グループ会社間の取引は、社内的にはどうしても「同じグループ内での移動」として扱われがちです。親会社から子会社へ不動産を移す、子会社同士で設備を譲渡する、赤字の子会社を支援する、子会社の債務を免除する、グループ内で配当を行う、子会社株式を整理する——いずれも、経営判断としては自然に見える場面でしょう。
ただ、法人税務の観点からは、「グループ内だから自由に処理できる」という単純な話にはなりません。
とりわけ、完全支配関係にある法人の間で行う取引には、グループ法人税制によって、通常の第三者間取引とは異なる調整が入ります。会計上は譲渡益や譲渡損を認識していても、税務上はそれを繰り延べる。寄附金として整理される場合にも、支出側・受領側・株主側のそれぞれで特別な調整が必要になる。受取配当についても、通常の配当とは異なる益金不算入の取扱いを検討することになる。こうした論点が、次々と姿を現します。
本記事では、グループ通算制度の詳細な計算にまでは踏み込みません。100%グループ内で取引を行う際に、まず押さえておきたい「完全支配関係法人間取引とグループ法人税制」の全体像を整理していきます。
グループ法人税制は「選択する制度」ではなく、取引ごとに適用される制度である
グループ会社がある場合に、まず区別しておきたいのが、グループ法人税制とグループ通算制度の違いです。
グループ通算制度は、一定の完全支配関係にある企業グループが、承認を受けたうえで適用する制度です。適用にあたっては、グループ内の各法人をそれぞれ納税単位とし、各法人が個別に法人税額の計算と申告を行いながら、その中で損益通算等の調整を行っていきます。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要
一方でグループ法人税制は、制度を採用するかどうかを選ぶものではありません。一定の完全支配関係にある法人の間で特定の取引を行えば、その取引ごとに法人税上の調整が問題になる、という性質のものです。
そのため、グループ通算制度を採用していない会社であっても、100%グループ内で資産譲渡・寄附・債権放棄・配当・現物分配・株式取引などを行えば、グループ法人税制の確認が欠かせません。
グループ法人税制については、平成22年度税制改正の際に、完全支配関係、受取配当等の益金不算入、寄附修正、グループ法人間の資産譲渡、現物分配による資産の譲渡といった論点が、質疑応答事例として整理されました。これらは平成22年6月30日現在の法令・通達を前提とした内容ですが、制度の基本構造をつかむうえでは、今の実務においても重要な出発点になります。
出典:国税庁|平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)(情報)
完全支配関係とは何か
グループ法人税制を検討するうえでの入口は、「完全支配関係」があるかどうかにあります。
完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する一定の関係、あるいは、一の者との間にそうした関係がある法人相互の関係をいいます。
出典:国税庁|完全支配関係と通算完全支配関係の意義
ここで押さえておきたいのは、「直接100%保有しているかどうか」だけを見ていては足りない、という点です。
親会社が子会社を100%保有しているケースはもちろんですが、親会社が子会社を通じて孫会社を100%保有しているケース、同一の親会社に100%保有されている兄弟会社どうしのケースなども、完全支配関係に該当し得ます。
また、完全支配関係の判定にあたっては、自己株式、従業員持株会、新株予約権、名義株、間接保有関係などが問題になることがあります。形式的な株主名簿だけでは判断しきれない場合もあるため、実際の権利者、持株関係、議決権関係まで整理しておく必要があります。名義株がある場合には、名簿上の名義ではなく、実際の権利者が株式等を保有しているものとして完全支配関係を判定する、という考え方が採られています。
出典:国税庁|平成22年6月30日付課法2-1ほか1課共同『法人税基本通達等の一部改正について』の趣旨説明
実務上は、次のような資料を確認しないまま、グループ法人税制の判断に入るべきではありません。
- 最新の株主名簿
- 出資関係図
- 自己株式の有無
- 新株予約権、種類株式、従業員持株会の有無
