金融機関に説明できる事業計画と制度活用|補助金・融資・税制優遇を経営判断として伝える方法

目次

制度を使うだけでは、金融機関への説明にはならない

補助金に採択された。経営力向上計画の認定を受けた。設備投資税制の対象になりそうだ。信用保証付き融資を検討している。

こうした制度活用の材料は、金融機関に説明するうえで有利に働くことがあります。けれども、それだけで融資判断や支援判断が決まるわけではありません。

金融機関が知りたいのは、「その制度を使えるか」だけではありません。制度を使うことで、会社の事業、資金繰り、収益力、返済可能性がどう変わるのか。そこが問われています。

制度名を並べても、説明にはなりません。

「この補助金を使います」ではなく、「この投資によって、どの売上が増え、どの原価が下がり、いつ資金が出て、いつ入金され、どの利益から返済するのか」。ここまで説明して、はじめて説明になります。

金融庁は金融機関に対して、事業者の現下の決算状況・借入状況や条件変更の有無だけで機械的・硬直的に判断することなく、事業の特性や各種支援施策の実施見込み等も踏まえ、経営改善につながるよう丁寧に対応することを求めています。あわせて、補助金等の支給までの間に必要となる資金や、生産性向上投資等の成長に要する資金についても、柔軟な支援を講じることが示されています。
出典:金融庁|金融の円滑化に向けた取組及び事業者支援の徹底について

この方針は、事業者にとって「説明しなくても金融機関が分かってくれる」という意味ではありません。むしろ逆です。

金融機関が事業の特性や支援施策を踏まえて判断するためには、会社側が制度活用を事業計画と資金計画に落とし込み、自らの言葉で説明できることが前提になります。

金融機関に説明できる事業計画とは何か

金融機関に説明できる事業計画とは、見栄えのよい資料のことではありません。

売上が右肩上がりで、利益も増え、資金繰りも改善する。そうした数字を並べるだけでは不十分です。むしろ、根拠の薄い楽観計画は、金融機関との信頼関係を損ないます。

事業計画とは本来、事業を通じて達成したい定性的・定量的目標に対して、どのような経営資源や事業施策が必要かという仮説を置き、その目標達成と仮説検証の方法・手順・指標を定めるものです。

金融機関に説明する事業計画では、とりわけ次の流れが必要になります。

まず、現在の経営課題を明確にします。売上不足なのか、粗利率の低下なのか、人手不足なのか、設備老朽化なのか、借入返済負担なのか、売掛金回収の遅れなのか。ここを整理します。

次に、その課題を解決するための施策を説明します。設備投資、販路開拓、人員採用、価格改定、DX、省力化、事業再構築、経営改善などです。

そのうえで、制度活用の位置づけを示します。補助金は投資負担を一部軽減する手段なのか。融資は補助金入金前の立替資金なのか。税制優遇は投資後の税負担を調整する手段なのか。認定制度は計画の実行管理や金融支援につなげるものなのか。

最後に、数字で説明します。売上、粗利、人件費、固定費、営業利益、資金繰り、借入返済、税金、自己資金、補助金入金時期、投資回収期間。これらをつなげて示します。

金融機関に説明できる計画とは、制度を使った後の会社の姿を、損益と資金の両方で語れる計画です。

制度活用は、事業計画の中に位置づけて説明する

制度活用でよくある誤りは、制度を計画の中心に置いてしまうことです。

「補助金があるから設備を買う」
「税制優遇があるから投資する」
「認定を取れるから計画を作る」
「制度融資があるから借りる」

この順番では、金融機関への説明として弱くなります。

本来の順番は逆です。

自社に経営課題がある。その課題を解決するために事業施策がある。その施策には資金が必要である。資金調達・税負担・実行管理の観点から、複数の制度を比較する。その結果として、特定の制度を使う。

制度は、事業目的を実現するための手段です。金融機関に説明するときは、「制度を使うこと」ではなく、「制度を使って何を実行し、どう返済原資を生むのか」を中心に据えます。

