会計不正の兆候と税務調査上の確認ポイント|粉飾・資産流用を見抜くための実務判断

会計不正というものは、発覚した時点ですでに大きな問題へと育っていることが少なくありません。

売上が実態より大きく見えていた。利益が本来よりも良く見えていた。在庫や売掛金が過大に計上されていた。外注費や手数料の中に、実態のない支出が紛れ込んでいた。あるいは、役員や従業員による資産の流用が、別の勘定科目に隠れていた。

こうした問題は、会計上の訂正だけで片づくものではありません。税務調査の場面では、申告所得、消費税、源泉所得税、役員給与、交際費、寄附金、使途秘匿金、重加算税、質問応答記録書、そして不服申立てにまで影響が広がっていくことがあります。

実務として難しいのは、会計不正が「明らかな不正」として最初から姿を現すことがほとんどない点です。多くの場合、まず目に入るのは、数字の違和感、証憑の不備、特定の担当者への過度な依存、説明の曖昧さ、期末処理の不自然さといった、ごく小さな兆候にすぎません。

会計不正は、大きく粉飾決算と資産の流用に分けて考えられます。ただし実務では、両者が重なり合うことも珍しくありません。粉飾決算の背後に資産流用が潜んでいることもあれば、逆に、資産流用を覆い隠すために粉飾的な会計処理が行われることもあります。

本稿では、会計不正の兆候を税務調査対応の観点から整理し、どのような資料・事実・税務論点を確認しておくべきかを解説します。

目次

会計不正の兆候は「不正を見つけるリスト」ではなく「説明が弱い場所」を探す視点

会計不正の兆候というと、チェックリストのようなものを思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし実務では、「この項目に当てはまれば不正だ」と単純に割り切れるものではありません。売上が急増していても、実際に事業が伸びているケースはあります。在庫が増えていても、季節要因や大型案件の準備にすぎないこともあります。外注費が増えていたとしても、内製から外注へと業務体制を切り替えただけ、ということもあるでしょう。

ここで大切なのは、異常値そのものではなく、その異常値を説明できる事実と資料がそろっているかどうかです。

税務調査においても、調査官が見ているのは「数字が変わっていること」だけではありません。その数字が、取引実態、証憑、入出金、社内承認、契約、相手先の資料と整合しているかどうかを確認していきます。

つまり、会計不正の兆候を見るときの基本姿勢は、次のように整理できます。

  • 数字の動きに、合理的な説明があるか
  • その説明を裏づける資料があるか
  • 資料同士に矛盾がないか
  • その処理を行った意思決定の経緯が残っているか
  • 担当者個人だけでなく、会社として確認・承認した形になっているか
  • 税務申告上の処理と会計上の処理が整合しているか

兆候を把握する目的は、誰かを疑うことではありません。税務調査で「なぜその処理をしたのか」と問われたときに、会社としてきちんと説明できる状態にあるかどうかを、あらかじめ確認しておくことにあります。

会計不正が税務調査で問題になる理由

会計不正は、一見すると会計上の表示の問題にすぎないように見えます。

ところが税務調査では、その会計処理がそのまま申告所得や消費税額の計算基礎になっているため、表示の問題がそのまま税務上の問題へと直結します。

たとえば売上を架空計上していた場合、その事業年度だけを見れば、法人税を過大に申告しているように映ることがあります。しかし、架空売上に対応する架空原価や架空外注費、資金の還流、役員への流用が伴っていれば、別の年度・別の税目では過少申告になっている可能性が出てきます。

また、仮装経理に基づく過大申告は、通常の過大申告とは扱いが異なります。修正してもただちに過大納付額が全額還付されるわけではありません。法人税法上、仮装経理については特別な取扱いが設けられており、修正経理や後続年度の処理との関係を丁寧に整理する必要があります。
出典:e-Gov法令検索|法人税法
出典:国税庁|C1-54 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額・地方法人税額の還付の請求