- 議決権制限株式の有無
- 名義株や実質株主の有無
- 外国法人、公益法人、個人株主が介在していないか
- 取引時点で完全支配関係が存在していたか
完全支配関係の判定は、単なる形式的な確認作業ではありません。その後の譲渡損益、寄附金、受贈益、配当、株式簿価、さらには将来の再編やM&Aにまで影響を及ぼす、いわば基礎となる判断です。
「完全支配関係」と「法人による完全支配関係」は分けて考える
グループ法人税制を理解するうえで注意しておきたいのが、完全支配関係の中でも「法人による完全支配関係」に限って適用される制度がある、という点です。
とりわけ、完全支配関係法人間における寄附金・受贈益の取扱いは、この「法人による完全支配関係」がある場合に問題となります。
たとえば、同族のオーナー個人が複数の会社を100%支配しているような場合、法人税法上の完全支配関係には該当し得ます。しかし、寄附金・受贈益の全額損金不算入・益金不算入の取扱いまでが、当然に同じように適用されるとは限りません。支配している「一の者」が法人なのか個人なのかによって、適用関係が変わってくる可能性があるのです。
内国法人が他の内国法人に寄附金を支出した場合、その両者に、法人に限られる「一の者」による完全支配関係があるときには、法人税法37条2項に定める、完全支配関係がある法人間の寄附金の損金不算入の規定が適用されます。
出典:国税庁|第2款 完全支配関係がある法人間の寄附金
この点は、中小・中堅企業の同族グループにおいては、とりわけ重要になります。
オーナー個人が複数社を支配しているのか、それとも持株会社が各社を支配しているのか。親会社が100%支配しているのか、あるいは親族間で株式が分散しているのか。こうした資本関係の組み方いかんで、グループ法人税制の適用関係が変わってくることがあります。
したがって、関係会社間の取引を検討する際には、「100%グループ内なのだから同じだろう」と一括りにせず、それぞれの規定が、どの種類の完全支配関係を前提としているのかを確認しておく必要があります。
完全支配関係法人間の資産譲渡では、譲渡損益が繰り延べられることがある
グループ法人税制の中でも、実務上とりわけ重要になるのが、完全支配関係法人間の資産譲渡に係る譲渡損益調整です。
内国法人が、完全支配関係にある他の内国法人へ譲渡損益調整資産を譲渡した場合、その譲渡利益額または譲渡損失額は、一定の方法によって繰り延べられます。通算完全支配関係も完全支配関係に含まれますから、通算グループ内の法人間で譲渡損益調整資産を譲渡したときにも、譲渡利益額または譲渡損失額に相当する金額は譲渡事業年度で損金または益金に算入され、結果として譲渡損益が繰り延べられることになります。
出典:国税庁|通算グループ内の法人の間の取引の損益調整
ここでいう譲渡損益調整資産には、固定資産、土地等、有価証券、金銭債権、繰延資産などが含まれます。ただし、売買目的有価証券や、譲受法人において売買目的有価証券とされる有価証券、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円未満の資産などは、一定の場合を除いて対象から外れます。
出典:国税庁|通算グループ内の法人の間の取引の損益調整
実務上の感覚としては、「100%グループ内で資産を移したときには、税務上はその時点で譲渡益・譲渡損を確定させず、将来の一定の時点まで繰り延べる」と理解しておくと、イメージがつかみやすいと思います。
ただし、誤解してはならないのは、税務上「譲渡そのものがなかったことになる」わけではない、という点です。
会計上は資産を譲渡し、売却損益を認識することになる場合があります。契約書のうえでも、売買や現物出資、非適格合併等による移転として整理されることがあるでしょう。そのうえで、税務上は譲渡損益調整として、別表四や別表五(一)などで調整を行う必要があります。
整理すれば、完全支配関係がある法人間で、譲渡損益調整資産——固定資産、棚卸資産である土地等、有価証券、金銭債権、繰延資産のうち、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上のもの——を譲渡した場合には、その譲渡損益は繰り延べる、ということになります。
譲渡損益は「消える」のではなく「追跡管理する」
譲渡損益調整で最も大切なのは、いったん繰り延べた譲渡損益を、その後も継続して管理し続けることです。