たとえば省力化設備を導入する場合、説明の中心は「補助率」ではありません。まず語るべきは、現在の人員不足や外注費の増加、受注制約、納期遅延といった課題です。

そのうえで、その設備を導入することで処理能力が何%上がり、外注費がいくら減り、受注余力がどれだけ増え、粗利がいくら改善し、いつから返済原資が生まれるのかを説明します。

制度名は、その後です。

売上計画は「希望」ではなく「根拠」で説明する

金融機関に提出する事業計画で、最も厳しく見られるのは売上計画です。

売上計画が崩れれば、利益計画も資金繰りも返済計画も崩れます。補助金や税制優遇を使ったとしても、売上計画が現実的でなければ、投資回収は説明できません。

売上計画では、少なくとも次の点を整理します。

  • 誰に売るのか
  • 何を売るのか
  • 単価はいくらか
  • 数量はいくらか
  • 既存顧客からの売上か、新規顧客からの売上か
  • 受注見込みはどの程度具体化しているか
  • 販売開始時期はいつか
  • 入金条件はどうなっているか
  • 既存事業とのカニバリゼーションはないか
  • 設備や人員のキャパシティは足りるか

売上計画で避けたいのは、「市場規模が大きいから」「ニーズがあるから」「広告を強化するから」といった抽象的な説明です。

金融機関が見たいのは、市場全体の大きさではありません。自社が実際に獲得できる売上の根拠です。

たとえば既存顧客への追加販売であれば、対象顧客数、過去の取引実績、提案中の案件、見積提出状況、受注確度を示します。新規顧客開拓であれば、営業リスト数、商談化率、成約率、平均単価、営業担当者数、広告費、販売開始までの期間を示します。

売上計画は、金融機関を安心させるために大きく作るものではありません。未達になった場合に、どの時点で修正判断をするか。そこまで含めて作るものです。

利益計画では、粗利と固定費を分けて説明する

売上が増える計画であっても、利益が残るとは限りません。

補助金を使って設備投資を行っても、粗利率が低ければ返済原資は生まれません。賃上げ促進税制を意識して人件費を増やしても、売上総利益が伴わなければ資金繰りは悪化します。DX投資をしても、保守費、利用料、教育費、追加人件費が増えれば、計画上の利益改善は遅れることがあります。

利益計画では、売上高だけでなく、粗利率、変動費、固定費を分けて説明します。

  • 売上増加に伴って増える原価は何か
  • 外注費は減るのか、増えるのか
  • 材料費や仕入価格の上昇リスクはあるか
  • 人件費は一時的な増加か、継続的な増加か
  • 設備導入後の保守費、減価償却費、リース料はどうなるか
  • 広告費や販促費は初年度だけか、継続的に必要か
  • 補助対象外経費はどこに入っているか

金融機関に説明する利益計画では、営業利益だけでなく、返済前の利益水準を見ることが重要です。返済原資は、会計上の利益だけでなく、減価償却費や運転資金の増減、税金支払いも含めて判断します。

経理・財務の実務では、金融機関が納得できる数字であると同時に、社内の社員にとっても現実性のある数字へ落とし込む必要があります。社長一人で作った高すぎる目標が、社内で修正されないまま金融機関に出てしまう。そうした危うさもあります。

利益計画には、前向きであることと、現実的であることの両方が求められます。

返済原資は「補助金」ではなく「事業が生むキャッシュ」で説明する

金融機関に説明するとき、最も重要な論点の一つが返済原資です。

返済原資とは、借入金をどの資金で返していくのか、ということです。

ここで注意したいのは、補助金を返済原資として説明しすぎないことです。

補助金は、投資支出の一部を後から補填する制度です。補助金が入金された後に一部返済する計画を立てることはありますが、長期的な返済原資は、あくまで事業が生むキャッシュフローです。

