事業計画・利益計画・資金繰り|創業後に数字で事業を続けるための初期設計

創業時の事業計画は、金融機関へ提出するためだけの書類ではありません。

たしかに、創業融資を受ける場面では、事業内容、必要資金、資金使途、売上見込み、返済可能性を説明する資料が必要になります。ただ、事業計画を「融資のために作るもの」とだけ捉えてしまうと、開業後には使われない書類になってしまいます。

本来、事業計画とは、事業を通じて達成したい定性的・定量的な目標に対して、どのような経営資源や施策が必要かという仮説を置き、その仮説を検証するための手順と指標を定めるものです。

創業直後の経営では、売上が予定どおりに立ち上がるとは限りません。想定より原価が高くなることもあります。人を採る前に売上が必要な場合もあれば、売上を作るために先に人件費や広告費が発生する場合もあります。

設備投資や店舗工事を行う場合には、開業前から多額の支出が先行します。補助金の採択を受けても、入金は後になることが多く、その間の資金繰りを別途考えなければなりません。

つまり、創業時に必要なのは「よく見える計画」ではなく、開業後に見直せる計画です。

第8テーマでは、創業時の事業計画を、売上、原価、固定費、利益、資金繰り、設備投資、公的支援、月次の見直しまでつなげて整理します。数字を作ること自体が目的ではありません。経営者自身が、自社の事業をどの数字で見て、どのタイミングで判断し、どの資料で金融機関や専門家に説明するのか。それを確認するためのテーマです。

第8テーマで扱うこと

第8テーマ「事業計画・利益計画・資金繰り」では、創業後に事業を継続するための、数字の作り方と使い方を扱います。

事業計画という言葉には、事業の目的、顧客、商品・サービス、販売方法、体制、行動計画、売上、利益、資金、投資など、複数の要素が含まれます。計画書には、理念、目標、ビジョン、戦略、活動計画、計数計画などが含まれることもあり、単なる売上予算だけでは事業計画としては不十分です。

一方で、創業期の実務では、すべてを精緻に作り込むことよりも、まず「経営判断に使える形」に整理することが重要になります。

  • 売上をどの単価と数量で見込むのか
  • 原価は売上に比例するのか
  • 家賃、人件費、役員報酬、社会保険料、広告費、システム費などの固定費は、売上が少ない月でも支払えるのか
  • 設備投資はどの資金で行い、何か月または何年で回収する想定なのか
  • 借入をする場合、返済原資は利益なのか、資金繰り上の余力なのか

このテーマでは、そうした論点を一つずつ分解し、詳細コラムへ進める構成にしています。

事業計画は、第7テーマと第9テーマをつなぐ位置にある

第8テーマは、シリーズ全体の中では「資金・計画・数字の初期設計」に属します。

第7テーマで扱うのは、創業資金、創業融資、金融機関対応です。そこでは、必要資金、自己資金、資金使途、返済原資、金融機関への説明が中心になります。

第8テーマでは、その資金調達の前提となる事業計画、利益計画、資金繰りを扱います。借りるための説明だけでなく、借りた後に事業を続けられるか、売上が遅れたときに資金がもつか、設備投資や固定費が重すぎないかを確認していきます。

第9テーマで扱うのは、会計ソフト、証憑管理、発生主義、月次決算です。第8テーマで作った計画は、第9テーマで月次の実績と照合されます。計画と実績を比較し、差異を見て、翌月以降の行動を修正する。そのためには、月次決算体制が欠かせません。経営者が月次決算を活用するには、数字の作り方だけでなく、それをどう読み、どう経営に使うかを理解する必要があります。

したがって第8テーマは、創業融資の前提であり、月次決算の入口でもあるという位置づけになります。

利益計画だけでは足りない理由

創業時には、「売上がいくらあれば利益が出るか」を考えることが重要です。

しかし、利益が出ることと、資金が残ることは同じではありません。掛け取引では、売上計上と入金のタイミングがずれます。利益は収益と費用の差額で計算されますが、資金の出入りとは一致しません。そのため、利益が出ていても入金が遅れれば、資金が不足する可能性があります。

