創業時の利益計画で最も避けたいのは、「このくらい売れたらよい」という希望を、そのまま売上計画にしてしまうことです。
創業の場面では、事業への思いが強いほど、売上を前向きに見積もりたくなります。金融機関に融資を申し込むときには、返済できる計画に見せたいという意識も自然と働きます。法人を設立する場合には、役員報酬や人件費をどこまで取れるのか、税金や社会保険料を払っても資金が残るのか、といった現実的な論点も重なってきます。
ただ、利益計画は「見栄えのよい数字」を作るためのものではありません。
- 売上は、何を、誰に、いくらで、どれだけ販売するか。
- 原価は、売上に連動してどれだけ発生するか。
- 固定費は、売上がなくても毎月どれだけ出ていくか。
- 人件費や役員報酬は、利益だけでなく資金繰りと社会保険料にどう影響するか。
- そのうえで、どの売上水準を超えれば事業として成り立つのか。
これらを一つずつ分解し、開業後に検証できる形にしていく。それが、売上計画・原価計画・利益計画の役割です。
事業計画とは本来、達成したい定性的・定量的な目標に対して、どのような経営資源や施策が必要かという仮説を置き、その仮説を検証する方法や指標を定めるものです。創業時の利益計画も同じで、単なる数字合わせではなく、事業の仮説を数字で表現する作業だと考えておくとよいでしょう。
利益計画は、売上高だけから作らない
利益計画を作るとき、つい最初に売上高だけを置いてしまうことがあります。
「月商はこのくらいほしい」
「初年度はこのくらい売りたい」
「融資を受けるには、このくらいの利益が必要だろう」
こう考えること自体は、ごく自然なことです。ただ、その数字がどう組み立てられているのかを分解しておかなければ、計画として使いにくくなってしまいます。
損益計画では、売上高から売上原価、販売費及び一般管理費、営業外損益、税金等を順に差し引きながら、売上総利益・営業利益・経常利益・税引後利益を見ていきます。売上高から売上原価を差し引いたものが売上総利益、そこからさらに販管費を差し引いたものが営業利益です。
つまり利益計画では、少なくとも次の順番で考える必要があります。
- 売上高
- 売上原価
- 売上総利益(いわゆる粗利)
- 販売費及び一般管理費
- 営業利益
- 営業外損益
- 税引前利益
- 税金等
- 税引後利益
創業時に特に重要なのは、営業利益までの構造です。営業利益は、本業でどれだけ利益を生み出せるかを見るための、いわば基本の利益にあたります。金融機関への説明の場でも、経営者自身が判断する場面でも、「売上がいくらか」だけでなく、「その売上からどれだけ粗利が残り、固定費を払った後にどれだけ営業利益が残るか」が問われることになります。
売上計画は「単価×数量」に分解する
売上計画は、まず売上高を分解するところから始まります。
基本となるのは、次の考え方です。
売上高 = 販売単価 × 販売数量
ただ、実務ではこれだけだと粗すぎることも少なくありません。事業の性質に応じて、たとえば次のように分けて考えます。
- 来店客数 × 購入率 × 客単価
- 問い合わせ件数 × 商談化率 × 成約率 × 平均単価
- 契約社数 × 月額単価 × 継続月数
- 案件数 × 1件あたり単価
- 稼働時間 × 時間単価
- 販売数量 × 商品単価
- 利用者数 × 利用頻度 × 1回あたり単価
大切なのは、売上高を一つの大きな数字のままにしないことです。売上を構成する要素へと分けておくことで、計画のどこに無理があるのかが見えてきます。
たとえば売上が未達だったとしても、その原因は一つとは限りません。
- 客数が足りないのか。
- 単価が低いのか。
- 成約率が低いのか。
- 継続率が低いのか。
- 稼働時間に上限があるのか。
- 販売数量はあるものの、値引きが多いのか。
売上計画を分解しておけば、開業後の月次管理で、こうした原因まで確認できます。反対に、売上高だけを置いた計画では、未達になったときに「売上が足りない」という結論で止まってしまいます。
創業計画書でも、売上高は「単価×販売数」、原価率は「売上高に対する割合」、人件費は「給与額×人数」というように、数字の根拠を分解して示すことが重要になります。
創業時の売上計画は、希望ではなく「行動」とつなげる
売上計画は、販売活動や営業活動と結びついていなければなりません。
売上高だけを置いても、その売上を実現するために何をするのかが曖昧なままでは、開業後に動けなくなってしまいます。売上計画を作るときは、次のように行動と結びつけて考えます。
- どの顧客に接点を作るのか。
- どの販売チャネルを使うのか。
- どの時期に販売を開始するのか。