さらに税務調査では、調査結果に非違があった場合、調査官から修正申告を勧奨されることがあります。もっとも、これに応じるかどうかは納税者の任意の判断です。修正申告をしてしまうと不服申立てはできなくなり、その後は更正の請求で対応するほかなくなります。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

会計不正がある状況で、安易に「修正申告で終わらせよう」と判断してしまうと、本来であれば争うべき事実認定や重加算税のリスクを整理できないまま、会社側が不利な前提を認めてしまう形になりかねません。

まず分けるべきは「粉飾決算」と「資産の流用」

会計不正を確認するときは、はじめに「粉飾決算」と「資産の流用」を切り分けて考えることが欠かせません。

粉飾決算とは、会社の業績や財政状態を実態より良く、あるいは都合よく見せるために、財務数値や開示を意図的に歪めるものです。売上の前倒し、架空売上、在庫の過大計上、費用や負債の計上漏れ、資産評価の過大計上などが典型例といえます。

一方の資産の流用は、会社の現金、預金、商品、固定資産、売掛金、取引上の利益などが、役員・従業員・外部者へと不正に移転していくものです。横領、架空外注費、水増し請求、キックバック、私的費用の会社負担、売上入金の着服などが問題になります。

この両者は、実務ではしばしば重なり合います。資産流用を隠すために架空の費用や貸付金が計上されることもありますし、反対に、粉飾で作り上げた架空売上に対応する入金や債権を処理していく過程で、資金循環や関係会社取引が複雑化していくこともあります。

税務調査の観点では、この分類によって、確認すべき税務論点が変わってきます。

区分主な会計上の現れ方税務調査上の主な確認点
粉飾決算売上過大、在庫過大、費用過少、資産過大仮装経理、過大申告、修正経理、減額更正、後続年度処理
資産の流用横領、私的支出、架空外注、資金還流損金性、役員賞与、貸付金、寄附金、源泉所得税、重加算税
両者の混在架空売上と資金循環、架空費用と裏金化法人税、消費税、源泉、質問応答記録書、関係者責任

この切り分けをしないまま税務署に説明してしまうと、過大申告の問題なのか、過少申告の問題なのか、担当者個人の不正なのか、それとも会社ぐるみの仮装なのかが、曖昧なままになってしまいます。

税務調査対応では、まず不正の類型を分けること。これが出発点になります。

数字に現れる会計不正の兆候

会計不正の兆候は、はじめから「不正」として現れるわけではなく、数字の不自然な動きとして表面化することが多くあります。

特に注意したいのは、次のような動きです。

  • 売上は増えているのに、入金が伴っていない
  • 利益は出ているのに、資金繰りが悪化している
  • 売上総利益率が急に改善している、あるいは急に悪化している
  • 期末月だけ、売上や利益が大きく膨らんでいる
  • 売掛金の回収期間が急に長くなっている
  • 在庫が、売上に比べて不自然に増えている
  • 仕掛品や未成工事支出金が増え続けている
  • 関係会社勘定や仮払金、貸付金、未収入金が膨らんでいる
  • 特定の外注先・紹介先・販売先との取引だけ、利益率が不自然である
  • 少額ではないのに端数のない取引や、期末直前の調整仕訳が多い

不正調査の実務では、前期比較、予算実績比較、同業他社比較、さらには財務データと運営上のデータを突き合わせる相互関連の比較などを通じて、例外的な取引や異常値を浮かび上がらせていきます。証憑の突合、関連資料のトレーシング、実地棚卸の実施や立会いといった「観察と照合」の手続は、不正調査においてとりわけ重要な意味を持ちます。

税務調査では、こうした異常値がそのまま質問の入口になります。たとえば売掛金が大きく増えていれば、調査官は「本当に売上が発生しているのか」「回収不能ではないのか」「架空売上ではないのか」と確認していきます。在庫が増えていれば、「実在するのか」「棚卸表はあるのか」「実地棚卸をしているのか」「評価減が必要ではないのか」と踏み込んでいきます。

