M&Aが成立すると、ひとまず大きな山を越えたような感覚になります。
譲渡側であれば、後継者不在や将来への不安に、ひとつの区切りがつきます。譲受側であれば、事業拡大、顧客基盤の取得、人材確保、地域展開、新規領域への参入といった、次の成長に向けたスタートラインに立つことになります。
ところが実務では、成立した後にこそ、本当の難しさが表面化してきます。
買収した会社の数字が、想定どおりに見えてこない。従業員が新体制に不安を抱えている。会計処理や請求・支払のルールが、会社ごとに異なっている。取引先への説明が後手に回る。設備投資やシステム統合に、追加の資金が必要になる。補助金を使えると考えていたのに、対象経費や時期が合わない。金融機関に対して、M&A後の成果を説明できない。
こうした問題は、「M&A後に頑張れば何とかなる」という性質のものではありません。M&Aの目的、資金計画、統合方針、制度活用、月次管理を、成立前の段階からつなげておく必要があります。
この統合プロセスがPMIです。
PMIは、単なる「買収後の作業」ではありません。M&Aで何を実現したいのかを、実際の経営管理、会計、税務、資金繰り、人材、業務、金融機関への説明に落とし込んでいくための、経営判断そのものです。
PMIは「M&A成立後の後片付け」ではない
PMIとは、一般にPost Merger Integrationの略で、M&A成立後の一定期間内に行う経営統合作業を指します。
ただし、中小企業のM&Aにおいて、PMIを「成立後に始めるもの」と捉えてしまうと、それでは遅すぎます。M&A成立前の“プレ”PMI、成立後から一定期間のPMI、その後も継続する“ポスト”PMIを含めたプロセス全体が、広い意味での中小PMIとして整理されています。
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン
つまりPMIは、「買ってから考えるもの」ではなく、「買う前から考えるもの」だということです。
M&Aの目的が、単なる売上規模の拡大なのか、後継者不在企業の事業継続なのか、地域シェアの確保なのか、あるいは技術・人材・顧客基盤の取得なのか。それによって、PMIで優先すべき事項は変わってきます。
目的が曖昧なまま制度を探しても、補助金や税制が経営判断を助けてくれることはありません。それどころか、制度の期限や対象経費に合わせて、本来必要のない投資や外注をしてしまうことさえあります。
PMIで最初に整理すべきなのは、「使える制度」ではありません。「M&A後に何を実現できれば成功といえるのか」です。
PMIの3つの領域と、制度活用の位置づけ
PMIの取組領域は、「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」の3つに整理されています。経営統合は経営方針・体制・仕組みのすり合わせ、信頼関係構築は従業員や取引先との関係づくり、業務統合は開発・製造・調達・営業・人事・会計・財務・法務などの統合を指します。
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン
制度活用は、この3領域のいずれかに必ず接続します。
たとえば、PMI推進に関する補助金は、専門家費用や統合に必要な投資を支援する制度です。設備投資税制は、統合後の生産性向上投資と関係します。賃上げ促進税制や雇用関係助成金は、処遇の統一、人材定着、教育訓練と関係します。融資や信用保証は、買収資金だけでなく、統合後の設備投資、運転資金、一時的な資金負担を支えるものです。
ただし、制度はPMIの代替にはなりません。
制度を使ったから従業員が安心するわけではありません。補助金を受けたから業務統合が進むわけでもなく、税制優遇を使ったから投資回収が確実になるわけでもありません。
制度は、PMIで決めた方針を実行するための補助線にすぎません。PMIの目的と優先順位がないまま制度を使えば、統合のための活動ではなく、申請のための活動になってしまいます。
M&A成立前に、PMIと制度活用を結びつける
PMIは、クロージング後に急に始めるものではありません。
M&Aプロセスと並行してPMIの検討を開始し、成立後の集中実施期を経て、数年単位で継続的に取り組む活動として位置づけられています。なかでもPMI推進体制の確立、関係者との信頼関係構築、M&A成立後の現状把握については、100日までを目途に集中的に実施することが示されています。