- 問い合わせをどう獲得するのか。
- 見込み客から成約まで、どのくらいの期間がかかるのか。
- 既存の人脈や取引見込みは、どの程度あるのか。
- 広告費や営業人員は、売上計画に見合っているのか。
創業時の売上は、まだ実績が少ないぶん、どうしても不確実性を伴います。だからこそ売上計画は、「当てにいく数字」ではなく、「仮説を検証する数字」として作っておく必要があります。
金融機関に対しても、ただ「売上は伸びます」と説明するだけでは足りません。日本政策金融公庫の創業計画書は、新たに事業を始める方が事業計画等を記入するためのもので、記入の参考資料や、月別の詳細な収支計画を策定するための月別収支計画書もあわせて用意されています。
出典:日本政策金融公庫|各種書式ダウンロード 小規模事業者/個人事業主の方【国民生活事業】
金融機関が見たいのは、強気の売上数字そのものではありません。その売上を実現するための前提です。
- 何を売るのか。
- 誰に売るのか。
- どの単価で売るのか。
- どの数量を見込むのか。
- どの程度の原価がかかるのか。
- 人件費や家賃を払っても利益が残るのか。
- 借入返済に耐えられるのか。
売上計画は、資金調達・利益計画・資金繰り・月次決算に共通する、出発点になる数字です。
売上計画は「月別」に落とし込む
創業時の利益計画では、年間売上だけでなく、月別の売上計画も欠かせません。
年間では売上が達成できる計画であっても、月ごとの入金と支払のタイミングがずれれば、資金繰りは苦しくなります。特に創業直後は、売上が立ち上がるまでに時間がかかる一方で、費用だけが先に発生しやすい時期です。
月別計画では、少なくとも次の点を確認しておきます。
- 開業月から売上が発生するのか。
- 売上が立ち上がるまで何か月かかるのか。
- 季節変動があるのか。
- 広告や営業活動から売上までの時間差があるのか。
- 入金は売上月と同じ月か、それとも翌月以降か。
- 仕入や外注費は、売上より先に支払うのか。
- 固定費は毎月どの程度発生するのか。
利益計画は、年単位で作るだけでは足りません。創業時こそ、月次で売上・原価・粗利・固定費・営業利益を追えるようにしておきたいところです。
原価計画は「売上に直接ひもづく費用」を整理する
売上計画ができたら、次は原価計画です。
原価とは、売上を得るために直接かかった費用を指します。商品を販売する事業であれば仕入原価、製造業であれば材料費や外注加工費、サービス業であれば案件に直接ひもづく外注費や人件費の一部などが、これにあたることがあります。
損益計画において、売上原価は「売上をあげるために直接かかった費用」とされ、商品を作るための費用や、販売する商品の仕入費用などが例として挙げられています。起業時に詳細な試算が難しい場合には、同じ業界の平均的な売上原価率を参考にするのも一つの方法です。
出典:中小機構 J-Net21|損益計画の書き方
原価計画では、次のように考えていきます。
- 売上1件あたり、どの原価が発生するか。
- 売上が増えると、どの費用が増えるか。
- 販売数量が増えると、仕入単価は変わるか。
- 外注費は固定か、それとも売上連動か。
- 在庫が必要か。
- 廃棄・返品・値引き・ロスは見込むべきか。
- インボイス登録や消費税区分によって、実質的な仕入負担は変わるか。
原価計画で大切なのは、「売上高に対して何%」と置いて終わりにしないことです。原価率を置く場合でも、その根拠まで考えておく必要があります。
- 業界平均を参考にする。
- 仕入先の見積書を確認する。
- 外注先の単価表を確認する。
- 過去の勤務経験や取引経験をもとに見積もる。
- 試作品やテスト販売の結果を反映する。
- 数量が増えた場合の単価変動を確認する。
創業時は実績がないため、原価率を完全に正確に見積もることが難しい場合もあります。それでも、根拠のない原価率を置くのではなく、現時点で確認できる材料を使いながら、後から見直せる形にしておくことが大切です。
粗利は、創業期の最重要指標の一つ
売上高から売上原価を差し引いたものが売上総利益です。実務では「粗利」と呼ばれることが多い利益です。
この粗利は、事業の稼ぐ力を見るうえで、とても重要な意味を持ちます。
売上高が大きくても、原価が高ければ粗利は残りません。そして粗利が十分に残らなければ、家賃・人件費・広告費・会計ソフト・借入利息・税理士報酬・社会保険料といった固定的な費用を払うことができません。粗利は、固定費を支払い、営業利益を生み出すための源泉なのです。
創業時の利益計画では、売上高だけでなく、粗利額と粗利率を必ず確認します。
- 粗利額 = 売上高 - 売上原価