もっとも、数字の異常それ自体が、ただちに不正を意味するわけではありません。それでも、説明のつかない異常値は、税務調査で争点化しやすい領域だと考えておくべきです。

原始資料・証憑に現れる兆候

会計不正を確認するうえでは、総勘定元帳や試算表だけを眺めていても、どうしても限界があります。

税務調査で重視されるのは、取引の基礎となる原始資料です。

特に注意しておきたい兆候は、次のとおりです。

  • 契約書が存在しない
  • 請求書はあるが、納品書・検収書・作業報告書がない
  • 原本ではなく、コピーやPDFしか残っていない
  • 手書きの加筆、訂正、差替えの痕跡がある
  • 契約日、納品日、検収日、請求日、入金日の並びが不自然である
  • 取引先の所在地、担当者、口座情報が実態と合わない
  • 請求書の様式や番号が、不自然に揃いすぎている
  • 同じ筆跡、同じフォーマット、同じ作成環境の書類が、複数社から出ている
  • 稟議書や承認記録が、後から作成されたように見える
  • 実物、役務提供、物流、作業内容を示す資料がない

不正調査で問題になりやすい異常値には、証憑書類が存在しない取引、適切な承認のない取引、期末直前の重大な調整、関係会社勘定の不一致、実地棚卸差異、原本ではなくコピー等しか入手できない事実、手書きによる加筆・削除・書換えなどがあります。

税務調査では、証憑が存在するというだけでは足りません。証憑があっても、それが取引実態を正しく表しているかどうかが問われます。

架空外注費や循環取引では、請求書、契約書、検収書、入金記録が、形式の上ではきちんとそろっていることがあります。それでも、役務提供や物の移動という裏づけがなければ、税務上は実態のない取引として否認される可能性があります。

したがって証憑の確認では、「資料があるか」ではなく、「その資料で取引実態まで説明できるか」という視点が欠かせません。

売上に関する不正の兆候

売上は、税務調査で最も確認されやすい項目です。

会計不正の場面では、売上について次のような兆候が現れます。

  • 期末直前に、大口売上が集中している
  • 検収前、納品前、役務提供前に売上を計上している
  • 売上計上後、長期間にわたり入金されていない
  • 売掛金が、翌期に返品・値引き・貸倒れ・相殺で消えている
  • 売上先と仕入先が入れ替わるような取引がある
  • 薄いマージンだけを乗せた取引が連続している
  • 物流や在庫移動の痕跡がない
  • 取引先の担当者が実在しない、あるいは説明が曖昧である
  • 契約書の締結日と、実際の取引開始日が合わない
  • 売上目標や融資条件を達成する月に、不自然な取引が集中している

架空の循環取引では、物品や役務が実在する場合もあれば、まったくの架空である場合もあります。参加企業では仕入と売上がほぼ同時に計上され、薄いマージンが乗せられることが多く、伝票操作だけで売上目標を達成する手段として使われることもあります。

税務調査上、売上に関する不正は法人税だけでなく、消費税にも影響します。架空売上を計上していた場合、課税売上として消費税を納めていることがあります。一方で、架空仕入や循環取引が絡む場合には、仕入税額控除の可否も問題になってきます。消費税では、課税仕入れ等に係る仕入税額控除について帳簿・請求書等の保存が重要であり、帳簿は法人税申告の基礎となる帳簿でも差し支えないとされています。ただし、その記載内容から取引内容等が判別できることが前提です。
出典:国税庁|第6節 仕入税額の控除に係る帳簿及び請求書等の記載事項の特例

