不動産管理会社を設立する場合の初期論点|管理料・賃貸借・消費税・資金管理まで

不動産管理会社の設立は、単に「法人を一つ作る手続」ではありません。

たとえば、個人で所有している物件について管理会社を設立し、管理料を支払う。あるいは、管理会社が物件を借り上げて転貸する。場合によっては、建物や土地そのものを法人へ移す。こうした設計は、所得税、法人税、消費税、相続税、資金繰り、借入、賃貸借契約、管理業務、そして将来の承継にまで影響していきます。

特に不動産オーナーの場合、帳簿上の資産額は大きくても、固定資産税や都市計画税、修繕費、借入返済、空室、相続への不安が重なり、実際には資金繰りに追われている、というケースが少なくありません。相続税や不動産所得の問題にとどまらず、「誰が、どの資産を、どの収入で、どのように維持管理していくのか」という長期的な設計が求められます。

不動産管理会社は、うまく設計できれば、所得分散、資金管理、承継の準備、物件管理の明確化に役立ちます。その一方で、実態のない管理料、過大な役員報酬、説明のつかない親族間取引、契約書の不備、消費税区分の誤り、借入名義との不整合などがあると、税務上・金融機関対応上のリスクは一気に大きくなります。

本記事では、不動産管理会社を設立する前に確認しておきたい初期論点を、手続の順番に沿って整理していきます。

目次

不動産管理会社は「節税会社」ではなく、資産管理の器である

不動産管理会社のご相談では、開口一番「節税になりますか」とお尋ねいただくことが少なくありません。

たしかに、個人に集中している所得を、管理会社や役員報酬を通じて家族へ分散できる場合があります。個人の超過累進税率、法人税率、役員報酬、社会保険料、そして相続財産の増加抑制を総合的に見れば、税負担の平準化につながることはあります。

ただ、不動産管理会社を「節税だけの器」として作ってしまうと、設計を誤ります。

管理会社とは本来、不動産の管理業務を実際に行い、その対価として管理料を受け取り、法人として会計・税務・契約・資金を管理していく存在です。会社としての実態がなければ、管理料や役員報酬の合理性を説明することはできません。

したがって、設立前に確認しておくべき問いは、次の順番で整理していくとよいでしょう。

  • どの不動産を対象にするのか
  • どの業務を管理会社が担うのか
  • 誰がその業務を実際に行うのか
  • 管理料や賃料は、業務内容とリスクに見合っているのか
  • 管理会社に資金を残す目的は何か
  • 将来の相続・贈与・承継・売却・建替え・借換えに、どう影響するのか

税負担だけを見て会社を作るのではなく、不動産経営を「個人の確定申告」から「法人を含む資産管理体制」へ移行させる設計として捉える。この視点が出発点になります。

まず決めるべきは、不動産管理会社の役割

不動産管理会社といっても、その設計は一つではありません。

大きく分けると、次の3つの方式があります。

管理委託方式

不動産の所有者は個人のままです。入居者との賃貸借契約も、原則としてオーナー個人が貸主になります。

管理会社は、オーナーから管理業務を受託し、その対価として管理料を受け取ります。

この方式では所有権を移転しないため、不動産取得税、登録免許税、譲渡所得税といった移転コストは比較的抑えられます。ただし、管理会社へ移せる所得は、実際に行う管理業務の対価として合理的といえる範囲に限られます。

管理会社が担う業務としては、入居者募集、賃貸借契約の更新・解約手続、家賃集金、滞納確認、入退去の立会い、クレーム対応、修繕業者との連絡、清掃・巡回、オーナーへの報告などが考えられます。

もっとも、管理料を設定していても、実際の業務記録が残っていなければ、税務上の説明は難しくなります。

一括借上げ・転貸方式

管理会社がオーナー個人から物件を借り上げ、入居者へ転貸する方式です。

この方式では、管理会社が空室リスクや入居者対応の一部を負うことになります。そのため、単なる管理委託方式よりも、法人側へ移る所得は大きくなる可能性があります。

ただし、実態として管理会社がどこまでリスクを負っているのかが重要です。この点は、次のような論点を一つひとつ詰めていく必要があります。

  • 空室でもオーナーに一定賃料を支払うのか
  • 修繕費は誰が負担するのか
  • 入居者との賃貸借契約上の貸主は誰か
  • 敷金・保証金・礼金・更新料の帰属はどうするのか
  • 滞納リスクは誰が負うのか
  • 賃料改定や契約解除の条件はどうするのか