- 粗利率 = 粗利額 ÷ 売上高
粗利率が低い事業では、少しの値引きや原価上昇で、利益が大きく削られます。逆に粗利率が高い事業でも、広告費や人件費が重ければ営業利益は残りません。「粗利率が高いから安心」「売上が大きいから安心」とは、必ずしも言えないのです。
結局のところ重要なのは、売上・原価・粗利・固定費がひとつながりになっているかどうかです。
固定費は「売上がなくても出ていく費用」として見る
原価計画の次は、販売費及び一般管理費、いわゆる販管費を整理します。
販管費には、事業を運営するための費用が幅広く含まれます。創業時には、なかでも固定費を慎重に見積もっておく必要があります。
固定費とは、売上にかかわらず発生する費用です。損益分岐点を考える際には、費用を変動費と固定費に分ける必要があり、変動費は売上に比例してかかる費用、固定費は売上にかかわらず一定的にかかる費用として整理されます。
出典:中小機構 J-Net21|損益分岐点を使った目標売上高
創業時に見落としやすい固定費には、たとえば次のようなものがあります。
- 家賃、共益費
- 通信費、水道光熱費
- 会計ソフト、請求書発行システム、勤怠・給与システム
- ホームページ・サーバー・ドメイン費用
- 広告運用の固定費
- 役員報酬、従業員給与、法定福利費
- 税理士・社労士・弁護士など専門家への報酬
- 保険料、リース料
- 借入利息、減価償却費、租税公課
- 決済手数料やプラットフォーム利用料の固定部分
固定費は、創業直後にはあまり重く感じられないことがあります。開業準備中は気持ちも前向きで、将来の売上を前提に投資判断をしてしまいがちだからです。けれども固定費は、売上が計画どおりに立ち上がらない月にも、変わらず発生し続けます。
創業時の利益計画では、固定費を「平均的にこれくらい」と置くだけでは不十分です。いつから発生するのか、最低契約期間はあるのか、解約できるのか、売上が未達の場合に見直せるのか。そこまで確認しておきたいところです。
人件費は、給与額だけでなく社会保険料まで見る
創業時の利益計画で見落とされがちなのが、人件費の「総額」です。
従業員を雇う場合、給与だけを見積もっていては足りません。会社負担の社会保険料、労働保険料、通勤手当、採用費、教育費、そして給与計算や労務管理にかかるコストまで、あわせて考える必要があります。
法人事業所は、常時従業員を使用する場合、事業主のみの場合を含めて、厚生年金保険・健康保険への加入が義務づけられています。常時5人以上の従業員が働く一定の個人事業所も適用対象になりますが、業種等によって例外があります。新規適用届は、要件を満たした場合に、事実発生から5日以内に提出する扱いです。
出典:日本年金機構|新規適用の手続き
法人を設立して役員報酬を支払う場合には、その役員報酬も人件費・固定費として計画に織り込みます。役員報酬は、会社の利益、経営者個人の生活費、所得税・住民税、社会保険料、法人税、そして資金繰りに、それぞれ影響していきます。
特に創業時は、次の点を確認しておきましょう。
- 経営者自身の生活費はいくら必要か。
- 法人から役員報酬をいくら支払うか。
- 役員報酬を支払っても、会社に資金が残るか。
- 社会保険料を、会社負担分まで含めて見込んでいるか。
- 従業員給与と役員報酬を、同時に支払えるか。
- 売上が未達の場合、人件費をどこまで耐えられるか。
役員報酬や給与は、単なる節税のための調整項目ではありません。創業時の固定費のなかでも、会社と経営者個人の双方に大きな影響を与える項目です。社会保険料を含めた実質負担を見ないまま役員報酬を決めてしまうと、利益計画と資金繰りの両方が崩れやすくなります。役員報酬を支払えば、損益計算書上は販売費及び一般管理費として利益を減らし、キャッシュフロー上は人件費支出として現預金に影響することになります。
役員報酬は、利益計画と資金繰りの両方から決める
創業時の役員報酬は、「利益を減らすために多く取る」「資金が不安だからゼロにする」といった単純な判断ではなく、利益計画と資金繰りをあわせて検討します。
役員報酬を高くすれば、会社の利益は減ります。それだけでなく、会社から現金が出ていき、社会保険料の負担も増え、経営者個人の所得税・住民税にも影響します。
一方で、役員報酬を低くしすぎると、今度は経営者個人の生活資金が不足します。個人の生活費を会社資金で曖昧に補うような運用になれば、後から説明しにくくなってしまいます。
創業時には、少なくとも次の3つを分けて考えます。
- 会社として必要な利益
- 会社として残すべき資金
- 経営者個人に必要な生活資金