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン
M&A成立前に整理しておきたいことは、少なくとも次の5つです。
1つ目は、M&Aの目的です。
何を得るために譲り受けるのか。売上か、顧客か、人材か、設備か、ノウハウか、地域基盤か。目的が複数ある場合には、優先順位を決めておく必要があります。
2つ目は、DDで見つかった課題です。
財務DD、税務DD、法務DD、労務DD、ビジネスDDで把握した論点を、クロージング後の対応事項へと変換します。DDは「買ってよいか」を判断するためだけのものではありません。「買った後に何を直すか」を整理する材料でもあります。
3つ目は、統合費用です。
会計システム、給与計算、販売管理、在庫管理、IT、ホームページ、社内規程、労務管理、設備更新、専門家費用。PMIには、こうした現実の支出が伴います。買収価格だけで資金計画を組めば、統合費用で資金繰りが詰まります。
4つ目は、制度活用の候補です。
事業承継・M&A補助金、設備投資税制、賃上げ促進税制、経営力向上計画、雇用関係助成金、融資・保証制度などが候補になります。ただし、申請時期、交付決定前着手、対象経費、支払時期、証憑保存、実績報告といった要件は、あらかじめ確認しておかなければなりません。
5つ目は、月次管理の設計です。
M&A後に成果を測定できなければ、金融機関にも、株主にも、従業員にも、そして制度の実績報告にも説明ができません。統合後に見るべきKPIは、M&A成立前の段階で決めておくべきです。
PMIで制度を使う順番を間違えない
PMIと制度活用をつなげるうえで、最も避けたいのは「補助金ありき」の統合計画です。
順番は、次のように考えます。
まず、M&Aの目的を決める。次に、統合上の課題を洗い出す。そのうえで、優先順位を決める。必要な支出と資金繰りを確認する。そして最後に、使える制度を当てはめる。
たとえば、譲受後に販売管理システムを統一する場合を考えてみます。
システム統一の目的が、請求漏れの防止、売掛金管理、粗利管理、拠点別の採算管理、月次決算の早期化にあるのであれば、PMI上の意味は明確です。資金繰りや会計処理、社内教育、移行期間中の二重入力の負担まで含めて検討する価値があります。
一方で、「補助対象になりそうだからシステムを入れる」という発想では、投資回収が曖昧なままになります。現場が使いこなせず、旧システムと新システムが併存し、かえって管理コストが増えてしまうことさえあります。
制度は、投資判断の理由ではありません。投資判断を補強する材料です。
事業承継・M&A補助金のPMI推進枠はどう見るか
PMIと制度活用を考えるうえで、事業承継・M&A補助金のPMI推進枠は、重要な候補のひとつになります。
事業承継・M&A補助金は、事業承継やM&Aに際して必要となる設備投資、専門家費用、M&A・PMIの専門家活用費用等を支援する補助金です。
出典:事業承継・M&A補助金事務局|事業承継・M&A補助金
本稿執筆時点で公表されている15次公募では、PMI推進枠に「PMI専門家活用類型」と「事業統合投資類型」が用意されています。
PMI専門家活用類型は、事業再編・事業統合に伴い株式・経営資源を譲り受けた、または譲り受ける予定でPMIを実施する中小企業者等が、PMIに係る専門家を活用することを支援する類型です。
出典:事業承継・M&A補助金事務局|PMI専門家活用類型 公募要領(15次公募)
これに対して事業統合投資類型は、事業再編・事業統合に伴い株式・経営資源を譲り受けた、または譲り受ける予定で、統合効果の最大化と生産性向上を目的とする設備投資等を行う中小企業者等を支援する類型とされています。
出典:事業承継・M&A補助金事務局|事業統合投資類型 公募要領(15次公募)
ここで重要なのは、PMI推進枠を「M&A後に使えるお金」と見るのではなく、「統合計画のうち、専門家活用や投資に制度が合う部分だけを支援するもの」と捉えることです。
PMI専門家活用類型であれば、専門家に何を依頼するのかが問われます。単に資料作成を頼むのか、PMI計画をつくるのか、会計管理体制を整えるのか、労務・規程の整備を行うのか、業務フローを統合するのか。依頼内容によって、経営上の意味は大きく変わります。