また、サブリース方式では、賃貸住宅管理業法上の規制も関係してきます。同法では、賃貸住宅管理業者の登録制度が設けられており、あわせてサブリース事業を適正化する観点から、不当な勧誘行為や誇大広告等の禁止、特定賃貸借契約を締結する前の重要事項説明などが義務づけられています。
出典:国土交通省|賃貸住宅管理業法ポータルサイト「制度解説」

不動産所有方式

個人が所有している建物や土地を、管理会社へ売却や現物出資などにより移転し、法人が不動産そのものを所有する方式です。

この方式では、賃貸収入そのものが法人に入るため、所得の帰属は大きく変わります。その一方で、移転時の税務・登記・不動産取得税・登録免許税・金融機関の承諾・担保設定・譲渡価額・消費税など、検討すべき論点が一気に増えます。

個人から法人へ資産を移す場合には、原則として時価を意識した移転が必要です。個人と法人は別人格であり、「家族の会社だから自由に動かせる」という発想は危険です。

不動産所有方式は、相続や承継、不動産の組換えまで含めた設計が求められるため、本記事では詳細な相続税対策までは踏み込みません。ただし、設立の初期段階から「将来、法人に不動産を持たせる可能性があるか」だけは、確認しておくことをおすすめします。

管理会社を設立すべきかは、税率差だけで判断しない

不動産管理会社を設立するかどうかを、税率差だけで判断すると、見誤ります。

設立による主なメリットとしては、次のような点が挙げられます。

  • 不動産所得の一部を、法人や家族へ分散できる可能性がある
  • 法人内に、将来の修繕資金や納税資金を残しやすくなる
  • 家族が役員や従業員として実際に管理へ関与する場合、役割と報酬を整理できる
  • 物件別の収支や資金管理を、法人会計として見える化できる
  • 将来の承継、借換え、物件の組換え、売却時の資料整理がしやすくなる

一方で、デメリットもあります。

  • 法人設立費用、登録免許税、司法書士報酬などがかかる
  • 法人住民税の均等割など、赤字でも生じる負担がある
  • 法人税申告、地方税申告、給与・源泉、社会保険、年末調整などの事務が増える
  • 管理料・役員報酬・家族給与の合理性を、その都度説明する必要がある
  • 法人の預金、個人の預金、家計資金、物件資金を分けて管理しなければならない
  • 不動産を法人へ移す場合、取得税・登録免許税・譲渡所得・消費税などの論点が発生する
  • 法人株式そのものが相続財産となる

そのため設立の判断にあたっては、少なくとも「設立しない場合」「管理委託方式」「転貸方式」「不動産所有方式」を並べて比較したいところです。そのうえで、所得税・住民税・法人税・社会保険料・消費税・固定資産税・借入返済・修繕費、そして相続財産の増加までを見える化していくことが必要になります。

会社形態、株主、役員をどう設計するか

不動産管理会社を設立する際には、株式会社にするのか合同会社にするのか、誰を株主・社員にするのか、誰を役員にするのかを決めていきます。

株式会社を設立するには、発起人が定款を作成し、その全員が署名または記名押印する必要があります。定款の絶対的記載事項としては、目的、商号、本店所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名・名称および住所が定められています。
出典:法務省|株式会社の設立手続(発起設立)について

不動産管理会社では、特に次の点が重要になります。

  • 会社の目的に、不動産管理、不動産賃貸、不動産保有、清掃、修繕手配、賃貸住宅管理、宅地建物取引業などをどこまで盛り込むか
  • 将来、宅建業免許や賃貸住宅管理業登録が必要になる可能性があるか
  • 株主をオーナー本人にするのか、配偶者・子・後継者にするのか
  • 役員を、実際に業務を行う人にしているか
  • 役員報酬を支払う根拠となる職務内容があるか
  • 相続時に株式が分散しすぎない設計になっているか

ここで気をつけたいのは、税負担だけを見て、親族を株主や役員に入れすぎないことです。

不動産管理会社は、将来の承継の器にもなります。株式や持分が分散してしまうと、その後の意思決定、物件売却、借入、担保設定、株式承継、相続人間の調整が難しくなることがあります。