売上の兆候を見るときは、売上計上の場面だけを切り取るのではなく、入金、債権回収、返品、値引き、消費税処理までを一連の流れとして確認していく必要があります。

費用・支出に関する不正の兆候

費用に関する会計不正は、税務調査ではとりわけ問題になりやすい領域です。

というのも、費用は法人税の損金、消費税の仕入税額控除、源泉所得税、役員給与、交際費、寄附金、使途秘匿金など、実に多くの論点へと波及していくからです。

注意したい兆候は、次のとおりです。

  • 外注費、業務委託費、紹介料、販売手数料が急増している
  • 支払先の実態が分からない
  • 契約書や成果物がない
  • 作業報告書や納品物の内容が抽象的である
  • 同じ担当者が、発注から検収、支払承認までを一人で行っている
  • 支払先と、役員・従業員との関係が不明確である
  • 請求書の内容が「一式」「調整費」「協力金」など曖昧である
  • 個人口座や関係者口座へ支払われている
  • 支払後に現金で戻っている、あるいは別経路で還流している
  • 源泉徴収が必要な報酬であるのに、処理されていない

税務調査では、費用の実在性、事業との関連性、金額の相当性、支払先、役務提供の内容、承認の過程が確認されます。

特に外注費や業務委託費については、「外注費として損金にできるか」だけでは終わりません。「給与ではないか」「源泉徴収が必要ではないか」「消費税の課税仕入れに該当するか」「架空外注ではないか」といった形で、複数の税目にまたがって確認されていきます。

支払の実態を説明できない場合、法人税では損金否認、消費税では仕入税額控除の否認、所得税では源泉徴収漏れ、さらには役員や従業員への利益供与として給与・賞与認定、そして場合によっては重加算税の問題へと発展していきます。

在庫・固定資産・評価に関する兆候

会計不正は、売上や費用だけでなく、資産勘定にも現れます。

なかでも、在庫、仕掛品、固定資産、ソフトウェア、前払費用、貸付金、未収入金、仮払金、関係会社勘定には注意が必要です。

主な兆候は、次のとおりです。

  • 在庫が、売上や原価に比べて不自然に増えている
  • 実地棚卸の記録がない、あるいは棚卸差異が説明されていない
  • 古い在庫や滞留在庫が、評価減されていない
  • 仕掛品や未成工事支出金が、長期間そのまま残っている
  • 本来は費用処理すべき支出が、資産計上されている
  • 固定資産台帳に記載があるのに、実物が存在しない
  • 除却済みのはずの資産が、台帳に残っている
  • 仮払金や貸付金が、長期間精算されていない
  • 関係会社への貸付金や未収金に、回収可能性がない
  • 資産評価の根拠が、担当者の説明だけになっている

在庫の過大計上や評価の誤りは、利益を大きく見せるために使われることがあります。その一方で、税務調査では、棚卸計上漏れや原価の付替え、期末処理の誤りとして、過少申告側の論点になることもあります。

ここで押さえておきたいのは、資産勘定に現れる兆候が「粉飾」だけを意味するわけではない、ということです。在庫が過大であれば、表面上は過大申告に見えることがあります。しかし、同時に架空仕入、原価操作、消費税、関係会社取引が絡んでいれば、まったく別の税務リスクが生じてきます。

資産勘定の確認では、「帳簿上の残高」と「実物・権利・回収可能性・評価根拠」が一致しているかどうかを、ひとつずつ確かめていく必要があります。

内部統制・担当者依存に現れる兆候

会計不正は、数字や証憑だけでなく、組織の仕組みそのものにも兆候を残します。

典型的には、次のような状態です。

  • 特定の担当者しか、取引の内容を把握していない
  • 同じ担当者が、長期間にわたって同じ業務を担当し続けている
  • 担当者の異動・休職・退職をきっかけに、処理が止まってしまう
  • 発注、検収、請求確認、支払承認が分離されていない
  • 上席者が内容を確認せず、形式的に承認している
  • 経営者が決算数値だけを先に決め、処理は担当者任せになっている
  • 月次決算が遅く、決算時にまとめて調整している
  • 取引先マスターや振込口座の変更に、チェックが入らない
  • 内部通報や違和感の報告があっても、放置されている
  • 税理士・会計士への資料共有が、限定的になっている

