株主、承継、M&Aにも影響し得る |