「所得を分散するために家族を入れる」だけでなく、「将来、誰が不動産経営を管理するのか」「誰に会社の意思決定権を持たせるのか」という視点をあわせ持って設計することが大切です。

役員報酬は、節税ではなく職務と資金繰りから決める

不動産管理会社を設立すると、配偶者や子を役員にして役員報酬を支払う、という設計が検討されることがあります。

しかし、役員報酬は「利益を消すために決めるもの」ではありません。

法人税法上、役員給与は、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは、原則として損金に算入できません。また、これらに該当する場合であっても、不相当に高額な部分は損金算入が認められないとされています。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

不動産管理会社で役員報酬を決める際には、次の観点を確認しておきたいところです。

  • その役員は、実際に何をしているのか
  • 入居者対応、修繕手配、帳簿管理、金融機関対応、物件巡回、契約管理に関与しているか
  • 職務内容に比べて、報酬が高すぎないか
  • 毎月支払えるだけの資金繰りがあるか
  • 源泉所得税、住民税、社会保険料を含めた実質的な負担を見ているか
  • 個人側の所得税・住民税だけでなく、法人側の資金残高まで確認しているか

法人事業所では、社会保険の適用も見落とせません。常時従業員を使用する法人事業所については、厚生年金保険および健康保険への加入が法律で義務づけられています。
出典:日本年金機構|新規適用の手続き

役員報酬を増やせば、たしかに法人利益は下がります。しかしその分、個人側の所得税・住民税・社会保険料は増えます。さらに法人の現金が減るため、修繕費、固定資産税、借入返済、空室時の資金余力にも影響します。

不動産管理会社では、役員報酬を「税金を減らすための数字」として捉えるのではなく、業務の実態、家族の役割、法人の資金繰り、社会保険、将来の修繕資金といった要素のバランスのなかで決めていく必要があります。

管理料は、業務内容・相場・記録で説明できるようにする

不動産管理会社において、最も重要な税務論点の一つが管理料です。

個人オーナーが不動産管理会社へ管理料を支払えば、個人側では不動産所得の必要経費となり、法人側では管理料収入となります。この仕組みによって、所得の分散が生じます。

とはいえ、管理料を自由に決められるわけではありません。

国税不服審判所の公表裁決事例では、同族会社が管理業務を日常的に行っていたか、業者との連絡、工事の発注、修理・取替工事への対応、業務記録などが確認され、管理料が管理業務の対価として認められた事例が示されています。逆にいえば、契約書だけでなく、実際の業務内容とその記録が問われるということです。
出典:国税不服審判所|不動産管理料

管理料を設計するときは、次の順番で考えていくとよいでしょう。

  • まず、管理会社が実際に行う業務を列挙する
  • 次に、外部の管理会社へ委託した場合の相場を確認する
  • 物件数、戸数、入居者数、築年数、修繕頻度、クレーム対応の負担を反映する
  • 管理委託契約書に、業務内容と報酬を明記する
  • 毎月または定期的に、業務報告を残す
  • 家賃入金、修繕手配、清掃、巡回、退去対応、滞納対応などの記録を残す
  • 管理料の支払を実際に行い、預金口座で確認できるようにする

特に同族会社では、「親族の会社だから、この金額でよい」という説明は通りません。

外部の第三者に同じ業務を依頼した場合、いくら支払うことになるのか。その管理会社が実際に何をしているのか。報酬と業務がきちんと対応しているのか。ここを説明できなければ、税務調査の場面で問題になりやすくなります。

宅建業免許・賃貸住宅管理業登録を見落とさない

不動産管理会社を設立する際には、税務だけでなく、不動産に関する業法制も確認しておく必要があります。

まず、宅地建物取引業を営む場合には、国土交通大臣または都道府県知事の免許が必要です。宅地建物取引業の範囲としては、宅地または建物の売買・交換、売買・交換・貸借の代理、売買・交換・貸借の媒介を業として行うものが挙げられています。
出典:国土交通省|宅地建物取引の免許について

したがって、管理会社が単に自社所有物件を貸すだけなのか、オーナーから管理業務を受託するだけなのか、それとも入居者募集や賃貸借契約の媒介・代理まで行うのか。ここを区別して考える必要があります。