中小企業庁のミラサポplusでは、補助金は実績報告書をもとに検査され、支払いが完了していること等が確認された後に補助金額が決定され、請求に基づいて支払われるとされています。つまり後払い、すなわち清算払いが原則であり、事業者が自己資金で事業経費を立て替える必要があります。また、補助金交付後にも事業化状況報告が求められる場合があります。
出典:中小企業庁・ミラサポplus|補助金入門 STEP3:補助の審査・交付・報告

したがって、金融機関への説明では、次のように分けて整理します。

  • 補助金入金前の立替資金は、短期的な資金需要として説明する
  • 補助金入金後の資金使途は、借入返済に充てるのか、運転資金として残すのかを説明する
  • 長期返済の原資は、営業利益と営業キャッシュフローで説明する
  • 補助金が遅れた場合、減額された場合、不採択だった場合の代替策も説明する

返済原資を説明するには、損益計画だけでは足りません。資金繰り表が必要です。

日本政策金融公庫も、中小企業向けの各種書式として、事業計画書、資金繰り表、経営改善計画書などを用意しています。資金繰り表は、資金繰り計画を策定する場合の参考資料として位置づけられています。
出典:日本政策金融公庫|各種書式ダウンロード 中小企業の方【中小企業事業】

金融機関にとって、返済原資が説明できる計画とは、売上と利益だけでなく、入金、支払い、税金、返済、投資、補助金入金の時期まで整合している計画です。

資金繰り表は、制度活用の説明資料そのものである

金融機関に制度活用を説明する際、資金繰り表は補助資料ではありません。むしろ、制度活用の現実性を示す中心資料です。

補助金の申請書に書いた事業計画だけでは、金融機関は資金の谷を確認できません。税制優遇の対象設備であることだけでは、支払いに耐えられるかは分かりません。認定制度の計画があるだけでは、返済可能性は説明できません。

資金繰り表では、次の点を明確にします。

  • 投資支出はいつ発生するか
  • 補助金入金はいつ見込むか
  • 融資実行はいつ必要か
  • 自己資金はいくら使うか
  • 借入返済はいつから始まるか
  • 税金や社会保険料の支払いはいつ重なるか
  • 売上入金は何ヶ月後か
  • 最も資金残高が少なくなる月はいつか
  • その月に資金ショートしないか

これまでにも触れてきたとおり、資金繰り表では、最も苦しい時期を先に見ます。金融機関への説明でも、考え方は同じです。

「補助金が入るので大丈夫です」と説明するのではありません。「補助金が入る前に、この月が最も厳しくなります。そのため、ここで短期資金が必要です。補助金入金後はこの残高になり、その後の返済はこの営業キャッシュフローで対応します」。こう説明する必要があります。

資金調達の実務では、リスケジュールを含む厳しい局面であっても、事業計画書と資金繰り表を作成し、当面1年間は月単位、2年目以降は6ヶ月単位で、3年から5年程度の利益計画や資金計画を組み立てていくことが重要になります。金融機関への説明では、計画の前提条件、とりわけ売上計画を詳細に整理し、その結果としての数値計画を示す必要があります。

通常の成長投資であっても、この考え方は変わりません。

金融機関は、資金が必要な理由だけでなく、資金が回収される道筋を見ています。

投資効果は「売上増加」だけでなく複数の効果に分けて説明する

制度活用では、投資効果の説明が重要になります。

投資効果というと、売上増加だけを想定しがちです。しかし、金融機関に説明する投資効果は、もっと広く整理できます。

  • 売上増加
  • 粗利率改善
  • 外注費削減
  • 人件費の抑制
  • 残業時間削減
  • 不良率低下
  • 廃棄ロス削減
  • 在庫圧縮
  • 回収期間短縮
  • 受注単価改善
  • 生産能力増加
  • 納期短縮
  • 品質向上
  • 人材採用・定着