事業統合投資類型であれば、その投資によってどの統合効果が得られるのかを明確にしなければなりません。設備を買うこと自体が目的ではないからです。M&A後の売上、粗利、生産性、品質、納期、管理精度、労働時間、資金回収に、その投資がどうつながるのか。そこを説明できることが求められます。
補助金は後払いであり、PMI資金の代わりにはならない
補助金をPMIに使う際、資金繰りをめぐる誤解は特に危険です。
15次公募のPMI専門家活用類型では、補助対象経費について、補助対象事業の遂行に必要な経費であること、補助事業期間内に契約・発注を行い支払った経費であること、実績報告で提出する証拠書類等により金額・支払い等が確認できる経費であることが示されています。あわせて、補助金は補助対象事業の完了後に精算して支払われる、いわゆる実費弁済である旨も明記されています。
出典:事業承継・M&A補助金事務局|PMI専門家活用類型 公募要領(15次公募)
これは、PMIに必要な資金を、いったん自社で支払わなければならないということです。
専門家費用、システム導入費、設備投資、研修費用、拠点統合費用、廃業・撤退費用。これらを支払った後で、実績報告、検査、確定、請求、入金という流れをたどることになります。
したがって、補助金を使う場合であっても、次の点は必ず確認しておく必要があります。
- 補助金が入金される前に支払えるか
- 補助対象外経費を自己資金で負担できるか
- 不採択でもPMIを実行するのか
- 減額されても資金繰りが回るか
- 実績報告まで証憑を整えられるか
- 金融機関につなぎ資金を説明できるか
PMIは時間との勝負でもあります。補助金の採択や入金を待っている間に、従業員の不安、取引先の離反、業務の混乱が進んでしまうこともあります。
補助金は、PMIの資金計画を軽くする可能性を持つものです。しかし、PMI資金そのものを保証してくれるわけではありません。
PMI実践ツールは、制度申請より先に使う
PMIを具体化していくうえでは、公式に公表されているPMI実践ツールも参考になります。
中小PMIガイドラインの標準的なステップ・取組等を踏まえてPMIに取り組むためのツールとして、PMI分析ワークシート、PMIアクションプラン、統合方針書の3つが公表されています。PMI分析ワークシートは、M&Aの目的と譲渡側等の現状を確認し、優先課題と対応方針を整理するもの。PMIアクションプランは、「いつ・誰が・何を行うか」を計画して進捗を管理するもの。統合方針書は、M&Aの目的やPMIで取り組む事項を社内外の関係者に説明するものです。
出典:中小企業庁|PMIを実施する
出典:経済産業省|中小企業のPMIを促進する、実践ツール・活用ガイドブック・事例集を公表します!
これらのツールは、補助金申請書を作るためだけのものではありません。
むしろ、補助金を使う前に、PMIの優先順位を整理するために使うべきものです。
たとえば、PMI分析ワークシートで「従業員の不安」「会計処理の遅れ」「取引先への説明不足」「在庫管理の不一致」「給与制度の違い」といった課題が重要課題として浮かび上がってきたとします。その場合、補助金で設備投資をするより先に、社内説明、管理体制、月次決算、労務整備に取り組むべきかもしれません。
制度を使う順番を判断するためにも、まずはPMIの現状分析が欠かせないということです。
PMIで最初に見るべき数字
PMIでは、数字を早く見える状態にすることが重要になります。
M&A後の最初の数か月で、次の数字が見えてこない場合、統合の議論は感覚的なものへと流れていきます。
- 売上高
- 粗利率
- 主要顧客別売上
- 部門別・店舗別・拠点別損益
- 人件費率
- 在庫残高
- 売掛金残高
- 回収サイト
- 買掛金・未払金
- 借入金返済予定
- 設備投資予定
- PMI費用
- 運転資金の増減
- 月次資金繰り
- 統合施策ごとの実行状況
M&A前に期待していたシナジーが実際に出ているかどうかも、数字で確認しなければなりません。
クロスセルを期待していたのであれば、既存顧客への追加販売額を追う必要があります。共同購買による原価低減を期待していたのであれば、仕入単価や粗利率の変化を確認すべきです。管理部門の効率化を期待していたのであれば、月次決算の早期化、経理工数、外注費、システム費を確認します。