次に、賃貸住宅管理業法の確認も欠かせません。

賃貸住宅管理業を営む管理戸数200戸以上の事業者に対しては、国土交通大臣への登録が義務づけられています。ここでいう賃貸住宅管理業とは、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて、賃貸住宅の維持保全を行う業務、または維持保全とあわせて家賃・敷金・共益費などの金銭管理を行う業務を指します。金銭管理のみを行う事業は、同法の賃貸住宅管理業には該当しないとされています。
出典:国土交通省|賃貸住宅管理業法ポータルサイト「管理業者の業務」

登録が必要となる場合には、営業所または事務所ごとの業務管理者の配置、管理受託契約締結前の重要事項説明、契約締結時の書面交付、財産の分別管理、委託者への定期報告、帳簿の備付け、標識の掲示などが求められます。登録の有効期間は5年とされ、登録事項に変更が生じた場合や廃業などの場合には、30日以内に届け出る必要があります。
出典:国土交通省|賃貸住宅管理業法ポータルサイト「賃貸住宅管理業登録の方法」

不動産管理会社を家族内の資産管理会社として始める場合であっても、管理戸数、業務内容、外部物件の受託、媒介業務の有無によって、必要となる登録・免許は変わってきます。

こうした判断は、税理士だけで完結させるものではありません。必要に応じて、行政書士、司法書士、宅建業に詳しい専門家、不動産実務に精通した弁護士などと連携していくことが重要です。

賃貸借契約・管理委託契約を整備する

不動産管理会社を設立したら、契約書を整備する必要があります。

家族間・同族会社間の取引であっても、契約書がなければ、税務・会計・金融機関対応のいずれの場面でも説明が難しくなります。

最低限、次の契約関係は整理しておきましょう。

  • 個人オーナーと管理会社との管理委託契約
  • 個人オーナーと管理会社との賃貸借契約、または一括借上契約
  • 管理会社と入居者との転貸借契約
  • 管理会社と清掃・修繕・保守業者との業務委託契約
  • 管理会社とオーナーとの金銭管理・送金ルール
  • 敷金・保証金・礼金・更新料・原状回復費の帰属
  • 修繕費、設備更新費、広告費、仲介手数料の負担者
  • 賃料改定、契約解除、滞納時対応、空室リスクの負担

契約書で大切なのは、単に「管理を委託する」と書くことではありません。次のような点まで、はっきりさせておくことです。

  • 何を管理するのか
  • いつ報告するのか
  • 誰が入金を受けるのか
  • 誰が費用を支払うのか
  • 管理会社の報酬は、何の対価か
  • どの口座で資金を管理するのか
  • 外部業者への再委託を認めるのか
  • トラブル時の責任分担はどうするのか

そして、これらを契約と実態で一致させることが重要です。契約書があっても、実際の入金口座、会計処理、請求書、領収書、業務報告、物件管理記録が契約と食い違っていれば、後から説明することはできません。

消費税は、不動産の種類と取引内容で分けて考える

不動産管理会社では、消費税の判断を誤りやすい点にも注意が必要です。

まず、不動産オーナーの収入には、課税取引と非課税取引が混在します。

土地の譲渡や貸付けは、原則として非課税取引です。ただし、貸付期間が1か月に満たない場合や、駐車場その他の施設利用に伴って土地が使用される場合には、非課税とはなりません。また、事務所などの建物を貸し付ける場合の家賃は課税対象となり、住宅の貸付けは一定の場合を除いて非課税とされています。
出典:国税庁|No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など

駐車場についても注意が必要です。駐車場など施設の利用に伴って土地が使用される場合には、消費税が課されます。駐車車両の管理、地面の整備、フェンスや区画、建物の設置などをして駐車場として利用させる場合にも、消費税が課されることになります。
出典:国税庁|No.6213 駐車場の使用料など

不動産管理会社で特に確認しておきたい消費税の論点は、次のとおりです。

  • 住宅家賃は原則非課税だが、事務所・店舗家賃は課税対象となる
  • 土地貸付けは原則非課税だが、駐車場や短期貸付けでは課税になる場合がある
  • 管理会社が受け取る管理料は、通常、役務提供の対価として課税売上になる
  • 一括借上げ方式では、オーナーから管理会社への賃貸、管理会社から入居者への転貸のそれぞれで課税区分を確認する
  • 物件を法人へ移す場合、土地・建物・住宅・事業用建物の区分を確認する
  • インボイス登録の要否は、課税売上、取引先、仕入税額控除、賃貸先の属性を踏まえて判断する