完全支配関係法人間で資産を譲渡した時点では、譲渡益または譲渡損が税務上繰り延べられます。しかし、その後にその資産が再譲渡された場合や、譲受法人で償却・評価替え・貸倒れ・除却などが行われた場合、あるいは譲渡法人と譲受法人との間の完全支配関係がなくなった場合などには、繰り延べていた譲渡損益の戻入れを検討しなければなりません。
具体的には、譲受法人が完全支配関係グループ内の別の法人へ譲渡損益調整資産をさらに譲渡したとき、グループ外の第三者へ譲渡したとき、譲受法人で償却・評価換え・貸倒れ・除却などが行われたとき、あるいは譲渡法人が譲受法人との完全支配関係を有しないこととなったときなどに、繰り延べていた譲渡損益の戻入れが生じます。
出典:国税庁|通算グループ内の法人の間の取引の損益調整
ここで見落とされやすいのが、「再譲渡先がグループ外である場合だけが問題になる」とは限らない、という点です。
譲受法人が、同じ完全支配関係グループ内の別法人へ再譲渡した場合であっても、原則として戻入れの検討が必要になることがあります。通算制度における一定の通算法人株式の譲渡など、特別な取扱いが認められる場合は別として、グループ内で資産を移し続けさえすれば、いつまでも譲渡損益が固定的に繰り延べられ続ける——そうした単純な制度ではないのです。
そのため、完全支配関係法人間で資産の移転を行った場合には、譲渡時点の税務調整だけで終わらせず、次のような事項を継続的に管理していく必要があります。
- 譲渡法人
- 譲受法人
- 譲渡資産の内容
- 譲渡時の帳簿価額
- 譲渡時の時価
- 会計上の譲渡損益
- 税務上の譲渡損益調整額
- 別表四・別表五(一)の処理
- 譲受法人側の取得価額、償却、除却、評価替え
- その後の再譲渡、組織再編、グループ離脱
- 完全支配関係がなくなる予定の有無
譲渡損益調整は、取引時点の処理だけで完結するものではなく、取引後の追跡管理までを含んだ制度だと捉えておくべきでしょう。将来のM&Aや子会社売却、清算、組織再編が予定されている場合には、過去の譲渡損益調整が、思わぬ形で表面化してくることがあります。
簿価で売れば安全、とは限らない
完全支配関係法人間の資産譲渡について、よく見受けられる誤解があります。「グループ内なのだから、簿価で移しておけば税務上も問題ない」という考え方です。しかし、この理解は危ういものです。
完全支配関係法人間の譲渡損益調整は、「時価を確認しなくてよい制度」ではないからです。税務上は、あくまで譲渡損益をいったん計算したうえで、その譲渡損益を繰り延べる、という構造をとっています。
譲渡損益調整額を計算する際の「原価の額」とは、譲渡損益調整資産の譲渡直前の帳簿価額を指します。不動産売買や有価証券譲渡に係る手数料のように、譲渡に付随して発生する費用は、この「原価の額」には含まれません。
出典:国税庁|第12章の4 完全支配関係がある法人の間の取引の損益
つまり譲渡損益を計算するには、少なくとも、譲渡対価、譲渡直前の帳簿価額、譲渡資産の時価、そして付随費用の取扱いを、それぞれ区別して整理しておく必要があるということです。
たとえば、含み益のある不動産を簿価でグループ会社へ譲渡したとします。会計上も契約上も簿価での譲渡として処理されていたとしても、税務上は「時価との差額」が問題になります。この場合、譲渡損益調整の対象となる譲渡益部分、低額譲渡に伴う寄附金・受贈益部分、そして将来の戻入れ管理を、それぞれ切り分けて考えなければなりません。
したがって、完全支配関係法人間で資産を移転する際には、次のような点を資料として残しておくことが必要になります。
- なぜその法人へ資産を移すのか
- なぜその時期に移すのか
- 譲渡対価はどのように決めたのか
- 時価をどのように確認したのか
- 簿価譲渡とする合理的理由は何か
- 譲渡損益調整の対象資産に該当するか
- 寄附金・受贈益の論点がないか
- 将来の再譲渡、売却、清算、再編予定がないか
「グループ内で完結しているから問題にならない」のではありません。むしろ「グループ内で価格を自由に決められるからこそ、後から説明できる根拠が必要になる」と考えておくべきです。
寄附金・受贈益は、支出側だけでなく受領側・株主側まで見る