会計不正は、取引スキームを熟知している人物が、内部統制の欠陥を突いて行うことが少なくありません。そして、その実行者が社内で信頼され、長期間同じ業務を担当し、ローテーションやモニタリングが行われていない、というケースもしばしば見られます。

税務調査では、内部統制そのものを監査するわけではありません。それでも、内部統制の弱さは、税務上の事実認定に影響を及ぼします。

たとえば、担当者だけが処理していて承認記録が残っていない場合、会社としてその取引をどこまで認識していたのかが問題になります。役員が関与していたのであれば、会社の行為として隠蔽・仮装が認定される方向に働くことがあります。逆に、たとえ担当者個人の不正であったとしても、会社がどの時点でそれを把握し、どのように是正したのかが問われます。

「担当者がやったことなので、会社は知らない」。この説明だけで、税務調査を乗り切れるとは限りません。会社としての管理体制、承認の過程、発覚後の対応まで、あわせて確認されることになります。

税務調査で確認される主なポイント

会計不正の兆候がある場合、税務調査では、会計処理の正誤を見るだけでは終わりません。課税要件に該当する事実を証拠で確認し、そこに税法を適用していく作業が行われます。質問応答記録書も、納税者等の答述を証拠化する文書として、この過程に位置づけられます。

確認される主なポイントは、次のとおりです。

取引は実在するか

契約、納品、検収、役務提供、物流、入出金、相手先での処理が確認されます。請求書があるというだけでは足りません。その請求書が、実際の物やサービスの移転を表しているかどうかが問われます。

会計処理と税務処理は整合しているか

売上計上、原価計上、在庫計上、固定資産計上、費用処理、貸付金処理などについて、会計上の処理と法人税申告書上の調整が一致しているかが確認されます。粉飾決算がある場合には、過大申告の部分と過少申告の部分を分けて整理する必要があります。

消費税に波及しないか

架空売上、架空仕入、外注費、輸出入、インボイスの不備、課税区分の誤りがある場合、消費税に影響します。消費税は、形式的な書類だけでなく、取引実態と帳簿・請求書の保存の両方が重要になります。

源泉所得税に波及しないか

外注費として処理していた支払いが、実質的に給与や報酬であれば、源泉徴収漏れが問題になります。役員や従業員への利益供与、架空給与、横領後の処理なども、源泉所得税に波及することがあります。

役員・従業員・関係会社への利益移転がないか

私的費用、役員貸付金、認定賞与、寄附金、関係会社への支援、資金還流、キックバックなどが確認されます。支出先が会社の外部であっても、実質的に役員や従業員へ利益が戻っているのであれば、税務上の評価は変わってきます。

重加算税の要件に関わる事実があるか

重加算税は、単なる誤りに対して課されるものではなく、隠蔽・仮装と評価される事実があるかどうかが問題になります。国税通則法上も、過少申告加算税等に代えて重加算税が課される制度が定められています。
出典:e-Gov法令検索|国税通則法

ただし、誤りがあれば直ちに重加算税、というわけではありません。重加算税を巡る裁判例・裁決例では、単なる申告漏れ、認識違い、時期の誤り、税理士や担当者の行為と納税者本人の認識といった事情が、細かく検討されています。

質問応答記録書が作成される場合の注意点

会計不正が疑われる調査では、質問応答記録書が作成されることがあります。

この場合には、特に慎重な対応が求められます。

質問応答記録書は、調査官が納税者や関係者から聴取した内容を記録する文書です。会計不正の調査では、誰が、いつ、どのような認識で、どの資料に基づいて処理したのかが問われていきます。

そして、この記録書は、重加算税の証拠として利用されることがあります。調査官は、隠蔽・仮装に係る取引そのものだけでなく、そこに至るまでの経緯やストーリーを明確にしようとすることがあります。