不動産は取引金額が大きいため、消費税の判断ミスが資金繰りに大きく響きます。特に、建物取得、設備投資、課税事業用物件、駐車場、店舗・事務所賃貸、管理料収入がある場合には、開業前の段階から消費税の課税区分と届出を確認しておく必要があります。

個人資金・法人資金・家計資金を分ける

不動産管理会社を設立したあと、最も重要になるのは資金管理です。

不動産オーナーの場合、「個人のお金」「家のお金」「物件のお金」「会社のお金」が混ざりやすくなります。そしてこれが、税務調査、相続、金融機関対応、家族間の説明といった場面で、後々問題になってきます。

法人を作るのであれば、少なくとも次の資金は分けて管理します。

  • 個人オーナーの生活資金
  • 個人オーナーの不動産収入・固定資産税・借入返済資金
  • 管理会社の管理料収入・役員報酬・外注費・法人税等の支払資金
  • 入居者から受領する家賃・敷金・保証金
  • 将来の修繕資金
  • 相続税・贈与税・譲渡所得税などの納税資金

賃貸住宅管理業法上も、登録業者については財産の分別管理が重視されています。家賃・敷金等の受領金銭の専用口座と、事業者固有財産の専用口座とをそれぞれ別に開設して管理すること、そして帳簿や会計ソフト上で、どの管理受託契約に基づく金銭かを直ちに判別できる状態で管理することが求められています。
出典:国土交通省|賃貸住宅管理業法ポータルサイト「管理業者の業務」

これは、登録業者だけに当てはまる発想ではありません。

家族内の不動産管理会社であっても、入居者からの預り金、オーナーへの送金、管理料、修繕費、敷金返還資金が混ざってしまうと、後から説明することができなくなります。

物件別・契約別・資金別に月次管理する

不動産管理会社を作るなら、月次決算の体制を最初から整えておくべきです。

不動産管理会社では、全社合計の損益だけを眺めていても、経営判断には使えません。次のような数字を、物件や契約の単位で押さえる必要があります。

  • 物件ごとの収支
  • 入居率
  • 滞納状況
  • 修繕費
  • 借入返済
  • 固定資産税
  • 管理料
  • 敷金・保証金の残高
  • 将来の大規模修繕見込み
  • オーナー個人への送金額
  • 法人に残る現金

これらを、月次で確認していきます。

不動産賃貸は、毎月安定した収入があるように見えます。ところが実際には、空室、修繕、退去精算、固定資産税、借入返済、大規模修繕、金利上昇、相続税の納税などによって、資金は大きく動きます。

収益の認識と現金の流れは、必ずしも一致しません。継続的な契約に基づく不動産賃貸では、未収収益、未払費用、前受金、前受収益などの管理も重要になります。会計上も、継続的なサービス提供にかかる未収・未払・前受の整理は、財務状況を正確に把握するうえで欠かせません。

不動産管理会社を設立したら、物件別の月次試算表、資金繰り表、借入返済予定表、修繕予定表を作成し、個人オーナー側の資金繰りと法人側の資金繰りとを並べて見ていく。この習慣が、後々の経営を支えます。

不動産管理会社を設立する前に整理すべき資料

専門家に相談する前に、次の資料を整理しておくと、判断がぐっと具体的になります。

  • 所有不動産の一覧
  • 各物件の所在地、用途、戸数、築年数、構造、取得時期、取得価額
  • 各物件の賃貸借契約書
  • 家賃、共益費、駐車場収入、礼金、更新料、敷金・保証金の一覧
  • 借入金の返済予定表
  • 固定資産税・都市計画税の課税明細
  • 修繕履歴と今後の修繕予定
  • 管理会社へ委託している場合の契約書・管理料明細
  • 過去の所得税確定申告書、青色申告決算書
  • 消費税申告書がある場合はその控え
  • 家族構成、後継者候補、相続・贈与の方針
  • 法人化した場合に関与する予定の家族の業務内容
  • 将来、法人へ不動産を移す可能性
  • 宅建業免許や賃貸住宅管理業登録の必要性の有無