設備投資やDX投資では、初年度から売上が大きく増えないこともあります。その場合でも、外注費削減、不良率低下、残業代削減、在庫削減などによってキャッシュフローが改善するのであれば、投資効果として説明できます。

逆に、売上増加を見込んでいながら、そのための営業体制、販売チャネル、広告費、人員、納期対応を説明できない場合、計画の説得力は弱くなります。

投資効果を説明するときは、「何が、いつ、いくら改善するのか」を分けます。

たとえば1,500万円の設備投資を行う場合、単に「売上が増えます」と言うのではなく、次のように説明します。

  • 既存製品の月間生産能力が1,000個から1,400個に増える
  • 過去6ヶ月の受注残から見て、増産分のうち月250個は既存顧客から見込める
  • 1個あたり粗利は3,000円で、月75万円、年間900万円の粗利増加を見込む
  • 外注加工費が月20万円減少する
  • 保守費と電気代が月8万円増加する
  • 差引きで年間約1,044万円の資金改善効果を見込む
  • ただし、立ち上げ3ヶ月は稼働率を50%で見る

ここまで分解して説明すると、金融機関も計画の妥当性を検討しやすくなります。

税制優遇は、金融機関には「資金繰りへの影響」として説明する

中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、賃上げ促進税制といった税制優遇は、事業計画の資金面に影響します。

ただし、税制優遇は現金が直接入金される制度ではありません。

税額控除は、税金を減らす効果があります。特別償却や即時償却は、減価償却費を前倒しして課税所得を減らす効果があります。圧縮記帳は、補助金等に対応する課税を繰り延べる効果があります。

金融機関に説明するときは、税制優遇そのものの細かな要件説明よりも、資金繰りへの影響に軸を置きます。

  • 税負担がいつ、どの程度減る見込みか
  • 赤字の場合や税額不足の場合に、効果が限定されないか
  • 特別償却を使うことで、将来年度の償却費が減らないか
  • 補助金と税制優遇を併用する場合、取得価額や圧縮記帳の処理をどう見るか
  • 税務申告時に必要な書類や保存資料は整っているか

設備税制では、対象法人、対象資産、指定事業、取得価額、申告要件、複数資産の取扱い、補助金を受けた資産の取扱いなど、細かな確認が必要です。税制優遇は投資判断に関係しますが、金融機関に対しては、税務上の効果と資金繰りへの反映を区別して説明することが重要です。

税制優遇を使えることは、投資判断の一要素にすぎません。

金融機関に説明すべき中心は、「税制優遇があるから有利」ではなく、「税制優遇を考慮しても、投資後の資金繰りと返済原資が成立しているか」です。

認定制度は、計画の「実行管理」とセットで説明する

経営力向上計画、経営革新計画、先端設備等導入計画、早期経営改善計画、経営改善計画策定支援といった認定制度・計画制度は、金融機関説明と相性があります。

ただし、認定を受けたこと自体が、事業の成功を保証するわけではありません。

金融機関に説明するときは、認定制度を次のように位置づけます。

  • どの経営課題に対する計画か
  • どの施策を実行するのか
  • どの数値目標を置いているのか
  • どの制度と接続しているのか
  • 誰が実行責任を持つのか
  • どの頻度でモニタリングするのか
  • 計画未達の場合にどう修正するのか

中小企業庁は、認定経営革新等支援機関による支援の流れとして、経営状況の把握、財務分析、経営課題の抽出、事業計画作成、事業計画実行、モニタリング・フォローアップ、巡回監査、改善策の提案などを示しています。
出典:中小企業庁|認定経営革新等支援機関

また経営改善計画策定支援では、金融支援を伴う本格的な経営改善の取組が必要な中小企業・小規模事業者を対象に、認定経営革新等支援機関が経営改善計画の策定を支援します。現状分析、課題明確化、対応策検討、アクションプラン、金融支援による資金繰り安定、伴走支援を行う枠組みが示されています。
出典:中小企業庁|経営改善計画策定支援