この3つを整理したうえで、法人税・所得税・住民税・社会保険料・資金繰りを確認していきます。役員報酬は、税金だけで決めるものではありません。創業期の資金耐久力を左右する固定費として扱う必要があります。
利益計画では、営業利益を最初の判断軸にする
創業時の利益計画では、まず営業利益を重視します。
営業利益は、売上高から売上原価と販管費を差し引いた利益です。つまり、本業の活動でどれだけ利益が残るかを示すものです。
営業利益 = 売上高 - 売上原価 - 販管費
創業融資や金融機関への説明の場面では、借入金の返済原資をどこから生み出すかが問われます。返済そのものは損益計算書上の費用ではありませんが、現金は確実に出ていきます。そのため、営業利益が出ていても、借入返済・税金・設備投資・売掛金の未回収があれば、手元の資金は減っていきます。
ここに、利益計画が資金計画と切り離せない理由があります。利益計画だけでは、掛け取引による入出金のタイミング差までは把握できず、利益が出ていても資金回収が間に合わないことがあるのです。利益計画に加えて資金計画も必要になるのは、こうした事情によります。
なお、資金繰り表の詳細については、次の記事で改めて取り上げます。本記事では、利益計画を作る段階で、後から資金繰り表へつなげられるように、売上・原価・固定費・人件費・役員報酬・借入利息を整理しておく——その点を押さえておいていただければ十分です。
損益分岐点で「最低限必要な売上」を確認する
利益計画を作るうえで、損益分岐点は欠かせない確認項目です。
損益分岐点とは、利益がゼロになる売上高のことです。売上高と費用が同じになり、儲けも損も出ない水準を指します。この損益分岐点売上高を考えるには、費用を変動費と固定費に分ける必要があります。
出典:中小機構 J-Net21|損益分岐点を使った目標売上高
基本的な考え方は、次のとおりです。
- 変動費 = 売上に比例して増える費用
- 固定費 = 売上にかかわらず発生する費用
- 限界利益 = 売上高 - 変動費
- 限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高
- 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
損益分岐点を確認すると、たとえば次のようなことが見えてきます。
- 毎月いくら売れば赤字を避けられるか。
- 固定費が重すぎないか。
- 原価率が高すぎないか。
- 値引きにどこまで耐えられるか。
- 人を雇うと、必要売上がどれだけ上がるか。
- 家賃や広告費を増やすと、どれだけ売上が必要になるか。
創業時に固定費を増やす判断をするなら、損益分岐点売上高がどれだけ上がるかを、必ず確認しておくべきです。人を1人雇う、広い店舗を借りる、広告費を固定的にかける、設備を導入する——いずれも、売上が増える前に固定費だけが先に増える可能性があります。損益分岐点は、こうした開業前の投資判断にも役立ちます。
トップダウンとボトムアップを使い分ける
利益計画の作り方には、大きく2つの方向があります。
一つは、売上構造から積み上げる方法。もう一つは、必要利益から逆算する方法です。
売上構造から積み上げる方法は、顧客数・単価・数量・成約率・稼働率などを分解して売上を作り、そこから原価・固定費・利益を計算していくやり方です。創業時や新規事業では、この方法が重要になります。まだ事業の収益構造が固まっていないぶん、売上の前提を一つずつ検証していく必要があるからです。
一方、必要利益から逆算する方法は、目標とする営業利益や返済原資から、必要な売上高を逆算していくやり方です。こちらは、収益構造や費用構造がある程度分かっている場合には有効です。
ただし、創業時に必要利益から逆算するだけで計画を作ってしまうと、危うい面もあります。必要な利益を出そうとするあまり、現実にはまだ根拠の薄い売上を置いてしまいがちだからです。
事業計画には、売上高から順に組み立てるアプローチと、得たい営業利益から逆算するアプローチがありますが、後者は収益・費用構造がある程度解明されていることが前提になります。創業期のように収益構造がまだ見えていない段階では、売上構造を一定の粒度で設計し、仮説検証型で考えていく必要があります。
そこで実務では、両方を使い分けます。
まず、売上構造から積み上げて、現実的に見込める売上と利益を作る。次に、必要な役員報酬・固定費・借入返済・税金を踏まえたとき、必要売上がどの程度になるかを逆算する。そして、その差が大きいようであれば、計画を見直す。
この「差」こそが、創業前に確認すべき重要な論点です。
- 積み上げた売上では、固定費を賄えない。