創業期に見落としやすいのは、この「利益と現金のズレ」です。

たとえば、売上は計画どおりに発生していても、売掛金の回収が翌月末や翌々月末であれば、その間の仕入、外注費、給与、家賃、広告費、社会保険料、税金、借入返済を先に支払う必要があります。補助金も同様です。採択されたからといって、すぐに資金が入るとは限りません。

そのため第8テーマでは、利益計画と資金繰り表を分けて扱います。利益計画は「儲かる構造」を見るためのもの。資金繰り表は「支払えるか、資金ショートしないか」を見るためのものです。どちらか一方では、創業後の経営判断には足りません。

まず読むべきコラム:8-1. 創業時の事業計画は何のために作るのか

最初に読んでいただきたいのが、「8-1. 創業時の事業計画は何のために作るのか」です。

このコラムでは、事業計画を融資申請の添付書類としてだけでなく、経営判断、資金繰り、行動計画、金融機関説明の共通基盤として位置づけます。

創業時の事業計画には、事業の目的、顧客、商品・サービス、売上、費用、資金、行動計画が含まれます。ただし、最初から完璧な計画を作ることが目的ではありません。どの数字が実績に基づくものか、どの数字が仮説なのか、どの前提を開業後に検証すべきか。それを明らかにすることが重要です。

事業計画の必要性が分からない方、金融機関や専門家に何を説明すべきか整理したい方は、まずこのコラムから読み始めていただくと、第8テーマ全体の見通しが立ちます。

次に読むコラム:8-2. 売上計画・原価計画・利益計画の作り方

次に読んでいただきたいのが、「8-2. 売上計画・原価計画・利益計画の作り方」です。

このコラムでは、売上、原価、粗利、固定費、利益を分けて考える方法を扱います。創業時の売上計画は、単に「月商〇万円を目指す」と置くだけでは不十分です。単価、数量、頻度、成約率、顧客数、継続率などに分解しなければ、後から検証できません。

原価計画では、仕入、材料費、外注費、物流費、決済手数料など、売上に連動して増える費用を整理します。固定費計画では、売上の有無にかかわらず発生する家賃、人件費、役員報酬、社会保険料、広告費、システム利用料、専門家報酬などを確認します。

利益計画は、節税や見栄えのために作るものではありません。自社の事業が、どの売上水準で赤字を脱し、どの費用構造で利益を残せるのか。それを把握するために作るものです。

売上や利益の見通しをどう作ればよいか分からないという方は、このコラムで数字の分解方法をご確認ください。

利益と現金のズレを確認するコラム:8-3. 資金繰り表と運転資金の考え方

「8-3. 資金繰り表と運転資金の考え方」では、利益計画だけでは見えてこない資金の流れを扱います。

創業直後は、入金より支払が先行しやすい時期です。売掛金、買掛金、在庫、入金サイト、支払サイト、税金、社会保険料、借入返済が、資金繰りにどう影響するかを確認する必要があります。

資金繰り表は、会社版の家計簿のようなものと説明されることがありますが、実務上はそれ以上の意味を持ちます。資金繰り表を作ることで、売上が立つ時期、入金される時期、支払う時期、借入返済が始まる時期、税金や社会保険料を納める時期を、一覧で把握できるようになります。資金繰り管理では、売上至上主義ではなく、現金、利益、売上の順に重視する視点も重要になります。

日本政策金融公庫も、資金繰り計画を策定するための資金繰り表の書式を公表しています。創業期に金融機関とやり取りする場面でも、資金繰り表を自分の言葉で説明できることは大きな意味を持ちます。
出典:日本政策金融公庫|各種書式ダウンロード 中小企業の方

利益が出ても資金が足りなくなる理由を確認したい方は、このコラムから読み進めてください。

投資と固定費を判断するコラム:8-4. 設備投資・固定費・損益分岐点をどう判断するか

「8-4. 設備投資・固定費・損益分岐点をどう判断するか」では、開業時にどこまで投資してよいかを考えます。

創業時には、店舗内装、機械装置、車両、什器備品、システム、広告、採用など、事業を始めるための支出が発生します。これらは事業成長に必要な投資である一方、過大であれば資金繰りを圧迫します。