グループ会社間で特に問題になりやすいのが、寄附金・受贈益です。親会社が子会社の費用を負担する、赤字の子会社の債務を免除する、子会社の損失を補填する、グループ会社間で無償または低額で役務を提供する、子会社へ資金を支援する——。
これらは、経営の視点からは「グループ会社への支援」として合理的に映ることがあります。ただ、法人税務の観点では、その支援が支出法人の事業にとって必要なものなのか、対価性があるのか、損失負担として合理性があるのか、あるいは寄附金に該当するのか——といった点を、一つひとつ検討する必要があります。
平成22年度の税制改正では、内国法人が、その法人との間に完全支配関係——ただし法人による完全支配関係に限られます——がある他の内国法人に対して寄附金を支出した場合、その全額を損金不算入とし、あわせて、受け取った側の他の内国法人における受贈益の額についても、その全額を益金不算入とする制度が設けられました。
出典:国税庁|平成22年6月30日付課法2-1ほか1課共同『法人税基本通達等の一部改正について』の趣旨説明
この制度がねらいとしているのは、100%グループ内部での寄附・受贈について、グループ内で課税関係を生じさせないように調整することです。
ただし実務では、次のような点で判断を誤りやすくなります。
- そもそも寄附金に該当するのか
- 損失負担金や再建支援として合理性があるのか
- 法人による完全支配関係に該当するのか
- 受贈益の益金不算入の対象になる金額か
- 支出側の寄附金全額損金不算入と受領側の受贈益益金不算入が対応しているか
- 株主側の寄附修正が必要か
- 資本関係が個人支配か法人支配か
- 海外子会社への支援で移転価格・国外関連者寄附金の論点がないか
とりわけ、「寄附金なのだから支出側で損金不算入、受領側で益金不算入」とだけ考えてしまうのは不十分です。そもそも寄附金に該当するかどうかという前の段階で、事業上の必要性、経済合理性、支援先の再建可能性、支援内容と金額の妥当性、そして社内の意思決定資料が問われることになります。
寄附修正は、将来の株式譲渡・清算・再編に効いてくる
完全支配関係法人間の寄附では、寄附をした法人と寄附を受けた法人だけを見ていればよい、というわけではありません。ここで重要になるのが、株主側の「寄附修正」です。
グループ内で寄附金・受贈益が生じた場合、親法人などの株主側では、寄附をした法人の株式帳簿価額を減額し、寄附を受けた法人の株式帳簿価額を増額するといった調整が必要になることがあります。
寄附修正事由が生じた場合には、完全支配関係がある法人の株式等について、利益積立金額および株式等の帳簿価額を調整することになります。
出典:国税庁|問7 寄附修正事由が生じた場合の株主の処理
この寄附修正は、取引の時点では目立ちにくい論点です。というのも、資金の支出や債権放棄は、一見すると、寄附をした法人と寄附を受けた法人との間だけで完結しているように見えるからです。
しかし、将来において次のような取引を行うとき、この株式帳簿価額の調整漏れが問題として浮かび上がってきます。
- 子会社株式を譲渡する
- 子会社を清算する
- 子会社を合併する
- グループ再編を行う
- M&Aで対象会社株式を売却する
- 持株会社体制を見直す
- 事業承継で株式評価・株式移転を行う
寄附修正を正しく行っていないと、将来の株式譲渡損益、子会社清算時の処理、M&Aデューデリジェンスでの指摘、そして別表五(一)における利益積立金額の管理にまで影響が及びます。
グループ内での支援は、支援を行ったその期だけで完結するものではありません。株式簿価と利益積立金額を通じて、将来にまで影響を残す可能性があるのです。
受取配当は「配当だから同じ」ではない
完全支配関係にある法人の間では、配当の取扱いもまた重要になります。
内国法人が他の内国法人から配当等を受け取る場合には、受取配当等の益金不算入制度を検討することになります。完全子法人株式等に係る配当等については、通常、負債利子の控除を行うことなく、その全額が益金不算入となる取扱いが問題になります。
仮に、株式等の全部を直接または間接に保有しているわけではない他の内国法人から配当等を受け取った場合であっても、保有している株式等が法人税法施行令22条の2の要件を満たしているときには、その配当等は完全子法人株式等に係る配当等の額に該当します。
出典:国税庁|第1節 受取配当等の益金不算入