「何となくうまくいっている」という状態では、金融機関にも、社内にも、制度の実績報告にも説明ができません。
会計・税務処理をPMIから切り離さない
PMIでは、会計・税務の整理も早い段階から必要になります。
株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割など、M&Aのスキームによって、取得する資産・負債、のれん、税務上の取扱い、消費税、登録免許税、不動産取得税、繰越欠損金、償却、申告手続は変わってきます。
また、補助金を受ける場合には、補助金収入の会計処理や法人税等への影響も確認しておかなければなりません。15次公募のPMI専門家活用類型では、補助金は経理上、交付を受けた事業年度の収益として計上するものであり、法人税等の課税対象となる旨が記載されています。
出典:事業承継・M&A補助金事務局|PMI専門家活用類型 公募要領(15次公募)
つまり、「補助金を受けた分だけ得をする」と単純に言い切ることはできません。支出時期、補助金の入金時期、収益の計上時期、税負担、資金繰りを、あわせて見ていく必要があります。
さらに、補助対象となった設備やシステムについては、固定資産管理、減価償却、処分制限、証憑保存、実績報告との整合性についても確認が求められます。
PMIで会計・税務を後回しにすると、次のような問題が生じます。
- 買収後の月次損益が正しく見えない
- 取得費用とPMI費用の区分が曖昧になる
- 補助対象経費と対象外経費が混在する
- 消費税・法人税の資金負担を見落とす
- 税制優遇の適用可否を判断できない
- 金融機関に統合後の実績を説明できない
- 実績報告で証憑不足になる
PMIの成否は、現場の統合だけで決まるものではありません。数字を正しく見える化できるかどうかにも、大きく左右されます。
労務・人事制度は、制度活用より信頼関係を優先する
M&A後に最も繊細な扱いを要するのは、人の問題です。
給与制度、賞与、退職金、勤務時間、休日、評価制度、役職、指揮命令系統、福利厚生、社内規程。これらが会社ごとに異なっていることは、決して珍しくありません。譲受側の制度を一方的に適用すれば、管理は簡単になるかもしれません。しかしその一方で、現場の納得を得られないこともあります。
PMIでは、雇用関係助成金や賃上げ促進税制を検討する場面もあります。教育訓練、処遇改善、人材定着に関係する制度は、M&A後の組織づくりと相性のよいものです。
ただし、制度要件を満たすためだけに賃金や教育訓練を設計するのは危険です。
人件費は継続コストです。税額控除や助成金を一時的に使えたとしても、翌期以降の利益計画や資金繰りに耐えられないのであれば、経営判断として合理的とはいえません。
PMIで人事・労務制度を統合する際は、次の順番で考えます。
まず、従業員に何を約束するのか。次に、どの制度を当面維持するのか。そのうえで、どの制度をいつ統一するのか。そして最後に、助成金や税制優遇が使えるかを確認する。
人の信頼関係を壊してまで使う制度に、経営上の価値はありません。
設備投資・システム投資は、PMIの効果測定とセットで考える
M&A後には、設備投資やシステム投資が必要になることがあります。
- 生産設備の更新
- 物流設備の統合
- 販売管理システムの導入
- 会計システムの統一
- 給与・勤怠システムの導入
- EC・予約管理・顧客管理システムの整備
- セキュリティ対策
- 店舗改装
- 老朽設備の入替え
- 省力化・DX投資
これらは、補助金や税制優遇の候補になり得るものです。
しかしPMIにおける投資判断では、補助率や税額控除率よりも先に、投資回収を確認しなければなりません。
具体的には、次の点を見ていきます。
- 投資により売上が増えるのか
- 粗利率が改善するのか
- 人件費や外注費が減るのか
- 月次決算が早くなるのか
- 在庫や売掛金が減るのか
- 不良品・クレーム・手戻りが減るのか
- 金融機関に説明できる効果があるのか
- 現場が使いこなせるのか
- 既存システムとの移行期間に耐えられるのか
PMIの投資は、買収後の混乱期に実行されるものです。現場の負担、教育、データ移行、旧設備の処分、税務処理、固定資産台帳への登録、補助金の証憑管理まで含めて設計しなければ、投資の効果は出てきません。
金融機関への説明は、PMIの実行管理そのものである