制度認定は、あくまで計画の入口です。

金融機関に対して説得力を持つのは、認定後にどのように実行し、どの数字を見て、どう改善していくのか。そこまで説明できる場合です。

金融機関説明では、良い話だけでなくリスクも先に示す

金融機関に説明する事業計画で、良い話だけを並べる必要はありません。

むしろ、リスクを把握していない計画は、実務上、危うく見えます。

説明すべきリスクには、次のようなものがあります。

  • 補助金が不採択になる可能性
  • 交付決定や入金が遅れる可能性
  • 対象外経費が発生する可能性
  • 設備納品が遅れる可能性
  • 売上立ち上がりが遅れる可能性
  • 採用予定者が確保できない可能性
  • 原材料価格が上昇する可能性
  • 為替や金利が変動する可能性
  • 既存取引先の発注が減る可能性
  • 税制優遇の効果が想定より小さくなる可能性
  • 月次管理や証憑管理が追いつかない可能性

リスクを書くと融資に不利になるのではないか。そう考える経営者もいます。

しかし、金融機関にとって問題なのは、リスクがあること自体ではありません。リスクを把握していないこと、そしてリスクが起きた場合の対応策がないことです。

たとえば、補助金が不採択だった場合には投資を延期する。補助金入金が遅れる場合には短期資金でつなぐ。売上立ち上がりが3ヶ月遅れた場合には広告費を抑制する。原価が上がった場合には価格改定を行う。人員採用が遅れた場合には外注併用で対応する。

このように保守シナリオを示すことで、計画の信頼性はむしろ高まります。

制度活用に前向きな会社ほど、制度のメリットを強調しがちです。しかし金融機関説明で本当に問われるのは、メリットの大きさよりも、未達時に資金繰りを守れるかどうかです。

金融機関が見たいのは「月次で追える計画」である

事業計画は、提出した時点で終わりではありません。

金融機関との関係では、計画後のモニタリングが重要になります。とくに制度活用を伴う場合、計画と実績の差異を月次で確認できる体制が欠かせません。

  • 売上は計画どおりか
  • 粗利率は想定どおりか
  • 固定費は増えすぎていないか
  • 投資支出は予定どおりか
  • 補助対象経費と対象外経費は分けて管理されているか
  • 補助金入金予定に遅れはないか
  • 借入返済後の資金残高は十分か
  • 税金や社会保険料の支払いに無理はないか
  • KPIは計画どおり進んでいるか
  • 計画未達時の改善策は実行されているか

月次監査の実務でも、設備投資、新規契約、資産売却・除却、会計データに表れない状況変化、今後の計画、発注から回収までのプロセス、証憑書類の発行・保存状況を確認していくことが重要になります。

金融機関に説明できる事業計画とは、作成時に整っている計画のことではありません。実行後に、毎月追える計画です。

制度活用後の報告や検証を軽視すると、補助金の実績報告、税務処理、金融機関説明、次回融資、経営改善。そのいずれにも影響が及びます。

金融機関に説明する資料は、厚さよりも整合性が重要

金融機関説明のために、分厚い資料を作る必要はありません。重要なのは、資料同士の整合性です。

  • 事業計画書
  • 資金繰り表
  • 投資計画
  • 借入返済予定表
  • 補助金申請書
  • 見積書
  • 試算表
  • 決算書
  • 固定資産台帳
  • 売掛金・買掛金一覧
  • 人員計画
  • 税務上の影響整理
  • 月次モニタリング資料

これらの数字がつながっているかを確認します。

事業計画書では売上が増えているのに、資金繰り表に売掛金回収時期が反映されていない。補助金申請書では設備投資額が1,500万円なのに、資金繰り表では1,200万円しか出金していない。融資返済予定表では返済が始まっているのに、利益計画に返済原資がない。税制優遇を見込んでいるのに、税金支払いの見込みに反映されていない。人員増加を計画しているのに、人件費が増えていない。