実務上ここで確認しておきたいのは、単に「100%子会社からの配当かどうか」だけではありません。
- 配当を支払う法人は内国法人か
- 配当等の計算期間を通じて完全支配関係があるか
- 直接保有か、間接保有か
- 完全子法人株式等、関連法人株式等、その他株式等、非支配目的株式等のいずれか
- 自己株式取得が予定されている株式に係る配当ではないか
- みなし配当に該当する取引ではないか
- 源泉所得税の取扱いを別途確認しているか
- 別表八(一)の記載が適切か
配当は、資金を親会社へ移すための手段として用いられることがあります。しかし配当は、法人税だけの問題ではありません。会社法上の分配可能額、源泉所得税、株主課税、みなし配当、さらには資本政策にまで関わってきます。
とりわけ、自己株式の取得、資本の払戻し、合併、分割型分割、解散に伴う残余財産の分配などは、形式のうえでは通常の配当でなくても、税務上はみなし配当が問題になることがあります。この論点は、本来であれば資本等取引・みなし配当というテーマで掘り下げるべきものですが、グループ法人税制を扱うこの段階でも、配当と資本取引を混同しない視点は欠かせません。
株式取引では、株式譲渡損益・みなし配当・株式簿価を同時に見る
完全支配関係法人間の取引では、株式に関する取引にも注意が必要です。グループ内で子会社株式を譲渡する、兄弟会社間で子会社株式を移す、完全子法人を清算する、子会社を合併する、自己株式の取得を行う、株式交換・株式移転・現物分配を行う——。
これらの取引は、単純な有価証券の売却として処理できるとは限りません。
株式が譲渡損益調整資産に該当する場合には、完全支配関係法人間での譲渡損益調整が問題になります。また、完全子法人の清算や残余財産の分配においては、従来の感覚では「子会社株式消滅損」を認識できそうに見える場面であっても、グループ法人税制が導入された後は、損金算入が認められない取扱いとなる場合があります。
完全支配関係がある法人間の取引については譲渡損益を認識しないこととされているため、たとえ残余財産が確定し、出資金の回収が不能となった場合であっても、完全子法人株式の回収不能分を株式消滅損として損金に算入することはできません。
株式取引にあたって確認しておくべきなのは、少なくとも次のような点です。
- 譲渡対象株式の発行法人はどこか
- 譲渡法人と譲受法人の間に完全支配関係があるか
- 譲渡直前の株式帳簿価額はいくらか
- 時価はいくらか
- 譲渡損益調整資産に該当するか
- 自己株式取得、みなし配当、資本払戻しに該当しないか
- 過去の寄附修正により株式簿価が調整されていないか
- 過去のグループ通算制度、組織再編、現物分配の影響がないか
- 将来の子会社売却・清算・合併予定があるか
株式は、単なる投資資産ではありません。グループ法人税制のもとでは、株式簿価が、将来の譲渡損益、清算損益、再編税務、そしてM&Aの価格交渉にまで直結してきます。
そのため、グループ内で株式を移す際には、会計上の仕訳だけでなく、法人税申告書、別表五(一)、株主名簿、資本等の額、利益積立金額、そして過去の寄附修正の履歴まで確認しておく必要があります。
低額譲渡・無償譲渡では、譲渡損益調整と寄附金を分けて考える
完全支配関係法人間で資産を低額または無償で移転する場合、検討すべき論点は一つではありません。
まず、資産を時価で譲渡したものとして、譲渡損益を考える必要があります。次に、時価と実際の対価との差額について、寄附金・受贈益の論点を検討します。さらに、その寄附金・受贈益に関して、法人による完全支配関係がある場合には、寄附金の全額損金不算入、受贈益の益金不算入、そして寄附修正の論点が生じてきます。
ここで大切なのは、譲渡損益調整と寄附金・受贈益とでは、その役割が異なるという点です。
譲渡損益調整は、資産そのものが抱える含み益・含み損に関する課税の繰延べです。一方の寄附金・受贈益は、対価と時価との差額、すなわち経済的利益の供与に関する調整です。
この二つを混同してしまうと、別表処理、株式簿価、利益積立金額、そして将来の戻入れに誤りが生じることになります。
低額譲渡や無償譲渡を行う場合には、次のような順番で検討していくと、整理しやすくなります。
はじめに、その取引が本当に譲渡なのか、それとも現物分配、資本取引、組織再編のいずれに当たるのかを確認します。
次に、譲渡の対象となる資産が、譲渡損益調整資産に該当するかどうかを確認します。