- 必要利益から逆算した売上が、現実的な販売数量を超えている。
- 役員報酬を支払うと、借入返済に耐えられない。
- 広告費を増やすと、損益分岐点が上がりすぎる。
- 設備投資をすると、売上開始前の資金が不足する。
こうしたズレを開業前に見つけておくこと——それが、利益計画を作る大きな意味の一つです。
売上計画を作るときの確認項目
売上計画では、次の項目を確認していきます。
誰に売るのか
売上計画は、顧客の定義から始まります。
顧客が誰かによって、単価・販売数量・販売方法・入金条件・契約期間が変わってきます。個人向けか法人向けか、単発取引か継続取引か、直接販売か紹介経由か、店頭販売かオンライン販売か。こうした違いによって、売上の作り方も変わってきます。
何を売るのか
商品・サービスごとに単価と原価が違う場合は、売上計画も分けて作ります。
売上高を一括で置いてしまうと、どの商品・サービスが利益を生んでいるのかが見えなくなります。創業時から完璧な部門別管理をする必要はありませんが、少なくとも主要な商品・サービスごとに、売上と粗利を分けて見る視点は持っておきたいところです。
いくらで売るのか
価格設定は、利益計画に直結します。
価格を下げれば販売数量が増えるとは限りませんし、価格を上げれば利益が増えるとも限りません。価格は、顧客の価値認識・競合・提供コスト・販売方法・ブランド・契約条件と、さまざまに関係しています。
創業時には、値引きやキャンペーンを見込む場合もあるでしょう。その場合は、通常価格だけで計画を作るのではなく、実際の販売単価に近い数字で計画しておく必要があります。
どれだけ売るのか
販売数量は、経営者の希望ではなく、販売能力や市場接点から考えます。
営業時間、対応人員、製造能力、仕入能力、在庫、営業件数、問い合わせ件数、成約率、リピート率。こうした要素を踏まえながら、現実的な数量を見積もっていきます。
いつ売れるのか
創業時には、売上の立ち上がり時期も重要です。
開業初月から計画どおりに売上が立つとは限りません。認知獲得・営業活動・契約交渉・納品・請求・入金までに時間がかかる事業では、売上計上と入金にズレが生じます。だからこそ、売上計画は月別に分けて考える必要があります。
原価計画を作るときの確認項目
原価計画では、次の点を確認していきます。
売上に連動する費用かどうか
原価は、売上に直接ひもづく費用です。売上が増えると比例的に増えるものは、変動費として整理します。
ただし、外注費や人件費のように、事業によって原価にも固定費にもなり得るものがあります。案件ごとに外注する費用であれば変動費に近く、常勤スタッフの給与であれば固定費に近くなります。形式的な勘定科目だけで判断せず、売上との関係で整理していくことが大切です。
仕入・外注・材料費の根拠はあるか
創業時の原価計画では、見積書・価格表・過去の経験・テスト販売・同業者の水準などを確認します。
仕入単価が分からないまま原価率を置いてしまうと、開業後に粗利が大きくずれる可能性があります。特に、輸入・物流・外注・材料費・人件費が関係する事業では、価格変動や最低発注数量にも注意が必要です。
ロス・廃棄・返品・値引きを見込んでいるか
商品を扱う事業では、仕入れたものがすべて予定価格で売れるとは限りません。
廃棄・棚卸ロス・返品・値引き・サンプル提供・保証対応なども、原価に影響してきます。創業時の計画では、理想的な原価率だけでなく、一定のロスを見込んでおくことが必要になる場合もあります。
消費税・インボイスの影響を確認しているか
消費税やインボイス制度は、価格設定・請求書・仕入税額控除・実質的な原価負担に影響します。
インボイス制度は令和5年10月1日から始まっており、適格請求書発行事業者として登録した後に求められる事項なども、国税庁から案内されています。
出典:国税庁|インボイス制度について
売上計画・原価計画では、税込で考えているのか、税抜で考えているのかを、明確にしておく必要があります。免税事業者か課税事業者か、インボイス登録をするか、仕入先が適格請求書発行事業者か。これらによって、資金繰りや価格交渉に影響が出ることがあります。
消費税の細かな判断は、別の記事で改めて取り上げます。ただ、利益計画を作る時点で、消費税をまったく考えないというのは危険です。
固定費計画を作るときの確認項目
固定費計画では、次の点を確認していきます。
毎月必ず発生する費用は何か
家賃・通信費・システム利用料・人件費・保険料・専門家報酬など、売上がなくても発生する費用を洗い出します。