M&Aで融資を受けている場合、金融機関はM&A成立後の状況を見ています。
買収価格は妥当だったのか。譲受後の売上・利益は計画どおりか。返済原資は出ているか。追加資金が必要になるのか。PMI費用は予算内か。統合が遅れていないか。従業員や取引先に問題は起きていないか。補助金は採択されたのか。補助金が入るまでの資金は確保できているか。
これらを説明できなければ、追加融資や条件変更の相談は難しくなります。
PMIにおいては、金融機関向けに特別な資料を作るというより、月次管理そのものを説明可能な形にしておくことが大切です。
具体的には、次の資料を整えます。
- M&Aの目的と統合方針
- 買収資金とPMI費用の資金計画
- 統合後の月次損益
- 資金繰り表
- 予算実績比較
- KPI進捗
- 補助金・税制・融資の利用状況
- 設備投資の投資回収見込み
- DDで発見された課題への対応状況
- 今後3か月から12か月の資金見通し
PMIの数字が整っていれば、金融機関への説明は自然にできるようになります。逆に、金融機関説明のためだけに後追いで数字を作れば、実態とのズレが生じやすくなります。
PMIで制度を使わない判断もある
PMIに制度を活用できる場面は、確かにあります。
しかし、使わない方がよい場面もあります。
たとえば、次のような場合です。
- 統合課題がまだ整理できていない
- 現場が制度対応まで手が回らない
- 補助金入金前の資金を確保できない
- 不採択時の計画がない
- 証憑管理や実績報告に対応できない
- 対象経費に合わせて本来不要な投資をしようとしている
- 税務処理や会計処理が未整理である
- 従業員への説明より制度申請を優先している
- PMIの成果指標がない
- 金融機関に制度活用の意義を説明できない
PMIでは、スピードも重要な要素です。制度を使うために統合施策が遅れるのであれば、あえて制度を使わず、自己資金や融資で先に進める方が合理的な場合もあります。
制度を使う判断だけでなく、使わない判断もまた、PMIの一部です。
PMIを月次モニタリングに落とし込む
PMIは、計画書を作って終わりというものではありません。
M&A後の数字を毎月確認し、必要に応じて打ち手を変えていく。その積み重ねが求められます。
月次モニタリングでは、少なくとも次の3層で管理します。
1つ目は、財務数値です。
売上、粗利、営業利益、資金繰り、借入返済、設備投資、PMI費用、補助金の入金予定を確認します。
2つ目は、業務KPIです。
受注件数、顧客継続率、納期、在庫回転、クレーム、稼働率、回収日数、システム移行の進捗などを確認します。
3つ目は、組織・信頼関係です。
退職者、採用状況、従業員面談、主要取引先の反応、社内説明会、制度統一の進捗を確認します。
この3層を見なければ、PMIは片手落ちになります。
財務数値だけを見ていても、従業員が不安を抱えていれば統合は進みません。組織の雰囲気だけを見ていても、資金繰りが悪化すれば経営は続きません。制度活用だけを見ていても、現場の業務が改善していなければ意味がありません。
PMIとは、経営・人・業務・数字を一体で管理する活動なのです。
PMIと制度活用をつなげる実務上のチェックポイント
PMIに制度活用を組み込む際は、次の順番で確認していくと整理しやすくなります。
まず、M&Aの目的を一文で説明できるか。次に、その目的を達成するためのPMI課題を3つから5つに絞れているか。そのうえで、各課題について「誰が、いつまでに、何をするか」を決めているか。さらに、実行に必要な支出、補助対象経費、対象外経費、支払時期、入金時期を整理しているか。最後に、月次で効果を検証するKPIを決めているか。
制度ごとに見るべきポイントは、次のとおりです。
補助金では、対象経費、事業期間、交付決定前着手、支払方法、証憑、実績報告、事業化状況報告、返還リスクを確認します。
税制優遇では、対象法人、対象設備、取得時期、事前認定、申告要件、保存資料、税額控除限度、赤字時の効果、翌期以降の影響を確認します。
融資では、資金使途、返済原資、PMI費用、補助金入金前の資金、追加運転資金、既存借入との関係を確認します。
助成金では、雇用契約、就業規則、賃金台帳、出勤簿、教育訓練記録、労務管理の実態を確認します。
そして、いずれの制度にも共通して重要なのは、制度を使った後に説明できる状態を作っておくことです。