特に注意していただきたいのが、設備投資と固定費が同時に増えるケースです。設備を導入すれば、減価償却費、リース料、保守料、借入返済が発生します。店舗や事務所を借りれば、家賃、保証金、光熱費、人件費も増えます。売上が想定どおりに立ち上がらない場合、固定費の重さが一気に資金繰りへ影響してきます。

このコラムでは、初期投資、減価償却、固定費、損益分岐点、回収期間、借入返済の関係を、投資判断の入口として整理します。

開業時の投資額をどこまで許容できるか、固定費をどの水準に抑えるべきかで悩んでいる方に適したコラムです。

公的支援を確認するコラム:8-5. 創業時に検討できる補助金・助成金・認定支援機関支援

「8-5. 創業時に検討できる補助金・助成金・認定支援機関支援」では、補助金、助成金、融資、認定支援機関の違いを整理します。

創業期には、公的支援制度を活用できる場合があります。ただし補助金や助成金は、資金繰り上の入金タイミング、対象経費、申請前着手の可否、実績報告、証憑管理、目的外使用の禁止などを確認しなければなりません。補助金は後払いが原則であり、必ず採択されるものでもありません。制度ごとの共通ルールや、申請から受給までの流れを理解しないまま進めると、資金計画が崩れるおそれがあります。

補助金・助成金に関する最新情報は、公募時期や要件が変わります。ミラサポplusでは、中小企業・小規模事業者向けに補助金等のサポート情報が案内されていますが、個別制度の詳細は必ず最新の公式サイトや公募要領でご確認ください。
出典:ミラサポplus|補助金・助成金 中小企業支援サイト

また、認定経営革新等支援機関は、税務、金融、企業財務に関する専門的知識や実務経験が一定水準以上ある個人・法人・中小企業支援機関等を、国が認定する制度です。
出典:中小企業庁|認定経営革新等支援機関

補助金を「もらえる資金」とだけ捉えず、資金繰り、事業計画、証憑管理、税務処理まで含めて検討したい方は、このコラムをご確認ください。

計画を運用するコラム:8-6. 創業後に事業計画を見直す方法

最後に読んでいただきたいのが、「8-6. 創業後に事業計画を見直す方法」です。

創業時の計画は、実績によって検証されます。売上が計画より少ない場合、単価が低いのか、数量が少ないのか、成約率が悪いのか、入金が遅れているのかを分けて見ていきます。粗利が計画より悪い場合は、仕入単価、外注費、値引き、在庫ロス、商品構成を確認します。固定費が増えている場合は、削るべき費用と、成果を検証すべき投資とを分けて考えます。

資金繰りが計画とずれている場合は、売掛金、買掛金、在庫、税金、社会保険料、借入返済を確認します。計画と実績の差を見て、行動計画まで修正して、初めて事業計画を見直したことになります。

金融機関の融資審査では、事業内容、業績、今後の見通し、資金使途、返済原資などが確認されます。担保の有無より前に、まず債務者として返済可能性があるかが見られます。だからこそ、創業後も計画と実績を説明できる体制が重要になるのです。

計画と実績がずれたときに、どの数字を確認し、どの行動を変え、金融機関や専門家にどう説明するか。それを整理したい方は、このコラムへお進みください。

第8テーマを読むときの推奨順

第8テーマは、原則として「8-1 → 8-2 → 8-3 → 8-4 → 8-5 → 8-6」の順に読むことをおすすめします。

まず、8-1で事業計画の役割を確認します。ここで、事業計画を融資資料だけでなく、経営判断と資金繰りの共通基盤として捉え直します。

次に、8-2で売上計画、原価計画、利益計画を作ります。ここでは、売上、粗利、固定費、利益の関係を整理します。

その後、8-3で資金繰り表と運転資金を確認します。利益が出る計画であっても、入金と支払のズレにより資金不足は起こります。だからこそ、損益と資金を分けて考えます。

8-4では、設備投資、固定費、損益分岐点を確認します。開業時の投資が過大になっていないか、借入返済を含めて維持できるかを検討します。

8-5では、補助金、助成金、認定支援機関支援を確認します。公的支援は有効な選択肢になり得ますが、後払い性や申請要件、証憑管理、資金繰りへの影響を踏まえる必要があります。