創業直後は、固定費を小さく始めることが資金繰り上有利に働くことがあります。とはいえ、事業の信用・顧客対応・業務品質のために必要な固定費もあります。単に削ればよいというものではありません。大切なのは、その固定費が売上や管理体制にどう貢献するかを見極めることです。
発生開始月はいつか
固定費は、開業前から発生することがあります。
事務所や店舗の賃料、システム費用、広告費、採用費、給与、社会保険料などは、売上が始まる前に発生することがあります。利益計画では、いつから費用が発生するのかを、月別に把握しておきます。
途中で見直せる費用か
固定費には、すぐに見直せるものと、簡単には見直せないものがあります。
短期契約のシステム費用は比較的見直しやすい一方、店舗の賃貸借・リース契約・人件費・長期契約の広告費などは、すぐには減らせないことがあります。創業時の利益計画では、固定費の金額だけでなく、その柔軟性まで確認しておきましょう。
利益計画の基本構造
売上計画・原価計画・固定費計画を整理したら、いよいよ利益計画へ落とし込みます。
基本構造は、次のとおりです。
- 売上高
- - 売上原価
- = 売上総利益(粗利)
- - 販売費及び一般管理費
- = 営業利益
- ± 営業外損益
- = 経常利益
- - 税金等
- = 税引後利益
創業時に特に見るべきなのは、次の4つです。
- 売上高
- 粗利額・粗利率
- 固定費
- 営業利益
この4つが見えてくれば、どれだけ売れば利益が出るのか、どの費用が重いのか、どこを見直すべきかが、ぐっと見えやすくなります。
利益計画でよくある誤り
創業時の利益計画では、次のような誤りが起こりがちです。
売上だけが右肩上がりになっている
売上が増える計画そのものが悪いわけではありません。問題は、増える理由を説明できないことです。
広告費・人員・販売チャネル・既存顧客・紹介・契約見込みといった前提がないまま、売上だけが増えていく計画は、開業後の管理にも、金融機関への説明にも使いにくくなります。
銀行を意識して債務償還年数などの数字から逆算し、売上計画を右肩上がりに置いてしまうと、実績が未達になったときに資金繰りが一気に崩れることがあります。安易な売上計画は、利益計画だけでなく、資金繰りにも尾を引きます。
原価率が低すぎる
粗利を大きく見せようとして、原価率を低く置いてしまうことがあります。
しかし、実際の仕入単価や外注費、ロス、返品、値引きを考慮していない原価率は危険です。原価率がほんの少し上がるだけで、営業利益は大きく削られます。創業時は、保守的な原価率でも利益が出るかどうかを確認しておくことが大切です。
固定費を入れ忘れている
創業時の利益計画では、細かな固定費が漏れやすくなります。
会計ソフト、給与計算システム、決済手数料、保険料、専門家報酬、税金、社会保険料、更新料、保守費、予備費など。こうした固定費が漏れると、損益分岐点売上高も実際より低く見えてしまいます。
役員報酬を後から決める前提になっている
法人を設立する場合、役員報酬は利益計画の中心となる項目です。
利益が出たら取る、資金が残ったら取る、といった曖昧な運用は避けるべきです。役員報酬は、税務上の取扱い・社会保険・資金繰り・経営者個人の生活費に関係します。創業時の利益計画では、役員報酬を仮置きしたうえで、会社の利益と資金繰りに与える影響を確認しておきます。
税金と社会保険料を後回しにしている
税金や社会保険料は、利益計画や資金繰りに大きく影響します。
給与を支払う場合には、源泉所得税の納付管理も必要になります。源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、原則として給与などを実際に支払った月の翌月10日までに納付する必要があります。給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者には、一定の要件のもとで、納期の特例も設けられています。
出典:国税庁|No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
利益計画では、税金や社会保険料を「決算のときに考えるもの」とせず、毎月・半年・年次の支払予定として、あらかじめ見込んでおく必要があります。
利益計画は、金融機関説明にも直結する
創業融資を受ける場合、金融機関は、事業の内容だけでなく、売上・原価・利益・資金使途・返済原資を確認します。
融資審査では、債務者評価・融資案件事情・資金使途・返済原資・保全面といったプロセスで確認が行われます。事業内容を金融機関が十分に理解できるよう、具体的に説明する必要があります。
利益計画が整理されていれば、次のような説明がしやすくなります。
- なぜその売上が見込めるのか。