制度活用の後に、「何のために使ったのか」「どのような効果があったのか」「計画と実績はどう違ったのか」を説明できないのであれば、PMIに制度を組み込んだとはいえません。
まとめ|PMIは、M&A後の経営管理そのものである
M&Aは、成立がゴールではありません。
M&Aの目的を実現できて初めて、経営判断としての意味を持ちます。
PMIは、その目的を実現するための経営管理です。
補助金、税制優遇、融資、助成金、認定制度は、PMIを進めるうえで有効な選択肢になり得ます。しかし、制度を使うこと自体が目的になってしまえば、統合の優先順位を誤ることになります。
PMIで大切なのは、次の順番です。
M&Aの目的を明確にする。統合課題を整理する。資金計画を作る。会計・税務処理を確認する。制度活用の可否を判断する。月次で進捗と効果を検証する。そして、金融機関や関係者に説明できる状態にする。
この流れを整えたうえで制度を使えば、補助金や税制はPMIを支える有効な手段になります。逆に、この流れがないまま制度だけを使えば、事務負担、資金繰り、証憑管理、税務処理、計画未達、実績報告の負担だけが残り、M&A後の経営をかえって重くしてしまうことがあります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&Aを成立前の判断だけで終わらせず、成立後のPMI、月次管理、資金繰り、税務処理、金融機関への説明、制度活用まで含めて整理することを重視しています。
M&A後の統合方針を数字に落とし込みたい場合、PMI推進枠や事業承継・M&A補助金の活用可否を判断したい場合、補助金・税制・融資をPMI計画にどう組み込むべきか整理したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
M&A後に慌てて制度を探すのではなく、M&Aの目的、統合課題、資金計画、月次管理を先に整えておく。それが、後悔しないPMIの出発点になります。
重要事項の振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| PMIの位置づけ | M&A成立後だけでなく、成立前・成立後継続まで含めて考える | クロージング後に考え始めると、資金・人・業務の対応が遅れる |
| M&Aの目的 | 何を実現するためのM&Aか | 目的が曖昧なまま制度を使うと、申請のための活動になる |
| PMIの3領域 | 経営統合、信頼関係構築、業務統合 | 制度活用はこの3領域のどこに効くのかを明確にする |
| プレPMI | DD結果、統合課題、資金計画、制度候補を整理する | 成立前にPMI費用と補助対象外経費を見積もる |
| 100日計画 | 推進体制、従業員説明、現状把握、月次管理を優先する | 初期対応を誤ると信頼関係の回復に時間がかかる |
| 事業承継・M&A補助金 | PMI専門家活用類型、事業統合投資類型などの活用可否 | 公募回ごとに要件・対象経費・スケジュールを確認する |
| 補助金の資金繰り | 後払い、実費弁済、証憑確認 | 補助金入金前の支払資金を確保する |
| 補助対象経費 | 必要性、事業期間内の契約・発注・支払、証拠書類 | 相見積、契約書、請求書、支払証憑の不備に注意する |
| 会計・税務 | スキーム別の会計処理、補助金収益、法人税等への影響 | 補助金収入と税負担、資金繰りをセットで見る |
| 労務・人事 | 給与、賞与、労働時間、規程、教育訓練 | 制度要件より従業員との信頼関係を優先する |
| 設備・システム投資 | 投資目的、投資回収、現場負担、固定資産管理 | 補助対象になるかより、統合効果を説明できるかを見る |
| 月次管理 | 売上、粗利、資金繰り、KPI、PMI費用を毎月確認する | M&A後の成果を金融機関や社内に説明できる状態にする |
| 金融機関説明 | 返済原資、PMI進捗、補助金入金予定、追加資金の有無 | 後追い資料ではなく、月次管理をそのまま説明資料にする |
| 使わない判断 | 資金不足、証憑管理不足、制度対応負担、目的不一致 | 制度を使わない方がPMIが進む場合もある |
| 専門家相談 | PMI計画、補助金、税務、会計、資金繰り、金融機関対応 | M&A成立前から相談すると、制度と統合計画を接続しやすい |