こうした不整合があると、金融機関は計画全体の信頼性に疑問を持ちます。

資料は、多ければよいというものではありません。少なくても、数字の前提がそろっている資料のほうが、説明力を持ちます。

金融機関説明の前に整理すべき事項

金融機関に相談する前には、少なくとも次の事項を整理しておきます。

1. 事業目的

何のために制度を使うのかを明確にします。

設備更新なのか。新規事業なのか。省力化なのか。人材確保なのか。資金繰り改善なのか。事業承継なのか。再生・改善なのか。

ここが曖昧なままでは、制度も融資も説明できません。

2. 資金使途

何にいくら使うのかを整理します。

設備代金、システム費用、外注費、広告費、人件費、研修費、在庫、店舗改装、保証金、運転資金、税金、既存借入返済などを分けて捉えます。

資金使途が曖昧だと、必要資金額も借入額も説明できません。

3. 制度活用の位置づけ

補助金、税制優遇、認定制度、融資、保証、自己資金をどう組み合わせるのかを整理します。

どの制度が主で、どの制度が補助的なのか。補助金は後払いであることを前提にしているか。税制優遇は現金入金ではなく、税負担への影響として見ているか。融資は立替資金なのか、長期運転資金なのか。

制度の役割分担を説明します。

4. 売上・利益計画

売上、粗利、固定費、営業利益を、月次または年度別に整理します。

金融機関に提出する計画では、売上の根拠、粗利率の根拠、固定費増加の根拠が重要になります。

5. 資金繰り表

補助金入金前、融資実行前、返済開始後、税金支払い時期を含めて、資金残高の推移を整理します。

最も資金が厳しい月を説明できるようにしておきます。

6. 返済原資

返済原資を、営業利益、減価償却費、運転資金改善、補助金入金、資産売却、自己資金などに分けて整理します。

長期的な返済原資は、事業から生まれるキャッシュフローで説明する必要があります。

7. モニタリング方法

制度活用後に、何を毎月確認するのかを整理します。

売上、粗利、資金残高、借入返済、補助金手続、投資効果、KPI、証憑管理、税務処理を、どの頻度で見るのかを決めておきます。

制度を使わない方がよい場面も、金融機関説明で見えてくる

制度活用の検討を進めると、使わない方がよい制度が見えてくることがあります。

補助金を受けても、入金前の立替資金が不足する。設備投資をしても、売上増加の根拠が弱い。税制優遇を使っても、赤字で効果が限定的である。借入をしても、返済原資が明確でない。認定制度を取っても、実行管理できる体制がない。人件費を増やしても、粗利が追いつかない。補助対象外経費が多く、自己負担が重すぎる。

このような場合には、制度を使わない判断も必要です。

制度を使わないことは、消極的な判断ではありません。

  • 投資時期を遅らせる
  • 投資額を減らす
  • 補助金ではなく融資を中心にする
  • 融資ではなくリースを検討する
  • 認定制度だけ先に進める
  • 売掛金回収や在庫圧縮を優先する
  • 既存借入の返済条件を確認する
  • 月次管理体制を整えてから制度活用する

これらもまた、制度活用を経営判断として扱うための選択肢です。

金融機関に説明できない計画は、金融機関のためだけでなく、自社のためにも見直すべきです。

金融機関説明は、融資を受けるためだけのものではない

金融機関説明というと、融資を受ける場面だけを想像しがちです。しかし実務上は、それだけではありません。

  • 既存借入の返済を続けるため
  • 追加融資を相談するため
  • 補助金入金までのつなぎ資金を相談するため
  • 設備投資の妥当性を説明するため
  • 経営改善計画を共有するため
  • 資金繰り悪化時に早期相談するため
  • 事業承継やM&A後の資金計画を説明するため
  • 経営者保証の見直しを相談するため