- 原価率はどのように見積もったのか。
- 固定費はいくらか。
- 役員報酬や人件費を支払っても、利益が残るのか。
- 借入金の返済原資は、どこから生まれるのか。
- 売上が未達の場合、どの費用を見直せるのか。
- 開業後に、どの指標を月次で確認するのか。
金融機関は、単に黒字計画かどうかだけを見ているわけではありません。計画の前提を説明できるか、返済の可能性があるか、経営者自身が数字を理解しているか。そうした点を見ています。
売上計画・原価計画・利益計画は、金融機関に対する説明資料であると同時に、経営者自身の判断資料でもあるのです。
月次決算で検証できる粒度にする
利益計画は、開業後に月次決算で検証できる粒度で作っておく必要があります。
細かすぎる計画は、続きません。かといって、粗すぎる計画では判断に使えません。創業時には、まず次のような粒度で月次管理できるようにしておくとよいでしょう。
- 売上高
- 主要商品・サービス別の売上
- 売上原価
- 粗利額・粗利率
- 役員報酬
- 従業員給与
- 法定福利費
- 家賃
- 広告費
- システム費
- 専門家報酬
- その他固定費
- 営業利益
- 資金残高
- 売掛金・買掛金
- 借入返済
月次決算を経営に活かすには、数字を作るだけでなく、経営者自身が会計を「読める・話せる・使える・見通せる」状態に近づけていくことが大切です。月次決算は、最新の業績を見て手を打ちたい経営者にとって、重要な経営インフラになります。
利益計画を月次で検証できれば、創業後に次のような判断が可能になります。
- 売上が計画より遅れているため、広告や営業方法を見直す。
- 粗利率が想定より低いため、価格設定や仕入条件を見直す。
- 固定費が重いため、契約や人員計画を見直す。
- 役員報酬を変更できる時期に向けて、次期の利益計画を見直す。
- 追加融資を相談する前に、月次資料と資金繰りを整える。
創業時の利益計画は、作って終わりではなく、月次で検証していくための「基準」なのです。
売上計画・原価計画・利益計画を作る実務手順
実務では、次の順番で整理していくと、計画が作りやすくなります。
1. 商品・サービスを分ける
まず、売上を構成する商品・サービスを分けます。
すべてを細かく分けすぎる必要はありません。創業時は、主要な売上区分に絞って構いません。
- 主力商品
- 継続契約
- 単発案件
- サブスクリプション
- 物販
- サービス提供
- 保守・運用
- 紹介料・手数料
このように、売上の性質が違うものは、分けて考えます。
2. 売上単価を置く
次に、商品・サービスごとに売上単価を置きます。
ここで置くのは、希望価格ではなく、実際に販売できると考えられる価格です。値引き・初回割引・キャンペーン・紹介手数料・決済手数料などがある場合には、実質単価もあわせて確認します。
3. 販売数量・契約数を置く
続いて、販売数量や契約数を置きます。
このとき、その数字が販売能力や営業活動とつながっているかを確認します。
- 店舗なら、来店客数と購入率。
- BtoBなら、問い合わせ件数・商談数・成約率。
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- 継続課金なら、契約数と解約率。
売上数量は、販売活動の前提とセットで考えます。
4. 原価率・原価額を置く
売上区分ごとに、原価率または原価額を置きます。
仕入・材料・外注・配送・決済手数料・販売手数料など、売上に直接ひもづく費用を整理します。原価率が不明な場合でも、見積書・同業水準・テスト販売・過去の経験などをもとに、仮置きしておきます。
5. 粗利を確認する
売上高から原価を差し引き、粗利を確認します。
粗利が十分に残らない事業では、固定費を払えません。創業時は、粗利率が少し下がった場合でも耐えられるかどうかを確認しておきます。
6. 固定費を積み上げる
固定費を月別に積み上げます。
家賃・人件費・役員報酬・社会保険料・広告費・システム費・専門家報酬・保険料などを、発生開始月とあわせて整理します。
7. 営業利益を確認する
粗利から固定費を差し引き、営業利益を確認します。
営業利益が出ているかどうかだけでなく、売上が未達の場合・原価率が上がった場合・固定費が増えた場合にどうなるかも、あわせて確認しておきます。
8. 損益分岐点を確認する
固定費と限界利益率から、損益分岐点売上高を確認します。
最低限必要な売上水準を把握しておくことで、開業前に固定費の重さを検討できます。
9. 資金繰り表へ接続する
最後に、利益計画を資金繰り表へ接続します。