そのうえで、譲渡時の時価、帳簿価額、実際の譲渡対価を整理し、譲渡損益部分と経済的利益の供与部分とを分けていきます。
最後に、寄附金・受贈益、寄附修正、別表処理、将来の戻入れ、そして会計処理との整合性を確認します。
「グループ内だから簿価で移転すればよい」「子会社の支援だから寄附金として処理しておけばよい」と安易に片づけてしまうと、将来の税務調査やM&A、承継、再編の場面で、説明が難しくなってしまいます。
会計処理と税務調整は一致しない
完全支配関係法人間の取引では、会計上の処理と税務上の所得計算とが一致しないことが、少なくありません。
会計上は、資産を売却した法人で譲渡益を計上し、譲受法人では時価または取得価額によって資産を受け入れる、という処理になることがあります。これに対して税務上は、譲渡損益調整によって、譲渡法人側で譲渡益・譲渡損を繰り延べる必要があります。
また、連結財務諸表を作成している場合には、会計上、グループ内取引として未実現損益を消去することがあります。しかし、税務上の譲渡損益調整と、会計上の連結消去とは、同じ制度ではありません。
税務の面では、単体申告、グループ法人税制、グループ通算制度、税効果会計、地方税が、それぞれ異なる層で関わってきます。
100%グループ法人間における譲渡損益調整資産の譲渡損益は、グループ通算制度と単体納税制度のいずれのもとであっても、繰り延べられることになります。
したがって、完全支配関係法人間の取引を行う場合には、次の三つを分けて管理していく必要があります。
- 会計上の仕訳
- 法人税申告上の税務調整
- 将来戻入れ・税効果会計・連結会計上の管理
会計上の損益だけを見て法人税の申告を作成してしまうと、譲渡損益調整、寄附修正、受取配当等の益金不算入、株式簿価の調整といった論点を見落としてしまうことがあります。
グループ法人税制で申告前に確認すべき取引
完全支配関係法人間の取引は、決算の時点でまとめて気づいたとしても、その頃には十分な資料が残っていない、ということがあります。
そのため、申告前のレビューにおいては、少なくとも次のような取引を棚卸ししておく必要があります。
- 土地、建物、機械装置、車両、ソフトウェアなどの固定資産移転
- 棚卸資産である土地等の移転
- 有価証券、子会社株式、関係会社株式の移転
- 金銭債権、貸付金、未収入金の譲渡
- 債権放棄、債務免除、損失補填
- グループ会社間の無償取引・低額取引
- 親会社による子会社支援
- 子会社から親会社への配当
- 現物分配
- 自己株式取得
- 合併、分割、現物出資、株式交換、株式移転
- 清算、残余財産分配
- グループ離脱、子会社売却、M&A前の資産整理
これらの取引は、会計上、別々の勘定科目に分散して計上されていることがあります。固定資産売却益、関係会社株式売却損、雑損失、貸倒損失、寄附金、受取配当金、債務免除益、特別利益、特別損失——こうした勘定科目だけを追っていても、グループ法人税制を適用すべきかどうかは判断できません。
取引の相手が完全支配関係にある法人かどうか、その取引の時点で完全支配関係が存在していたか、そして取引の内容が資産譲渡・寄附・配当・資本取引・組織再編のいずれに当たるのかを、一つひとつの取引単位で確認していく必要があります。
後から説明できる資料を整える
完全支配関係法人間の取引では、申告書上の計算だけでなく、後から説明できる資料を整えておくことが重要になります。
とりわけ、税務調査やM&Aのデューデリジェンスの場面では、次のような質問を受ける可能性があります。
なぜこの資産を移転したのか。なぜこの価格にしたのか。時価はどのように確認したのか。譲渡損益調整の対象資産かどうかを確認したのか。寄附金・受贈益の処理をどう判断したのか。寄附修正は行っているのか。受取配当等の益金不算入の区分は適切か。別表五(一)の株式簿価や利益積立金額は引き継がれているか。そして、将来の売却・清算・再編を見据えた処理になっているか——。
こうした問いに備えるためには、少なくとも次のような資料を整えておく必要があります。
- グループ資本関係図
- 株主名簿
- 取引時点の完全支配関係判定資料
- 取引契約書
- 譲渡資産の明細
- 固定資産台帳、有価証券台帳、債権明細
- 時価算定資料
- 取締役会議事録、株主総会議事録、稟議書