最後に、8-6で創業後の見直し方法を確認します。計画は作成して終わりではなく、月次決算と資金繰りを通じて継続的に更新していくものです。

このテーマを読む前に整理しておきたいこと

第8テーマを読む前に、いくつかの前提を整理しておくと、理解が深まります。

まず、自社の事業内容を言葉で説明できる状態にしておくことです。誰に、何を、どの価格で、どのように提供するのか。ここが曖昧なままでは、売上計画の根拠を作れません。

次に、創業時に必要な資金を大きく分けて把握しておくことです。開業前に必要な資金、開業後しばらくの運転資金、生活資金、設備投資、広告費、採用費、税金・社会保険料、借入返済を分ける必要があります。

さらに、入金と支払の条件を確認しておくことも重要です。現金商売なのか、請求後入金なのか、仕入や外注費はいつ支払うのか、カード決済やプラットフォーム入金にタイムラグがあるのか。これらによって、必要な運転資金は変わってきます。

最後に、月次で数字を見られる体制を意識しておくことです。計画を作っても、実績を集計できなければ見直しができません。第8テーマで作る計画は、第9テーマの会計環境・月次決算体制につながっていきます。

第8テーマで目指す到達点

第8テーマを読み終えた段階で目指すのは、精緻な財務モデルを一人で作れるようになることではありません。

  • 自社の売上計画にどのような前提があるかを説明できること
  • 利益計画と資金繰り表の違いを理解していること
  • 固定費を増やす判断が資金繰りへどう影響するかを把握していること
  • 補助金や助成金を、資金計画と切り離さず検討できること
  • 計画と実績がずれたときに、売上、粗利、固定費、資金繰り、行動計画に分けて見直せること
  • 金融機関や専門家に、数字と資料で説明できる状態を作ること

この状態になって初めて、事業計画は「作った書類」ではなく、「使える経営資料」になります。

事業計画・利益計画・資金繰りについて相談したい方へ

創業時の事業計画は、ご自身だけで作ることもできます。しかし、税務、資金繰り、金融機関対応、役員報酬、社会保険、設備投資、補助金、月次決算まで含めて考えると、単なる売上予測だけでは足りません。

特に、創業融資を検討している場合、補助金や助成金を利用したい場合、設備投資や採用を予定している場合、法人設立後の固定費が重くなる場合には、早い段階で数字の前提を整理しておくことが重要です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、創業・開業・法人化の段階から、事業計画を融資申請用の書類で終わらせず、月次決算、資金繰り、税務、金融機関説明につながる経営管理資料として整えることを重視しています。

自社の場合、どの順番で売上計画、利益計画、資金繰り表を作るべきか。設備投資や固定費をどこまで許容できるか。補助金や融資を資金計画にどう組み込むべきか。創業後に計画をどのように見直すべきか。

こうした論点を、個別の事情に即して整理したいとお考えの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

振り返り項目要点
第8テーマの役割事業計画、利益計画、資金繰りを、創業後の経営管理に使える形で整理する
事業計画の位置づけ融資申請のためだけでなく、売上、費用、資金、行動計画を結びつける共通基盤である
利益計画の役割売上、原価、粗利、固定費、利益を分けて、儲かる構造を確認する
資金繰り表の役割入金と支払のズレ、税金、社会保険料、借入返済を含め、資金ショートを防ぐ
設備投資・固定費開業時の投資や固定費が、損益分岐点と返済可能性に与える影響を確認する
補助金・助成金後払い性、採択の不確実性、申請要件、証憑管理、資金繰りへの影響を確認する
計画見直し月次決算と資金繰りをもとに、売上差異、粗利差異、固定費差異、資金繰り差異を確認する
推奨読書順8-1で全体像、8-2で利益計画、8-3で資金繰り、8-4で投資判断、8-5で公的支援、8-6で見直しを確認する
他テーマとの関係第7テーマの創業融資、第9テーマの月次決算、第5・第6テーマの税務・人件費と連動する
専門家相談の意義数字を作るだけでなく、税務、資金繰り、金融機関対応、月次運用まで含めて初期設計する