金融機関説明は、会社の経営状況と将来計画を共有する場です。

金融庁は、経営者保証に関するガイドラインを融資慣行として浸透・定着させることが重要であるとして、金融機関等による積極的な活用に向けた取組を促しています。2026年6月には、民間金融機関におけるガイドライン等の2025年度活用実績も公表されています。
出典:金融庁|「経営者保証に関するガイドライン」等の活用実績について(2025年度の実績)

経営者保証の見直しや金融支援を相談する場合であっても、要となるのは同じです。財務状況、資金繰り、返済原資、内部管理、事業計画を説明できること。ここに尽きます。

金融機関との関係は、困ったときだけ相談するものではありません。制度活用後の成果、計画未達時の改善策、資金繰りの見通しを継続的に共有していくことが、次の資金調達や経営改善につながります。

金融機関に説明できる制度活用の結論

制度活用を金融機関に説明する際に必要なのは、制度名ではありません。

必要なのは、次の一連の流れです。

  • 自社の経営課題を説明する
  • その課題に対する事業施策を説明する
  • その施策に必要な資金使途を説明する
  • 補助金、融資、税制優遇、認定制度の役割を説明する
  • 売上計画と利益計画の根拠を説明する
  • 補助金入金前の資金繰りを説明する
  • 返済原資を説明する
  • 税務・会計処理への影響を説明する
  • 実行後の月次モニタリングを説明する
  • 未達時の対応策を説明する

ここまで整理できて、はじめて制度活用は、金融機関に説明できる経営判断になります。

金融機関に説明できるということは、金融機関のために資料を作るという意味ではありません。自社自身が、その制度を本当に使うべきかを判断できている、ということです。

制度を使えるかどうかではなく、その制度を使って事業が改善し、資金繰りが回り、返済原資が生まれ、実行後も数字で管理できるか。

この観点を持つことが、制度活用を単発の申請から経営判断へと変える出発点になります。

金融機関に説明できる計画づくりに迷ったときは

補助金、融資、税制優遇、認定制度は、それぞれ制度の目的も、資金効果も、税務影響も、管理負担も異なります。

制度を活用する前に、事業目的、資金使途、売上計画、利益計画、資金繰り、返済原資、税務処理、月次モニタリングを整理しておく。それだけで、金融機関への説明は大きく変わります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、制度を「申請できるか」だけで捉えるのではなく、事業計画、資金計画、税務・会計処理、金融機関説明、実行後の月次管理までを一体で整理することを重視しています。

補助金と融資をどう組み合わせるべきか。金融機関にどのように説明すべきか。制度活用後の返済原資や資金繰りをどう示すべきか。迷われる場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

論点金融機関に説明すべきこと実務上の注意点
制度活用の位置づけ制度を使って何を実行するのか制度名だけでは説明にならない
事業目的どの経営課題を解決するのか補助金や融資を目的化しない
資金使途何にいくら使うのか設備資金、運転資金、補助対象外経費を分ける
売上計画誰に、何を、いくら、いつ売るのか市場規模ではなく、自社が獲得できる売上根拠を見る
利益計画粗利、変動費、固定費の変化売上増加だけでなく、費用増加も反映する
返済原資どのキャッシュで返済するのか補助金だけを返済原資として見ない
補助金入金前の立替資金と入金時期後払い、減額、不採択、報告義務に注意する
融資借入額、返済開始、毎月返済額実行時だけでなく返済後の資金繰りを見る
税制優遇税負担と資金繰りへの影響現金入金ではなく税務上の効果として説明する
認定制度計画、実行、モニタリングの仕組み認定取得だけでなく実行管理を示す
投資効果売上増加、原価低減、省力化、在庫圧縮など効果を金額と時期に分けて説明する
リスク不採択、入金遅延、売上未達、原価上昇リスクを隠さず、代替策を示す
月次管理計画と実績を毎月どう確認するか金融機関説明は提出時ではなく実行後も続く
使わない判断制度活用を見送る条件資金繰り・返済原資が弱い場合は再検討する
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次