- 取引目的を説明する資料
- 譲渡損益調整額の管理表
- 寄附金・受贈益の検討メモ
- 寄附修正の管理表
- 受取配当等の区分判定資料
- 別表四、別表五(一)、別表八(一)等の申告書控え
- 将来の再編、M&A、承継、清算の検討資料
グループ法人税制においては、「正しい結論」にたどり着くだけでは十分とはいえません。どの事実を確認し、どの規定を適用し、どの資料を根拠として判断したのか——その過程を残しておくことが、申告の品質と、将来の説明力を支えることになります。
専門家に相談すべきタイミング
完全支配関係法人間の取引は、取引を終えてから申告の時点で整理するよりも、取引の前に検討しておくほうが、はるかに安全です。
とりわけ、次のような場面では、事前に専門家へ相談することをおすすめします。
- グループ会社間で不動産や設備を移す
- 子会社株式を別会社へ移す
- 赤字子会社へ資金支援する
- 子会社の債務を免除する
- グループ内で低額譲渡・無償譲渡を行う
- 子会社から親会社へ大きな配当を行う
- 自己株式取得や資本払戻しを検討している
- 完全子会社を清算する
- グループ内合併・分割を検討している
- M&A前にグループ内取引を整理する
- 事業承継前に持株会社や資本関係を見直す
これらの取引では、法人税だけにとどまらず、会社法、会計、消費税、源泉所得税、所得税、相続税、株価評価、金融機関への対応、M&A契約、税務調査対応といった論点が、複雑に交差します。
税額だけを見て処理を選ぶのではなく、資金の移動、会計上の利益、株式簿価、将来の売却・清算・承継、そして説明資料までを含めて判断していく必要があります。
完全支配関係法人間取引の整理をご相談ください
完全支配関係にある法人間の取引は、一見するとグループ内のありふれた取引に見えても、法人税務の観点からは高度な判断が求められる領域です。
譲渡損益調整、寄附金・受贈益、寄附修正、受取配当等の益金不算入、株式取引、資本取引、そして将来の組織再編やM&Aへの影響まで含めて整理しておかなければ、短期的には問題が見えなくても、後になって税務調査や子会社売却、承継、清算の場面で、論点が表面化してくることがあります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、グループ会社をお持ちの中小・中堅企業の皆さまに向けて、関係会社間取引、資本関係、譲渡損益調整、寄附金・受贈益、株式簿価、申告書別表、そして将来の再編・承継・M&Aを見据えた法人税務の整理を支援しています。
グループ内での取引を行う前に税務上の影響を確認しておきたい場合や、過去の関係会社間取引を申告の前に見直しておきたい場合には、お問い合わせページよりお気軽にご相談ください。
振り返り:完全支配関係法人間取引で確認すべきポイント
| 確認項目 | 実務上の意味 | 見落とした場合のリスク |
|---|---|---|
| 完全支配関係の有無 | グループ法人税制の入口判定 | 制度適用の要否を誤る |
| 法人による完全支配関係か | 寄附金・受贈益の特例適用に影響 | 個人支配グループと法人支配グループを混同する |
| 譲渡損益調整資産か | 資産譲渡時の譲渡損益繰延べを判断 | 譲渡益・譲渡損の申告調整漏れ |
| 帳簿価額1,000万円基準 | 対象資産かどうかの判定に影響 | 不要な調整または必要な調整漏れ |
| 時価と譲渡対価 | 低額譲渡・高額譲渡・寄附金を判断 | 時価資料がなく調査時に説明できない |
| 譲渡損益の戻入れ | 再譲渡、償却、除却、関係解消時に影響 | 繰延損益を管理できず将来の申告を誤る |
| 寄附金・受贈益 | 支援金、債権放棄、無償取引を整理 | 損金不算入・益金不算入・寄附修正を漏らす |
| 寄附修正 | 株主側の株式帳簿価額を調整 | 将来の株式譲渡・清算・再編で損益を誤る |
| 受取配当等 | 完全子法人株式等の配当区分を確認 | 別表八(一)や益金不算入額を誤る |
| 株式取引 | 子会社株式、自己株式、みなし配当を確認 | 株式譲渡損益や資本取引の処理を誤る |
| 申告書別表管理 | 別表四・五(一)・八(一)等に反映 | 翌期以降に税務調整が引き継がれない |
| 将来の再編・M&A | 現在の取引が将来の選択肢に影響 | 子会社売却・清算・承継時に税務リスクが顕在化する |