会計不正に関する質問では、次のような点が聞かれやすくなります。

  • 誰がその取引を指示したか
  • なぜ期末に処理したのか
  • 実際に納品や役務提供を確認したか
  • 証憑はいつ、誰が作成したか
  • 取引先とどのような関係があるか
  • 入金や支払の流れを把握していたか
  • 売上目標、融資、業績評価との関係はあるか
  • 過年度から、同様の処理をしていたか
  • 税理士や会計士に、どこまで説明していたか

ここで大切なのは、事実を隠すことではありません。むしろ、資料を確認する前に、曖昧な記憶で断定してしまわないことです。

「おそらくそうです」「多分、決算対策です」「担当者に任せていました」「資料は後で整えました」——こうした発言は、文脈によっては不利な事実認定へとつながることがあります。

質問応答記録書が作成される場面では、事前に資料、時系列、関係者、会計処理、税務上の影響を整理し、確認できることと確認できないことを切り分けたうえで説明することが重要になります。

会計不正の兆候を見つけたときに、してはいけない対応

会計不正の兆候が見つかったとき、焦って動くと、かえって税務調査上のリスクを高めてしまうことがあります。

特に避けるべき対応は、次のとおりです。

  • 証憑を後から作り直す
  • 契約書の日付を、過去に合わせて書き換える
  • 取引先に、口裏合わせのような連絡をする
  • 社内メールや資料を削除する
  • 担当者だけで事実確認を済ませてしまう
  • 税務署に説明する前に、資料の整合性を確認しない
  • 過大申告か過少申告かを分けないまま、修正申告する
  • 重加算税の可能性を検討せずに、指摘を認めてしまう
  • 会計上の訂正と税務上の処理を、別々に進めてしまう
  • 金融機関や株主向けの説明と、税務署向けの説明が矛盾している

不正の疑いがある場合には、まず証拠の保全が必要です。請求書、契約書、納品書、検収書、通帳、振込データ、メール、チャット、稟議、議事録、会計システムのログ、取引先マスター、在庫データ、棚卸資料などを保全し、後から変更・削除されたと疑われないようにしておくことが大切です。

不正調査や税務調査の対応で必要なのは、最初に「正解」を決めてしまうことではありません。事実を壊さず、証拠を失わず、説明可能な形に整理していくこと。ここに尽きます。

税務調査前に行うべき自己点検

会計不正の兆候がある場合、税務調査の前に、最低限確認しておくべき事項があります。

点検項目確認する内容
対象年度どの事業年度・課税期間に影響するか
対象税目法人税、消費税、源泉所得税、地方税に波及するか
対象勘定科目売上、仕入、外注費、在庫、固定資産、仮払金、貸付金等
取引実態物・役務・資金・契約・承認が存在するか
証憑契約書、請求書、納品書、検収書、作業報告書、入出金資料
関係者指示者、実行者、承認者、確認者、取引先担当者
税務影響過大申告、過少申告、仕入税額控除、源泉、加算税
会計処理修正経理、過年度修正、後続年度処理との整合性
外部説明金融機関、株主、M&A相手方、取引先への説明との整合性
今後の対応修正申告、更正の請求、不服申立て、再発防止策

この自己点検で大切なのは、税額だけを急いで計算しようとしないことです。

税額計算が重要であることは言うまでもありません。ただ、その前に、どの事実を前提にして計算するのかを確定させておく必要があります。事実関係が曖昧なまま税額だけを算出してしまうと、後になって説明が崩れてしまいます。

会計不正の兆候はM&A・承継・資金調達にも影響する

会計不正の兆候は、税務調査だけにとどまる問題ではありません。

金融機関対応、M&A、事業承継、株主説明、役員責任、従業員管理にまで影響が及びます。

財務・税務デューデリジェンスでは、過去の税務調査の実施状況、指摘事項、修正申告書、更正通知書、税務リスクが確認されることがあります。さらに不正リスクは、財務数値への影響だけでなく、レピュテーションや事業価値にも波及するため、財務・税務DDの観点でも重要なテーマになります。