利益が出る計画であっても、入金が遅れたり、仕入支払や人件費が先行したり、税金や社会保険料の支払が重なったりすると、資金は不足します。利益計画は、次の記事で扱う資金繰り表とセットで確認しておく必要があります。
利益計画で「攻め」と「守り」を分けて考える
創業時の利益計画では、攻めと守りを分けて考えることも大切です。
攻めの数字とは、売上を伸ばすための数字です。
- 広告費
- 営業活動
- 採用
- 設備投資
- 商品開発
- 外注活用
- 販売チャネル拡大
守りの数字とは、事業を継続し、説明可能な状態を保つための数字です。
- 固定費
- 資金残高
- 借入返済
- 税金
- 社会保険料
- 証憑管理
- 会計体制
- 月次決算
攻めの費用を削りすぎれば、売上は伸びません。一方で、守りの数字を見ないまま攻めれば、資金繰りが崩れます。
創業時の利益計画は、単に利益を出すための計算ではありません。どこに資金を投じ、どこを抑え、どの売上水準を目指し、どのタイミングで見直すか。それを考えるための、経営判断の資料なのです。
利益計画について専門家に相談すべき場面
売上計画・原価計画・利益計画は、自社だけで作ることもできます。ただ、次のような場合には、早めに専門家へ相談する価値があります。
- 創業融資を受ける予定がある。
- 売上計画の根拠を、金融機関に説明する必要がある。
- 原価率や粗利率の見積りに不安がある。
- 固定費がどこまで許容できるか、判断できない。
- 役員報酬や従業員給与を、どう見込むべきか分からない。
- 社会保険料や源泉所得税を、利益計画に織り込めていない。
- 消費税・インボイス登録の影響を確認したい。
- 法人設立後の初年度決算まで見据えた計画を作りたい。
- 月次決算や資金繰り表とつながる計画にしたい。
専門家に相談する目的は、数字を代わりに作ってもらうことだけではありません。
- 売上の前提が妥当か。
- 原価の見積りに漏れがないか。
- 固定費が重すぎないか。
- 役員報酬や人件費を入れても、資金が回るか。
- 融資申請時に、説明できる計画になっているか。
- 開業後に、月次で検証できる形になっているか。
こうした論点を、税務・会計・資金繰り・金融機関対応の観点から整理していく。そこにこそ、意味があります。
売上計画・原価計画・利益計画について相談したい方へ
犬飼公認会計士・税理士事務所では、創業・開業・法人化の段階から、事業計画を単なる融資用資料ではなく、開業後の月次決算・資金繰り・金融機関説明・税務届出・役員報酬設計につながる「初期設計」として整理することを重視しています。
- 売上計画をどう分解すればよいか。
- 原価率や粗利率を、どのように見積もるべきか。
- 役員報酬や人件費を入れても、資金が回るか。
- 創業融資に向けて、利益計画をどこまで整えるべきか。
- 開業後に月次で検証できる、数字の形にしたい。
こうした段階で一度整理しておくと、開業後の判断は大きく変わってきます。
利益計画は、希望を数字にする作業ではありません。経営者が自社の事業を、売上・原価・固定費・利益・資金のつながりで説明できる状態にしていく作業です。自社の場合、どの順番で、何を確認し、どこまで数字を整えるべきか。そう考え始めた方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
この記事の振り返り
| 論点 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 売上計画 | 売上高だけでなく、単価・数量・顧客数・成約率・継続率などに分解する |
| 月別計画 | 年間売上だけでなく、開業後の月別売上と立ち上がり時期を確認する |
| 原価計画 | 仕入・材料・外注・配送・手数料など、売上に直接ひもづく費用を整理する |
| 粗利 | 売上高から原価を差し引き、粗利額・粗利率を確認する |
| 固定費 | 売上がなくても発生する家賃・人件費・システム費・専門家報酬などを積み上げる |
| 人件費 | 給与額だけでなく、会社負担の社会保険料・労働保険料・採用・管理コストも見る |
| 役員報酬 | 法人税・所得税・住民税・社会保険料・会社資金・経営者個人の生活費をあわせて考える |
| 営業利益 | 本業で固定費を払った後に、どれだけ利益が残るかを確認する |
| 損益分岐点 | 固定費と限界利益率から、最低限必要な売上水準を確認する |
| 金融機関説明 | 売上根拠・原価率・固定費・返済原資を説明できる計画にする |
| 月次管理 | 開業後に計画と実績の差異を確認できる粒度で作る |
| 専門家相談 | 融資・役員報酬・社会保険・消費税・月次決算に接続する段階で、早めに整理する |