不動産所得については、土地や建物などの不動産の貸付けによる所得がこれに当たり、その金額は「総収入金額-必要経費」で計算するとされています。また、必要経費として認められるのは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の経費と明確に区分できるものとされています。
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)

この「家事上の経費と明確に区分できる」という考え方は、不動産管理会社を設立したあとにも効いてきます。

個人支出、家計支出、法人支出、物件支出。これらを区分できないままでは、せっかく法人化した意味が薄れてしまいます。

不動産管理会社の設立でよくある初期ミス

不動産管理会社では、次のような初期のつまずきが起こりがちです。

  • 管理会社を設立したものの、管理委託契約書を作っていない
  • 管理料を決めたが、実際の業務内容や記録がない
  • 親族に役員報酬を払っているが、職務内容を説明できない
  • 法人の口座と個人の口座を分けていない
  • 家賃、敷金、修繕費、管理料の流れが契約と一致していない
  • 住宅家賃、事務所家賃、駐車場、管理料の消費税区分を混同している
  • 宅建業免許や賃貸住宅管理業登録の要否を確認していない
  • 相続対策として株式を分散した結果、将来の会社支配が不安定になった
  • 不動産を法人へ移す際の不動産取得税、登録免許税、譲渡所得、借入承継を見落とした
  • 法人化後の月次決算・資金繰り表を作っていない

不動産管理会社は、作ること自体は、それほど難しくありません。

本当に難しいのは、作ったあとに、契約、会計、税務、資金繰り、相続、金融機関対応を、継続的に整え続けていくことなのです。

当事務所へのご相談について

不動産管理会社の設立は、節税だけで判断すると危険です。

管理委託方式にするのか、一括借上げ方式にするのか、それとも不動産所有方式まで検討するのか。誰を株主・役員にするのか。管理料をいくらにするのか。賃貸借契約や管理委託契約をどう整えるのか。そして、消費税、インボイス、社会保険、月次決算、資金繰り、金融機関への説明まで、どうつなげていくのか。

これらを設立前に整理しておくことで、あとから説明できる不動産管理体制を作りやすくなります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産管理会社の設立を検討されている方に対して、税務だけにとどまらず、資金繰り、管理料の設計、役員報酬、法人・個人間の資金移動、月次決算、金融機関対応までを含めて、初期段階から論点を整理してまいります。

  • 「不動産管理会社を作るべきかどうか、判断したい」
  • 「管理料や役員報酬の考え方を整理したい」
  • 「個人所有物件と法人管理の資金の流れを見える化したい」
  • 「将来の相続・承継を見据えて、今のうちに管理体制を整えたい」
  • 「税務調査や金融機関に説明できる資料を残しておきたい」

こうした段階で迷っておられる場合は、法人設立や契約変更を進める前に、一度ご相談ください。

お問い合わせは、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご連絡ください。

振り返り|不動産管理会社を設立する場合の初期論点

確認項目実務上の意味見落とした場合のリスク
設立目的節税だけでなく、資産管理・承継・資金管理の目的を整理する会社を作ったが実態がない
管理方式管理委託方式、転貸方式、不動産所有方式を比較する税務・契約・資金繰りの前提が崩れる
株主・役員誰に意思決定権と業務責任を持たせるかを決める将来の相続・承継・会社支配で問題化する
資本金信用、運転資金、税務上の判定、金融機関対応を踏まえて決める資金不足や説明力不足につながる
役員報酬職務内容、定期同額給与、社会保険、資金繰りから決める損金不算入、資金流出、社会保険負担の見落とし
管理料業務内容、相場、契約、記録に基づいて設定する過大管理料として税務上問題になる
契約書管理委託、賃貸借、転貸借、修繕、送金ルールを明確にする法人と個人の取引実態を説明できない
宅建業・賃貸住宅管理業媒介・代理・管理戸数・業務内容に応じて免許・登録を確認する無免許・未登録リスク、行政対応の漏れ
消費税住宅、事務所、駐車場、土地、管理料を区分する課税区分の誤り、届出ミス、資金繰りの悪化
資金管理個人、法人、物件、家計、預り金を分ける税務調査・相続・金融機関説明で問題化する
月次決算物件別収支、借入返済、修繕、納税資金を管理する法人化後も数字が見えず、管理不全になる
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