つまり、会計不正の兆候を放置することは、税務署への対応を難しくするだけでは済みません。将来の資金調達、会社の売却、事業承継、金融機関との関係、取引先との信用にまで影響していきます。

税務調査対応を、その場限りの防御で終わらせない。会社の数字を「外部に説明できる状態」へと整えておくことが、結局は会社を守ることにつながります。

税理士・会計士に相談すべきタイミング

会計不正の兆候がある場合、税理士・会計士への相談は、早ければ早いほど整理がしやすくなります。

特に、次のような状況では、調査通知の有無にかかわらず、早めにご相談いただくことをおすすめします。

  • 売上、在庫、外注費、仮払金、貸付金などに、説明のつかない残高がある
  • 過去の決算で、粉飾的な処理をしていた可能性がある
  • 担当者不正、横領、キックバックの疑いがある
  • 税務調査で、特定の取引について質問を受けている
  • 質問応答記録書の作成を求められそうである
  • 修正申告を勧奨されているが、事実認定に納得できない
  • 重加算税の可能性を示唆されている
  • 会計上の訂正と税務上の処理を、どう整合させるべきか分からない
  • 金融機関や株主に、説明する必要がある
  • 調査後に、再発防止の仕組みを整えたい

専門家の役割は、税務署とのやり取りを代行することだけではありません。事実を整理し、資料を確認し、会計処理と税務処理をつなぎ、税務調査上の争点を見立てたうえで、修正申告・更正の請求・不服申立て・再発防止のうち、どの選択肢を検討すべきかを整理していくことにあります。

会計不正が疑われる場面では、会社側だけで判断してしまうと、証拠の保全、発言の整理、修正申告の範囲、重加算税の争点を見落としてしまうことがあります。

会計不正の兆候がある場合は、まず事実と資料を整理する

会計不正の兆候が見つかったとき、最初に行うべきことは、誰かを責めることでも、すぐに税額を計算することでもありません。

まずは、事実と資料を整理することです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査対応を、単なる税務署対応としてではなく、会計処理、取引実態、証拠資料、税務上の評価、修正申告の判断、重加算税のリスク、そして調査後の体制改善までを含めて整理してまいります。

売上、在庫、外注費、仮払金、関係会社取引、役員・従業員による資金流用などに違和感がある場合、あるいは税務調査で会計不正に近い論点を指摘されている場合には、どうか早い段階でご相談ください。

現在お手元にある資料、調査官からの指摘内容、社内で確認できている事実関係を整理したうえで、お問い合わせページからご相談いただけます。

重要ポイントの振り返り

論点実務上の確認ポイント
会計不正の兆候数字の異常そのものではなく、説明できない異常値を確認する
粉飾決算と資産流用両者は重なることがあり、税務上の影響を分けて整理する
売上不正契約、納品、検収、入金、物流、取引先処理との整合性を見る
費用不正外注費、手数料、紹介料、個人口座、資金還流、源泉徴収を確認する
在庫・資産実在性、評価、棚卸記録、滞留、後続年度処理を確認する
内部統制担当者依存、承認不足、職務分掌不備、管理者不在が兆候になる
証憑不備原本、作成日、加筆修正、承認、成果物、入出金との整合性を確認する
税務調査対応法人税だけでなく、消費税、源泉所得税、重加算税に波及する
質問応答記録書曖昧な記憶で断定せず、資料確認後に事実を整理して対応する
専門家相談早期に事実、証拠、会計処理、税務判断を整理することが重要

出典・参考情報

出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」
出典:日本公認会計士協会|監査実務指針等
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:e-Gov法令検索|法人税法
出典:e-Gov法令検索|国税通則法
出典:国税庁|C1-54 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額・地方法人税額の還付の請求
出典:国税庁|第6節 仕入税額の控除に係る帳簿及び請求書等の記載事項の特例

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